試験内容、試験官との戦闘。より確実な合格方法は、試験官の打倒だ。だが、別に打倒しなくとも、合格出来る可能性はある。
まず、様々な測定を通して、それに合った試験官をつけ、戦闘する。なお、試験中に死人を出すことは、認められていない。
「受験番号、5024番!ハジメさん!魔力量を測定しますよ」
「はい」
仮面をつけているが、試験官の女性は特に気にしてない様子だ。ほかの生徒では、所々笑い声が聞こえてくる。
「魔力量、1万です」
「「「ぷっ、ハハハハ!」」」
魔力量を聞いて、多くの者が一気に笑い出す。
だが、ここで笑っていた者らは、次の試験で唖然することになる。
測定内容、鉄球投げ。
ドゴォォォォン!!!
「え、えーと測定不能」
当然だ。10kgの鉄球を投げて、かなり広いグランドの端から、グランドの柵にあたって止まったのだ。威力から考えれば、まだ飛ぶだろう。
この学園のグランドは、全長2kmはある。つまり、一が投げた球は視認し難い距離まで飛んでいったのだ。
元々、身体能力が高い獣人でも通えるようにした結果だ。ちなみに、この学校では差別は許されていないが、帝国全体から考えれば差別の対象になる。受付嬢のリリィのように、獣人なのに表舞台に立ててるのは珍しいのだ。この国にいる獣人は、冒険者か奴隷が殆どだろう。
鉄球投げでは、施設破壊。
200m走では、1秒台。
武器の投与では、最高点。
弓などの射撃でも最高点。
魔法はあまり出せないが、百発百中。
試験官には余裕を残して勝った。
こうして、一は誰が見ても合格確定だった。
エイルは、魔力量測定では、50万と勇者並の数字を出したため、羨望の眼差しを向けられた。そして、その小さな体のどこから出ているのか、一と同様、鉄球は柵まで飛び、200m走は1秒台、武器の投与は残念な点だったが、その他は完璧だった。特に魔法はやはり魔力量が多いからか、とても大きなものを出し、他生徒を圧倒した。試験官には勿論勝った。
「うぅ、この中で1番弱いのが私だよぉ。しかも最年長だし、お姉さんもう泣きたい」
桜の魔力量は4万、身体能力測定でも、平均よりも下の成績を残した。ここの生徒の魔力量の平均が5万なので、その他の成績も良くない彼女は、ある意味落ちこぼれだった。さらに見た目がいいので、かなりの人に目をつけられただろう。彼女にとっての唯一の救いは、一のメイドっていう事だと彼女はまだ知らない。ちなみに、試験官には負けた。一応傷を負わすことができたが、擦り傷に過ぎない。まあ、彼女としてはその傷も意味無い事だと思っている。なぜなら、彼女は銃を使ったからだ。懐からこの世界では見たことの無い銃と言う物を取り出し、発砲した結果、掠っただけで、それを危険と判断した試験官によって取り押さえられたのだ。
ちなみに、今回の魔力量測定の1位は、試験を受けに来ていた結城だった。あの勇者ユウキの妹らしい。魔力量は200万だ。身体能力はかなり高いが、一にはやや劣る。勇者ユウキの魔力量は300万だが、彼はまだSランクになっていない。それは妹も同様で、2人ともギルドの依頼より国からの依頼で忙しく、なかなかランクが上がらないのだ。国からの依頼は主に、魔王退治だ。
魔王と言っても、あくまで魔物の強さ"魔王級"が現れたら倒しに行くだけだが。魔物には強さによって階級があり、魔王級ともなれば勇者じゃなきゃ倒せない。冒険者を呼んでもいいが、それでは多額のお金がかかってしまう。勇者にも報酬を出してるがSランク冒険者に対する出費を考えれば、まだマシな方である。
ちなみに、テレサは150万で、2位だ。身体能力は一とほぼ同じくらいで、武器の扱いも最高点をたたき出し、一と並んだ。テレサと一は、同じ闇ギルドで、それもかなり上位どころか、1位、2位だから、武器の扱いはかなりのものだ。闇ギルドはある程度の武器の扱いができないと生きていけない業界なので、当然の事だ。特に遠距離系の武器が得意だ。勿論、彼女も試験官を倒している。
「今回は期待の大きい新入生が沢山いてボクも嬉しいよ。特に、鎌鼬と雷帝、さらに勇者ユウキの妹もね」
一とテレサの正体を当然のようにこの幼女は知っている。彼女こそがアポカリプス学園の学園長にして理事長、クリシャナだ。
「何やら楽しそうですけ。クリちゃん」
「その名で呼ぶな!!!」
通称クリちゃんである。
