とある道では、二足歩行で歩く緑色のトカゲのような人形を持った男の子が、道に落ちていた青い宝石を拾った直後、その宝石は光だす。
そして光が収まるとそこには、
「グルルルル……」
全長五十メートル近くもある巨大なトカゲのような怪獣が現れていた。
「ギャオオオオオオッ!!」
怪獣の凄まじい咆哮を聞いた子供は、泣きながら一目散に逃げ出してしまう。
とある森の中では、蛾が地面に落ちた宝石の上に乗ると、その蛾は光に包まれる。
そして光が収まればそこには、
「キュゥー!」
巨大な蛾の怪獣が出現していた。
鳴き声を上げると同時に羽を羽ばたかせ、空に上昇する蛾の怪獣。
そして留置所……。
そこにはゴリラが現れたという情報を聞きつけ殺到したマスコミと、警察に呼ばれてやって来た保健所の人間やら動物園の人間やらが、武装をしてやって来ていた。
檻の中にいるゴリラに麻酔銃を構える部隊。
「撃てぇ!」
その言葉を合図にゴリラに向かって麻酔銃が放たれる。
「ウホォッ!!」
麻酔銃を撃たれたゴリラは悲痛な叫び声を上げるが、次の瞬間、
「ヤメロォッ!!」
なんと喋ったのだ。はっきり「やめろ」と意味のある単語を。それを聞いた人間たちは唖然とし、麻酔銃を撃つことさへ忘れてしまう。
そしてゴリラは麻酔銃を撃たれても、眠らないどころか興奮して暴れだす。
「ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ!」
なんども叫び声を上げながら檻を凄まじい腕力でこじ開け、そのまま銃を構えている人たちを千切っては投げ、千切っては投げと言った具合に蹴散らしていく。
その様子を見ていた警察官の課長は、思わずある言葉を発する。
「猿の惑星ライジング」
「課長、それもうネタ古いっす」
と部下。
課長はゴリラパンチにノックアウト。
暴走したゴリラはそのまま留置所から飛び出す。
「きゃあああああああッ!!」
「うわあああああああッ!!」
突如現れたゴリラに驚いたマスコミ陣は一目散に逃げていく。
「グウォォォォォォッ!!」
そしてゴリラは自身の怒りを表すかのように胸を叩き、ドラミングを始める。するとゴリラの体は光に包まれ、どんどん巨大になっていく。
「ウッホォーッ!!」
そして最後には、体長五十メートルという怪獣サイズの大きさまでになったのだ。
*
「ゆ、ゆゆゆゆゆユーノくん!! 結界!! 早く結界を張って!!」
いきなり三大怪獣の登場に唖然としていた新八だったが、すぐに我に返り、慌ててユーノに結界を催促。
呆然としていたユーノも新八の言葉で我に返る。
「はッ、こ、こういき――!」
魔法関係者と自身が許可した人だけを除く、全ての人間に何も認識させず、進入もさせない人避けの結界を張ろうした時だった――。
*
折角の有給休暇。
俺はブラリと外食しようと外出し、新鮮な空気を吸って暖かい日差しを浴びながら歩いていた。そしてふと、道端に青い光る宝石のような石が落ちていたのに気付く。
これは運がいいぞ、と思った俺。少し幸福な気持ちを感じながら、近くのレストランに到着。
その時だった――。
まさかの怪獣の登場。その圧倒されるほどの巨大な体躯に恐怖する俺。
今でも大好きな特撮の存在が目の前に現れたことに対して、憧れではなく恐怖しか生まれてこない――っと感じていたが、俺の心の中のどこかには少なからず、一つの願望もまた、湧き上がっていたのだ。
ヒーロー――昔見た、銀色の巨人に変身してヒーローになりたいと……。
その時、俺が手に持っていた青い石が光を放ち、俺の視界は光に包まれた――。
「ジュワッジッ!!」
突如として今度は、銀色の巨人が右腕を伸ばして空から登場。
「「「「「「なんか出たァァァァァァァッ!?」」」」」
まさかの巨人の登場に、驚愕する面々(沖田と神楽以外)。
「ヘアッ!!」
街中でファイティングポーズする銀色の巨人の声を聞いて、三対の怪獣の視線が一気に巨人へと向く。
「ギャオオオオオオオオッ!!」
「グオオオオオオオオオッ!!」
「キュゥ~ッ!!」
銀色の巨人を見た三対の怪獣は同時に雄叫びを上げる。
「ま、まさか……結界を発動する直前に、新たなジュエルシードが発動するなんて……」
