ソードアート・オンライン一紅き魔剣士と冥界の女神一   作:ソル@社畜やってます

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気がついたらお気に入りが以前の倍以上に増えてる件、どういうことだ…
こんな作品をわざわざお気に入りしてくれてる人たち、ありがとうございます



第4話 呼び方×出会い

「呼び方?」

「はい。パパから叔父さんという関係なのは聞いているんですけど、そういう呼び方は変だと思いまして」

「たしかにおじさんって年じゃないしなあ」

キリトとアスナの愛娘であるユイちゃんに相談したいことがあると言われたのでホームに招いたところ、俺の呼び方で困っていたらしい。

普段は「リクさん」と呼ばれていて、特に嫌なわけでも違和感があるわけでもないから個人的には気にしていなかったが、ユイちゃんとしてはずーっと気がかりだったらしい。

「好きな風に呼んでくれて構わないんだけど」

「むー…そう言ってくれるのは嬉しいですけど」

「ユイちゃんはリクのことをどう思っているの?」

隣で紅茶を淹れながら妻のシノンが尋ねると、少し考えてからユイちゃんは答えた。

「パパと同じくらい頼れて、カッコイイと思います!」

「正面きって言われると流石に恥ずかしいなそれは…」

「あ、パパがたまに役に立たないって言ってました」

「あいつ覇道滅封でぶっとばす」

「ユイちゃん、そういうのはあんまり言わないほうがいいわよ」

「はーい!」

-閑話休題-

「で、結局打開策も無いわけだが?」

「お兄ちゃん、なんていうのは「それリーファの特権だから」…ダメよね」

「でも、リクさんはお兄ちゃんってかんじはします。私のこと肩車してくれたりしましたし」

「1層のときだっけか?もうなつかしく感じるもんだな」

「1層?ユイちゃんってそんな初めの頃からいたの?」

「ああ、そういえばユイちゃんについてまだ詳しい話はしてなかったか。丁度いい機会だし話そうか。つっても俺の視点からになるから、足りない部分のフォローはユイちゃんに頼む」

「はい、任せてください!」

文句の一つも言わないとは、ユイちゃんは本当によくできた娘だ。俺が将来、シノン(詩乃)と結婚して子供が産まれるとしたら、こんな子が欲しいな…

「それじゃあ聞かせてもらうわね」

「ああ、そもそも初めてユイちゃんと会ったのはキリトが攻略の長期休暇していた時で、メッセージがきたのが始まりでな…」

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「…で、俺にもはじまりの街で親ないし兄弟がいないか探すのを手伝ってほしいわけか」

「ああ。悪いな急に呼び出した上にこんなこと頼んで」

「いいって、気にするな。俺とお前の仲だろ?」

アスナと結婚してそれはそれは幸せな生活を送っているであろうキリトからメッセージが届いたのは突然だった。

内容を簡単にいうと、<森で見つけた幼い女の子が記憶を失っていて、それについて協力してほしいことがあるからホームにきてくれ>というものだった。

いきなり来たメッセージだったのでキリトとアスナのホームで事情を聞いたとき最初は戸惑ってしまったが、そんな女の子をほうっておけるほど俺は非情ではないし、引き受けることにした。

「で、肝心のその子とついでにアスナは?」

「今、出掛ける準備して…お、ちょうど来た」

階段を降りる音がしたのでソファ越しに振り返るとそこには珍しい私服姿のアスナが艶やかな黒い長髪の、見た目は10歳もあるかというくらい幼い女の子と手を繋いでいた。

「この子がそうなのか?」

キリトが立ち上がって女の子の頭を優しく撫でながら言った。

「ああ、名前はユイだ。ほらユイ、挨拶」

「あ、う…」

うつむきながら恥ずかしそうにしているのを見てキリトとアスナは苦笑い。

完全に初対面な上、おそらく性格的なものもあるんだろう。ともあれこのままでは話が進まないので俺から話かけることにする。

「えっと、ユイちゃんって呼んでもいいかな?」

「あ、は、はい…」

「じゃあユイちゃん、はじめまして。俺の名前はリク。キリトの双子の弟だ」

「パパの、ふたごのおとうと…?」

「そう、パパの弟。あんまり似てないかもしれないけど……………ん?」

今なんだかスルーしてはいけない、とんでもない言葉が飛び出した気がする。

「ぱ、パパ?」

「きぃとはパパ、あぅなはママ」

「…???」

えー、つまりこのユイちゃんはキリトのことをパパ、アスナのことをママと呼んでいるらしい。でもってそれを止めない2人は既に黙認しているわけだ。と、なると関係はあくまで疑似的だがこの3人は親子なわけで………

