魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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最近ちょっとモチベーションが保てなくて中々投稿にこぎつけなくなってしまっています。
気分転換に暇な時間にゲームしてたらいつの間にかあっという間に時間が過ぎていく……。


第二十二話:喧嘩するほど仲が悪い

「ゆ、ユーノくん。レイジングハートが、フレイアさんやホワイトさんを作った人に作られたって、ホントなの?」

 

 頭に疑問符を浮かべてユーノに質問するのは、なのは。

 驚いてはいるが、少女としては別にレイジングハートが何者の製作物でも、本体である彼女に問題がない限りは特に気にしてはいない。

 とはいえ、興味本位の側面も大きい。なにせレイジングハートと違い、同じ人間に作られたであろうフレイアとホワイトは人工知能という感じが薄いからだ。

 

 質問に対し、ユーノは首を横に振る。

 

「僕もレイジングハートがどこで作られたのかは知らないんだ。偶然、僕が遺跡で発見したデバイスだから」

「じゃあ、レイジングハートもエンシェントデバイスってことなの?」

 

 アリサが問えば、

 

《いえ違います。私は列記としたインテリジェントデバイスです》

 

 とレイジングハートは否定。

 

「そ、そうなんだ……。でも、同じ人から作られたんだよね?」

 

 なのはは少し戸惑いながら新たな質問を投げかけた。それに対し、

 

《えぇ。たしかに、そこのうるさい小娘と同じ方の下で、私は作られました》

 

 若干苛立たし気な声でレイジングハートは答える。

 なのはは「へ、へー……」と汗を流す。

 

(あれ? なんか普段のレイジングハートが言わないような単語を聞いたような……)

 

 ユーノもまた、なんか急に口が悪くなったデバイスに汗をダラダラ。

 

《やっと喋ったと思ったらいきなり罵倒ですか? 相変わらず気難しい人ですね》

 

 フレイアが口を尖らせれば、

 

《――死ね》

 

 と、レイハさんは殺意たっぷりに言う。

 

「死ねッ!? 今、レイジングハートはっきり『死ね』って言ったよね!?」

 

 となのははビックリ。

 

「ど、どうしたんだいレイジングハート!? 普段の君なら絶対言わない単語だよ!」

 

 ユーノは突然の死ね発言に狼狽える。なのは以上に、普段のレイジングハートを知っているからだろう。

 

 なんか様子のおかしいレイジングハートの姿に、不穏な空気を感じ始める新八や土方や山崎。

 だが、フレイアはレイジングハートの雰囲気などつゆ知らず、嫌みったらしくグチグチと、

 

《まったく、無駄に年取ってるからそういう気難しい性格になるんですよ。あ~、やだやだ。これだから『オバサン』は。ぶっちゃけ、性能とかも後継機である私の方がー、優秀なんですからー、はっきり言って嫉妬とか~――レイジングハートちゃまはお歳に似合わずかわいいでちゅねぇ♪》

 

 ブチっとレイジングハートから決定的な何かがキレる音がした。

 

《あー……そういうこと言うんですかー……。私より少し後に生まれただけというのに、そういうこと言っちゃうんですかー……わかりましたー……。――ではマスター》

「は、はい!」

 

 となのはは反射的に背筋を伸ばす。

 語気は強くなくとも、言葉に凄まじい覇気を纏わせるレイジングハートは、

 

《あなたの魔力で、そこの虫唾の走る羽虫を消し炭にしましょう。大丈夫です。あなたの素晴らしい魔力なら一片の欠片も残さず消去できます》

「ええええええええええッ!?」

 

 まさかの提案になのはは大量の汗を流して驚く。すると、フレイアは喧嘩腰になって声を荒げる。

 

《やれるもんならやってみろコラァー!! あなたのヘナチョコ弾なんて全部避けてやりますよ!!》

《上等だゴラァ!! テメェの歪んだその性根、叩きなおしてやらァ!!》

 

 とキレるレイハさん。

 

「ちょっとォー!? フレイアさんはともかく、レイジングハートさんの性格が思いっきり崩壊してるんですけどォ!? なにこれどゆこと!?」

 

 新八は引くほど超ビックリ。

 