ユーノはまさかの展開に呆然と汗を流す。これで今、発動しているジュエルシードは合計四つとなったのだ。
「って言うかアレ……」
汗を流す新八は怪獣たちを指でさす。
「思いっきりゴジ○とモス○とキング○ングとウルト○マンにそっくりですよねェ!! 特撮界のスターのパチモンが揃い踏みじゃないですか!!」
「ならとりあえず、まずは名前付けてやらないとな」
と呑気に沖田が言えば、
「いや、そんなことしてる場合ですか!! 僕の結界は人に影響が出ないだけで、周りの建造物は壊れたらそのままなんですよ!!」
いくらなんでも事態の深刻さを軽視しているとか思えない沖田の態度に、さすがのユーノも怒鳴った。
だが怒鳴られた沖田には少しも反省の色はなく、淡々と語る。
「いいか? 特撮界のお決まりとして、やっぱ怪獣の命名は必要なんだよ。視聴者も分かりやすいしな」
「いや、この作品小説! 特撮じゃねェから!!」
ツッコム新八を無視して、沖田は怪獣を指さししながら命名していく。
「じゃあ、あのトカゲはジラだな」
「わー、マグロ食ってそうな名前」
新八は反射的にツッコム。それから沖田の命名が続く。
「あの蛾はモスで、あのゴリラはキングゴリラだ」
「ゴリラの方はダサしい語呂わるッ……!」
「そんであの巨人はウルトラマソ」
「なんて言うか、どいつこいつもパチモン邦画みたいな命名しますね。いやまー、それでいいんでしょうけど」
脱力気味の新八がコメントしている間に、怪獣たちは動き始める。
まず巨大な蛾の怪獣が銀色の巨人に向かって飛翔し、それを巨人は寸前で避けるが、トカゲの怪獣がすかさず巨人に向かって光線を口から放射し、攻撃を受けた巨人はそのまま背中から地面に倒れてしまう。
そして巨大ゴリラが銀色の巨人の上に乗ってマウントポジションを取り、顔にパンチのラッシュを叩き込む。
すかさず巨大トカゲが巨人の足を踏みつけ、巨大蛾はその上空を回りながら鱗粉をまき散らす。
「なにしにきたのあの人!?」
あっさりピンチに追い込まれている正義のヒーロー的なポジションを見て汗を流す新八。
フルボッコにされる巨人を哀れそうに見る土方、アリサ、沖田
「あの巨人、思いっきり怪獣の敵って認識されたな……」
「今まで散々怪獣を倒してきた報いってやつかしらね……」
「アレが俗に言う怪獣リンチってヤツか」
他の面々も三人のように巨人に同情の視線を向けていた。
「いやなに冷静に見てるんですか!?」
とユーノはツッコム。
「あの三匹が巨人に気を取られている間に早く封印しないと! 今度は街に多大な被害が!!」
ユーノの声を聞いてはっと我に返る魔法少女三人。
「そ、そうだった! レイジングハート!!」
「う、うん! 早くなんとかしないと! エンシェントホワイト!」
「もちろんよ! エンシェントフレイア!!」
レイジングハートを手に掲げてバリアジャケットを展開するなのは。続いてアリサとすずかもバリアジャケットを纏う。
光に包まれた三人は特徴的な衣装を身に纏い、その手には変形した自身の相棒が握られていた。
「ユーノくん! 私たちはどうすればいいの!」
なのはの問いを聞いて、ユーノは上空の少女を見上げる。
「なのはは空を飛んで隙を伺って、前にやった封印砲撃をあの三匹たちに向けて撃ってッ!」
「わかった!」
なのはは力強く頷く。
「でも、あの三匹や巨人はたぶん人間や生物を取り込んでいるはずだから、ジュエルシード単体の思念体よりも手強い!! 前に戦った思念体よりも封印するのは難しいと思う!!」
「なら、具体的になにをすればいいの?」
ユーノは自身の魔法に関する知識を使ってアドバイスを続ける。
「より強い魔力を込めるんだ! ただ無闇に攻撃を当ててもたぶん効果は薄いと思う! よりジュエルシードが近い箇所に砲撃を当てるのが効果的なはずだ!!」
「わかったの!!」
返事をしたなのはは、靴に妖精のような桃色の羽を左右四枚展開させ、上空に飛び上がった。
ユーノはより声を大きくして、
「僕はここで状況を観察しながら念話で指示するから!!」
うん! となのはは頷いてから、凄まじいスピードで怪獣たちの元まで飛行。
なのはの後を付いて行こうとするアリサは、ユーノに尋ねる。
「ユーノ! あたしとすずかはどうすればいい!?」