「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!『キリトとアスナがついこの間結婚したばかりだと思っていたら いつのまにか長女が存在していた』な…何を言っているのか わからねーと思うが おれも 何が起こったのか わからなかった…頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超展開だとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…」

「キリトくん、言ってなかったの?」

「ごめん…完っ全に忘れてた」

「キリト、これ結構重要なことだから!何も知らないせいで主に俺への衝撃がヤバいから!」

というよりなんだパパとママって。そう呼んだのもそうだけど、普通に受け入れてるこのバカップルも大概おかしいだろ。

今のパパ&ママもそうだけど、2人同時に攻略を休んだと思ったらいつの間にか結婚してたり、倫理コード解除して…恋人同士のアレやってたり、やることなすことこっちの予想の遥か斜め上をいくのはなんなんだ。

まあ、さすがにこれ以上変なことは起こったりしないだろう。これ以上のなにかがあるようなら俺の精神がストレスでマッハになる…

「…とりあえず、はじまりの街に行こうぜ」

「リク、なんかお前やつれてないか?」

「そう見えるなら言っておく、原因お前らだからな」

「え、なんでだ!?」

と、俺とキリトが会話しているそばでアスナは「さ、お出掛けしようね」と微塵も違和感を感じさせないお母さんっぷりでユイちゃんに話しかけていた。

そういえば、とアスナの私服姿を見て攻略するときの真面目モード(キリト命名)で話しかける。

「アスナ、武器だけでもすぐに装備できるようにしておけ。<軍>のテリトリーに行くわけだからな、気を抜かないほうがいい」

「ん…そうだね」

頷いてから、アスナは手早くウインドウを操作してアイテムを確認する。

こういう切り替えがすぐにできるあたりは流石といったところだ。

………で、だ

「えっと、ユイちゃん?そんなにじーっと見られると反応に少し困るんだけど…?」

先ほどからアスナに隠れながらユイちゃんが俺のことをずーーーっと見てきている。

よくある幼い人見知りや恥ずかしがりやの子供がやる行動で端から見てる分には微笑ましかったりするが、いざ見られる側になるとなんて反応すればいいのか非常に困る。

「…くは……に」

「え?ごめん、よく聞こえn「りくは、にぃに…」…に、にぃに?」

え、これもしかしてパパ&ママと同じパターンか!?と考えて-ど、どうすれば…と助けを求めてキリトとアスナに視線を移すと

「(頑張れ!)」と2人して口パクで言いながらいい顔で親指を立てていた。

とりあえず事が済んだらキリトをぶっ飛ばすと心に決めて、不安そうな顔をしているユイちゃんに言った。

「そうだよ…にぃにだよ」

「にぃに!にぃに!」

満面の笑みでにぃにと俺のことを呼びながら駆けてくるユイちゃんに、現実で接していた妹の姿を無意識のうちに重ねていた俺は涙が流れそうになるのをこらえて、その小さな体をしっかりと抱きしめた。

