ソードアート・オンライン一紅き魔剣士と冥界の女神一   作:ソル@社畜やってます

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ニコニコ超会議行ってきた。今年もすげえ楽しかった!
嫁と妹が行ってる間に生放送見つつ投稿。
やっぱりニコ動はやめられん


第12話 とある日の桐ヶ谷家の朝

~AM 7:00~

火傷しないようにふーふー、と冷ましてから味見をすると詩乃は満足そうな表情を浮かべてコンロの火を止める。

桐ヶ谷家では毎日食事当番を交代していく方式でやっており、今日は詩乃の当番のためこうしてキッチンに立っている。

あらかじめ炊いてあった炊飯器の保温を切ってから愛用している猫柄のエプロンを外して椅子にかけると2階へと上がる。

同じ部屋を使用させてもらっている直葉のベッドの前までやってくると、肩を揺すりながら起こす。

「起きて直葉、朝よ」

「んん~、ふぁ~…詩乃さん、おはようございます…」

「おはよう、顔洗ってらっしゃい」

まだ少し眠そうに目をこすっている直葉を見てそう言うと、続いて利久の部屋に入る。

巨大ニャンコ先生を枕にして、これまた巨大エナガぬいぐるみを抱きながら気持ちよさそうに利久が寝ているベッドの縁に座ると何もすることなく、利久の無防備な姿を詩乃はじーっと見続ける。

以前明日奈/アスナに「キリトくんの寝顔ってずーっと見てたくなるんだけど、双子だしリクくんの寝顔もきっとそうだと思うの!」と言われて実際に寝顔を見て以来、詩乃は食事当番の日の朝にこうして利久の寝顔を見てから起こしている。

時折頬をつついたり、ぬいぐるみを顔に乗せたりして普段は出来ないイタズラを楽しみつつ、5分ほど経ったところでようやく起こす。

「利久、朝よ。起きて」

「ん…んぅ~…」

小さく唸って目をこすりながら体を起こすと、腕を思いっきり伸ばして詩乃を見る。

「おはよう…」

「まだ眠いなら後でまた起こすわよ?」

「…いや、大丈夫…無理やり目覚ますから」

完全に目を覚ましていないらしく、何故か巨大エナガの尾を掴んだまま部屋をあとにする。

詩乃は利久が下に降りたのを確認してから和人の部屋に入って、寝ている和人の腹を思いっきり踏みつける。

「ふんっ!」

「ぐえっ!」

「起きなさい和人。朝よ」

「わ、わかった…起きるから踏むの止めろ…!」

苦しそう起きた姿を見て詩乃が踏みつけていた足をどけると、和人は腹をさすりながら詩乃に続いて部屋を出る。

「なんで俺だけいつもこう、暴力的な起こし方なんだ…」

「あんたが全っ然起きないのが悪いのよ」

「だったらせめて他のやり方にしてくれよ」

「しっぺ?ビンタ?ヘッドロック?卍固め?」

「だからなんで暴力的な手段しかないんだよ!?殺す気か!」

「こうでもしないと早起きする体にならないじゃない。今のままだと将来、明日奈が苦労するのが目に見えてるわ」

やれやれだわ、と続けて肩をすくめる詩乃に対して和人は-こんなことなら同棲認めるんじゃなかった-と内心で後悔していた。

洗面所に向かった和人を待つ間、すでに剣道着に着替えて朝食の用意を手伝っている直葉と、毎朝飲んでいるキンキンに冷えたブルーベリー酢の牛乳割りで目を覚ました利久と一緒にダイニングのテーブルに座って朝のニュース番組を見る。

和人が顔を洗い、着替えも終えたところで朝食をとる。メニューはネギと豆腐の味噌汁、ほうれん草のおひたし、鯖の塩焼き、納豆に白いご飯と特にこれといって特徴の無い、いたってシンプルな古き良き日本の朝食といったラインナップだ。

家の見た目に反して元々はどちらかというと洋食がメインだった桐ヶ谷家の食事は、詩乃が食事を作るようになったことでガラリと変わって今では和食の比率が高くなってきている。

「(モグモグ…ゴクン)詩乃、おかわり」

「ふふ、だと思ったわ」

「利久兄の食べるスピードやっぱりおかしいよ…」

「5分も経ってないのに2杯目かよ」

直葉と和人の言葉も特に意に介さず、利久は詩乃が持ってきた大盛りの白米を片手に鯖の塩焼きに手を伸ばしていると、テレビからの音声を聞くやいなや、詩乃と直葉と一緒に画面に釘付けになった。

