魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第三十一話:40年の重み

「銀時……大丈夫かな……」

 

 空を飛ぶフェイトは不安そうな顔で銀髪天然パーマの顔を思い出す。すると、横を飛ぶ狼姿の使い魔は主を安心させようと声を掛ける。

 

「まあ、あんなふざけた眉の連中の餌食になるタマじゃないさ。もし眉が繋がっちまっても、結局ジュエルシードを封印すれば元通りになるんだから心配いらないよ」

「う、うん。今は銀時を信じよう」

 

 フェイトはまだ不安が残り、バルディッシュを握る手に力が籠ってしまうが、銀時が無事であると信じる他なかった。

 実はフェイトとアルフはパチンコ屋で眉毛が繋がった暴徒に襲われ逃げているうちに、銀時と離れ離れになってしまったのだ。

 空が飛べるフェイトとアルフはマユゾンたちを簡単に避けながら、発動したであろうジュエルシードが居る場所へと向かっている。

 

「しっかし……」

 

 アルフは空を飛びながら、眉毛が繋がった暴徒で埋め尽くされた眼下の町の様子を眺めた。

 

「こんなおかしな現象を起こしたジュエルシードの異相体って……一体どんな奴だろうね?」

 

 

 

「グォォォォォォッ!!」

 

 ↑こんな奴です。

 

 マユラントは凄まじい雄たけびを上げ、その後ろからはどんどんマユゾンの群れが学校の敷地へと侵入していく。

 その様子を見ていた新八は慌てだす。

 

「ちょッ、ちょっとッ!? ヤバいですよコレ!? 門が壊されてマユゾンが雪崩ように入って来てるじゃないですかッ!!」

「いかん!! すぐに扉を閉めるんだッ!!」

 

 近藤は焦り声を上げて校舎の入り口に向かい、続いて山崎と土方も扉を急いで閉めた。なんとかマユゾンの侵入を防ごうとする。

 

「くそッ!! まさかあんなバケモンが出てくるとはッ……!!」

 

 土方は忌々し気に拳を掌に叩きつけ、近藤は汗を流す。

 

「まずいな……このままでは俺たちは一歩も校舎から出れんぞ」

「いや、それどころか――」

 

 扉を閉めて窓越しに外の様子を見ていた山崎。彼は頬を引き攣らせ、青ざめた顔を土方たちへと向ける――そして窓の外では綺麗なフォームで走るマユラントの姿が。

 

「ここで()られる可能性大みたいです……」

 

 と山崎が言い切ると同時に、ズガァーンッ!! と校舎の扉がマユラントの鋭く太い左腕の爪で破壊される。

 

「「「ぎゃああああああああああッ!!」」

 

 今さっきまで扉を閉めていた近藤、土方、山崎は、一瞬のうちに吹き飛ぶ扉の衝撃を受けて悲鳴を上げながら吹っ飛ぶ。

 入って来たバケモンから距離を取ろうと慌てて立ち上がり、ダッシュで後退。そして近藤が逃げながらジロリと白い目を向けてくるマユラントを見る。

 

「最強だッ!! 最強のM(マユゲ).O(オーガニック).W(ウェポン).が誕生してしまった!!」

 

 近藤、土方、山崎はデバイスを構えるなのはの元まで走るが、すぐに土方が急ブレーキを掛けて足を止めた。

 

「いや、逃げてる場合じゃねェ!!」

 

 踵を返し、腰に差した刀を抜いて切っ先をマユラントに向ける土方。

 

「ようはあいつをぶっ倒せばこんな騒動は終わりだ!! 全員で袋にしろ!!」

「待って下さい土方さん!!」

 

 と新八が慌ててマユラントに向かおうとする土方を止める。

 

「魔法で遠距離攻撃が使えるなのはちゃんたち三人はともかく接近性主体僕ら侍じゃさすがに分が悪過ぎますよ!! 接触したら即マユゾンなんですよ!?」

「しかもどんどんマユゾンの群れが校舎内に!!」

 

 指を差す山崎の言う通り、マユラントに続いてマユゾンの群れが校舎内を埋め尽くそうとどんどん入って来る。それを見た土方は舌打ちして、すぐに考えを切り替えて指示を飛ばす。

 

「チッ、狭い上に多勢に無勢かッ!! 仕方ねェ!! 一時撤退して体制を立て直すぞ!! 屋上に逃げるんだ!!」

「ならこっちの廊下の奥にエレベーターが!!」

 

 なのはが誘導し、新八たちはすぐにエレベーターに向かおうと走るが。

 

「「「らさァーるぅッ!!」」」

 

 三匹のマユゾンが新八に飛び掛かる。

 

「うわァァァァ!?」

 

 さすがに逃げ切れないと思った新八は反射的に両腕を使って顔の前をガードしてしまうが、そんなことで三匹のマユゾンを防げるはずもない。

 

(もうダメだァァァ!!)

 

 と新八が諦めた瞬間だった。

 

「とりゃぁーッ!!」

 

 突如新八の前に躍り出たアリサ。彼女は赤く光る炎剣を振ってマユゾン三匹を吹き飛ばす。無論、非殺傷設定なのでマユゾンが燃える心配なし。

 新八は助けられて安堵し、お礼を言う。

 

「あ、アリサちゃんありがとう……!」

「てりゃぁぁぁぁッ!!」

 

 だが新八のお礼などにも目もくれず、アリサは向かってくるマユゾンたちを炎剣を振り回してばったばったと倒していく。

 破竹の勢いでマユゾンを撃破していくアリサ。その姿を横目で見た土方は足を止めてすぐに声を掛ける。

 

「おいアリサなにやってんだ!? もう殿(しんがり)はいいからとっととこっちに来てエレベーターに乗れ!!」

「ジュエルシードを封印してあたしの学校も町もダメなおっさんの間の手から取り戻すんじゃぁぁぁぁぁッ!!」

 

 乱心するアリサはマユゾンたちを倒しながらマユラントに向かって行く。

 

「ダメだ!! 完全に我を失ってる!! もう今のアリサちゃんはマユラント倒すことしか頭にない!!」

 

 と山崎が声を上げ、

 

「私がアリサちゃんのサポートをします!!」

 