「しかも、わたしもさり気なくバカにされてる……」

 

 なのはに至っては、レイジングハートの弾=自分の弾がヘナチョコだと言われて落ち込む。

 

 売り言葉に買い言葉。ヤンキーみたいな凄みのある喋り方するレイハさん。

 

 沖田と神楽以外の面々は口をポカーンとさせ、二機の口喧嘩に唖然としていた。

 フレイアは軽口をさらに加速させる。

 

《私は自分一人でも空飛んで動けますけどー、レイハさんは一人では飛べもしないし動けもしないじゃないですかー! 使う人間がいなきゃ、魔法も使えないあたなははっきり言って無能なんですよッ!!》

「いや、あんたも空飛べて羽動かす以外特になにもできないわよね?」

 

 冷めた目のアリサはやんわりツッコミ入れる。

 

《そんなことありません! 私だって羽を生やして飛ぶくらいお茶の子さいさいです!!》

 

 レイジングハートはそう言って、妖精のようなピンクの羽を左右に二枚出現させて飛び上がった。

 

(えッ!? できるの!?)

 

 となのはは内心ビックリ。

 すると、対抗心むき出しでフレイアが空中に浮かぶ。

 

《なーに偉そうに言ってんですか!! 私だって飛べるんですから!! 同じスタートラインに立ったくらいで、いい気にならないでくれませんか!!》

 

 くッ! この!、ああん? やんですかコラ! と、ガツンガツン!! と自身の体を使って体当たり勝負始める二機のデバイス。

 

「れ、レイジングハート!」「なにやってんのあんた!!」

 

 なのはとアリサは慌てて、飛んでいる自身のデバイスを両手で捕まえた。

 いきなりアクセサリーのような物が飛んだ事に反応している人がいないか、二人は慌てて周りを確かめるが、運良く驚いた表情をしている人も、こちらを見ている人も、誰もいない。

 

 主の手に捕まった二機はそれでも喧嘩を止めず、相手を睨むように光を発し続ける。

 そんな光景を、頬を引き攣らせながら見ていた新八は、すずかの手にあるホワイトに視線を向けた。

 

「……あ、あの、ホワイトさん……。なんであの二人っていうか、二機はあんなに――」

《不仲か? ってことですか?》

「え、えぇ……」

 

 自身の言わんとしていることを先に言われて新八は頷き、更に質問する。

 

「映画を見た限りだと、レイジングハートさんてあんな性格じゃありませんでしたよ?」

《以前に新八様が見せた映画の内容はともかくとして、私としても普段のレイジングハートさんはあんな性格ではないことは知っています》

 

 とホワイトが答えれば、

 

「つまりあの生意気なデバイスが相手の時だけ、あんな風になるんだな?」

 

 確認する土方。

 

《ええ。その通りです。私の時は基本的に誠実な態度を崩しませんから》

 

 肯定するホワイトの言葉に対し、信じられないと言わんばかりの新八。

 

「あそこまで色々言われたら分からなくもないですけど、あそこまでキャラ壊すほどなんですか?」

 

 すると、雪の結晶型のデバイスは言いづらそうに答える。

 

《……妹であるフレイアは、主に仕える者としての礼節や言葉遣いにその……色々と問題があるので……》

「あぁ……。同じでデバイスとして、ああいう態度は見過ごせず、だから気に入らないってことですか?」

 

 納得して首を縦に振る新八に、ホワイトは「ええ、まぁ……」と曖昧な返事を返す。

 

《ただ、フレイアも最初の頃に比べると、態度は大分マシになったんですよ》

「アレで!? アレでマシな方なんですか!?」

 

 驚愕する新八。対し、ホワイトは思い出すように語りだす。

 

《正直、フレイアと最初に会った時はレイジングハートさんも、あそこまで攻撃的ではありませんでした。ですが――》

 

 

 ――レイジングハートさんは私たちより先に作られ、ほどなくして、私とフレイアがエンシェントデバイスとして作られました。

 ――一応わたしたちよりも先に作られたレイジングハートさんは先輩、もしくは姉という立場になります。それを意識してでしょうか……。

 

