「単刀直入に行こう。君たちには依頼をこなしてもらいたい。強制依頼だ」
「強制依頼はないんじゃないですか?」
「いや、確かに強制依頼はないということになってるが、魔王級以上が出た場合は別だ。下手したら国がいくつも滅ぶからな」
「魔王級以上...?」
さきほど、一の顔を見て一目惚れしていたナルシストが蘇った。
「なんじゃと…?正しい情報か...?」
「ちょ、まずくないですか!」
「うるさい、おっぱいはダメってろ」
「何おぉ!!」
「ちょっと、テレサうるさいですよ」
「え.......すみません...」
流石のテレサも一に言われるとは思っていなかった模様だ。テレサが黙ったのを見て、王がまた話し始める。
「勇者のパーティで悠一助かった魔法使いの話によれば、勇者の魔法石は魔物によって取り込まれていたらしい」
魔法を使う際に魔石にある魔力を使ってもできるので、魔力量が少なくても大きな魔法を使ったりできる。だが、魔物にとって魔石を使う機会ないのだ。使う脳がないのだが、たまに、ごく稀に魔石を使う魔物が現れる。使うというより、取り込む魔物が現れるのだ。使われない魔石が放置され続けると、どうなるのか?簡単に言うと、ダンジョンが出来上がる。魔石の量にもよるが、たくさん魔石があるとより大きなダンジョンができる。だから、ギルドではたまに魔石回収の依頼も出される。魔石は収納に入れるとダンジョンを防げたりする。
帝都の近くには、世界最大の巨大なダンジョンがある。何故これまでに大きなダンジョンがあるのか?答えは簡単で、ここで一の持ってる刀「鎖」が作られたのだ。昔の勇者、英雄達は多いものでは邪竜に匹敵する数十億の魔力量を保有する者もいたのだ。少なくても数億。エイルは知らないが、刀を作った本人だけでなく、魔力をあげた勇者は全員死に、邪竜もエイルを封印した後、眠り続けている。
勇者らが消え、国を守る戦力も減りそこの国は魔物により1度滅んだ。そして、そこに残された魔石は長年放置され、今のダンジョンと成り果てた。
「つまり、悪夢(ナイトメア)が出たんですね?」
魔石を取り込む魔物は、悪夢『ナイトメア』と呼ばれている。
「そうだ」
「「「...!?」」」
悪夢は強さ関わらず、魔王級以上とされている。後に必ず強くなるからだ。魔物には知性など無く、本能で行動するので、魔物同士での抗争が無いはずが無い。そして、悪夢が最も厄介な点は、その抗争で敗れた魔物の魔石、つまり本来冒険者が回収する筈の魔石をも取り込めるのだ。だから、どんなに個体が弱くとも、大きな魔石に出会えば凶悪な魔物と成り果てる。
「ハジメさん、どうします?」
保護者のはずが、結局リリィは一の意見に従う。いや、これもある意味保護者か。
「これは.......」
「ちなみに、君が受けてくれれば、ギルドの私自らSSランクの制定を持ちかける」
Sランクの4人は人にして、人にあらずと言われる程に強力な力を持っている。だが、彼らにそこまでの権力はない。せいぜい没落貴族と同じくらいだろうか。だが、もし一がこの依頼を受けてくれたならば、王はSSランクを設けようと考えている。SSランク冒険者は、王に続いて、2番目の発言権を有する設定だ。最も、ギルドの本部があるのはこの国では無いので、その国に交渉する必要もあるのだが。
「と言う事で、君が受けてくれればSSランク冒険者を設け、君をそのSSランクにしようと思う。無論、貴族と同じか、やや上の権力があるのでそれなりの領地をあげるつもりだ」
「僕は納得が行きません!何故こいつだけSSランクにするんです!?」
「ハジメさん、下から上を見上げる感じで、クリードさんを見てください」
「......?」
取り敢えず、リリィの言う通りする一。
「...!SSランクになるのはハジメちゃ...くんが相応しいと思います!考えたら、SSランク出来てから僕もなればいいだけだ!」
「やっぱり、キチ〇イじゃ...」
「なんですか?」
「なんでもないんじゃ。(この子怖い)」
「(こいつ連れて来るんじゃなかった…なんだかんだで、Sランク全員従えてる…。と言うより、鎌鼬1人抑えたら、S全員抑えたらも同じじゃん)」
自分の愚行を悔やむ王だった。
▼
「元々、断る理由がありませんしね」
