エレベーターから降りてエレベーターホールを出た先は、全天から日差しが降り注ぐ何の変哲もない屋上だった。私達以外誰もおらず、障害物や柵もなく宇宙飛行場を駐機させるには充分なスペースが確保されていた。
周囲はここと同じかそれ以上の高さの高層マンションが立ち並んでいるが、まあにとりの腕なら問題ないだろう。
『魔理沙見えるー?』
「見えてるぜー!」
遥か頭上を漂っている宇宙飛行機に向けて手を振り返す。その間にアンナは私の横に立ち、耳元でこう言った。
「今からこのマンション上空の反重力フィールドを解除しますので、その後に降りてきてください」
「……だってさ」
『オーケー!』
アンナが空に向けてリモコンのボタンを押し「もう大丈夫です」と言うと、宇宙飛行機は段々と大きくなっていき、静かに着陸した。
『ふう~やっと外に出られるよ』
「お疲れさん」
『これから降りる準備があるから、通信を切るね。また後で!』
同時に中の雑音が途切れ、私は左耳のイヤホンを外してポケットにしまった。
「もうすぐ降りてくるみたいだから、それまで待とうか」
それからハッチが開き、マリサを先頭に荷物を抱えた搭乗者達が続々と降りてきた。
「へぇ~本当に地球と変わらないんだな。もっと寒い場所だと思ってたけど暖かい」
「意外と快適なのね」
「どこの星も同じなんだなぁ」
マリサと霊夢がキョロキョロと辺りを見回している中、にとりと妹紅はフランクに挨拶する。
「やあアンナ」
「皆さんいらっしゃい! 遠い所からよく来てくださいました」
「私達は右も左も分からないから、アンナのガイドに期待してるよ」
「任せてください!」
続いてアンナは、二人の横に並ぶ霊夢とマリサに顔を向けた。
「初めまして、アンナです」
「私は博麗霊夢よ、よろしくね」
「わあっ、貴女が霊夢さんでしたか! 魔理沙さんから色々と聞いてますよ!」
「そうなの?」
「魔理沙さんにとって最愛の人で、あらゆる犠牲を払っても助けたかった方だと伺ってます」
「最愛って……う~ん、それはどうなのかしらね?」
苦笑しながら私を見る霊夢。「ア、アンナ、その発言は誤解を招くから止めてくれ。霊夢はあくまで友達なんだ」と弁明する。
「そうだったんですか? でも素敵な友情ですね、羨ましい限りです」
価値観の違いなのか、アンナはキョトンとしていた。
次に彼女は隣のマリサに話しかける。
「貴女はもしかして魔理沙さんの姉妹なんですか?」
「ああ。私の名前はマリサ、こっちの魔理沙は妹なんだ」
「なんとお姉さんでしたか! 名前も見た目もそっくりとは驚きですね!」
「たまに見分けが付かなくなるんだよねぇ」
「彼女とは長い付き合いだけど、帽子と髪型を同じにされたら私でも自信ないわ」
「厳密に言うと姉じゃなくて〝私″なんだ。私と別の人生を辿った〝私″と言えば伝わるかな」
「ああ~なるほどなるほど! 並行世界の魔理沙さんなんですね」
「並行世界はないけど、まあそんな認識でいいぜ」
「魔理沙さんにマリサさん、う~ん、なんだか混乱しちゃいそうですね。……そうだ! 魔理沙さんにはあだ名とかあるんですか?」
「あだ名か、主に下の名前で呼ばれてるからなぁ」
「考えた事無かったわね」
黒白の魔法使いとか、泥棒とか呼ばれることはあったけど、これらは愛称じゃないしなあ。
「それならあたしが勝手に付けちゃってもいいですか?」
「変なのじゃなければ良いぜ」
「そうですね……名前の一部分を伸ばして、『マリー』とかどうでしょうか?」
「なるほど、悪くないな」
ちょっと外国人っぽい気もするけど、言葉の響きは良い。
「なんかそんな名前の花があった気がする」
「マリーゴールドとかローズマリーみたいな?」
「それそれ」
かくして私のあだ名が決まった所で、話題を戻すべく口を開く。
「それでアンナはどこへ連れてってくれるんだ?」
「まずはこの街を案内しようと思いますが、出掛ける準備をしたいので一度家に寄らせて貰っても良いですか?」
「そんなことで一々お伺いを立てなくていいぜ。アポなしで押しかけたのはこっちなんだからな」
「ありがとうございます。それでは早速エレベーターに乗ろうと思いますけど、その前に……」
アンナは先程使っていたリモコンを持つと、宇宙飛行機に向けて青色のボタンを押した。すると何という事か、機体が瞬く間に手品のように消え去ってしまった。
「あれっ!?」
「消えた!」
「この屋上は公共の発着スペースなので、ずっと停めておくと他の住人に迷惑が掛かってしまうのです。なので電子データとして仮想空間に転送しました」
「そんなこともできるの!?」
「はい。正式名称は『次元変換装置』なんて言われてます」
アンナがリモコンを此方に見せると、3インチの画面の中心に精巧な宇宙飛行機の立体映像が映っており、ごちゃごちゃと謎の数値や単語が並んでいた。
「これはにとりさんに預けておきます。真ん中の青いボタンを押せばまた出てきますよ」
「どれどれ?」
にとりが屋上の中心に向けて青色のボタンを押すと、これまた一瞬で宇宙飛行機が構築された。
「へぇ~これは便利だなぁ」
彼女は再びリモコンの中に宇宙飛行機を仕舞い――仕舞うって表現で合ってるのだろうか?――私達はエレベーターホールへと移動していった。
短くてごめんなさい。
次はもっと纏まった長さで投稿します