魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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今回も銀魂組中心の話になりますが、ちょこっとリリカル組も登場します。


第六話:勘違いと進展

「ハァァァァァッ!? 銀さんを瞬間移動装置でどこかにぶっ飛ばしたァッ!?」

 

 源外の工場で新八のデカイ声が木霊する。まぁ、彼が叫ぶのも無理ないだろう。工場にやって来たらいきなり源外が「悪い。銀の字の奴を瞬間移動措置でどこかに飛ばしちまった」などと、まるで子供が失敗して謝る様なノリでワケわからんこと言われたら誰だって疑問しかでてこない。

 

「なにがどうなってそうなったんですかッ!? まず何があったのか説明してくださいッ!!」

 

 新八は源外に詰め寄ると、グラさんが腕を組んで問う。

 

「とりあえず60文字以内で説明しろ」

「おめーはとりあえずそのコスプレ止めろ!」

 

 新八は前回からまだ銀時のコスプレしていたグラさんに怒鳴る。するとあっけらかんとした態度で源外が説明する。

 

「俺の新発明の瞬間移動装置の実験体になってもらったんだが、発明品の思わぬ暴走で銀の字が帰れなくなった」

「ええええええええええええええええええええええええええええッ!?」

 

 新八は予想以上にヤバイ状況だったことに思わず驚いてしまう。

 

「何を驚いているアルか新八。ちゃんと60文字以内で説明したアルよ」

 

 いつの間にかいつものチャイナ服に戻った神楽は、何がおかしいのか分からないといった顔をするが、新八は焦る。

 

「むしろこんなとんでもない話を60文字以内で説明したことがビックリだわ! いや、そうじゃなくて!! 銀さん僕らの知らない間にとんでもないことになってるんだよ!!」

 

 焦る新八とは対照的に、神楽は腕を組みながらやれやれと首を振る。

 

「なに言ってるアルか、銀ちゃんは歴代ジャンプキャラと真っ向から勝負したほどの男ネ。これくらいの危機、鼻ほじりながら乗り越えるアル」

「それゲームの話でしょうがッ!!」

 

 とツッコミ入れ、新八は源外へと顔を向ける。

 

「と、とにかく!! 源外さん!! なんで銀さんがそんなワケのわからない状態になっちゃったんですか!?」

「さっき言ったとおりだ。銀の字に俺の作った瞬間移動装置のモルモット……じゃなくて、実験の手伝いをしてもらったんだが、装置の暴走でまったく指定してない場所に飛ばしちまったんだわ」

「いや、今明らかにモルモットっておっかない発言が聞こえたんですけどッ!? って言うか瞬間移動装置ィ!? あんたそんな凄いモン作ったんですかッ!?」

 

 新八の疑問に源外は「おうよ!」と得意げに胸を張る。

 

「その名の通り物体を別の場所へと瞬間移動させる俺の大発明よ!! こいつは俺の発明品の中でも歴史に名を残すであろうシロモノになるだろうな!!」

 

 源外ははにかみながら、近くにあった大きな機械をポンポンと叩く。たぶんアレが瞬間移動装置だろう。彼の態度から、今回の発明品の出来が良かったであろうことが伺える。

 だが、上機嫌だった源外は徐々に表情を落とし、申し訳なさそうに頭を掻く。

 

「……ただ、生物以外の無機物とかなら移動させても問題なかったんだが、まだ生物の実験がまだでな。とりあえず、実験用のネズミを見つけんのめんどかったし、ちょうどそこら辺をぶらぶらしてた銀の字に実験体になってもらったんだわ」

「ちょっとはほのめかしてくださいよ! 銀さんの扱いネズミ以下ですか!?」

 

 新八がそれはあんまりだとばかりにツッコミ入れると、源外は言い訳を始める。

 

「いや~、俺の予想ではなんの問題もなくお前らんとこの万事屋に移動できる計算だったのになァ。まさか銀の字が持ってたこんなモンに装置が反応するとは思わんかったわい」

 

 そう言って源外が懐からある物を取り出す。それは銀時を飛ばした時に唯一残った品――リリカルなのはのDVDケース。

 DVDを見た新八は目を見開き、

 

「ちょッ、それェェ!!」

 