 すずかがアリサの助けに向かう。切っ先がコウモリを象ったように三又に分かれた槍を握るすずかは、マユゾンたちを魔法で凍らせて動きを封じていく。

 すぐに土方は「おいよせ!!」と言って咄嗟に手を出して止めようとするが、

 

「皆さんは私たちに構わずに屋上に避難してください!! 私たちは大丈夫ですから!!」

 

 制止を聞かないすずか。彼女はマユラントと戦い始めたアリサの援護を始めてしまう。

 

「でりゃでりゃでりゃぁぁぁぁッ!!」

 

 アリサは炎剣を何度も振るい、マユラントも負けじと左腕の爪を使って炎剣の攻撃を防いでいる。

 そうこうしている内に二人の姿はマユゾンの群れによって見えなくなってしまう。

 

「アリサちゃん!! すずかちゃん!!」

 

 親友二人を心配してなのははすぐにレイジングハートを構えて援護に向かおうとするが、土方が少女の肩を掴んで止める。

 

「なのはよせッ!! 万が一を考えてお前は俺たちと一緒に屋上に避難しろ!!」

「なのはちゃん!! 今は二人を信じて逃げるんだ!!」

 

 エレベーターに向かって逃げる山崎の言葉を聞いてなのはは少し逡巡するが、

 

「わかりました!!」

 

 すぐに決意を固めた。そのまま土方の横を飛んでエレベーターまで退避する。

 

「置いてかないでェェェェ!!」

 

 最後に必死こいて土方の後を追うのは新八。

 エレベーターには既に神楽と近藤が避難していた。

 

「こっちだ!! 早くッ!!」

 

 近藤がエレベーターの扉が閉まらないように手で押さえており、すぐに飛ぶなのはがエレベーターに入り込む。続いてマユゾンの群れから必死に逃げる土方と山崎がエレベーターへとなんとか飛び込む形で入り込んだ。

 そして二人が入り込むと同時にエレベーターの扉は閉まり、マユゾンの侵入を防いでくれた。

 

「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァッ!!」」

 

 全力ダッシュで息切れを起こす土方と山崎。二人が膝に手を付いて呼吸を荒くしている間、近藤が声を掛ける。

 

「皆無事か!? 全員ちゃんといるか!?」

「ハァ、ハァ……ちょっと待て……。今、確認する」

 

 息を整えながら土方は周りを眺め、一同の人数を確認。

 

「一、二、三、四、五、六……。どうやら大丈夫みてェだな」

 

 エレベーターの中にはなのは、山崎、局長、眼鏡(しんぱち)、チャイナと自分を合わせて六人。

 

「えッ? ホントに六人ですか? 少ない気がするんですけど?」

 

 なのはが不思議そうに小首を傾げ、神楽が口を開く。

 

「ジミーの存在感が希薄過ぎるせいじゃないアルか?」

「いや、いくら影薄くてもこんな至近距離で存在認識できないワケないでしょッ!!」

 

 と山崎がツッコミ入れ、土方は再度確認を取る。

 

「じゃあ、今度は名前を呼ぶから呼ばれた奴はちゃんと返事しろ。まずチャイナ」

「ほい」

「近藤さん」

「おう」

「なのは」

「はい」

「山崎」

「はい」

「眼鏡」

 

 そして床に落ちた眼鏡だけは返事しないが、土方は腕を組んで頷く。

 

「ほら、ちゃんと六人いるじゃねェか」

「ちょって待ってェェェェ!?」

 

 やっと異変に気づいた山崎が慌てて床に落ちた眼鏡を拾い上げて抗議。

 

「コレただの眼鏡じゃん! 新八くんどこにもいませんよ!」

「居ないってことは一階に置いてきちゃったってことですよ!」

 

 なのはは新八の行方を想像して顔を青ざめさせる。今頃彼は、マユゾンに囲まれて眉が繋がってしまったであろう。

 

「アリサちゃんが新八くんを助けた描写なんの意味もねェんじゃん!!」

 

 山崎は嘆き、土方は腕を組んで興味なさげに言う。

 

「まァ、いいんじゃね? あの眼鏡は眼鏡が本体みてェなモンだし」

「いやいくらなんでもその言い草は酷くないですか!? いくら鬼の副長でも言っていいことと悪い事はありますよ!!」

 

 汗を流す山崎は黙ってられないとばかりにツッコムが、今度は神楽は呆れ顔で語りだす。

 

「なに言ってるアルかジミー。ぱっつぁん<眼鏡だから眼鏡が残っているのは不幸中の幸いネ」

「むしろ不幸しか残ってないよ!! どこにも幸せなんてないよ!! 君みたいな毒舌少女の仲間なのが新八くん最大の不幸だと俺は思えてきたんだけど!」

「と、とにかく早く戻って助けないと!!」

 

 となのはが慌てて言うが神楽が口を尖らせる。

 

「ヤーヨ。今戻っても皆奴らの餌食ネ。私あんな眉毛になんて二度となりたくないアル」

「それにたぶん眼鏡が居ても居なくても戦力になんら支障はきたさんしな」

 

 とバッサリ言う土方。

 

「副長ォーッ!? 今のあなたは鬼じゃなくて鬼畜ですよ!!」

 

 山崎があんまりな言い方に顔を青くさせるが、すぐに表情を引き締める。

 

「とにかく二階か三階に降りて新八くんを助けに行きましょう!!」

 

 やはり同じ地味キャラ、もしくは影薄キャラとかいう共通点を多くの持つからなのか。新八を気にかけてほっとけない山崎は救助を進言しだす。

 すると神楽は「えェー……」とすんごい不満そうな声を漏らす。

 

「なんで私らがあんな『眼鏡掛け機』の為に危険冒して体張らなきゃならないアルかー?」

「眼鏡掛け機ってなに!?」

 

 と驚くなのは。

 

「眼鏡を掛けとく棒的なアレアルヨ~」

「それただのフックだよね! フックで充分だよね!」

「つまり新八(アレ)はおまけで、新八の本体は眼鏡ってことアル」

「つまりどういうことなの!?」

 

 あまりの超理論になのはは汗を流す。

 すると土方は手に持った刀を鞘から少し抜き、銀色に鈍く光る刀身を見つめる。

 

