魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

21 / 79
遅くなりましたが、機会があったので月曜日の朝に投稿しました。


第二十話:予想外の展開

「――確認できるジュエルシードは、三つ……。障害となる魔導師を数人確認。なので、ジュエルシード封印を優先」

 

 なにかぶつぶつと独り言を喋るのは、突如現れた黒衣を纏った金髪の少女。彼女の眼光が一際強くなる。

 

《Scythe Form》

 

 少女の手に持った黒い斧から男性の声が流れれば、まるで黒鳥が翼を広げるかのように、斧の切っ先が変形。変形した斧は、金色に光る刃を出し、死神のような鎌へと、姿を変えた。

 

 少女は、シュタッと電柱の上から地面へと着地。

 

 電気を帯電させた金色の槍を受けて動けなくなった、ジュエルシードの思念体へと、金髪の少女は近いづいて行く。

 すると思念体が、彼女に向かって触手を伸ばして攻撃しようとするが、彼女は手に持った鎌を二度三度振って、触手を簡単に切り落としてしまう。

 一瞬、少女は息を吸ったと同時に、一度のダッシュで一気に思念体の元まで肉薄し、デバイスを変形させる。

 

《Sealing Form》

 

 金髪の少女のデバイスから男性の音声が流れれば、彼女のデバイスは先端の部分をさらに広げ、槍のような形へと変形させた。

 そして、黒衣の少女は勢いのまま槍の切っ先を思念体へと、突き刺す。

 

「――ジュエルシード、封印」

 

 少女が言葉を発すると同時に、思念体は金色の光に包まれ、

 

「グウォォォォォォォッ!!」

 

 叫び声を上げながら消滅する。

 そしてその場に残ったのは、青い宝石だけ。その宝石は、そのまま彼女のデバイスへと吸収されていく。

 

「ジェルシード№20。回収」

 

 と金髪の少女は呟く。

 

「………………」

 

 なのはは、一連の活躍を呆然と見ている他なかった。

 いきなり現れ、見事な手際でジュエルシードを回収した金髪の少女――フェイト・テスタロッサ。

 だが、すぐに我に返ったなのはは、フェイトに話しかけようと声を出す。

 

「あ、あの……」

「………………」

 

 カチャリ、とフェイトは無言で手に持つデバイスの切っ先をなのはに向け、自身の周りの空間に、いくつもの帯電する光の玉を出現させる。

 

「うッ……」

 

 敵対心むき出しのフェイトの眼光に、なのはは一瞬怯んでしまう。

 フェイトは赤い瞳をきらめかせ、口を開く。

 

「あなたには悪いけど、残りのジュエルシードもわたしが回収させてもらう」

「そ、そうじゃなくて! あの――!」

 

 予想外過ぎる登場だったとはいえ、現れたフェイトに対して、なのはは敵対する意思はないことをなんとか伝えようと口を開く。

 だがその時、

 

「ちょっとちょっとちょっとォォ!!」

 

 突如として、オリンピック選手のようなスタイルでダッシュしてやって来るのは、新八。彼がなのはの横を通り過ぎれば、彼女の栗色のツインテールが眼鏡の起こした風で揺らめく。

 

「あ……え……?」

 

 出鼻を挫かれたなのはは、何を言おうとしたのか一瞬わからなくなってしまい、ただ声を漏らすだけ。

 一方の新八は、必死な形相で捲し立てる。

 

「早い! 早過ぎる! いくらなんでも早過ぎる!!」

「……へ? え? な……なにが?」

 

 凄い勢いで近いづいてきた眼鏡の男に、フェイトはつい魔力弾を放とうとしていた。だが、それよりも男の剣幕によって攻撃する暇すらなく、ただ困惑した表情を作るのみ。

 一体新八がなにに不満を立てているのか分からないようで、なのは同様に目を丸くしている。

 

「君の登場はもっと先のはずでしょ!? なのになんでこんな序盤で出てきちゃうかなァ!!」

 

 と怒る眼鏡。

 

「えッ!? ……あ、はい……。ごめんなさい……」

 

 不満そうに眉を潜める新八の言葉に、つい反射的に頭を下げて謝るフェイト。

 すると、眼鏡に便乗するように今度は神楽が現れ、

 

「まったくアル。ちゃんと台本通りに動いて欲しいアル。無駄なアドリブなんていらないんだヨ。これだからちょォっと人気ある奴は調子に乗って困るネ」

「す、すみません……」

 

