「んでよー……」
と言って銀時は気だるげな眼で語りだす。
「俺んとこの駄眼鏡と酢昆布娘がホント使えねェ連中でよ~、モグモグ、マジアレはダメだわ、モグモグ、眼鏡はツッコミと視力を補う力と酢昆布娘はホント、もちゃもちゃ、アレ、なんだっけ? ごくごく。あ~、とにかくダメなんだわ、ガツガツ」
テーブルマナーやら食事の礼儀作法など一切気にせず、目の前に料理を口に運びながら愚痴を垂れ流す銀時。おかげで唾を飛ばすかのごとく、パンくずやらおかずやらがテーブルの上に飛び散る。
「もぐもぐガツガツグチャグチャうっさいなーもぉ!!」
アルフは「あーもう汚いなぁ!」と言いながらテーブルを拭きつつ銀時に苦言を呈す。
「あんた食べるか喋るかどっちかにしなよ! 机汚れるからさぁ!」
アルフは濡れた台布巾で落ちた物を拭いては文句を口にする。
行儀の悪い銀時の態度というよりも、口から出てくる食べカスにアルフは不快感をあらわにしているようだ。同じテーブルを囲んで食べている身としては、さすがに彼の口から出てくる物が机を汚す事が看過できないらしい。
銀時は肉やら野菜やらパンを、忙しなく口に運びそのまま口を開いて、
「なに言ってんだコラ! お前らが俺の身の上話聞きたいって言ったからこーやって一つのテーブル囲んで話てやってんだろうが! 俺の口は二つもねーんだよ! 食いながら話さなきゃならねーだろうが!」
勢いある声とともに食べカスが机にまた落ちる。その姿に自重もへったくれもなく、とにかく危機迫るかのように料理をガツガツ食す。
机に落ちた食べカスを見てアルフは食ってかかる。
「だったら食うの止めればいいだろうが! もしくはもうちょっと落ち着いて食べてホント! つうかあんたの話どころどころあんたの周りの連中の愚痴が入ってあんま面白くな――!」
「うるせェェェェ! こんなごちそう目の前にして上品に食えっかァァァァァッ!!」
口にモノを入れたまま銀時が怒鳴るので、食べカスがアルフの顔に向かって飛び散ってしまう。
「ぎゃあああああああああああッ!? ちょッ!? あんたッ! ホント洒落にならないくらいあたしの顔に食べカスかかったんだけど!!」
先ほどまで口に入っていたモノが顔に直撃してアルフは悲鳴を上げる。汚いといった不快な感触は大きいようで、彼女は反射的に慌てて台布巾で顔を拭く。
すると銀時が布巾を指さす。
「あ、お前それ机拭いたヤツじゃん。それで顔拭くのって、汚くね?」
ブチッとアルフの頬に血管が浮かび、
「お前が言うかぁぁぁぁぁッ!!」
アルフの渾身の力を込めた頭突きが銀時の脳天に炸裂。頭突きを食らった天パは「ごッ!?」と声を漏らし、額を抑えながら文句を言う。
「いッ、てェー!? てっめ! なにしやがんだ! いきなり人様に頭突きとは躾のなってねェイヌッコロだなおい!」
「い……痛いのはこっちだよ!」
だが、銀時の頭は思っていた以上に硬いらしく、アルフは涙目になりながら額を擦りつつ怒鳴り声を上げる。
「あんたどんな頭してんだい!? 石頭にもほどがあるよ! つうかあたしは狼だ!」
とはいえ銀時だって無事では済んでないのは当然で、尻餅付きながら頭を抑えて若干の涙目。その苦痛に耐える姿が彼の痛みの度合いを物語っている。
すると、
「フフ……」
傍から聞こえた小さな笑い声に銀時とアルフは同時に「あん?」と反射的に反応する。
笑った人物に顔を向け、銀時はあからさまに不機嫌な表情を作る。
「……なにがそんなにおかしいんだクソガキ」
「フェイト?」
不機嫌な銀時と違って、アルフはフェイトが笑った事が珍しいのか主の反応に対して意外そうな顔を浮かべる。
二人の反応に気付いたフェイトはすぐさま笑うの止めて、顔を赤くしながら両手を顔の前で左右に振る。