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一は、鎌鼬として、緊急依頼をされた。勿論拒否権もあるが、家に帰る途中だったので、丁度いいと思いギルドに向かっている。ちなみに、しらせてくれたのは、リリィと言う女の子だった。丁度同じ学校で、試験が終わり帰ろうとした時、彼女が声をかけて来たのだ。まさか初日でバレるとは思わなかった。よく考えたら、彼は微笑みの仮面のままだった。それが原因だろうか。そして、今彼女と一緒にギルドに向かっている。
「私!鎌鼬さんの大ファンなんです!この仮面にサインお願いします!」
一は別に女に弱い訳ではないが、彼女の行動は妨害に入らない絶妙なラインを狙って来ているために、どうにもできないでいる。
「この仮面にサインお願いします!勿論歩きながらでいいです!歩くのに手は使いません!」
と言った具合だ。
一としては別にサインしてもいいのだが、自分のサインなんて考えたら事がないし、考えるつもりもない。だから、無視した。
「あの!あの!サインだけでいいんです!」
「サインなんてありません」
「じゃあ、なんかあなただとわかる物を何か!」
「仕方ないですね。じゃあ、この鎌をあげましょう。自分が使っている物と同じで、魔力を流すことで大きくなります。普段は3cmぐらいですが」
「イヤっほぉぉぉぉぉ!!!」
次はない。次は殺す、必ず殺す。そう決めた一だった。ギルドに近づくにつれ、不穏な空気を一は感じた。
「リリィちゃん、なんかいるな。この感じ、敵意丸出しだな」
一たちが目にしたのは、何人もの死体と、何人かの重症の男たち。そして、怯えきった表情をするギルドマスターであるギース。受付嬢や市民らも怯えた表情だった。
「だからさ、俺が欲しいのは謝罪なんだよ。俺を不快にさせた罰、迷惑料を払って欲しいの。何、馬鹿なの?死ぬの?俺はさっさと帰りたいのにあんたらが止めるからこうなったんだろう?」
そして、主犯と思われる男と、その眷族であるだろう、蝙蝠人間数百体。眷族が蝙蝠と言う事は、吸血鬼だろうか?
この状況、市民が動ける訳もない。どうやら来ていた警備隊までやられたらしい。
「ハジメくん!助けてくれ!」
「あん?」
「いや、自分でどうにかして下さい。自分は別にあんたがどうなろうと関係ないので」
これには、その場の全員が固まる。まさか、そんな即決で決めるとは思わなかった。だが、ギースは言ってから気づいていた。言う相手を間違えたと。少なくとも、この男にとって、自分が助けるほどの人材ではないと知っていた。
だが、鎌鼬のそんな性格を知りもしない市民は唖然するしかなかった。
そして、何故かリリィが目を輝かせて一を見ていた。だが、戦う理由がないと知りしょんぼりする。彼女はただ鎌鼬の戦う所が見たいだけなのかもしれない。
「そう言う事だ、残念なことにお前を助けるやつはいない。さっさと謝罪しろよ。勿論土下座じゃあ、足りない。金貨1000枚持ってこい。でないとお前の大切な人たちがどうなるか知らんぞ?」
「妻と娘には手を出すな!わかった、金は今すぐ用意できないが、明日までに用意する!だから、お前の眷族をしまってくれ!」
それでは、自分の大切な人自白してるだけと、一はそう見えた。まあ、恐らく、妻も子供もいなかったら、彼の標的はこの街の人間になるだろう。
「おいおい、こいつらが俺の眷族だと言う証拠はあるのかよ?これはまた、冤罪で金を多くしなきゃならないかもな」
「あ、そうだ!」
どうやら、一の隣で見ていたリリィが、いい事を思いついたらしい。だが、ギースを含める多くの人が禄な考えではないと悟った。
「あ、あの!あなたの言い方だと、この眷族達はあなたの物じゃないんですよね!」
「まあ、そうなるね」
「じゃあ、鎌鼬さん。こいつら殺った方がいいんじゃないかな?」
「ほう、なんでですか?」
「だって、このまま放置してたら、この街を襲うかもしれないですよ!」
「自分には関係ないです」
リリィはその返答を待ってましたと言わんばかりに、食いつく。
「でも、鎌鼬さんの家も襲われますよ?」
「なるほど、そう言うことですね。君案外頭いいね。ただの鬱陶しいファンかと思えば...じゃあ、蝙蝠さんたち、聞きます。この街を襲いますか?正直に答えてください。喋れないなら、頷くなり意思表示しても構いません。ただ、沈黙は是なりと言うことを知っておいてください」
蝙蝠らは、動かない。まるで、主の支持を待っているかのように。
そして、いつの間にか、その場にいた蝙蝠人間は全員、真っ二つになり、崩れて灰になった。数百はいた奴ら、全員だ。
そして、それを見た主犯である男が怒りを露わにする。
「おい!せっかく俺が大事なポイント使って紹介した眷族を...!?」
自分の眷族と認めたんだ、一の敵に回ったも同然だろう。男は一に腕を鎌で切り落とされた。