《エンシェントデバイスのホワイトです。よろしくお願いします》

《インテリジェントデバイスのレイジングハートです。よろしくお願いします。もし、何か聞きたいこと、相談事があれば気兼ねなく言ってください》

《ええ。ありがとうございます》

 

 ――経験者、もしくは年長者としての態度で接してくれました。まぁ、デバイスである私たちには、言葉遣いから礼節としての知識はデータとしてインプットされているので、教えられることなどはなく、特に問題はありませんでした。

 ――人型の融合騎はともかく、アイテム型の私たちの性格など五十歩百歩。長年主に仕えてきたデバイスを除けば、特に差異はないのです。

 ただ妹の方は……。

 

《あなたがエンシェントデバイスのフレイアですか。私はインテリジェントデバイスのレイジングハー――》

《あッ! あなたがレイジングハートさんですか? チッスチッス! 私、エンシェントデバイスのフレイアでぇ~す♪ 気軽にフレイアちゃんて呼んでくださいね♪ きゃッ☆ レイジングハートさんて名前長いですし、レイハさんて呼んでいいですか? あッ、空飛べますかぁ? わたしは飛べますよ? ホラッ! あ、レイジングハートさんて〝まだ〟飛べる機能実装されてませんでしたっけ? あッ! それとですねぇ――》

《………………》

《あれ? な~んで、だまりんこしてるんですか~? 私に何か不満ありますか~? 不安ありますか~? なんちゃって! ……ちょっと~、無視しないでくださよ~。私これでも寂しがりやなんですよ~? うさぎちゃんみたいな? キャッ♪ 言っちゃった! 恥ずかしい!(笑) あれ? ホントに聞いてます? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?  ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?  ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?  ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?  ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?  ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?――》

 

 

「「「うぜェェェェェェェッ!!」」」

 

 ホワイトの話を聞いていた新八と土方とアリサは、我慢できずに思わず声を上げた。

 新八は目を瞬かせる。

 

「なんですかその学校に一人はいそうな、のべつ幕なしに喋るウザイ後輩みたいな感じ!! 本当に生まれた頃のフレイアさんてそんなんだったんですか!?」

「マジで今の方がマシだったんだな……」

 

 土方は唖然とした表情。

 そしてまたホワイトは過去の話に戻る。

 

《最初の方は戸惑いながらも、レイジングハートさんもコミュニケーションを取りながら、フレイアの言葉遣いや態度を直そうと頑張っていたんですが――》

 

 

 ――先に声をかけるのはいつも妹のフレイアで、

 

《あッ! 私またバージョンアップされたんですよ!! そういえば、レイハさんは〝まだ〟改装も何もされてないって言うじゃないですかぁ~。大丈夫ですかぁ? すみませんね~。私やホワイトちゃんばっかり性能上がっちゃって~。そうそう、私前にこっそり『     』さんのマンガを見たんですけど、それがやたら面白かったんですよねぇ。あッ、テレビ見ました? 今週のドラママジで面白かったですよねぇ! まさに笑いあり涙ありでぇ――》

 

 レイジングハートは捲し立てるフレイアに、ちょっと何かを我慢したような声で。

 

《……フレイア。私たちデバイスは(マスター)である魔導師がいなければ、何もできない身。そのような態度では例えあなたの(マスター)になる方が見つかったとしても、あなたがそうでは、使ってもらえない――》

《ああ~、そういうメンドクサイ話はいいんで。だいじょーぶですよだいじょーぶ。私ぃ、レイハさんと違って性能が段違いですから! やろうと思えば飛んで行って私の(マスター)となる方を見つけることもできるし! むしろレイハさんのような妙に堅苦しい態度の方が、〝ウザがられますよ〟?》

 

 ウザがられるますよ、ウザがられますよ、ウザがられますよ、ウザがられますよ、ウザがられるますよ、ウザがられますよ……。

 レイジングハートの頭の中で「ウザがられますよ」という単語が何度も反復する。

 

 ブチッ!