「僕は二人のデバイスの特徴をあまり知らないから、デバイスの指示に従って行動して!! フレイア! ホワイト! アリサとすずかをちゃんとサポートして!!」
《な~に当たり前のこと言ってるんですか!!》
と答えるフレイアに続いて、ホワイトも静かに言う。
《言われなくてそのつもりです》
二機のデバイスの言葉を皮切りに、アリサは背中に燃える翼を、すずかは妖精のような水色の羽を四翼背中から展開させ、銀色の巨人をリンチしている怪獣たちの元へ向かって行った。
飛んでいく少女たちを見ていた新八は、やる気まんまんの顔をユーノに向ける。
「ユーノくん! 僕たちはなにを!」
「新八さんたちは踏み潰されたりしたら危ないので、そこにいてください」
遠まわしに戦力外通告された新八たち。眼鏡の青年はションボリ。
まあさすがに、空の飛べない彼らに五十メートル級の怪獣共をなんとかするのは無茶と言うものだ。
「ウホッ! ウホッ! ウホォーッ!!」
「ヘアァ……!」
銀色の巨人は、ゴリラの丸太のように太い腕の一撃を顔にくらい、目から光がなくなり、それからピクリとも動かなくなった。
「あッ、ノックアウトした」
と沖田は呟く。
「ホントなにしに来たんですかあの人はァー!!」
新八は結局なんの活躍もなく敗れた無能巨人を見て口をポカーンとさせる。
銀色の巨人をやっつけたゴリラはギロリと、つぶらな瞳を巨大なトカゲに向けた。
「グオォォォォォォッ!!」
「ギャオオオオオオオンッ!!」
自身を鼓舞するようにドラミングする巨大ゴリラと、耳が割れそうなほどの鳴き声を出すトカゲ怪獣。
「おおっと! 両者相手を威嚇するように鳴き声を上げたー!」
と沖田はマイクに勢いのある声を出す。
「これは昭和以来の世紀の対決が期待できそうです!!」
沖田の横では神楽もマイクに向かいながら畏まった話し方をしだす。
「いや、なに呑気に実況初めてんですかあなたたちは!! なんかキャラもおかしいし!!」
ユーノはツッコム。
いつの間にか長机を前にして座って、実況的なことはじめる二名。すると沖田はすっと顔を真顔にして、
「することなくて暇なんでィ」
「実況すること以外、私たちにできることはないアル」
と言って、鼻をほじる神楽。
「もっと他にあるでしょうが!! って言うかうるさいんでちょっと黙っててください!!」
ユーノのツッコミを無視して二人は実況を続ける。
「さ~、解説のジミーさん! どう思いますか?」
神楽が横に座っている山崎に目を向ける。彼の前には解説と書かれた立て札が置かれていた。
いきなり振られた山崎は戸惑い気味に。
「えッ? ええっと……やはり、口から光線のようなモノを出せるジラの方が強いんじゃないでしょうか」
「っと、地味で面白みもない地味な解説でしたァ!」
と神楽が言い放つ。
「いや、なんの捻りもない解説した俺が言うのもなんだけど、そういうこと大声で言うのやめてくれない!?」
「いやそもそも実況をやめてください!!」
とユーノが強く言うが、
「おおっと! 巨大なゴリラがジラに向かって駆け出したァー!!」
沖田は普段のキャラなど置いてけぼりにして、熱い実況を続行。
そして彼の言うとおりゴリラが駆け出し、トカゲが体を捻って尻尾を巨大ゴリラの横顔に叩きつける。
「ウホォッ!」
横に倒れるゴリラ。だが、すぐさま立ち上がる。
すると、トカゲはまた尻尾を振って攻撃した――が、ゴリラは頭を下げて避け、瞬時に駆け出し、敵の首にラリアットを叩き込む。
「ギャァオッ!!」
うめき声のようなモノを出す巨大トカゲ。
「特撮界特有のプロレスのような対決が行われてますねェ」
一連の戦いを見た沖田は実況を挟む。
神楽は「えぇ」と頷き、コメント。
「これは両者の奮闘に一層期待できそうです。解説の山崎さんはどう思いますか?」
「ええっと、そうですね。やはり――」
「おおっと! ここで巨大トカゲに動きが!!」
と、神楽は山崎を即スルー。
「いや、つまらないかもしれないけど! 振ったならせめて最後まで解説させろよ!!」
と山崎は涙目で抗議。
ラリアットを受けて倒れるトカゲ怪獣。だが、ダメージなどモノともせずに立ち上がり、口から光線を吐いてゴリラの顔に浴びせる。
「グオォッ!?」
さすがのゴリラも堪らず倒れるが、今度は空を飛んでいた巨大蛾が触手から光線を出してトカゲに攻撃。