 口をあんぐり開け、驚いた表情で腕が上下に振りながらDVDケースを指差す。

 新八の反応を見た神楽は何かを察したのか、彼に対して軽蔑の目線を向ける。

 

「おいおい、またオタクセンサー反応アルか。マジキモイアル」

「オメーはちょっと黙ってろ!!」

 

 怒鳴ってから、新八は慌てて源外からDVDケースを取り上げ、手にとってまじまじと見ると発明家の爺に顔を向ける。

 

「げ、源外さん!? これが原因で装置の事故が引き起こったんですか!?」

「ああ。なんか銀の字の奴が持ってたな。アイツ、こんなアニメの趣味にでも目覚めたのか?」

 

 源外は銀時らしからぬ所持品に対して首を傾げているようだ。

 一方の新八は、まさかの接点に驚かずにはいられない。前にアニメオタクっぽい人が『頼んだリリカルなのはDVDはどうしたでござるか!!』などと万事屋に文句を言いに来た。おおかた、銀時が依頼失敗してそのままばっくれたとばかり思っていたが、まさかこんなことになっていようとは。しかも、自分はこの作品を最近見たばかりである。

 なんだこの奇妙な接点は? と驚かずにはいられない新八。

 

「とりあえず、このDVDは僕が預かっとくして……」

 

 新八は劇場版魔法少女リリカルなのはのDVDケースを懐に仕舞う。その姿を見て神楽が「持ち逃げアルか?」と言ったので、「持ち主に返すの!」と反論。

 新八はコホンとわざとらしく咳をして、源外に質問する。

 

「源外さん。とにかく、銀さんを事故で別の場所に送ったとしても、なんで僕たちに伝えてくれなかったんですか?」

「最初は俺もそうしようと思ったんだが……装置が直らんことにはどうにもならなかったし。それに……」

「それに?」

 

 首を傾げる新八に源外は真顔で告げる。

 

「なんかいろいろ文句言われるのがめんどかった」

「アンタしまいには殴りますよ!」

 

 新八は銀時ほどではないにせよ、この老人を早く何とかしないと、と思った。すると源外は言い訳を述べ始める。

 

「それに、俺が装置直して銀の字呼び戻せば騒ぎを下手に大きくせずに済むと思ったんだが、どうやらそうも言ってられなくなっちまったようだしな」

「まったくですよ……」

 

 どうやら、源外も風の噂で銀時がいないこと、そしてそのことで皆が騒ぎ始めたことを感じ取ったのだろう。これ以上隠すのはあまり得策と考えず、新八たちに教えることにしたというのが関の山だ。

 

「まー、それにもう一つ問題があってよ」

 

 源外の言葉に新八が汗を流す。

 

「えッ? まだ何か問題があるんですか?」

 

 源外は人差し指を立てる。

 

「銀の字をこっちに呼び戻すには、あいつの現在地、つまり座標を知る必要があんだよ」

 

 新八は「えっと……」と言って眉間に皺を寄せる。

 

「僕そういうことには詳しくないんで分からないんですけど……今の銀さんの場所を特定するのってできないんですか? 瞬間移動装置なんですし、送り迎えが自由とかそういうんじゃないんですか?」

 

 質問に対し、源外は難しい顔を作りながら腕を組む。

 

「まー、実質そういう機能を搭載はしているんだが、こっちに呼び戻すにはアイツの現在位置、まー座標みたいなもんを知るための発信機みたいなモンを持たせないといけないんだわ。まー、持ってなくても、銀の字のヤツが送った地点に動かず止まっていれば送った場所の座標は分かるから、そういうモンがなくとも呼び戻せるんだけどよ。アイツがそこまで想定して動かないなんてワケねーし」

「えっと、つまり……どういうことですか?」

 

 新八の問いに源外は真顔で、

 

「あいつに何も渡してないから、やっぱあいつ帰ってこれねーわ」

 

 とんでもねーこと言うクソ爺を、新八は鬼気迫る顔でガバっと胸倉を掴む。

 

「おィィィィィッ!? じゃ、じゃあ銀さんはッ!!」

「落ち着け新八。俺だってそれを思い出してお前らを呼んだんだよ」

 

 源外は新八を落ち着かせるように彼の腕をぽんぽんと叩く。新八はえッ? と言う顔をになり、源外は説明する。

 