画面に映し出されているのは、今日のニャンコという番組内での5分程度のミニコーナーの一つで、日本国内の家庭で飼われている猫を紹介するという内容のものだ。

もとより猫好きの詩乃と利久に、可愛いもの好きの直葉はこのコーナーが始まると、朝食などそっちのけで見入っては時折感想を漏らす。

ちなみに和人はそこまで興味を示すことなく無心で食べ続ける。

「やだ…この子可愛い…」

「くっ、殺人的な可愛いさだ…」

「(集中力無駄にすごいな)」

和人はバレるのを覚悟でこっそりと利久の分の鯖を端っこだけつまんだのだが、まったく気づいていない。

コーナーが終わって再び朝食に手をつけるが、やはり利久が気がついている様子はない。

「なんで猫ってあんなに可愛いのかしら」

「ほんと、子猫なんて特に殺人毛玉だよね」

「今日猫ばあのとこ行ってこようかな…」

「え、行くの?私も行きたい!」

「猫ばあ?って誰?」

「ああ、まだ知らなかったっけ?猫ばあっていうのは………」

なにがここまで三人を引きつけてやまないのか、犬派の和人はいまいち理解できなかった。                

朝食を終えて食器を片付け終えると、和人はタブレットPCを持ってソファーへ、利久と直葉は朝のトレーニングのために庭へ、詩乃は利久が寝ぼけたまま持っていた巨大エナガぬいぐるみを抱きながら縁側でトレーニングする二人を見守る。

翠はというと、詩乃が朝食を作っている最中におそらく社内ですませるのであろう朝食用のパンと詩乃が作っておいた昼食用の弁当を持ってすでに出勤しているため、家には安定の四人だけがいる状態だ。

 

 

「158…159…160…」

直葉は重い竹刀での素振りを中心に、利久は体と体力作りのためにトレーニングの基礎である腕立て伏せやスクワットを中心にして、それぞれ自身が定めたノルマの回数をこなしていく。元々SAOに来るまで生粋の剣道少女だった直葉は汗こそかいているものの淡々とこなしているのに対して、実に約3年も寝たきりだった影響でか利久は途中から苦悶の表情を浮かべている。それでも本人曰わく「全盛期の半分もあるかないか」という今の体力で合計数百回のトレーニングメニューをこなしているのを見るに、全盛期がどれほど強かったのかは言うまでもない。

「299…300…ッ!」

スクワットの回数をこなし終えた利久が溢れ出る汗をシャツの裾で拭いながら縁側に来るのを見て、詩乃はあらかじめ用意しておいた厚手のタオルとスポーツドリンクを手渡す。

「大丈夫…?」

「なん、とか…これくらいは、できないとな…」

苦しそうに息をしながらそう言って縁側に腰をかけると、シャツを脱いでタオルで汗を拭う。女性のいる前で堂々とシャツを脱ぐのはいかがなものかと思われるだろうが、桐ヶ谷家では和人も含めてわりとよくあることだ。

ほんの三ヵ月前までは見るに耐えられなかった痩せ細っていた体も、今では筋肉がしっかりとついている引き締まった体に変貌している。

ほんの少し前に二人で抱きあって体を交えた現実での初めての夜に見たので、その体つきに関してよく知っているが、その日よりも更に逞しくなっていると詩乃は思った。

思わず利久の体をじーっと見つめていると、縁側のドアが開いて声がかかる。

「利久、シャワー用意しておいたぞ」

「ああ。ありがとな和人」

タオルとシャツを持って浴室へと向かった利久の座っていた位置に和人が座ると、ニヤニヤしながら詩乃を見る。

「な、何よ?」

「いや別に?ずいぶんと熱心に利久の体見てたな~と思って」

「悪いって言うの?」

「悪いとはいわないけど、自重はしたほうがいいぞ?」

「何で?」

「目が完全に利久のなに…ナニかを狙ってる狩人にしか見えなかった」

「っ!バ和人!」

ALOで尻尾をイタズラで捕まれたときのように爪をたてて引っ掻くと、和人は焦ることなく体をずらして避ける。

「もしかして図星だったか?」

再びニヤニヤした顔でからかうように言う和人を見て、詩乃は何も言わずにそっぽを向いた。

「そんなことしてるとまた利久兄に現実でボコられるよ、お兄ちゃん」

トレーニングで汗をかいて少し胸元がはだけている、男性の色々なものを刺激するとしか思えない姿の直葉にそう言われた和人は急に真顔になって言った。

「スグ、詩乃。頼むから言うなよ。いや言わないでくださいお願いします」

「どうしよっかな~?私結構口軽いんだよねぇ」

「私も、利久には嘘つけない体になってるのよね」

「………今度宇治抹茶小豆パフェとストロベリーチョコパフェ奢ってやる(ボソッ」

「お兄ちゃん何か言ってたっけ、詩乃さん?」

「何も言ってなんかないわよ?」

「(チョロいなぁ)」

行き着けのファミレスのスイーツメニューでアッサリと買収される詩乃と直葉。現在懐が十分すぎるくらいに温まっている和人からすれば、この程度の出費で済むなら痛くも痒くもない、といったところだ。