「俺たち侍の魂は刀だと常々言われてきた。それと同じように志村新八の魂もまた眼鏡であると――」

「今のあんたに魂も心もありません!!」

 

 山崎はツッコミ、すぐに三階のボタンを押す。

 

「もう分かりました!! 薄情なあんた達に頼りません!! 俺だけでも新八くんを助けに行きます!!」

「私も新八さんを助けに行きます!!」

 

 となのはも手を上げて賛成し、土方は「たくお前らは……」と呆れるように頭を抑える。

 すると近藤がポンと山崎の肩に手を置く。

 

「――ならば俺も行こう」

「局長……」

 

 なのは同様にちゃんとした良心で動く人間がいることに山崎は感動を覚えたようだ。そして近藤は満足気に語りだす。

 

「新八くんはなにせ俺の義弟だからな。助ければ、彼を伝ってお妙さんの好感度アップ間違いなしだ」

「「…………」」

 

 沈黙する山崎となのは。どうやら近藤は良心ではなく下心で動くようである。

 そうこうしている内にエレベーターの扉が開く。すると廊下の先を見たなのはは「あッ……」と声を漏らす。

 

「アレを見てください!」

 

 なのはが声を上げて廊下の先を指差し、全員の視線が廊下の先に向く。

 廊下の先には真選組隊士の黒い制服を着て、腰に刀を差し、肩にフェレットを乗せた栗色髪の青年が背を向けて歩いていた。

 

「間違いない! アレは沖田隊長とユーノくんだ!」

 

 山崎は見覚えのある後姿とフェレットを見て嬉しそうに声を上げ、手を振りながら二人に走って近づく。

 

「沖田隊長ォッ!!」

「おい待て山崎ッ!」

 

 嫌な予感を覚えて土方はすぐに止めようとしたが山崎は既に沖田とユーノに駆け寄ってしまっていた。

 山崎の声に反応したのか、沖田は足を止めて立ち止まる。ただ、後ろを一切振り返ろうとしない。

 

「沖田隊長ッ! ユーノくん!! 二人共心配しましたよ!!」

 

 山崎は返答がなくても構わずに沖田とユーノに慌てて話しかける。

 

「ふ、二人共ッ!! 大変なんです!! 実は新八くんが――!!」

 

 そこまで山崎が話していたところで沖田が振り向いた。彼の眉は一本に繋がり、Mのような形をした眉毛へと変貌。そして肩に乗ったフェレットにも同様の眉毛が出来上がっていた。

 

「………………えッ?」

 

 と、呆けた山崎の声を最後に、エレベーターのドアが閉まる。

 そして、

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!」

 

 扉越しからでも届く断末魔。

 やがて、土方は横に並ぶなのはにクールに告げる。

 

「……アレを見たろ? 沖田がダメだったんだ。もう眼鏡も手遅れだろうな」

 

 なのははどんどん失っていく仲間たちを思い浮かべて落ち込む。そして暫くエレベーターは上へと昇り、五階のランプが点灯して動きを停止。

 土方は訝し気に眉を上げた。

 

「ん? 五階だと? 屋上じゃねェのか?」

「屋上は五階から階段を上がって行くんです」

 

 なのはの説明を聞いて土方は「なるほど」と頷いた後、鞘に手を掛け、残っている面々に告げる。

 

「いいかお前ら? さっきの沖田みたくマユゾン共がエレベーターの前で待ち構えてる可能性を十分考慮するんだぞ?」

 

 真剣な表情で言う真選組副長の言葉になのはと近藤は無言で頷き、神楽も番傘を手に持って戦闘準備。そしてエレベーターの扉は開くが、廊下にはマユゾンどころか人の影すら見えない。

 とりあえず襲撃が無かった事に一同は安堵し、そのまま廊下に出て屋上へと続く階段の前まで歩く。

 

「この階段を上がれば屋上か?」

 

 土方の問いかけに、なのはは「はい」と頷く。

 階段を登り始める土方。

 

「ならとっとと屋上に行って安全を確保。そしてジュエルシード封印の為の作戦を練るぞ」

「おい、ちょっと待てトシ」

 

 近藤の声を聞いて土方は階段を数段登った所で足を止め、後ろを振り向く。下の階に続く階段の様子を眺めている上司の姿が目に入った。

 土方に目を向けず、近藤が声を掛ける。

 

「誰か登って来るようだ」

「なに?」

 

 目を細める土方。徐々にだが、彼の耳に階段を登る靴の足音が聞こえ始める。

 なのはは汗を流す。

 

「まさかマユゾンが!」

 

 土方も焦りの表情を浮かべ始めた。

 

「くそッ! 奴らもう来やがったのか!! 近藤さん! 早く屋上に上るぞ!!」

「いやちょっと待てッ!!」

 

 と近藤は声を上げ、彼は更に下の階を深く覗き込む。すると彼の目にチラリと映るのは人の頭――天然パーマで銀髪の頭髪。

 

「まさか、万事屋か!?」

「なにッ!? 万事屋だと!」

「銀ちゃんが!?」

 

 土方と神楽は近藤の言葉を聞いて信じられないとばかりに驚く。

 やがて階段の踊り場に立つのは、銀髪天然パーマで腰のベルトに木刀を差し、白い着物を半分はだけた状態で着こなした男。

 

「間違いない!! 万事屋だ!! トシッ!! 階段を上って来たのは万事屋だぞ!!」

 

 近藤のデカい声を聞いて土方は「マジかよ……」と声を漏らす。

 そりゃそうだ。まさか自分たちが逃げ込んだ学校の校舎にフェイトの協力者となった憎たらしい奴が居るなど、さすがの鬼の副長でも予想すらしていなかったことだ。

 すぐさまなのはは嬉しそうに声を上げる。

 

「なら銀時さんにも協力してもらいましょう!! それにフェイトちゃんの事についてもお話を!!」

「待てなのはッ!!」

 

 だがすぐに土方がなのはの肩を掴んで銀時の元に向かおうとする少女を止める。

 

「沖田の例をもう忘れたのか! 万事屋の野郎がなんで学校(ここ)にいるのかは分からねェが奴も間違いなくマユゾンだ!! 今は戦力になんざならねェよ!!」

 

