今回の話の時刻は第4章122話、タイトル『決別』と同じです。
――西暦200X年9月4日 午後7時――
どこかへと吸い込まれていくような奇妙な感覚もやがて終わり、地に足ついた感覚が戻って来た所で目を開く。
辺りはすっかりと日が沈み、そこかしこから聞こえてくる虫や鳥の声。加えて空に浮かぶ下弦の月が、日中でも不気味な森を更に妖しく照らし出している。
150年前も昔に戻ったとはいえ、月日の上ではたった17日しか遡っていないのだけれど、元の時代よりかなり蒸し暑く、たまらず襟元の第一ボタンを開けて少し風通しを良くする。まだまだ夏は終わりそうもない。
眼前には、灯りが消えて真っ暗になった私の自宅。人間だった頃には何も見えなかったけれど、種族としての魔法使いになった今では、日中と同じようにくっきりと見えているので支障はない。
当然のことながら霊夢、アリス、パチュリー、咲夜、映姫、小町の姿は見当たらない。
「よし、行くか」
体の隅々まで魔力を行き渡らせ、ふわりと体を浮かばせて博麗神社へ向けて出発する。幻想郷で不定期に行われる宴会は、過去の経験から大体日が沈んでから始まるのだ。
肌がべたつく蒸し暑さも、こうして空を飛ぶことで全身に生温い風を浴び、その不快感が多少はましになる。にとりの宇宙飛行機に乗っていた時は機械の力で常に適温に保たれていたので、今は少し羨ましい。
(あっちの方角が明るいな)
光に集まる虫になった気分で一直線に飛んでいき、やがて、その発光地点の全容が見える距離まで近づいたところで、私は静止する。
周囲が闇に包まれている中、山頂の博麗神社の境内は、沢山の提灯や灯篭で囲まれ、日中と遜色ない程に明るい。ここからでは顔は判別できないものの、結構な人数が集まっている様子。私は皆に気づかれないよう高度を落とし、麓近くの斜面の森の中に降りてから、道なき道をかき分け登って行く。
(だんだんと喧騒が大きくなって来たな。これは結構盛りあがってそうだぞ)
蝉の鳴き声を身に浴びながら山頂に辿り着いた私は、身をかがめながら境内全体を見渡せる位置まで移動し、その茂みの中に隠れ、ばれないようにこっそりと宴会の様子を窺う。
「ワハハハ! お~いもっと酒持ってこ~い」
「そ~れイッキ! イッキ!」
「もう無理でずぅぅ~……勘弁してくださいよ……」
「逃げようたってそうはいかないからね! 潰れるまで付き合いなさいよ~」
「そんなぁ……」
「ちょ、どこ触ってんだよお前!」
「いいじゃないれすかまりささ~ん。酒の席は無礼講ですよ~ウヘヘヘヘ」
「えぇい、絡んでくるんじゃない! おいお前ら! この酔っ払いを何とかしろ!」
「アハハハハ、仲が良くていいじゃないの」
「笑ってる場合か!」
(……これは酷い)
まず一番最初に目が付いたのは、萃香と勇儀に囃し立てられ、死んだ目で酒の飲み比べに付き合わされている椛グループと、完全に理性のタガが外れて、マリサに絡みに行っている早苗を笑う神奈子のグループ。
服もはだけ、女の恥じらいもなく酒を飲み干すその姿は、もはや目も当てられない。
(今まで全然気づかなかったけど、冷静になって観察すると凄いことしてたんだな)
次に参加する機会があれば彼女らみたくならないよう気を付けよう、と心に留めつつ、宴会の観察に戻って行く。
一升瓶を直飲みしながら妖夢とアリスにひたすら仕事の愚痴を漏らす鈴仙、喧騒の中心から離れた場所で、格好つけた姿勢で傍観を決め込むレミリアと給仕する咲夜、二人静かに飲み明かす紫と幽々子、笑顔で談笑する妹紅と慧音のペアなど、多くの人妖達が見受けられた。
……今一瞬紫と目が合ったけどばれてないよな?
