魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

6 / 79
一週間以上の間が空いてしまいました。
とりあえず、今回リリカルなのはのメンバーではなく、銀魂メンバーが中心の話となります。


第五話:妄想は変な方向に進むことがある

「しっかし、あいつが姿消してから一週間経つけど、一体どこで油売ってんだか」

 

 顔に皺を作った老婆は、ため息を吐くようにタバコの煙をふぅーと吹く。

 万事屋の一階で、スナックお登勢という店を営むこの老婆はお登勢(とせ)。銀時、神楽、新八の三人が働く万事屋の事務所は彼女の店の二階を提供しているので、お登勢は三人の大家みたいな存在でもある。

 

「まったくアル」

 

 神楽は足を組んで店のソファーにふんぞり返る。

 

「どこぞで女でも作ってその女の両親と揉めて帰るに帰れない状況でも作ってるに違いないネ」

 

 鼻を穿りながら毒舌を吐く少女。彼女と同じソファーに座る新八がたしなめながら言う。

 

「女の人とかはともかく、ホントに銀さんどこにいるんでしょう……。もう五日も経つのに、連絡の一つもないなんて」

 

 お登勢がため息をつく。

 

「あの甲斐性ナシが、ふらっと姿消して一日か二日帰らなくなることなんてよくある事だけど、さすがになんの連絡もなく一週間も姿を消すってのは変だねェ」

 

 お登勢の言う通り、銀時が飲んだくれての朝帰りや、二日くらい家を開けてひょっこり帰ってくる事はよくあった。だが、一週間となるとさすがに神楽も新八も心配という気持ちが生まれる。しかも連絡一つないとなると、その不安は余計に募ってしまう。

 銀時が、神楽や新八の知らないところで事件に巻き込まれていた、なんてことになってもおかしくない。さすがに心配になった二人は銀時を探したのだが、一向に手がかりはなし。ただ気になったことと言えば、手がかりを聞きに行った時の源外の様子が少々おかしかったくらいだ。

 銀時の消息が一向に掴めない苛立ちからか、神楽はまたしても愚痴をこぼす。

 

「たく、天パは家に帰ってこない。メガネはアニメオタクになる。万事屋崩壊の危機アル。私がしっかりせねば!」

 

 神楽の言葉を聞いた新八は分かりやすいくらい狼狽えだす。

 

「テ、テメー! だ、だだだだだからあれは違うって言ってんだろ! あれは軍曹の心をグラつかせたアニメの調査であって、別に嵌ったワケなんかじゃねェーし!」

 

 前に新八は軍曹から奪った……もとい没収した『リリカルなのはのDVD』シリーズ一式。早く内容を確認したかったが、家のテレビが故障中(妙がストーカーを撃退するためにテレビで殴ったため)。我慢もできず、仕方なく万事屋のテレビを使う事に。

 だが、その行為は今思い返しても浅はかだったとしか言いようがない。出かけていた神楽が想像以上に早く帰ってきてしまう。そんで、アニメを見ていたところをガッツリ見られてしまうのだから。

 挙げ句の果てが、軍曹から奪ったDVDの内容はタイトルからも察せられる通り、女の子ばっか出てくる。その上、変身シーンが裸や下着姿のシーンを盛り込んだ、パッと見は純然たる萌アニメの部類に入るようなモノ。

 なので見ていた新八は無茶苦茶きまずい思いをした上、神楽に「お前、キモ!」と露骨に軽蔑、というか嫌悪されてしまい、今日までに至る。

 

 あの日から侮辱されっぱなしで癪な新八は神楽に反論しだす。

 

「つうかテメーだって思いっきり見てたじゃねーか! 戦闘シーン見た時なんか、『スゲェェェェェ!!』とか言って夢中だったろうが!!」

 

 すると神楽が青筋浮かべる。

 

「あァン? 変身シーンやら風呂のシーンで鼻の下伸ばしてたのはどこのどいつアルか!」

 

 新八は狼狽えながらも反論を返す。

 

「け、健全な男なら女の裸見て興奮しちゃうもんなの! つうか問題なのはああいうシーンを盛り込んだアニメスタッフの方だコラッ! ああ言うシーン見ちゃったのは不可抗力であって僕に罪はない!」

「とかなんとか言ってー、東方とかいうゲームにも嵌っちゃってんの私知ってるんだからナ。しかも、『原作の絵より絵師さんの書いた絵の方が好き』とか完全にオメェは萌え狙いのオタクじゃねーか!!」

「ばっ!」

 

 新八は図星つかれて焦り冷や汗をダラダラ流す。

 

「な、なんのことだコラーッ! 僕はそんなこと知らないぞ!」

「オメェが部屋でコソコソパソコンの前で女の絵を見てニヤニヤしてたの知ってんだよこっちは!」

「ちがァーう!! あれは軍曹が他にも東方とかくだらねーもんに嵌ってたから、それが一体どんなものであるか調査するためであって、決して私的な目的じゃねーんだよ!! つうか人の部屋を勝手に覗くなァァァっ!!」

「なんにせよ、女の私と違ってその歳でプリキュアみたいに女ばっか出てるアニメ見てるお前が気持ち悪いことは変わらないんだヨ!!」

「てめェェェェェ!! 全国の大きなお友達に謝れコラーッ!!」

 

 銀時にまったく関係ないことで、口論しながらメンチ切り合う万事屋の二人。目から火花が出そうなほど睨み合っている。

 そんな二人の喧嘩を見ていたお登勢はため息をつく。

 

「まったく、なにやってんだか……」

「ソウデスネオ登勢サン」

 

 お登勢の横から聞き取りづらい、まるで酷い外国人訛りの入ったような声が聞こえた。

 声に反応したお登勢は顔を横に向け、声の主は喋り続ける。

 

「モウコンナヤツラニ万事屋ヲ任セテハオケマセン。萌エ! セクシー! カッコイイ! 全テ備エタコノ――」

 

