ソードアート・オンライン一紅き魔剣士と冥界の女神一   作:ソル@社畜やってます

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思いついた話を投下してなかったのでドーン!
ホワイトデーの前の時期のお話。まあ、少し早いんじゃないかなとは思うけど挨拶に行くのは大事だからね、冗談抜きで。
案の定名前が判明してないから適当につけてます。


第9話 朝田家へ

3月初め。骨身にしみるような寒さも少しずつではあるが収まりつつあり、時折春を感じさせるような暖かい日差しがさす頃、利久は詩乃の案内のもとで東北にある詩乃の実家がある地へと一緒に来ていた。

こうなった理由は、一緒に暮らすことになったことや付き合っていることなど諸々の説明も兼ねて一度詩乃の家族と直接会って話をしておきたい、という利久の言葉だった。

それを聞いた詩乃は即座に昔ながらの厳格で頭の非常に固い祖父を思い浮かべて、今回ばかりはどうしたものかと思ったが、いずれ近いうちに結婚する-反対するようなら家族の縁を切ってでも-人を見せに行くには絶好の機会でもあると思い、今回の一時的な里帰りを決めた。

実家に近い最寄りの駅の出口をくぐると、詩乃にとっては久しぶりの、利久にとっては初めての光景とまだ少し冷たい東北の風が出迎える。

「うぅ、寒いな…さすが東北」

白い息を吐きながらそう呟く利久に、隣にいる詩乃は余裕そうな表情で言った。

「これくらい耐えられないとこっちでやっていけないわよ?1月なんかもっと寒いんだから」

「平気そうだな、詩乃は」

「だてにこの土地で暮らしてないわよ」

勘違いしないように言っておくが、この場合の耐えるというのは防寒対策をしっかりしておくという意味であって、寒さに体を慣らすということではない。

時折東北や北海道の出身だからといって「じゃあ冬の寒さなんかへっちゃらなんでしょ?」と言う人がいるが、そんなのは大きな間違いである。降雪ないし豪雪地帯で育った=寒さに強いという図式は必ずしも成り立つわけではない 降雪地帯で育っていようが寒さに弱い人はいるのだ。

そういう人こそ防寒対策がしっかりしていて冬を耐えしのげるのであって

「いーなー。冬もミニスカで平気なんでしょ?」←平気じゃない、寒い

「いいよね、○○は寒いの大丈夫そうで」←完全装備だから

↑よくある実態は大体こんなかんじである。(by天の声の嫁)

-閑話休題-

詩乃の実家へはあくまで挨拶しに行くという目的のみのため二人の荷物は最低限で、わざわざバスに乗ったりという必要性もなかったため、手を繋いでゆっくりと歩いて向かう。

 

SAOにとらわれる以前の詩乃だったならば早く出て二度と帰りたくないと思う生まれ育った町だが、恋人である利久や過去を聞いても受け入れてくれた仲間たちのおかげで、その気持ちはほとんどなくなりつつある。