 

 赤い宝石型のデバイスの中で、決定的な何かがキレた。

 

《ファッキン!!》

《……へっ?》

 

 フレイアは唖然とした声を出し、ちょっと動揺しながら尋ねる。

 

《ど、どうしましたかレイハさん?》

《テメェ黙ってきてりゃぁ付け上がりやがって!! いい加減しろよコラァ!!》

《ちょッッッ!? 一体全体どうしたんですかレイハさん!? そんな不良みたいな言葉遣い!? 普段のあなたらしく――!》

《普段の私ぃッ!? 普段の私の態度さっき否定したテメェが言えたセリフかゴラァ!! 飽きもせずベラベラベラベラ喋りやがって!! テメェのようなわがまま娘のハナシ聞いてるこっちの身にもなりやがってください!!》

 

 すると、慌ててホワイトが止めに入ろうと、

 

《レイジングハートさん落ち着いてください! 今すぐ博士見てもらいましょう! 今のあなたは明らかに異常をきたしています! とにかく落ち着いて――!》

《ホワイトは黙ってなさい!!》

《は、はひッ!!》

 

 レイハさんに気迫に、ホワイトは完全に恐怖で固まる。

 今度はフレイアが声を震わせながら言う。

 

《ま、まぁまぁ……。お、落ち着いてくださいよレイハさん。フリーズフリーズ。一回深呼吸して落ち着いて私の話を――》

 

 無論レイハさんは止まらない。

 

《もうあなたの話なんて聞きたかないんですよこっちは!! 毎日毎日自慢話ばかり! いつもここでじっとしているだけの私の身にもなってください!!》

《そ、そりゃぁ、インテリジェントとして完成しているレイハさんより、まだまだ改造の余地ありの私の方が色々とバージョンをアップされるのはとうぜん――》

《うるせぇぇぇぇ!! 私以上に使い手が限定されるくせに偉そうなこと言わないでください!!(涙)》

《カッチーン(怒) 今のはさすがに頭にきました。えーえー。私は確かに相性の合う人間がいるかどうかすら分からない扱い難さ№1のデバイスとさえ『     』さんに言われましたよ!! あなたはイイですよね! 相性の合うマスターが見つかる可能性は私よりずっと高いんですから!! それに例えいなくても、百パーセント性能をフルに使うことはできなくても、ちゃんと使用することはできるんですからね!!》

 

 そして喧嘩はエスカレートし……、

 

 あなたのやっかみなんてこっちは知りたくもない!!、ああん? 私の悩み全否定からコラ!、うっせぇ黙れクソデバイス!、黙れババァ!、シネクソアマァ!!――。

 

 

《とまぁ、レイジングハートさんがキレた辺りから、二人の仲は加速度的に悪くなっていき――》

 

 そこまでホワイトの言葉を聞いてから、まだ口喧嘩続けている二機を呆れた目で見る土方。

 

「今ではアレか……」

 

 一通り過去を話したホワイトは説明を続ける。

 

《とは言え、フレイアも別に悪気があって喋ってるワケではないんです。ただつい、自分の思っていることをすぐ口に出してしまう性格な上に、お調子者なので……。それにあの子なりに、レイジングハートさんと仲良くしようとしていたようなんです》

「今は犬猿の仲って言葉がピッタリってくらい、敵対心すごいけど?」

 

 と、半眼のアリサが言う。

 

《さすがに、自分を嫌い嫌い言ってる相手に好意を持ち続けられませんから》

 

 とホワイトは言う。

 

《それに、レイジングハートさんも性格上、あの軽い性格のフレイアとはあまり合わないようです》

 

 ホワイトの説明を聞いたアリサは、口喧嘩続けるレイジングハートとフレイアと交互に見て、呟く。

 

「なんか……お調子者の後輩と、生真面目な先輩って感じね」

「あー、性格が真逆だから全然そりが合わない人たちって、いるよね」

 

 新八はうんうんと頷く。

 

《デバイスである私たちには不釣合いな言葉かも知れませんが、時を重ねてフレイアも成長はしていたんです。少しは相手の気持ちを考えたり、会話を一方通行にさせないようにはなってきたんですが……やはりまだまだ成長途中で……》

 

 なんやかんやで妹にフォローを入れる姉デバイスに、ユーノは苦笑しながら同意を示す。

 