 銀時が聖祥大小学校の校舎に居る理由は分からずとも、分かっていることはある。それは階段を上って来た銀髪天然パーマも間違いないく下の階でマユゾンの餌食になっている可能性大と言う事だ。

 

「待つネトッシー! 銀ちゃんはマユゾンにならないアル!!」

 

 断言する神楽の言葉に土方は怪訝な表情を浮かべる。

 

「はァーッ!? なんでそんな事を言い切れるんだよ!?」

「何故なら銀ちゃんは……」

 

 神楽は腕を組んで目を瞑り、溜めを作り出す。そしてグワッと目を見開いて、

 

「――ダメなおっさんだからネッ!!」

「つまりどういうことなの!?」

 

 と困惑するなのはとは対照的に、近藤は「なるほどッ!」と声を上げた。

 

「マユゾンの持つダメなおっさん要素を全て兼ね備えた万事屋まさにウイルスの抗体を持った存在と言うワケだな!! まさに無敵艦ではないか!!」

「理屈は良く分かりませんけど、つまり銀時さんはマユゾンってことじゃないんですよね?」

 

 なのはの問いに近藤は「ああッ!」と力強く頷いて力説する。

 

「それどころか、俺たちにとっては魔法以上の切り札となりえるぞ!! 早速万事屋と協力の交渉をせねば!!」

 

 言うやいなや近藤は階段を駆け下りて近づく。下の階段の踊り場でなぜか俯いて突っ立っている銀時に。

 

「なら私も!!」

 

 なのはも駆け出し、そのまま肩を掴む土方の手を振りほどいてしまう。

 

 ――マジかよ……。あの万事屋が切り札だと……。

 

 まさかの一発逆転の切り札が銀時であることに、土方は半ば呆然としてしまう。

 

「よォ、万事屋! お前なんか知らんがフェイトちゃんと協力しているそうではないか!!」

 

 近藤が手を上げて馴れ馴れしく銀時に声を掛ければ、続くようになのはが必死に頼み込む。

 

「町の惨状を見て銀時さんも事情は察していると思います!! 今は海鳴市を救う為に私たちと一緒に〝ジュエルルシード〟を封印しましょう!!」

 

 なのはの口から発せられた『ジュエルシード』と言う単語。それを聞いた土方は、何か大事な見落としをしていないか? と違和感を覚え、眉間に皺を寄せた。

 

 ――いや、待てよ? 確か、今起こってるマユゾン騒動ってRYO-Ⅱじゃなくてジュエルシードが原因だったんじゃ……。

 

 そこまで考えて土方は顔を青くさせて、すぐに近藤となのはに声を掛ける。

 

「二人共逃げろ!! そいつはもう――!!」

 

 と土方が言い切る前に、銀時はバッと俯いていた顔を上げた。彼の眉毛は――繋がっていたのだ、一本に。

 そしてもろに銀時の攻撃の射程距離に近づいていたなのはと近藤は、

 

「「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!」」

 

 絶叫し、

 

「なのはァァァァァァァッ!!」

「近藤さんんんんんんん!!」

 

 神楽と土方は叫び声を上げた。

 だが、すぐに思考を切り替える真選組副長。

 

「逃げるぞチャイナ!! もう二人はダメだ!!」

「銀ちゃんの役立たずゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 異世界に来てから仲良くなった少女が犠牲になった事実に神楽は涙を流しながらも、屋上に続く階段を駆け上がる。

 二人は必死に階段を駆け上り、すぐに屋上に入る為の扉の前までたどり着く。そして土方はドアノブに手を掛けて回すと、扉が開くことに気づいて嬉々とした声を上げる。

 

「しめたッ! 鍵は閉まってねェ!!」

 

 今更だが、もし鍵が閉まっていた場合はアウトだったという事実に身震いを禁じえないが、今は天が与えたもうた運に感謝だ。

 土方はドアノブを引いて扉を開けると、眉が繋がった沖田マユゾンが目の前に待ち構えていた。

 

「「ぎゃあああああああああああッ!?」」

 

 まさかの天国から地獄に叩き落された。二人は飛び轢いて悲鳴を上げるが、すぐに土方は刀を鞘から引き抜いて声を荒げる。

 

「怯むなァァァァ!! 俺たちはなんとしても生き残るんだァァァァァ!!」

「皆の犠牲を無駄にしてなるものかァァァァァァ!!」

 

 神楽も番傘を沖田マユゾンの脳天に叩き込もうと振り上げる。

 二人が一斉に沖田マユゾンを攻撃したその時、

 

「――止めてくれやせんか? 俺正気なんで」

「「へ……?」」

 

 目は白目ではなく、普通に喋る眉が繋がった沖田の声。土方と神楽は目を点にさせて、一時停止したように動きを止めてしまう。

 そして沖田はあっけらかんとした表情で告げる。

 

「俺はマユゾンになんざなってないんで、そんな物騒なモンで攻撃しないでくだせェ」

「「……はッ?」」

 

 と土方と神楽は口をポカーンとさせた後、

 

「「はァァァァァァァァッ!?」」

 

 まさかの展開に大声を上げ、沖田はうるさそうに両耳を手で塞ぐ。

 すぐさま土方が沖田に指を突き付けた。

 

「なんでお前マユゾンになってんのに普通に意識あんの!?」

 

 沖田はポケットから黒色油性ペンを取り出して前髪をかき上げる。

 

「この眉は落書きでさァ」

「落書きだァッ!?」

 

 土方は唖然としながら沖田のMのような形をした眉をよくよく見る。確かに毛じゃなくて黒いインクだ。

 

「てめェェェェェッ!!」

 

 と神楽はキレて沖田の胸倉を両手で鷲掴む。

 

「なんでんな紛らわしいことしてんだァァァァ!! 心臓止まるかと思っただろうがァァァァ!! ぶっ殺されてェのかァァァァ!!」

「だってしょうがねェだろ。屋上の鍵手に入れるのに連中を騙す必要があったんだよ」

 

 平然とした顔で言う沖田の言葉を聞いて土方は「はァッ!?」と驚きの声を漏らす。

 

「あいつらそんなインクで書いた眉で騙せんの!? んな単純な方法で良いの!?」

 