一がこの依頼を受け、その他のSランクも全員受けた。そもそも、この中で一番悪夢を恐れているのが、一である。彼は知っている。彼の家で飼っている魔力量400億のスラちゃんも、悪夢であり、そしてある意味、彼自身も悪夢なのだ。他人の能力を取り組んで、己が力にする。その点では一も同じである。そう、彼が危惧しているのは、自分らを殺しきる魔物の出現だ。彼と彼女は、いくら頑張っても人間と同じ寿命しか生き残れない。だから、一はエイルと残りの人生ぎりぎりまで過ごそうと思っている。彼は永遠を望まない。そして、その一生を邪魔する者は、誰であろうと許すつもりは無い。
「では、報告と行こうか。ベアード」
「我々が今得ている情報をまとめると、悪夢は現在、勇者らの魔石を魔法使いのを除いた全てを取り込んでいる。敵の魔力量は少なくとも、2000万で、放置時間がながければ長いほど強くなるだろう。いずれ、億に行くだろう。姿は、ドラゴンのようだったらしい」
「速やかに討伐する必要があるのだが、国々の協定により、これより君らには各国を回ってもらいSランク冒険者、もしくはそれ相当の実力者を集めて貰わなければならない。万が一それでも負けたら、我々は滅びを待つしかないのだ。遅くとも一年いないに準備を整えるのだ」
悪夢にとって、半端な戦力は餌でしか無い。過剰戦力でちょうど良いくらいだ。戦ってる途中で、仲間1人でも取り込まれたら、戦線は崩壊する。
「誰が行くんです?」
「鎌鼬が決めて構わん。足で纏いと思ったら連れていなかんくて結構だ」
「ほ、本当に大丈夫なのかね?」
「オールス、ここは覚悟を決めなくてはならないのだぞ。残念なことに、我々にできることはこれぐらいだけだ」
「ハジメくん、万が一の時は王だけでも助けてくれるか…?」
「王国とは民あっての物だ。私は民と心中するよ」
王の発言に、ベアードも頷く。だが、オールスだけは納得しない。
「王国とは王あっての物だよ。民がいた所で、後に他国へと逃げるだけだ。だが、あなたは王だ。例え他国に逃げたとしても、あなたさえ生きていれば、必ずまた建国ができる。民は確かに必要だが、それは後からでも招き入れられる。だが、それを束ねるリーダーがいなくては、何一つ始まらないのだよ…。王、民の命を無下にしろとは言わない。だが、民の命を無駄にするな。何度国が滅んでも、死にものぐるいで国を作り直す。それが王の務めだと私は思っている」
「全く、お前は無能の癖に、理念と信念だけは一丁前なんだから…」
「私が死んだとしても、国が滅んだら必ず、建国し直すと約束しよう」
そして、一たちの全ての国を巡る旅が、始まる。
▼
「では、エイルさん、行ってきます」
「おう、我は桜と学校行ってるからな。ゆなはいるが、兄を失ってるから、部活は難しいか。まあ、気にせず行ってこい」
「エイルさんと一年ぐらい会えないのですか…まあ、人生80年、それから考えたら少ないですね」
「行ってらっしゃい、ハジメ」
「行ってきます。エイル」
一達は取り敢えず、王城に集まった。先日会議を開いた場所に当たり前のように入っている。
「ではまず、行くメンツを決めます」
「はい!はい!私行きたい!」
「じゃあ、僕も行こう」
「私はハジメさんの保護者ですので」
「じゃあ、ワシは行くのはやめよう。キ〇ガイと一緒とか死んでも嫌じゃ」
「では決まりですね。行くのは、テレサさん、クリードさん、キチ〇イさんで」
「ハジメさんにキ〇ガイって言われた!?」
「あれ?そういう名前じゃなかったですかね?」
「もう、それでいいです…」
リリィは一に慰めてもらうシーンを想像して、涙を流したが、当の本人には無視された。
「では、行く国はまずはマートンに行くことにしましょう。そこから、時計回りで行きます」
一はテーブルに地図を出して、指を指す。悪夢が現れたのは、始まりの森付近だ。だから、この道のりで順番通りになる。
馬車で移動しながら、一達は国境を目指す。
いつものように、テレサは一の膝の上に座っているが、その席をリリィと取り合いしていた。
「なんであなたがハジメさんの上に座ってるんです!私に変わってください!」
「じゃあ、ハジメに聞いてみなよ!」
「ハジメさん!」
「...zzzzZZZ」
「これはダメですね…?」
「おっぱいとキチ狐、煩いぞ」
「う、す、すみません」
リリィは思うところがあったのか、渋々引き下がる。それを見てテレサが誇らしげな顔で言う。
「ふん、その程度のようね!」
そう言って、テレサは馬車の上で立ち上がる。この馬車は貴族用のかなり豪華なもので、馬車が個室を運んでるような感じの物だ。
「ナルシが調子こいてんじゃない!煩いと思うなら降りればいいのよ!このハゲ!ロリコン!ショタコン!ホモ!...!?」