「ご、ごめん! べ、別に今のを見て笑ったわけじゃなくて!」
銀時とアルフの体裁を保つためにフェイトなりフォローしたつもりのようだが、銀時にとってはそんな子供なりのフォローなど一切通じない。
「お前あんま嘘上手くねェな。今の見て笑ってたの丸分かりじゃねェか」
「ちがっ……ご、ごめん」
フェイトは再度、銀時の言葉を否定しようとしたが誤魔化しはあまり通じないと理解したのか、素直に頭を下げて謝る。ただ、指摘されシュンとするような反応が銀時にとってはあまり慣れたものではなく、むず痒い気持ちだ。
落ち込んだフェイトを見たアルフが銀時に文句を言おうとする。
「ちょっとあんた――!」
「でもね!」
フェイトが声を出したので、アルフは言葉を途中で止めたが、主は使い魔に気を使いだす。
「あっ……もしかしてアルフ、なにか言おうとしてた? なら、ごめんね。先に言って大丈夫だよ」
「あ、いいよいいよ! フェイトから先に言いなよ! あたしのことは気にしなくていいから!」
アルフの言葉に対してフェイトは首を横に振る。
「ううん。アルフの話を区切っちゃったわたしが悪いんだし、アルフが先に言っていいよ」
「だからいいってさ。あたしの話なんて大したことないんだから。フェイトが先に言ったって別に問題ないよ」
「でも……」
主は使い魔のことを気遣い、使い魔は主のことを気遣う。そんな譲り合う精神のためにどちらが先に譲り合うかで話が停滞している。銀魂なら喧嘩に勃発している流れでも、この二人だと喧嘩にすら発展しないようだ。だが、いつまでも同じ事を繰り返してはいられない。
そういうワケで、
「じゃあ俺が」
と銀時が手を上げる。
「おめーは黙ってろ!!」
せっかく手を上げてまで話を進めようとしたのに、アルフに怒鳴られてシュンとしてしまう銀時。
「なんであんたが落ち込んてんだよ!? あんたそんなタマじゃないだろ! つうか気持ちワル!」
ちょっと引くアルフに、銀時はすぐに平然とした顔で告げる。
「おいおい、自分でキン○マの話ししといて気持ち悪いはないだろ」
銀時の言葉を聞いてアルフはグイっと彼の襟首を持ち上げ、銀髪をギロリと睨み付ける。
「フェイトの前で下ネタ言うわ、人のことおちょくるわ、マジでいい加減にしないとカブッといくだけじゃ済まないよ」
銀時は両手を出しながら言葉を返す。
「おいおい。お前人じゃなくて、犬だろ」
「あ、そうだね。よしわかった。ガブッといくね♪」
笑顔になった後、アルフは銀時のくせっ毛だらけの頭を丸ごと吞み込みそうなほどの勢いで口を開き、脳天から噛み付こうとする。
「うおおおおお!?」
銀時は必死にアルフの口に両手を突っ込んで、噛まれないように上の歯と下の歯を押さえ込む。
「ちょっ!? 待てお前! ただの冗談だろうが! 本気で怒ることないだろ!」
「んふぁほほひふは! (んなことしるか)」
アルフが口を開けたまま言い返した時だった。
「フフッ……」
フェイトは先ほどのように二人の絡み合いが面白かったらしく、またしても小さい笑みを零してしまう。その声に反応してまた二人の視線が金髪の少女に向く。
銀時は必死な形相で訴える。
「ちょっ!? 面白いのは分かるけど、分かるけども! とりあえずこの猛獣をなんとかしろ! テメェはコイツのご主人様だろうが!」
「あっ……う、うん。ごめん、銀時。アルフ、止めて」
フェイトの言葉を聞いたアルフは視線を銀時に向けた後、少し逡巡して顔をゆっくりと引いた。
まともに喋れるようになったアルフは、すぐにやれやれと言った具合に肩を落とす。
「たく、あんたのせいでまたフェイトに笑われちまったよ……」
どうやら、主人に自分の痴態を晒した事があまり嬉しくないようだ。そんなアルフの肩に、銀時はポンと手を置く。
「そんなに落ち込むんじゃねーよワイフ」
