転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件 作:大岡 ひじき
ピッコロさんがアタシを連れてきたのは、先程の場所から随分離れた、人のいない小島でした。
彼はそこでアタシの遠くない未来について、言葉を選びながら話してくれました。
ワクチンが効かない型への、ウィルスの再変異。
悟空さんの発病と死。
更にアタシへの感染と発病、そして死。
アタシの死後のブルマさんの推測。
ちょ、なにその余計な『だいたいあってる』感。
だいたいあってなくていいわ。
自分の存在で少しは変わるのかと思ってた未来がまるで変わってない上、ある意味帳尻合わせのようにアタシ死んでるとか、マジで何の嫌がらせですか。
あとブルマさん、意外と鋭いです。
ピッコロさんがわざわざアタシと2人きりになって話をしたのは、そんなわけでアタシがどこまで知っているか判らない&場合によってはミランクスさんの正体についてまで言及する必要があると判断したからなんでしょう。
言葉のひとつひとつから、メッチャ探られてる雰囲気が、ビシバシ伝わってきました。
その威圧感と話の内容へのショックがすごくて黙り込んだら、それをどう解釈したのか、
「無理に話せとは言わんが、貴様1人でどうにかできるなどとは思うな。
オレはしばらくは孫の家にいる。
何かあればヤツのところに連絡をよこせ」
とそのまま飛び立とうとしたので、慌ててマントの端っこ掴んだらちょっと怒られました。
すいません。でもここから1人じゃ帰れません。
連れてきた以上責任持って、せめて歩いて帰宅できるところまで送り届けてください。
ピッコロさんに縋り付きながら半泣きでそう訴えたら、呆れたようにため息つかれました。滅べ。
すいませんなんでもないです。
☆☆☆
「マリン博士、王立医科学研究所のガネット博士から電話がありました。
至急連絡をくださいとの事です」
「わかりました、ありがとうございます」
マリンです。あれから3年近く経過しました。
アタシは2年前に順調に爬虫両生類学の博士号を取得し、現在王立自然公園内にある研究所に勤務しております。
アタシの博士号取得と同じ頃にブルマさんとヤムチャさんが破局し、ヤムチャさんとプーアルさんがカプセルコーポレーションを出て行ってからは、お二人とはお会いしていません。
でもその3ヶ月後くらいにブルマさんが、
「孫くん達には内緒にしといてね」
と前置きした上で、こっそり妊娠した事を教えてくれました。
その際に子供の父親のM字との若干生々しいエピソードも聞かせてくれましたがそこは割愛します。
つか聞きたくなかったわそんなもん。
半年くらい前、生まれたと連絡が来ましたが、都合が合わなくてまだ会いに行ってません。
天津飯さんと餃子さんについては、情報が入ってこないのでわかりません。
クリリンさんは相変わらず武天老師様のところで修行しているようです。
あと以前ピッコロさんに言われた通り、孫家とはちょくちょく連絡を取りあうようになりました。
悟空さんの健康状態が一番気になる為ですが、電話するたびに『何か隠してはいないだろうな?』的な問いを必ずピッコロさんから受けるのが若干ストレスです。
耳元での古川ヴォイス勘弁してください。
声で思い出しましたが、悟空さんのお父さんの、バーダックさんでしたっけ。
あの方はせめて声だけでも、千葉繁さんにしてあげて欲しかったです。
主人公の実兄である筈のラディッツさんの、あのハブ感が不憫すぎます。
あ、でもアイツこの時空ではアタシをゴミ呼ばわりしたヤツでした。
やっぱ死ね。もう死んでました。
地獄に行け。それももう行ってました。
それはそれとして、まあ予想通りではありますが、アタシにも悟空さんにも、現時点で感染の兆しはありません。
アタシは職業柄月イチで検査してますし、感染予防の為の防護も消毒も徹底してますから、この時空では感染そのものをしないかもしれません。
この病気で死んだっていうあっちのアタシ、どんだけ職業意識薄かったんですかまったく。
ふははははは。
悟空さんはやはり原作通り、もうすぐ来る人造人間との戦いの最中に発症する事になるんでしょうね。
お薬があるとはいえ、できれば潜伏期間のうちに発見できれば、苦しい思いをする事もなさそうなんですけど、なんかあのシーンを思い返すに、超サイヤ人化が潜伏期間を縮め、一気に発症したような気がするんですよね。
発症するタイミングが判ってる訳だし、前日くらいに検査に行かせて、陽性反応を確認した上でお薬を飲んでいただくというのが、一番理想的な流れかもしれません。
Xデイも近づいて来ましたし、そろそろ孫家に電話しておきましょう。
あ、そうそう電話。
まず医科学研究所に電話しなきゃいけないんでした。
ドクン
………あれ?なんだろう急に
胸が
苦しい
立って
いられない
………………………………………!?
「マリン博士!?マリン博士!大丈夫ですか!?」
「…アタシに触らないで!
アナタはこの部屋を出て、すぐここを封鎖してください!!」
………ヤヴァイ。これ絶対例のやつだ。
アタシは前のワクチンは接種済なんで、どうやらミランクスさんが言った通り、ウィルスの変異が再び起こってたようです。
あ、あれ?ちょっと待って。
アタシに発症したって事は、ひょっとしてやっぱり悟空さんも!?
と、とにかくあの薬さえ飲めば、症状はおさまる筈。
あれ確か…どこにしまったっけ?
ちなみに悟空さんからあれを受け取った後、ほんの少しだけ成分分析にまわし、その結果をもとに、カプセルコーポレーションを通じて薬学研究所に、データを持ち込んで量産を依頼してあるんですが、どうも構成成分の中に、併用するとお互いの効能を打ち消しあう組み合わせのものがあるらしく、まだ現段階では、どうやって無理なく合成すべきかを試行錯誤している状態のようです。
って説明してる場合じゃない!
た、確か私物スペースの棚に……あった!
「ハァッ…ハァッ、うっ、………ゴクン。」
…よし、これでもう大丈夫、の筈。
でも、後でこの部屋、完全消毒しなきゃ。
それから、悟空さんに、電話……………っ。
………………………。
胸の痛みがスッと消えた、と思ったと同時に、アタシはそのまま意識を失いました。
人造人間襲来まで、あと5日。