 遅れて新八と神楽も喧嘩を止めて反応し、声のした方に顔を向ける。

 

「――『アルティメットシイングキャサリ』ガ勤メマス!!」

 

 タマキュア姿で舌を出しながらポーズを取るのは、スナックお登勢の従業員の一人であり天人(あまんと)――キャサリン。彼女は天人(あまんと)としての特徴で、頭に猫耳が生えている。

 その猫耳女は、原作銀魂のテコ入れ回で披露した『タマキュア』の格好をしていた。ようはニチアサ女児アニメの初代ヒロイン――その白い方のコスプレをしているのだ。

 

「万事屋ノ新リーダーハコノワタシデ決マリデスネ」

 

 キャサリンはドヤ顔で言い放ち、その物言いに黙ってられない新八と神楽が怒鳴る。

 

「テメーはなに気持ち悪いコスプレ姿でジョジョ立ちしながら決めポーズ取ってんだ!!」

「オメェにくれてやるリーダーはないアル!!」

「つうかあんたのどこに萌えとセクシーとカッコイイがあんだよ!! 萌えバカにすんな!!」

 

 指を突き付ける新八の言葉に、キャサリンは得意顔で返す。

 

「ナニヲ言ッテイルンデスカ? 猫耳ハ萌エノ代表格ジャアリマセンカ。ソレヲ備エテイルワタシヲ萌エノト言ワズナント言エト?」

「あんたは顔面で全て台無しなんだよ!!」

 

 新八の言うとおりキャサリンには猫耳こそ頭に付いていれど、顔は堀が深いおばさん顔なのでどうやっても萌えとは結び付かない。一言その容姿を表すなら、団地妻に猫耳くっ付けたような存在なのだ。まさに燃えない萌えを地で行っている。

 だがキャサリンは指を横に振って、余裕の表情で反論。

 

「ノンノン!! キュアハートトナッタ今ノワタシ二隙ハアリマセン。ワタシヲ主人公二スレバハ子供ダケニ止マラズ、大キナオ友達モハートキャッチ出来ルコト間違イアリマセン」

 

 神楽が食ってかかる。

 

「オメーみてェなセリフ読み難いキモイヤツ主人公にしたら全年齢から銀魂見捨てられるんだヨ! せめて仮面ライダーアマゾンくらいの分かり易さを手に入れてから出直してこい!」

「バカカオメェハ! アマゾンハ平成ニナッテカタコトキャラ二シフトチェンジシタダロウガ! ツウカムシロアノ喋ラナイキャラノドコガ分カリ易イッテ言ウンダ、アアン?」

「ともかくキモイからその格好はホントかんべんしてください!!」

 

 土下座するくらいの勢いで、新八はキャサリンのコスプレを止めるように懇願する。もしこんな奴を朝のテレビで映した日には、子供にトラウマ植え付けてもおかしくないレベルだ。

 

「安心シテクダサイ。アフゥン」

 

 キャサリンは喋りながらセクシーポーズを取り続ける。一々ポーズを変えるおまけつきで。

 

「ワタシノ魅力デ全年齢ノ男子共ノ股間モ、ハートキャッチシテミ――」

「ハァ~……タマ、なんとかしておくれ」

 

 さすがに話が進展しないことを見かねたお登勢が、スナックのもう一人の従業員に指示を飛ばす。

 

「了解しましたお登勢様」

 

 メイドと和服を合わせた格好をした機械(カラクリ)家政婦であるタマは、返事をする。

 額にほくろのようなボタンがあり、長い緑色の髪を後ろで三つ編みに結んだ、人の形を(かたど)った機械(からくり)であるタマは、命令を実行。お登勢の言葉を体現するかのように、家政婦は特性のモップの先端から火をキャサリンに向かって、噴射。

 

「ニ"ャァァァァァッ!?」

 

 もろに炎を受けたキャサリン悲鳴を上げ、白いドレスのような服は丸焦げ、髪はアフロになってしまう。

 焼かれ、受けた炎をそのまま怒りの炎に変えたキャサリンはタマに食ってかかる。

 

「ナニスンダコノポンコツッ! 折角ノワタシノキメポーズガ台無シダロウガ! ヒーローヒロインノキメポーズヲ邪魔スルナト言ウ鉄則ヲ知ラナイノカ!? ブッ――!!」

 

 息の続く限り文句言いそうな勢いのキャサリの口をタマはモップで塞ぐ。そのままモップでぐりぐりとキャサリの顔を拭いてこする。それこそ、頑固汚れを落とすような勢いで。

 その様子に新八と神楽は呆れの混じった目線を向けるだけ。

 

 スタッフの暴走に呆れたであろうお登勢はため息を吐く。

 

「まったく……キャサリの奴なんで、〝あたしを抜き〟にしてタマキュアしちまうんだ。タマキュアはあたしとキャサリンのツートップだってのに」

「いや、そっちィ!?」

 

 新八はお登勢の見当違いの反応にツッコム。キャサリの行動ではなく、キャサリンがタマキュアに誘わなかったことに対してため息を漏らしたらしい。

 そしてお登勢はやれやれと首を横に振る。

 

「まったく、一人で人気が取れるほどヒロイン業界は甘くないっていうのに……」

「いや、なんでそんなにノリ気なんですかあんた!? ホントかんべんしてください!」

 

 顔を青ざめさせる新八に神楽も続く。

 

「お前らがツートップの戦うヒロインなんてやった暁には銀魂の株は大暴落間違いなしアル!」

 

 だが一方、萌えない猫耳は感銘受けている。

 

「ソウダッタンデスカオ登勢サン!? ワタシ間違ッテマシタ! ヤハリタマキュアハワタシタチ二人デヤルベキデシタ!」

「そうだよキャサリン。間違いに気付いた今こそ、視聴者に見せてやろうじゃないか。銀魂の新路線を!」

「「いや間違ってんのはオメェらの頭だッ!! つうか話聞けェェェ!!」」

 

