魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第92話 地球が消滅した日

「……!」

 

 地球が跡形もなく消滅した――そのあまりに荒唐無稽な言葉に私は絶句した。

 だってそうだろう? ただ石を持ってきただけでここまで大惨事な歴史になるなんて、想像できるわけないじゃないか。

 しかも私が暮らす時代の10年後という事実にも戦慄を覚える。もし少しでも時刻がずれていれば、私達も巻き込まれていたかもしれないのだ。

 

(咲夜はこの未来を知っていたのか……?)

 

 彼女の意味深長な発言はこのことを示唆していたのだろうか。生身で宇宙空間に飛び出していたら只事では済まなかっただろうし。後でこの辺りの事情を聞いておくべきかもしれないが、それよりも今は優先すべきことがある。

 

 未だに言葉を失っている妹紅とにとりに変わって、私は真意を確かめるように再度訊ねる。

 

「……それ、本当なのか? いまいち現実感がないんだけど」

「耳を疑う気持ちは分かりますが事実です。現にここに来るまでの間、地球は見当たらなかったでしょう?」

「それはそうなんだけどさ、いくらなんでも宇宙人の侵略って……ないわー」

「ちょうど地球が消滅した瞬間の映像が手元にあるんだけど、見る?」

「見せてくれ」

 

 豊姫はどこからともなくリモコンを取り出し、私から見て下座の方角の壁に向けてスイッチを押した。

 すると照明が落ち、天井から大画面のディスプレイがチープな音を立てながら降りてくる。月の表面に浮かび上がる地球と、その地球域周辺の映像が映し出されていた。

 

「これは西暦216X年11月11日、月の表側に設置しておいた定点カメラが録画した映像よ。人間の目で認識できる限界の高解像度で撮影されてるから、何が起こったのかくっきりと観れるわ」

「ふーん」

「それでは再生するわね」

 

 そう言って再びスイッチを押すと、停止していた映像が再生される。即興で行われた豊姫の解説と同時に流された映像を私なりに解釈し、要約すると以下のようになる。

 

 再生が始まってからおよそ20秒ほど経った後、画面の右奥に小さな点のようなものが増えていき、徐々に地球に近づいていく。その正体は宇宙戦艦――戦闘に特化した宇宙船を一般的にそう呼ぶらしい――というらしく、宇宙が狭く感じる程の艦隊が、あっという間に地球の周囲に展開されていった。

 

 特に際立つのは、画面の奥に見える地球の半径くらいありそうな巨大な宇宙戦艦で、有象無象の宇宙戦艦に守られていた。豊姫曰く敵性宇宙人――正式には【銀河帝国】の軍隊らしい――の司令官が乗っている旗艦とのこと。

 

 同時に地球の中からも、宇宙空母や戦闘機等多種多様な艦隊が出現し、やがて地球の艦隊――正式名称は地球連合軍とのことで、機体の外装には地球をデフォルメしたようなマークがペイントされていた――と銀河帝国の艦隊と撃ち合いになり、真っ暗闇の宇宙を飛び交う七色の光線は、私の感想としては弾幕ごっこを派手にしたような印象を受けた。

 

 一進一退の攻防が続く中、やがて大きく戦況が動く。

 

 銀河帝国の旗艦の先端が割れ、中から10㎞以上ありそうな巨大な砲身が出現し、その照準が地球に定められたからだ。

 すると、これまで地球を守るように展開していた地球連合軍は方針を変え、銀河帝国の旗艦に向けて一斉に突撃していった。旗艦を守る他の宇宙戦艦に撃墜され、次々と数を減らしていきながらも構わず突き進んでいくその有様は、自らの命を顧みない捨て身の突撃のように思えた。

 

 しかし、地球連合軍の艦隊が到達する前に、旗艦から発射された巨大な白色の光線が地球を包み込み爆発。一瞬で衝撃波が月まで伝わり、カメラが大きく揺れた所で映像は途切れた。

 

 衝撃的な映像に誰しも言葉を失っている中、豊姫は冷静に解説を続けていた。

 

