そんな風に自分なりに考えをまとめて話したところ、まず妹紅が口を開いた。
「なるほどね……、魔理沙はその時魔法が使えたんだよな?」
「ああ」
この世界線では神社にお祈りを捧げないと魔力が使えなかったのに対し、あの幻想郷では普通に使えていた。
「それだとまだ完全に博麗大結界が機能を停止したわけではないのか。魔理沙、その廃墟になった幻想郷には行けないのか?」
「無理だな。ちょっと説明が難しいんだけど、西暦250X年5月27日に【小さな解れを直す】という過去に確定させてしまったから、廃墟になった幻想郷へ向かうにはその部分を〝解れを直さない″歴史に修正しないといけないんだ」
「ふーん……」
「それにな、あの惨状を見たら戻りたいとは思わん。まだこの綺麗に整備された街の方がマシだよ」
「へぇ」
妹紅は分かったような、分からないような曖昧な返事をしていた。
そんな時、ずっと黙って考え込んでいた紫が急に口を開いた。
「これはあくまで推測なのだけれどね、西暦250X年に発生した〝小さな解れを直す″行為そのものが、結果的に幻想郷の崩壊のきっかけとなったんじゃないかしら」
「……ん? どういう事だ?」
言葉の意味が分からず、思わず聞き返す。
「最初に襲撃した柳研究所、覚えているかしら?」
「ああ、ばっちり覚えてるぞ」
今思い返せば、私達の活動の原点ともなり、長い戦いの始まりとなった場所でもある。
「そこで藍がサーバーにハッキングした時、私はずっと藍の後ろで内部データを読んでいたのだけれどね」
(そうだったのか)
確かあの時の私は、妹紅が警備員を一発ノックアウトしたことをネタにしながら無駄話をしていたと思う。
「そこで『西暦250X年5月27日、観察対象としていたXポイントにアクションが発生。疑念が確信に変わり、本格的な研究所が発足した今日この日に幸先の良いスタートを切る事が出来た』という記述があったの」
「ということはつまり、博麗大結界の傷はその研究所の奴らが付けたって事なのか!?」
「その可能性が高いわ」
「そうだったのか……!」
全く関係ないと思われていた事象に柳研究所の連中が関わっていたという新たな真実に、私は驚きを隠しきれなかった。
「とはいえあの小さな解れを放っておくと、傷が広がって先程魔理沙が話した通りの未来になってしまうわ。もっと前の過去に何かヒントがある筈よ」
「もっと前か……」
まず幻想郷が博麗大結界によって外界と隔絶されたのが紫の話では19世紀後半、外の世界で明治維新が起こった頃らしいので、それより昔の時代は省いてもいいだろう。
そして西暦250X年5月27日に結界の解れが発生し、ここから幻想郷の崩壊へのカウントダウンが始まることになる……。
つまり19世紀後半~26世紀までの間に、原因があるとみて間違いない。
(およそ600年か……この期間から原因を特定するにはちょっと長すぎるな)
私は頭を振り絞って考えていくものの、結論が出そうにないので考える素振りを見せている彼女達に訊ねてみる。
「妹紅や紫はさ、何か心当たりとかないのか?」
「私は主に竹藪で暮らしつつ、たまに輝夜と〝遊ぶ″日々を送ってたからなあ。600年前に慧音が亡くなってからはずっと人里の守護者を担ってたし、その時も特に心当たりってのはないな。紫はどうだ? 幻想郷の維持管理をやってるくらいだし、何かあるだろ」
妹紅に話を振られた紫は、少し考えてから発言した。
「それがねぇ、本当に思い当たる節がないのよ。異変はちょくちょく起こってたけど、それは全く関係ないでしょうし」
「どうしてそう言い切れるんだ?」
もしかしたら今までに起こった異変の何かが、原因の可能性というのもなくはないだろうに。
「自らの力の誇示、幻想郷の征服、自勢力の拡大、妖怪同士の対立、支配構造の変革、単なる気まぐれ、偶然が積み重なって起きた異変……幻想郷が滅ぶまでに、様々な理由で多くの人妖が数百もの異変を起こしたわ」
遠き日を懐かしむように紫は語り続けていく。
「でもね、〝幻想郷″という箱庭を滅ぼす目的で起こされた異変は一つもないのよ。昔と違って科学が発展してしまった時代、博麗大結界が壊れてしまえば自分達の存在が消えてしまいますもの。自分で自分の首を絞めるような愚行をするはずもないわ」
「……言われてみれば確かに」
「だからね、幻想郷内には犯人はいないし、滅亡のきっかけもないと思うのよ」
「そうか。う~ん……」
ちなみに私は時間移動魔法の開発の為、パチュリーばりにずっと家に籠っていたので、原因とかさっぱり分からん。
昔のように異変に積極的に参加することもなかったし。
「こうなったら手当たり次第に跳んでみるか? しらみつぶしに探して行けば原因が見つかるかもしれん」
「……出来ればその方法は最終手段にしておきたい」
妹紅の提案したやり方は、例えるなら砂浜に落ちた砂金一粒を見つけ出すような途方もない方法だ。
手間と労力が掛かる割にリターンが少なすぎる。
「何か取っ掛かりのようなものがあればいいんだけどなぁ……」
「「「………………」」」
私の呟きは風に舞って消えていき、場は再び無言に包まれ、行き詰ってしまった。
そんな状況を打破するために、私はこんな提案をする。
「……ここで考えても分からないし、まず外の世界の歴史を調べてみよう。そうすれば何か分かるかもしれない。紫、この町に図書館はあるか?」
「ええ、あるわよ。案内するわ」
「妹紅もそれでいいよな?」
「そうだな。ここでじっとしているよりかは取り敢えず動いてみるってのはありだと思う」
そうして私達は立ち上がって、エレベーターに向かって歩き出して行った。
「能力は使わないのか?」
「あまり目立つのは良くないわ。幸いここから歩いて10分くらいのところにあるから、歩いて行きましょう」
そしてエレベーターが到着し、私達は地上へと降りて行った。