魔理沙のタイムトラベル   作:MMLL

144 / 283
これまでのあらすじ

マリサの説得に失敗し、マリサから逃げて来た魔理沙。こいしに誘われ地霊殿で一泊し、空とお燐に出会った魔理沙は、こいしとさとりに会いに向かう。


第143話 古明地こいし

  エントランスホールから大階段を上って二階へ上がり、突き当りの折り返し階段を登って3階へと辿り着いた私は、廊下を歩きながらこいしとさとりの部屋を探していく。

 地霊殿の廊下は、紅魔館と比べると美術品の類は飾られておらず、ただの部屋と部屋を繋ぐ通路って印象を受けるが、天窓が鳥や花のカラフルなガラス細工が施されたステンドグラスとなっており、ただ歩いているだけなのに心を弾ませてくれる。

 視線を下げて窓の外に目を向ければ、無機質な塀と生垣しか見えなかった1階とは違い、朝――午前8時――の旧都の街並みが一望できた。と言っても、ここは陽の光が届かない地下な為、空は相変わらず真っ暗で、ぱっと見ただけではまだ夜だと錯覚してしまうくらいに薄暗い。昨日の深夜と違うのは、家屋に灯りが灯されている所と、往来を歩く鬼達が増えたことくらいだろう。

 しかし今は外の景色はどうでも良い。二人の部屋を見逃すことのないよう、一定間隔で並べられた扉を一枚一枚確かめていき、それが六枚に達した頃、『こいし』と書かれた部屋を発見した。

 

(ここか)

 

 その一つ奥には『さとり』と書かれた扉もあり、隣同士の部屋なんだなと思いつつノックする。

 

「こいし、起きてるか~?」

 

 少しの間待ってみたものの、返事がなく、部屋の中からは物音一つ耳に入らなかった。

 

(寝てるのかな? もしそうだとすると、さとりもまだ起きて無いかもしれないな)

 

 勝手に判断して元の部屋に戻ろうとした時、さとりの部屋の扉が開き、中からこいしが現れた。

 

「おはよう~魔理沙。ちょうど良いタイミングで来てくれたのね!」

 

 私はそこへ歩いて行って、「なんかあったのか?」

 

「そろそろ魔理沙を探しに行こうかな~って思ってた所だったのよ。ささ、中に入って入って!」

「『中に入って』って、ここさとりの部屋じゃないのか?」

「お姉ちゃんの許可は取ってあるし、大丈夫大丈夫!」

 

 手招きするこいしに誘われるようにして、さとりのプライベートルームへと入り、後ろ手で開き戸を閉めた。

 天井から小さなシャンデリアがぶら下がった、傷一つない真白な壁に覆われ、市松模様の床の上に真っ赤な絨毯が敷かれた十二畳程度の部屋は、入って左手にはドレッサーとクローゼット、タンスや小物などの私物が設置されており、結構片付いている印象を受ける。

 右手の壁際には、天井スレスレの高さの書架が二架並べられ、学術書から娯楽小説まで、あらゆるジャンルの本がぎっしりと仕舞い込まれていて、ちょっとした図書館状態となっている。そして右奥のバルコニーへと続く、薄桃色のカーテンが掛けられたテラス戸付近には、それと同じ色合いの天蓋付きベッドが配置され、私を招き入れた本人は、靴を脱ぎ捨て、猫のように寝転がっていた。

 さて、この部屋の主たるさとりはどこにいるかと言うと、ファンシーな天蓋付きベッドと、本棚の間に出来たこじんまりとした空間。そこに並べられた、私の腰の高さの丸テーブルと、ふかふかな二席のリラックスチェアの内、ベッドに近い方の座席に身を預けている。視線の先は膝元に開かれた小説に固定され、丸テーブルの上に積まれた三冊の本からして、相当な読書家であることが伺える。もしかしたらパチュリーと気が合うかもしれないな。 

 

「ほら、そんな所に突っ立ってないで、ここに座って座って! 未来の話を聞かせてよ!」

 

 急かすようにベッドを軽くポンポンと叩いているこいしの隣へ移動し、左隣にこいし、正面に読書に集中したまま、一切の反応を見せないさとりの横姿を見つつ、私は150年後の幻想郷と、1000年後の世界に纏わる話を語って行った。

 

 

 

「――ってことがあって、私は西暦3000年から西暦215X年に帰って来たんだ」

「わぁ、すごいすごい! 未来の世界ってそんなことになってたんだ! 宇宙って広いね~」

「……」

 

 こいしは子供のように目を輝かせながら興奮しており、興味なさげな態度だったさとりも、話が進むにつれて本から目を離し、向かい合うようにリラックスチェアを動かして、じっくりと聞いていた。

 

「タイムトラベルっていいなぁ。ねね魔理沙、私も未来に連れてってよ!」

「未来に?」

「だってつまんないんだもん。無意識に任せてブラブラするのもいいんだけど、たまには刺激が欲しいのよね~」

「こいし、お願いだからそれだけは止めてちょうだい。ただでさえ、貴女が外に出かけることに不安を感じてるのに、別の年代にまで行かれたら、お姉ちゃん悲しいわ」

「私もさとりに賛成だ。余程の事がない限り、自分以外の人間を別の時間に連れて行くつもりはないぜ。つまんないことで歴史が変化したら困るからな」

「えぇ~? ケチだなー」

 

 少し不満そうにしているこいしを見かねて、私は「よし、じゃあ一つ予言しよう。今からそう遠くない未来に刺激的なことが起きるぞ」と言った。

 

「なにそれー? ちょっと曖昧すぎない?」

「まあ騙されたと思って信じてみろよ。きっと当たるからさ」

 

 神霊が沢山湧き上がった異変を境に、外部との接触を絶ってタイムトラベル研究に没頭したのであまり具体的な事は言えないが、霊夢が巫女を務めていた西暦2000年代は、〝異変″の発生頻度が異常に多かったのは事実。現に1年後、月の都が神霊によって襲われる異変が発生することが確定している。

 幻想郷では『異変』と呼ばれる事件が起こる度に、新たな人間や妖怪が現れ、良くも悪くも足跡を残していく。いつも幻想郷中をフラフラしてるこいしなら、何か新たな出会いがあるかもしれないし、今は閉鎖的な地底であっても、いずれ変化の時が来るだろう。 

 

「んー、魔理沙がそこまで勧めるなら、あまり期待しないで待ってみるよ」

 

 自分の発言にあんまし説得力ないなと思ってしまったのだが、意外にもこいしは信じてくれたようだ。




ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回投稿は4月4日です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。