「つまりはアイツに発信機を持たせればいいわけだ。だから、お前たちは『コイツ』を持って銀の字の飛ばされたとこまで行き、あいつを見つければいい」

 

 源外は、新八に折りたたみ式の黒いケータイのような物を渡す。新八は渡されたケータイを不思議そうに見る。

 

「えっと……コレは?」

「コイツがさっき言った、装置で飛ばした奴の座標を知るための発信機だ。見た目どおり通話機能も備えているから、連絡さえくれればそっちの都合で送り返すことも可能だ」

「なるほど」

 

 と新八が頷くと、

 

「キャッホォォォォォォィ!! ケータイアル!」

 

 神楽はケータイを見て興奮したのか、新八から素早く奪い取り、ケータイの形をした発信機をキラキラした目で眺める。すると源外が補足説明。

 

「まあ、通話機能しかねーがな」

「ちェッ、つまんねーの」

 

 メール機能がないと分かった途端、神楽は口をへの字に曲げてケータイを新八に投げる。

 

「とりあえず、お前らは途中で無くしかねんから念を入れて三つ渡しとくぞ」

 

 源外はさきほどと同じような黒いケータイを二つ新八に渡す。すると、ケータイを受け取った新八はうんと頷いて決心を固める。

 

「分かりました源外さんッ! 僕たちが必ず銀さんを見つけてきます!」

「さっさと私たちを銀ちゃんのいるところに送るヨロシ!」

 

 神楽も意気込むが、源外はあっけらかんとした態度で小首を傾げる。

 

「ん? まだ装置直ってねェぞ」

 

 二人は出鼻を挫かれてガクッと体制を崩し、すかさず新八がツッコミを入れる。

 

「まだ直ってないんですか!?」

「なに言ってんだ。お前らが勝手に直ってると勘違いしただけだろーが」

 

 源外の言葉に、新八は言うに言い返せなくなる。

 

「いや、そうかもしれませんけど……」

 

 今の流れなら修理がとっくに終わっていて、自分たちは銀時救出のために瞬間移動している場面になるんじゃないか? と思っても仕方なく、いろいろと納得がいかない気持ちの新八。

 すると神楽が一歩前に出る。

 

「しょうがないアルな。私たちも手伝うアル。とっと直すネ」

「そうだね。こうやってウジウジ言ってても仕方ないし」

 

 と新八も頷きつつ、神楽の後に続いて瞬間移動装置に触ろうとした時、源外が大声を出す。

 

「バカヤローッ!! おめーらみてェな素人が勝手に触れんじゃねー!!」

 

 源外の怒声にぎょっとする新八と神楽。

 利き手にスパナを握る源外は、二人を掻き分けるように追い越し装置の前まで歩く。

 

「お前らのような機械(カラクリ)の〝か〟の字も知らねー素人に触らせた暁には直るモンも直らなくな――!」

 

 歩いていた源外は床に置いてあったネジを踏んでしまい、足を滑らせる。そしてそのまま前に倒れ、手に持っていたスパナの先端を装置に向かってぶつけてしまう。

 

「おィィィィィィィッ!? なにあんたが率先して壊してんだァァァァァァッ!!」

 

 新八シャウト。

 倒れた勢いが加わったスパナの先端に叩かれ、装置の装甲はグシャリと凹み、そこからバチバチと電撃が放電。

 顔面を地面にぶつけた源外は慌てて顔を上げ、冷や汗を流し始める。

 

「い、いかん! せっかく直した瞬間移動装置がッ!!」

 

 すぐに装置の調子を確かめる源外。

 

「こりゃァ……修理すんのに最低でも二週間かかるぞ」

「ちょッ!? それじゃあ銀さんどうなるんですか!?」

 

 慌てる新八に源外は右手ですみませんと言うポーズを取る。

 

「悪いけど、もうちょっと待って」

「ええええええええええええええええええええええええええええッ!?」

 

 まさかの延期に新八の声がまた工場に木霊するのだった。

 

 

「結局、ただの無駄足だった……」

 

 うな垂れる新八の横を、頭の後ろで手を組んだ神楽が歩く。

 