 沖田は油性ペンをポンポンと上に投げて手で弄びながら口を開く。

 

「連中の眉だってぶっちゃけ落書きみたいなものですぜ土方さん。インクと毛の違いなんて分かるほどの知能も持ってなさそうですし」

「マジかよ……」

 

 土方は呆れ半分、驚き半分といった顔でがっくりと腕を垂らす。

 

「つうことは……」

 

 沖田と一緒に居たフェレット、更には襲われてマユゾン化したと思っていた部下の顔を思い出す土方。彼が屋上を見渡せば、

 

「うわー……校庭はマユゾンだらけだ……」

「こんな酷い惨状になるなんて……」

 

 手すりに手を付いて眼下の光景を見る山崎とその肩に乗るユーノの姿が確認できた。どうやら様子を見る限り無事らしい。

 呑気な二人を見て土方が頬を引き攣らせるのをよそに、神楽はユーノと山崎の姿を認識して声を上げる。

 

「あッ! ジミーにユーノも無事だったアルか!?」

「神楽ちゃん!? それに副長も!!」

 

 山崎は神楽の声に反応して後ろを振り向き、生き残っていた仲間の元に駆け寄る。そして肩に乗ったユーノが嬉しそうに声を上げる。

 

「良かった! 神楽と土方さんが無事で!」

「だが、此処に来るまでに大半の仲間がマユゾン共の餌食になっちまった」

 

 土方の言葉を聞いて山崎は「そんなッ!」と言って質問する。

 

「じゃあ、局長になのはちゃんもやられちゃったんですか!?」

 

 土方は無言で頷き、ユーノは焦り声を出す。

 

「それだと状況はかなりマズイですよ!! 自分で言うのは情けないですけど、僕だけじゃ魔導師として戦力不足ですし!! アリサとすずかは!?」

 

 気持ちが落ち着いた土方は箱から一本のタバコを取り出す。

 

「安否までは確認できねェが、アリサとすずかは一階でジュエルシードのバケモンと戦ってる。二人の勝利を信じて待つか、もしくはこのメンバーでジュエルシードをなんとかする策を立てるしかあるめェ」

 

 と言って土方は口にタバコを咥えて火を付ける。すると上司の言葉を聞いた山崎が頬を引き攣らせて顔を青くさせた。

 

「マジ……ですか……? このメンツであのバケモンとマユゾンの両方を相手取りながら封印て……相当ハードですよ?」

「しかもだ。万が一、アリサとすずかが負けていたらあのマユラントの戦闘力は相当モノってことが判明する」

 

 土方の言葉を聞いて山崎は更に顔を青白くさせて右手を横にぶんぶん振る。

 

「無理無理無理無理ッ!! あの二人が負けているかどうかはともかく、あんな人外を倒すなんて冷静に考えたらマジでムリゲーですよ!! そもそも封印はどうするんですか!?」

「ユーノがいんだろ?」

「でもユーノくんはほぼ戦闘用の魔法は使えないじゃないですか!!」

「なんていうかすみません!!」

 

 と謝るユーノ。対して、土方はクールに言葉を続けた。

 

「ポケモン戦法だ。俺たちがあのバケモンを弱らせ、ユーノが封印する。単純だが有効なはずだ」

「でも――!」

 

 まだ否定的な意見を言おうとする山崎の胸倉を土方は掴み上げ、血走った目を向けた。

 

「もう俺たちに退路は残されてねェんだよッ!! 後は死ぬか生きるかのデットorアライブだッ!! おめェも腹を決めろ!! これ以上四の五の言うなら切腹だコラァッ!!」

 

 鬼のような形相の副長の言葉に山崎は涙目になって押し黙る。その時だった。

 

「あァ”……」

 

 うめき声のような声と人の気配。やがて全員の視線が屋上の出入り口へと注がれる。

 そこには眉が繋がり白目を剥いた新八が、力なく屋上の扉を潜り抜けて入って来る。その様子を見ていた土方はおもむろに口を開く。

 

「……おい、総悟」

「なんですか?」

「お前、眼鏡は助けたのか?」

「いいえ。たぶん眼鏡は演技じゃなくてマジでマユゾンだと思いますぜ」

「なるほどな。……それで、一つ気になったことがある」

 

 土方は山崎の胸倉を離して、タバコを口から離すと、

 

「なんで誰も出入り口閉めてねぇんだァァァァァッ!!」

 

 タバコを握り潰して、クワッと目を見開いてシャウト。

 

「ホワタァーッ!!」

 

 神楽が新八マユゾンの顔面にキックを入れて屋上の中心までぶっ飛ばし、出入り口から遠ざけた。そして彼女はすぐさま屋上の扉を閉める。

 

「これで扉は閉めたから大丈夫アル!」

 

 神楽は親指を立て、土方はガッツポーズ。

 

「良くやったチャイナ! ――って言うと思ったかッ!! なんで眼鏡を屋上に残しままにしてんだよ!? せめてぶっ飛ばすなら階段の方にぶっ飛ばしてくんない!!」

「あァ”……!」

 

 と新八マユゾンはのっそりとした動作で立ち上がる。

 

「どうすんだこれ!? このままじゃマユラント倒す前にマユゾン眼鏡のせいで全滅しちまうぞ!!」

「なら僕のチェーンバインドで動きを止めます!」

 

 山崎の肩を下りたユーノが緑色の魔法陣を展開するが、すぐに沖田が手を出して止める。

 

「待ちなユーノ。実はちょっと試してェ事がある」

「えッ?」

 

 すると沖田は懐に手を突っ込み、

 

「みんなッ! 『コレ』で使うんでィ!」

 

 土方、山崎、神楽に取り出した『カミソリ』を投げ渡す。

 

「そいつで眉を剃ってみてくだせェ! もしかしたら眼鏡が正気に戻るかもしれやせん!」

 

 告げられた沖田の提案に対し、カミソリを手に持つ土方は困惑。

 

「いや、確かに試す価値はあるが……。動く奴の眉毛をピンポイントで剃るとか難易度高過ぎるぞ。下手したら余計な毛を剃ることに――」

「うがァァァァッ!!」

 

