魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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リアルで忙しかったり風邪ひいたりで投稿に中々こぎつけませんでした。



第十八話:物語のはじまり。魔法のはじまり

 時刻は夜。

 

 多くの木々が生い茂る森の中には湖があり、遊泳目的で置かれているボートがいくつもある。

 湖の中心には、まるで黒い粘土のようなモノが、不気味に蠢いていた。

 

「――おまえは、こんなとこにいちゃいけない」

 

 そして、まず日本では見ることのない、どこかの部族とおぼしき衣装を身に纏った金髪の少年が、黒い異形に対して、鋭い視線を向けていた。

 

「ウヴォォォォォォッ!!」

 

 怪物がおよそ、生き物とは思えないような雄叫び上げながら、金髪の少年に向かって襲いかかって行く。

 

「帰るんだ、自分の居場所に!」

 

 金髪の少年が指に挟んだ、綺麗な円形の赤い宝石をかざす。すると、少年の前に緑色の円が出現する。

 それは魔方陣のように複雑な模様を描き、襲ってきた怪物を食い止めた。

 

「ジュエルシード封印!!」

「ウヴォォォォォ!?」

 

 少年の反撃に怪物は苦しみだし、怪物の中心に穴が開くと、そこから小さな青いひし形の宝石が姿を見せる。

 

「ウヴォォォォォォッ!!」

 

 だが、封印されまいと抵抗する異形。体の一部を触手のように伸ばし、少年が「なにッ!?」と驚いている間に、怪物は触手を鞭のように使って自身の敵に叩きつける。

 

「うわッ!?」

 

 少年は、なんとかその攻撃を魔方陣を展開して防御するが、あまりの威力に、そのまま体を吹き飛ばされてしまう。

 だが、すぐに体勢を整えて再度、異形を封印しようと手をかざすが、

 

「ウヴォォォォォォォォッ!!」

 

 すかさず、異形が自らの体の一部を弾丸のようにいくつも飛ばして、金髪の少年を攻撃する。

 

「くッ!」

 

 少年は魔方陣を展開してなんとか防ぐが、辺りの地面が抉れ、湖に停泊させてあるボートが次々と壊れてしまう。

 防御した少年の努力も虚しく、攻撃による爆発と共に、少年は空中まで吹き飛ばされてしまう。

 

「ウヴゥ……」

 

 異形は少年に追撃せずに、そのまま体をぐねぐねと変化させながら飛び去って行った。

 傷を負いながら森の中で倒れふしている少年は、なんとか体に力を入れて立とうとする。

 

「……おいかけ、なくちゃ……」

 

 しかし、力尽きた少年の体は、緑色に輝きを放ち、その肉体はキツネ色のフェレットへと姿を変えたのだった。

 

 

 

 翌朝。

 

 ケータイの目覚まし機能によって鳴る音により、意識が徐々に覚め、白いシーツをもぞもぞと動かす。手を伸ばし、耳につく甲高い音を止める、なのは。

 やがて上体を起こし、重いまぶたを何度か(こす)る。そして、下を向く彼女は、シーツをギュッと握り締める。

 

「――たぶん、さっきの夢は……」

 

 映画で見た通りの、自分が見るであろう夢であった。

 少年と異形との戦いを見たということは、つまり……

 

「……これから、始まるんだよね」

 

 始まる物語(じけん)の序章――。

 自分が立ち向かっていかなきゃいけない、事件の始まりを感じながら、なのはは窓から見える青空を眺める。

 

 

「あれ? 新八さんと神楽ちゃんは? ――それに、山崎さん?」

 

 朝食にいるはずだった、新八と神楽がおらず、代わりのように椅子に座っている山崎が居る状況に、なのはは首を傾げる。

 

「アハハハ……。どうも」

 

 山崎は気まずそうに頭を掻きながら、お辞儀。そして、桃子の隣に座っている士郎が説明をする。

 

「今日は、オープンから山崎くんに入ってもらおうと思ってね。折角だから、ウチで朝食でも、って誘ったのさ」

「そうなんだ」

 

 となのはが納得すれば、「うん」と頷く山崎は説明を補足する。

 

「それと、新八くんたちはアリサちゃんのボディーガードの仕事があるからって、もう出ちゃったらしいんだ。まァ、朝食は食べたらしいんだけど」

 

 それを聞いた桃子が、思い出し笑いのように笑みを浮かべた。

 

「フフフ。神楽ちゃんたら、時間がないからって、ハムスターのように口にご飯詰め込んでいたのよ。かわいかったわぁ」

「まぁ、桃子の料理は美味いからな。分からんでもない」

 

 士郎はうんうんと嫁の自慢する。

 

「も~、士郎さんたら♪」

 

 対して、桃子は照れたように赤くさせた頬に手を当てる。

 

「山崎くんも、ウチの嫁が作った最高の料理を食べてくれよ!」

 

 士郎は笑顔満点で山崎の肩を掴む。

 

「は、はァ……」

 

 山崎は頬を引きつらせながら曖昧に返事をする。

 

「も~、そんなに褒めたって何も出ませんよ?」

 

