魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

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第219話 (2) 魔理沙の記憶③ 逆襲

「霊夢! 私達の周囲に強めの結界を張ってくれないか?」

「何か思いついたの?」

「これから私は持てる力の全てをタイムジャンプに注ぎ込んで、時の回廊の(ゲート)の突破を試みる。その間、時間稼ぎを頼みたい」

 

 語弊のないように説明すると、決して今までのタイムジャンプに手を抜いていたわけではない。

 タイムジャンプは、例えるならやじろべえのように絶妙なバランスの上に成り立っている。

 魔力が少なすぎても成功しないし、逆に多すぎると暴発が起きてしまう。意図しない時空へ飛ばされるだけならいいが、最悪の場合時空の狭間に落ちるか、時間の波に呑まれて死にかねない。

 だけどリュンガルトに時の回廊へ繋がる(ゲート)を封鎖されている以上、普段通りにやっても結果は見えている。

 彼らの予定調和を崩すためにも、強引にでもその封鎖を破らなければならないのだ。

 失敗した時のリスクや、そもそもこの選択すらも彼らの予定調和に含まれているのではないか――といった懸念は捨てる。そんな後ろ向きな考えでは成功するものも成功しない。

 一か八かの大勝負。持てる力を全て出し切ってこの局面を乗り切ってやるぜ! 

 

「分かったわ!」

 

 霊夢は二つ返事で頷き、一度深呼吸してから再度腕を伸ばすと、半円形のドーム型の結界が私達を覆い囲った。

 

「サンキュー霊夢!」

「はっ、無駄なあがきを」

 

 レオンは私を嘲笑している。今にその鼻を明かしてやるぜ。

 

「ふぅー、よし!」

 

 私は呼吸を整えて覚悟を決め、いざ臨む。

 

「タイムジャンプ発動!」

 

 私の――いや、私達の足元に現れた七層の歯車魔法陣は、時を刻むように動き始め、頭上の文字盤には、短針と長針がⅫの位置にほぼ重なるように表示されている。

 

「行先は時の回廊! そして私達の明るい未来だ!」

 

 宣言と同時に、体内から魔力がごっそりと奪われていく。

 

「ぐっ! ――くっ……! うっ――!」

 

 頭の中で鳴りやまない危険信号や、心のストッパーを振り切り、生命維持に必要な魔力まで全て注ぎ込む。

 

「うああああぁぁぁぁ!!」

 

 思い返せば、私はどこか楽観視していた。

 絶体絶命の窮地に立たされてもなお、心の奥底では未来で自分が生きているからなんとかなるだろうと思っていた。

 けどそれは間違いだ。

 私の未来は、私の行動で形作られていく。

 今まで私自身がそうしてきたように、必死になって未来を掴み取らなきゃいけないんだ!

 

「!」

 

 右足首からひんやりとした感触が伝わり、足元に視線をやると、うつ伏せのまま懸命に右手を伸ばすマリサの姿があった。

 

「妹、よ。私の魔力も、持っていけっ!」

 

 彼女の右手から儚い魔力が伝わってくる。

 

「マリサ――!」

 

 気を失わないようにするだけでも精一杯な筈なのに……。彼女の為にも、何としても突破しないと!

 

「はああああぁぁぁっっ――!」

 

 身体が軋み、悲鳴をあげながらもタイムジャンプに全身全霊を傾けていたその時、私の中で何かのスイッチが入った。

 

「ま、魔理沙!?」

「お前、その身体は――!」

 

 心臓がこれ以上ない程に高鳴り、伸ばした腕から指先にかけて黒い紋様が浮かび上がる。それはまるで時計を構成する歯車のようで、恐らくこの様子では全身に紋様が広がっていることだろう。

 この現象は私にとっては二度目。300X年の幻想郷が再興する前の歴史で、にとりと妹紅と一緒に宇宙飛行機で月の都へ向かう最中に起きたものだ。

 この時は私を蝕んでいたけど、今はまるで元からそうであったかのように身体に馴染んでいる。

 なんかよく分からないけど、使えるものはなんでも使ってやるぜ!

 私がそれを受け入れ、行使する意志を持つと、力が身体の奥底から噴水のように噴き上がり、タイムジャンプ魔法に加わっていく。

 

「アンチマジックフィールドが効いてない、だと? それに貴様の姿は――やらせんぞ!」

 

 静観を続けていたこの時間のレオンは、初めて焦りの表情に変わり、左手を振り下ろす。

 彼の頭上の青空に閃光が生じたかと思えば、次の瞬間、一筋の光が霊夢目掛けて照射される。

 

「くっ! これは……!」

 

 結界に鈍い衝撃が走った途端に霊夢の表情は険しくなり、彼女から余裕が消え去った。

 

「なにあれ! 空から光が落ちてきてるよ!?」

 

 驚愕しながら空を見上げるにとり。

 

「まさかそんな、サテライトレーザーまで用意していたとは……!」

 

 同じく天を仰ぎながら愕然とするフィーネに、切羽詰まった様子で妹紅が訊ねる。

 

「知っているのか!?」

「衛星軌道上の人工衛星から、凝縮した光エネルギーを地上に向かって照射する戦略兵器です。その威力は宇宙戦闘機が装備しているレーザー砲の10倍以上ともいわれ、たった数秒間の照射で超高層ビルが削れる程強力です」

「そんなもんがあるのかよ!?」

 

 二人がそんな話をしてる間にも、衛星軌道上からのレーザー照射は続いており、結界に小さな亀裂が入る。

 

「ああっ、結界が!」

「こうなったら私が行く! おいにとり、万能適応装置はないのか!?」

 

 焦った様子の妹紅が問い詰めるも、にとりは「宇宙飛行機と一緒に無くなっちゃったよ……」と落胆しながら答える。

 

「ちっ、なんてこった。ぶっ壊そうにも宇宙服がないんじゃどうしようもないぞ……!」

「くうううっ! 魔理沙、急いでっ! もう、限界っ……!」 

 

 苦し気な表情の霊夢は、結界を維持しようと必死に霊力を注ぎ込んでいるが、亀裂は徐々に広がっていく。

 

「クソッ、開けええええぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 渾身の力を込めながら魂の叫びをあげた次の瞬間――何かが壊れる感触とともに、世界は一変した。


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