「侵略してきた国家の名前は銀河帝国。9000万光年離れたサント銀河を拠点とする彼らの勢力圏は幾つもの銀河を跨ぎ、100万光年にも渡ると言われていてね、宇宙全体を見渡しても一、ニを争う巨大な銀河国家なのよ」

「はあ、そうなのか」

 

 あまりにスケールが大きすぎて、それがどれだけ凄いことなのかよくわからない。

 

「そして、地球にトドメを差した対星破壊兵器――正式名称は超高密度粒子砲と言うんだけどね。まあ大まかに言って私の扇子の強化版みたいな恐ろしい効果なの」

 

 扇子をこれ見よがしに見せつける豊姫。彼女の解説はさらに続く。

 

「これを防ぐには星全体を守るようにシールドを張らないといけないんだけど、残念なことに外の世界の人間は対星防御シールドの開発に間に合わなかったの。地球のすぐ近くまで攻め込まれてしまった時点で負けが決まっていたのよ」

 

 ここに来る途中で見かけた四本の柱、豊姫曰くあれがその対星破壊兵器を防ぐシールドだそうだ。ちなみにこれは星のサイズによって形態も変わるらしく、大きな星だと衛星軌道上に小型ロボットを飛ばしてシールドを展開するとのこと。他の銀河にある高度な文明を持つ星々は標準で展開しているらしい。

 

「……結構長くなってしまったけれど、これが事の顛末よ」

 

 その言葉と共に明かりが灯る。

 

「全く現実味がなかったけど本当の事だったんだな……。まさかこんなことになるなんて」

 

 いったいどこで歯車が狂ってしまったのか。気軽に宇宙進出させる、なんて息巻いていたけれど、宇宙はとても怖いところなのかもしれない。

 

「なんかもう悲しくなってきたよ……みんないなくなっちゃったんだね」

 

 しんみりとした空気の中、もう立ち直ったのか妹紅は永琳と輝夜に向けてこんなことを聞いていた。

 

「お前達はこの時大丈夫だったのか?」

「事前に『地球を取り巻く状況が悪いので月に帰って来て下さい』と豊姫から聞いていてね、悩んだけど万が一の事もあるし姫様とイナバ達を連れて、この映像の1週間前に月に避難してたのよ。何事も無ければ良かったのだけれど、結果は御覧の通り……」

「私はもう呆然としちゃってたけど、あの時の永琳は珍しく泣いていたわね」

 

 当時を思い出すように語る永琳と輝夜に、続けて妹紅が質問する。

 

「ちなみに〝私″はどうなったの?」

「『地球が危ないかもしれないから月に来ない?』って一応誘ったんだけどね~、全然信じてなかったみたいだしおいてきちゃった」

「まあ普通そうだよね。ってことは宇宙に放り出されたのか……」

「ふふ、安心して。地球が爆発する前に、ワープ装置を用いて月に呼び寄せておいたから、無事だったわよ」

 

 輝夜の言葉を補足するように依姫は「あまり月の技術を部外者に使用したくはなかったのですが、緊急事態でしたので」と答える。

 

「あの時は大変だったのよー? 地球が破壊されたのを見て子供のように泣き叫んでいてね、半狂乱になった妹紅を宥めるのにずいぶんと苦労したわ~」

「……そうか。輝夜には世話になったみたいだし、私からもお礼を言っておくよ。ありがとう」

「な~んか大人な対応でつまんないわね。もっと面白い反応を期待してたのに」

 

 素直にお礼を告げた妹紅に、輝夜は口を尖らせた。

 

「同じ〝私″なんだし、その時の〝私″の気持ちが容易に想像できるからね。ちなみにその〝私″は今どこに?」

「銀河帝国の首都惑星ロレンに玉兎たちと偵察に行ってるわよ? そういえばここ最近は会ってないわね」

「ああ、成程ね。その〝私″の行動原理が何となくわかったよ」

 

 各々が話し込んでいる中、私は会話に参加せずに思考を巡らせる。

 

(なんかどんどんと未来が悪い方向に突き進んでいるな。人類の宇宙進出が駄目なら、どうしたらいいんだろ)

 

 依姫が話していた最大多数の最大幸福理論――すなわち命の優劣を数字だけで見た場合、地球が壊されるよりかは幻想郷が滅ぼされた方が被害が少なくなる。

 しかしそれだけは断じて認められないので、この選択肢はありえない。

 けれど現時点では代替案も見つからないので、一見すると八方塞がりのようにも思える。

 

(答えは別の惑星にあるのか……?)

