ソードアート・オンライン一紅き魔剣士と冥界の女神一   作:ソル@社畜やってます

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本編 追憶のリク
第1話 リク/桐ヶ谷利久


「ふぅ、今日はこの辺りで切り上げよう。無理して調子を崩したら意味無いしな」

「お兄ちゃんこっちでも相変わらず強いね…」

「バ和人には36勝53敗1分で思いっきり負けてるけどな」

仮想世界での死が現実のものになるデスゲーム<ソードアート•オンライン>が開始しておよそ2年半。同じプレイヤーとしてこの世界に君臨していたヒースクリフ/茅場晶彦は正体を見破った黒の剣士キリトとの決闘に敗れ全てのプレイヤーが鋼鉄の城から開放される………筈だった。

ヒースクリフが消滅したあとも何も変化は起こらず、プレイヤー達は当初の目標であったアインクラッド全100層クリアに向けて再び歩み始めた矢先に事件は起こった。

76層に来たプレイヤーのスキル値が全て初期化されこれまで使用していた装備品の数々もバグによって使用できなくなってしまった。更に一度76層にやって来たが最後、以前の層に戻ることすら封じられる異常事態が発生。

何者かによる人為的な妨害か、ゲームシステムのバグによる影響か、原因もわからないままかれこれ半年が経つ。

 

「…兄…ん…お兄ちゃん!」

「へ?あ、悪いボーッとしてた」

「もう…明日の集合は8時だから忘れないように!ってアスナさんからメッセージ来てるよ」

「…なんだかバ和人と同類にされてるみたいだな、俺。自分で言うのもなんだけど割としっかりしてる方だと思うんだけどなぁ」

俺の言葉を聞いた隣を歩く妹はジト目でこちらを見ながら言った。

「えー?お義姉ちゃんのことになると見境つかなくなって暴走してたのに?」

「…サーテ、ナンノコトカナーワカラナイナー」

「ごまかすの下手くそ!」

実際のところ愛する彼女…ゲームシステム的に言うなれば嫁を傷つけようものなら親や兄弟でも殺しかねないくらいに頭がおかしくなっていたのは事実だから否定できない。

もっとも、流石に今は落ち着いているし何も問題は無いはずだ…多分…

「じゃあまた明日ね、お兄ちゃん」

「おう、また明日」

妹…リーファと別れた俺は76層の主街区<アークソフィア>の一角に建つプレイヤーホームに帰宅する。

 

宿屋や宿泊ができる民家の一室を長期間利用するのではなくて、どんなに安くても必然的に超がつくほど高額なプレイヤーホームをわざわざ買ったのは理由…いや、実際のところは理由と呼べるようなものではなくてただの対抗心でしかないのだが、それがある。

現状このSAOのプレイヤーで最強と言われトップクラスの知名度を誇る黒の剣士キリトはこれまた同様に知名度が高くてしかも美人な閃光のアスナと、ゲーム内でとはいえ結婚していて、一時期攻略から離れていたときにはプレイヤーホームで同棲して夜の営みも経験し、おまけに長女まで授かるというアインクラッドにいる全男性プレイヤーどころか日本全国の野郎共が血涙を流すであろう伝説の超イチャラブカップル改め夫婦だ。

で、この黒の剣士キリトは俺の双子の兄なのだ。ただ、双子といっても顔立ちが瓜二つで性格や好みが一緒、というよく聞くような一卵性双性児ではなくて二卵性双性児だから性格も血液型も好きな食べ物も好みのタイプも全然違う。

数少ない共通点として、俺とキリトは仲の良好な双子の兄弟であり、お互いにライバルでもある、というところがある。

もう分かるだろう。

要するに現実ではゲームオタクでコミュ障で友達が少なくて彼女の<か>の字も見当たらなくてモヤシ体型で喧嘩なら間違いなく負けることなんかないような双子の兄に、色々な面で先を越されたのが非ッ常に悔しかったというわけだ。

でも悔しかったといっても結婚したと報告のメッセージが来たときは(あんなバ和人にとうとう彼女が…!)と弟として嬉しく思ったし、報告がきた後日に-こちらの都合ですぐには行けなかったため-会いに行った時には「羨ましいなこの野郎、末長く爆発してろ!結婚おめでとう」とちゃんと(?)祝福の言葉を述べた。

 

そして時は過ぎて、今の俺にもバかz…じゃない、キリトと同様に愛しあって共に暮らしている女性がいる。家に帰ってきた俺を見て彼女は笑顔で「おかえりなさい、訓練お疲れ様」と言ってくる。もうこれだけで疲れなんか全部ふっ飛ぶ。

顔の両サイドを白いリボンで結わえているのが特徴的な短めの艶やかな黒い髪。クールで知的に見える顔立ちに眼鏡-戦闘では意味の無いオシャレ装備だけど-がとてもよく似合っている。2人きりでいるときは現実でのことを話すので聞いたところ、同じように伊達眼鏡を着用してるらしい。