「アルフだ」
「芸人なら笑われてナンボだろ?」
「あたしはいつ芸人になったんだい?」
頬に血管を浮かべて銀時をジト目で見るアルフ。二人の会話を聞いたフェイトは慌てて「ち、ちがうの!」と両手を振る。
「わたしはホントに二人のことだけで笑ったんじゃないよ!」
「じゃー他に笑う要素でもあったのかよ?」
訝し気に肩眉を上げる銀時に対して、フェイトは優し気な笑みを作る。
「この……〝食事〟が、私は楽しい」
「あん?」
と銀時は眉を顰めた後、察したように顎を撫でる。
「あ~、なるほどな。まあ、銀さんの腕は料理の鉄人並みだからな。飯を楽しいと思うくらい美味いと感じるのも無理ねーな」
「味は普通なんだけど」
銀時の「おい」と言う言葉をスルーしてフェイトは話を続ける。
「なんて言えばいいのかな? この〝過ごしている時間〟自体が楽しいって言うのかな?」
「あん?」
遠回しな言い方に銀時は肩眉を上げ、金髪の少女はぽつりとぽつりと言葉を続ける。
「こうやって、お話をしながら食べたり、騒いだりするような、賑やかな食事はとっても久しぶり……だから、楽しくて……」
最後の言葉を言う辺りでなにを思い出したのか、辛いことを我慢するかのようにスカートの裾を握りしめるフェイト。顔も俯き具合になり、先ほどの幸せそうな顔とは一変して表情に陰りが見え始める。
フェイトの言葉や態度を見てアルフは何かを察したのか、両手をぶんぶん振って話題を逸らす。
「そ、それにしてもさ! 銀時って色々無茶苦茶だけど、あの鬼ババに比べたマシだよね!!」
「……う、うん。ごめん……」
フェイトは余計にシュンと落ち込んでしまう。主の様子を見たアルフは、口をあんぐりと開けて「し、しまったー!!」といった顔。話題を変えて彼女を元気付けしようとしたらしいが、逆効果だったようだ。
まぁ、あなたの母親はヤバイくらい非常識でアグレッシブです、なんて遠回しに言ったら落ち込みもするだろう。
すかさずアルフは銀時に近づいて小声で話しかける。
「(ちょっ、ちょっと……!! あんたもフェイトを元気付けておくれよ……!!)」
「(ハァ? なんで俺が? オメーが勝手に地雷踏んで落ち込ませたんだろうが)」
アルフは銀時の肩をガシっと掴み、彼の目をジッと見つめる。
「(お ね が い だ か ら)」
アルフの必死な頼みに対して、銀時は「しかたねェなァ」と頭を掻きながら椅子にゆっくり座り込み、手の甲で顎を支えるといった考えるポーズを取る。そして、流し目をしながら語りだす。
「オメーの母ちゃんな。確かに最初はいきなり人に対して電撃を喰らわすは、あげくは物で人を釣るわ、マジで良い印象なんてなかったんだけどよ……」
銀時の話を聞いてよりフェイトの落ち込み具合は深くなり、アルフは彼の話の出だしを聞いて「ちょっとなに言ってんだコイツ!?」と言いたげな表情になる。
「でもな、それだけじゃなかったんだぜ、オメーの母ちゃんは」
心なしか優しい笑みと声を作る銀時の言葉を聞いて、フェイトはゆっくりと顔を上げた。
銀時は、プレシアと交渉を終えた後の話を、フェイトに話し始める。
*
――俺はあのば……オメーの母ちゃんとの話を終えた後、オメーの母ちゃんは俺の力を試したいとか言ってきてな。
「あなた、それなりに腕が立つとフェイトの報告で聞いたけど、それは本当?」
プレシアの質問に銀時は、
「ん? まー、それなりの場数を
腰のベルトに差した、柄に
プレシアとのギブアンドテイクが成り立ったことで手錠を外してもらい、喧嘩の手段である木刀を返してもらった。
顎に手を当てながらプレシアは銀時を観察する。
「宇宙人やその辺の不良程度なら軽く倒せるとか言ってたわね。戦い慣れしているなら案内役としてだけとは言わず、フェイトの戦闘の助手としても働いてもらえるかしら?」