「ま、銀ちゃんの居場所が分かっただけでも収穫ネ。おとなしく二週間待つアル」

「その二週間の間に銀さん死んじゃったら元も子もないんだけどね」

 

 新八は下を向いて想像する。あの男なら拾い食いで死んだりとか、予想外な死に方しそうだから怖い。とにかく気が気ではないから、すぐに銀時の無事を確かめたい新八は、神楽の発言に対してジト目を向けてしまう。

 そんな風に帰路を歩きながら万事屋の前までやって来ると、前の方から見知った顔がやって来る。

 

「ん? あれって……」

 

 真選組の黒い制服を着用し、帯刀した刀を腰に差した地味な男が、新八たちに向かって「あ、いたいた」と声を出しながら小走りでやって来る。どうやら新八が気付いた時には、既にあちらは彼らに気付いていたようだ。

 真選組でも結構接点が多い彼に、新八が一番に声をかける。

 

「山崎さん、どうしたんですか?」

「またタマのストーカーアルか?」

 

 神楽の発言に近くまで来た山崎は両手を振って否定する。

 

「ち、違うって!! 今日はタマさんに用があったワケじゃ……」

「まァ、お見合いでお前は玉砕したらしいから、今告っても無駄だろうけどナ」

 

 神楽の容赦のない発言で山崎はグハッと胸を押さえる。さすが毒舌ヒロイン。相手の傷を掘ることに一切の容赦がない。

 

「か、神楽ちゃん!! いくらなんでも言い過ぎだよ!!」

 

 山崎を不憫に思い新八は神楽を叱責する。

 ただ神楽の言うとおり、山崎はタマと一回だけお見合いしたことがあるのだが、酷い形で終わり迎えた。そのためにタマと上手くいかないと薄々感じているのか、山崎も最近はあまりタマと関わろうとしないでいたらしい。とは言え、さすがに蒸し返されるとなると彼にもクルとこはあるようだ。

 

「と、とにかく、今日は何の用で来たんですか?」

 

 新八は少しでもタマのことから考えを切り離そうとフォローする。真選組と万事屋の仲は基本不仲なのだが、新八と山崎は同じ地味キャラ的な立ち居地からかそれなり良好な関係だ。

 山崎も沈んだ気持ちを湧き上がらせようと涙を拭きながら説明する。

 

「……うん。えっと……実はね……」

 

 

 

 

「銀さんが姉上と逢引してるぅぅぅぅぅ!?」

 

 新八は口をあんぐり開け、

 

「しかも姉御がそのことを隠しているですとォッ!?」

 

 神楽も超ビックリ顔。

 まさかの情報に雷を受けたように二人は衝撃を受け、驚愕の表情になる。

 

 山崎からの話を要約すると、今朝の新聞で言われていた妙のストーカーは近藤ではなく銀時。しかも妙はそれを容認し、あまつさへ恋仲になった彼を庇い、誰からも秘密にした上で性的な関係にまでなっている、というとんでもない話だった。

 改めて聞くと、事実としても現実的に考えてもあまりにもありえない話である。あの姉とダメ主人公の性格を考えれば、とてもじゃないが信じられない内容だ。それは弟である新八が一番よく分かっている。

 

 少しの硬直の後、我に返った新八が山崎に詰め寄る。

 

「そ、そんな情報どこで仕入れたんですかァーッ!? いや、近藤さんと九兵衛さんは一体どんなこと聞いたらそんなアホな思考に辿り付くんですかッ!? いくらなんでもありえないですってッ!!」

「俺も副長もさすがに信じられないから、こうやって新八くんや旦那に直接訊きに来たんだよ。まー、俺はどーでもいいんだけど……さすがに近藤さんたちの気迫が半端じゃないし、下手したらマジで旦那殺しかねないから、嘘かホント確かめてこいって副長に言われて……」

 

 さすがに新八はありえないとばかりに右手を横に振る。

 

「イ、イヤイヤイヤ!! さすがに銀さんも姉上もそんな仲じゃ決してありませんよ!! 銀さんが姉上にストーカーして、あの姉上がストーカーしている相手(ダメ人間)と恋仲ァ!? 常識的に考えたら普通はありえない結論ですよ!!」

「ま~……そーだよね」

 