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「「あーーーーー!!!」」

「ど、どうしたのよいきなり大声出して?」

「わたし、リクさんのこと<にぃに>って呼んでたのすっかり忘れてました…」

「俺もだ…なんで今の今まで忘れてたんだ本当に…」

我ながらなんとまあ情けないことだろう。こうして思い出せばあのときのことは心に残ってるべき出来事のはずなのに、何故忘れてしまっていたんだろうか…

「えっと、リクさん」

「ん、ああ。どうした?」

「また、にぃにって呼んでもいいですか?」

…その質問に対する答えは決まっている、たった一つだ。

「いいに決まってるだろ、ユイちゃん」

「にぃに!」

あのときと同じように-正確には妹の姿を重ねてはいないが-満面の笑みで飛び込んでくるユイちゃんをしっかりと抱きしめる。

ホームでシノン/詩乃を抱きしめるのとは違う温かさがユイちゃんを通して体全体に伝わるように感じる。

そのまま5秒程経つと、俺とユイちゃんを微笑みながら見ていたシノンにユイちゃんが恐る恐るというかんじで言った。

「あの、シノンさん」

「なぁに?」

「その…シノンさんのことも、ねぇねって呼んでいいですか?」

一瞬、シノンは戸惑った表情を浮かべたが、すぐに慈愛に満ちたような笑みを浮かべて両腕を広げながら言った。

「いいに決まってるじゃない。おいで、ユイちゃん」

「ねぇね!」

これ以上ないくらい良い子で天使なユイちゃんを愛する嫁で女神なシノンが抱きしめる光景…うん、実に眼福だ。気のせいだろうか、周りにお花畑まで見える。

-おい誰か記録結晶を持ってこい、目に焼きつけるだけじゃ不十分だ。と思っていたら運よく一つだけ記録結晶があったので慌てて目の前の光景を記録する。

「……で、シノン。さっきの話どうする?正直この空気であの先を話すのかなり気まずいんだけど」

「もしかして、暗い話…?」

「Exactly(そのとおりでございます)」

「…話して、知らないままじゃなんだか気持ち悪いし」

「OK、ユイちゃんもサポートお願いな」

「はい!」

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「ユイちゃん、見覚えのある建物はあるかな?」

「うー…わかんない」

「そっか、なら仕方ないな」

はじまりの街に転移してきた俺はできるだけ遠くを見やすいように-本音は可愛い姪っ子のために-ユイちゃんを肩車して広場から周囲の建造物を見せたが、少し唸ってから首を振った。

「あちこち行けば何か思いだすかもしれないさ。市場にでも行ってみよう」

「そうだね」

「にぃに、だっこ…」

「ん、わかった」

-お前ユイをどんだけ甘やかすつもりだ。というキリトのツッコミを受けながらそっと腕に抱く。もしこれが現実だったなら剣道をやってたおかげで腕力にはかなり自信があるとはいえど十数分で腕が抜けてしまうだろうが、この世界ではパラメーターの高さがものをいうおかげで大して重さを感じることは無い。

途中でこの街に住んでいる見知らぬ男性プレイヤーから<東七区の川べりの教会にガキのプレイヤーがいっぱい集まって住んでる>という情報をもらい、男性のいた傍の街路樹から落ちる黄色い実をわりと真剣な眼差しで見据えるキリトにアスナと協力して鉄拳制裁をしつつ襟首と耳を掴んでずるずると引きずりながら向かった。

「マップだとこの辺りか…で、教会はどこだ?」

「うーんと…あ、あそこじゃない?」

アスナの示した方向、人影のないだだっぴろい道の右手側に広がっている林の向こうに高い尖塔が見える。

「よし、なら早速行k「ち、ちょっと待って」…なんだよ、アスナ?」

教会に向かおうとしたキリトを、アスナはつい呼び止めた。

「その、もしあそこでユイちゃんの保護者が見つかったら、ユイちゃんを………」

「置いてくる。そのためにここに来たんじゃないのか?」

「リクくん…」

「今日会ったばかりだけど、別れたくないって気持ちは俺もわかる。でも、二度と会えなくなるわけじゃないだろ?記憶を取り戻しても俺たちとの交流を忘れるわけじゃない。また会えるさ」

「うん…そうだね、ありがとうリクくん」

「どういたしまして」

そう言って頷いたアスナは俺の腕の中で寝息をたてているユイちゃんの髪を優しく撫でてから、再び歩き出した。

件の教会は二階建てで尖塔が一つあるだけの、街の中心部にあるようなものに比べると小さい規模のものだった。

扉を開けて入ったアスナ、キリトに続いて中に入る。教会の内部は、祭壇を飾る蝋燭の火が床を照らす程度の明かりしかなく、かなり薄暗い上に人の姿も見当たらない。こう言ってはなんだが、ものすごく不気味だ。

「あの、どなたかいらっしゃいませんか?」

アスナの呼び掛ける声が辺りに響いたが、誰一人として出てくる気配がない。本当に子供のプレイヤーが住んでいるのか?と疑うほどに音も無く静かだ。

「…?誰もいないのか?」

「いや、右の部屋に3人、左の部屋に4人。上にも何人かいる」

「…索敵スキルって壁の向こうまでわかるの?」

「熟練度980からだけどな」

「よくそこまで上げたなオイ。索敵の修行地味すぎて俺諦めたのに」

「何で、隠れてるのかな…すみません!人を探しているんですが!」

さっきより少し大きい声で呼び掛けると、右手のドアがわずかに開いて、中から女性の声が響いてきた。

「………<軍>の人じゃないんですか?」

休暇中の黒の剣士と閃光の穴を埋めて、仮にも攻略を指揮している身としては、こういった所でも手数をかけるわけにはいかないと思い、アスナにユイちゃんを任せて代わりに前に出る。