「ギャオォッ!!」
ダメージを受けたのかトカゲも苦しみの混じった鳴き声を上げるが、すぐさま口から光線を出して巨大蛾に反撃。
「キュゥ~ッ!!」
巨大蛾は凄まじい反撃に合い、苦しそうに鳴き声を上げた。
すると、再び立ち上がったキングゴリラがジラに向かって駆け出し、二匹の怪獣は取っ組み合いを始める。そして巨大蛾は取っ組み合いを始める二匹の上空を何度も旋回し、羽から
地上で戦う二匹は、鱗粉の毒を受けて皮膚にダメージを受けている。
ちなみに銀色の巨人は暴れるキングゴリラとジラに何度も踏まれ、しかも落ちてくる鱗粉をモロ全身に浴びていた。
それを見て実況する沖田と神楽にも熱が入る。
「なんという攻防! まさに怪獣大決戦だァ!」
と沖田は惜しげもなく声を出し、隣の神楽もノリノリで実況。
「これを見れば最初の銀色の巨人がどれだけいらない存在かを、思い知らされますねェ。解説のザキ山さん」
「おおっと!」
と声を上げるのは山崎ではなく沖田。
「ここで魔法少女組に動きがあるようです!」
「せめてセリフくらい言わせてくれよ!!」
と涙目なザキ山解説。
「いや、そもそもその実況になんの意味があるんですかッ!!」
ユーノのツッコミが実況者たちに炸裂した。
【ゆ、ユーノくん! どうしよう! とてもじゃないけど、近づけないよ!】
さすがに隙がないくらい激しい戦闘のためか、戦いの様子を見ていたなのはは、ユーノに念話を飛ばす。
【なのは! 君は砲撃型だ! さっきも言ったけど、別に近づかなくても君は封印が可能だ!!】
【そ、そうだった! なら!】
念話でユーノに自分のスタイルを指摘されたなのはは、近くのビルに降り立ち、レイジングハートを構える。
《Cannon Mode》
レイジングハートが音声を流すと同時に、デバイスの形状が変形。一撃必殺という言葉が似合う姿へと変化。
だが、問題なのはどこの箇所に砲撃を当てるかという点だ。肝心のジュエルシードが体のどこにあるのか把握していない。
なのはは念話でユーノに指示を仰ぐ。
【ユーノくん。ジュエルシードがどこにあるのか、どうやって調べればいいの?】
【魔力で生成した『サーチャー』を飛ばして! そうすれば君自身が近づかなくても、魔力の根源を探ることができるはずだ!】
【わかったの!】
言われた通り、なのはは目を瞑る。魔力を集中させ始めたようだ。
《Search》
すると、レイジングハートからいくつも桃色の光球が飛び出し、取っ組みをしている怪獣たちの周りを探るように飛び回る。
怪獣たちの大きさに比べれば、とてもとても小さいが、青く光る部分を見つけた。
「見つけたッ!」
【なら、その情報をアリサとすずかに教えて!】
ユーノに言われ、アリサとすずかに念話を送るなのは。
【アリサちゃん! すずかちゃん! ジュエルシードの場所が分かったよ!】
【それでどこなのなのは!】
とアリサに聞かれ、なのはは答える。
【ジュエルシードは全部怪獣さんたちの顔! 額の部分にあるの!】
【なら、そこに封印用の攻撃を当たればいいんだよね?】
すずかの問いにユーノが頷く。
【そう! 君たちの魔力量なら、魔力を込めた一撃をジュエルシード近くの部位に当たれば封印できるはずだ!】
すると、あることに気付いたなのは。
【でも、アリサちゃんもすずかちゃんも私と違って長距離の攻撃はできないよね? いくらなんでも、あの中に突っ込んだりしたら怪我じゃ済まないよ! だからジュエルシードは全部わたしが――!】
【ちょっと待ちなさいなのは!】
待ったをかけたアリサ。彼女はニヤリと笑みを浮かべる。
【いつあたしが接近戦しかできないって言ったのよ?】
なのはは心配そうに話す。
【でも、アリサちゃんのデバイスって剣だよね? さすがに遠くを攻撃するのは……】
【まぁ、見てなさい。遠距離攻撃があんたの専売特許じゃないことを見せてあげるわ!】
念話で啖呵切ったアリサは、手に持つ自身のデバイスに顔を向ける。
「あんた、あれだけ自信満々に自分の性能を語ったんだから、ここで拍子抜けするようなとこ見せるんじゃないわよ?」
《もちろんです! 私の性能をちゃ~んとその目に焼き付けてくださいね!》
