龍の乗り心地   作:パリの民

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外食したいなー


一(はじめ)は主人公。

先生に報告してから、一は保健室に来た。

 

保険室にしては、やけにでかかった。病棟の1室ほどだった。いや、部屋によっては普通の保険室と同じところもあるが。具体的に言うと、ベットが20ぐらいあった。設備は病院ほど良くないが、日本にある救急車のように最低限の設備が各ベットにあった。

 

「すみません、魔力切れでこの子が倒れたんですが。誰かいますか?」

 

部屋には誰もいなかった。

 

「はぁ、仕方ないですね。何すればいいか分からないので、適当にベットに寝かせときますか」

 

一はある程度、生き物の気配を感じる事ができる。恐らく、いや間違いなく森での生活が原因であり、ここ数ヶ月ずっと暗殺の仕事をしていたので、その能力はさらに上がった。

 

気絶した者の看病の仕方なんて分からないし、ここに捨てておいてもいいが、滅多にないサボれるチャンスを活用しない訳が無い。

 

「起きるまで、本でも読んでますか」

 

そう言って、どこから出したのか、いつの間にか本を持って、ベッドの横に置かれている椅子に座り、本を読み始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

..........幸せだった。幸せな日常は、たった1匹の怪物によって壊された。

 

 

帝国は昔、隣の国と同じで人類至上主義だったので、ずっと獣人は迫害や差別などを受けていたが、帝国の王が変わり、その意識も薄まった。だが、それでも獣人の殆どが奴隷で、リリィのお母さんのように、人間と結婚して子をなした獣人はかなり少数だろう。

 

最初は見下す者もいたが、なんとかやってこれた。自分たちの家もそこそこ大きいし、金には少々困っていたが、幸せな家庭だった。

 

そんな家庭が、たった1晩で消え去った。

 

飛龍、帝国の北の山に住んでいたと言うレッドドラゴン、6匹いる最強の龍が、帝国を襲ったのだ。そして、運悪く、リリィたちの住んでいた家は、その龍が帝国に向かう道中にあった。最強の勇者ユウキはこの時、魔物の退治でいなかった。それが、この龍の侵入を許した原因だろうか。

 

そして、リリィの住んでた家が焼かれた。

 

街もろとも、何もかも、一切合切焼かれた。たかが通過したときに、火を吐いただけで、炎が街を包んだ。お母さんが自分だけを、家の地下の貯蔵庫に逃がしてくれたから、彼女は助かった。本当はお母さんも入ろうとしたが、間に合わず、お父さんと一緒に死んだ。

 

そして、リリィはいつかレッドドラゴンに復讐しようと胸に誓い、貯蔵庫から出た。街で生き残っていたのは、リリィだけだった。

 

 

 

どうやって復讐するか。それが問題だ。リリィは通常の人間よりも強い、だがそれでもレッドドラゴンには到底及ばないだろう。ならば、冒険者だ。勇者を動かせるのは帝国の王のみなので、頼りにならない。だが、冒険者ならば金を出せば誰かがやってくれる。つまり、今一番必要なのは、お金なのだ。

 

そう考え、リリィは貯蔵庫にあった食料を魔法でできるだけ収納し、残りはカバンに入れ、14歳の足で、帝都に向かって歩き始めた。ちなみに、彼女は、学校に行った時は桜と同い年なのだが、見た目がアレなので10歳くらいだと思われていた。それが彼女のコンプレックスでもある。

 

体長が20mを超えるレッドドラゴンが進んでいった道は、街や城壁がこと如く破壊され、リリィの歩を止めるものがなかったのは幸いだろう。本来ならば、入門許可など色々面倒があるが、リリィはすんなり王都に入れた。そして、そこで見たのは、門を入って間もない所に落ちている首と胴体が分かれ、その他にも何度も切り傷があるレッドドラゴンの死体だった。

 

「すごいよねー、あれを倒すだなんて」

 

門付近で唖然としていた時に声をかけてくれたのが、リアだった。その後、彼女の助けの下、リリィは受付嬢になった。

 

後から聞かされた内容だが、レッドドラゴン討伐のために出た勇者は、まだ小さいと言う理由で出撃しなかった勇者ユウキの妹のゆなら数人以外、出撃した勇者の殆どが殺された。そして、そんな凶悪なレッドドラゴンを討伐したのが、Sランクの冒険者「鎌鼬」だと。ちなみに、鎌鼬と言う名は、レッドドラゴン討伐した後に、呼ばれ始めたのだ。レッドドラゴンの首を大きな鎌で狩ったのが原因だろう。

 

他の冒険者も駆けつけたが、力になれず、結局一1人で倒した。

 