SAOからの帰還当初こそ衰えに衰えた肉体は利久と和人の両者共にイーブンだったが、退院後に必要最低限だけジムに通った和人に対して、利久はジム以外でも鍛え続けているため、リアルファイトでの力関係はSAOをやる以前と全く変わっておらず、もし利久を本気で怒らせようものならば和人と-ないとは思うが-詩乃は即座に頭を下げるしかない。

「あ、和人。ちょっと座る位置変わって」

「え?なんでだ?」

「いいから」

何の前触れも無しにいきなり座る位置を変われ、と詩乃に言われた和人はわけがわからないままに了承して場所を交換すると、詩乃がスカートのポケットから削り節の入ったパックを取り出した。

「おいで~」

詩乃の声に反応したかのように縁側の下からふわふわの毛に覆われた短い足の子猫が現れると、直葉は顔をほころばせて、和人は驚きの表情を浮かべた。

「わぁ~かわいい~!」

足に捕まって短い足で登ろうしている子猫を、詩乃は両手で抱えて膝に乗せて少し撫でてから削り節を与えると、子猫は美味しそうに食べる。

「そいつ、どうしたんだ?」

「少し前に偶然汚れたまま歩いてたのを見てね。お風呂に入れて少しご飯あげてから逃がしたんだけど…」

「すっかり家に居着いたと」

「ええ」

「しかしこの…ええと…なんて言ったっけこの種類?」

「マンチカンだよ、お兄ちゃん」

「ああ、それ。マンチカンなんて高いって聞くけど捨てられたのか?」

「少なくとも野良猫ではないわね。私が最初見つけたときも威嚇したり怖がったりしなかったし」

そう言いながら詩乃に撫でられている子猫は、尻尾をピンと伸ばして気持ちよさそうにしている。

 

「これ、なんか意味あるのか?」

和人が子猫の尻尾を指差しながら聞くと、直葉が自信満々の表情で応える。

「猫の尻尾が垂直に立ってるときは嬉しかったり甘えてたりするんだよ」

「へぇ………ってことは、ALOで詩乃が尻尾を立てているのもそういうことなのか」

「は!?」

「そういえば詩乃さん、利久兄に頭撫でてもらってる時、いっつも尻尾立ってるよね」

「あう…」

「そうじゃなくても尻尾が立ってる時は利久に甘えたいわけだ。わりとよくあるよな、そういうの」

「…////」

「なにやってんだ…?」

そう背後から聞こえた声に三人が振り向くと、ダークグレーのシャツとジーンズを着て首にタオルをかけている利久がいた。

「シャワーにしちゃずいぶん遅くないか?」

「髪乾かしてたんだよ。と、それよりその猫どうしたんだ?」

「えっとね、かくかくしかじかで」

「これこれうまうまの」

「いあいあクトゥルフ…ってわけか」

SAN値チェックに失敗した人は2D10を振ってもらうとして。利久は放置されていたエナガぬいぐるみを上に投げて遊びながら数秒考えて言った。

「飼おうか、この猫」

「あ、やっぱりそう思う?」

「そもそも居着いている時点で飼ってるも同然だよな。なにより詩乃になついてるし」

まだ遊び足りないのか、子猫は詩乃のお腹に前足をついて立ちながら尻尾を立てて「みぃ~」と鳴いている。

「軽々しく飼うって…いいの?」

「じゃあ詩乃、飼いたくないのか?」

「飼いたい」

「はい決定!直葉、母さんにメール。和人、ペットショップ行くぞ。詩乃は逃げないように留まらせておいてくれ、あと名前も決めておいて」

直葉はスマホを手に最大速でメールを打ち、和人は拒否することもしないまま簡素な部屋着を着替えに部屋へ行き、詩乃は嬉しそうに笑みを浮かべて子猫とじゃれあう。

この日、桐ヶ谷家に新しい家族が増えることになった。今日も桐ヶ谷家は平和である。




公式設定でもないのに自然すぎて違和感のない《詩乃が猫好き》可愛いから仕方ないね。
次回は帰還者学校に(現実編を十数話も投稿してようやく)行く予定。
クラス分けとかよくわからないんで1D10あたりでてきとーに決めてもいいよね?
追記:和人の起こされ方を見てご褒美だと思った人、正直に出てきなさい。そして握手しよう。

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