しかし、それでも詩乃にとっては快く思わない部分もあり、駅から現在までの道中は少し厳しい顔をしている。

「詩乃、大丈夫か?顔が…」

「…ごめんなさい」

心配して尋ねてはみたものの、詩乃は謝るだけで利久はどうにも言葉にできない悔しさが溢れる。

そのままの状態で数分経った時だった、不意に後方から声が聞こえてきた。

「なーんだ、誰かと思ったら人殺しの朝田じゃん」

「っ…!」

その声に詩乃は思わず立ち止まり、利久は《人殺しの朝田》という言葉に嫌悪感を露わにしながら振り向いた。

そこにいたのはいかにも素行不良な同年代の女子学生3人だった。

「…なんだ、お前ら。俺の女になにか用か?」

「(うわ、結構イケメンじゃん)」

「(人殺しなんかにもったいねー)」

こそこそ話す後方の二人の言葉に利久のフラストレーションは更に溜まる。

「あんたこいつの彼氏?うーわ…朝田ぁ。お前どんな手ぇ使ってこんなイケメンたらしこんだわけ?」

「…止めなさいよ、利久は関係ないでしょ」

詩乃の言葉づかいを無視してリーダー格の女は言葉を続ける。

「ねー彼氏さん。こいつ人殺しなんだよ?こんなやつほっといて私たちと一緒に「いい加減にしなさいよ…!」…は?」

詩乃は拳を震わせながら利久の前に出ると3人の女に向かって言った。

「あんた達の用は私でしょ。利久を巻き込むんじゃないわよ!」

「詩乃…」

「………は?だから?人殺しが一々うるせえな」

「つーかキモイ。なに必死になってんだし」

「丁度いいわ。あたし今これ持ってんだよねー」

そう言ってリーダー格の女がバッグから取り出したのは黒塗りの大きいエアガンだった。

それを見た詩乃の目が大きく見開かれ、全身が震えだして体を縮こまらせる。

「あ…ぁ…」

「朝田ぁ。お前拳銃好きだったよなぁ。これってダンボールに穴空けられるんだってさ」

女はなんの躊躇もなくエアガンのトリガーに手をかけて引く。銃口からBB弾が勢いよく発砲されて詩乃の頬をかすめ、詩乃は後ろに倒れる。

その瞬間、しばらくの間何も起こることのなかった利久の中で何かが一気にはじける。怒り、殺意、憎悪といった感情がめまぐるしく全身を駆け抜け、次の瞬間勢いよく振りかぶった握り拳が女の持つエアガンを砕き、回し蹴りを腹部に直撃させて後方へと吹き飛ばす。

「て、てめぇ!」

「こんなことしてただですむと思ってんのか!」

「黙れ…!」

取り巻きの二人は、まるで地獄の底から響くような利久の声に思わず後ずさる。

「…詩乃を傷つけて…ただですむと思ってんじゃねえぞッ!!!!」

 

負の感情を剥き出しにした利久の顔に女達は「ヒッ!」と声を発して尻もちをつく。

鬼?悪魔?そんなありきたりな言葉では到底表せないほどに憎悪と殺意に満ち溢れた利久の目が女を睨みつけ、手をゴキッと鳴らしながら一歩踏み出すと、女達は急いで立ち上がってから必死の形相で逃げ出した。

利久は女達の姿が見えなくなったのを確認すると、座りこんで震えている詩乃に声をかける。

「詩乃…!」

「…利、久…」

すがるように胸元に顔をうずめながら抱きつく詩乃の髪を利久は優しく何度も撫で続ける。

しばらくそうして落ち着いてきたのか、詩乃の呼吸も正常になって体の震えが収まる。

「大丈夫か?」

「…うん。ありがとう、利久」

立ち上がってスカートについてしまった砂をはらうと、利久がハンカチで頬を拭ってから絆創膏を貼る。

少し赤くなった顔を見せないようにしながら、再び手を繋いでゆっくりと歩き出す。

「…さっきの奴らって、そういうことなのか?」

利久は率直に思った疑問を口にすると、詩乃は頷いてから応える。

「私が人を殺してから、一番まとわりついてきてたの…他の同級生もそうだけど、二度と会いたくなんかなかった…」

「………」

「私のせいで、利久にまで酷い言葉を投げかけられるのが、嫌だった…傷つくのなんか、もっと嫌だった…」

 

自分が罵られている分にはまだいい、それは紛れもない事実であり、何度同じ事件を繰り返そうとも変わることのないであろうことだったからだ。

でも、それに利久が巻き込まれてしまうことだけは詩乃はなんとしても避けたかったが、結果として巻き込んでしまう形になった。

「…詩乃」

「え…」

利久は繋いでいた手を肩へと回して詩乃の華奢な体をそっと抱き寄せる。

 

「約束しただろ、現実でも詩乃を守るって。俺だって詩乃があんな風に言われるのは耐えられない」

「…ありがとう」            

~数分後~

「ここか?」

「ええ」

詩乃の実家は桐ヶ谷家と同様に木造の古きよき日本家屋といった印象であり、庭とおぼしき場所には小規模ではあるが畑が耕してある。

懐から鍵を取り出して玄関に入った詩乃に続いて利久が入ると、妙になつかしいような感覚におそわれた。当然初めて来た筈なのだが、なんのわけ隔てもなく受け入れてくれるような温かい空気に満ち溢れている、そんなように思える詩乃の実家に利久は笑みを浮かべる。

「詩穂かい?ずいぶん早かったね…あら!詩乃ちゃん!」

「久しぶり、おばあちゃん」

詩穂というのは詩乃のお母さんの名前だろうか?と思う利久のそばで、詩乃とその祖母は喜びあっていた。

「それにしてもどうしたんだい急に?」

「利久が時間のある内に挨拶しておきたいって言うから来ちゃったわ」

「利久、というと…」

「うん…私の、大切な人」

少し照れながら家族にそう言う姿に、利久は内心ドキッとしながらも平静を装う。

「はじめまして、詩乃とお付き合いしています。桐ヶ谷利久です」

「これはご丁寧にどうも…遠いところをようこそ、祖母の清水(きよみ)です」

優しそうな顔を見て、利久は祖父とは対照的に大好きだった今は亡き祖母のことを思い浮かべた。

おばあちゃんという存在はどこの家庭でも偉大な存在なんだろう。

「ところでおばあちゃん、お母さんとおじいちゃんは?」

「実は3日前にじいさんが畑仕事の最中に腰をやっちゃって入院してるの。詩穂は少し前にお見舞いに行ったところなのよ」

「そうなんだ…」

「さあさ、遠いから疲れたでしょ。夕飯まで時間あるからゆっくり休んでなさい」

「うん、そうするね。利久、こっち」

「ああ。えっと、おじゃまします」

玄関から上がって詩乃について行くと、勉強机と本が少し置いてあるシンプルな部屋へと入る。

「詩乃の部屋か?」

「うん。荷物は向こうに送っちゃったからほとんどないけど。ちょっと飲み物持ってくるわね」

 