 新八と神楽はシャウト。さすがにあの酷い意味で強烈な、白と黒の衝撃は心底見たくないのだ。そもそもあんなものを許した日には、大きなお友達の怒りがマックスハートである。

 だが二人の言葉を無視して、いつの間にかコスプレしたお登勢と、いつまにかまた新しい衣装でコスプレしているキャサリン。

 

「私たち――!」

「二人合ワセテ――!」

 

 二人がともにポーズを取り始める。

 

「「スマイルタマキュア!!」」

 

 新コスチュームになった萌えないダブル年増がポーズした直後、横から炎が二人を襲い、タマキュアを黒こげにした。

 すると、黒焦げになったまま硬直している二人の横にタマが現れ、頭を下げる。

 

「お見苦しいところを見せてしまってすみません」

 

 その後、新八は疲れたようにソファーに座る。

 

「……結局、無駄なことをグダグダやっただけで、進展なしか……」

 

 新八はあまりの不甲斐なさに頭が下がり、落ち込む。今に至るまで銀時の手がかりなしなのだから余計に。

 すると神楽が、

 

「……仕方ないアル。銀ちゃん亡き今、私がグラさんになる他ねーな」

 

 銀時の格好をしながらテーブルに足を乗せてふんぞり返る。

 

「神楽ちゃん、笑えないから……。後、銀さん死んでないから……」

 

 新八は力ないツッコミしかできなかった。

 するとお登勢が思い出したように告げる。

 

「そう言えば……新八、神楽。源外のやつが伝えたいことがあるからちょっと来いって、さっき電話があったよ」

 

 タバコを持ちながら言うお登勢の言葉を聞いて、新八は首を傾げる。

 

「え……? 源外さんが? こんな時になんだろう?」

「おいおいあの老いぼれがかァ?」

 

 とグラさんが文句を垂れる。

 

「まったく、こんな時にめんどくさいやつだなーオイ」

「神楽ちゃん、とりあえず銀さんの真似するのやめて」

 

 新八はまだ銀時の真似を続ける神楽を(たしな)める。そしてお登勢は顎をくいっと使って促す。

 

「とりあえず、行くだけ行ってきな。あのバカについての手がかりも今のところないんだ。それに、もしかしたらあのちゃらんぽらんについてなにか掴めるかもしれないよ」

「お登勢さん……」

 

 新八はなんとも言えない顔で一言。

 

「とりあえずそのコスプレ止めてください」

 

 まだ歳不相応の格好をする老婆であった。

 

 

 

 一方。

 江戸の治安を守る使命を日夜果たす武装警察組織――真選組(しんせんぐみ)。その本部である屯所。

 真選組でも、歌舞伎町で少し名の知れた万事屋の主、銀時がいなくなったという情報は行き渡っていた。

 

「近藤さん、なんでも旦那が蒸発したらしいぜ」

 

 とコタツに入ってだらしなく体を横にして寝転んでいるのは、黒い軍服のような真選組の制服を着こんだ、栗色髪の少年。彼は真選組一番隊隊長――沖田総悟(おきたそうご)

 厳格さを表す制服のまま、沖田はだらしなく棒が刺さったアイスのゴリゴリくんをガリガリ食べる。そして食べカスをボロボロこぼす。

 

「ああ、俺もその話は聞いた」

 

 沖田に対面する形でコタツに入り、新聞を読みつつ返事をするのは、武装警察組織(ぶそうけいさつそしき)真選組局長(しんせんぐみきょくちょう)である近藤勲(こんどういさお)。もちろんこの男も制服姿のまま。

 制服姿なのに雰囲気はアットホームな二人は、会話を続ける。

 

「新八くんが家でお妙さんに万事屋のことを訊いていたのをしっかり俺も天井裏で耳にした」

「近藤さん、平然と人の家に不法侵入した証拠を言わんでくだせェ」

 

 沖田の言葉をにまったく耳を貸さず、近藤は腕を組んでやれやれといった表情。

 

「まったく……万事屋も罪な奴だ。新八くんだけじゃなく、お妙さんまで心配させるとは」

 

 沖田は「おや?」と怪訝そうに肩眉を上げる。

 

「あの眼鏡の姉がですかィ? 旦那が数日いなくなっただけで動揺するタマとは思えませんけどねェ」

 

 新八の姉である妙は、肉体的にも精神的にも色んな意味でたくましいので、銀時が数日姿を見せないだけで凹むような人物とは思えない。だが、近藤は違うと言わんばかりに首を横に振る。

 

「いや、いくら芯がしっかりしているお妙さんであっても、本質は女性。か弱いところがあってもおかしくはない」

 

 うんうんと頷く局長に対し、

 

「へェ~……。俺ァ、あの女はゴリラよりもたくましいと思ってましたんだけどねェ」

 

 沖田は興味なさそうに相槌を打つ。

 近藤は思い出すかのように顔をあさっての方向に向ける。

 

「昨日だって……俺が彼女を見守っている中、悪寒を感じたように体を震わせていた。万事屋の危機を感じ取ったのかもしれん」

「へェ~、姉御が近藤さんにビビるなんて珍しいですね」

 

 直球的な沖田の皮肉を近藤はスルーし、握り拳作って声を荒げる。

 

「お妙さんに心配されるとはなんと羨ましいィ!! あァ……今すぐにでも彼女の悩みの種を解決してあげたい!!」

「たぶん、近藤さんが自殺すればその悩みの種の九割は解決すると思いますぜ」

 

 上司に向かって沖田は結構辛辣な言葉を送る。なにせ近藤の発言から、昨日も天井の隙間からお妙の様子を伺っていたのは容易にわかる。絶賛ストーカー行為を続けている上司に対する部下の態度は、冷ややかなモノ。

