魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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第二話です。

*少し文章を変えました。


第二話:時の庭園

 大江戸ドーム。

 

 そこでは、アイドルがステージの上で声を上げ、

 

「みんなァ~!! 私のコンサートに来てくれてありがとうきびウンコォォォォ!!」

「「「「「とうきびウンコォォォォォォ!!」」」」」

 

 その声に観客たちが声援で応える。

 江戸にある巨大ドーム──『大江戸ドーム』では、『ウンコ』という単語をステージの中心で叫ぶアイドルと、その追っ掛けたちでごった返していた。

 

 寺門通(てらかどつう)──ファンの間では通称お通ちゃんと呼ばれている。

 現在、売れ行き№1と言っても過言ではないアイドルお通が、歌とダンスを披露している真っ最中なのだ。

 お通は、その単語、アイドルの歌に歌詞として入れて大丈夫? と思えるようなフレーズを口にし、ドームの観客たちを盛り上げ、歌い続ける。そしてそんな彼女の歌を熱狂的に盛り上げるのは、アイドルオタクや純粋に彼女を応援するファンたちなどだ。

 

 傍から見れば、不思議なフレーズに反応して観客が異様なほど盛り上がっているというシュールな場面。だが、その場にいる者たちの熱量と勢いは最高潮と言っていい。

 異様な空気と雰囲気と存在感を放つ群衆。その一団の中でも、一番と言っても過言でもないほどの大音量の声援を放つ者が一人。

 

「うォォォォオオオオオオオオオオオッ!! お通ちゃァァァァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!」

 

 喉が張り裂けんばかりに声を上げるのは、眼鏡を掛け、『通』という文字が付いた青いハッピと鉢巻きを着た青年。彼は凄まじい形相で、現在進行形で意味不明な歌を歌うアイドルを応援していた。(おの)が親衛隊とともに、腹から声どころか血すら吐き出しそうな勢いでエールを届けようと声を出し続ける。

 

 この見た目ド直球のアイドルオタクの青年は志村新八(しむらしんぱち)。万事屋の従業員の一人にして、江戸一番のツッコミ使いと評される。

 普段は万事屋の仲間たちに地味だのなんだの言われているが、今の彼にはとてもそんな要素は見受けられない。むしろ、引くほどのインパクトを放っている。

 

「みんなァ~!! 今日も私の歌を聴いてくれて、ありがとうきびウンコォォォッ!!」

 

 お通は全ての歌を歌い終え、感謝の意を示す。とても感謝の意を示しているとは思えない語尾ではあるが。

 

「「「「「とうきびウンコォォォォォォッ!!」」」」」

 

 だが、この場に集まった観客(ファン)たちには彼女の語尾のトリッキーさは周知の事実であり、当然とばかりに返しの言葉を満足という気持ちを乗せて贈るのであった。

 

 

 

「いや~、今日もお通ちゃんのライブは最高でしたなァ」

 

 と満足げに感想を言うのは、新八と同じハッピを着た小太り気味の男。彼の言葉に「まったくだぜ」と呼応するのは金髪でリーゼントの出っ歯の男。

 

「今日もお通ちゃんのライブ最高だったな! 新ちゃん!」

 

 興奮気味に新八に声をかける出っ歯の彼は、新八の親友。あだ名は『タカチン』。

 

 声をかけられた新八という青年。彼の後ろに追従している数十人のオタクたち。彼らは『寺門通親衛隊(てらかどつうしんえいたい)』。一見名前から仰々しく思える一団ではあるものの、簡単に言うとファンクラブである。しかも硬派で引くほど熱狂的な。

 

 お通を第一に考え、日夜活動を続けるこのファンクラブ。

 彼らの先頭を歩く青年こそが一団のボス――志村新八なのだ。

 

 万事屋では地味と眼鏡しか印象がない新八。だが、一度寺門通親衛隊隊長という存在になれば、その姿は鬱陶しいほどに派手になる。なにより、お通を応援する時の彼の迫力はまさしく伝説の軍神武田信玄に引けを取らないほどだ。