 山崎も頬を掻きながらやんわり肯定する。さすがに訊くまでもなくこう言う答えが帰ってくることは彼自身、予想していたのだろう。だが、さきほど聞いた話の中で引っかかる点を神楽が指摘する。

 

「でも、銀ちゃんが姉上と合体してたって、近所のガキどもが言ってたって話アルよ」

「そんなの、ただの悪戯か何かでしょ」

 

 新八はばっさり切り捨てるが、山崎はまだ納得がいってないようで、

 

「でも、それにしては人物像が具体的過ぎない? 九兵衛くんが言ってた子供の証言に合致する人物なんて、旦那以外にありえないと思うけど」

 

 顎を指で掴んで首を傾げる。

 これはもしかするともしかするかもしれない、と新八まで妙と銀時の関係についてささやかに疑い始めていた。すると、神楽が人差し指を立てながらある推理を始める。

 

「もしかしたら、瞬間移動装置で銀ちゃんが飛ばされた場所は姉御の部屋で、そのままなんやかんやで姉御と1万年と2千年の愛を誓ったのかもしれないネ」

「いやなにその無駄に長い愛!?」

 

 すかさず新八はツッコミ入れつつ否定する。

 

「って、そもそもそれが仮に本当だとしても姉上が『なにしとんじゃコラァァァッ!!』って殴って終わりでしょうが!」

 

 二人の会話を聞いていた山崎は「えッ!? 瞬間移動装置!?」と驚いた顔をし、彼の反応に気付かない神楽は違うと首を横に振る。

 

「きっと瞬間移動した銀ちゃんは姉御がボコボコにできないほどボロボロで、そんな銀ちゃんを姉御が介護している内に銀ちゃんとの仲が一気に深まりそのまま二人は――」

 

 神楽の憶測を聞いて、新八つい想像してしまった。

 

 

『銀さん、私……』

『何も言うな。俺をここまで面倒見てくれたお前に俺は惚れてんだよ』

『あぁ……銀さん……』

 

 指と指を絡める二人はそのまま倒れながら布団の上で……。

 

 

「あァァァァァァァァァァッ!!」

 

 新八は悲鳴にも似た絶叫を天に向かって放つ。そのまま頭を両手で抱え、髪をガシガシ掻き毟る。

 

「銀さんと姉上がそんな官能小説だかエロマンガだか分かんない安っぽい濡れ場展開になるなんて嫌じゃァァァァッ!!」

 

 いくらシスコン気味の彼とて、姉の恋愛事情に口出すほどのお節介ではないが、よりにもよってあのダメ人間が我が姉と高校の保険体育のようなことし始めたら本気で複雑な気持ちになる。っと言うかぶっちゃけ心底嫌だと言うのが心境だ。

 想像とは言え、姉と人生の先輩(ダメな意味で)的な人のアレなシーンを思い浮かべて涙を流す新八。そして涙を流したまま拳を強く握り締める。

 

「認めん!! 認めんぞォォォッ!! 僕はあんなマダオが義兄だなんて絶対認めんぞォォォッ!!」

「っで、どうするアルかシスコン眼鏡」

 

 ジト目で質問する神楽に対し、目を血走らせた新八は答える。

 

「そんなもんあの天パ……いなかったら姉上に直接聞いて真実を確かめるッ!!」

 

 うォォォォォッ!! と新八は雄叫びを上げながら実家に急行。

 暴走状態となった眼鏡の背中を見ていた山崎に、神楽が顔を向ける。

 

「おいジミー。一緒に来れば、とりあえず姉御に訊いて真実を確かめることはできるアルよ」

「あッ……う、うん」

 

 山崎はぎこちなく返事をする。そして神楽は新八の後をやれやれといった感じに追う。

 暴走機関車のごとく走る新八の後を追う山崎は「瞬間移動装置……まさかね……」と頬を引きつらせていたが、それに万事屋の従業員二人は気付かなかった。

 

 

 

「それで、誰が誰とどこぞのエロマンガみたいな展開になったって?」

 

 家につき、神楽の勝手な憶測を元に早速妙に質問した新八は案の定、

 

「ふァ、ふァい……」

 

 姉に頬を鷲掴みにされていた。顔は笑っているのに、心では笑ってないであろう姉に口をタコのようにされた新八は、顔を真っ青にしながら何も喋れない。

 これ以上質問できない新八に変わり、神楽が質問しようとする。ちなみに彼女の後ろには影薄く山崎が成り行きを静観している。

 

