ソードアート・オンライン一紅き魔剣士と冥界の女神一 作:ソル@社畜やってます
ま、いいか(適当)
12月10日
リハビリを終えて退院、実に3年振りに埼玉は川越の自宅へと帰ってきた和人と利久はそれぞれの自室で過ごしていた。
和人は3台ものモニターと一からパーツを集めて自作したマシンが堂々と鎮座しており、長年起動していなかったそれを操ってアップデートをひたすらしている。
利久はというと、本棚と机の周りの掃除を終えて早々にやることが終わって、久々の読書に明け暮れていた。敵の攻撃パターン、効率のいい経験値稼ぎ、デュエルでのキリトやアスナが得意とするパターン等、SAOで得た現実ではまるで役に立つことのない知識で脳が埋め尽くされたせいか、今まで何度も読んだことがあるはずの本が初めて読む感覚になっていて不思議と楽しくなつていた。1冊目を読み終え
-次はどれ読もうか…と思い本棚を見ながら迷っていると、自室の扉がノックされた。
「はい」
「私。入ってもいい?」
「どうぞどうぞ」
部屋に訪ねてきたのは詩乃だった。拒む理由が無いどころかむしろウェルカムな利久はなんの迷いもなく迎え入れた。
お見舞いに来ていたときとは違い、過ごしやすさを重視してかタンクトップの上からだぶっとしたトレーナー、ショートパンツの楽な格好だが、着ているものが全体的に黒いのもあってか白い肌がより際立っていて色気が増しているように感じた。以前なにかのアニメーション映画で聞いた「黒は女を美しく見せる」という言葉もあながち間違いではなかったらしい。さらに細くすらっとした足と肩が露出していてそれが余計に利久の精神を-良い意味で-削っている。
「へぇ、利久の部屋ってこんなかんじだったのね」
詩乃の姿に思わずトリップしそうになっていた意識を慌てて戻して聞いた。
「俺の部屋案内されたりしなかったのか?」
「直葉がしてくれたんだけどね。さすがに無断で入るのも悪いと思ったのよ」
「別に自由に出入りしてくれても良かったのにな」
ひたすらに剣道と読書、時々ゲームに興じていた利久の部屋には年頃の少年が隠し持っているであろう物の類は何一つ無いため、基本的に誰が勝手に入ろうが構わなかった。
「利久ってどんな本読むの?」
「ミステリーばっかだな。特に人の死なないミステリーが気に入ってる。詩乃は?」
「私は北欧神話とかかしら。拳銃が出てこないもの…」
「…ごめん」
「大丈夫、気にしないで。小説なら大丈夫なくらいには改善されたから」
「じゃあミステリーも?」
「前に利久がオススメしてくれたシリーズ、読ませてもらってるわ」
「ご感想は?」
「なかなか面白かったわ。ユーモアなとこも多くて」
そんなふうに雑談をしていると、外から「利久兄ー!!」と直葉の大きな声がする。何事かと思い利久は窓から身を乗り出すと、竹刀を数本抱えた直葉が見上げていた。
「どうしたんだ直葉?」
「剣道場の整理手伝ってー!」
「終わってないのかよ!?」
「私一人じゃ広すぎて無理だよー!」
「あーもう…(せっかく詩乃と二人きりだったのに…)わかった。待ってろ!」
窓を閉めてから利久は申し訳なさそうな表情を浮かべて言った。
「ごめん、そういうわけだから少し行ってくる。速攻終わらせて戻ってくるから、適当にくつろいでていいよ」
「あ、うん。わかったわ」
上着を羽織りながら部屋を後にする利久を見送ると、詩乃は改めて部屋の中を見渡した。
男の子の部屋は物が散乱していて汚い、という主観を利久の部屋は良い意味で裏切っていて、詩乃は少し驚いていた。
「(あ、ぬいぐるみ…)」
ベッドに視線を向けると枕の傍らにクッション大の白い鳥のぬいぐるみが鎮座されていた。何気なく手にすると、想像よりも軽くて思わず上にぽーん、と投げてはキャッチを繰り返す。
「(…って、これそういうものじゃないわね)」
ぬいぐるみを元の位置に戻して視線を戻すと、壁に掛かっている制服が目に入った。1年にも満たない短い期間しか着用されていなかった制服は皺がほとんど無く、ほぼ新品に近い状態を保っていた。
詩乃はハンガーに掛かったままの制服をおもむろに持って全体をじっくり見回すと、ぎゅっと抱きしめた。
「(もし…もっと早く利久に会ってたら、楽しい生活を送れていたのかしら…)」
今の生活に不満は無かった。むしろ愛する人と毎日一緒にいられるようになったことで、幸福感で満たされている。
それでも、もっと早くに利久に出会うことができていたなら。血濡られた手を握ってくれていたなら。そう詩乃が考えることがたまにあった。
「(いっそ、幼なじみだったら…ううん、そんなことより大事なのは今よね)」