詩乃が部屋を出ると、利久は壁にもたれかかって荷物から漫画を取りだして読み始める。小説を読むことはもちろん多いが、漫画を読むこともなんら珍しくはない。

内容は《会社では無口でクールな美人主任が、家でお酒を飲むとたちまち夫にデレッデレの超可愛い酔いデレに変貌する》というグルメ漫画の皮を被った、砂糖を吐きながら読む夫婦イチャイチャラブコメ漫画である。

利久の好みドストライクというのもあるが、酔いデレしているキャラの様子がかつてアインクラッドで酔っ払ったときのシノン/詩乃に似ているのもあって、ついつい姿を重ね合わせて余計に読んでしまう。

(詩乃って酒飲んだらどうなるんだろ…)

SAOでの酔っ払いはステータス異常に近い強制的なものだった。当然こちらではまだ未成年なので試すことなんかできるわけもないが、利久にとっては気になってしかたないことの一つになっている。

(ん~…もしこの漫画みたいだったら…)

-酔った私は嫌いなのかにゃ~

-ん~利久のにおい、おちつくー

-利久の膝は~私の特等席なの~!猫にばっかりかまって~も~~!

-きゃ~!利久~!かっこい~!大好き~!

(………ありだな、うん)

出会った当初のクールキャラなど既に利久/リクと二人きりのときは完全に瓦解しているが、そこから更にリミッターが外れた姿も見てみたい、と利久は思った。

「おまたせ」

そんなことを考えている内に詩乃がお盆にコップとぶどうの絵がプリントされた紙パックとゼリーを乗せて戻ってきた。

濃厚なブドウジュースと見た目にも美しい桜ゼリーに舌鼓をうって、詩乃が利久の隣にほぼ密着して座りながら読書をするいつもののんびりとした時間を過ごす。

詩乃の体からは特有の柔らかな香りが漂い、下手すれば胸元から下着が見えることもあるが、初心だった利久もこの程度のことではさすがに動じることはなくなっている。

なにせアインクラッドではほぼ毎日無駄に露出の多い格好で添い寝をした上に仮想ながら夜の営みまで経験しているのだ、成長しないわけがなかった。         

しばらく時間が経ったある時、部屋の扉がノックされた。

「詩乃、いる?」

「あ、お母さん。ちょっと待ってね」

二人同時に立ち上がって詩乃が扉を開けると、そこには少し痩せ細っている印象の女性、詩乃の母親がいた。

「おかえり、お母さん」

「ただいま。急に来たって聞いたからびっくりしたわ…連絡も無しで」

「ごめんね、早い内に会ってほしかったから」

「じゃあ、そちらの人が…?」

「うん。私の…」

詩乃が言い切る前に一歩前に出て軽く頭を下げてから利久は言った。

「はじめまして。お付き合いさせていただいてます、桐ヶ谷利久です」

「はじめまして、母の詩穂です。娘がお世話になっています」

詩乃の母も同じように挨拶を交わす。利久聞いていた話では精神的に少し不安定な状態とのことだったが、とてもそうは見えなかった。寧ろかなりしっかりとしているように思える。

それから二、三言葉を交わすと自室に戻っていった姿を見て、詩乃はホッと一息ついた。やはり普通に会話していたとはいえ心配だったのだろう、安堵の表情が浮かんでいる。

「良かったな、お母さん元気そうで」

「ええ…」

その日の夕飯は詩乃の祖母お手製のきりたんぽと季節の野菜がふんだんに入った鍋や、焼き魚が並んだ豪勢なメニューになった。

夕飯中では桐ヶ谷家でのことや、SAOで出会って新しくできた友達との交流などの会話をして多いに盛り上がった。中でも桐ヶ谷家での、とりわけ利久とのエピソードに母親と祖母共に興味津々であり、利久が話す隣で詩乃は顔を真っ赤にしていた。