Sランクの頂点、鎌鼬。

 

彼女は彼に憧れを抱いた。まあ、彼なのか彼女なのかは知らないが、この英雄を目指そうと思った。そして、彼女は受付嬢として活用しながら、鎌鼬の情報を色々聞いた。どうやら、彼はリミッターを五段階かけていて、そのうち2つを解放してレッドドラゴンを倒したらしい。ちなみに、この噂の出どころはギースで、後に一に殺されかけた。他にも、本来の武器は刀で、鎌を使っているのは手加減らしい。本当かどうか知らないが、それほどまでに鎌鼬が強い事を知れて、恐怖を抱く者もいたが、それでも彼女は尊敬の思いを強めただけだった。

 

それと同時に、ある男への復讐の思いも強まっていった。男の名前は、松下通(まつしたとおる)。勇者ユウキと一緒に紹介された勇者約30名のうちの、1人にして、レッドドラゴン討伐で唯一生き残った者だ。彼は民家などを背に、逃げ隠れしながら生き延びた。その後、彼は帝王にやった罪がバレて、国外追放となった。

 

彼がやったのは、勇者たちで遠征をしていた時、レッドドラゴンのタマゴを持ち帰った事だ。恐らく、孵化させて、自分の使い魔にしようとしたのだろう。だが、その結果が帝国の帝都を含める幾つかの街の半壊、もしくは壊滅だ。王は彼を処刑しようとしたが、勇者ユウキに止められ、国外追放だけで済んだ。

 

 

 

今でもたまに思い出す。

 

 

貯蔵庫から出て最初に見た、両親の遺体。真っ黒になっていて誰か分からないが、母の焼け爛れた狐耳は、実にわかりやすく、彼女に現実だと教えてくれた。

 

また吐きそうになる。

 

優しかった父が、誰かわからないくらいに黒焦げになっている。

 

 

「リリィ...おいで...」

 

昔、よくそう言われて、父に抱きついた。そして、撫でて貰った。だが、待っていたのは撫でてくれた父の暖かくて、大きな手ではなく、硬いもので殴られた衝撃だった。

 

「え?お父さん?」

 

「誰がお父さんです、誰が。起きて早々抱きつかないで下さい、鼻水がついてしまう」

 

「あ、すみませんかm...ハジメさん」

 

リリィは慌ててベッドに戻り、着崩れた体操服のようなものを着直し、一を見る。恐らく、彼の手にある辞書のような本に殴られたのだろう。

 

「お二人とも、熱々だねぇ〜」

 

「そんな...わ、私は!?」

 

「では、先生も来たことだし、自分は教室に戻りますね」

 

「はぁーい」

 

一が去った保健室。

 

「彼氏さん?」

 

「いえいえ!何方かと言えば、神様だと思ってます!」

 

「そ、そうなの~?」

 

「はい!」

 

「それにしても、仮面つけてて怖い人だと思ってたけど、優しい人ね〜」

 

「はい!神様ですから!」

 

彼女の名前は、上崎愛(かみざきめぐみ)。立派な勇者の1人だが、今はこの学校の保健室の先生をしている。前世でも先生をしていた。彼女も、レッドドラゴン討伐に参加しなかった勇者の1人だ。戦闘は出来なく、回復魔法にのみ長けていたので、彼女は残って負傷者の手当をしていた。

 

レッドドラゴン討伐に参加しなかった者は、勇者ユウキと勇者ゆなと、愛だけだ。つまり、勇者召喚で呼ばれた30以上いた者のうち、4人と桜のように無能として排除された者を除いて全員死んだのだ。これは、帝国にとって大きな損害となった。そして、噂ではもうすぐまた勇者召喚を行うらしい。

 

愛は暫く、リリィを可哀想な子を見る目線で見ていた。そして、心の中で呟いた。「ダメだこいつ、早く何とかしないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは、アスフェル帝国の北にある小さな島の上だ。始まりの森の真西を海を渡ればつけるだろう。

 

一たちが平凡な学園生活を過ごしている中、でとある者によっての陰謀が始まろうとしていた。果たして、それは一たちを巻き込む物なのか、はたまたそうではないのか。

 

 

「ふふふ........後少しで全てが整う。ここに生贄を投入し、そいつの全てを吸い尽くしてやろう。何、痛くはない。ただ、私のためのエネルギーとして、永遠に働いてもらうぞ!フハハハハハハッハ、ゲホッ、ゲホッゲホッ」

 

「こらぁ!!!!」

 

「げぇ!?」

 