(さて、霊夢は何処にいる?)
さらに注意深く、目を凝らして霊夢の姿を探していく。
レミリアとなにかを言い争っている天子、主の元を離れアリスと談笑している咲夜、口元を抑えながらおぼつかない足取りで境内の外へと歩いていく椛。早苗に続いてこいしにまで押し倒されているマリサ。正座している文に向けて、険しい顔で何かを説教する慧音。小町と肩を組み、下弦の月を指さしながら笑顔を見せる妹紅……。
目の前で繰り広げられる、色々とツッコミどころ満載の展開をよそに、霊夢の姿を探していく。
(……いた! あそこか)
霊夢は人だかりの中から外れた神社の縁側で、一人お猪口を傾けていた。皆が良くも悪くも宴を楽しんでいる中、彼女だけがどこか顔が硬い。
(普段よりも全然飲んでないみたいだし、この後のことを考えているんだろうなぁ)
そんなことを思いながら霊夢を見守っていたその時。
「はれ? まりささん?」
「うわっ!」
突然後ろから声を掛けられ、自分の口を抑えつつ咄嗟に振りかえった先には。
「やっぱりまりささんだ~。こんなところでなにしてるんれすか~?」
酒瓶片手にふらふらとしながら、だらしない表情で私を見下ろす早苗がいた。
「お、脅かすなよ早苗! お前こそなんでここにいるんだよ!?」
ついさっきまでマリサと居た筈なのに、完全に気づかなかったよ。本当に。
「……なんでだっけ? なんかしようと思ってたんですけどー。分からないや、あははははは!」
めっちゃ酒臭いし、何が可笑しいのか急に馬鹿笑いしちゃってるし、なんかもう言葉が通じていない気がする。
「ん~はれ? おかしいな。あっちにも~、ここにも~、まりささんがいるような~?」
ギクッ。
「き、気のせいだろ。と、とにかく神奈子達の所へ戻れって。幻覚を見るくらい飲みすぎてるじゃないか」
「まりささんまでそんなことをいう~。なんろも言いますけど~、わたしはー、酔ってませんよ~!」
「よし、私の手を見ろ。この指は何本に見える?」
早苗の顔の前に、右手でピースのサインを作って見せる。
「え~と~4本? 5本?」
「……はぁ。完全に酔っぱらってるじゃないか。こんなとこにいないで頭冷やして来いよ」
呆れつつ、後ろに回り込んで早苗の背中を神奈子達の元へと優しく押すと、そのまま千鳥足で境内の中を歩いていき、少ししたところでゼンマイが切れたロボットのように地面に倒れた。
すかさず神奈子が早苗の元に駆け付け、耳元で呼びかける。
「早苗~大丈夫かー?」
「…………」
「あらら寝ちゃってるよ。しょうがないねぇ」
神奈子は早苗を抱きかかえて、自分達が座っていたビニールシートへと運んで行った。
(ほっ、あの様子なら多分気づかれていないだろう)
また同じことがないよう、今度は自分の周りの気配にも気を配りながら、宴会を見守って行った。
延々と酔っ払い達の馬鹿騒ぎが続き、自分も何か飲食物を持って来れば良かったなと思い始めた頃、ぼんやりとしていた霊夢がおもむろに立ち上がる。
「はい、ちゅうもーく! そろそろ宴会はお終いの時間だけど、私から重大発表あるから聞いてー!」
(来た!)