 すると近藤は今さっき読んでいた新聞の、ある一覧に注目しだす。

 

「こ、これは!? なになに……『恒道館道場に住む志村家長女、志村妙さんは日頃からストーカー被害にあっているとのこと。取材を行った時の彼女の意気消沈、疲労困憊したかのような佇まいから見ても彼女が悪質なストーカー行為に辟易していると見て間違いないだろう』な、なにィィィィッ!? なんてことだ!! まさかこんな時にお妙さんの悩みの種が増えていたとは! これは由々しき事態だ! この俺自らそのストーカーを成敗してくれる!! お妙さんをストーキングしていいのはこの近藤勲だけだ!!」

 

 沖田は自分の上司の哀れな姿を眺めながら、

 

「土方さん」

 

 とコタツの近くでタバコをくわえながら腕を組んで立つ人物に声をかける。刀を入れた鞘を腰に差し、黒い制服を着込んだ黒髪の男は、

 

「なんだ?」

 

 と短く返事をする。

 少し釣り目気味の鋭い目をした彼こそ、真選組副長であり『鬼の副長』の異名を持つ男――土方十四郎。

 沖田は近藤を指さす。

 

「ああいう悪い事してるって自覚がない人がいるから、犯罪者が一向に減らないんですかねェ? 学校のイジメみたいに」

「…………」

 

 タバコを咥える土方は、近藤が刀を振り回しながら「ストーカーなど俺が刀の錆にしてくれる!」「お妙さん待っていてください! この近藤勲が白馬の王子となって必ずやあなたをお助けします!」などと物騒やら見当違いなセリフを吐きまくる上司の姿を見て、ため息と一緒にタバコの煙を吐く。

 

「……いつもの事だろ。そんなことより……」

 

 土方はチラリと沖田を見る。

 

「なんでコタツまだ出してんだよ?」

 

 クールな土方の疑問。それは、もう夏近いというのにまだコタツ出していること。冬の扇風機くらいの場違いである。

 沖田はジト目で返す。

 

「土方さん、ぶっちゃけて言うなら、コタツよりも近藤さんの奇行の方がツッコムべき点だと思うんですがねェ」

 

 沖田の意見も結構至極まともなのだが、土方は近藤のストーカー行為ではなくコタツの存在にツッコム。

 

「あの眼鏡の姉貴に対する近藤さんのストーカー云々なんて些細な問題だろ。ツッコム気にもならん。俺的は季節外れのコタツの方が気になんだよ」

 

 ちなみに今まで名前が出てきたお妙さんという女性は、志村妙。簡単に説明すると、志村新八の姉である。そしてその姉に警察組織真選組の長たる近藤が、普段ストーキングしているのである。問題(ツッコミどころ)だらけである。

 もう副長としては上司のストーカー行為を些細な問題と言う辺り、半ば慣れているのか、諦めているのか。

 

「まー、そこまで訊くなら答えますが……」

 

 沖田は力の抜けた顔からキリっとした顔となり。

 

「片付けんのメンドーだから」

「タメを作った割りに理由ショボ過ぎんだろ」

 

 と土方は即ツッコミ、すぐクールに指示を飛ばす。

 

「とにかく邪魔くせェから片付けろ」

「え~……ヤダ、めんどくさい」

「駄々こねんな。玩具散らかした子供かお前は」

「今梅雨の時期なんですし、雨降って寒くなる時ありますぜ」

「梅雨は大体湿度高くて蒸し暑くのが相場だろうが。とにかく、そんなもん見てるだけで暑苦しいから片付けろ」

 

 などと親子みたいな会話をしている途中で縁側の襖が開く。

 

 そして開いた襖から現れたのはなんと、先祖代々将軍家の剣術指南役として幕府に仕えてきた武術の名家たる名門柳生家次期当主――柳生九兵衛(やぎゅうきゅうべえ)。彼女は普段から男装をしており、顔も忠誠的で間違えられやすいが、歴とした女性でもあり、お妙の幼馴染でもある。

 

 部屋の中に入ってきた九兵衛は「失礼するぞ」と言った後、ゆっくりと周りを見渡す。

 

 なんの前置きもなく登場した、左目に眼帯を付けた黒髪のポニーテールの少女に、部屋に居た人物たちはなんの言葉も発さずに、事の成り行きを呆然と見つめている。

 様子から誰かを探していたのであろう九兵衛が、近藤の存在に気付き、ゆっくりと彼に近づき、シャキンと刀を鞘から静かに抜刀。刀の切っ先を近藤の眉間に向け、血走った片目がギロリと彼を射抜く。

 

「近藤、ゆ゛る゛さ゛ん゛」

「いや、なにが!?」

 

 と思わずツッコンだのは土方。彼女の前触れのない突然の登場から行動までの一切の理由が、彼にはまるで分からなかった。

 

「おいおい、柳生のお嬢ちゃまがなんだってうちの大将を親の仇みたいに見てんでィ?」

 

 沖田は一切動揺を見せないが、土方は九兵衛の登場に面食らったまま。

 

「つうか、なんで何食わぬ顔で入ってきてんだよ!? ここは柳生家じゃなくて真選組屯所だろうが!!」

 

 お互い知らぬ仲でもないが、互いの家を行き交うほど仲が良いワケでもない。ましてや警察である真選組と名家である柳生家に、交流らしい交流があるわけでもなし。だから彼女が突然こんなところにやってくるなどほとんどない。何かしらの事件やら、主にお妙絡みなどで九兵衛が近藤と行動をともにしたことがあるなど、それくらいだ。

 

「とぼけても無駄だ!」

 

 と九兵衛は土方の言葉を無視して、近藤に怒鳴り声を当てる。

 

「今朝の新聞は貴様のことであろう! 妙ちゃんを付け狙う悪質なストーカーなど貴様以外に誰がいる!」

 