「あァ。だが――」
返事した銀時はキリッとした顔を作る。
「俺はレアだぜ」
「にわかに信じられないわね。宇宙人だとか、侍だとか。どちらも地球にはいないらしいのだけど」
「おーい。俺ボケてんのにそうやってシリアスモードで返されるとなんかこっちが恥ずかしくなってくんだけど?」
「まあ、そんな存在がいるかいないかなんて正直どうでもいいわ。用はあなたがどれだけ使えるかってことが重要。だから、私自身の目であなたの戦闘力を測らせてもらう」
「あん? なに、スカウターでも使うのか?」
「こっちに来なさい」
「少しは俺のボケに反応してくんね? 滑りまくる芸人みたいな気持ちになんだけど」
いくら斜め右や左の言葉をふっかけてきても、会話や態度に一切の変化が見られないプレシアに対して、銀時はやれやれと肩をすくめる。
とりあえず、彼女の言うことを聞かない理由もないので、言われたとおり前までやってくる銀時。
「んで、どうやって俺の戦闘力を測るんだ?」
気だるげな目で話す銀時の言葉を無視して、プレシアは袖の下からあるモノを出した。それは、片目を覆うほどの四角いレンズがついた、片っぽだけがバイザーのようなモノ。パッと見は、
「――ってただのスカウターじゃねーかッ!!」
スカウターそっくりの物品。それに銀時は思わず指をさしてツッコムと、プレシアは否定する。
「違うわ。これは私の作ったスキャンサーよ」
「すんげーパチモン臭がぷんぷんすんだけど!? つうかマジでスカウター出しやがったよコイツ!? そもそもそれで俺の戦闘力測れんのかよ!?」
「ええ。当初の設計では相手の筋力や魔力などを総合的に分析して大まかな戦闘力を測るものだったのけれど……」
プレシアはスカウターもとい、スキャンサーを右目に装着してカチっとボタンを押し、銀時を測定し始める。スキャンサーから計測された数値を、プレシアが片目で読み上げていく。
「…………なるほど。……天パ力三万、恐れ入ったわ」
「は? なんだよ天パ力三万て?」
怪訝そうな顔をする銀時にプレシアは答える。
「あなたの髪の毛の質を測ったのよ」
「髪の毛の質だァ!? なんで髪の毛の質を測ったんだよ! つうか戦闘力はどうしたんだよ!? 戦 闘 力!」
「実はこのスキャンサー、もともとは対象の戦闘力を測るものだったんだけど……なぜか相手の身体の特徴を測る物になってしまったのよ」
スキャンサーを外しながら言うプレシアの言葉に、銀時は眉をピクピクと吊り上げる。
「じゃ、じゃー……さっきの天パ力三万て意味は?」
「髪の先から毛根まで捻くれているって意味よ。あなたの性格を現しているようね」
「ば、バカな!? 俺の髪はそこまで深刻な症状だったのか!!」
ショックを受けた銀時は手と膝をついてうな垂れる。まさかそこまで自分の髪が捩れ曲がっていたとは思わなかった。ちょっと努力すればすぐにサラサラヘアーになるものとばっかり……と、銀時は時たま期待したいのだ。
「それじゃ、試験場に向かうわよ」
スキャンサーを外して床にポイっと捨てたプレシアが言うと、彼女と銀時を囲む光の円が二人の足元を塗りつぶし、二人は徐々に光る床に沈んでいく。
銀時がガバっと顔を上げる。
「つうかさっきのやりとりなんだったんだよ!? まったくの無駄じゃねーか!!」
「お近づきの印として、私なりにユーモアを効かせたつもりよ」
「いやお前ユーモアとか効かせるキャラじゃ――!!」
銀時が言い終わる前に二人の体は光の床に完全に沈みこんだ。
プレシア転移魔法により、二人はある部屋に瞬時に移動する。
「――ねーだろ!!」
移動する直前で途切れた言葉を銀時が言い終わる頃には、二人の体は完全に地面から出ている状態になっている。
「……それじゃ、ここであなたの実力を試させてもらうわ」