その呼びかけに参加者全員の注目が神社へと集まる。
「重大発表?」
「あの霊夢が?」
「自分で重大発表とか言っちゃうなんて、どうせくだらない事じゃないの?」
「まさかとうとう破産したのか~? 言っておくがお賽銭はないぞ~! 一円も持ってないからな」
「……それ自慢できることじゃないでしょ」
「そこ、うるさいわよ!」
周囲の茶化す声を一喝し、わざとらしく咳払いをしてからこう言った。
「――コホン。えー、私は来年までに博麗の巫女を辞めるつもりだから、その時までよろしくね」
空気が凍るとはまさにこのことだろうか、あれだけ騒がしかった境内は一瞬で静まり返ってしまった。
互いに顔を見合わせ戸惑う人妖達の中、一番最初に食って掛かったのはやはりマリサだった。
「ちょ、ちょっと待て!? 霊夢。い、今なんつった!?」
「だからー、来年までに博麗の巫女を辞めるって言ったのよ。何度も同じ事を言わせないでよ」
面倒くさそうに答える霊夢。
「霊夢がこんなこと言いだすなんて酔っぱらい過ぎなんじゃないの?」
「でも見た感じシラフっぽいし」
「信じられない」
「でもあたしは嬉しいけどなあ」
「とうとう霊夢がご乱心かぁ」
「……ふふ、これは面白くなりそうね。咲夜」
「ええ、そのようですね」
ギャラリー達のどよめきが止まない中、マリサは更に霊夢に詰め寄って行く。
「霊夢、きちんと理由を説明してくれ! いきなりそんなこと言われても納得ができないぜ!」
「なんであんたに納得してもらう必要があるのよ……」
「私も気になります霊夢さん。博麗の巫女が病気や怪我などではなく自分の意思で辞めるなんて、かなり特大のスクープですよ!」
「そうよ。今までそんな素振りは欠片も見せてなかったじゃない」
マリサ以外にも文やアリスに詰め寄られた霊夢は、一度周囲を見渡してから、大きくため息をついてこう答えた。
「――なんてことはないわ、私はこれから人間を辞めて妖怪になるつもりなの。博麗の巫女は人間が務めるものでしょ? だから巫女をやめる。単純な話よ」
「ええぇ!?」
その言葉に、ギャラリー達の喧騒が更に大きくなっていく。
「驚いたわ。霊夢ってそういうの全く興味がないと思ってた。どういう風の吹き回しなのよ?」
「理由? そんなのただの気まぐれよ」
「気紛れだあ? それは嘘だな。言っちゃ悪いが、お前みたいな人間が積極的に妖怪になるだなんていう訳がない。長い付き合いだしそれくらい分かるぞ」
「確かにそうね。あの霊夢がこんな面倒をするとは思えないし」
「霊夢さん……どうせならもうちょっとマシな言い訳をしましょうよ」
「ガッカリね」
「あんたら一体私をなんだと思ってんのよ!」
そして霊夢はさらに言葉を続ける。
「――はあ、もういいわ。確かに気紛れって言い方には語弊があるけど、私の中で人生観が変わる大きな出来事があったのは事実よ」
「その辺りについてもっと詳しく!」
「いずれ答えが判る時が来るわ。それまで内緒よ」
「ふ~む、そうですか」
「そもそもあのスキマ妖怪が霊夢の妖怪化を許すとは思えないんだが」
「霊夢が博麗の巫女を辞めることは既に私も承知してるところよ。今跡継ぎとなりそうな巫女候補を探してるところなの」
「なっ……!」
「だから幻想郷の心配はする必要はないわ。これまでより早く巫女の代替わりが始まるだけだから」
「ふむふむ、事情は良く分かりました。今日の話は良い記事になりそうですね。急いで書き上げてこないと!」
翼を大きく広げ、文は妖怪の山の方角へと飛び去っていった。
「はいはい、ほら! もう私の話は終わりよ」
自分の周りに集まった人だかりを霊夢はしっしと追いやり、次第に宴会の喧騒が戻ってきていた。
(なるほどな、あの発言はこういう流れで出て来たのか)
霊夢から概要は聞いていたのであまり驚きはなかったものの、こうしてこの目で直接見てみると違った印象を受ける。