「違います。俺達は上の層から来たんです」

キリトとアスナは言うまでもなく、俺の腰にある愛刀さえ除けば現在戦闘用の武器や防具は何一つ身につけていない。軍に所属しているプレイヤーは常に重武装をしているため、格好を見るだけで無関係だとわかってくれるはずだ。

やがて、1人の女性プレイヤーが姿を現した。簡素な紺色のプレーンドレス、暗青色のショートヘア、黒縁の眼鏡の奥で深緑色の瞳を見開いている。

「ほんとに…軍の徴税隊じゃないんですね…?」

「はい、俺達は人を探していて、ついさっき上から来たばかりなんです。軍とはこれっぽっちも関係無いですよ」

と言った途端、女性の後ろのドアと祭壇の左手のドアが勢いよく開いて中から数人の人影が走り出してきた。

下は12歳、上は14歳くらいだろうドアから出てきた子供達は、「本物の剣士かよ!?」「武器見せてくれよ!」と俺達を興味津々に見てくる。

「こら、部屋に隠れてなさいって言ったじゃない!それに初対面の方に失礼なこと言っちゃダメでしょう!」

女性が子供達を叱るのをよそに、俺は小さな声でキリトとアスナに言った。

「2人とも、なんか武器見せてやれよ」

「え、俺達かよ!?リクこそ持っt「生憎だけど、装備してる<ニバンボシ>しか無いし、簡単に他人に触らせたくない」さいですか…」

「ねえ、キリト君、換金してないアイテム幾つか入りっぱなしだったと思うから、見せてあげたら?」

「…うん。わかった」

アスナの提案にキリトが頷き、ウインドウを操作すると、たちまち十数個の武器アイテムがオブジェクト化されて長机の上に置かれていく。

子供たちが次々に剣だの槍だのメイスだのに手を出しては「重ーい!」「カッコイイ!」「これ欲しいー!」と歓声を上げている。

「すみません、ほんとに…」

眼鏡の女性は困ったように首を振りながらも、喜んでいる子供たちの様子に笑みを浮かべて言った。

「あの、こちらへどうぞ。今お茶の準備をしますので…」

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礼拝堂の小部屋へ案内された俺たちは、簡単な自己紹介をしてからここに来た経緯を説明した。

結論から言ってしまえば今回の来訪は全くの無駄足だったと言わざるを得ない。眼鏡の女性、サーシャさんはデスゲームが開始されて以来、二年もの間ずっとアホみたいに広いこのはじまりの街を毎日一エリアずつ全ての建物を見回って、困っている子供がいないかを調べていたという。

この教会に暮らす子供の平均年齢よりも更に下に見えるユイちゃんのような小さな子がいたのならばサーシャさんが気づかないはずが無い。

ユイちゃんに関することを聞き終え、この教会の立ち入った話をしていたとき、部屋のドアが勢いよく開いて子供が数人雪崩込んできた。

「サーシャ先生!ギン兄ィたちが軍のやつらに捕まっちゃった!!」

「なんですって…場所は!?どこなの!?」

まるでつい先ほど話していたのとは別人のような変わりっぷりのサーシャさんに、思わず目を丸くする。もしかしたら普段の俺と攻略時の俺はこのくらい違って見えているのかもしれない。

「東五区の道具屋裏の空き地だ!軍が通路をブロックしてて…コッタだけが逃げられて今聞いたんだ!」

「わかった、すぐ行くわ。…すみませんが、私は子供たちを助けに行かなければなりません。お話はまた…」

「俺も行きますよ、サーシャさん」

攻略組だとか紅き魔剣士だとかそういうのは関係なく、一人のプレイヤーとして今の話は聞き捨てならない上に、軍の行っていることも許せない、と俺がすぐさま同行を申し出ると続けてキリトとアスナが言った。

「俺も助けに行きます」

「私たちにもお手伝いさせてください。人数は多いほうがいいです」

「…ありがとう、お気持ちに甘えさせていただきます」

サーシャさんは深く一礼をすると、眼鏡をぐっ、と押し上げて言った。

「すみませんけど走ります!」

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教会から飛び出したサーシャさんに続いて俺、キリト、ユイちゃんを抱えたアスナの順に市街地から裏通りを抜けて目的地へと向かう。

長い間はじまりの街を見て回ってマップを覚えているのだろう、最短距離をショートカットしているらしく、店先や庭などを問答無用で突っ切って進んでいくと、細い路地を塞ぐ一団が視界に入ってきた。灰緑と黒鉄色で統一された装備は間違いなく、このはじまりの街を拠点にしているアインクラッド内の最大勢力である<軍>のものだ。