 どうやら九兵衛も今朝の新聞記事の一部を見てここにすっ飛んできたらしい。彼女も幼馴染である妙を大切に思っている、それこそ百合ネタにされるくらい――というよりも実際恋愛感情抱くくらい好いていたので、こと妙のことになるとなりふり構わない時がある。

 

 九兵衛は近藤が妙にストーカー行為を繰り返してたことも知っている。

 だから、ストーカー=近藤、と判断したのであろう。しかもほとんど間違っていないだろうからなお性質が悪い。

 

「待て九兵衛殿」

 

 だが近藤は冷静な顔で、片手を出して待ったをかける。

 

「その新聞の輩は俺ではない。それだけ間違いない」

 

 土方は「あんたが唯一無二の真実なんだけどな」と言いたいが、近藤が斬られるかもしれないので黙っている。

 九兵衛は近藤の言葉でより怒りの表情を作る。

 

「なにをとぼけたことを!! 貴様の普段の行いが真実を物語っているではないか!! 今までの言動はまさしくストーカーそのものだ!!」

 

 事実、九兵衛の言うことに間違いがないのでどう転んでも言い逃れできないだろう。近藤の過去の経歴を調べれば、逆転裁判も逆転できないレベルのストーカーなのだから。だが、近藤は動揺を見せず腕を組み、語る。

 

「確かに俺はストーカーだ! それは百歩譲って認めてもいい! だが――!」

 

 近藤は目をカッと開く。

 

「俺は『善のストーカー』だ!!」

「……なに言ってんのこの人?」

 

 土方は冷めた目で近藤(ストーカー)を見る。

 

「な、なんだその善のストーカーとは? ストーカーに善も悪もないだろ!」

 

 近藤の斜め上からの返しに九兵衛は狼狽する。彼女の言い分がもっともで、土方も「どこも君は間違ってないんだけどね」とさり気なく言う。

 近藤は腕を組んで解説する。

 

「善のストーカーとは、付け狙う相手をそれこそ割れ物のように扱い、まるで守護霊のように守る存在だ!」

「守護霊? 背後霊の間違いじゃなくて?」

 

 土方の言葉を無視して、近藤は「だがしかし!」と新聞の記事に書かれた『ストーカー』という文字を勢いよくビシっと指す。

 

「ここに記載されるストーカーは悪のストーカーと呼ばれる者!! 彼奴(きゃつ)らは相手が嫌がるにもかかわらず、陰湿に、気持ち悪く、執拗に付け狙う! その姿はまさに不気味の一言! 守護霊の神秘的雰囲気には遠く及ばない!!」

「どっちにしろ、霊もストーカーも雰囲気が不気味なのは変わらねーだろ」

 

 と土方がツッコミ、沖田が「そもそも付け狙うって本質が変わってないよなァ」と付け足す。二人が口々にツッコムが近藤も九兵衛も彼らの言葉など耳には入っていなかった。

 近藤は九兵衛の肩を掴んで力説する。

 

「九兵衛殿! お妙さんを守る守護者(ガーディアン)たる俺を信じてはくれいまいか!!」

 

 土方は半眼になる。

 

「ついにストーカーから守護者(ガーディアン)にランクアップしちまったよ……」

「すげーや。アストラルもビックリのランクアップでさァ」

 

 沖田は近藤の図々しい態度に関心(?)している。

 一方の九兵衛は、

 

「だ、だが……お、お前はストーカーで……た、妙ちゃんを付け狙って……」

 

 一体どこに心を揺り動かされたのか、汗を流しながらうろたえている。焦点もうまく定まらず、刀はガタガタと震えていたのだ。

 土方はまさかの光景にビックリ。

 

「いや、なんで後一歩まで丸め込まれそうな感じになってんの!? ぶっちゃけさっきの説明は勢いだけの暴論以外の何者でもないだろうが!!」

 

 そして近藤はトドメとばかりに力強く告げる。

 

「九兵衛殿。全てはこの悪のストーカーってヤツのせいなんだ!」

「なんだって!? それは本当なのか!?」

「なにより――」

 

 近藤は目を瞑って一旦言葉を区切り、

 

「なにより?」

 

 問い返す九兵衛に近藤はカッと目を見開き言い放つ。

 

「――俺はとっくにストーカーとして訴えられていてもおかしくないからだ!!」

「た、たしかに!」

 

 九兵衛にとっては、たぶん今の一言だけは説得力があるようで疑いもせず即納得。

 

「訴えなかったのは、都合の良い奴隷的な立ち位置だからだと思うけどな」

 

 と土方はばっさり現実を口にする。近藤の恋心を利用して妙がゴリラ似上司に無理難題を要求してきた事は記憶に新しい。

 近藤は歯を見せてニカっとサムズアップ。

 

「だから俺を信じてくれ!」

 

 近藤の熱い(?)説得を受けて九兵衛は頭を下げ、うな垂れる。

 

「ぅぅ……ぼ、僕だって分かっているんだ……。妙ちゃんの言っているストーカーが、今回は君でないことは……」

 

 そしてなんとありえないことに、あのクールで涙など柳生編以外で一切見せたことないであろう九兵衛が、涙を流しながらえぐえぐと嗚咽を漏らし始めている。

 

「どうしちゃったの九兵衛くん!?」

 

 まさかの光景に土方は思わずビックリ。

 

「本編でも一度しか見せたことのない涙思いっきり見せちゃったんだけど!? だらしなく鼻水垂らしてんだけど!? つうか近藤さん以外にあのゴリラ女にストーキングするヤツがいるのか!?」

 

 まさかの九兵衛のキャラ崩壊、本当に近藤がストーカーではないかもしれない、という情報に土方は驚きを隠せない。

 

「でも……妙ちゃんが……妙ちゃんが……! うわァァァァァァァァァッ!!」

 