 そして、またしても桃子は照れ隠しながら、旦那の頬をつつく。

 いい歳した夫婦の会話とは思えないくらい、あまあまな雰囲気に、山崎は面食らっていた。

 

「アハハハハ……」

 

 なのはは、他人にまで新婚夫婦のような絵面を見せる我が親の姿に、乾いた笑いを浮かべるのだった。

 

 そんなこんなで、朝食の席。

 

「(あの、山崎さん……)」

 

 なのはは小声で山崎のズボンの裾を軽く引っ張る。それに気づいた山崎は、朝の会話を楽しんでいる高町家の面々が、自分たちに意識が向いていないことを確認しながら、なのはに顔を近づける。

 

「(なに、なのはちゃん?)」

 

 山崎もなのはに合わせて小声で返事をすると、なのはは少し言い難そうに耳打ちする。

 

「(……わたし、ユーノくんとジュエルシードが戦っている時の場面を……夢で見たんです)」

「えッ!? それ――!」

 

 思わず驚きの声を出しそうになった山崎の口を、なのはが慌てて塞ぐ。

 そして、感づかれていないか他の面々を見るが、特に変わった様子もなく会話を続けていた。

 

 安心して、息を吐いた二人は、小声で会話を再開する。

 

「(……それってやっぱり、ジュエルシードがこの町に降って来たって事だよね?)」

「(たぶん、そうだと思います)」

 

 頷くなのは。

 

「(俺、事件が始まるのって、もっと先かと思ってたよ……)」

 

 少し焦ったように汗を流す山崎に対して、なのはも困ったといった表情になる。

 

「(わたしも、まさかこんなに早く始まるなんて、思ってませんでした。すぐに新八さんと神楽ちゃんに相談したかったんですけど……)」

 

 しかし、いないものはしょうがない。

 

「(まァ、遅かれ早かれジュエルシードが出てこない事には、何もできなかったんだし。とりあえず、副長や新八くんたちに会ったら、夢の事を伝えておこう)」

 

 山崎は今後の方針を促し、なのはは頷く。

 

「(わかりました)」

「ん? 何をしているんだい? 二人とも」

 

 二人の姿を見て首を傾げる士郎に対し、

 

「「な、なんでもありません(ないよ)!」」

 

 なのはと山崎は、少し焦りながらもなんとか誤魔化した。

 

 

 

 プシュ

 

「下校中のアリサお嬢様の進路に、依然として異常ありません。オーバー」

 

 先頭を歩く神楽がトランシーバーで新八に伝達し、

 

 プシュ

 

「ならば、先頭の護衛はそのまま警護を続けてください。オーバー」

 

 新八もトランシーバーで答える。

 

「――って、だからそれ止めろって言ってんでしょうがぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 アリサが天に向かって怒声を上げた。

 

 結局、昨日と同じように下校時まで自分の周りを包囲しながら歩く、迷惑極まりない護衛どもに対して、アリサは怒りを露わにする。

 

 時刻は既に夕方になり、辺りの景色は夕日の色に染まっていた。

 そんな夕焼けに彩られた、周りを木に囲まれた道を、なのはとすずか、そして護衛付きのアリサが歩く。

 

「つうかなんで今度はあたしの前にまでいるの!?」

 

 アリサは何回か神楽の背中に頭をぶつけながらツッコミしまくる。

 

「歩きにくくてしょうがないんだけど! 足とか頭が地味にぶつかってウザイし、昨日より迷惑なんだけど! 恥ずかしんだけど!」

 

 アリサの言う通り、昨日より護衛の仕方が悪化している。

 小さな金髪の少女の周りを、黒服の四人が右、左、後、前とがっちり囲みながら歩く姿は、シュール過ぎた。道行く人々の好奇の含まれた眼差しがチラチラと向く。

 

 ――大変だなぁ、アリサちゃん……。

 

 最近知り合った、一度ボケが暴走すると止まらない歳の離れた友人たちのおかしな行動に対して、なのはは苦笑しながら歩いて行く。

 

 ふと、彼女の頭の中にある声が。

 

 

 ――助けて……――

 

 

 ――あッ、この声って……。

 

 なのはは気付く。

 やはりだ。自分の頭の中に向かって、直接伝えるように声が、はっきり響いてきた。

 間違いなく、怪我をしたユーノのSOSであろう。よくわからないが、自分が魔力を持っているから、聞こえてくるようである。

 

 するとアリサが、

 

「ん? あれ? なのは、すずか。なんか今、声が聞こえてなかった?」

 

 と言って、首を傾げるアリサ。彼女の発言になのはは「えッ?」と驚く。

 すると次にすずかが、

 

「えッ? アリサちゃんも? 私も今、変な声が聞こえてきたよ」

 

 と言うので、なのはは「ええッ!?」と更に驚く。

 まさかのすずかまで謎の声が聞こえてきました発言。予想外の出来事に驚きを隠せない。

 映画だと二人に声は聞こえなかったはずなのに、なぜ?