息をついて-もう少しだけ。と心の中で呟いてから利久の制服に顔をうずめると、部屋のドアが開いた。
「あー疲れた…ごめん詩乃、お待た…せ…」
帰ってきた利久は自分の制服を抱きしめている詩乃の姿を見て数秒固まると
「えーと…ごゆっくり?」
と言いながらドアを閉めて部屋を出ようとするのを見て、詩乃は慌てながら利久に言った。
「待って!違うの!変態みたいなことじゃなくて…そりゃ少し利久の温もりが欲しくはあったけど…あ、だからって、変な意味じゃないから!!」
□□□
「ごめんなさい、少し取り乱したわ…」
「とりあえず落ち着いてくれて良かった」
錯乱しかけた詩乃をひとまず落ち着かせて、制服を元の位置に戻してから再び隣合って座る。
「えっと、詩乃?」
「は、はい」
「止めろとまでは言わないけど。できれば俺以外に誰もいない時に、な?」
「………え?」
意外にも止めろとは言わずに、和人や直葉がいないときであれば構わないと利久は言った。
自分の関することは寛大だと知ってはいたが、これも条件付きとはいえ許されるとは詩乃もさすがに思っていなかった。
「えっと、いいの?」
「まあ、別にいいかなって。なんか実害あるわけでもないし。それに詩乃の気持ちもわからなくはないから…」
「う、うん。その、ありがと…////」
利久の言葉に詩乃は顔を赤くしながら言った。
気持ちがわからなくもないということは、自分がいないと寂しくなって温かさが欲しくなることが少なからずあるんだろう、と詩乃は推測した。つまり、これが逆の立場だったら利久が自分の制服を…と、そこまで考えて顔が赤くなった。
「あ、詩乃」
「な、なに?」
「いやそんな身構えなくてもいいから…直葉に夕飯の買い物どうするかってさっき聞かれたんだけど」
「ああ、そういえば利久と和人も加わるから冷蔵庫にある分だと少し足りないわね…」
「それで、一緒に買い物行かないか?」
「行くわ!!」
詩乃は間を入れることなく即答した。
直葉との合い部屋に戻ってデニムスカート、ストライプ地のシャツ、デニムジャケット、黒のロングソックス、マフラーで防寒対策と利久の好みを兼ね備えた、直葉曰わく「対利久兄用リアル最終装備その1冬バージョン!」に着替える。
玄関に行くと一足先に準備を終えた利久が紺のデニム、白いシャツ、チェック柄の赤い上着に黒のショートブーツの姿で待っていた。詩乃は水色のスニーカーを履いて利久と一緒に「「いってきまーす」」と言って家をあとにする。
出発してから少し経つと、利久の左手が詩乃の右手を握って指を絡め、俗に言う恋人繋ぎにする。詩乃が思わず利久を見ると、顔が少し赤くなっているのがわかった。
寒気にさらされていて冷たいはずのその手は、詩乃にはとても温かく感じられた。
少し周囲を見回して、人影が無いのを確認すると詩乃は恋人繋ぎのまま利久の左腕に抱きつくような形で密着する。
「し、詩乃さん?」
「なあに?」
「あの、柔らかいものが腕に当たっていてですね…////」
「当てているのよ♪」
以前だったならば人がいようがいまいが恥ずかしくてこんな行動はできなかったが、「恋する乙女は無敵なのよ!」と言わんばかりに詩乃は超積極的に進化していた。SAOで結婚し、体を重ねて…という経験こそしたが、現実でこういうことをされて恥ずかしくないのかと言うとそれとこれとは話が別になるわけで、利久は手を繋いだときよりも顔を真っ赤に染めていた。
恥ずかしいというのも勿論あったが、なにより顔が赤く染まる理由の大半を占めていたのは
「(ま、前より確実に大きくなってる…!)」
詩乃の胸がSAOの時より成長しているのが腕の感触でわかっていることだった。
ちなみに詩乃はというと
「(どう?あなたのために私も体を磨いているのよ?)」
わかってやっていた。
-数分後-
人影が見え始めたところで腕への密着こそ止めたが、手は依然として恋人繋ぎのままスーパーに到着した。
「利久、なに食べたい?」
「んー……鍋?」
「それじゃあ私の腕を利久に見せてあげられないじゃない」
「そうは言ってもなぁ。母さんも夕飯一緒みたいだし、こういうときは鍋にした方が詩乃も負担軽いだろ?」
「むぅ…それはそうだけど…」
自分のことを気遣ってくれているのは嬉しいが、料理の腕を振る舞うことができそうにないのと正論であるが故に反論できないことが詩乃は悔しかった。
なにか方法はないか、と鍋の具を買い物籠に入れながら可能性を模索していると、視界に入ったソレを詩乃は手にとって籠に入れる。
「…薄力粉?なにに使うんだ?」
「秘密よ、秘密」
「?」