 まるで映画監督のような感じで、落胆の声で苦言を漏らす神楽の言葉に、フェイトはシュンとしてしまう。

 すると次に沖田がやって来て、

 

「とりあえず、まずはごうも……調教して、母親の場所を聞き出そうじゃねェか」

 

 ブラックなオーラ全開にし、据わった目で、不穏な感情を抱く青年を見たフェイトは「ヒッ!?」と顔を青ざめさせた。

 怯えるフェイトを見て、新八が沖田に顔を向ける。

 

「沖田さん!? それ全然言い直せてませんから!! まったくマイルドになってませんから!! つうかあんたホントに警察ですか!?」

 

 そんなこんなで、フェイトの周りを彼女よりも歳も背も高い連中が取り囲んでいる状況。

 フェイトはフェイトでそんなアウェーな状況に不安を隠し切れず、自身が持っている杖をギュッと抱きしめている。

 

「新八さん! 神楽ちゃん! 沖田さん! フェイトちゃんなんか怖がっちゃってるよ!」

 

 不安そうに新八たちを見上げるフェイトが、なのはには不憫に思えて仕方なかった。

 

「なにやってんだか……」

 

 アリサは、見知らぬ少女を取り囲んでわけのわからないことを口走っている、最近知り合った年上の知り合いたちに、呆れ気味の視線を向けていた。

 すると、アリサとすずかの後ろに、いつの間にか佇んでタバコを吸っていた土方が、

 

「それはそうと、お前らのその格好はなんだ? 仮装パティーの衣装ってワケじゃねェだろ?」

「えッ? え、えっとぉ……」「こ、これはそのぉ……」

 

 視線を逸らし、口ごもるアリサとすずか。

 

 魔法を使うための防護服に、訝しげな視線を向け続ける土方。

 どうやら、なのはを助けることに必死で、自分たちの姿のことについては考えていなかったようである。今更になって悩んでいるのがその証拠だ。

 

「ハァ……」

 

 土方はため息を吐き、告げる。

 

「とりあえず、お前らの事情を聞くのは後でいい。今はもっと、気になる事があることだしな」

「ま、まぁ……見せちゃったもんはしょうがないんだし、後でちゃんと話すわよ」

 

 アリサは観念と開き直りが入り混じったような声で言う。

 

 その時、アリサとすずかにやられた二体のジュエルシードの思念体は、隙を付くように空に飛び上がった。

 その場のほとんどの人間が、封印していなかったジュエルシードの存在をすっかり失念していたので、声を上げたユーノの「逃げた!」と言う言葉で、全員の視線が逃走している思念体に向かう。

 

「ッ!? チィ! あいつらまだあんな動けんのか!」

 

 土方は、あれだけダメージを与えても平然と撤退していく思念体たちを見て、舌打ちする。

 家屋を次から次へとジャンプしていく思念体たち。すると、レイジングハートが赤い宝石を点滅させながら言葉を発する。

 

《どこか遠くを見渡せる高い場所まで飛んでください》

「え? は、はい!」

 

 レイジングハートに言われ、反射的に答えたなのはは、近くにあったビルの屋上に向かう為に飛び上がった。

 

「なのはちゃん!?」

 

 新八はなのはの突然の行動に驚き、

 

「くッ……しまった!」

 

 なのはの行動を見たフェイトも、新八たちを押しのけて飛び上がり、逃げて行く思念体たちを目で捉える。

 屋上までやって来たなのはは、困惑した表情でレイジングハートに尋ねた。

 

「どうすればいいの?」

《胸の奥にある熱い固まりを両腕に集めて。そして私を構え、あなたの思い描く『強い一撃』をイメージしてください》

「そっか! アレをやるんだね!」

 

 レイジングハートの言葉を聞いて、なのはは映画で見た、あの強力な一撃を放つ砲撃を思い出す。

 そして言われたとおり、魔力を両腕に集中させるとともに、レイジンハートの切っ先を逃げる思念体たちに向かって構える。

 

《Cannon Mode!》

 

 レイジンハートの音声に合わせ、デバイスの姿は大きく変化しだす。

 

 金色の金属の先端部分の形状は、三日月型から音叉のような凹形へと変形。上あごの部分が長くなっていた。

 真紅に光る宝石は、(じしん)を強力な一撃を放てる形状へと変化させたのである。

 そして、杖の持ち手の先には、銃のようなトリガーが現れ、そこになのはが指をかけると、ピンクに光る三つの羽がレイジングハートの先端部から出現し、展開。

 