いかにもお母さんと言う雰囲気が漂う銀髪美女が現れる。それに対して、身長の割には大きな和服を着ている銀髪ショートの幼女が、心底嫌そうな顔を向ける。この広い部屋にいるのは、この2人だけだ。

 

「お前は一体何度私を邪魔すれば気が済むんだ!このババァ!」

 

「お前が人が折角作ってあげたゼリーを、まーた変な事言いながら、口で吸い込んで!その食べ方ヤメロと何度いえばわかるんだ!」

 

「うるせぇ!私がどんな食べ方しようが勝手だろうが!」チュウチュウ

 

「また吸ってる!...はぁ、もういい」

 

ふざけた顔から、幼女は一気に引き締めた。

 

「あっちの方は順調か?」

 

「ああ、大方予定どうりだ。"鎌鼬"って言う想定外もいるが、後はクリシャ次第だろう。大丈夫、こと誘導、人身把握、騙しなどにおいては、彼女が"我々の中"で一番だ」

 

「久しぶりに連絡してみるか」

 

彼女らがここにいる理由は、異世界へと繋がるための場所は、ここが最適だったからだ。理由は300年に1度起こる試練が原因だろう。ここの世界では300年に1度、この世界に外敵、つまり異世界からの侵略が行われるのだ。なぜその周期なのかは、この世界にある魔力量が関係したりする。

 

異世界から来れるのだ、侵略ばかりされずにこちらからも侵略しようと考えたのが、邪神たちだ。そして、その為には兵力が必要だ。兵力を最も簡単に増やす方法が、ゴーレムだ。魔物を使ってもいいが、知性がないので殆ど頼りにならないので、ゴーレムだ。

 

ゴーレムを大量に量産するには、魔力が必要、それも並の魔力で作ったゴーレムの強さならば、簡単に倒されてしまう。

 

そこで、目をつけたのがかつて封印したエイルだった。かつて彼女らは、邪竜イーストの命に従い、死力を尽くしてエイルを封印した。そんなエイルの協力を得られれば、確実に彼女の戦力は大幅にアップするだろう。そして、何より重要なことだが、彼女らはもう2度と邪竜の下につきたくないのだ。今はエイル封印の後遺症のようなもので寝ているが、起きたらどうなるか分からない。かと言ってエイルが一緒に倒してくれるとも限らないので、エイルを利用し、自分たちで倒そうと決めたのだ。

 

邪神が邪竜を倒す為に、龍神の力を借りる。滑稽な話だ。邪竜は人間が嫌いで、人間の姿をした彼女も嫌った。そして、人間を滅ぼそうとしてもエイルに邪魔されるので、その鬱憤を全て4人の邪神たちにぶつけていた。ようは喧嘩に負けた子供が、親に八つ当たりするアレに似ているが、内容がかなり外道なので、そうとも言い難い。

 

そんな扱いをしてきた主に不満がないわけも無く、彼女らは静かに機を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!服従契約を結ばされた!?抵抗(レジスト)すればいいだけの話だろ!...なに!?レジストできないだと?そもそもなんでそんな契約したんだよ!馬鹿かお前は!」

 

「何言ってるんだ、あの子は私たちの中で魔力量は一番だが、それと同時に最大のどじっ子だろうが」

 

「普通ここまでだと思うか!?」

 

「ま、まぁ。見ず知らずの人といきなり服従契約は...ちょっと...かなり...ダメだこいつ」

 

「全く、誘導とかって頭脳使うはずなのにな。たまにドジになるのは辞めてくれ...」

 

好きにしろとだけ言って、水晶の光は消えた。

 

「あいつも心配になってきた…一応連絡しておいた方が良さそうだ」

 

「そうだな」

 

「.........なんだ?今暇なんだから、通話して来んなよ。わかるだろ?」

 

「分かんねーよ!逆だろ普通!」

 

「神様やるのも面倒なの。少しは休ませろ」

 

「あんたここ数ヶ月働いてないだろ」

 

「勇者召喚だって体力使うんだぞ」

 

彼女がやっているのは、神様の真似事だ。勇者を召喚し、彼らに無属性魔法と言う名の恩恵をランダムに貸し、そして、勇者から魔力を4分の1もらう。そして、勇者が死んだら恩恵を回収する。それを繰り返して、彼女は自分の魔力量を増やしていた。勇者はこの世界に来た瞬間に魔力を持ち、それは個人差があるものの誰もが大量に持っている。例外はいるが。

 

「まあ、いいや。後はクリシャ頼みになるか」

 

 

 

 

 

彼女らの計画は、想定外が多少あれど、確実に実行されていった。

 

 

 

 

 




学校の文化祭の劇の内容こんど考えよう

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