 そんなライブ後で浮かれている彼らに、隊長である新八は厳しい声をかける。

 

「いいかお前らッ! ライブを聞き終えたからといってボケっとしているんじゃないぞッ!! 次のライブは十日後ッ!! それまで準備を怠るなッ!!」

「「「「「は、はいッ!!」」」」」

 

 凄まじい迫力で活を入れられる親衛隊。もしも親衛隊活動を怠る者あらば、鉄拳制裁もいとわないほど新八はこの親衛隊活動には精力的で厳しいのである。

 その厳しい規律は、カルト教団と揶揄されてもおかしくない域にまで達しているのだ。

 

「ん? おい、そういえば軍曹はどうした?」

 

 タカチンが、親衛隊の幹部たる軍曹の姿が近くに見えないことに気付き、訝しげに周りを見渡す。

 すると隊員の一人がある方向に指を向ける。

 

「軍曹ならあそこでニヤニヤしながらiPh〇ne弄ってます!」

 

 隊員の言葉を聞いてタカチンは声を荒げる。

 

「なにィ!? 軍曹のくせにiPh〇neだと!! つうかまた出会い系サイトとかで女子とメールしてんのか!?」

「いえ、なんか今度はリリなんとかというアニメに嵌ったそうで!」

「なッ!? また親衛隊隊規やぶりやがったのかアイツ!!」

 

 タカチンは隊員の言葉を聞いて余計に怒りに火が付く。

 過去に犯した隊規違反とは別のベクトルとはいえ、幹部である軍曹が鉄の掟を破ったことには変わりはない。

 無論、隊規違反を見過ごすことなどできないタカチン。隊規違反者である彼に文句の一つでも言ってやらないと気がすまなくなる。

 

「ふざけやがってッ! 俺がかつ──!」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 突然の悲鳴に、なんだなんだと隊員たちは驚く。

 見れば、何者かが軍曹に鼻フックをキめていた。叫び声から鼻フックを決めた者に、隊員たちの視線が一斉に移る。

 

 そこには、凄まじい形相となり、鼻フックで軍曹の体を持ち上げる──新八(たいちょう)の姿があった。

 

「「「「「た、隊長ォォォオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」」

 

 隊員たちは怒りの化身と化した新八を見て戦々恐々となる。

 

「軍曹ォォォッ!! 『寺門通親衛隊隊規二十一条』を言ってみろッ!!」

 

 世紀末覇王級の形相で睨み付ける新八に、軍曹は顔を青くさせながら必死に答える。

 

「いだだだだだッ!! たッ、『隊員は決してアニメ並びにマンガなどの二次元の物を愛することなかれ』であります!!」

 

 寺門通親衛隊隊規。

 それは、新八が寺門通を応援するために定めた、鉄の掟――。

 

「その通りだ! 軍曹ォ! 貴様は幹部でありながらこれを破った! よって──!」

 

 新八の目がカッと見開かれ、

 

「ハナフックデストロイヤーアルティメットバーストの刑に処するッ!!」

 

 凄まじい豪腕で軍曹をブン投げ、近くの大木に彼の顔面を激突させる。そして、軍曹のぶつかった木はあまりの衝撃に、ぶつかった部分からミシミシと折れてしまった。

 その光景を見て、隊員たちは顔を真っ青にさせる。

 新八は世紀末さながらの表情で言い放つ。

 

「軍曹ォ!! 貴様の持っているアニメは全てボッシュートだ!! 全て俺がTS〇TAYAにうっぱらってやるッ!!」

 

 

 

 約一時間後。

 

 軍曹は泣く泣く、持っているアニメのDVDとグッズの全てを新八に渡し、泣きながら帰っていった。

 DVDケースを渡された新八は、おもむろにパッケージを見た。そこには一人の少女が写っている。

 

 アニメ『魔法少女リリカルなのはStrikerS』の主人公である女性──高町なのは。

 

 新八はパッケージに写っているなのはを見て、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受け、顔を赤面させる。

 大人ながらも可愛らしい童顔。白を基調とした魔法少女(?)の服装がとてもマッチしており、さらにその豊満な肢体も新八の目を釘つげにした。

 

(あ……アニメなんて……アニメなんて……!!)

 

 DVDケースを持つ新八の手が震える。

 

(くっ……! めちゃありがとうございましたァァァアアアアアアアアアアア!!)

 

 新八は頭を下げ、心の中でどこぞの誰かに全力でお礼を告げる。

 

 そんで、それからは軍曹から没収した『リリカルなのは』のDVDとグッズを売らずに家に持って帰った。無論、親衛隊隊規など完全に彼の頭からすっぽ抜けている。

 結局新八も、美少女に弱い男の子、ということである。

 

 *

 

 場所は変わり、時の庭園の一室。

 

「──いやね、俺も大人だから、ちょっとやそっとのことじゃ、怒らないよ?」

 

 源外の発明品により、どこぞのワケの分からない場所に飛ばされた銀髪の侍。

 銀時は顔を引くつかせながら、誰がいるわけでもないのにぶつぶつ文句を続ける。 

 

「でもね、これはないんじゃない? いや、勝手にヒトんちに不法侵入した俺に、非があると思うよ? でもさ──」

 

 銀時は一度言葉をためて、

 

「いくらなんでも監禁することないだろうがァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 溢れんばかりに叫ぶ。

 彼はここの住人たちにより拘束、監禁されていた。

 

 

 

 そもそもどうしてこうなったのか。

 自分は源外のクソジジイの欠陥品のせいで、別の場所に飛ばされたのはわかる。しかも、いきなり現れた場所がホールのような広い場所。そこには、玉座に座るちょっと不健康そうというか薄幸そうな女が、目のやり場に困る際どいドレスを着ていた。そして彼女の前、っというか自身の前に立っていたのは、これまた変なコスプレした金髪が目立つ少女(ガキ)

 

 二人とも、突然現れた自分に面食らっているのはすぐにわかった。これは、今までの経験からして誤解が誤解を生み自分に損な事態になりかねん、とすぐに感じた銀時。

 すぐさま軽いあいさつの後に弁解して友好を結ぼうと努力した。努力したのだ。

 

 だが、際どいドレスを着た女の「フェイト、捕まえなさい」という言葉。次に、パツキンコスプレ幼女の「バルディッシュ」という掛け声。その後、自分の後頭部に感じた鈍い痛みにより、意識は暗転。

 目が覚めると、椅子に座らされ、手には頑丈な手錠をはめられ、身動きを封じられたていた。揚げ句、この部屋に監禁されていたのでさぁ大変。

 

 銀時は青筋を浮かべる。

 

「たく、なんなんだよあのコスプレ親子は! なんで毎度毎度長編になると俺はこんなメンドーな目に遭わなきゃならないだチクショーッ!!」

 

 いくら文句を嘆こうとこの状況が一変するワケではないが、銀時は文句を言わずにはいられない。毎度のことだと思うが、いつも自分は不幸な目に遭い過ぎてないか? と常日頃から思ってしまう。

 

 前、「なんで俺っていつもひどい目に遭うんだろうな?」と新八にさり気なく言ったら「日頃の行いが悪いからじゃないですか?」なんて返された。その時は、眼鏡の顔面にストレートをくれてやったものだ。

 

 散々文句をぶちまけたおかげか、銀時の頭は段々と冷えてきた。

 

「……ハァ~……暴れてもしょーがねーか」

 

 ダルそうな目で銀時はゆっくりと自分の周りを見る。

 今まで自分の状況に嘆いていたせいで気付かなかったが、ここは人を監禁するような場所というよりは、ただの寝室といった方が良いかもしれない。

 自分の前にある大理石の机。横には、ふかふかそうなベッド。周りには必要最低限の家具もあり、人を監禁する場所には似つかわしくない。

 まぁ、そもそもここが刑務所のような場所でないのなら、ただの寝室に押し込められたというのが自然か、と銀時は結論付ける。

 

 ──俺、どうなっちまうのかなー……。

 

 と、銀時は虚ろな目で天井を見上げる。

 

 別の場所に飛ばされたとはいえ、まだここがどこかも、ここの住人たちが何者なのかも分からずじまいだ。

 兎にも角にもまずは、ここの住人たちが自分に抱いているであろう誤解を解いた上でかぶき町に帰る算段を立てよう、と思っていると。

 

 コンコンと扉を叩く音。次に、少女の声が扉越しに聞こえてくる。

 

「あの、中に入ってもいいですか?」

「えッ? ……あ、あァ……どうぞ」

 

 心なしか遠慮がちな少女の声に、銀時もつい遠慮気味に応えてしまう。なんというか、監禁中の相手に対しての態度にしては少し変じゃね? と銀時はつい思ってしまった。

 

 ゆっくり扉が開くと、金髪の少女が顔を出す。

 金髪の長い髪をツインテールにしており、赤い瞳の可愛らしい女の子。いわゆる美少女というやつだろう──というかあの玉座の広間でコスプレしていた少女(ガキ)だ。今は普通の私服のようだが。

 

 金髪の少女の後ろにはオレンジ色の長い髪の女が立っている。

 出るとこは出ているグラビアアイドルにも劣らないどころか、それよりレベルが高いんじゃないか? と思う別嬪の美女だ。金髪の姉だろうか? なぜかチャックの開いた短パンに、胸の谷間が見える上着。なんというか、あの際どいドレスを着ていた黒髪女と同じような少し扇情的な格好だ。

 ただ、なぜか犬耳付けているコスプレ女なのが残念だな、と銀時は思った。

 

 二人を見てついでに考えたのだが、こんな美女や美少女を新八なんかが見たら一目惚れして発狂するんじゃね? などと本人が聞いたら世界も目指せるナックルが飛んできそうなことを想像しちゃう、万事屋の社長。

 銀時が二人をまじまじと観察していると、金髪の少女が口を開く。

 

「えっと、あなたについて知りたいので、いくつかあなたの身分について教えてくだいさい」

「え~っと……」

 

 銀時は眉間に皺を寄せて、どう答えるか思案顔。

 みたところ相手もそこまで話が通じない相手ではなさそうだ。最初はあんな登場だったし、ここは俺が人畜無害であることを証明しねェと、と意気込む銀時。ここは下手にすっとぼけるよりも、自分のことを正直に話して開放してもらい気持ちよく家に帰るのが理想的であろう、と銀髪の侍は考え付く。

 そう思うやいなや、銀時はちょっと不自然ではあるが柔和な笑みを浮かべ始める。

 

「いやー、すんません。俺もォ、ちょっとした事故に巻き込まれて、突然あなた方の住居に瞬間移動しっちゃったんですよ。いやほんと、まじすんません」

 

 金髪少女は「え?」と言って目をパチクリさせる。

 

「い、いえ。こちらこそいきなり襲いかかってすみません。……あの、頭の方は大丈夫ですか?」

 

 おずおずと尋ねる少女に銀時は作り笑顔のまま答える。

 

「あ、大丈夫ですー。これくらいぜーぜん平気なんで」

「あ、そうなんですか。…………良かった」

 

 金髪の少女は胸を撫でおろす。どうやら、彼女が思っていたよりも自分の態度が和やかなことに内心驚き、安堵しているのだろう。ただ、最後に言った言葉は声が小さすぎて銀時にはうまく聞き取れなかったが。

 銀時は内心でいやらしい笑みを浮かべる。

 

 ──フッ、やはりな。コイツァ随分おりこうなお子様じゃねーか。

 

 この殊勝さ。やはりかぶき町でサラブレッドのように育ったガキどもとは違う。あの町では早々見れないであろう、見た目以上に精神的な育ちの良さが窺い知れる。あの高慢ちきな大食い娘とはえらい違いだ。この謙虚さをあの(ガキ)にも見習わせたいものである。

 とりあえずメンドーごとを避けるためにこのまま殊勝な銀さんで行こうと天パは決め、

 

「まあ、俺の方こそ悪かったんで。とにかく俺を解放してくれません? お互いに誤解と勘違いが生じただけですし。いやほんと、事故とはいえおたくに瞬間移動したことは謝るんで」

 

 もう不自然なくらいワザとらしい作り笑顔を続ける。

 

 見たところ目の前の少女。少し表情に乏しいところはあるが、なかなかに優しそうな感じがする。

 銀時の直感(あてになるか分からない)が告げている。ここは誠意を見せ、少女に自分がどういう人間かアピールすることこそ、ここから五体満足に出て行くことにつながるはずだ、と。普段バカばかり起こすが、完全無欠のバカではない。横柄な態度は取らず、少女への好感度をゲットすることで、無事に帰ることができる──はずである。

 

 銀時の謝罪を聞いて、少女はほほ笑みを浮かべる。

 

「そうですか。それじゃ──」

 

 ──よし! いいぞいいぞ! 

 

 銀時は内心でガッツポーズを決める。

 ついになんの問題もなく厄介ごとから逃れられる。今までの経験が実る日がやって来たのである。

 どうだ! 先ほどまで自分に疑心的だった少女の態度がかなり和らいだではないか! これですぐに家に帰れる!

 

「ちょっと待った」

「へッ?」「えッ?」

 

 と思いきや、突如前に出る犬耳女の声。金髪と銀髪は同時に呆けた声を出す。

 先ほどまで少女の隣に立っていた犬耳を付けたオレンジ髪の女性。彼女は銀時の元まで近づき、鼻を近づけ、すんすんと臭いをかぎ始める。

 

「えッ? なに? なになに?」

「あ、アルフ? どうしたの? 急に匂いなんか嗅いで?」

 

 戸惑う銀時と、小首を傾げる金髪の少女。

 銀時の臭いを嗅いだアルフと呼ばれた犬耳女は、顔を後ろに引いて、怪訝そうな表情で肩眉を上げる。

 

「なんつうか、コイツは怪しさプンプンな臭いがするからさー。このひん曲がった頭みたく、コイツの雰囲気も性格もひん曲がってそうで、信用できない感じ」

 

 おおむね間違ってねェかもしれねェけど、さすがに失礼じゃね? しかも初対面なのに。あと怪しいからって臭い嗅ぐ必要ねェだろ、と内心ツッコミ入れる頭がひん曲がった男。

 

「そ、そうなの?」

 

 と、フェイトと呼ばれた少女は不安な表情を見せれば、アルフは自身の鼻を指さす。

 

「あたしは鼻が利くからね~。良いヤツと悪いヤツの区別だって臭いでガブっとお見通しさ」

 

 どこのなか〇ゆきえだよ、と銀時は内心ツッコミつつ、ジト目で言う。

 

「そもそも、怪しさ云々に鼻が良い悪い関係ねェだろ。つうか怪しさプンプンな臭いってなんだよ。どんな臭いだ」

 

 アルフは腕を組んで「う~ん……」と唸ってから、顎に手を当てて、

 

「ゲロ以下、みたいな?」

「誰がゲロ以下の臭いだ! どこのスピードワゴンだオメーは!!」

 

 反射的に怒鳴ってしまう銀時。

 すると、おもむろに近づくフェイト。彼女は鼻を銀時に近づけて、すんすんと臭いを嗅ぐ。そしてはっとなり、真剣な表情を犬耳女に向けた。

 

「……アルフ、ゲロ以下の臭いなんてしないよ。それと私、初めて男の人のにおいを嗅いだ」

「うん。あの犬耳、体臭のこと言ってたワケじゃねェから」

 

 と銀時はツッコミ入れつつ、つうか加齢臭のヤベーおっさんレベルだったら俺、メッチャ凹んでたぞ、と内心で語る。

 

 銀時はフェイトに対して、コイツ天然だな……、と内心で呆れる。

 失礼な犬耳女もだが、天然気味な金髪少女もメンドクサそうだ、と銀時は思いつつ、嫌な予感を覚え始めていた。

 

「そんじゃま、回りくどいのはなしにして、さっさと本題に入っちまうか」

 

 とアルフは言ってから、キリっと真剣な表情になり、そのまま銀時の顔に自分の顔を近づける。

 

「あんたさー、いったいどんな目的があってこの『時の庭園』にやってきたんだい? まさか、管理局の回しもんじゃないだろうねぇ? 正直に言わないとガブっといくよ?」

 

 ギラリと犬歯を見せながらドスのある声で尋問するアルフ。彼女としては、これで銀時を怯ませた後に情報を聞きだそうとしているのだろう。

 だが、目の前の犬耳女よりも、桁違いの迫力ある連中を見てきた銀時としてはまったく怖くない。

 迫力で怖がらせるくらいなら、オカマたちの楽園たるカマっ娘クラブのママをしている西郷くらいの迫力じゃなきゃたじろきすらしない。いや、あんな怪物も真っ青なモンスターどもに尋問されるのも真っ平ごめんだけどね。

 

 銀時としては、先ほど彼女たちの会話からさり気なく出てきた言葉の方が気になり、嫌な予感を覚えて頬を引き攣らせ、声を震わせながら質問する。

 

「あのォ……つかぬことをお伺いしますが……。さっき、〝地球に向かう〟とかなんとか言ってましたが、もしかしてここって……地球じゃないの?」

「ん? あぁ、そうだよ」

 

 アルフはさも当然とばかりに答える。

 

 ──地球どころか宇宙に飛ばされたァァァアアアアアアッ!! 

 

 銀時、心からのシャウト。江戸のどこかでなくても、せめて見知らぬ土地(地球圏内)の場所かと思いきや、まさかの大気圏突破である。別の惑星に飛ばされていたとは思わなかった。

 心の銀時は歯噛みしつつおっかない表情で、ここに送った犯人を恨む。

 

 ──あのジジィ……! 俺をいったいどこまでぶっ飛ばしやがったんだ!! 

 

 だが怒りと同時に銀時は冷静な思考で自身の状況を分析する。

 

 ──どうりでなんかおかしいと思ったぜ。俺はいつの間に別の惑星に飛ばされていたんだな。

 

 銀時は続けてフェイトとアルフに目を向ける。

 

 ──コイツらもこのどことも分からねェ惑星の住人ってことか。だからこの犬耳女もキャサリンみたいに犬耳を頭にくっ付けたあまん。

 

「ここは〝次元の狭間〟の海に浮かぶ城……だっけか?」

 

 思考の途中でアルフが言う。彼女は眉間に皺を寄せ、腕を組み小首を傾げながら説明を始める。

 

「んで、『時の庭園』て言うんだよ。つうかあんた、知らないでここに来たのかい?」

 

 怪訝そうな表情のアルフに銀時は答えを言う暇なんぞもうなくなった。

 

「えっと……。絵にするとだいたいこんな感じ、かな」

 

 とフェイトは絵を見せつつ説明する。

 

「今アルフが言ったように、この時の庭園は虚数空間という次元の狭間の海に浮かぶ城。次元世界というよりは拠点って言った方がいいかな?」

 

『時の庭園』という場所をA4位の大きさの紙に書かれた図で説明された。イメージ的には天空の城みたいな感じ。

 フェイトの簡略図を見て絶句する銀時は、

 

 ──天元突破どころか異次元突破したァァァァァァアアアアアアアアアアッ!! 

 

 内心またシャウト。

 まさか宇宙に飛び出すどころか、次元の壁をぶちやぶって異世界にやって来るなんて展開に──。

 

「──って、んなワケあるかァーッ!! どんな新展開だおい!! なんだその別アニメ設定!? 百歩譲って別の惑星ってのは信じても異世界だとか異次元の狭間に浮かぶ城だとかFFバリバリの設定を信じるわけねーだろ! 大人舐めんじゃねーぞ!!」

「ああん? こっちはせっかく説明してやってんのに逆ギレかい? とてもじゃないけど大人の態度とは思えないねぇ」

 

 腰に両手を置いてやれやれと首を横に振るアルフに対し、銀時は青筋を浮かべる。

 

「腹立つリアクションしやがるなァオイ! っていうか大人だってなァ、脳のキャパシティ超えるような現象に陥ったら誰だってこうなるんだよ! 誰でも柔軟な対応できると思わないでいただこうかッ!」

「セリフは情けないのになんで態度は無駄にデカいんだよ」

 

 アルフは少々呆れたのかため息をつく。

 

 最初に考えた、誠実な人物を見せて好感度上げよう、とかいう作戦なんぞもう銀時の頭には入っておらず、完全に素に戻って混乱していた。

 そして少し間を置いた後、ある仮説を銀時は思い付く。

 

「…………はは~ん? さてはテメーら、俺を担ごうって気だな? 実はこれはただのドッキリで、ここは異世界でもなんでもなくて、お前らはただの仕掛け人だな? うん。それしか考えられない。どうせぱっつぁんとか神楽とかババアとかがいろいろ共謀して俺を嵌めようとしてんだな? まったく冗談きついですよ仕掛け人さんよー。まー、俺にドッキリを仕掛けるならもう少しマシなネタを用意するべきだったな! アハハハハハハハハハハッ!!」

 

 勝手に決めつけて勝手に自己完結させて、しまいには狂ったように笑い始める銀時。

 情けないような、かわいそうな姿の大人を見て、フェイトとアルフは互いに顔を見合わせる。

 

 

 

「──この虚数空間に浮いている小さい島のような場所が、あたしらが住んでいる『時の庭園』だよ」

 

 と言うのはアルフ。

 

「…………」

 

 椅子に縛られたまま外に連れてこられた銀時は、外の景色を見て白目剥いて絶句している。

 なにせ目の前には、青空でも鉛色の曇り空でもないオーロラのような摩訶不思議な色の空、というか空間がどこまで広がっているのだから。

 

 銀時にとっては、まさに一発で犯人を逮捕できるような証拠を見せ付けられた気分だった。どう考えても自分の身内が用意できるような仕掛けの規模ではない。隣でアルフがなにか言っているが、まったく耳に入ってこない。

 

 ──誰か助けてください。

 

 銀時はとりあえず現実逃避したくなった。

 顔面蒼白になって白目剥く銀髪の様子を見ていたアルフは顎に手を当てる。

 

「なんか管理局の回しもんじゃなさそうだね。あたしら騙すための演技でもなさそうだし。そもそもそれほど巧みな演技できそうに見えないしさ」

 

 隣のフェイトはうんと頷く。

 

「たぶん次元漂流者で間違いないと思う。ちょっと間が抜けていそうな感じだし、事故かなにかでやって来たんじゃないかな?」

 

 なんか後ろで失礼な会話が聞こえるが、目の前の壮大な景色のせいで銀時の耳には声などまったくもって入ってこない。

 

「ちなみにあたしは狼の使い魔だからね。こうやって狼にだってなれるよ。すごいだろ!」

 

 と狼になる犬耳女。

 

「私は魔法が使えます」

 

 手から金色の光の玉を出す金髪幼女。

 

 ──誰か助けてください。

 

 あ、そうだ。瞬間移動習得して地球に帰ろう、と思った銀時であった。

 




今回の話からpixiv版で質問コーナーを募集し、次話から質問コーナーで質問をお答えしたいましたが、ハーメルン版では質問コーナーは抜いておくつもりです。
基本的には本編のみの投稿をするつもりでいます。
それとハーメルンでの感想が書きにくい場合はpixivでも大丈夫です。

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