他の人妖達が、良くも悪くも霊夢の決定を受け入れている中、マリサだけが霊夢のことに異常に拘っているように感じるのは気のせいではなさそうだ。
(宴会が終わってから霊夢とマリサが二人きりで話すシーンがあるんだよな。それまで待つか。……てか、もっと遅い時間に跳ぶべきだったな。ずっとしゃがんでいると腰が痛い)
心の中で軽い愚痴をこぼしつつ、私はその瞬間が訪れるのを息を潜めて待ち続けていった。
やがて宴会も終わり、夜も更けはじめたこともあって次々と人妖達が自宅へと帰って行く中、最後まで残ったのはアリス、咲夜、マリサの三人だった。
「今日は最後まで手伝ってくれてありがとう。凄く助かったわ」
「気にしなくていいわ。大したことじゃないから」
涼しい顔でそう言ってのける咲夜だけど、実際には止まった時間の中で人一倍動いていたように思える。もっとそういう部分を表に出しても良いと私は思うけどな。
「もう夜も遅いし気を付けて帰ってね」
「ええ、おやすみ霊夢」
「おやすみなさい」
霊夢はアリスと咲夜に労いの言葉を掛け、二人は別れの挨拶をしてこの場を去っていき、境内に残ったのはマリサのみとなった。
ちなみにこれは余談だけど、この時咲夜が時を止めて帰ってしまったので、また何十分と待ち続けなきゃいけないかと身構えてしまったが、意外にも5分程度で再び時が動き始めたのでホッとした。また何時間も動かなければ、〝一昨日″と同じことが繰り返されることになっていたかもしれないし。
(なんというか、良くも悪くも咲夜の時間停止の影響を受けない性質になっちゃったのが面倒くさいな。元の時代に戻っても、彼女の生活ペースに色々と引っ掻き回されそうだ。この辺、なんとかならないか後で時の回廊の咲夜に相談してみるか)
そんなどうでもいいことを考えていた時、二人の見送りを終えた霊夢は、未だに表情が優れないマリサに話しかける。
「マリサは帰らないの? それとも昨日みたいにまた泊って行く?」
「……なあ、霊夢。本当に何があったんだ?」
「え、何が?」
「今夜の宴会のことだよ。あの時お前、『私の中で人生観の変わる大きな出来事があった』って話してたじゃないか」
「あぁ、あれね」
「それは私にも理由が話せないことなのか?」
「…………」
月明りだけがぼんやりと照らし、互いの顔も昼間ほどはっきり見えないであろう境内で、マリサは泣きそうな目で霊夢を見つめている。
同じ〝私″だからこそ分かるが、あれは未知への変化を恐れ、心細さを感じている〝私″だ。普段霊夢の前では見せないような虚栄心や心の仮面を剥いだ、素の私とも言える。
霊夢はその気持ちを知ってか知らずか、長い沈黙の果てに重い口を開く。
「……マリサ、私達が今いるこの世界が、かつてあった筈の歴史の上に成り立っている世界だって知ったらどうする?」
「いきなりなんの話だ?」
「未来からタイムトラベルしてきた人が過去に戻って歴史を改変したら、その人以外はみーんな過去の歴史を忘れて新しい歴史に沿って誕生するんだって。これって凄いことだと思わない?」
満天の星空を見上げながら、まだ見ぬ未来に想いを馳せる霊夢。テンションの高い彼女とは対照的に、マリサは呆れながら訴える。
「……お前がそんなSF好きだとは知らなかったよ。だが今はそんなことどうでもいい! 頼むから私の質問に答えてくれよ……っ!」
「一昨日ね、150年後の〝現在が改変される前の歴史の魔理沙″が家に来て色々と教えてくれたの。実は私はね、元々1ヶ月以上も前に死ぬ運命だったらしいんだ」
「!」
「だけどその魔理沙が、頑張って、頑張って、私が今もこうして生きていられるような歴史に世界を変えてくれた。そして魔理沙は『150年後にまた会おう。その時になったら私と一緒の時間を過ごして欲しい』と言い残して未来に帰っていったの。だから私は、その再会の約束を果たすために巫女を辞めるの」
上手く言葉を選びながら、〝一昨日″の出来事を一生懸命話していくものの、マリサは握りこぶしを作ったままワナワナと震えている。