プレシアはある方向を指差す。
「あん?」
銀時もつられて指した方向に顔を向ける。
そこは警察の取調べ室の中を大きくしたような部屋。外から中の様子をうかがう窓以外は三方を壁で覆われ、中はそれなりに広い空間。
嫌な予感を覚えた銀時は少し汗を流す。
「俺に……あそこでなにしろと?」
初めて会った時の印象を考えて、ロクな事にならないのは銀時も薄々感ずいてきていた。
冷や汗を流している銀時をプレシアは一瞥する。
「安心しなさい。ただの体力テストよ」
「あ、そうなの! 短距離走とかするあれね!」
不安を拭えないながらも、プレシア同意しつつ進んで部屋に入ろうとはしない銀時。
「まーそんなものよ。だから、さっさと入りなさい?」
そう言って杖を持つプレシアの手が動いたとこを見て、銀時は足早にドアを開けて室内に入っていく。なにかよからぬ事が起こるとしても、逆らって電撃食らわせられるよりは楽なことだと信じて。
「準備できたわね。それじゃ、始めるわよ」
と言ってプレシアは軽く杖に力を入れる。
「おっしゃこいやァー! 短距離走だろうが長距離走だろうがベストタイム刻んでや――!!」
ヤケクソ気味の銀時の前に、銅色の大きな鎧が出現。目の部分に当たる隙間から、赤い小さな光がキュピーンと輝く。
人間と言うよりも人形のような生気を感じられない鎧が手に持っているのは、巨大な銅色の斧――それを大きく振りかぶる。
「…………え?」
少しの間、銀時は自分よりも頭三つ分大きい西洋の鎧を見上げ、呆けた声を出す。これから鎧がしようとしている事を見て徐々に顔を青ざめさせている。
なんの躊躇いもなく、銀時の頭上に斧が振り下ろされた。
「ぬォわァァァァァッ!!」
銀時はとっさに避けた。彼が今さっき立って居た地面は無残にも砕け散っている。もし避けなかったら、彼の天然パーマごと頭が吹っ飛んでいただろう。
ちぃ、逃がしたか! と言わんばかりの勢いで鎧の目がさらに赤く光り、銀髪の顔を追い、斧を振りかぶりながらまた銀時に襲いかかっていく。
自分に向かってくる鎧を見た銀時も慌てて走って逃げ出す。
「おィィィっ!? これのどこが体力テストォ!? 巨人の星でもこんな命がけの走りこみしねーよ!!」
『あら、誰も走って体力を測るなんて言った覚えはないけど?』
室内にプレシアの声が響く。どうやら、スピーカーのような物で自分の声を部屋の外からこちらに届けているのだろう。
銀時は逃げながら必死な表情で文句を捲くし立てる。
「こんな命がけの体力テストなんて知らねー! 確かに、体力テストとかで体育の授業とかより気合入れていい成績残そうと死ぬ気で頑張っちゃう子いるけど、これマジで死ぬだろうが!!」
『安心なさい。もし細切れの挽肉になっても、虚数空間に生ゴミとして出してあげるから』
「セリフも顔も冷淡で安心できる要素が一部もねー!!」
『一つ言っておくけど、その
「俺の命の配慮は!?」
『ちなみに、それを倒さない限りそこから出られないと思いなさい』
「ハァー!?」
銀時はまさかの無慈悲な条件に口をあんぐりと開けてしまう。
どこまで鬼だというのか、あの女は。自分の血を全部鬼の血と交換してそうなほどの鬼畜っぷりである。
退路を立たれた銀時は急ブレーキを掛け、床を滑りながら左足を軸に体を横に回転。そして既に抜刀していた腰のベルトの木刀。それを彼は槍を
突然の銀時の反撃に反応できなかった鎧の胸には木刀が突き刺さる。
木刀が突き刺さった事で動きを止めた鎧に向かって、銀時は駆け出し、途中で大きくジャンプする。空中でキレイに体を前転させ、鎧に刺さった木刀の柄に向けてキックを繰り出した。
「ホワタァ!!」
銀時は木刀ごと鎧の体の中を潜り、背中を突き破る。