 それを見たフェイトは、

 

「あれは、まさか……封印砲。しかも、あの距離から……」

 

 レイジングハートを構えるなのはの姿を見て、目を見開く。

 

「あの子、砲撃型なのか!」

 

 とユーノも驚く。

 

《ロックオンの瞬間にトリガーを》

 

 レイジングハートの指示を受けて、なのはは「うん!」と頷いた。

 そして、徐々に逃げる二体の黒い魔物にレイジンハートが照準を合わせていき、ついに二体を捉えた。そのロックオンの表示は、なのはの目にも表示されている。

 

「ッ――」

 

 なのはがトリガーを引いた直後、凄まじい威力を持った桃色の光弾が二つ、放たれた――。

 

「きゃッ!?」

 

 あまりの威力にバランスを崩して後ろに倒れるなのはだが、撃たれた魔力弾はしっかり標的を追尾し、一直線に飛んでいく。

 そしてあっという間に、逃げる思念体たちを粉砕し、消滅させ、そのまま青い宝石の姿へと戻してしまう――。

 

「すさまじい威力だ……」

 

 いち早く思念体たちを追っていたフェイトは、すぐにジュエルシードのところまで降り立ったが、すぐには回収せず、腰を擦っているなのはに視線を向けていた。

 

 もし、あの砲撃が自分に向けられていたら? と想像したのか、斧を持つ彼女の手に力が入っている。

 だが、すぐに目的を思い出したのか、フェイトは手に持った黒い斧の先端部にはめ込まれた黄色い宝石の部分に、ジュエルシードを吸収させていく。

 

「ちょっとあんた! なにしてんよ!」

 

 後ろからの声に対して、苦い顔をするフェイト。今しがた文句を言ったのは、飛んでやって来たアリサ。彼女に付いて行くように、すずかも後ろに控えている。

 

 アリサは腰に手を当てて怒り気味の表情。

 

「なんでいきなりしゃしゃり出てきたあんたが、それ持っていこうとしてんのよ! なのはがやっつけたあいつらから出てきたのに! 盗人猛々しいわよ!」

 

 自身の友の成果を横取りされた気分になったのであろうアリサは、勝手にジュエルシード回収しているフェイトに腹を立ているようだ。

 やがて、強力の砲撃を放った本人である、なのはもやって来た。

 

 さきほどの強力な一撃を放った少女に対するフェイトの視線が、鋭いものへと変わる。

 なのははなんとか会話をする為に声を出すが、

 

「あ、あの……」

「悪いけど、わたしにはジュエルシードが必要。だから、あなたたちには一つも渡せない」

 

 対して、フェイトは聞く耳を持たず、すぐさま空を飛ぶ。

 

「待って!」

 

 なのははなんとか話をしようと呼び止めるが、彼女の言葉を無視してフェイトは飛び去ってしまった。

 

「こらー! 戻ってきなさーい!」

 

 アリサは大きな声で呼び止めるが、その声はたぶんフェイトの耳には届いていないだろう。

 

「行っちゃったね……」

 

 すずかの言葉に続いて、アリサは不満そうに腕を組んで頬を膨らませる。

 

「なによ! 随分勝手な奴よね! なんの説明もなしに欲しいものだけ取って逃げるなんて!」

(フェイトちゃん……。今度はちゃんと、お話しないと)

 

 なんとか、これから起こる戦いや悲劇を避けるためにも、ちゃんと話しをしたいとあらためて決意をするなのは。

 

「にしても――」

 

 腕を組むアリサはチラリと、なのはに視線を向ける。

 

「あんたがさっき撃った、あのビームみたいなヤツ……アレ凄かったわね。まさか、あたしの友達があんな芸当をできるようになるとは、思わなかったわ」

「ニャハハハ……」

 

 気恥ずかしくて、苦い笑いを浮かべながら頭を掻くなのは。だが、彼女はすぐにあることを思い出して、慌てて声を出す。

 

「って! そ、それよりも! ふ、二人もどうしてそんな格好してるの!? それになんで魔法が使えるの!?」

「それはこっちのセリフよ! あんたこそその格好なんなの!? あたしたちに説明しなさい!」

 