自信満々に言うフレイアの言葉を聞きながら、アリサは近くのビルの屋上に降り立つ。
アリサの降りたビルから怪獣たちまでの距離は、およそ四十~五十メートルくらいだ。
すると、フレイアが軽口を叩く。
《でも、いくら私の性能が良くたって、使用者であるアリサさんの技術や魔力や想像力で戦いを左右するんですから、そこら辺はちゃんと頭に入れてくださいよ~》
「分かってるわよ。それで? もちろんあんたは遠距離攻撃もできるんでしょうね?」
《もっちろんです! それどころかアリサさんのイメージで、あなたのできることの幅は広がりますよ~》
「そういうのはこれから先! 今は簡単でいいから遠距離攻撃の仕方を教えなさい!」
《では、アリサさん。柄をしっかり両手で握って、私を顔の横で突き刺すように構えてください》
「こう?」
アリサはフレイアに言われたとおりの突きの構えをし、ジラの額に狙いを定める。
するとフレイアが普段の軽い口調を止め、真剣な声で指示を出す。
《大剣の刀身が伸びる姿をイメージしてください。一本の炎の柱が伸びる姿を……》
アリサはそう言われ、目を瞑り、強くイメージする。自身のデバイスの刀身が長く長く、敵を突き刺す槍となるように、どこまで伸びる姿を――。
柄を握る力をより強め、ゆっくりと目を開くアリサ。
剣の刀身がより赤く、より熱を持ち、ゴォォッ! と炎を発生させ、纏った炎で大剣となる。
「いっけェェェェェェェェッ!!」
アリサが叫べば、炎剣の刀身は敵の額に向かって一気に伸びた。
いきなり自分の目の前まで迫って来た大剣の切っ先を、トカゲは避けることもできず、額にグサリと炎剣が突き刺さる。
だが、少女が放った大剣よりも遥かに巨大な巨体。突き刺さったところで痛くも痒くもないのであろう。声すらあげることはしない。
しかし、アリサの目的はダメージを与えることではなく、ジュエルシードの近くまで自身の攻撃を届かせることだ。
《今です!》
タイミングを計ってフレイアが声を上げる。
「ジュエルシード封印!」
アリサが封印の魔力を流し込む。
炎剣を伝ってジュエルシードを封印するための魔力が流れ込み、巨大な怪獣は鳴き声を上げながら光に包まれ、ただの怪獣の人形に戻ってしまう。
「ウホッ?」
ゴリラは急に自分が戦っていた敵がいなくなったことに首を傾げる。
「アリサちゃん凄い!」
すずかは友の活躍を見て目を輝かせた。
《すずか様。次は私たちの番です》
デバイスが自身の主に声をかければ、
「うん」
頷くすずか。
空を飛んでいたすずかは空中に留まり、ホワイトに目を向ける。
「ホワイト、お願い!」
《Mode change》
すずかの言葉に答えるように、ホワイトは自身を分解させ、槍から銃身の長い銃へと姿を変えた。
「す、すごい……。槍が銃になっちゃった……」
なのはのようにデバイスが部分的に変形するのではなく、丸々姿を変えたことに目を丸くするすずか。
すると、銃からホワイトが声が流れる。
《厳密にはスナイパーライフルと呼ばれる物です。すずか様、スコープを覗いてください》
「う、うん」
すずかは少し戸惑いながらも素直に、銃の上部に備え付けられたスコープのレンズを覗く。
「あッ……」
声を漏らすすずかの片目に映ったのは――まるで目の前で見ているかのような、蛾の怪獣の額。
現状の距離では、肉眼で確認したら砂粒ほど小さなジュエルシードが正確に見えるほどなのだから、凄まじい精度だ。
「す、すごい……」
自身のデバイスの性能に感嘆するすずか。
《すずか様の望むのであれば、努力と工夫次第で数十キロ離れている標的であろうと捉えるようにする事が可能です。後は標準を合わせ、封印の魔力を込めた弾を放つだけです》
ホワイトが解説を入れつつアドバイスすれば、すずかは「うん」と頷く。
すずかは真剣な面持ちでジュエルシードにゆっくりと標準合わせる。しかし、もちろん標的は動くので引き金を中々引くことはできない。
すると、ホワイトが少し優しい声音で、
《ご安心くださいすずか様。弾に多少の追尾機能もございます。一度ロックオンすれば弾丸が勝手に狙った箇所まで向かっていきます》
「分かった」
そう言って、もう一度ジュエルシードに照準を合わせるすずか。そして、ロックオンした合図であろう、ピピという音声が流れた。
バキュンッ!