「……なんだよそれ……! 私は真面目な話をしてるんだぞ! ふざけてんのか!?」
「ふざけてなんかないわ。全て事実よ」
「そんなとんでも理論信じられるか! 霊夢、お前は騙されているんだ。目を覚ましてくれ」
「どうしてそう言い切れるの?」
氷のような冷たい目で睨む霊夢に、マリサは一瞬びくっとしながらも自分の考えを述べていく。
「私はそんなこと言った覚えがないし、私がここにこうして生きていることが何よりの証拠だ。きっと一昨日の私はその偽物に眠らされたんだ。そんな訳も分からん奴の言葉に惑わされるんじゃないぜ」
「〝私″が〝私″だってどうやって証明するの? もし声も、見た目も、記憶すらも全く同じ〝私″がいたなら、どうやって自分を証明するの?」
「……そんな在りもしない仮定について議論するつもりはないぜ。哲学的な話題で話の矛先を逸らそうったってそうはいかないからな。本当のことを話せよ霊夢」
静かな怒りを見せながらさらに問い詰めるマリサ。う~ん、あれは相当頭に来てるな。もし霊夢相手じゃなかったら遠慮なく張り倒しているだろう。
そんな気迫を感じ取ったのか、霊夢は少し考え込んだ後、こんな発言をする。
「……ねえマリサ。あなたも一緒に人間を辞めない? そしたら私の発言の意味が分かるわよ」
「な、なんだって?」
「私は博麗の巫女を辞めたら仙人になるつもりなの。ちょうど華扇が修行の旅から帰ってくるらしいし、再会したら彼女に修行を付けてもらおうと思ってるわ」
「しゅ、修行? お前がか?」
「何度も繰り返すけどね、私は決して軽い気持ちで言ってるんじゃないわ。さっきのお誘いも本気よ?」
「…………………………」
マリサは怒っているような、悲しいような、複雑な表情を浮かべている。霊夢はそんな彼女の一挙一動を見守り、今か今かと答えを待っているようだ。
「私、は……」
「……うん」
「――私は人のまま生きて、人のまま高みを目指し、人のまま死ぬつもりだぜ」
気まずい沈黙が長く続く中、ようやく絞り出した言葉は、マリサにとっては大きな呪いとして自分の身に降りかかる答えだった。
「……そっか」
「さよなら霊夢。お前には失望したよ」
残念そうにしている霊夢に背中を向け、箒片手に階段を駆け降りて行くマリサ。帽子のつばを傾けて顔を隠していたものの、その目に薄らと涙が浮かんでいたのを、私は見逃さなかった。
「マリサ……」
彼女が去ってからも、金縛りにあったかのように霊夢は一歩も動かず、居なくなった後を見つめていた。
(…………)
たった今起きた出来事は、間違いなくマリサの遺書に書かれていた内容と一致する。これがきっかけで将来、霊夢とマリサの関係が拗れることになり、マリサは悲惨な結末を迎えることに。
(霊夢……、ちょっと正直に話し過ぎだぜ。あれじゃマリサが怒っても仕方ない)
確かに霊夢はマリサの望む通り全てを正直に話していたが、今回ばかりはそれが仇になってしまった。
正直さは美徳ともいうが、実際に正直に生きていくのは非常に難しく、特に人間関係においては万事上手く行くとは限らない。霊夢のように強い人間ならともかく、私は弱い人間だ。自分の嫌な部分、負の側面からは容易に目を逸らす。納得できないけど上手く反論できない、そんなモヤモヤが積もり積もってやがて決定的な軋轢を生む。霊夢とマリサはまさにこのパターンに嵌ってしまったと言える。
しかしあの場面でどう説明すれば良かったのかと問われると、う~んってなってしまう。幾らなんでもありの幻想郷といえど、言葉で時間移動の存在を証明し、受け入れてもらうのはかなり困難だ。
(百聞は一見に如かずとも言うし、マリサが信じてくれなかったのも説得する材料が足りなかったからだろうな。だから待っていてくれ。きっと未来を変えるからさ)
心の中で霊夢にそんなメッセージを飛ばし、マリサの遺書を念頭に置きつつ、私はマリサの後を追っていった。
次回投稿日は3月15日です