転生したら戦闘力5のオッサン以上にモブだった件 作:大岡 ひじき
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「…ところで、母の隣にいる女性が、もしかしてマリン博士ですか?」
「ん?
あ〜、ハカセかどうかは知らねえけど、確かにありゃあマリンだな。
あいつのことも知ってんのか?」
「マリン博士は母の友人で、あなたと同時期に、同じ病気で亡くなっています」
「いっ!?オラだけじゃなくあいつも死ぬんか!?」
「ええ。
ただ、母によれば後から考えるに、彼女は以前から、この事態に備えて行動していたと思われるふしがあるそうなんです。
元々は翼竜の病気だったこのウィルスが人間に感染する型へ変異する事を、最初に警告したのは彼女ですし、この薬も、開発されたのはこの時代から10年後ですが、特効薬製造の依頼は彼女の生前から既にされていたそうです。
それまで有効だったワクチンが効かない型に再び変異する事態までは、さすがに予測できなかったようですが…。
この件に限らず、彼女は何らかの形で、すべてではなくとも先に起こる事態が、事前に判っている時があったんじゃないかと、母が言っていました。
なにかの折に母が彼女を誘って、彼女が渋った時には、『今思えば大体何か起きていた』と…」
「へぇ〜〜、すっげえなぁ!
でもそれ本当にあいつか?
そんなすげえヤツには見えねえんだけどな。
人違ぇじゃねえのか?」
「わかりません。
オレも母の話でしか、彼女の事は知らないもので…ただ母は、マリン博士も生きていたら、この後の人造人間との戦いで、あなたの助けになるのではないかと言って、オレにこの薬を託したんです」
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………。
「なんでだ、マリンさ!
ワクチンさえ打っておけば、発症の心配はねえって言ってたでねえか!
なんで、なんで悟空さが!!」
「お母さん、マリンさんがお父さんを病気にしたわけじゃないんだよ。
そんな言い方したら…」
「…判ってるだ。すまねえ、マリンさ。
おら、責めるようなこと言っちまって。
でも…でも、判ってても、やりきれねえだよ。
…悟空さが苦しんでるのに、なんにもしてやれねえなんて…」
「ハァッ、ハァッ…ぐっ……ううっ」
「お父さん!?」
「ご、悟空さ?悟空さ──!!」
『ダメです、中に入っちゃ!
このウィルスにはワクチンが効かないんです!
接触したらあなたにも感染の危険が…!』
「関係ねえだ!おらは孫悟空のヨメだべ!
離してけろ!!
悟空さ、しっかりするだよ、悟空さっ……!」
「いやあぁぁ────!!悟空さ────!!!!!」
「お父さん、お父さ───ん!!!!!」
…例の心臓病を引き起こすウィルスは、ワクチンの供給量がようやく必要量に達し、ほぼ全世帯の接種が終了して、完全に脅威が去ったと誰もが思っていました。
だから、同じウィルスが驚くべき速さで人間の体内で進化し、今までのワクチンが効かない型に変異した事は、再び人々の心に、更に強い恐怖を植え付けました。
そしてあろうことか、これで絶対助けられると安心しきっていた悟空さんが、病魔に冒されてしまったのです。
ワクチンに完全な信頼を置いていた王立の医療研究所は、アタシが依頼した特効薬の開発に、あまり真剣に取り組んではいませんでした。
アタシも、渋る悟空さんをチチさん悟飯さんと結託して説得し、ようやく地域の医療機関に引っ張っていって、目の前で予防接種を受ける悟空さんの痛そうな表情を見て、運命に勝ったんだと思い込んでいました。
未来トランクスさんが来なかったこの時空で、アタシが悟空さんを救えたのだと、これで人造人間との戦いも何もかも上手くいくと、思い上がっていたのです。
…元々が大型の翼竜を1週間で心停止させるウィルスです。
発症が確認された後、4日間苦しんだ末に、悟空さんは呆気なく息を引き取りました。
彼の葬儀には、散り散りになっていた仲間の皆さんが次々に訪れ、早すぎる死を悼んでいたそうです。
そこに行く事が出来なかったアタシは、ひとりきりの白い部屋の中、何故救えなかったのかという問いを、頭の中で繰り返していました。
アタシがウィルスの変異を先まで見越していれば。
せめて特効薬の開発が間に合っていれば。
知っていたのに助けられなかった。
助けることだけ考えていたのに助けられなかった。
どうして?どうして?どうして……!?
アタシの前世の世界では、ここは孫悟空さんを中心に作られた世界でした。
それなのに、どうして悟空さんがいないのに、残されたこの世界で、それでも時は流れていくんでしょう…。
胸が……苦しい。
そう、悟空さんが亡くなった後、接触のあった人全員の検査をした結果、アタシにだけ感染が認められた為、即入院となったアタシは今、悟空さんが亡くなったのと同じ隔離病室で、これから訪れる死をただ待っています。
このウィルスは潜伏期間には感染力がないので、今この場所にいれば、アタシから誰かに感染させる心配はもうありません。
未来トランクスさんの警告がなかった為に、これから半年後には来襲する人造人間に対する備えを誰もしていません。
悟空さんさえ生きていれば全て丸くおさまると信じていたアタシは、そこに対する警告をまったくしてきませんでした。
警告しようにも今からでは時間がなさ過ぎます。
ごめんなさい悟空さん。ごめんなさい皆さん。
そしてまだ生まれたばかりのトランクスさん、あなた1人に全部押し付ける事になって本当にごめんなさい。
助けられなくて…ごめんなさい。
胸が苦しい。
でもこれは、悟空さんが感じていたのと同じ苦しみです。
そう思ったら少しだけ、アナタに近づけたような気がして嬉しいです。
不謹慎ですけど。
ねえ悟空さん。死んだらアナタに会えますか?
アタシは、アナタの『仲間』にはなれなかったけど、多分それと同じくらい…
アナタの事…大好きでした。
……孫悟空さん。
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…………………ほえ?
あー…なんか嫌な夢見てた気がします。
内容全然覚えてないけど。
昨日あれからピッコロさんに、アタシの未来について、ミランクスさんが話してくれた内容の説明を受け、若干ショックを受けたのでそのせいかもしれません。
でもだからってなんで泣いてるんだろう、アタシ。
それは買いかぶりだ、未来ブルマ。