 九兵衛はぶつぶつ妙の名を呟いた後、錯乱でもしたのか頭を抱えて叫ぶ。

 

「ど、どうしたんだ九兵衛殿!?」

 

 近藤もさすがに九兵衛の突然の豹変にうろたえる。

 周りの反応に構わず、九兵衛は床を両腕でがんがん叩きながら感情を爆発させた。

 

「僕だって! 僕だって!! 君のような悪質で、陰湿で、汚くて、汚物で、ゴミクズで、ちびクソ丸のちびクソに劣るような存在のゴリラが今回もストーカーだろうと思ったさ! ……でも……でも!」

「ちょッ、そこまで言うの!?」

 

 とゴリラは涙目につつ困惑。

 

「っていうかホントにお妙さんに何があったの!?」

「黙れチンカスから生まれたゴリラ!! 類人猿である君に僕の気持ちは分からない!!」

「おい、もっと俺たちにも分かるように言え。さっきから近藤さんの悪口しか言ってねェから」

 

 土方が説明を求めた直後、

 

「それは私からご説明しましょう」

 

 床の畳を外して、長髪で糸目の男が出現。彼の名は東城歩(とうじょうあゆむ)。柳生四天王筆頭であり九兵衛の従者でもある。

 無論、突如として登場した東城を土方がスルーするはずがない。

 

「おめーは何さも当たり前のように人ん家の床から出てきてんだよ!? いつから居たてめー!」

「んで? その百合もどきになにがあったんでィ」

 

 土方のツッコミをよそに沖田は東城に説明を促す。東城は「はい」と頷いて説明を始める。

 

「若はお妙殿が今朝の新聞でストーカー被害に遭われたと知って、すぐさま彼女を心配して道場の方まで赴いたのですが……あ、ちなみに*から回想に入るので」

「お前は小説をなんだと思ってんだァーッ!」

 

 と土方がツッコム中、回想は始まる――。

 

 

 時間は朝にまで遡る。

 志村低の庭では……。

 

「妙ちゃんまたゴリラ男にストーカーされたのか!?」

 

 と必死な形相でお妙に問い詰めるのは九兵衛。

 

 近藤がストーカーし、妙が鉄拳制裁の返り討ちにするのはいつもの事だ。普通なら心労がたたるようなことでも、強い彼女はゴリラの悪質なストーキングにも屁でもないといった顔を見せる。

 だが、今の彼女にはいつもの元気がほとんど感じられなかった。普段なら、ニコニコと笑顔を絶やさないはずの妙の表情には影が曇り、逆に無理に笑顔を作ろうと必死になっていることが、簡単に分かってしまうほどに。

 

 お妙は視線を逸らしながら答える。

 

「……確かに、近藤さんには今日もストーカーされけど……今朝の新聞の事はそういうことじゃないの」

「じゃ、じゃあ一体なんなんだ!?」

 

 妙の肩を掴み、九兵衛は必死に問い詰める。

 

「一体妙ちゃんはなに対してそんなに苦しんでいるんだ!!」

 

 別に九兵衛は妙を責めているつもりでも、尋問しているつもりでもない。ただ、彼女の力になりたい。彼女が悩んでいるなら、それを解決してあげたいという思いが先走って、このような行動に九兵衛を走らせてしまっている。

 お妙は目を潤ませる。

 

「九ちゃん……」

 

 九兵衛は妙の肩を掴んだまま、俯いてしまう。

 

「見れば分かるよ……妙ちゃんが苦しそうなことくらい……」

 

 何故、自分に悩みを打ち解けてくれないのか? 自分では力不足なのか? いろんな不満や悔しさが、九兵衛の中で混じり合う。

 すると、

 

「妙~!! ご飯まだ~!!」

 

 突然道場の方で『聞き覚えのある男の声』が聞こえた。

 

「ッ!?」

 

 驚愕する九兵衛に対して妙は、

 

「えっ? ……あっ、ま、待って! 今行くから!」

 

 少々戸惑った後、すぐに返事を大きな声で返す。

 突然聞こえた聞き覚えのある男の声に、九兵衛はありえないとばかりに目を見開く。

 

「た……妙ちゃん。今の声って……」

 

 九兵衛にとっては、とても現実とは思えない事実に茫然自失となってしまう。対し、妙は頼りなくも優しい笑みを見せる。

 

「……九ちゃん。私は本当に大丈夫だから。だけど、今は何も言えないの……」

 

 自分の肩を掴んでいる九兵衛の手をどけるために、腕を軽く握って優しく横に降ろす妙。先ほどと違い、今の九兵衛の手にはほとんど力が入っていないので、簡単に外すことができた。

 

「だから……」

 

 と言って妙は踵を返す。

 

「ごめんなさい!!」

 

 そのまま妙は、九兵衛を振り切るように道場の方へと走って行った。それを見た九兵衛は一瞬唖然としていたが、すぐに手を出して引き止めようと声を上げる。

 

「……ま、待ってくれ妙ちゃんッ!! 妙ちゃァァァァァァァん!!」

 

 だが、九兵衛の制止も聞かず、妙は家の中に入っていく。

 精神的にショッキングな出来事が続いてしまったせいで、九兵衛はガクッと片膝を付いてしまう。

 

「わ、若ァァァァ!! お、お気を確かにィ!!」

 

 血相を変えて声を上げながら出てくるのは、いつものように隠れて近くで見ていたであろう東城。だが、九兵衛の頭の中には妙のことばかりで、ストーキング紛いの事をしていた東城にまったく意識が向いていない。今の九兵衛の意識は、声の主の存在に全て向いている。

 九兵衛は声からその正体をすぐに予測。彼女にとっては、自分の立てた予測による声の正体がなによりもショッキングなことになってしまっている。

 

 ――あ、あの声は……間違いない……。あの男……『坂田銀時』の声!! だが、そんな!? やつが妙ちゃんの家でなにを!?