 なのはに対抗するように、アリサは眉間に皺を寄せながら詰め寄る。

 そしたら、すずかが愛想笑いを浮かべながら二人を制す。

 

「まぁまぁ二人とも、落ち着いて」

 

 すると今度は、下から新八の大声が。

 

「なのはちゃァーん!! 大変だよォー!! なんかユーノくんが倒れちゃったんだァー!!」

「えッ!? ほ、ほんとうですか!?」

 

 なのはは、下からありったけの声を出す新八の言葉を聞いて驚く。

 新八は慌てた様子で、

 

「しかも、なんか遠くの方からサイレンの音が聞こえるから、早くここから離れないとォー!!」

 

 話しを聞いていたアリサも慌てだす。

 

「ちょッ!? マズイわよ! この辺めちゃくちゃ壊れてるし、下手したらあたしたちが犯人にされちゃうわ!!」

 

 アリサの言うとおり、この辺一体――主に動物病院の敷地内が、物凄い被害に遭っている。

 いたるところの壁は粉砕し、地面は抉れ、ところどころに破壊の爪痕がいくつも残っていた。まあ、大半の物をぶっ壊したのは、江戸からやって来た野蛮人たちではあるが。

 

 アリサは親友二人に顔を向ける。

 

「と、とにかく逃げるわよ! なのは! すずか!」

「で、でも……いいのかなぁ……?」

 

 すぐに逃げず、なのはは迷う。

 

「色々壊しちゃった原因はわたしたちにもあるけど……」

 

 尾を引く思いで罪の意識を感じて迷っているなのはに、金髪の親友はフォローを入れる。

 

「いいのよ! 町を怪物から救った為に生じた仕方のない犠牲と思うのよ!!」

「そ、そうだよ!」

 

 うんうん! とすずかは頷き、説得する。

 

「むしろなのはちゃんは町の人たちを守ったんだから! これくらいは仕方ないよ!」

 

 そして、なのはの手を引くアリサ。

 

「とにかく、今は逃げるの!」

「あッ……」

 

 と、声を漏らすなのはの手を引っ張って、アリサはそのまま飛行魔法で飛んで行き、慌ただしく逃げて行く新八たちの後を追いかける。

 その後をすずかも付いて行った。

 

 

 

 そして、地上を走る新八たちはというと……。

 警察が到着する前に、必死に走って現場から距離を取っていた。

 

「逃げるアル定春! ポリ公に捕まるのはゴリラだけで充分ネ!」

 

 定春に乗る神楽。

 

「ワンワン!」

「――って、神楽ちゃん!?」

 

 新八が定春を見てギョッとする。

 

「なんかナチュラルに定春に乗って逃げてるけど、今まで定春どこ居たの!? さっきまで会話どころか地の文にも一切名前が出てこなかったよね!?」

 

 新八は横で並走する定春に驚きつつ、メタいツッコミ。本当に唐突に出てきた万事屋のペットを、新八は錯覚か何かかと思ってしまった。

 

「こんなこともあろうかと、逃走用として近くに定春を待機させたアル!」

 

 神楽は得意げに胸を張る。

 

「おうチャイナ。俺も乗せろィ。てめェだけズリィんだよ」

 

 いつの間にか沖田は、定春の背中に掴まっていた。

 

「っていうかもう勝手に乗ってんだろうがお前は!!」

 

 神楽は驚きながら、沖田を蹴り落そうとする。

 

「離すネサディスト! お前の席はねェ!」

「サディストはおめェでィ」

 

 沖田は定春の体に掴まりながら、神楽の蹴りを器用に避け続ける。

 定春の上でバランス保ちながら取っ組み合い始める二人を見ていた土方は、

 

「……あれ? なんか忘れているような……」

 

 走っている途中で、なんか記憶からすっぽり抜け落ちているような感覚を感じて、上を向く。

 

「……………」

 

 土方にタコ殴りにされ、顔を腫れされたまま気絶している山崎は、まだ動物病院の敷地内。たぶん、このままいけば警察のご厄介コース。

 

「……まー、いいだろ。どうせ忘れてんだし、大したことでもねェか」

 

 そう言って、土方は走るのに意識を戻すのだった。

 

 

「ユーノくんが張ってくれた結界のお陰で、君が気絶するまでの間、周辺の人間が誰も現れなかったんだね」

 

 新八の言葉に頷くフェレット。

 

「ええ、そう言うことですね」

 

