一達がギルドにやってきたのは、夕べだった。本来ならもっと早く来れたが、街を見て回っていたのでこの時間となった。ちなみに、デートだ。
ギルドの冒険者達は、普段街から出て魔物を狩って、夜もしくは夕べくらいにギルドに帰ってくる。まあ、以来によっては数週間帰らないこともあるが、そう言う理由で、今の時間帯はとても賑わう。
ギルドは酒場のようなこともやっている。大きい所ではそう言うことはないが、珍しいという訳でもない。
「全く、いつになったら一は我の婿になるのやら。あまり乙女を待たすでない」
「え、自分ら夫婦じゃなかったんですか?」
彼らは一年でかなり仲良くなった。
「え、え!?夫婦だったのか?でも結婚式もあげてないし...」
「何言ってるんですか?お互いに認識すればいいんですよ。そもそもそんな宗教的な行事に従う必要なんてないんですよ。常識なんて、この人間社会に溶け込む以外使う理由がありませんね」
彼は、法には従うつもりだが、それが彼らにとって不都合なら、いつで罪を犯す。たとえそれが、全世界の生物を敵に回そうが、彼は気にしないだろう。
「うん?やけにギルドが静かな」
時間帯故の騒がしさが、ない。
「何かあったのでしょうか?」
▼
この街、アルトレアの冒険者ギルドのギルドマスターであるハネスは命の危機にあっていた。それは、1人の男が来たことが原因だ。
男の名前は、ギース。帝都にあるこの国最大のギルドのギルドマスターにして、一般的には知られていない闇ギルドの創設者である。
冒険者はランクがあり、下はGランク、上はSSランクまである。現在、Sランクの人は3人しかいなく、SSランクは誰もいない。正確には昔いたが、死んでしまったのだ。
SランクとAランクの差は激しく、Sはもれなく化物だと言われている。
このギースと言う男はAランクであり、かなりの実力者でもある。
そんな大物がなぜここに来たかと言うと、旅行がてら脱税してると言われている男を捕まえに来たのだ。今回、彼は、ハネスが抵抗したら殺すつもりでいる。そのためにも、騎士を5人連れて来たのだから。
「帝都のギルドマスターのギースだ、脱税している容疑で貴様を連行する。何、事情を聞くだけだ。くれぐれも抵抗するなよ」
「あ、な?な...」
ギースとハネスは受付台越しに話をしているが、ハネスの動揺はとてもわかりやすかった。
一たちも騒ぎ(と言っても誰1人喋っていないが)を聞きつけ、やってきた。ギルドの外で中を見ていた中年男性に話を聞いて、状況を把握した。
「ここだけの話、実は闇ギルドって言う殺し屋が雇えるギルドがあって、あのギースってのがそこの創設者っていう噂もあるんだぜ?」
「へー、なるほど」
恐らく、その噂は本当で、人員募集のためにわざと流したのだろう。
「ふ、ふ...ふざけるな!」
ハネスは受付台を叩いて言う。
「私はそんなことなどしていない!」
「疑うなら証拠を出せ!ないならとっとと帰れ!私はこれでも忙しいのだ!」
ギースは懐に手を入れ。
「証拠ならあるぜ、目撃証言を頼りに探したものだ。これは、あんたが燃やしたこの書類だ」
「な、なんだそれは!」
「残念だったな、この書類はこういう時のために無属性魔法がかかっていて、燃えない紙になっていてな。見つかるのは時間の問題なんだよ」
それが実施されたのは、数年前で、あまり知れ渡っていない。そもそも、誰も燃やそうとしないからだ。魔法の解除ができるのは、Sランク冒険者の人で、この魔法を与えた張本人であるノワールと言う賢者のお爺さんのみだ。
「な、なん...…だと…?」
ハネスの顔はみるみる青くなり、一と接していた時の余裕は微塵もなかった。
「くっ!」
ハネスは振り返って、逃げようとする。
だが、彼は地面に転んでしまう。
「な!?なんで...なんで!あ、足が!」
彼が逃げようとした瞬間、彼は足を切られた。
▼
ハネスは足を切られた痛みで気を失い、一緒に来た騎士に運ばれて行った。
一はまた近くの男に聞く。
「脱税ってそんな重い罪なんですか?」
「いや、良くて牢屋、悪くて奴隷だが、足を切られるほどではない。あいつの場合抵抗したから、それを止めるためだろう」
「なるほど、エイルさん行きますよ。稼ぎ口を見つけたかも知れません」
一はエイルを連れて、ギルドの中にいるギースの所まで歩いていく。
ギースは自分に近づく可愛らしい女子と、それと歩く黒いローブに怪しい仮面をつけた男を不思議に思う。
「俺になんか用か?」
「何言ってるんですか?あなた人員募集してますよね。雇う方も"雇われる方"も」
会えて後ろを強調する。
「ほう、その歳でなりたいのか。よし、ここで話すのもなんだ。ついてこい」