「じゃー、姉御は銀ちゃんと何もないアルか?」

「神楽ちゃん。私があんな万年金欠のプー太郎と一時の過ちを犯すと思う?」

「ま~、そうアルな」

「って、神楽ちゃんが最初に言い出したんでしょ!?」

 

 新八は妙の手を振りほどいてツッコミ入れる。だが姉の説明を聞いても弟の疑問は解消されていない。

 

「じゃ、じゃあ! 今朝の新聞で言ってたストーカーってなんなんですか!? 山崎さんの話だと近藤さんでも九兵衛さんでもないし、ましてや銀さんでもない。一体他に誰が姉上を付け狙ってたって言うんですか!?」

 

 これが最大の謎だ。銀時と妙の密会がなかったとして、妙が誰かに付け狙われていたという疑問がまだ解消されていない。

 近藤、もしくは別のストーカーであったとしても、このたくましい姉なら返り討ちにするくらいの余裕があるであろうから、あまり気にしてなかった。だが、よくよく考えてみれば最近妙が元気ないことは新八もどことなく気付いてはいたのだ。しかし、妙自身が相談もしなければこちらがさり気なく訊いても「なんでもない」としか答えない。だから今の今まで訊かなかったが、ずっと姉の変化が気がかりだったのである。

 そして、今朝の新聞の記事と神楽の変な憶測で、今まで抱えていた新八の不安が一気に爆発したと言ってもいい。

 

「あー、それね」

 

 妙はなんだそんなことか、という風に部屋の押入れまで歩き、襖を開ける。

 すると「にゃ~」と言う声とともに押入れの奥から四速歩行の生き物が顔を出し、ゆっくりと体を出して姿を現す。

 

「あ、猫アル」

 

 神楽が指をさした後、妙がそっと猫を持ち上げる。頭から首までは白、その下は全部黒毛のちょっと珍しい模様の猫だった。

 その姿に新八は困惑気味に質問する。

 

「……え、えっと……その猫は、どういう意味ですか?」

 

 いまいち妙の言いたいことを理解できない。だが、山崎はなんとなく察したのか頬を引きつらせながら猫を指差す。

 

「えっと……つまり、姉さんを付け狙ってた話題のストーカーの正体は、その猫ってことですか?」

「ええ、そうよ」

 

 即答する妙に対し、

 

「…………えッ?」

 

 新八は姉の言葉を理解することに、少し時間がかかってしまう。

 つまり、今朝の新聞で言っていた謎の視線を送るストーカーも、妙と恋仲になっていたと思われた謎の人物の正体も、全ては妙の抱える猫ってことになる。

 

「……え? …………えええええッ!? その猫がストーカァー!?」

 

 呆然としていた新八はまさかの真実に思わず驚愕の声を上げる。

 

「まあ、厳密にはストーカーじゃなくて、ただ家に忍び込んだ猫なんだけどね。たぶん、私に見つからないように隠れて私を注視していたこの子の視線を、私が人の視線と勘違いしてまったみたいなの」

 

 妙は困ったような笑顔を作りながら説明し、新八は追及する。

 

「じゃ、じゃあ九兵衛さんの言ってた女の子の証言は!?」

 

 妙はあっけらかんとした声で答える。

 

「たぶん、その辺の近所にいるただの嘘つき少年ならぬ嘘つき少女ね。子供の言うことなんて半分本当、半分嘘みたいなものでしょ?」

 

 いや、年端もいかない子供でもそこまで嘘つきではないだろう、と心の中でツッコム新八。

 次々と自分の疑問を笑顔で説明していく姉。蓋を開けてみればなんとも下らない真実であろうか。猫だけに引っ掻き回されたと言うべきか。

 ドッと全身の力が抜けたように肩を落とす新八は力ない声で最後に残った疑問を訊く。

 

「なら、どうしてもっと前に僕に猫のこと言ってくれなかったんですか? 早く言ってくくれば、ここまで変な噂が立つことにならなかったのに……」

「ごめんなさい」

 

 と謝る妙。だが顔はまったく反省の色なし。そしてそのまま説明する

 