「自分の眷族だと認めましたね」
「だが、先にやってきたのはそっちだろ!」
ここで、ギースも先ほどのまでの怯えた表情を捨て、笑い出す。
「ハハハハッ、まさかリリィと言う受付嬢に負けるとはな。だが、そうだ。一の扱い方は俺が誰よりも詳しい。鎌鼬!ギルドから依頼だ。金貨1000枚で、その男の討伐依頼だ!」
「1000枚...」
「はぁ?ギルドではそんな依頼もあんのかよ!」
その言葉が、戦いの始まりの合図だった。
一は周りの人など気にせず、全速力で鎌の間合いに男を入れ、すかさず振るう。一の2倍以上はある鎌を重さを感じないように軽やかに振る。男は躱さなかったのか、躱せなかったのか、魔力障壁で防御する。一の鎌は魔力が込められていた、ドラゴンでも切れた切れ味だ。それが、魔力障壁の前では無力だった。
ギースはこのままでは街がダメになると判断し、クロネコに依頼して、2人とも帝国の外に転移させた。クロネコはそこまで転移魔法が得意な訳では無いので、成功したのは一のサポートのお陰だろう。戦闘中でも転移魔法のサポートができるほど、余裕なのかもしれない。一としても、あのまま殺っていたら家に被害が出るのでそれを避けたかった。
「お前、なかなかやるな。俺の仲間にならないか?同じ日本人だろ?」
「あなたも日本人だったんですか?」
「ああ、こんななりしてるのは、自分のステータスを設定したからだ。名前は神鳴(カナル)だ」
仮面で顔は見えないが、恐らく少し出ている黒髪で判断したのだろう。彼は自分が転生者だと主張する。種族は始祖吸血鬼で、お前では勝てないからやめておけとのこと。
「知ってるぜ?お前、鎌鼬って通称で、魔力量が1万しかないんだろ?700万の俺に勝てるわけないだろ?」
魔力量は今見たのだろう。知ってることも出任せだろう。出なきゃ、まるで魔力量が低いから勝てないぞと言ってるような物言いはしないだろう。
700万はこの世界のSランク冒険者では、ぶっちぎりの1位だ。さらにそこに始祖吸血鬼が入るのだ。流石の一でも、冷や汗をかく。
「魔力量なんて関係ありません!」
ひょっこり一の後ろから、リリィが顔を出す。
「「は?」」
一と神鳴の声が重なる。
何故いる。そう2人は心で思ったが、一はすぐさま戦闘モードに切り替える。
「待て、幼女をいたぶる趣味は俺にはない」
そう言って、彼はリリィに魔力障壁を貼ろうとする。その隙を狙い、一が刀を刺す。封刀「鎖」だ。普段は家の地下に保管しているが、一が呼べばいつでも現れる。その刀がいつの間にか、神鳴の胸から生えていた。ちなみに、もう少しずれていれば、リリィにも刺さっただろう。
一としては、リリィがどうなろうと知ったことではない。今はこの最強の吸血鬼を倒すことで頭がいっぱいだ。魔力のリミッターも全て解除して、10億の状態だ。リリィが尻餅をつく。
「てめぇ...」
すかさず一は、刀を振るい、心臓から脳まで真っ二つにする。そして、後ろに跳んで油断なく構える。
「はぁ、はぁ」
一は、神鳴の復活を待っているのだ。だが、10分待っても復活しない。
「え?弱くないですか?」
「鎌鼬さん!かっこよかったです!もう少しで私死んでましたが、それならそれで本望です!」
無理もない。一はHELL〇INGのアニメの吸血鬼の始祖、アーカ〇ドをイメージして戦ったのだ。もし刀が通じないならすぐに銀の装備を買いに行く予定だった。だが、アー〇ードと比べると、この男はあまりにも弱すぎた。魔力量は高いが、一つしか命がないのだ。数百万の命を持っているアーカー〇と比べる方がどうかしてたのかもしれない。その考えに至り、やっと一は力を抜いた。
「さて、帰りますか…」
「私も一緒に帰ります!」
おまけ
1方その頃、エイル達は...
「まずいぞ、サクラ!あの一がリミッターを全て解除した!」
「ええ!!!それ程の敵が現れたのですか!?」
「恐らくそうだろう。地下室の刀も消えていた」
「そんな敵が現れるって、どうすればいいのでしょうか!?」
「落ち着け、サクラ。そんな敵が現れたら、我らではひとたまりもないだろう」
「なるほど、開き直るんですね!」
「うむ、最後の晩餐といこうではないか」
一としては、もっと心配してもいいのではと思っていた。
もうすぐ学校が始まるから、投稿できなくなるかも知れません。ハジメの扱いが一番方が一番わかってるのは誰でしょうね。エイルさんだと思いますが、そのうちリリィに抜かされそうです。始祖吸血鬼を出したのは、最近ほかの小説見て「あれ?始祖吸血鬼ってこんな弱かったの?アー〇ードの足元にも及ばないじゃん」って思って出しました。