 気絶してやっと目が覚めたユーノ。

 彼は夜の公園で、自己紹介を含めて、戦いの時に使用していた魔法のことを説明してくれた。

 

 ユーノの説明を聞いた新八は、たしかに夜空が異様な景色へと変化していた事を思い出す。決して、描写するのを忘れたワケではない。

 

「ただ、その人避けの結界とやらが間に合わなくて、警察の連中に通報されていたようだがな」

 

 土方の言うように、たぶん、破壊音を聞いた周辺の住民が警察へ連絡を入れた後に、ユーノの結界が張られたのであろう。

 ユーノは説明をする。

 

「一応、ジュエルシードの思念体と戦っていたあなたたちは、結界の影響を受けないように調整しました。あそこで、あなたたちを消してしまうのはマズイと思いましたし」

「き、気が利くね……」

 

 会って早々、陰ながら素晴らしいサポートを連発するユーノに、新八は内心で関心するばかり。

 

「あらためて、自己紹介をさせてもらいます。僕はユーノ・スクライア。部族名がスクライアなので、ユーノが名前です」

 

 ユーノは器用に体を折り曲げて、お辞儀のような仕草をする。

 ユーノに合わせて、他の面々も自己紹介を始めた。

 

「高町なのはです。気軽になのはって呼んでください」

「なのはの友達のアリサ・バニングスよ。あたしもアリサでいいわ」

「同じく、なのはちゃんの友達の月村すずかです。私もすずかで構いません」

「志村新八です。よろしく」

「土方十四郎だ」

「神楽アルよォ~。気軽に女王様と呼ぶヨロシ」

「沖田総悟。気軽にご主人様と言うのを許可してやる」

 

 良識ある仲良し三人娘と新八は丁寧にお辞儀をし、クールに土方は言い、そして残り二名は色々問題ある自己紹介。が、とりあえずツッコミはなしにしておく新八。

 

 各々の自己紹介が終われば、ユーノは自身の説明を始める。

 

「信じてくれないかもしれませんが、僕は皆さんが住んでいる世界とは、別の世界から来たんです」

「そ、そーなんだー(棒読み)」

 

 棒読み新八に続き、

 

「そ、それで、な、なんでこの世界に来たのー?(棒読み)」

 

 さらにモロ棒読みのなのは。

 すんごいぎこちない二人をユーノは不思議そうに見るが、構わず説明を続ける。

 

「僕の部族であるスクライアの一族は、遺跡の調査を生業としている種族なんです。ある時、遺跡で見つけたロストロギア――ジュエルシードを回収しに、僕はこの世界までやって来たんです」

「ろすとろぎあ?」「じゅえるしーど?」

 

 アリサとすずかは聞きなれない単語に首を傾げる。

 

「さきほど、あなたたちが戦ったあの黒い魔物たちです。アレはジュエルシードの思念体。ジュエルシードは使用者の願いを叶える力があるのですが、その実、とても不安定な物で、さっきのように暴走して暴れ出す危険性を含んでいる、とても危険な物なんです」

「だ、だから、ユーノくんは責任を感じてジュエルシード回収しに、この世界にやって来たんだよね?(棒読み)」

 

 と新八が問えば、ユーノは「えッ?」と声を漏らして戸惑い気味に答える。

 

「え、えぇ……。ジュエルシードを輸送していた時空航行船が、なんらかの事故にあったらしく、だから僕がこの世界に散らばったジュエルシードを回収しにやって来たんです」

 

 なぜか、自分の言おうとした事をどもりながらも先に言った新八の言葉に、戸惑いを見せ始めるフェレット。

 後ろで話を聞いていた土方は、焦ったように汗を流して頬を引き攣らせる。

 

 すると、神楽が指を立てて言う。

 

「それで、ジュエルシード回収しに来たはいいけど、結局返り討ちにあって、無様にフェレット姿になって、森の中で気絶したアルな?」

「えええッ!?」

 

 とユーノは驚きの声。

 

「なんでそのことを!? 新八さんの時もそうでしたけど、僕説明してませんよ!?」

 

 今度は自分の事情を知らないはずのチャイナ少女が、説明を先取りした事に対してユーノはビックリしていた。

 土方は、軽率な発言を連発する新八と神楽の頭をはたく。

 

「あ、あの……僕に関する説明は以上なので……今度はこっちから、質問させてもらってもいいですか?」

 

 ユーノが戸惑がちに訊けば、

 