夕飯後、朝田家の進めで一番風呂をいただいた利久は、母親と共に入浴すると言った詩乃が部屋をあとにしたのを確認してから、一人詩乃の祖母のもとへと向かった。

部屋の扉をノックして、中から「はい、どうぞ」と声がしたのを聞いてから部屋に入る。

「あら、桐ヶ谷君」

「すいません、急にお邪魔して」

「構わないわよ。それよりどうしたの?」

「…いきなり変なことを聞くようですけど、詩乃から俺のことはどのくらい聞いてますか?」

「ゲームの中で会って、好きになって、付き合って…あとは桐ヶ谷君の性格とかかね。それがどうしたんだい?」

やっぱり、と利久は思い、おそらく詩乃のことだから家族に余計な心配をかけたくないと思い話すことはなあったのだと推測する。

当然だろう、普通に考えて自身は詩乃以上に重い罪を背負った人間だ。そんな人間と一緒にいることを選んだなど簡単に認められるはずがない。

「聞いてほしいんです。俺の…罪のことを」

利久はその場で全てを話した。自身がSAOの中で3人のプレイヤーを感情と衝動のままに身を委ねて殺してしまったことを。そのようなことが起こった理由も、全て。

利久の話を聞いて、しばし目を閉じていた詩乃の祖母はおもむろに口を開いた。

「桐ヶ谷君…詩乃のことを、どう思ってる?」

「…へ?」

「難しいことはいいのよ。ただ、詩乃の存在は桐ヶ谷君にとってどうなのか、聞かせておくれ」

「………」

いきなりそんなことを聞かれることになるとは思ってもみなかったため利久は驚愕したが、その質問に答えるのは簡単だった。ずっと変わることのない、詩乃への気持ち。

「俺は詩乃のことが好きです、大好きです。SAOにいたときから、ずっと愛しています。詩乃は、俺にとっての全てです」

「…詩乃は幸せ者だね。こんなに素敵な人に出会えて…」

詩乃の祖母は目尻の涙を拭うと、再び利久に向き合い言った。

「私は、私達はね、あの事件で苦しんだ詩乃のほんの少しの支えになることしかできなかった…家族なのに情けなくて仕方なかったよ…笑っているところなんて久しく見ることもなかったの」

「………」

「でも、今は桐ヶ谷君が一緒にいてくれるから、ああやって詩乃は笑ってくれている。それだけで私は本当に嬉しいの」

ゆっくりだが、一言ずつに感情のこもった言葉を利久はしっかりと聞き取り続ける。

「…これから先、詩乃にとっては苦しいことがまだあると思う…桐ヶ谷君。これからも、詩乃のことを支えてあげてくれる?」

「はいっ。この命が尽きるまで、俺は詩乃の傍にずっとい続けます」

「ありがとう……桐ヶ谷君、詩乃のことを、よろしくお願いします」

「…はい!」

「…それと」

「?」

「私、ひ孫は二人は欲しいかしら♪」

「は、はい!!??////」        

□□□

「おばあちゃん、お母さん。また夏休みのときに来るわね」

「元気でね、体に気をつけて」

「桐ヶ谷君、詩乃のことをよろしくね」

「任せてください」

駅までわざわざ見送りに来てくれた母と祖母に別れを告げて、駅の中へと向かう詩乃と利久。

その二人の後ろ姿を見届けると、詩穂と清水はゆっくりと自宅へ歩き出した。

「お母さん、何かいいことあったんですか?」

絶えず笑みを浮かべている清水の姿を見て詩穂がそう尋ねると、清水は返した。

「まだまだ長生きしないとねえ」

「?」                 

~東京へと向かう新幹線車内~

平日の午前中というのもあってか、かなりすいている車内。

荷物を棚に置いて席につくと、利久はふぅと一息つく。

「そんなに緊張してたの?」

「まあ、別の意味で…」

「どういうこと?」

「…詩乃のおばあさんに全部話してきた。俺のこと」

その言葉を聞いて詩乃は体を縮めた。

「ごめんなさい…」

「いや、詩乃の気持ちはわかるよ。ただ、俺としてはちゃんと知っておいてもらいたかったからさ」

「おばあちゃん、なんだって?」

「詩乃のことをよろしく頼む、って」

「それ、公認…なのかしら?」

「だと思うよ。ああ、あともう一つ…」

「?」

きょとんとしている詩乃に耳打ちで、利久は昨夜言われた中で一番衝撃的だった言葉を言った。

「ひ孫は二人欲しいってさ」

「ふぇ!!?////」

 




次話はALO大陸一周の予定。
合言葉は→「おい、レースしろよ」
原作4巻で横断レースをやった描写はあるんだけど、いまいちよくわからないからほぼオリジナルになる…のかな?
それと話中に出てきた《砂糖吐きながら読む、美人主任の酔いデレ漫画》よかったらみんなも読んでね。ニヤニヤが止まらないから

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