木刀は壁に突き刺さり、銀時は柄を蹴って地面に着地する――と同時に鎧は後ろ向きに倒れた。そして壁に刺さった木刀を抜き去り、肩に掛けた銀時は、プレシアに顔を向ける。
「どうだこんにゃろ! これで俺の実力がわかっ――!」
『じゅあ次よ』
とプレシアが冷たく言い放つ。
すると今度は、両手が槍となり背中に羽の生えた空飛ぶ鎧が二体同時に出現。もちろん先ほどと同じ傀儡だろう。
いきなり現れた二体は銀時に襲いかかる。だが、急な展開にもめげずに銀時は前転。傀儡が向けて来た二本の槍を避け、そのまま壁に向かってダッシュ。
「うォォォォォォっ!!」
その時、銀時はある作戦を思いつく。壁を片足で蹴って天井まで飛び上がり、そのまま天井を蹴った勢いを利用して頭上を飛んでいる傀儡を倒そう、という案を。
「神よォォォッ! 我に翼をォォォッ!」
だが、ズドンッ! と勢い余って銀時の足は壁にめり込んでしまった。
「いでででででッ!? 足嵌った!! 足つる!!」
その隙を逃すほど傀儡たちも甘くはなく、無防備な銀時の背中に向けて二体の槍が彼を貫こうとする。
だが――。
ガキン! と傀儡たちの槍はクロスして空振るだけ。標的の銀時は、体をエビのように仰け反らし、槍を避けていた。そのまま自分の目の前にある二本の槍を掴み取り、
「うおりゃァッ!」
体を上に起こす勢いを利用して二体の傀儡を壁に叩き付けた。続いて、壁に埋まってない足で壁を蹴り、嵌った足を壁から引っ張り出す。
足を引っこ抜いた勢いで尻餅をついた銀時が立ち上がろうとした直後、なんの予告もなしに彼を囲むように、三体の大柄な鎧が、手に持った大剣で襲いかかる。
銀時が立ち上がる前に三体の傀儡の大剣は振り下ろされ、ズドンッ! と重い音が部屋中に響く。
様子を鏡越しに見ていたプレシアは少しため息をこぼす。
「……さすがに、期待し過ぎたかしら」
と言った直後。
何かを切り裂き、砕く音――。
ハッとプレシアが中の様子を見れば、銀時に襲い掛かった傀儡たちが次々に砕け散り倒れていく。その中心には、肩膝を地面に付きながら木刀を振りかぶった状態の銀時が居た。彼の体には傷一つなく、特に怪我らしい怪我は見当たらなかった。
「ッ!?」
それを見たプレシアは何を思ったのか、ニヤリと笑みを浮かべ、銀時に聞こえない声で「思った以上の掘り出し物だわ」と。
周りから何も襲いかかってこないであろうことを確認した銀時は、まっすぐプレシアの覗いているガラスの前まで歩いていく。
そして銀時はドンドンとガラスを叩きながらすぐさま不満を口にする。
「おい! これ以上俺の命を危険に晒すならストライキ起こすぞコラッ! この魔法熟女おば――!!」
言い終わる前に部屋の扉が開き、すぐさま銀時の前に近づいたプレシアが彼の頭を鷲掴みにする。
「なにか言ったかしらぁ?」
「なんでもありません!」
銀時は速攻で謝罪。血走った目、ミシミシ音を立てる頭。一瞬で命の危険を感じ取る。
謝罪を聞いたプレシアはすぐさま銀時の頭を離す。
「まぁ、いいわ。それよりも、合格と言っておきましょう。私の思っていた以上よ、あなたは」
「つうか、戦っている最中ですんげー残酷な言葉をあんたからいくつも聞いたんだけど?」
「冗談よ。あなたのやる気を出させるための演技だから」
銀時は「へェ~!」とワザとらしく声を出して捲し立てる。
「すげー演技っすね! 主演女優ものっすね! つーかだったらそろそろ演技止めてくれません! 顔がずっと真顔なんだけど!」
銀時は皮肉込みで言葉を返すが、無論プレシアの表情は崩れない。
笑顔なんぞ一切見せないプレシアは告げる。
「とりあえず、詳しい仕事の内容はおいおい話すわ。今はフェイトのところに言って、衣食住のことでも聞きなさい。私の仕事を手伝うために雇ったと言っておくわ」
「へいへい……もうどうにでもなれだコノヤロー……」