「あ、あぁ……」

 

 土方はぎこちなく返事をする。ユーノが聞こうとしていることを予想してか、少しメンドーそうな表情を作っていた。

 ユーノは少々眼光を鋭くしながら、

 

「僕があなたたちに会った時や、なのはさんがレイジングハートの使用者登録の詠唱を知っていた事や、今だって、僕の事情を知っているかのような発言についてです」

 

 やっちまったァ、と言いたげに頭を抱える土方と、気まずそうに顔を逸らす新八。

 さらにユーノは問い詰める。

 

「魔法世界に関わりもなく、僕の事情も初めて聞いたあなたたちの発言は、どこもかしこも不可解なところばかりです。僕に協力して戦ってくれたあなたたちを疑うワケではないのですが、あなたたちは一体何者なんですか?」

 

 自分たちを疑っていないと言いながら、警戒心を濃くしているユーノ。新八たちを、ジュエルシードを狙ってよからぬことを考えている輩だと疑っているのは明白。

 

 さすがに、この状況をギャグとか勢いで誤魔化しきれるはずもない。まあ、あれだけ怪しまれるような発言しといて、疑われないなんて都合の良い展開になるわけもないが。

 ここまで言及されて、映画の事をうやむやにして説明するのはかなり難しい――っというか、適当な誤魔化しを思いつかない新八と土方。

 

 するとここで沖田が、

 

「俺たちの中の一人に、未来予知をできる奴がいてな。つまり、今までの先取った発言は、未来を知っている俺たちだから出来た発言と行動なんでィ」

 

 と苦しい言い訳するが、

 

「それで、あなたたちは何者なんですか?」

 

 とユーノはあっさりスルーして問い詰める。

 新八と土方にしてみれば、沖田の言葉も合ってるっちゃ合ってるのだが、ユーノには過呼吸になるくらい苦しい言い訳としか捉えてもらえなかったようだ。

 

「しょうがねーか……」

 

 と土方はため息を混じりに頭をボリボリ掻く。

 

「土方さん!? まさか!」

 

 新八は土方が何を話そうとしているのか察したようだ。

 土方は新八に目を向ける。

 

「しょうがねェだろ。正直、〝アレ〟見せた方が手っ取り早い。誤魔化しや隠し事があんだけ『下手』なお前らじゃ、到底この先、隠し通すのも難しそうだしな」

 

 と言われて新八は「うッ……!」と苦い顔。

 下手という言葉を強調して言う土方。この状況を作り出してしまった主な原因の一人たる新八は、気まずそうに顔を背けた。

 

 土方はユーノに視線を向ける。

 

「おい、ユーノ」

「はい、なんですか?」

 

 名前を呼ばれたユーノは、まだ警戒心が強いまま。

 ハァ、とメンドーそうに土方はため息を吐く。

 

「お前をなのはの家に連れて行って、『あるモノ』を見せる――が、絶対に内容を他の連中に、見せたり話したりするんじゃねェぞ?」

 

 

 なのはが砲撃を撃って、三体のジュエルシードの思念体を撃破。三つの青い宝石を回収するシーン――のところで、映像が止まる。

 

「――とまー、僕たちがセリフやら事情やら知ってた理由が……〝コレ〟、なんだよね……」

 

 リモンコンで映画を一時停止させた新八は、いたたまれないと言う感じに顔を逸らす。

 

 なのはの部屋で、大人一人と青年少女六人と、動物一匹は、今の今まで『劇場版リリカルなのは』のDVDを鑑賞していた。

 ちなみに、なのはが最初に魔法を使った映像までは見せて、その後のストーリーなどは見せてはいない。

 

「「「………………」」」

 

 フェレットとなのはの親友二人は、映像を見て唖然としている。

 内心では、いくらなんでもコレは性質の悪い冗談かなにかだと思っているに違いない。

 ちなみにだが、変身シーンで自分の素っ裸がお披露目されるという、壊滅的に恥ずかしい映像に、なのはは悲鳴を上げながら顔を抑え、蹲り、悶えていた。

 

「な……なに、これ……?」

 

 最初に口を開いたのはアリサ。青ざめた顔で、指をガタガタと揺らしながら画面を指差す。

 

「リリカルなのはです」

 

 新八は正直に答え、反射的にアリサが聞き返す。

 

「リリカルなのはってなに?」

「君たちの世界です」

「この映画は?」

「アニメです」

「つまり、私たちの世界は?」

「アニメです」

 