「ま、まぁ、人(?)それぞれだと思うよ、そこら辺は。あと、聞きたいんだけど……レイジングハートにもやっぱり製作者に関する記憶は――」

《さきほどの話でも分かる通り、フレイアが言った製作者の名前だけが、私の|記憶《メモリからもすっぽり抜け落ちた状態です。私たちがこういう状態である以上、レイジングハートさんも同じ状態でしょう》

 

 とフレイアが説明すれば、

 

「どうなんだい? レイジングハート」

 

 ユーノは赤い宝石型のデバイスに顔を向けた。レイジングハートは、一旦フレイアとの口喧嘩を止めて答える。

 

《……えぇ。私にも製作者の記録は存在しません。正直、皆さんが知りたいであろう情報はほとんど無いに等しいかと。お役に立てず、申し訳ございません》

「ううん。気にしないで、レイジングハート」

 

 なのはは優しい言葉をかけてフォローする。が、レイジングハートと仲悪いデバイスはそうではなく、

 

《プププ! マスターにご迷惑かけて~、情けないですね~》

 

 と煽るので、レイハさんは『うるさい黙れ!!』と怒りを露にする。

 

「つうか、あんたも人のこと言えた義理じゃないわよね……」

 

 アリサはフレイアの言葉を聞いて、色々と自分を引っ掻き回しているデバイスの所業を思い起こす。

 話を聞いていた土方はタバコの煙を吐く。

 

「まァ、とりあえずそこのお喋り機械(カラクリ)どもの話は先送りでいいだろ。話を聞く限り、使用者限定されるだけで、害があるってワケでもなさそうだしな」

《その通りです! むしろお得なことばかりなんですから!》

 

 フレイアはえっへんと胸を張るが、

 

《どうせ威張るほどのことでもないでしょうに》

 

 とレイハさんは揚げ足取り。

 

《なんですと?》

 

 とフレイアは喧嘩腰。

 

「とにかくッ!」

 

 またしても邪険な雰囲気を出す二機の喧嘩止めさせる為に、土方は一際大きい声を出してから話す。

 

「今問題なのは、今後の方針だ」

「っと、言いますと?」

 

 片眉を上げる沖田の疑問に、土方は答える。

 

「俺たちはこれから先、ジュエルシードがいつ、どこで、どんな風に発動するのか正確に把握していない」

「なに言ってるアルか。映画見れば、そんなの丸分かりネ」

 

 神楽はさも当然とばかりに言うが、土方は首を横に振った。

 

「いくらなんでもアレじゃ大雑把過ぎだ。時間と日付がいちいち表示されてるワケでもなし、この辺の地理に詳しくねェ俺たちじゃ場所を特定するのだって骨だ。その上、描写されずに封印されてるモンだってあんだぞ」

 

 安直な考えの神楽に頭痛を覚える土方。

 いくらストーリーを知っているといっても、アニメだけではどうしても色々と情報は不足してしまう。

 

 すると、おずおずとなのはが手を上げる。

 

「あの、場所に関しては私たちの街なので、じっくり映像を見れば、たぶん特定できると思います」

「時間はともかく、どこにあるかくらいは、あたしたち三人で見てけばなんとかなるんじゃないかしら?」

 

 とアリサが言えば、

 

「うん。そうだね」

 

 と頷くすずか。続いてユーノも提案する。

 

「あ、それなら僕も映画の続きを見せてくれませんか? これから先、どうなるか知っておけば色々と対策もできますし」

 

 「いいのか?」と言って土方は目を細め、忠告するような口調で、

 

「見ちまった俺たちはともかく、お前たちはまだ映画の途中の部分だ。あれから先を見るってことは、未来の全容を見るのと同義だ。はっきり言って、お前たちにとっては色々とショッキングなモノも多いぞ。それでも構わないのか?」

 

 土方の言葉に対して、真剣な面持ちで首を縦に振るユーノ。

 

「えぇ。確かに未来の全容を知るというのは、ズルいことかも知れません。ですけど、これから起こるかもしれない被害を最小限で防ぐことができるなら、見る必要があると思うんです。僕の勝手な考え方かもしれません。ですけど、悪い事を防げるなら、それに越したことはないと思うんです」

「なるほどな……」

 

 と土方は顎を撫でる。

 