 と新八マユゾンが山崎に向かって襲い掛かる。

 

「もうこなりゃァなるようになれだ!! 新八くん!! 正気に戻るんだッ!!」

 

 山崎は向かってくる新八マユゾンの攻撃を避けながら眉を剃ろうとカミソリを振りかぶり、思いっきり振り下げた。

 だが山崎は手元が狂ったのか、剃れたのは新八の繋がった眉毛ではなく彼の前髪だった。しかも思いっきり剃ってしまったらしく、新八の髪は著しく剥げてしまう。

 そのなんとも凄惨な姿を見た山崎は悲鳴を上げる。

 

「ぎゃああああああああッ!? ゴメン新八くん!! ワザとじゃないんだ!!」

「この下手糞ォーッ!! もっと慎重にやらねぇと眼鏡を苦しめだけだぞ!!」

 

 土方が怒鳴り、ユーノは声を荒げる。

 

「新八さんは僕がバインドで動きを封じますからそれから眉毛を剃ってください!!」

「それもそう――」

 

 と土方が相槌を打とうとした時、

 

「うがァァァァッ!!」

 

 今度は標的を変えた新八マユゾンが鬼の副長に襲い掛かる。

 

「ぬおォォォォッ!?」

 

 急な攻撃に対応しきれなかった土方は咄嗟に身を捻って避けて、ついでに新八の髪も剃ってしまう。

 

「ちょっとぉぉぉぉぉッ!? なにやってんですかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 とユーノはシャウト。

 

「あッ……」

 

 と声を漏らす土方。また大きく新八の毛を刈り取ってしまった事実に、土方は顔を青くさせながら手を出して謝る。

 

「す、すまん眼鏡……。ほ、ホントにワザとじゃねェんだ……。だから許して」

「なにやってるアルか!! 新八を一刻も早く助ける為に尻込みしてる場合じゃないネ!!」

 

 神楽はカミソリを構え、

 

「ほァちゃァァァッ!!」

 

 新八の〝後頭部〟に向かってカミソリ攻撃を喰らわせた。

 

「「どこ狙ってんだァァァァァァッ!?」」

 

 おもっくそ最初から髪に攻撃した神楽に向かって、土方とユーノは怒鳴り声を上げる。

 

「あ”あ”あ”あ”ッ!! 新八さぁぁぁぁん!!」

 

 ユーノは嘆く。髪を三回も大きく剃られてエライヘアスタイルになった新八の姿を見て。

 そして山崎も新八のあまりにも哀れな姿を見て汗を流して顔を青くさせる。

 

「どうすんですかアレェッ!? 頭虎刈りなんてレベルじゃねぇよ!! 外歩けねェよ!!」

「しょうがねェなァ。俺が手本てやつを見せてやるぜ」

 

 沖田はやれやれと首を横に振ってカミソリを構える。

 

「喰らいやがれェェェェ!!」

 

 ザシュッ!! と髪と眉が剃れた――土方の。

 

「なんで俺だァァァァァ!?」

 

 前髪の一部と片眉を無残に剃り落された土方は絶叫し、沖田は頭をポリポリ掻く。

 

「あー、ヤッベー。間違えたー(棒読み)」

「総悟テメェェェェッ!! 絶対今のワザとだろ!? どうしてくれんだこのヘアスタイル!!」

 

 土方は喉が張り裂けんばかりに怒声浴びせるが、まったく意に返さない沖田は「やっぱダメか」と言ってユーノに顔を向ける。

 

「おいユーノ。すぐに魔法で眼鏡の動きを封じろィ」

「だから最初からそうすれば良かったでしょうがぁぁぁぁぁ!!」

 

 ユーノは叫びながら新八に向かって『チェーンバインド』を放ち、緑色の鎖で動きを封じた。

 

「さあ今です!! 早く新八さんをたすけ――!!」

 

 ユーノが言い切る前に、大きな影が鉄の柵すら飛び越え、ドシーンッ!! と屋上に降り立つ。

 現れた『ナニカ』はそのまま山崎の後頭部を右手で掴んで地面に叩きつける。

 

「うぎゃあああああああああッ!?」

 

 突如現れた者が山崎を襲った光景に一瞬、一同は唖然。

 

「あ、アレは……!!」

 

 そして開口一番に土方が声を出し、動揺しながらも現れた者の名を口にする。

 

「――『マユラント』!? マユラントが現れやがった!!」

 

 丸太のように太い左手の先は完全に変質して、指先が鋭く太い四本の爪が生えた姿。頭髪はなくともぶっとい眉毛はしっかり一本に連結。

 マユゾン共のボスが登場したのだ。

 

「まさかこんな時にボスキャラお出ましですかィ……」

 

 さすがの沖田も状況が悪いとみてか、少し汗を流している。

 土方はマユラントを睨み付けながら焦りを浮かべた。

 

「くそ……! まさかアリサとすずかはコイツの餌食になっちまったのか……!?」

 

 二人の魔法少女が一体どうなってしまったのか確認のしようがない。

 アリサとすずかが単純にコイツを取り逃がしたのならまだ良い。が、もし目の前の怪物が二人を倒してここまでやって来たのなら、このメンツで倒し切れる可能性は限りなく低い事になる。

 準備も満足に整っていない今の状況はまさに最悪以外の何ものでもない。

 

「つうかここ屋上だよな? コイツ、階段使わずに壁をよじ登ってここまで来たのか?」

 

 まさか一回ジャンプしただけで屋上までやって来たとは考え難いので、壁をよじ登ってきたと見ていいだろう。とはいえ、見た目通り凄まじい身体能力であることは間違いなないだろうが。

 沖田は刀をゆっくり鞘から引き抜きながら口を開く。

 

「土方さんどうします? 正直、眉が繋がることを考えたら無暗に接近戦とかできませんぜ?」

「こうなった以上、背水の陣だ。ここでコイツを倒してこの騒動を終わらせるしかあるめェよ」

 

 土方も沖田同様に刀を鞘から抜きながら構えを取る。

 

「それに邪魔なマユゾン軍団もいねェ。これは寧ろ俺たちにとってまたとないチャンスだ」

「ならまず僕が動きを止めます!!」

 

 ユーノが魔法陣を展開。すると、マユラントの白い眼がユーノに向く。

 

「チェーンバイ――!」

 

 だが本能的に危機を察知してか、マユラントは初動から凄まじく早い動きでユーノに肉薄。そしてそのまますくい上げるように右手でユーノの体を掴み取った。

 

「ぐあッ!?」

 

 ユーノは悲鳴を上げ、それを見た土方は「ユーノッ!!」と声をだす。

 

「ユーノを離せこのデカブツゥゥゥッ!!」

 

 神楽が一気にマユラントまで距離を詰め、怪物の足に足蹴りを叩きつけた。バランスを崩したマユラントは仰向けに倒れ、神楽はその体に跨る。

 

「とどめだおらァァァァァッ!!