躊躇なく路地に駆け込んだサーシャさんが足を止めると、それに気づいた軍のプレイヤーたちが振り向いて、にやりといやらしい笑みを浮かべた。

「おっ、保母さんのご登場だぜ」

「……子供たちを返してください」

確実にこみ上げているであろう怒りを抑えて、硬い声でサーシャさんが言う。

「安心しな、すぐ返してやるよ、俺たち軍が直々に社会常識ってもんを教えてからな。」

「そうそう。市民には納税の義務があるからな」

そう言ってわはははは、と大声で笑う軍のプレイヤーたち。最下層で文字通りの死に怯える人たちが未だ数多く残っている街に拠点構えて軍などと大層な名前を引っ提げてはいるが、目の前のこいつらのやることなすことときたら誰がどこからどう見ても悪役です本当にありがとうございました、としか言い様がない。「ギン!ケイン!ミナ!そこにいるの!?」

サーシャさんが軍のプレイヤーの向こう側に大きな声で呼び掛けると、明らかに怯えきっている少女の声が返ってきた。

「先生…助けて!!」

「お金なんかいいから、全部渡してしまいなさい!」

サーシャさんの言葉から僅かに間が空いてから、今度はしぼり出すような少年の声が聞こえてきた。

「…先生…だめなんだ…!」

だめ、とはどういうことなのだろうか。という俺の思考を軍の一人の「くひひっ」と気持ち悪い笑い声と続いた言葉がすぐに遮断した。

「あんたらは、ずいぶん税金を滞納しているからなぁ。当然金だけじゃ足りるわけないよなぁ!」

「そうそう、装備も置いていってもらわないとなぁー!武器も防具も全部…何から何までなあ!」

目の前の男たちの屑としか思えない態度と発言内容に完全にブチギレた俺は軍の男たちからは見えないようにウインドウを開いて、手早くスキル画面を操作する。

こいつらの言っていることを理解したサーシャさんは殴りかからんばかりの勢いで詰め寄った。

「そこをどきなさい!さもないと…」

「さもないと何だ、保母さん?あんたが代わりに税金を払うのかい?あァ?」

相変わらずにやにやと笑っている気味の悪い軍の男たちは動こうとしない。

口で言って無駄ならやることはただひとつだけ、実力で物理的解決をするだけだ。

俺は後ろの二人を見やると言った。

「行くぞキリト、アスナ」

「ああ」

「ええ」

頷きあって、一斉に地面を蹴る。攻略組屈指の高ステータスにものを言わせた跳躍でサーシャさんと軍のメンバーを軽々と飛び越えて空き地に降り立つと、その場にいた男数人が驚いて飛びずさった。

当然そんな奴らはスルーして空き地の片隅で固まり身を寄せ合う簡素なインナー姿の少年二人と少女に歩み寄ると、アスナが一歩前に出て微笑みかけながら言った。

「もう大丈夫。装備を戻していいわよ」

目を丸くしていた少年たちが頷いてから防具を拾い上げてウインドウを操作していると、背後から声が聞こえてきた。

「オイオイオイオイ!なんなんだお前らは!!我々の任務を妨害すんのか!!?」

-そうだと言ったら、どうする?と返そうとした瞬間、「まあ、待て」とひときわ重武装のリーダー格だと思われる男が進み出てきた。

ある程度は話のわかる奴なのかもしれない、と思ったがそんな甘い考えはすぐに消された。

「あんたら見ない顔だけど、解放軍に楯突く意味をわかっているんだろうな?なんなら、本部でじっくり話を聞いてもいいんだぜ」

男はそう言いながら腰から大ぶりのブロードソードを引き抜いて、刀身を手の平にぺたぺたと打ちつける随分とわざとらしい動作をしながら歩み寄ってきた。

「それとも圏外行くか、圏外?あぁ!?」

ふーっ、と一息吐いてから腰の愛刀に手を添えて言った。

「キリト、アスナ、手出すなよ」

ゆっくりと愛刀を抜きながらこちらも歩み寄る。

「お……お……?」

状況が上手く飲み込めていない様子で口を半開きにしている男の顔面に向かって、刀を突き出し間髪入れずに力を溜めた握り拳を振り上げると轟音とともに衝撃を発して地面ごと男の体が宙に浮く。