*
「――と、散々人のこと引っ掻き回したあげく、今に至るわけ。ホント、お前の母ちゃんて無茶苦茶なんだな」
両膝を机に付いて両手を顔の前で組みながら、銀時は真剣な表情で語る。
彼の語りを聞き終えている頃には、フェイトは机に突っ伏していた。顔は伺えないが、彼女のぐぐもった涙声が聞こえてくる。
「ぅぅ……ごめんなさい。本当に母さんが……ごめんなさい……」
話しをする前よりも夕食の空気がさらにどんよりと重くなってしまっていた。
余計に落ち込んだフェイトの姿を見たアルフは、
「どんなフォローだぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
銀時を頭を鷲掴み、彼の顔面を机に叩き付けた。
そしてアルフはすぐさまフェイトの方に指を突き付ける。
「ちょっ、これ!? さっきよりもっと空気が重くなってんだろうがっ!! どうすんだよこの空気!? フェイトさっきよりも落ち込んじまってるよ!! 気分なんか海底のどん底まで落ちてんじゃないのかいコレ!?」
「ハァ? なに言ってんのお前?」
銀時は痛む鼻を抑えながら顔を上げ、アルフはまだ言い足りないようで声を上げる。
「いや、だってこれ――!」
「こんな空気なんざまだまだだって」
銀時はアルフの言葉を遮って腕を組んで話す。そう、彼はもっと気まずい空気を知っている。
「身内にエロ本見つかった時の気まずさに比べればマシだ」
銀時は、新八がエロ本読んでいるところをお妙に偶然見つかってしまう状況を思い浮かべる。
「いやそんな体験した事もない状況なんざ言われても納得できるわけないだろ!」
とアルフはツッコミ入れつつ拳を握りしめる。
「そもそもフェイトが落ち込んでんのは変わらないだろうが!! 下らない言い訳したってフェイトは元気にならないんだよ!!」
「たく、しょーがねーなー」
銀時は渋々といった感じでフェイトに傍に移動する。
「ど、どうするんだい?」
アルフの質問に銀時に真剣な表情で返す。
「いいか? こういう重い空気ってのは、ちょっと面白いギャグの一つでも飛ばせば和むもんだ。きっかけなんてのは些細なものでイイ。ブッと噴出すとまでは言わねー、クスっと笑う程度でイイんだよ」
フェイトの長い金髪のツインテールは彼女が突っ伏しているので、今は机の上にまるで開きかけの扇のように無造作に乗っており、そのツインテールを銀時は弄り始めた。
アルフは、一体銀時が何をしようてしているのか分からず、息を呑んで見守る。
銀時は一通りの作業を終えると、アルフに顔を向ける。
「ほれ、クワガタ」
ツインテールをクワガタのハサミのように形作り、フェイトの頭をまるでクワガタのように見せたギャグ。その和やかな姿に、アルフはついクスっと笑ってしまう。
「――って、あたしを笑わせてどうするぅぅぅ!!」
アルフは再び怒り、銀時の顔面を机に叩き付けた。そして銀髪の胸倉を鷲掴み、食ってかかる。
「もうちょっとマシなことできないのかいあんたはぁ!!」
銀時は両手を出しながら平坦な声で弁明する。
「わかったわかった。じゃー、俺の2000ある特技の一つ、お菓子作りでなんとかしてやるよ。とりあえずガキはお菓子食べさせとけば機嫌よくなるだろ」
「フェイトをそんじょそこらのガキと一緒にするんじゃないよ!!」
二時間後――。
「おいひぃ♪」
銀時特製のケーキを頬張って喜ぶフェイトの姿があった。それを見てアルフは一言。
「子供って意外と単純なんだね」
「そうだね」
と銀時は相槌を打つ。
アルフと銀時は、フェイト同様にケーキを口に頬張りながら、もっさもっさ食べるのであった。
展開は作者個人としても遅いんじゃないかと思ったりしています。
結構じっくり話を広げて進めていきたいので。