 

 神楽はマウントボジションからマユラントの顔面に拳のラッシュを叩き込む。マユラントの両の頬に何度も凄まじい一撃がおみまいされた。

 一見すると神楽有利だが、マユゾンの特性を知っている土方は手を出して慌てて止めようとする。

 

「バカよせ!! そいつに無暗に触れたら――!!」

「私の拳がこの町を救って――!!」

 

 と言ったところで神楽の動きがピタリと止まり、チャイナ服の少女は腕を力なくだらりと垂れさせる。そしてゆっくりと立ち上がり、顔を土方たちへと向けた。

 

「あァ”……!」

 

 眉が繋がったマユゾンへと姿を変貌させた神楽は白目を向いて声を漏らす。

 

「だから接触はすんなってあれほど言ったのに……」

 

 記憶力皆無の神楽に対して、土方は頭痛を覚えたように左手で頭を押さえる。

 

「「あァ”……!」」

 

 と起き上がるマユゾン山崎とマユゾンフェレット。二人もマユラントと接触してしまったが為に眉が繋がり意識を失ってしまった。そしてマユゾン化してしまったユーノの拘束が解けたことで、頭髪が大惨事となった新八マユゾンも立ち上がる。

 そうこうしているうちに屋上にはマユゾンが四体へと増加。一方、マユラントは先ほど神楽にラッシュを叩き込まれたダメージがあるのか、立ち上がる気配はない。

 沖田は「あ~あ」と呑気な声を漏らす。

 

「ゾンビ物でよく見る、『狭い空間で次々と仲間がゾンビになって形勢不利になるパターン』ですぜこれ」

「言ってる場合か!!」

 

 と土方は怒鳴り、焦り声を上げる。

 

「ホントにどうすんだこの状況!? 魔法を使える奴が誰もいねェじゃねェか!!」

「泣き言はなしですぜ土方さん。まずユーノの眉を剃って正気に戻し、次にマユラントを撃破すればいいだけの話じゃないですかィ」

 

 そこまで作戦を沖田は説明した後、ニヤリと不敵に口元を吊り上げた。

 

「ここが正念場ですぜ、〝鬼の副長〟」

「なッ……!?」

 

 沖田の言葉に土方は驚く。まさかあの怠け者で自分にドS行為を常に仕掛けてくる男からこんなにも心強い言葉を受け取るとは思わなかった。

 部下から発破をかけられた土方。このまま引き下がるワケにはいかない。

 

「……いいぜ。やってやる……」

 

 土方は口元を吊り上げ、薄っすら笑みを浮かべる。

 

「マユラントだかタイラントだか知らねェが、鬼の副長の力――思い知らせてやろうじゃねェか」

 

 右手には刀を、左手にはカミソリを構える土方は、咆哮する。

 

「行くぞ総悟ォォォッ!! 真選組の底力、眉毛のバケモンに見せてやるれェェェ!!」

「おっしゃァァァァ!!」

 

 と沖田は大声を上げながら屋上の扉を開けて撤退開始。

 

「って、待たんかィィィィィィィ!!」

 

 土方慌てて沖田に詰め寄り、彼の肩を掴んで止める。

 

「言ってることとやってることが丸っきり正反対じゃねェか!! なにさも当たり前のように俺を見捨てようとしてんの!? さっきの良い感じのセリフはなんだったんだよ!?」

「ああ言えば、土方さんを囮にできるかなァ~って」

「オブラートに包まずぶっちゃっけちゃったよコイツ!?」

「とりあえず離してくれやせん? 俺、ゾンビ映画特有の仲間見捨てるキャラポジでいこうと思うんで」

「それ間違いなく凄惨な目に遭うポジションだぞ! お前それで良いの!?」

「あッ……」

 

 と、沖田が声を漏らしながら土方の後ろを指さす。それに反応して土方がつい後ろに目を向けると、

 

「「うがァァァァァァッ!!」」

 

 新八マユゾンと山崎マユゾンが土方に向かって襲い掛かってきたのだ。

 

「うォォォォッ!!」

 

 吠える土方は咄嗟に沖田の服を思いっきり掴み、一本背負いの要領で彼の体を持ち上げる。

 「えッ?」と呆けた声を漏らす沖田は、マユゾン二匹に向かって投げ飛ばされた。

 

「「うがァッ!!」」

 

 とマユゾン二匹は悲鳴を上げながら、ぶつけられた沖田と一緒に吹き飛ばされる。

 なんとか危機を脱した土方は額の汗を拭う。

 

「危なかった……」

「土方コノヤロォーッ!!」

 

 怒鳴り声を上げる沖田。彼は二体のマユゾンと接触したことによりそのまま眉が繋がり、正真正銘マユゾンと化す。ある意味、土方囮にしようとした報いなのかもしれない。

 目の前のマユゾン四匹にやっと立ち上がり始めるマユラントを見て、土方は頬を引きつらせた。

 

「ヤベ……」

 

 もう正気の人間は土方ただ一人。完全無欠のアウェーと化した屋上に残されたのは自分だけ。

 なんとか逃げ伸びねば、と考えた土方は汗を流しながら少しづつ足を後退させるが、

 

「「「「「うがァァァァァァッ!!」」」」」

 

 今度は五体のマユゾンが逃がさないとばかりに一斉に襲い掛かってくる。

 

「クソォォォォォッ!!」

 

 今度は全力疾走しようと体を後ろに向けた直後、フェレットマユゾンがその素早い動きで土方の背中に張り付く。

 