 

「たしかー……」

 

 アリサは辺りを見渡し、森を指さす。

 

「森の奥の方から聞こえてきたわよ!」

「うん。行ってみよう!」

 

 とすずかは頷く。

 アリサは森の中に走り出そうと、

 

「――って、邪魔ぁ!」

 

 するのだが、自分の前に立っていた黒服にぶつかり、怒鳴り声を上げる。しかし、金髪のお嬢様はめげずに黒服を押しのけ、すずかと共に走って行く。

 

「……え? ええッ? ちょッ、ちょっと待って!? 二人とも!!」

 

 なぜか映画とは違い、親友二人が自分を残してユーノ助けに行くと言う展開に、なのはは驚く。

 新八たちも、なぜか分からないが変わってしまった展開に困惑しているようで、顔を見合わせた後に頷いて、少女たち三人の後に付いて行った。

 

「あッ、あれ!」

 

 アリサが指した先には、

 

 プシュ

 

「怪しい生き物を発見。危険がないか検査します。オーバー」

 

 胴の長い小動物を、トランシーバーを片手に、ドーナツのような丸い先端の金属探知機で検査している、神楽がいた。

 

「ってなにやってんのあんたはぁぁぁぁ!?」

 

 アリサは髪を逆立てる勢いでツッコム。言われ、振り返った神楽は低めの声で。

 

「いえ、野生の動物ですので、もしかしたら悪い病原菌を持っているかもしれません。万が一アリサお嬢様がそれに感染したら、こう、なんて言うか、ずど~ん、みたいなことになるかもしれませんので」

「病原菌で『ずど~ん』てなに!? って言うか、そんなもんで動物の何を調べられるって言うの!? そもそもなんで、先に行ったあたしたちより先に着いてのよ!?」

 

 ツッコミまくるアリサを尻目に、すずかが怪我を負っている小動物を抱き上げる。

 

「かわいそう。怪我しているみたい」

「これ、たしかフェレットって動物よね。テレビとかでしか見たことないけど……。それにやっぱり、誰か飼い主がいるのかしら? ペンダントしてるけど」

 

 近寄るアリサも、フェレットを心配しながら、首に掛けてある紐の付いた赤い宝石を手の平に載せて眺めている。一方、心配そうに小動物の体を撫でる、すずか。

 

「え、え~っと……」

 

 なのはは、なんか自分がするはずであったであろう役目を、いつの間にか親友二人が済ましちゃった状況に、なんともいえない気持ち。

 

 ――ま、まぁ……い、いいの、かな?

 

 苦笑しながら、なのはは頬をポリポリと掻く。

 色々疑問はあるが、兎にも角にも怪我したユーノを助けられたのだから、結果オーライと言う形で済ます。そして、親友二人と同様に、ユーノの状態を確かめに行く。

 

 なのはたち三人を、後ろで静観していた新八は、土方に顔を向ける。

 

「なんか、色々と変わってません? 土方さん」

「俺に聞くな。俺たちみたいな異端者(イレギュラー)がいりゃ、そりゃあ未来の一つや二つ変わったって、おかしくねェだろ」

 

 新八の質問に対して、土方はドライに返しながらタバコを吸う。

 

 現場を調査している警察の人間に見つからないように、沖田は木の陰に隠れて、湖にある壊れた遊泳施設やボート、さらに抉れた地面を眺めていた。

 

「こりゃ、随分派手に壊したもんだなァ」

 

 自分たちがこれから相手にしなければならない存在の力を予想してか、めんどくさそうにため息を吐く、沖田だった。

 

 

 時刻は夜。

 一人の少女が、ビルの屋上にたたずみ、町の景色を眺めていた。

 

「――第九十七管理外世界。現地名称は、地球」

 

 少女の右手が握るのは、先端が斧のような形をした杖。黒いマントが風になびく。

 

「ロストロギアはこの付近にある。一般呼称は、ジュエルシード」

 

 左右それぞれで束ねた金色の髪も、纏うマントのように風に揺らめく。

 

「母さんの探し物、見つけよう」

《Yes sir》

 

 彼女の手に持つ黒い斧、それに付属した金色の丸い装飾部分が点滅し、男性のような音声で言葉を返す。

 金髪の少女の後ろに控えていた二人。犬のような耳を生やしたオレンジ髪の女性に、銀髪の男が耳打ちする。

 

「なー、あいつこんなたけェとこで何してんの? なに? 低所恐怖症?」

「ここなら町が見渡せるからだろ」

 

 アルフは呆れた声で返すと、また銀時は耳打ちする。

 

「つうか、なんでマントヒラヒラさせながら、ぶつぶつ一人で話してんの? ちょっと痛いんだけど。なに? 中二病?」

「いや、フェイトのデバイスのバルディッシュに話しかけてんだよ」

「つうかさー――」

「いや、うるさいよあんた!!」

 

 しつこいので、さすがにキレるアルフ。

 

「ちょっと黙ってろ!! フェイトが折角カッコよく決めてるところなんだから!! ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、そこは気にすんな!! フェイトの気持ちも考えろ!」

「………………」

 

 当のフェイトはと言うと、なんか二人の話を聞いていて、いたたまれなくなったのか、顔をトマトのように赤くさせ、頭から湯気を出し、涙目になりながらