魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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今までのけもだった近藤さんが今回からついに参戦です。


第二十六話:未来と光明

「わたし、高町なのはです!!」

 

 突然自己紹介したなのはに目をパチクリさせる銀時。

 目の前の少女の顔にまったく見覚えがない。いや、厳密には顔にうっすらとだが心当たりがあるのだが、全然思い出せない。

 

「あの、志村新八と神楽って名前に心当たりはありませんか?」

 

 なのはが不安そうな顔で尋ねれば、銀時は驚愕の表情になる。

 

「えッ!? お前あのバカ二人のこと知ってんのか?」

「バカ……」

 

 仲間を『バカ』呼ばわりする銀時の言葉に、若干微妙そうな表情を作るなのは。

 銀時は元の世界の仲間が出てきたことに驚きを隠せないようで。

 

「つうか、なに? お前あの二人と知り合いなの? マジで?」

 

 フェイトの手助けをしている銀時。彼の現状の立場は、目の前のなのはとはジュエルシードを巡って争っていると言う、紛いなりにも対立関係なワケだ。

 だがしかし、まさかその少女が自分のよく知る人物たちと知人だと言うことに信じられないでいた。

 

「あと、土方さんや沖田さんや近藤さんとも知り合いですよね?」

 

 と付け足すように言うなのはの言葉に、銀時はさらに驚いてしまう。

 

「はッ!? お前あの腐れ警察共とも知り合いなのか!?」

「腐れ……」

 

 なのはは銀時の言い草にまた微妙な表情。

 まさか、警察の皮を被ったチンピラ共とも知り合いと言うことに、銀時はなんとも言えない表情で嫌悪感を露にし始める。

 

「おいおい、世界狭過ぎるとかそんなレベルじゃねェだろ。なんであいつら異世界いんだよ。同じ世界の、しかも知り合いが別世界で出会う確率とか天文学的数値だろんなもん」

「いや、あの、新八さんたちは銀時さんを追いかけて海鳴市にやって来たそうだなので」

「あー、そうなの」

 

 銀時のあっさりした態度に、なのはと一緒にいるフェレットまで微妙な表情。

 

「そ、そんなあっさりこっちの話しを信じるんですか……」

「……あのさぁ、話がよく見えないんだけど? つまりあんたの家族が見つかったってことかい?」

 

 眉間に皺を寄せるアルフの言葉に、銀時は首を縦に振る。

 

「あァ。まあ、帰れるめどが立ったかまでは分からねェが、俺んとこのバカ共がどうやらこの世界にやって来ちまったみてェだな」

「へぇ、なるほど……」

 

 相槌を打つアルフの顔は、どことなく不安そうに見えた。

 銀時の顔に一度目を向けたフェイトはなのはへと顔を向ける。

 

「じゃあ、銀時の仲間たちはあなたのとこにいるってこと?」

「う、うん」

 

 なのはがぎこちなく首を縦に振れば、再びフェイトは銀時に顔を向けた。

 

「銀時は……」

 

 そこで一旦言葉を途切らせたフェイトは、意を決した表情で言葉を続ける。

 

「仲間たちの元に戻りたい? もしかしたら、自分の世界に帰れる可能性だって高いよ」

「…………」

 

 口を閉ざし見つめてくる銀時に、フェイトは安心させようとしてか薄く笑みを浮かべた。

 

「わたしは大丈夫。銀時がいなくても、アルフと二人でジュエルシードは回収していくから」

 

 だが、黒い魔導師の表情は、一抹の寂しさを感じさせた。

 一方、なのははおずおずと話しかける。

 

「……あの、新八さんと神楽ちゃんも、ずっと銀時さんのことを気にかけていました。もし、銀時さんが戻れば二人も喜ぶと思うんです」

 

 やまかしいがほっとけない、バカ二人の顔が銀時の頭を過ぎった。だが、銀時は何も言わずフェイトの襟首を掴んで帰ろうとしだす。

 

「ほら、とっと帰るぞ」

「ぎ、銀時?」

 

 と驚くフェイト。

 

「銀時さん!?」

 

 なのはも銀時の行動が予想外だったのか驚いた表情になり、困惑しながら質問をする。

 

「あの、銀時さんは……新八さんと神楽ちゃんに会いたくないんですか? 二人はずっと銀時さんのことを心配してたのに……」

 

 悲しそうな表情を作るなのはの言葉を聞いて銀時は立ち止まり、口を開く。

 

「なァ、一つ聞きたいことがあるんだけどよ」

「えッ? えっと、なんですか?」

 

 小首を傾げるなのはに、銀時は質問を投げかけた。

 

「二人は元気だったか?」

「はい。寧ろこっちが元気を貰うくらい元気です」

 

 と、なのはは苦笑気味に言う。

 

「そうか……」

 

 相槌を打つ銀時の口元は、心なしか少なからず釣り上がっていた。

 銀時は頭をポリポリと掻く。

 

「それだけ聞ければ充分だ。今んとこ会う必要はねェ。あいつらにちゃんと会うのは、こっちの仕事を片付けてからだ」

「えッ……」

 

 なのはは意外そうに声を漏らし、銀時は振り返らずに語る。

 

「途中で依頼を投げ出す真似なんざする方が、あいつらに怒られらァ。それに、俺もそれなりに仕事にはプライドを持って臨んでるんでな」

 

 そして、振り返った銀時はビシっとなのはに指を突きつけた。

 

「一度コレと決めた依頼は最後まできっちりこなすのが万事屋だ。覚えときな」

 

 そう言ってまたフェイトの襟首を引っ張って行こうとする銀時に対し、なのはは引き止めようとしない。さほどやる気の感じられない彼の瞳から、確かな決意を感じたからだろう。

 

「銀時、あんた……」

 

 静観していたアルフは瞳を揺らしながら銀時を見つめている。その瞳をチラリと見た銀時は、頭を掻く。

 

「お前、俺が自分犠牲にしてお前らのために味方してるだとか、そう言うこと思ってるだろ?」

「だって、折角仲間が見つかったのに……」

 

 どうやらアルフはアルフで銀時のことを考えてくれていたようだ。だが銀髪の侍にとって、今のところ大きなお世話でしかない。

 

「別に俺は無理してお前らに付き合ってるワケじゃねェよ。変な勘ぐりすんな」

 

 アルフの顎を指で撫でる銀時。対して、狼の使い魔はくすぐったそうに目を細める。

 

「前にも同じような話したが、俺ァ好きでお前らに付き合ってんだ。人の好意には遠慮せずに甘えときな」

「んん…………って、あたしは猫じゃねェ!!」

 

 アルフはバシっと銀時の腕を振り払う。

 銀時はプラプラと手を軽く振りながら歩き出す。

 

「ほれ、とっとけェって飯食うぞ~」

「待ってください!!」

 

 すると声を上げたのは、フェレット。なのはの横にいた小動物は捲し立てる。

 

「あなたたちが集めようとしているジュエルシードは危険な物なんです!! それを集めたってあなたたちには何のメリットもありません!!」

 

 喋るフェレットを見た銀時は驚いた表情で。

 

「うわッ、ウィンナーが喋った。気持ちワル」

「誰がウィンナーですか!! いきなり失礼ですね!!」

 

 怒鳴るフェレット。すると銀時は、

 

「じゃあ、お稲荷さん?」

「お稲荷さんてなんですか!?」

「あ、ならチ○コか。卑猥な形してるもんなお前」

「しまいには殴りますよあんた!!」

 

 ブチ切れるフェレットはなんとか気持ちを静めて、再度説得に入る。

 

「と、とにかく! ジュエルシードは危険な物なんです! 私的な理由で使ったって決して良いことなんておきません!!」

 

 対し、

 

「悪いけど、わたしたちは損得抜きにしてジュエルシードが必要。だからいくら言われようと、引き下がるつもりはない」

 

 冷たく言い放つフェイト。

 押し黙ってしまうフェレットに、続いてアルフに主にならって言い放つ。

 

「あたしはフェイトの使い魔だから、フェイトに付いて行くだけさ。フェイトが考えを変えないなら、あたしだって変えるつもりはないよ」 

 

 仲間二人に、銀時は交互に視線を送る。

 

「宣戦布告はその程度にしときな。そろそろ帰らねェと、夕飯が夜食になっちまう」

 

 じゃあな、と銀時は言って手を軽く振りながら歩く。そして、彼の後を付いて行く少女と使い魔。

 

 そのまま三人は、廊下の暗闇にゆっくりと消えていく――。

 

 なのはは彼らに何か言おうと声を出そうとしているが、まるで喉に何かが詰まったかのように言葉を出せずにいた。

 そんな白い少女に、フェレットが声のトーンを落としながら話しかける。

 

「……なのは、僕たちも帰ろう。銀時さんを見つけたことも含めて、土方さんたちに話さないと」

「……うん」

 

 力なく返事をするなのは。

 結局、今回もフェイトたちに対して何もすることができなかったことを、悔やんでいるのだろう。

 

 

 翌日。

 

「ガァーハッハッハッハッ!! いやァ~、桃子さんの料理は本当においしい!! 俺の思い人に負けてないくらですなァ!!」

 

 朝っぱらか高町家の食卓で一際バカデカイ声を上げるのは、ゴリラ似の偉丈夫――近藤勲。

 彼は目の前にある和食をガツガツと勢いよく口に運んでいく。

 

「美人な上に料理上手な奥さんがいて、士郎殿は罪作りな男ですなァ!!」

 

 ガハハハハッ!! とまた豪快に笑うゴリラ。もとい近藤。

 上機嫌の彼の言葉に対し、桃子はニコニコとした顔でお茶を持ってくる。

 

「まぁ、近藤さんはお世辞が上手なんですねぇ」

「いやいやァ~! お世辞を言った覚えはありませんよ! 俺は本当のことしか言えないバカなもんですから!!」

「まぁ」

 

 フフと笑う桃子。

 すると、近藤と対面して座っていた桃子の夫である士郎も笑い声を上げる。

 

「ハッハッハッ! 近藤さんは本当に愉快で豪快な方だ。見てるこっちまで元気を貰えそうですよ。そうだっ! 機会があれば今度、〝コレ〟でもどうですか?」

 

 と、おちょこを持つポーズをする高町家父。

 

「おっ! いいですなァ! 素敵な奥方の話を(さかな)にするのはどうですかな?」

 

 と近藤も同じポーズで答える。

 

「ハッハッハッハッ!! 本当に気持ち良い人だ!!」

 

 愉快そうな二人の様子を眺めているのは、高町夫婦二人を除いた高町兄妹と新八に、神楽と真選組一同。

 

 頬を引き攣らせる新八は、場を静観していた土方に顔を向けた。

 

「……あの、なんで近藤さんあんなに馴染んでんですか? あの人、気絶してそのまま一晩明かして朝食ご馳走になってるだけの人ですよ」

「さーな。まァ、あの人に関して言えば、他人と縁を深めるって部分は得意分野って言っていいからな。裏表がなく、無邪気な性格が功を奏してるってところだろ」

 

 土方はタバコを吹かしながら答えた時、士郎は近藤の太い二の腕を観察しながら尋ねる。

 

「そう言えば、近藤さんはスポーツか何かでもやっているのですか? 中々がっしりとした体躯をお持ちだ」

「おや、分かりますかな? いやァ~、士郎殿は中々の眼力をお持ちだ。ええ、その通り。この近藤勲。ちょっとしたスポーツに勤しんでおりまして」

「ほほぉ……。それで、どんなスポーツを?」

 

 目を細める士郎に、

 

「『ストーカアスロン』です」

 

 と、真顔で答えた近藤。彼の言葉に士郎は目をパチクリさせる。

 

「? ……すみません。そのようなスポーツは聞いたことがないのですが、どう言ったスポーツなのですか?」

 

 士郎は謎の単語に首を傾げ、近藤は腕を組む。

 

「おや、士郎殿は知りませんでしたか。では、お教えしましょう。『ストーカアスロン』とは――!!」

 

 ストーカアスロン――。

 その起源は古く、古代ギリシャ時代から始まったとされる。

 当時、恋愛にも女性にも臆病でチキンだった童貞(ヘタレ)のエロス。当時から彼はエロ本を読み漁り、性欲を嫌というほど溜めていた。

 母親には「早く働けこのごくつぶし!!」と毎日罵声を浴びせられる日々。

 ある時、エロ本のチェック為に本屋に向かっていたエロスは、王宮に仕えていた娘に一目惚れした。それからエロスが彼女の尻を追いかける日々が始まる。

 だが、いつものように娘の尻を追いかけながら王宮に忍び込んだエロスは運悪く衛兵に見つかり、捕まってしまう。

 王妃と毎日よろしくヤってる王は、童貞で嫉妬深い非リア充であるエロスを嫌悪し、処刑しようとした。が、最後にエロスはコミケに行きたいと懇願。

 王は「誰か一人、身代わりになる者(リア充)を紹介して代わりに処刑せてくれたら見逃すけど、どう?」とエロスに持ちかけた。

 エロスはすぐさまリア充である親友を差し出したのだが、次に王が「もし三日が経つまでにお前が戻ってきたら、お前の好きな娘はお前に惚れるかもな(笑)」と言われ、トンズラするつもりだったエロスは必死な思いでコミケ会場まで走り、王宮に戻る為に必死に走る。

 今まで溜めていた性欲を爆発させる勢いで、王のところまで戻り、最後の最後、好きだった娘を手に入れた。

 

「――といった具合の感動活劇を元に、好きな女性の後を追う、ストーカアスロンと言うスポーツが出来たんですよ」

 

 近藤の長ったらしい説明を聞いて、士郎は口元を引くつかせる。

 

「…………それは、ただのストーカー行為なのでは?」

 

 対して、腕を組んだ近藤はしみじみとした顔で、

 

「まぁ、正式名称はストーカーですが、基本的には純粋で一途な想いを元に走るスポーツとして扱われています。俺も過去にいた伝説のストーカーを見習って、日々想い人の尻を追っているんです」

 

 うんうんと頷きながら語る。

 

「な、なるほど…………」

 

 士郎は戸惑いながらも、妙な説得力につい納得してしまったようだ。

 その様子を見ていた新八は、青筋を浮かべながら冷めた視線を土方に向ける。

 

「土方さん、アレのどこが善悪がなくて無邪気なんですか? 嫌がる女性の尻を追う行為を、スポーツとして正当化させようとしてるんですけど。悪と邪気しかない不純な存在なんですけど」

「………………」

 

 ジト目の新八の言葉を無視するように、土方は明後日の方向に顔を向けながらタバコの煙を吐く。

 

 

「ほほォ……」

 

 と、顎髭を撫でる近藤。

 

「つまり、なのはちゃんとユーノ殿はなんでも願いを叶えると言うジュエルシードを回収している最中で、今は突如現れたジュエルシードを狙う黒いライバル魔導師と対立している最中ということだな」

 

 なのはたちの説明を噛み締めるように復唱する近藤。

 なのはの部屋で、うんうんと頷きながら話を聞いている近藤を見て、新八と山崎と土方は安堵した表情。

 新八が微笑を浮かべながら口を開く。

 

「よかった。近藤さんてバカだから、一回で話を理解できないと思ってましたよ」

「お前たまに酷いこと言うよな」

 

 さらっと近藤をバカにした新八に、土方はジト目向ける。

 

「よくわかった!!」

 

 説明を聞き終えた近藤は一際声を上げ、膝をバンと叩く。

 

「つまり君たちは聖杯戦争やっているのだな?」

「いや、ちげェよ!! さっきの説明ゼリフはなんだったんだよ!!」

 

 結局、ちゃんと理解してなかった近藤にツッコム新八。

 そんなこんなで、近藤に一から十まで理解させるのに数時間は時間を有した。

 

 

 場所は変わり、バニングス邸のリビング。

 そこにいるのは、土方、なのは、新八、神楽、沖田、山崎、近藤。

 

「土方さん。本当に近藤さんにも『コレ』を見せるんですか?」

 

 と言いながら、新八が『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』のパッケージを見せる。

 いくらなんでもなのはの部屋では狭いということで、バニングス邸の広いリビングでDVD観賞することとなった。ちなみに近藤、アリサ、すずか、ユーノはDVDの準備ということで別の部屋で待ってもらっている。

 

 「気がすすまねェか?」と土方が片眉を上げながら言えば、神楽が新八をたしなめる。

 

「ぱっつぁん。いくらゴリラとはいえ、ハブはよくないネ」

「そうだぜ眼鏡」

 

 と沖田も便乗して語りだす。

 

「いくら近藤さんがオメェの姉上を普段ストーキングしてるからって、そんな一人だけ『社内旅行教えてもらえなかった』悲しい窓際社員みてェな扱いはよくねェなァ」

「沖田さんの例え分かりにいくいんですけど!」

 

 と新八はツッコンでから「いや、そうじゃなくて!」と首を振る。

 

「僕が言いたいのはそういうことじゃなくてですね――!」

「近藤さんは知る必要がねェって思ってんだろ?」

 

 言葉を遮って言う土方の言葉に、新八は頷く。

 

「はい。事情を知る人間が一人でも多い方が良いとは僕だって思いますよ? でも、魔法関係者で覚悟ができているアリサちゃん、すずかちゃん、ユーノくんはともかく、近藤さんに至ってはまだジュエルシード事件を知ったばかりだし。それに――」

「近藤さんが知らなくても、事件に関われば結果的にいろいろ知ることになるから、わざわざ教える必要はないと?」

 

 オブラートに包まず、先取りした土方の言葉に、

 

「ええ、まァ……」

 

 と自信なさげに返事をする新八は、弱々しく語る。

 

「正直これ以上『この秘密』を知る人間を必要以上に増やすのに意味はあるのかなって……思ったので」

「まァ、お前の言いたいことも分からんでもない……」

 

 腕を組む土方。

 すると、なのはがおずおずと言い出す。

 

「でも……近藤さんも知ってくれれば、きっと力になってくれると思うの」

 

 まだ知り合ってからの時間は少ないが、土方たちのボスで明け透けのない性格を見てそう思ったのだろう。

 

「いや、なのはちゃん。事は、そう単純じゃないんだよ」

 

 新八の言葉を聞いた沖田が口を開く。

 

「他人の秘密をベラベラ喋るような真似をしたくないってことだろ? 眼鏡」

「はい。土方さんの考えを聞いて僕も少しは考えたんです。やっぱり、DVDの内容を見せるってことは、フェイトちゃんの秘密を教えるってことだし……。なにより、近藤さんにまで重い秘密を背負わせるのはどうなのかなって……」

「あっ……」

 

 なのはも新八の言わんとしていることがようやく分かったようだ。

 

 他人の秘密を易々と口外すると言う行為もそうだが、フェイトがクローンで母親に愛されていなかった、などという重い秘密。

 それをバカだが純粋な近藤に教え、内に秘めさせながら事件に関わらせるという、気苦労が耐えない役割を与えるべきなのかどうか。

 

 新八なりに近藤を思っての意見に、土方は首を縦に振る。

 

「確かに、俺らの誰しもフェイトの真実、そして未来で起きる悲劇を知って、これからどうするかなんてことは数え切れないほど悩んだ」

 

 近藤だけではない、新八や神楽になのはなんかは必要以上に他人に共感し何かしようとする。真選組の面々だって何かしらの葛藤は抱えているはずだ。

 

「それを他人にベラベラ喋るのだって、よくねェってこともな」

 

 土方の言うように、今だって「自分たちも知りたい」と言ったアリサたちに、件の映像を見せる事は正しい事なのか? と悩んでさへいる。

 

「だけど俺たちは決めただろ? 知った以上はハッピーエンド――いや、俺たちが納得のいく『良い未来』にこれから変えていこう、てな。どうなるにせよ」

 

 土方がそこまで言えば、

 

「もちろん全力でナ!」

 

 と付け足す神楽。

 

「過去に戻れるワケでもなし。なら悔いが残らねェよう万全の状態で俺たちはこの事件に臨むしかねェ」

 

 土方の語りを聞いて新八は呟く。

 

「だからこそ、近藤さんに教えることは必要……」

「あァ……それにあの人に迷惑をかけるかどうかで、気を使う必要はねェよ」

「部下に気ィ使われて頭悩まさないより、部下と一緒に頭悩ます方を選ぶ人ですからねェ」

 

 沖田の言葉を聞いて、新八は力強くうんと頷き、立ち上がった。

 

「わかりました! 近藤さんにも事情を知ってもらいましょう! あっ……でも近藤さんが他人の秘密を知るのを断った場合は――」

「俺たちが知っている以上……まー、あの人が断るってことはねェだろうがな」

 

 こころなしか、真選組副長は微かな笑みを浮べていた。

 

 

 数時間後――。

 

 今、テレビの前では『プレシアがアリシアが入ったポットに抱きつきながら虚数空間に落ちていくシーン』が流されている。

 そこまで映像が流れたところで土方は映像を止め、DVDを機器から取り出す。

 それを真剣に見ていたのは、怪獣騒ぎでまだ最後まで映像を見ていなかったアリサとすずかとユーノ、とついでにデバイス組。そして今までずーっと警察に捕まって離脱していた近藤勲。

 

「――まァ、これが今回起こるであろう事件の大まかな内容ってところだな」

 

 土方はDVDをケースに入れながら言う。

 正直、新八としてもこれが『実際に現実で起こる』内容と知ると、グッと心が締め付けられるような、言葉で説明しきれない感情が生まれる。

 特に根が優しいアリサとすずかは、余計に感じるものがあるだろう。

 

「……これが、本当にこれから『起こる』内容ってなると……結構キツいわね……」

 

 アリサは険しい表情で視線をあちこちに向ける。内心相当複雑な心境なのだろう。

 

「………………」

 

 すずかに至っては俯いて何も言えずに、ただただ涙を流している。

 やはり、『現実に起こる事』とあらかじめ前提に置きながら見れば、悲しいと言う気持ちが映像作品として感じるよりも、何倍にもなっておしよせているのかもしれない。

 

「まさか、この先こんな事が……」

 

 ユーノに至っては悲しみ同情といった感情よりも、プレシアと言う人物が行った非道やジュエルシードによって起きかけた災害に呆然としているようだ。

 まさか自分がきっかけで起こった事件がこんなことにまで発展するとは、本人さへ思っていなかったのだろう。

 

 腕を組んで真剣な顔で俯いていた近藤は、ゆっくりと土方に顔を向ける。

 

「トシ……」

「近藤さん。正直、決意も何も準備ができてねェあんたに見せるのもどうかと思ったが、俺たちの大将であるあんたにも俺としては見て欲しかったってのが俺の個人的な意見だ。すま――」

「お前たち、いつの間になのはちゃんたちと一緒に実写映画なんぞ撮ったたんだ?」

「いや、ちげェよ!! なんでそういう解釈になった!? あんたにコレ見せる前に、未来の映像だのなんだの説明を色々した後、あんたちゃんと納得したよな!? そんで見るって力強く返事したよな!? なんでそんな答えが返ってくるワケ!?」

 

 まさかの回答に土方は呆れてしまう。対して、近藤は頭をぼりぼり掻く。

 

「いや~、すまんすまん。なんかあんまりにも戦闘やら話やらがぶっ飛びすぎて、本当に未来で起こることなのか、にわかに信じられなくてな」

「なんでこの人バカのくせに、こういうとこは常識的なんだろ……」

 

 と呟く新八。

 近藤は「だが……」と言って、膝に手を置く。

 

「『お前たち』が本当のことだと言うなら、本当にコレは未来で起こることなんだろうな……」

「近藤さん……」

 

 思わず自身の大将の名前を口にする土方。

 

「お前たちが頭悩ませて、俺を信じて打ち明けてくれた話だ。大将が部下の言葉の一つや二つ信じてやらんでどうする」

 

 近藤は頭をぼりぼり掻きながら、新八や土方たちに向かって顔を上げる。

 

「俺もこんな馬鹿げた未来にならんよう、せいぜいない頭を使わせてもらおう」

 

 と、言葉の最期に眩いくらいの笑顔を見せる真選組の長。

 

「まァ、期待に答えられるほどいい案が、俺の頭から出てくるか分からんがな」

 

 そして、頭を悩ませるようにまた頭皮を掻きは始める近藤。

 年長者の考えを聞いたアリサやすずかは、お互いの顔を見合わせて決意の篭った表情を作る。

 

「そうね! 色々思うことはあるけど、下を向いてる暇なんてないわね! やることも考えることもたくさんあるんだから!」

 

 アリサが立ち上がりながら言えば、

 

「うん! これからうんっと頭を使って、頑張って考えていこう!」

 

 すずかも力強く握り拳を作る。

 そんな少女たちの様子を見た新八は笑みを浮かべ、土方へと顔を向けた。

 

「僕、近藤さんも仲間に入れて良かったと思います」

「なんだかんであの人の不器用なところは周りに影響与えちまうんだよ」

 

 ちょっと満足げに言う土方。

 

「それに、『悩む』なんてこととは無縁の人ですしねェ」

 

 壁に背を預ける沖田も、少なからず笑みを浮かべている。

 やがて、土方がドアを開けて出て行く。

 

「土方さん?」

 

 それに気づいた新八が土方に目を向ける。

 

「……外でタバコ吸ってくる」

 

 

 

 テラスに出た土方はマヨネーズ型のライターに火を付け、タバコに火を付ける。

 

「すぅー…………ハァ~……」

 

 煙を目いっぱい吸い込み、まるで溜めていたものを吐き出すかのように、煙を吐く。

 

「どうしたトシ? 最近タバコが吸えなくてストレスでも溜まったか?」

 

 冗談け混じりに言ったのは、近藤だ。腕を組み、広いバニングス低の庭を眺める。

 土方はタバコを吸いながら横目でチラリと近藤を見る。

 

「近藤さん。あんたは正直どう思ってる?」

「どう、とは?」

「もちろん、フェイトのことだ」

 

 近藤は空を眺めてから、口を開く。

 

「正直、魔法だの『ろすとろぎあ』だの、俺たちの世界にはないモノのばかり。続けて間髪入れずに未来の話だ。正直、俺の脳みそでは処理しきれんよ」

 

 苦笑混じりに言う近藤の言葉に、土方は「そうか……」と小さく相槌を打つ。

 

「だが――」

 

 土方の視線がチラリと横に向く。

 近藤は憂いを帯びた顔で。

 

「ただ言えるとするなら……なのはちゃんの裸を見てしまった為に、あの子と今後どう接すればいいか分からんと言うところだ」

「そこォ!?」

 

 予想外な発言する近藤に思わずツッコミ入れる土方。構わずゴリラは真剣な表情で言う。

 

「いやまさか、なのはちゃんの全裸シーンを拝んでしまうとはなァ。俺はロリコンではないが、あの年頃の少女に悪いことをしたと思っているよ」

 

 近藤の言うとおり、なのはの魔法少女変身シーン(ほぼ素っ裸)を飛ばし忘れて、彼女の顔を死ぬほど真っ赤させたのは記憶に新しい。

 さすがの土方でも真摯になって謝ったほどだ。

 

「あー……うん……。なのはは優しいから許してくれるんじゃー、ないかな? そこら辺」

 

 土方はとりあず曖昧なフォローしておく。

 すると、近藤は顎鬚を触りながら思案顔を作る。

 

「しかし……プレシア・テスタロッサ……か。あれは一筋縄ではいかなそうだ」

 

 とりあえず、シリアス会話に戻ったので土方も真面目モードで返す。

 

「あァ。言い方悪いが、あのイカレちまった母親が目下最大の難所だ。フェイトを介さんことには説得することすら困難だ」

「しかし、あの人一体何歳なんだろうな? 結構な歳のはずなのに、すげェ見た目若かったな」

「いや、そこは別によくない? アニメのお約束的なアレでサラッと流せばよくない?」

「歯がゆいことだが、魔法を使えん俺たちにはフェイトちゃんの説得と言う地道な道しかないのだろうな」

 

 軽くなったり、真剣になったり、なんとも安定しない近藤についツッコム土方。

 とりあえず、シリアスな方に主軸を置くことにする。

 

「……剣を振るうしか脳のない俺たちが、そもそも魔法なんぞ関わること自体、おこがましいことなのかもな」

 

 タバコの煙を吐く土方は内心、客観的に見ればこの事件での自分たちの力など非力に等しいモノになるかもしれない、とすら思っているほどだ。

 

「ふっ……あの天然パーマのバカなら、一体どんな突拍子もない解決策を考え付いただろうな」

 

 近藤は、この世界に来ているであろう、憎たらしい顔をする銀髪男の顔を思い起こしているのだろう。

 

「さーな。ま、碌なこと思いつかねェだろうがな」

 

 そう言って土方がタバコを吐いた時だった。

 

「なんのお話をしているんですか?」

 

 土方と近藤が背後からの声に反応して目を向けると、なのはがテラスを繋ぐ窓を開けて入ってきていた。

 

「おまえこそどうした? こんな所に来て」

 

 と、逆に土方が問えば、

 

「ちょっと、土方さんと近藤さんの様子が気になって」

 

 なのはは苦笑混じりに答える。

 

「別に大した話じゃねェ。どこぞの腐れ天然パーマのことを話していただけだ」

 

 そう言って土方は煙を吐く。

 

「天然、パーマ……」

 

 一部の単語に反応したなのはを見て、土方は怪訝そうな表情になる。

 

「ん? どうした?」

 

 するとなのはがおずおずと言う。

 

「あの、その天然パーマの人って……もしかして銀髪の人ですよね?」

「っ!?」

 

 土方は驚きの表情を浮べ、近藤が食い気味に質問しだす。

 

「なのはちゃん!! まさか万事屋――坂田銀時のことを知っているのか!?」

「はいっ! わたし、銀時さんに会いました!!」

「おい、詳しく聞かせろ」

 

 土方の眼光が鋭いものとなる。

 

 

 

「えええええええええっ!? 銀さんがフェイトちゃんと行動を共にしているゥーっ!?」

 

 驚愕の声を上げたのは新八。神楽も「マジでか!?」と驚きの表情。っと言うか、まさか自分たちがよく知る人物が、フェイトと行動を共にしていると言う衝撃的事実に、動揺を隠し切れないのは土方や近藤も一緒だ。

 

「さすが旦那。いつも厄介ごとの中心にいるような人でさァ」

 

 江戸出身者で、沖田だけはあっけらかんとした態度だが。

 

「あの野郎は……なんでこうつくづく、重要な案件の中心にいつの間にか首突っ込んでだ!!」

 

 頭を抑える土方の脳裏に、憎たらしい銀髪天然パーマの顔がちらつく。

 

「つうか、なんでお前今までそんな重要話黙ってたんだ?」

 

 土方の言葉に、なのはは人差し指同士をつんつんとくっ付けながら、シュンと肩を落とす。

 

「すみません……。わたしも言おうと思ったんですけど……昨日、銀時さんに遭った後は皆さん寝てましたし……。それで、朝言おうとしても学校で、その上朝から皆さん忙しそうだったから……。それで……帰ってから言おうとしたけど、アリサちゃんやすずかちゃんやユーノくんにDVDを見せる大事な場面でしたし……中々言えるタイミングが見つからなくて……」

「あー……わかった。とりあえずお前の言い分はわかった。もう気にするな」

 

 なんか悲壮感漂う少女を見て可哀そうに感じたのか、土方はとりあえずフォロー入れた。

 その様子を見ていた新八は関心気味に。

 

「あの鬼の副長に一切の攻めの隙を与えないなんて……さすがなのはちゃん……殊勝だ……」

 

 たぶん山崎なら「山崎ィィィィッ!! 早く言わんかいィィィィィッ!!」と言った感じに、ぶっ飛ばされていたんだろうなぁ、と新八は思った。

 まあそもそも、いくら鬼の副長でも反省している子供を頭ごなしに怒鳴るなんてこともないだろうが。

 

 すると、新八は握り拳を作って笑みを浮かべる。

 

「でも、これはチャンスですよ!! 光明が見えてきました!!」

「どう言うことアルか新八?」

 

 神楽は首を傾げ、沖田はニヤけ顔で。

 

「察しがわりィなチャイナ」

「んだとコラ!」

 

 ドS男に神楽はメンチ切るが、沖田は無視して新八に顔を向ける。

 

「ようは、フェイト側にいる旦那を使って、時の庭園の案内役にするってことだろ?」

 

 沖田の言葉を聞いて新八は「はい!」と力強く頷く。すると、なのははパンと両手を合わせた。

 

「そっか!! 銀時さんを説得すれば、フェイトちゃんともお話しする場を設けられる!!」

「うまくすれば時の庭園にも行けるかもしれない!」

 

 すずかが言葉を続け、

 

「そんで逆らうようなら拷問&調教して吐かせればいいって寸法でさァ。まァ、半日もすればあの小娘と犬娘を従順に仕上げてみせますぜェ」

 

 黒い笑みを浮かべておぞましい案を出す沖田。

 アリサは新八にサラッと告げる。

 

「新八。あいつは絶対フェイトに近づけちゃダメよ?」

「うん。断固阻止するから」

「と、とにかく!! 銀時さんのお陰で一気に良い方向まで物事が進みそうですね!!」

 

 とにもかくにも、なのはは嬉しそうに表情をほころばせていた。まさかの予想外のチャンスに、彼女も嬉しいと言う感情を抑えきれないのだろう。

 土方も満更ではないような顔で。

 

「まッ、まだまだ狸の皮算用の粋だが、自体が好転してきたのは確かだな。……あの銀髪のお陰ってのは胸糞だが」

 

 ぼそりと土方が最後に言った言葉を聞いたなのはは新八に、耳打ちする。

 

「(新八さん。土方さんて、銀時さんのことが嫌いなんですか?)」

「(う、うん。あの二人、水と油ってくらいホントに仲が悪いから。とりあえず、あの人を銀さんの交渉相手にさせるのだけは避けてね?)」

「(は、はい……)」

 

 小声でひそひそ新八となのはが話していれば、

 

「ガァーハッハッハッ!! まったく!! 万事屋の奴は知らぬところでとんだファインプレーをやってのけたもんだ!!」

 

 と大笑いする近藤。

 なんの悩みもなく笑う男を見て、新八と土方は思った。

 

 ――あッ、この人完全に『ここに来た最初の目的』忘れてる、と。

 

 読者諸兄も忘れているかもしれないが、近藤は銀時を恋敵だと勘違いし、抹殺目的で彼を追いかけてきた――のだが、おバカなゴリラ(ストーカー)はそのことをすっかり忘れてしまったらしい。

 思い出させて勘違いを訂正させるのもメンドーなだけなので、江戸組は誰も教えないが。

 


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