「ただ、記者の人に言ったストーカーは近藤さんよ。だって昨日も屋根裏に隠れていて、槍を投げて追い返したのよ」

「結局ストーカーは近藤(ゴリラ)かよ!!」

 

 新八は青筋浮かべる。

 妙は猫に「困ったゴリラさんですねェ。今度確実に仕留めないといけませんねェ」と赤ん坊に話しかけるような声で語りかける。実の姉が動物に優しく話しかけるのは微笑ましいのだが、一部の発言が物騒であまり微笑ましくない。

 

「これで少しは自重してくれると思ったのに、もっと強力な武器が必要かしら」

 

 などと妙は笑顔で言う。

 

 今回みたいな勘違いが起きたのも、妙が記者にストーカーがいるとしか話さなかったからだろう。だから記事にもストーカーとして近藤の名前は載らなかった。

 名前を出さなかったのは妙の牽制か、それとも気まぐれな慈悲なのか。なんにせよ、真選組の長が全国に不名誉な形で名前が広がり社会的に抹殺されることもなかったわけである。これで良かったのか悪かったのかは、わからないが。

 ぶっちゃけ、今回みたく報道関係に頼らなくても彼女なら並のストーカーなど寄せ付けもしないだろう。まぁ、近藤がそんじょそこらのストーカーより更に悪質なストーカーだから、報道関係を巻き込んでもほとんど効果がなかったワケだが。

 

 真実を聞いた神楽はため息を吐く。

 

「結局、ゴリラで始まりゴリラで終わったワケアルな」

「ホント、無駄な時間過ごしただけで笑いもおこらないよ……」

 

 新八も、近藤の無駄な深読みと図々しさのせいで変に体力を使ってしまった。

 これで一つ問題は解決したが、まだ重要な問題が解決していない。

 すると、今まで静観していた山崎が落ち込む新八たちにフォローを入れる。

 

「ま、まあ、結局いつもどおり局長が原因だったワケだし、良いんじゃないかな? 特に変な結末を迎えなかっただけ」

 

 むしろその〝いつもどおり〟が問題なワケだが、今はそういったツッコミはいいだろう。

 それよりも、と山崎が新八と神楽に質問する。

 

「新八くんたちが言ってた『瞬間移動装置』って、なに?」

「えッ?」

 

 呆けた声を漏らす新八は口ごもってしまう。

 瞬間移動装置は源外が作った物なのだが、バカ正直に「平賀源外が作った発明品」と言うワケにはいかない。なにせ、彼は過去に起こした事件のせいで犯罪者として幕府に追われている身なのだ。銀時とともに彼を匿っている身として、ここは源外が関わっていることを悟られないように説明するしかない。

 

 

 

「……へ~、新八くんたちの知り合いにそんな凄い発明家がいるんだ」

 

 説明を受けた山崎は純粋に関心を示しているようだ。

 

「え、えェ……まァ……」

 

 新八は頭を掻きながらバレないかとヒヤヒヤする。どうやら、山崎はほとんど気付いていないどころか、純粋に新八の話した『知り合いの発明家』に感心している様子。

 山崎は頭を掻きながら、

 

「俺てっきり、幕府(うち)で開発した『瞬間移動装置』のことだと思ったよ」

「アハハ。いや、違いますよ。どうして山崎さんのところの瞬間移動装置と僕たちに接点があるんですか?」

 

 と新八が笑顔で返すと、山崎も笑顔で頭を掻く。

 

「そうだよねェ。アハハハハハ!」

「っで、山崎さん。瞬間移動装置ってどういうことですか?」

 

 笑っていた山崎は新八の質問に顔をはっとさせる。自分の失言にやっと気付いたようで、思わず口元を押さえる。

 

「おい、ジミー。なんのことだか洗いざらい吐いてもらおうか。ええ?」

 

 神楽はまるでヤーさんのように真選組密偵に詰め寄る。

 無論山崎は回答を拒否する。

 

「ご、極秘事項だから!」

「分かったアル。お前の指一本ずつ曲がらない方向に曲げるから、言いたくなったら言うアル」

 

 神楽は山崎の指を握り、力を入れ始める。

 

「分かった分かったッ!! 言うからホント止めてッ!! 洒落にならないから!!」

 