 

 そもそもさっきの説明では、どういう過程を経て地球が侵略されたのか肝心なところが分からない。動機と理由が不透明な今、結論を出すには早計だろう。

 

「この影響で私達も方針を転換せざるを得ませんでした。また同じ悲劇が繰り返されないように、そして他銀河の文明と肩を並べられるように、ここ数百年間科学技術の発展に切磋琢磨してきました。穢れを嫌って月にやって来たというのに、自ら穢れを生む行動を取らざるを得なくなるとは皮肉なものです」

「あなたが持ってきてくれた原初の石がなかったら、私達も穢れに蝕まれていたかもしれないわね」

 

 月の民が提唱する理論では、生存競争によって穢れが発生し、生き物に寿命が到来する。都の外の要塞もまさにそれの結果なのだろう。

 

「魔理沙。月を代表して――いえ、幻想郷を代表してお願いがあります。あなたの持つ時間移動の力を用いて、地球と幻想郷が存続する現在に宇宙の歴史を変えてもらいたいのです。……やってもらえますか?」

「もちろん。こうなったらとことんやってやるさ!」

 

 私が望む未来は必ずある筈――そう信じて行動するのみだ。どれだけ時間が掛かっても絶対にあきらめたりしない――

 

 

 

 

「さて、過去を変えるにはどう動いたらいいのかな」

 

 今回のケースでいえば、銀河帝国と地球双方の歴史を精査する必要があるのでかなり時間が掛かりそうだ。果たしてどこから手を付けたらよいのやら。

 柳研究所の例を見るに、超高密度……名前は忘れたが、地球を破壊した兵器を何とかすればいいって話でもなさそうだし。

 

 依姫達の口ぶり的に、9000万光年離れた遠い星へ向かう移動手段は確保されているっぽいのでその点は問題なさそうだが、幻想郷の外の世界ですら分からないことだらけなのに、他の星の文明なんて理解が追いつくだろうか。不安だ。

 そんな私の胸中を依姫は察したようで。

  

「その点は心配ありません。もうすでに原因と理由は判明していますので」

「え、そうなの?」

 

 てっきり他の惑星に向かって色々と情報収集することを覚悟していたので、拍子抜けしてしまった。 

 

「あなたがこの時代に来るまでの間、ただ手をこまねいていたでありませんから。宇宙の歴史を変えてもらうために、私達は銀河帝国や銀河連邦に玉兎を派遣し、内部事情を探ってきました。その間、様々なドラマがありましたが、今は関係ないので割愛します」

 

 依姫達の表情や声色から察するに、きっと想像を絶する苦労を重ねてきたのだろう。

 

「そして玉兎達や協力者から送られてきた情報を元に、多重並行光量子コンピューターを用いて月のネットワーク上に新たな宇宙を創り出し、歴史を改竄した場合に起こり得る世界の変化――バタフライエフェクトの影響まで含め疑似的にシミュレート。様々な観点から見てどのように動けばいいのか、850年掛けて徹底的に精査しました。その結果、歴史を変えるには二つの出来事に介入すれば良い。と結論が出ました」

「……はぁ。それで、結局どうすればいいんだ?」

 

 前半部分が何を言ってるのかよく分からないが、説明を聞くのも面倒なので敢えてスルーして続きを促す。

 

「歴史を変える二つのターニングポイント。まず一つ目は【39億年前の地球に降り立った宇宙人の少女】にあります」


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