 新八はアリサの問いに対し、端的に分かりやすく答え続けた。

 やがて、アリサの体はプルプルと震えだし、

 

「ふざけんなァーッ!!」

 

 憤りをぶつまけるようにドンッ! と床を叩く。

 

「なにがアニメよ!! なにが映画よ!! なにがリリカルなのはよ!!」

 

 ドンドンドンッ!! とアリサは床に怒りをぶつけ続ける。

 

「あたしたちの住んでいる世界が、作り物の世界だって言うの!? 冗談にしても笑えないわよ!!」

 

 まあ、彼女の気持ちも分からなくはない、と思う新八。

 不可抗力とはいえ、なのはが映画を見た時――彼女は相当傷ついてしまった。

 

 こういう反応を予想するなら、ユーノだけに映画を見せてもよかったのだが、さすがにあの会話からアリサとすずかをはずすことはできなかった。なので、仕方なく二人にも映像を見せたわけだが、結果はだいだい予想通りである。

 

「えッ……えっと……」

 

 すずかの方はどう反応していいか分からず、戸惑っている。

 一方、映像を見たユーノはあまり騒がず、冷静に思案している様子。

 

「……あのぉ……」

 

 やがて、おずおずといった感じに、ユーノが声を出す。

 

「ん? なんだ?」

 

 土方がなにか言おうとするユーノに反応する。

 

「もしかして、新八さんたちって、平行世界の住人なんじゃないでしょうか?」

 

 ユーノの言葉に、神楽が首を傾げた。

 

「ヘイホーせかい?」

「平行世界です」

 

 言い間違いを訂正し、ユーノは説明を続ける。

 

「平行世界。つまりIFの世界です。もしかしたらあったかもしれない世界。そこには自分たちの世界とまったく同じ人々が同じような人生、あるいはまったく違う人生を歩んでいるであろう世界」

「あッ、それって……」

 

 さきほどまでギャーギャー騒いでいたアリサが、ユーノの説明を聞いて、静かになる。彼がなにを言わんとしているのか、理解したのだろう。

 だが、江戸出身のおつむ足りない面々は、まだユーノが言おうとしていることを上手く察せていない。なので、ユーノはより分かりやすく説明する。

 

「たぶん、新八さんたちの世界では、僕たちの世界は『アニメとして存在している』、と言うことだと思います。僕たちの世界はアニメであって、アニメでない」

「ええっと……どう言うことアルか?」

 

 まったくわからんという風に、神楽は腕を組んで首を傾げる。

 

「つまり、僕たちの世界は〝アニメの世界ではない〟と言うことです」

 

 ユーノの説明を聞いて新八は「あッ、なるほど!」と、やっと納得。

 土方と沖田も、あーなるほど、といった具合に頷き始めた。

 ユーノは苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、これは正直、僕の仮説なので確証はないですけどね。でも、平行世界と言う説の方が、二次元の世界に来てしまったと言うより、説得力があると思うんです」

 

 今度は土方が質問をする。

 

「お前ら魔法の住人は、平行世界とやらに行ったことないのか?」

「ええ。管理局も異世界は見つけても、平行世界の存在はまだ認知していないようです。平行世界の存在は、いまだに仮説の域ですから」

 

 答えるユーノの言葉を聞く限り、平行世界と言うのは異世界以上に行くのが困難な世界のようだ。

 

「でも、平行世界っていうのは盲点だったよ!」

 

 新八は喜々とした声を出す。

 

「うん、ホント! ユーノくんのお陰で悩みや不安が解消された気がするよ!」

 

 なのはもユーノが出してくれた仮説を聞いて、大いに喜ぶ。自分の世界の立ち居地が、仮説とはいえ明確に理解できて嬉しいのだろう。

 

(普通は、平行世界って考えが出てきてもおかしくないんだけどなぁ……)

 

 ユーノは喜ぶ二人を見ながら、微妙な顔をしている。

 少しでも創作物に触れていれば、アニメの世界に来た場合、平行世界説を思い浮かべてもいいんじゃないか、と思うユーノだが、あいにく彼らの思考はそこまで巡らなかった。

 

 アリサは口元引きつらせながら、腕を組んで言う。

 

「ま、まぁ、アニメとかいうあやふやなモノより、ヘッポコ世界の方がいくぶんかマシね」

「平行世界ね。アリサちゃん、まだ動揺してない?」

 