疑問符を浮かべる利久に詩乃は打って変わって笑みを浮かべる。気になって仕方なかったが、夕飯のときになればわかることだと利久は自分に言い聞かせて買い物を続ける。その後も野菜に続いて豆腐や出汁用の鰹節、昆布と買い物籠に投入して精肉コーナーにやってきた。
「利久は豚派だっけ?」
「うん。でも鍋なら実質鶏一択だよな」
「つくねとかはどう?」
「普通に切り身にしたほうが出汁も出ていいと思うぞ?」
「ん、じゃあ普通にしましょう」
流れるように恋人繋ぎをしながら買い物をする二人の姿に周囲の客は少なからずざわめく。
片やそこそこ顔立ちの整った少年、片や華奢な体つきで誰が見ても美人な眼鏡っ娘美少女。そんな二人が仲睦まじく買い物をしている様は新婚の夫婦を思わせる。
独り身の男からしたら血涙を流す程の光景だが、当の二人はそんなことお構いなしに買い物を終えてレジへと向かう。
会計を済ませて品物をそれぞれ袋に入れると、利久が詩乃に言った。
「そっちの袋も俺持つよ」
「いいわよ、私が持つから」
「いや、いいって。こういうのは男がやるべきだし」
「嫌!私が持つの!」
「えぇ…そこまで頑なにもならなくても」
「だって……こうしないと、手繋げられないじゃない」
「あっ…そうか」
意図を理解した利久が再び手を繋ぐと詩乃はにっこりと笑みを浮かべ、仲良く並んで帰路についた。
ちなみに先ほどのやり取りは当然スーパーの中で行われていたため、それを見ていた客たちは砂糖を吐く人と血涙を流す人に二分された。
-帰宅後、夕飯-
「それじゃあ和人と利久の退院を祝して、乾杯!」
翠の言葉と共に5つのグラスが軽くぶつかり合って音を立てる。
グラスに入ったビールを一気に飲み干して「ぷはーっ!」と言う翠に利久は苦笑いを浮かべて言った。
「母さん明日も仕事なんだから飲みすぎるなよ?」
「今日くらいいいのよ、めでたいんだから」
「それにしても久しぶりだね、みんなで食事するよ」
「オヤジがいなくて、詩乃が加わってるけどな」
「この分だと、また年末に同じことありそうだけどね」
和人と利久が退院した記念の会のようになったこの日の桐ヶ谷家での夕飯は、とても賑やかなものになった。
SAOで過ごした日々を語り、聞きながら鍋に舌鼓をうっていると、たすがに5人もいるだけあってあっという間に具が無くなってしまった。
「これが数の暴力ってやつか…」
「お兄ちゃんそれなんか違うと思う」
「はい、追加の分持ってきたわ」
「ありがとね詩乃ちゃん。…あら、すごい」
「ん?どれどれ…ってうどんにきりたんぽ!?」
「ふふん♪どう?私の手作りよ」
持ってきた大皿には野菜、肉と並んでうどんと焼き色のついたきりたんぽが鎮座していた。
-鍋を変更できないなら、鍋自体を私色に染め上げればいいんだわ。スーパーでそう考えた詩乃は薄力粉でうどんの生地を、炊いた米できりたんぽを作ったのだ。
「本当はちゃんとした生地で稲庭うどんにしたかったんだけどね」
「キッチンに俺と利久を踏み入れさせなかったのはそういうことか…」
「そういうこと」
詩乃手作りのきりたんぽとうどんは桐ヶ谷家の面々に大好評だった。特に利久にその腕前を褒めてもらったときの詩乃は、それはそれはいい笑顔をしていたという。
-就寝-
「電気消すよ」
「わかったわ」
利久に言われて詩乃は読んでいた本を元の場所に戻し、眼鏡を机の上に置いて布団に潜ると、電気を消した利久が隣に寝転がる。
本来ならば直葉と同じ部屋で寝ている詩乃だが、「今日は利久兄と一緒に寝ていいですよ」という直葉の計らいでこうしてSAOでの生活のように一緒のベッドで寝ることになった。
「なんだか、久しぶりね」
「少し前までは毎日こうしていたんだけどな」
「………ねえ、利久」
「ん?」
「私と…シたい?」
何が、とは言わなかったが利久はすぐに理解した。
「いや。詩乃の体のこともあるけど、俺の体力が持ちそうにないかな」
「…そっか」
「やりたかったのか?」
「うん…なるべく早く私の初めて利久にあげたいって思って」
「…なら、俺は努力しないとな」
利久は視線だけでなく体を詩乃へと向ける。
月明かりが差し込むだけの暗い部屋でもわかる詩乃の白く綺麗な頬に手を添えると、たちまち赤くなる。
「詩乃」
「なあに?」
「愛してる」
「私も…大好き、愛してる」
互いに唇を重ねて抱きしめ合い、二人の夜は深けていった。
ガールズ•オプスで新たに加入したグウェン。ルクスがいるんだから出すしかないじゃないか!
ああ、あとロスト•ソングの話にはなりません。某KIBTでやってるしね。
偉大なる先人に任せて、こっちは原作+ガールズ•オプス+オリジナル要素でいきます。
追記:詩乃が秋田育ちみたいになってるけど、東北というだけで詳しい地名を明記していない公式が悪い!