 

 声の主の正体は坂田銀時。柳生家での一見以来、あのふてぶてしい声を何度も耳にしている。

 妙があの男にご飯を作ってあげたり、その存在を隠すなどといった、到底信じられない状況に九兵衛は眩暈すら覚えている。

 

 ――いや、待て待て! いくらなんでも銀時と断定するのは時期尚早だ! もしかしたらただ銀時に似た声の人物かも知れない! アニメとかなら声の似た人物が複数現れるなどよくある話じゃないか!

 

 この作品はアニメではないし、小説であるので声云々の説は的外れなのだが、今の九兵衛は妙と銀時の関係性を切り離したかった。最悪、あのチャランポランを妙が好きだなんて事実だけは信じたくない。

 

 すると、九兵衛の上着の袖を誰かが引っ張る。それに気付いた彼女は、袖を引っ張る人物に顔を向ける。九兵衛の袖を引っ張っていたのは、白い長髪の少女だった。

 

「……君は?」

 

 困惑しながら小首を傾げる九兵衛に、少女は告げる。

 

「あのね、さっきの女の人なんだけど、家で銀髪の死んだ魚のような目の人とよろしくやってたよ。僕たまたま見ちゃったんだよねェ」

 

 ――な、なんだとォォォオオオオオオオオオオオオッ!?

 

 九兵衛は内心シャウト。誰かも分からない少女の証言に、九兵衛は反射的に立ち上がり、雷を受けたような衝撃を覚える。

 銀髪で死んだ魚のような目をした男など、九兵衛は一人しか知らない。

 

 ――銀時(あいつ)が、妙ちゃんとよろしくやっている?

 

 九兵衛の頭の中で〝よろしくやっている〟という言葉が、何度も繰り返される。

 

 ――よろしくとはなんだっけ……? 挨拶のよろしくだっけ……? いや、もっと大人の……性的関係の意味での……。

 

「わ、若ァァァッ!」

 

 と、東城が声を上げながら捲し立てる。

 

「それ以上想像してはなりません! 大人の関係でのよろしくと言えば、それこそ男のガキンが女のズドンをバキューンしてガキュンガキュンドドドドドドドドなどの行為をする仲といった想像などしてはなりませんぬぅぅぅ!!」

 

 東城は大声でとんでもないセリフ(一部自主規制)を言い続ける。お付きの言葉のせいで、九兵衛は嫌でも想像してしまう。銀時と妙が裸になって、R18以上の展開へと……。

 

「う、うわァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 九兵衛は頭を抱えぶんぶんと振り回しながら、目の前の事実から目を背けるかの如く、志村邸から逃げ出す。

 

「わ、若ァァァァァアアアアアアアッ!? お気を確かにィィィィイイイイイッ!!」

 

 もろ原因の東城も慌てて九兵衛の後を追い掛ける。

 

 

「――っと、お妙殿と銀時殿の関係を受け止めきれなかった若は、事実から目を背けるように近藤殿をストーカーの正体だと思い込み、こんなところまで来てしまった次第なのです」

 

 と言う東城の説明を聞いて、さすがの土方も驚きの表情を見せる。

 

「まじかよ……」

「旦那と姉御がねェ……」

 

 一方、沖田は興味がわいたのか顎を手で撫で、視線を斜め上に向けて思案している。

 東城の説明を聞いていた近藤に至っては、この世の終わりのような顔で俯けている。しかもうわ言のように何かをぶつぶつ呟いている始末だ。

 九兵衛は握りこぶしを作りながら、搾り出すように声を出す。

 

「もしかしたら……君があの男の変装をして……妙ちゃんに近づいたのかと思ったが……その様子では……違うようだな……。くッ!」

「なんだろう……近藤さんなら変装してあの女に近づこうとしてもおかしくない気がする……」

 

 と土方はボソリと呟く。

 たまに近藤は、ホントに頭がおかしいとしか思えないおバカな行動をしてしまうことがあるので、しないと断言できない。もう少し彼が賢いならば、誰かを装って妙に近づく可能性があってもおかしくないからだ。いや、それでもかなり頭の悪い行動ではあるのだが。

 少しの間、壊れた機械のようにブツブツ何かを言っていた近藤。やがてうな垂れる九兵衛の肩をポンと叩く。

 

「…………九兵衛殿。どうやら貴殿は倒す相手を履き違えていたらしい……。いや、なにより俺たち二人は同じ目的を胸に宿す同士!」

「近藤……」

 

 優しく語りかける近藤の言葉を聞いて、九兵衛は顔を上げる。

 近藤は拳を握り締め、怒りの声を上げた。

 

「きっとお妙さんは、万事屋の野朗に都合の良い女としてこき使われていたに違いない! あの万年金欠ドS男ならそれくらいはやりかねん! 前々からお妙さんを付け狙い、彼女の純情をもてあそんで手篭めにしたのであろう!」

「そ、そうか! なにかおかしいと思ったがやはりそういうことだったか! 許せん! 僕は必ず奴をムッコロス!」

 

 ストーカー男の勝手な推論に、強引に乗っかった九兵衛も怒りを燃やす。そして近藤は勢いよく九兵衛に顔を向ける。

 

「九兵衛殿! 俺たちは同じ女性を愛した者同士! 恋のライバルであることには変わりない! だが、今は互いに協力し合い、俺たちがお妙さんを守る守護者(ガーディアン)として彼女を悪の魔の手から救い出すんだ!!」

「おおッ!!」

 

 九兵衛は同調し、近藤と腕をガシッと交差(クロス)させた。それを見た土方は呆れ顔で沖田に顔を向ける。

 

「なー……最近俺はあの柳生の小娘がポンコツになっている気がするんだが……気のせいか?」

 

 沖田は真顔のまま語る。

 