 山崎は涙目でおとなしく白状する。

 

 山崎の説明をまとめると、警察庁長官である松平は近藤たちに『瞬間移動装置』の実験体になるように命令したらしい。それは幕府直属の研究機関が開発した物であり、それの運用実験がこれから行うれるとのこと。実用に成功すれば犯罪者逮捕に大きく貢献できるからだそうだ。

 

 山崎はげんなりした様子で答える。

 

「……まー、動物実験も済ましたし後は人間が転送できるか試すだけなんだけど……とっつぁんがその実験体になれと副長たちに無茶な要求してきてさ……」

 

 山崎は言い終わった後、「また副長にどやされる……」と呟く。

 元々このことは極秘事項になっていたらしいが、仲の良い知人ということで山崎はつい口を滑らせてしまった。ストーカー事件の追及に山崎一人借り出された理由も、近藤たちがまとめて実験に巻き込まれたためでもあるようだ。

 新八としても山崎には同情するし、このことは他の人間には言わないようにしようと思っているが、それよりも山崎に頼みたいことがある。

 

「山崎さん! 僕たちをその瞬間移動装置の元まで連れて行ってくれませんか!」

「えええッ!? なんで!?」

 

 驚く山崎に新八は説明する。

 

「銀さんが瞬間移動装置の事故でどことも知れない場所に飛ばされてしまって、僕たちがそこに行く方法は瞬間移動装置しかないんです! だけど、こちら側の装置は故障してしまって、直るまで時間がかかるから、山崎さんたちの装置が頼みの綱なんです!」

 

 山崎は両手を振って拒否する。

 

「い、いや、無理だからッ! そっちの事情も分からないでもないけど、さすがに君たち連れて行って、あまつさへ勝手に装置使わせた暁には副長に何されるか――!!」

「足の指と手の指。どっちから曲げて欲しいアルか?」

 

 神楽の脅しに、指ではなく心が折れた山崎は、涙を流しながら案内することに。

 そうと決まれば新八はすぐに次の行動に移る。

 

「神楽ちゃんは〝あの人〟のとこに行って、もう一つの瞬間移動装置があることを伝えて! 僕は山崎さんと一緒に土方さんたちのとこまで行ってなんとか装置を使わせてもらえるように交渉するから!」

「了解アル!」

 

 神楽は敬礼してすぐに『あの人』、つまり源外のとこに走って行く。

 そんな新八たちの様子を不思議そうに見ていた妙は声をかける。

 

「あの、新ちゃん――」

「すみません姉上! 事情は後で説明するから!」

 

 新八は妙の言葉を聞く前に山崎とともに土方たちのいる研究所まで向かう。

 もうその場には、猫を抱いた妙だけが残されていた。そして彼女の抱いている猫が「にゃ~ん」と鳴く。

 

 ――待っていてください! 銀さん!

 

 新八は内心拳を強く握るように意気込むのだった。

 

 

 場所は変わり時の庭園の一室。

 

「あんたさー、少しは動いたらどうだい?」

 

 文句を言うのは使い魔のアルフ。

 時の庭園の一室では銀時がソファーの上に頬杖を付いて寝そべっていた。悩みや不安などまったくなさそうな銀髪はダルそうに答える。

 

「俺は節約してんだよ」

「なにをさ?」

 

 怪訝そうに片眉を上げるアルフに銀時は告げる。

 

「俺のエネルギー」

「リニスが居たらそのひん曲がった性格を一回矯正してもらいたいよ」

 

 アルフの眉がピクピク動く。周りに自分を合わせない銀時のオンリーマイウェイな態度に、内心怒っているのは丸わかりだった。すると、一変して呆れたような顔で腰に手を当てる。

 

「つうかさぁ、あんたよくそんな悠長な態度でいられるね。残した連中が心配じゃないのかい?」

 

 すると銀時はマイペースに鼻の穴を穿る。

 

「まー、帰れる目処はついたからな。ぶっちゃけ、ここの生活の方が前より良いし、当分ここにいようかな~って思ってる」

「まったく……図太いねー、あんた」

 

 アルフは呆れ混じりにため息を吐く。

 もしこんな銀時のセリフを新八たちが聞いていれば、少なくとも拳はまぬがれないだろう。


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