「ヤバイッ!?」

 

 服越しだからまだ大丈夫かもしれないが、完全に敵に背後を取られ慌てて背中のユーノマユゾンを引き剥がそうとした矢先。

 

「「「「ウガァァァァァッ!!」」」」

 

 四体マユゾンが一斉に土方に飛び掛り、取り押さえられる。

 

「ぐッ!!」

 

 地面に倒れ付した土方はうめき声を上げる。

 完全アウト。もうすぐ土方も眉毛が一本に繋がり、マユゾンと化すであろう。マユラントもゆっくり歩を進めながら土方たちの近くまでやって来る。

 薄れゆく意識の中、土方の目に映ったのは、黒いズボンを履いた足が二本。そしてカタンと『何か』が落ちる。それは黒い――油性ペン。

 そして必死に瞳を上へと向ければ、白い着物を着た銀髪の男がニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! と一瞬にして土方含めた新八、山崎、神楽、ユーノの繋がった眉毛がそぎ落とされる。

 

「――ふッ……。普段から無駄毛処理に追われる俺からしてみれば繋がった太眉の処理など造作もない」

 

 真選組局長――近藤勲はカミソリを構えながらニヤリと笑みを浮かべた。

 

「グォォォォォォッ!!」

 

 敵を発見したマユラントはすぐさま雄たけびを上げて、左手の鋭利な爪を構える。が、すぐに何者かがその腹部にとび蹴りを食らわせ、あまりの威力に後退する怪物。

 そしてマユラントにとび蹴りを食らわせた銀髪の男は木刀を肩にかけながら告げる。

 

「――さァて、そろそろこち亀終了記念も終わりにしようじゃねェか」

 

 銀髪の男の眉には、Mのような形をした黒い眉が生えている――だが、よくよく見ればそれは油性で書かれた落書きの偽物眉毛だ。

 正気には戻ったが気絶している新八、神楽、山崎、沖田とは違い、マユゾンなり掛けだった為に意識をすぐに取り戻した土方は驚いた目で〝銀時〟を見る。

 

「……お前……沖田みてェに眉に落書きしてマユゾン共を騙していやがったのか……」

 

 土方の言葉を聞いた銀時は後ろを振り向いてニヤリと口元を吊り上げた。

 

「なァに。たまたま見たお前んとこのドS王子の案を借りたまでよ」

 

 銀時は自分がRYO-Ⅱに感染しない人間だと知ってはいたのだが、今回のマユゾン騒動はどうやらジュエルシードが原因と言う話をフェイトから聞いた。とすると、自分もマユゾンに変貌してしまうと予想。

 必死こいてマユゾンたちから逃げているうちにフェイトとアルフとは離れ離れ。そんな時に、学校に向かう眉が繋がった沖田とフェレットの姿を見かけた。

 何故二人は眉が繋がっているのに正気なのか疑問に思った銀時。すぐに二人の眉は油性ペンの落書きだと気づいて、自分も油性ペンを使ってマユゾン共を騙すことにした。そしてそのまま沖田の後を付けていたら、学校に到着したと言うワケである。

 そして階段を上っている途中で、近藤となのはが話しかけてきた。かと思ったら、悲鳴を上げて自分を攻撃してきようとしたので、慌てて誤解を解く。そして事情を聞いて一時的に事件解決の為に協力することを決めた。

 

「ぐォォォォォッ!!」

 

 銀時が仲間のマユゾンでないと理解したのか、すぐにマユラントは雄たけびを上げて左の爪を振りかぶり、駆け出す。

 銀時は木刀を構え、大声を上げる。

 

「高町なのはァァァァァ!! 準備はいいかァァァァァ!!」

「はいッ!!」

 

 すると屋上の出入り口から浮遊するなのはが飛び出し、空高く舞い上がってデバイスを構えた。

 銀時は向かってくるマユラントをぎりぎりまで引きつけながら体を捻り、木刀を後ろに引く。

 

「こち亀40周年――」

 

 爪を振り下ろそうとするマユラント。対し、銀時はグワっと目を見開き、木刀の切っ先を一気に前へと押し出す。

 

「おめでとうございまァァァァァァす!!」

 

 凄まじい突きの一撃がマユラント鳩尾に叩き込まれ、その巨体は後ろまで吹き飛んだ。そのまま鉄の柵すら破壊して、屋上から空へと体が放り出される。

 

「ディバイン――」

 

 そして上空には杖の先に桃色の魔力を溜めたなのは。彼女はマユラントに砲身を向けていた。

 

「バスタァァァァァァァッ!!」

 

 凄まじい桃色の魔力の本流が、空中では何もできないマユラントを包み込む。その威力は凄まじく、桃色の光はそのまま下の校庭を破壊して小さなクレーターを作るほど。

 やがて桃色の光が収まれば、抉れた地面には仰向けで倒れ付した男とジュエルシードが一つ。

 

 徐々に曇り空は晴れていき、眉毛が繋がった人々は元に戻っていく。

 そして千切れた雲は少しの間だが、ある文字を作った。

 

 ――『こち亀40周年万歳』

 

 

 

 この後どうなったかと言えば……ジュエルシードをなのはが回収。だがその頃には銀時は姿を消していた。

 今回の騒動を解決する以外の話をなのはと近藤は銀時にしていなかったので、また銀時やフェイトと遭遇するまでは時の庭園へ案内させる交渉は持ち越しとなった。

 アリサとすずかはマユゾンになるどころかマユラントを追い詰めるとこまではいったらしい。だが、襲ってきたマユゾン軍団が多すぎて逃げるマユラントを取り逃がしてしまったようである。

 

 

 新八は学校の屋上で夕日染まる空を眺めている。彼の頭は三回もカミソリで大きく剃られて残念な虎刈り状態になっていた。

 

「――僕の髪……次回には戻りますよね?」

 

 涙を流す新八の横には、前髪の一部と片眉を剃られた土方が立つ。彼はタバコの煙を吐いて、

 

「……作者に直談判でもするか? 俺も付き合うぞ」

 

 余談だが、マユゾン事件はかなりの間ニュースとして取り上げられた。が、映像的な証拠以外この事件を解明できる物が出てくることはなかったと言う――。

 

 


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