魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第50話 歴史調査

 紫の先導の元、〝市立図書館″と看板が立てられたビルに辿り着いた私達は、自動で開く引き戸式のドアをくぐって中に入って行った。

 

「ここが外の世界の図書館か……」

 

 全面ガラス張りで天井が吹き抜けになった開放感あふれる部屋には、書架が規則正しくズラリと並べられており、奥には読書スペースが設けられていた。

 しかしよく見てみれば、書架に並べられている本はハードカバーしかなく、この図書館の利用者と思われる人々は皆、手元にある小型の機械をいじっていた。

 これはどういうことなのか? と疑問を口にしようとした時、右手にある受付のカウンターから一人の女性がやってきた。

 

「市立図書館へようこそ~、こちらが我が図書館のデータベースにアクセス出来る端末となっております。お帰りの際に、カウンターに返却してくださいね」

 

 そう言いながら何やら小型の四角い機械を渡された私だったが、利用方法が分からない。

 

「端末って?」

「図書館のご利用は初めてですか?」

「はい、そうですけど」

「ではこの端末の使い方を説明しますね~」

 

 受付のお姉さんの説明を要約すると、この機械の中には10億冊以上もの古今東西、ありとあらゆる場所から集められた本が入っていて、それら全て無料で閲覧できるとの事。

 手の平に収まる程度のこんな小さな機械にそれだけ膨大な数の本が入っているのにも驚きだが、それなら本棚は必要ないのではないか?

 それを受付のお姉さんにたずねてみると、こんな答えが返って来た。

 

『今は全ての本が電子書籍化されていますが、遥か昔にはこのように本が並べられていたのですよ。我が国では1831年から続く図書館としての文化を残す為にも、敢えて書架を置いているのです』

 

 それを聞いて、何もかもがハイテクになった時代にも、文化を尊重する気持ちが遺されていることに少し感心した私だった。

 それから読書スペースに移動した私達は椅子に座り、早速目的の本を端末で探すことにした。

 

「ちょうど3人いるし手分けして探してみようぜ。きっと何か、幻想郷滅亡のきっかけとなる大きな事件がある筈なんだ」

「都合よく見つかるといいけどなぁ」

「私は19世紀後半から22世紀を調べるから、妹紅と紫はそれ以外の年代をやっておいてくれ」

 

 ちなみに22世紀以前を選んだのは、単純に私が215X年の人間だからだ。

 幾ら幻想郷と外の世界が、文化も風習も文明レベルも隔絶されているとはいえ、先の未来を知ってしまうのは生きる楽しみが奪われてしまうのであまり好きじゃない。

 

「私は23世紀と24世紀を調べてみるよ」

「では私は25世紀と26世紀を」

 

 そうして私達は調べ物を開始した。

 機械を作動させると、四角形の機械の真上にホログラムが浮かび上がり、文章がズラリと並べられていた。

 そもそも一口に歴史と言っても、それを題材にした本は無数にあるわけで、そこからさらに絞り込んでいかなくてはいけない。

 

(とりあえず大きな出来事から探ってみようかな)

 

 幻想郷は日本にあるので、取り合えず日本の歴史に大きな影響を及ぼしたと思われる重大な出来事を、私の判断でピックアップしていく。

 世界規模で起こり、何千何億もの人々が亡くなった三度の戦争、多数の死者を出した五度の巨大な自然災害、月に住む未知の宇宙人の発見、海の向こう側の国で起こった大規模なテロ事件、全ての農作物の生育期間が半分になった第二次農耕革命、機械の台頭による労働革命……。

 ざっと数えるだけでもこれだけの出来事があり、候補から外れた出来事の中でも興味を引くものが多い。

 

(ううむ……どれだろう)

 

 選択肢が多すぎて悩んでしまった私は、隣に座る妹紅に話しかけた。

 

「妹紅は何か分かったか?」

「わっからないなー。なんかこの時代ってさ、現実や仮想空間を問わず自分たちの利益を追求した戦争ばっか起こっててさ、夢も希望もないんだよねぇ」

「戦争か……」

 

 私の調べた範囲の年代でも、後の年代になるにつれて各地で戦争が増えて行ったような記述があった。

 もしかしてこの勃発する戦争に何かヒントがあるのだろうか。

 

「魔理沙の調べている年代の頃から、世界中でナショナリズム旋風が巻き起こり、これまでのグローバル社会を否定するような動きをする国々が増えた気がするわ。人々は争い憎しみ合い、それがまた新たな火種となる。まさに負の連鎖ね」

「話を聞くだけだと、何だか人間達は心の余裕というものが無くなっているように思えるな」

「実際そうなのでしょうね。人の欲望が科学を発展させて、自分たちの為だけに地球を吸いつくしてきたのですから」

「そもそも幻想を解明する研究が始まったきっかけってなんだろうな? だって今まではそんなのなかったわけだろ?」

「いや、そんなの表に出ないだけで秘密裏に行われてたりするんじゃないのか?」

「私の記憶してる限りでは、外の世界の天然資源が少なくなって、最後に遺された幻想郷のある山々に目を付けられたからだと。23世紀以降に頻発している戦争も、主義主張はどうあれ、大本を辿れば資源不足が原因みたいね」

「なんだかそれだけを聞くと、人間って害悪な存在でしかないな。もちろんいい所も沢山あるんだけど、悪い部分ばかりが目立ってる気がする」

 

 確かに、あまり悪く言いたくはないが正直外の世界の人間達の行動は目に余るものばかりだ。

 

「いっそのこと人間がいなくなってしまえばいいのにな」

「そんなの無茶苦茶だろ……」

 

 と妹紅にツッコミを入れた所で、私の中で天啓のような閃きが起こった。




もう分かる人は分かっているかもしれません

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