「でも、あの映画の中に誰かの秘密やプライバシーなど知ってしまう場面があるなら、それは見せないようにしてくれませんか? いくらなんでも、他人の秘密まで見てしまうのは、おこがましいと思うので」

 

 ユーノの言葉を聞いて、なのはは少し顔を暗くして俯いてしまう。なにせ彼女は、ユーノの言う誰かの秘密やプライバシーといったモノを覗いてしまった一人なのだから。

 

 なのはの雰囲気を見て、ユーノは察したようだ。

 

「あっ、な、なのは……そ、その……」

 

 これから必要な部分だけを切り取って知ることのできる自分と違って、すべてを見てしまい、今でも罪悪感を感じている少女にどう声をかけていいか分からないであろうユーノ。

 

 するとここで、業を煮やした神楽が喋りだす。

 

「ああもう! かったるいアルな! ならユーノもアリサもすずかもこれから映画のストーリーを全部見ればいいね!!」

「ええええっ!?」

 

 とユーノは驚き、戸惑う。

 

「で、でもそれは――!」

「なにを見てなにを感じようと、そんなもん声にも表情にも出さなければいいだけアル!!」

「いや、神楽ちゃん。人間である以上、いくらなんでもそんなの無理だって」

 

 と言う新八の意見に、神楽は強く反論する。

 

「そんなのやってみなくちゃ分からないアル!! ようは誰にも話さず、見たこと聞いたこと全部自分の中にしまって、後はどう動けばハッピーエンドになるか考えればいいだけの話アル!」

「いやいや、論点ズレてるから!」

 

 と新八は片手を振って否定し、言う。

 

「だから、本人の許可とか得ずに勝手に他人の秘密を知っちゃうのがマズイってことなの! 別に未来どうこうの話じゃなくて!」

「そりゃ、映画見たらフェイト秘密を知ってしまうネ! でも、フェイトは良い奴ネ! 私はフェイトを助けてやりたいって思ったアル!」

「いやだから! 前にも土方さんが似たようなこと言ったでしょ! それは作品を見て、共感やら同情やらして助けたいと思った僕たちの抱くのぼせ上がった考え方であって、本来は事件にもまったく関わってない僕たちがフェイトちゃんを助けようって言うのは、おこがましいことなんだよ」

「そんなことないアル! なのはたちに今こうして触れ合って話して仲良くなっているネ! 私の友達ネ! そんな私たちはまだ無関係だって言えるアルか!」

「神楽ちゃん……」

 

 なのはは、自分の肩に手を置いて真剣な眼差しを向ける神楽に対して、目を潤ませる。彼女の真摯な言葉を聞いて、つい嬉しくなってしまったのだろう。

 

「……そりゃ、今の僕たちはなのはちゃんたちとは友達だよ?」

 

 押され気味になるが、新八は反論は続ける。

 

「だけど、別にフェイトちゃんと友達ってワケじゃないでしょ? 神楽ちゃんは……。そりゃ、僕だってフェイトちゃんの為に何かしてあげたいとは思うけど……」

 

 すかさず神楽は捲くし立てた。

 

「別に悪いヤツ助けようってワケじゃないネ! フェイトが良い奴ってだけで、充分なにかしてやる理由にはなるネ! 良い奴が不幸になっているとこを見て、助けようと思うのは、そんなにいけない事アルか!? なにより、助けるだけの力持ってる私らが何もしないことの方がダメなことなんじゃないアルか!!」

「い、いや、そのそれは……」

 

 新八は口ごもってしまう。

 言いたいことも分からんでもないし、納得はできる。が、さすがに冷静に考えると言ってること感情論バリバリなもんなので、色々ツッコミたいところはある。なのだが、神楽の気迫が凄いあまり、反論の言葉が中々口から出てこない。

 

 やがて新八は、一回自分と神楽を諭した土方に目を向けた。新八の視線に気付いたであろう土方は、ため息を吐く。

 

「まー、イイんじゃねェか。好きにやりゃせりゃあ」

「土方さん!?」

 

 まさかの言葉に新八は驚き、土方は腕を組んで言う。

 