フィールドやダンジョン攻略時の露出度の高い装備と打って変わってシンプルな長袖のシャツにロングスカートの格好の彼女…シノンは俺が一生守り、傍にいて、愛し続けると心に決めた大切な妻…現実世界的には彼女だ。

 

「夕飯作ってあるけど、どうする?少し休む?」

「疲れなら大丈夫だよ、先に飯にしよう」

「じゃあ準備するから座ってて」

数分後、テーブルの上にはビーフシチュー、パン、シーザーサラダ、ワインが並んだ。千切ったパンをビーフシチューにつけて食べるのをじーっと見つめるシノンに「うん、美味い」と感想を言うと嬉しそうな表情を浮かべて一緒に食べ始める。

気持ちはわかる。誰だって自分が作った料理を、特に家族や恋人に食べてもらって「美味しい」と言ってもらえればとっても嬉しいに決まってる。俺も自分が作った料理をシノンが食べるときは思わず感想を聞きたくて必ず今さっきのシノンと同じくじーっと見てる。

夕飯を終えると食器の片付けを手伝って、お互いに今日あったことを談笑しあう。最も一緒のパーティで行動した日はこういうふうに報告することは無いが、攻略する場所によってバランスをとるために別々になることはたまにある。なにせキリトの<二刀流>、ヒースクリフの<神聖剣>と同様にシノンはユニークスキルの<射撃>を、俺は<属性魔剣>を習得しているのだ、そりゃパーティのバランスをとらないといけないのは当然のことだろう。

<射撃>は言わずもがな、そのまんまアインクラッドで唯一の弓による遠距離攻撃ができるスキルだ。

俺の<属性魔剣>は、本来一部のザコやボスしか使用してこない様々な属性を付加した剣技を使うものだ。属性は複数あり、炎、氷、雷、地、風、光、闇の全7種類が現在俺の使える属性だ。これらはスキルを操作して使用する属性のON/OFFを自由に切り替えられるから習得当初に想像していたものとは違って融通が利くスキルだ。ソードスキルの威力も以前使っていた片手剣や刀などに比べて圧倒的に高く、RPGでよくある範囲攻撃や<射撃>には全然及ばないものの、一部飛び道具も備えていて使い勝手もかなり良い。

ただし、その代償としてか弱点属性での攻撃ならば文句なしの大ダメージを与えられるが、それ以外の属性で攻撃した場合は1/2~1/4に与ダメが減少、最悪の場合HPが回復して下手すればステータスまで上がったりしてしまうためにモンスターの行動パターンや攻撃、特性などの情報を把握した上で攻撃しないと大抵ろくなことにならないせいで初見のモンスター、特に大型でそう簡単に弱点がわからないようなボス相手には滅茶苦茶弱い。酷いときには文字通り何もできなかったりすることが稀にある。え?それなら普通の片手剣か刀スキル使えばいいだろって?いいじゃないか、個人的にはこれでも気に入ってるんだよ。上手くハマったときの爆発力は<二刀流>よりも数段上だしな。なにより超火力は男のロマンの一つだろ。ちなみに、個人的に炎属性のソードスキルを好んで使っているせいか、気がつけば周りからは勝手に<紅き魔剣士>なんて二つ名をつけられていた。正直嬉しいわけでもなんでもないし別に二つ名なんていらないような気もするが…

 

「…ク…リク?」

「ん…あ、ごめん、うたた寝してた」

「大丈夫なの?無理してない?」

「大丈夫…っていってもやっぱダメ?」

「無理してる自覚はなくても周りからはそう見えるものよ。少なくとも私にはそう見えるわ」

おそらく現実で家族のキリトやリーファと同じか以上にシノンは俺のことを理解しているんだろう、なんだか言葉には説得力がある。

「うーん…そういうもんか」

「そうよ。さ、今日は早めに寝ちゃいましょう」

二人で交互に入浴してから寝巻きに着替え、寝室のベッドで一緒に横になる。特になにか話すわけでもなく、そのうちやってくるであろう睡魔を待っていると、既にシノンは規則正しそう寝息を立てながらまるで猫のように気持ち良さそうに眠りについていた。その姿を見ながら

ーもしかして、シノンが眠かっただけなのか?

と、考えたが他のプレイヤーがいる状況ならまだしも夫婦だけの空間で何を隠す必要性があるのかとすぐに考えを否定した。

ー俺達に負けないくらい頑張っているんだろうな

シノンを包み込むようにそっと抱きしめながら柔らかい髪を撫でるとなんとも言えない甘い香りが鼻腔をくすぐってくる。

「おやすみ、詩乃…」

誰よりも愛おしい存在を腕の中で感じながら、俺はようやくやってきた眠気に身を任せた。

 


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