-<属性魔剣>剣術+体術複合地属性ソードスキル<烈震天衝>-

宙に浮き落ちてくる男に標準を合わせて、すかさず居合いの構えから炎を纏った刀を勢いよく振りぬきなぎ払う。

-広範囲炎属性ソードスキル<魔王炎撃波>-

不恰好に落下した男がそのあまりの衝撃に尻餅をつきながら後ろに下がろうとするのを見て、覇道滅封をぶち込みながら言った。

「そんなに戦闘がお望みなら、わざわざ圏外まで行く必要はない」

強烈な炎の波動に吹き飛ばされた男に今度は空中から爆炎を纏った蹴りを叩きこみ更に吹き飛ばす。

-炎属性体術スキル<紅蓮襲撃>-

「安心しろ、HPが減ることはない。その代わり…俺の気が済むまで永遠に続くけどな!」

いましがた俺が言ったようにど派手な地割れの衝撃や炎のエフェクトが発生して男が立ち上がることもできないまま吹き飛んでいるが、ダメージは1たりとも入ってはいない。

街を始めとした犯罪防止コード圏内ではどんなに強力な武器でプレイヤーを攻撃しようとも不可視の障壁に阻まれる。俺を含めた前線で戦うやつらはこのシステムを利用、専ら<圏内戦闘>と称して訓練での模擬戦が行われている。

が、攻撃者のパラメータとスキル値、ソードスキルの威力次第では圏内戦闘でのコード発動時のシステムカラーの発光と衝撃音がそれはそれは凄まじいものになり、ソードスキルの威力次第で普通にノックバックも発生する。慣れない奴からしたらHPが減ることはないとわかっていようが、到底耐えられるものではない。

「ぐあっ…や、やめ…」

「ねえよ。言ったはずだ、俺の気が済むまで永遠に続く、ってな!」

炎や雷が発生するたびに最早ノックバックどころではないレベルで吹き飛ばされ続ける男は甲高い悲鳴を上げた。

「お前らっ…そんなとこで…見てないで…はやくなんとかしろっ…!」

その声でようやく我に返ったらしいその場にいた軍のプレイヤーに加えて南北の通路からも事態を察してかブロック役が走り込んでくる。

どうやら数さえ上回れば問題ないとタカを括っているようだが、それは大きな間違いだ。何故なら多くの広範囲攻撃をもつ俺の<属性魔剣>は、1対1よりも多対1の戦闘の方が圧倒的に得意だからだ。

「さあ…懺悔の用意はできているか!」

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「…で、掛かってきた軍の連中を範囲攻撃でちぎっては投げ、ちぎっては投げをひたすらに繰り返した」

「「うわぁ…」」

二人に思いっきり引かれた。なんとなくそういう反応はするだろうなとは思っていたけど。

「にぃに、それどれだけ続けたんですか?」

「んー…20分くらい?」

「どう考えてもやり過ぎよ、リク」

「じゃあ、もしシノンならどうしてた?「問答無用で矢1000発打ち込むわ」それ俺となんら変わってないから」

シノンもそうだが、どうにも桐ヶ谷家(将来的な意味も含む)はバトルジャンキーしかいない。俺もなんだかんだであの時は怒りもそうだったが軍の連中を相手にわりと楽しんでいた。

「とりあえず一旦休憩にしよう。さすがに2時間話しっぱなしは疲れた」

「じゃあお茶淹れるわね。ちなみに話全体のどのくらい終わったの?」

「半分くらい」

「え…これだけ話してまだ半分なの!?」

「というより本題ここからだから。な、ユイちゃん」

「そうですね。ここからが重要ですから」

 




番外編のほうでオリ主に秘奥義でも使わせたいんだけど候補が多すぎて非常に困る…候補一覧を載せておくので、もしよかったらどれがいいかコメントの方に残しておいてください。なんなら「この秘奥義使ってほしい!」というのでもいいです、参考にさせてもらいます。
個人技
1.極光壁+極光剣(うp主的に秘奥義といったらまずコレ)
2.ロスト・フォン・ドライブ(カッコいいし見栄えする)
3.真神煉獄刹(テイルズオブシリーズでジューダスが一番好きなので)
4.炎覇鳳翼翔(炎属性秘奥義で一番好きなやつ)
協力技
4.武神双天波(創造神な義姉と。こらそこ、初代プリキュアみたいとか言うな)
5.エンド・オブ・フラグメント(太陽神な嫁と。裏ボスの秘奥義?こまけえこたぁいいんだよ!)
6.斬空天翔剣(地神な妹と、某フリーゲームの親子verみたいに)


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