「土方さん。人間つーのは、怒りや嫉妬や恨みなんかで簡単に冷静な判断を捨て去っちまう生き物なんでさァ。つうか、銀魂という作品で一定のキャラを保てという方が無理ですぜェ」

 

 沖田の言葉に土方はため息をつく。

 

「ありえねーが……万が一、いや億が一、万事屋とあの女が愛し合ってたら、どーすんだ? あの二人、ただの邪魔者以外の何者でもないってのによ」

 

 土方は言いながら、箱から新たなタバコを口に咥えて火を付けた。

 すると九兵衛のお目付け役である東城が待ったをかける。

 

「若! そんな男の言うことを聞いてはなりません!! その男は聞き耳の良いことばかり並べて、若をストーキングという名の悪の道に引きずり込もうとしています!! 守護者(ガーディアン)というのは私のような者を言うんです!!」

「おめーはどっちかっていうと背後霊(ストーカー)の部類に入るだろ」

 

 ツッコム土方を無視して九兵衛の手を握る東城。

 

「さー、こんなところに長居は無用です! これから見たいドラマがあるので、早く帰らないと!」

「僕に触るなァァァァァッ!!」

 

 九兵衛は叫びながら東城を一本背負いで投げ飛ばす。男に触られることに対して、アレルギーの如く拒否反応を感じてしまう九兵衛に投げ飛ばされてしまう東城は、ぶつかった襖の下敷きに。

 だが、柳生四天王筆頭はすぐさまのし掛かる襖から這い出て、目を赤く光らせる。

 

「分かりました若ッ! そこまで固い決意であるならば、私は若のサポートをしましょう! 若が修羅の道を進むというならば、私も修羅道を共に歩みましょうぞ!! 柳生四天王筆頭東城歩!! 若のお目付け役としてどこまで付いて行く所存!!」

 

 そして集まった、ストーカー成敗三人組みはコタツを取り囲んで作戦会議をしていた。額には鉢巻をしており、『銀時成敗!』という赤い文字が記されている。

 土方はその様子を見て呆れた声を漏らす。

 

「たく……。まだあの天パがあの女の逢引の相手だって分かってないのによォ……。話聞く限りじゃ、万事屋の姿を誰も見てないって話じゃねーか」

「まーでも……旦那である可能性がないとは言い切れませんけどねェ」

 

 沖田はおもしろくなりそうと言わんばかりに、ニヤリとした笑みを作り顎を撫でる。

 

「所詮ガキの戯言だろ……。悪ふざけってのが関の山だ」

 

 冷静に返す土方。

 一方、ガキの戯言に踊らされているであろうストーカー成敗組は作戦会議を始めている。そして、近藤が「よし分かった」と言って頷く。

 

「万事屋の悪事の現場を押さえるべく、風呂場、トイレ、寝床、私室にカメラ設置は必須だろう」

「よし。なら画像チェックは僕に任せろ」

 

 九兵衛手を上げ志願すると、今度は東城が「ならカメラ設置は私が」と手を上げて力説する。

 

「若のお姿やおみ足を常に映像記録している私ならばベストポジションを確保してみせます!!」

「東城、僕の映った映像ファイルは全て消去しろ。さもなくば一生お前とは口を聞かない」

 

 と九兵衛が冷たく言い放つと、東城はこの世の終わりのような顔になる。

 

「つうかやることは結局悪質なストーカー行為じゃねーか!!」

 

 土方はまずこいつらを成敗して方がいいのではないか? と思うくらい呆れるのだった。

 結局、彼らの作戦内容は、最終的にはお妙の家に潜み込み、銀時を抹殺するための準備をするというモノ。ストーカー脳ここに極まれり。

 そうこうしていると、

 

「ふ、副長ォォォォォォッ!!」

 

 真選組密偵である通称ジミーこと山崎退(やまざきさがる)が叫び声を上げながら、なだれ込むように襖をふっ飛ばし、部屋に入ってきた。

 何度目になるか分からない襖の犠牲、さらに増える厄介ごとに頭を抱える土方は、

 

「山崎ィ~! このクソ忙しい時に一体なにしにきやがったんだテメーは?」

 

 青筋立てながら山崎の胸倉を掴み上げ、顔を近づけてガンを飛ばす。が、山崎は土方の怒り声すら気にしてられないようで、顔を青ざめさせて、ナニかに怯えるように先ほど走ってきた廊下を指さす。

 

「ま、松平のとっつぁんが!!」

「なにッ!? 松平の、とっつぁんだと!?」

 

 土方は、聞いただけでトラブル引き起こしそうな人物の名前に、ギョッと悪寒を覚え、ゆっくりと山崎が走ってきた方に顔を向ける。すると、土方の目に映ったのは、廊下の奥から弾頭が火を噴いて飛んで来る姿(しかも土方に向かって)。

 

「うおォ!?」

 

 土方は咄嗟に山崎を放して後ろに下がり、尻餅をつきながら弾頭を避ける。

 弾頭はそのまま近藤たちが囲む机に当たり爆発。机は爆発四散。ストーカー成敗三人組は黒焦げアフロヘアー。

 そしてさきほど弾頭が飛んできた方角から、ねっとりとした威厳のある声が聞こえてくる。

 

「いや~、最近銃持っての登場もなんか味気ないな~と思ったからよ~。ちょっと趣向を変えてみたわけよ、おじさんはさ」

 

 現れたのは、近藤、土方、沖田たち三人の上司であり警察庁長官、そして『破壊神』の異名を持つ男――松平片栗虎(まつだいらかたくりこ)その人。

 

「おじさんはさ~、ちょいとばかしにお前らに頼みたいことがあるんだわ」

 

 サングラスを通して薄っすらと見える松平の眼光は、怪しく光る。

 既に悪寒を感じていたのか、土方と近藤は頬を引き攣らせていた。




リリカルなのは組も見たいと思った人々にはすみません。
一応、これからの話の流れには必要なので。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。