「zzzZZ...?」
そして、その音で一が目を覚ました。
「え、えっとごめんなさい。すみません、すみませんでした。もうしないので、その手を離してください。話せばわかります。離せばわかります」
一は馬車の扉を開け、そこからテレサをぽいっと外に投げた。
馬車は意外と早く走っていて、テレサはゴロゴロと転がって暫くしてようやく止まり、涙を流しながら走って馬車を追いかけた。馬車の後ろの窓から見ると、涙で顔がぐしゃぐしゃになりながらも、必死に馬車を追いかけるテレサがいた。
「うわぁ、あれは流石に酷いな」
▼
マートン王国、それはアスフェル帝国の隣にある王国だ。人間の王国であり、アスフェルと同じく奴隷制度が取り入れられている。違う点といえば、ギルドが小さい事ぐらいだろうか。
一達はその国境に来ていた。馬車による移動で、およそ2週間移動した。国境ではもらったバッジのおかげですんなり通れた。通行書よりこちらの方が便利である。そして、その1週間後一達は王の元にまで案内された。そして、王の提案により、一達はパーティに案内された。この国のギルドはそこまで力がなく、冒険者が弱い。そのため、一たちにここで大切な人を作ってもらい、ここの国に情を持たせ、利用しようと考えていたりする。
当然その意を汲んで、貴族も沢山来ている。ただし、魔力量の少ない一とリリィは見下される羽目になる。当然の結果だ、Sランク冒険者が来ると聞いて、媚を売るつもりが、十数万程度の魔力量のガキと、一万しかないガキがいるんだ。おまけに一万のガキは仮面をつけていてふざけてるとしか思えない。そして、とうとう誰かが動いた。
「あなたは...ハジメさんですね?無礼なので、仮面を外してくれると有難いです」
「ハジメさん、外した方がいいですよ」
「仕方ないですねー」
一は仮面を外した。
「女…だと…?ハハハ!魔力量が少なくて、しかも見た目も弱いガキがなんでここにいるんだよ!付き添いか?」
「付き添いは私です」
「お、おう。そうなのか…」
「あいつ、あんな弱いのにSランクなのか?あの国はどうなってるんだ?もう攻め落としてもいいんじゃないのか?」
散々罵倒されるが、一の表情はビクともしない。流石に痺れを切らした男が、怒りを露わにした。
「なんか言ったらどうなんだ!貴族には敬意を払えと言わればかったのか!」
そう言って、一にビンタをしようとする。
そして、気づいた時には男に腕は無かった。そして、床にボトっと落ちた。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!!」
「何をしている!貴様ら!」
流石に王も立ち上がる。
「自分らは、Sランク冒険者相当の人を集めるために来ました。いるなら紹介して、いないなら報告しなさい。自分の責務も全う出来ないなら、ちゃっちゃと死ね」
一はどこから取り出したのか、握っている鎌を王に突きつける。今にも首を狩りそうな状態だ。
「わ、わかった。我が国のSランクを連れてこよう」
そして、一達は競技場のような場所に案内され、ステージに一が上がり、もう片方に大きな男が現れる。3mぐらいありそうだ。そして、一目で鍛えている事がわかるほどの筋肉量。
「うわぁ、流石にあの筋肉には発情しないですね」
「何を言っている。あのような肉、重たいだけだ。邪魔にしかならん」
二人がステージに上がった瞬間、歓声が巻き起こる。
「魔力量はたったの一万...弱すぎる」
魔力量も少なく、見た目も弱ければもう救いようは無いのだが、相手は一だ。
歓声が響いてから数秒、いつの間にか大男の首と体が分かれていた。
しばしの沈黙。
「全く、魔力量100万しかなく、これといった得意分野もなく、今の攻撃も気づかないようでは、足でまといになります」
「では、テレサさん、次の国に行きましょう」
彼がやった事により、国の国力が衰え、やがて滅びるなんてことは無い。冒険者とはそもそも、国にはこだわりを持っていない。だから、他国でも冒険者を雇えば来てくれるのだ。最も、来るかどうかは冒険者の自由だが。
「私たちの冒険は、まだ始まったばかりだ!完!」
「何を勝手に終わらせてるんですかねー、テレサさぁーん!」
「いえ...あの...テへッ」
ゴキッ
「ぎゃぁぁぁぁあああ!!」
最も、これは彼にとっての冗談のようなものなのだが、冗談で済んでいないのが難点である。
一って行った場所で問題起こさないと気が済まないのでしょうか?