 新八はやんわり訂正し、神楽は「ちぇ~……」と口を尖らせる。

 

「アニメの世界に行けるって方が、夢があるアルのになァ……」

 

 ちょっと少年思考な神楽としては、アニメの世界に行けたという事実の方がワクワクできたのだろう。

 

「アハハハ……。まぁ、神楽ちゃんの気持ちも分かるよ」

 

 魔法が使えるという以外は、一般的な庶民であるなのはとしては、神楽の考えに対して頷けるところもあるようで、苦笑いを浮かべていた。

 ブルジョワであるすずかも同じような思考のようで、

 

「うん。確かに、アニメの世界に行くのって、夢があるよね」

 

 すると、ユーノがアリサとすずかに顔を向ける。

 

「……あの、それでもう一つ気になっている事が、あるんですけど……」

「あたしたちがなんで魔法を使えるかってことね」

 

 フェレットの視線を受けて、アリサは先回りして答える。

 すずかの方も表情から伺うに、アリサが口にした疑問については頭にあったようで、柔らかい表情が変わっていた。

 

 その時、コンコンとなのはの部屋を誰かがノック。

 

「入るわよ、なのは」

 

 高町桃子の声に、

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

 沖田と神楽の以外の面々がビクっと体を震わせ、慌てだす。

 

「や、ヤバイ!」

 

 新八が焦り、

 

「隠せ隠せ隠せ!」

 

 土方が慌てて声を出して促し、すぐに映画のDVDを隠す面々。

 ドアが開き、桃子が顔を出す。

 

「なのは、もう夜も遅いし、アリサちゃんたちの迎えも来てるから、今日は帰ってもらいなさい」

「は、は~い……」

 

 沖田と神楽以外の全員は正座をして、桃子にぎこちない笑みを浮かべていた。

 そして、アリサが頭を下げる。

 

「夜分遅くまで、お邪魔してすみません」

「いいのよ」

 

 と桃子は笑顔で返し、言う。

 

「アリサちゃんたちもなのはと一緒に拾ったフェレットのー……ユーノくんだっけ? その子が心配だったんでしょ? 子供が夜遅くに出歩くのは褒められた事じゃないけど、生き物の命を心配するというのは、大切なことだと思うわ」

 

 そう言って、扉を閉める桃子。

 

 ちなみに、ユーノを連れて高町家に戻って来た時――なのはの家族には、『偶然ユーノが心配で見に行った、なのはとアリサとすずかを心配して、新八たちも後を追った』という説明で済ませてある。

 

「とりあえず、あたしたちの説明は明日ね」

 

 立ち上がるアリサに続いて、すずかも立ち上がって言う。

 

「ちゃんと明日、説明するから」

「はい。僕の方こそ、夜遅くまで付き合ってもらってすみません」

 

 ユーノは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 そんなこんなで、アリサとすずかに明日、話の続きしてもらう約束を取り付け、今日はお開きなった。

 

 

 翌日。

 

 今朝のニュースで、ジュエルシードの思念体が襲った病院が、さっそく取り上げられていた。

 

『昨日の深夜未明。海鳴市動物病院、およびその半径数百メートルの道路、壁、電柱などが壊されており、今現在、警察による調査が行われている状況です』

 

 すずかがニュースにいち早く反応する。

 

「あ、土方さん。これ昨日の……」

「ん? ああ、そうだな」

 

 すずかと同じ席で、土方はもっさもっさと朝食を食べながらニュースに目を向ける。

 ニュースキャスターが淡々と報告していく中、土方がズズズ、と味噌汁を口に含んだ時――ある人物の映像が映し出された。

 

『海鳴市動物病院の敷地内で気を失った状態で発見された男性、〝山崎退(やまざきさがる)〟。本人は「気付いたら気絶していた」と証言しており、彼がこの事件とどのような関係があるのかは、現在警察が調査中とのことです』

「ブゥーッ!」

 

 味噌汁を口から盛大に吹き出す土方。

 ちなみに、土方と同じチャンネルのニュースを偶然見ていた新八は「ブゥゥゥゥッ!?」と、口からご飯つぶを盛大に吹き出していた。

 

 警察に連行されている山崎(モザイク付き)の映像を見て、頬を引き攣らせるすずか。

 

「ひ、土方さん……」

 

 土方は口を拭いながら呟く。

 

「やっべ、忘れてた……」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。