こうして、一は自分の職業を見つけるのであった。
...暗殺者と言う職業を。
▼
時は流れ、一年後、一は16歳になった。
彼は冒険者ギルドでは「鎌鼬」と言う異名で冒険者をしていた。
ランクは約半年でSランクにまで上り詰め、世間では英雄と呼ばれていた。
主な原因は、帝都がレッドドラゴンの襲撃にあった時に、彼によって撃退されたからだ。ちなみに、その時他のSランクはテレサ以外誰も来てなかった。
一が英雄と呼ばれた理由は、もう一つある。彼の魔力量が1万だからだ。要は、魔力量が少なくても強くなれるの代表例で、皆の憧れの的だったからだ。
ちなみにマスクは不気味な笑を浮かべたものを複数作らせ、未だに同じやつを使っている。
Sランク冒険者は現在、
「賢者」ノワール 男、103歳 魔力量500万
「風神」クリード 男、37歳 魔力量250万
「雷帝」テレサ 女、15歳 魔力量150万
「鎌鼬」ハジメ 男、16歳 魔力量1万
の4人だ。
勇者1行は一番ランク高いので、一と剣を交えた結城で、Aランクだ。
そして、一のもう一つの顔が、闇ギルドでの1面だ。彼は闇ギルドでの名を馳せ、「死神」と呼ばれた。刀は強すぎると言うことで、彼は鎌を使い、それたす黒いローブに怪しげなうさぎの仮面のせいで、死神のように見えることからつけられた名前だ。
うさぎの仮面は関係無いと思うかもしれないが、殺した時の返り血がついていると、かなり怖いのである。
そんな死神に噂がないはずも無く
曰く、死神はギルドマスターの懐刀だと。
曰く、依頼で失敗したことが無いと。
曰く、依頼量が高額なため、死神の気まぐれでないと雇うのは困難だと。
曰く、SSランクに最も近い男だと。
曰く、仮面の下は絶世の美男子だと。
曰く、何故か暗殺関係ない仕事もやると。
曰く、たまに一緒にいる可愛いらしい女の子は、彼の妻だと。
割とあっているかもしれない内容だ。
一は帝都に自分の家を持ち、妻であるエイルと楽しく暮らしていた。
ちなみに、エイルも一応、冒険者登録をしている。冒険者登録のカードは身分証の効果もあるので、仕事をこなさないと解雇されることはない。
エイルはBランク冒険者で、殆どの仕事は一がやり、エイルは夫の帰りを待つと言う感じで、エイルのランクはそこまで上がっていない。
▼
エイルと一は、ギースに呼ばれ、闇ギルドに来ていた。場所は、帝都のギルドの地下に位置するが、入口は十数個もある。
「おい、あの仮面って、死神じゃないか?」
狐の仮面は有名だ。
「まじかよ!でも鎌もってないし偽物って可能性は?」
「んなわけあるか、大きすぎて仕舞ってるんだよきっと。それに、偽物は以前ならいたが、そいつらが現れる度に本物に殺されたって話だぞ?そんな勇気あるやつ今更いるかよ」
「だな。いるならとんだ死にたがりだろう」
「それに、一緒に妻もいるだろう」
エイルは妻と言われどこか嬉しそうだ。
一は特に気にしていない。
死神と鎌鼬が同一人物だと闇ギルドの人間なら殆ど知ってるだろうが、表の人間はそもそも闇ギルドの存在をあまり知らないので、死神ももちろん知らないだろう。
彼らはギルドの奥に通され、ギルドマスターであるギースの部屋に来ていた。
「やあ、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「はいはい、お陰様お陰様」
「ギルドマスターに失礼だろう」
「で、我らを呼んだのはなんのためだ?」
「まあ、エイルさんや。そう焦るな、そういえば、この前の依頼ありがとうな」
闇ギルドの依頼は暗殺か情報収集が殆どで、情報収集も暗殺に関してのものなので、殆どが物騒なものだ。だが、その中でも普通の依頼はある。それらがこのギースが出したものだ。例として言うならば、ギースが出した「〇〇屋のうどんの味を調べてこい」と言うものだったりする。闇ギルドにいる人間がそんなものを受けるはずも無く、暇な時に一が受けている。
一般ギルドも闇ギルドも、強制依頼と言うものもは"ない"のだ。理由は様々だが、基本依頼は断れる。だが、依頼の途中で放棄すると、冒険者の資格は剥奪され、依頼量を罰金される。ちなみに、自分が受けた依頼を他の人がこなしても、依頼を引き受けた者の手柄となる。
一のワイバーンの時の場合は、まだ誰も受けていなかったので、手柄を奪われることはなかった。
ギルドマスターであるギースの発言権は高く、貴族に匹敵する。
そんなギースの直接依頼はなかなか断れるものではない。
「お前、学校に行かないか?」
「行きたくないです」
即答であった。
シュレディンガー准尉も好きだな。