魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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高評価ありがとうございます。
情景描写に力を入れていたのでとてもうれしく思います。





第72話 交渉

「――以上だ」

「……………………」

 

 一通り話を聞いていた綿月姉妹は、神妙な態度のまま無言を貫き、考え込んでいるようだった。

 最初は話半分って感じの態度で聞いていた綿月姉妹だったけど、紫の映像と未来の科学技術が入ったメモリースティックの内容を見せた途端に目の色を変え、真剣な態度になっていた。

 やはりこの中身が分かる人にとっては、明確な脅威となっているのだろうか。

 

「そういう訳だからさ、人間達への宇宙開発の妨害を止めてくれないか? 彼らが宇宙に目を向けてくれれば、きっと幻想郷は滅びずに済む。これが私が何度も時間移動を繰り返した上で導き出した結論なんだ」

「………………」

 

 お願いするように発した言葉にも彼女達は反応せず、ただひたすら無言を貫き、顎に手を当てじっくりと考えているようだった。

 カチコチと時計の針が刻む音だけが部屋に響き、それが永遠に続くかと思われた頃、石像のように固まっていた依姫が口を開いた。

 

「申し訳ありませんが、そのお願いを聞く事はできません」

「……何故だ?」

「地上に蔓延する〝穢れ″を月に侵入させない事。それが私達の役目でもあり、使命でもあります。これから貴女が語る通りの未来になるのであれば、尚更地上への干渉を止めるわけには行きません」

 

 その言葉に賛同するように、豊姫も頷く。

 

「そうね。地上人がここまで科学を発展させるなんて驚きだわ。私達の文明レベルの一歩手前まで来てしまっているもの。此方ももっと切磋琢磨しなければなりませんね」

 

 どうやら彼女達は、私が話す未来を聞いた結果、より外の世界の人間達を締め付ける方向性へ結論を出してしまったようだ。

 

「しかしそれだとこっちが困るんだが……、幻想郷が滅亡するんだぞ? お前たちはそれでもいいのか?」

「そう言われましてもこちらにはこちらの事情があります。私達に頼らずとも別の方法を考えてみて下さい。時間は無限にあるのでしょう?」

 

 その言い草に少しカチンと来た私は、少し強い口調で言い放つ。

 

「あのな、私がこれまでどれだけ苦労してきたか分かっているのか? また一から手掛かりを探さなきゃいけないんだぞ?」

「未来で月が無くなっているのならともかく、西暦300X年でもちゃんと残っているそうじゃないですか。私達が積極的に協力する義理はありません」

「む……」

 

 冷たくあしらわれてしまい、言葉を詰まらせていると、隣でずっと黙って話を聞いていた妹紅がこんな質問をした。

 

「そもそもさ、アンタらが言う〝穢れ″ってなんなのさ? さっぱり意味が分からないんだけど」

 

 〝汚れ″ではなく〝穢れ″という表現を使っていることから、もちろん物理的な汚れという意味ではないだろう。

 

「それを説明するとなると、私達が月に来た理由から話すことになりますが、宜しいですか?」

 

 妹紅は頷き、依姫は語っていった。

 彼女の話をざっくりと纏めると、【穢れとは生きる事と死ぬことで、それは生存競争によって発生し、物質や生命から〝永遠″を奪い変化をもたらす事】らしい。

 遥か昔、月の民達がまだ地上人だった頃、月夜見という賢者がそれに気づき、『このままでは〝穢れ″によって命を奪われてしまう』と懸念し、全くの穢れのない浄土である月へ行くことを提唱し、ロケットを作ってそれに乗り込み月へと移り住んだ。

 それにより月人達は穢れから解放され、月に移り住んだ生き物は寿命を捨てた。ということらしい。

 

「地上の人間達は非常に欲深く、宇宙に進出すればこの月どころか太陽系全てを貪り尽くすことでしょう。そうなれば穢れが蔓延し、私達も脅かされることになります。……あなた達の事情には同情しますが、他を当たってください」