引き金を引くすずか。封印の力を纏った魔力弾が螺旋回転しながら、モスの額に向かって飛んでいく。
弾丸が狙った位置から少しズレるが、弾道は標的を追うように曲がり、そのまま吸い込まれるようにジュエルシードへと直撃。まるで、青く細い魔力の糸が、すずかの銃口とジュエルシードを直結させているかのようだ。
攻撃が当たったことを確認したすずかは声を上げる。
「ジュエルシード封印!」
「キュゥ~!!」
鳴き声を上げて光に包まれた巨大な蛾は、ただの蛾となってどこかに飛び去って行く。
「二人とも凄い!」
なのはは親友二人の活躍を目の当たりにして、自分も負けてられないと思い、レイジンハートをゴリラに向かって構え、『カノンモード』へと変形させた。
「ウホッ……」
ゴリラは他の怪獣達がいなくなったことに目を白黒させている。
別の方向からピンク色の光が発光していることに気付き、そこに顔を向けると――切っ先に魔力を溜めた杖を、自身に向けている少女の姿が。
「ええいッ!」
なのはがトリガーを引くと同時に、溜まった魔力が一気に開放。それは光の奔流となり、桃色のエネルギーはゴリラの顔面に直撃した。
「ジェルシード封印!」
となのはが言えば、
「グワァァァァァァッ!!」
ゴリラは叫び声を上げながら光に包まれる。
巨大ゴリラの姿は消え、巨獣がいたであろう場所には、白目剥いて仰向けで倒れている近藤と、その横には空中で浮いているジュエルシードの姿。
「ジュワッ!?」
ここでようやく目を覚ますのは銀色の巨人。
ファイティングポーズを取りながら周りを見回すと、
「後はコイツでラストよ!」
アリサの声を皮切りに、三人で攻撃しようとした――その時、電気を纏った金色の魔力の弾が複数、上空からまっすぐ銀色の巨人に向かって降り注ぐ。
「ヘアッ!?」
予想外の攻撃に驚く銀色の巨人となのはたち三人。
上空を見上げると、黒衣を纏った少女が急行していた。
「アレは……!」
アリサの目が見開かれ、
「フェイトちゃん!!」
なのはは襲撃してきた少女の名前を叫ぶ。
フェイトはバルディッシュの先端を槍のように変形させ、銀色の巨人の胸元にあるジュエルシードまで突っ込んでいく。
そのまま金色の閃光となって突貫するフェイトは、一気に銀色の巨人の胸を貫いた。
「ジュワッ!?」
驚く銀色の巨人。
そして、銀色の巨人を体ごと貫いたフェイトは急停止し、デバイスを横なぎに振り切って、呟く。
「――ジュエルシード封印」
銀色の巨人は光となって消え、空中には青色に輝くジュエルシードだけとなった。
流れるように、フェイトはゆっくりとジュエルシードに近づき、バルディッシュの中に青い宝石を収納。
またしても突然のフェイトの登場。呆然としていたなのはであったが、すぐに我に返って黒衣の少女に声をかけようと近づく。
「あ、あの……」
だが、なのはに気付いたフェイトは、敵対心といったモノを剥き出しにし、自身の相棒の切っ先をなのはに向ける。
「あぅ……」
なのははフェイトの態度を見て一歩引いてしまう。やはり彼女の眼に自分は、ジュエルシードを巡って戦う敵としか、映っていないのだろう。
「近いうちに、あなたたちの持つジュエルシードも貰い受けます」
そう捨てゼリフを言った後、すぐさま上空へと飛んでしまうフェイト。
「あッ……」
去って行くフェイトへと伸ばされたなのはの手は、虚しく広げられるだけだった。
「……あの、今回僕たち、まったく活躍してませんでしたね……」
と新八が言えば、
「なら、羽でも生やすこったな」
と土方が返す。
現れた銀色の巨人並にいいとこなしだった、新八たちであった。