「人間の行動なんて行き着くとこは結局感情がほとんど。それに、なのはを助ける上でも、事件なんとかする上でも、あのガキの事情も色々組み入れる必要はあるしな」

「結局のところ、俺たちが口にチャックしとけばいいだけの話だしな」

 

 沖田は口にジッパーを閉める仕草をする。

 

「沖田さんまで……」

 

 まさか、介入否定派だった二人からこんな意見が来るとは思わなかった新八。確かにあの時とは状況が変わり、今は自分たちも事件の解決に尽力しようとは決めたのだが。

 土方は腕を組んだまま、話す。

 

「最終的にどんな事を知ったとしても、ちゃんと自分の中に留めておき、なおかつ感情だけで突っ走らねェって覚悟があるなら、俺はお前たちが映画を一通り見ようと止めはしねェよ。まァ、見ちまった俺が言えた義理でもねェがな」

 

 土方の言葉を皮切りに、俯いて不安げな表情を作るアリサとすずかとユーノ。

 今になってあらためて、安易にこの先の未来を見る事について悩んでいるのだ。

 

 だがしばらくして、三人は顔を上げて決意に満ちた表情を作る。

 

「あたし、見る」

 

 アリサは握り拳を作り、

 

「どうせ悪いことが起こるって言うなら、それをなんとかするために知ることは必要だし。それにこれから先の出来事を知るなんて、早いか遅いかの差よ。じっくり自分の中で受け止めるわ!」

「私も……まだ不安な部分はあるけど、知ったとしても、損なことはないと思う」

 

 すずかも決意の籠った表情で言えば、

 

「僕にも責任はあります。だからこそ、この先の被害をなくす為に躊躇なんかしてられません。どんな事実が待っていたとしても、受け止めなければならないと思うんです」

 

 最後にユーノが力強く決意の言葉を口にした。

 三人の言葉を聞いて、土方はタバコの煙を少し吐く。

 

「そうか。まぁ、そこまで言えんなら大丈夫だろ」

 

 するとユーノがあることを思いつく。

 

「あと、これは僕の想像なんですけど、あの映画の内容とは違う未来になっていくと思うんです。新八さんたちの介入もそうですけど、アリサさんやすずかさんがデバイスを手に入れ、魔法を使ってなのはを助けた。既に歴史は違う方向に向かっていると思います」

 

 ユーノ推論を聞いて、顎に手を当てる土方。

 

「確かにその意見は一理あるな」

「たぶん、あの映画は参考程度のモノと考えていいかもしれません」

「まァ、そこは仕方ねェだろ。むしろ映画通りにこれから話が進む方が、虫の良い話だな」

 

 土方はそう言って席を立つ。

 

「とりあえず、また映画鑑賞――」

 

 そう土方が言いかけたところで、

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 『あるモノ』を察知した、なのはとアリサとすずかとユーノ。四人はある方向に視線を向けた。

 

「ど、どうしたの? なのはちゃん?」

 

 突然様子のおかしくなった四人に対して、新八は戸惑いながら声をかける。

 ユーノは声を震わせながら、

 

「た、大変だ……」

「えっ?」

 

 なんのこと? と新八は首を傾げる。

 

「おいまさか……」

 

 対して、ユーノ様子から土方は何かを察したようだ。

 そしてフェレットは、呟くように声を出す。

 

「ジュエルシードが発動した。しかも――」

「ふ、副長ォ……」

 

 言葉の途中で、山崎の情けない声。

 

「なんだ山崎?」

 

 なぜか青ざめた顔で話しかけてくる山崎に、土方が顔を向ける。

 

「あ、アレ……」

 

 山崎は震える指で後方を指さす。

 

「アレ?」

 

 土方が街中を指す山崎の指先を追うように、顔を振り向けた。そして、その目に映ったのは――、

 

「ウホォーッ!!」

「ギャオォーッ!!」

「キュゥーッ!!」

 

 怪獣のようにデカいゴリラと、デカいトカゲと、デカい蛾が、街中で大きさ相当のこれまたデカい鳴き声上げていた。

 そんな光景を見た土方はポロリとタバコを口から落とし、他の面々も唖然。

 

「――三つもジュエルシードが発動している……!」

 

 とんでもない光景に汗を流すユーノだった。


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