 

 長々とした説明を終えた依姫は、最後に申し訳なさそうに謝っていた。

 確かにそれに対して反論は出来ないし、これまでの人間の行動的にそうなる可能性は高い。

 だがしかし、ここで諦める訳にはいかない。この道筋に未来の〝私″が関与している以上、このまま手ぶらで帰るわけには行かないのだ。

 せめて何か手掛かりが欲しい。

 

「そこを何とか頼むよ。私も全面的に協力するからさ」

「これだけ断る理由を述べているのにしつこいですね。ここまで言っても聞く耳を持たないのであれば実力行使も厭わないですが?」

 

 依姫は刀身をちらつかせ、威圧感を与えてきていたが、私はそれに怯まずに主張する。

 

「……確かに今はそれで良いのかもしれないがな、アンタらはいつまでも人間達を抑えられると思っているのか?」

 

 私の言葉に食いつく様に、依姫は刀から手を放した。

 

「それはどういう意味です?」

「確かに西暦300X年時点では月の都も平穏無事だったろう。でもさっき『私達の文明レベルの一歩手前まで来てしまっている』と話してたよな? もし人間達が月の都の妨害を乗り越えて宇宙に進出してきた場合どうする? 1000年近く邪魔され続けて来たんだ。きっと深い憎しみを抱いていると思うぜ?」

「そういえば、私が外の世界に居た頃の創作作品ってさ、〝悪役と言えば月に住む宇宙人″と言われるくらい、世の中に固定観念が植え付けられていたなぁ」

 

(マジか)

 

 私の言葉を援護するように横から口を挟んだ妹紅に、思わず心の中で驚いてしまったが、依姫は毅然とした態度を崩さなかった。

 

「それは詭弁でしょう。地上人が文明を発展させる速度よりも私達の進歩の方が早いです。あなたが話した通りにならないように此方も手を打つだけです。その仮定はあり得ません」

「幻想郷だってな、博麗大結界という常識と非常識を分かち、外の世界の科学が発展すればするほど効力が強くなる結界が張られていたんだぞ。それすら人間達の科学によって解明され、破壊されてしまったんだ。本当に〝あり得ない″と言い切れるのか?」

「……何が言いたいのです?」

「世の中は刻一刻と変化し続けているんだ、100%完全なものなんてない。――今からでも遅くない、友好的に接すれば人間達だってお前たちの事を分かってくれるんじゃないか?」

「そんな可能性の話で首を縦に振るわけには行きません。人類の歴史は戦争の歴史です。皆仲良くなんて綺麗ごとは通用しませんよ」

「歩み寄ろうとすらしていないのに何を言ってんだよ! 頭でっかちだなお前は!」

 

 思わず立ち上がり怒鳴りつけると、依姫も同じ目線で向かい合い「私は現実的な話をしてるだけです! あなたの方こそ頭お花畑なんじゃないですか!?」と挑発。

 

「誰が頭お花畑だ! 失礼な奴だな!」

「事実でしょうが! 自分の発言を思い返してみなさいよ!」

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着けよ」

「一旦冷静になりなさい?」

「……すまん」

「私としたことが……申し訳ありません、姉さま」

 

 売り言葉に買い言葉。妹紅と豊姫の宥める言葉で、ヒートアップしていた頭が急速に冷えていき、身を預けるように腰を落とした。

 

「……私は時間移動ができる。何かそっちの願いを叶えるからさ、頼むよ。幻想郷を救うと思ってさ」

「…………」

 

 依姫は私をギロリと睨みつけるだけで、肯定とも否定とも取れない態度を取っていた時、少し考え込む様子の豊姫が口を開いた。

 

「……一つだけ、この案を受けてくれるのなら、貴女の頼みを聞いてあげてもいいわよ」

「「「え?」」」

 

 その言葉に、この場にいる全員の視線が一斉に集まった。


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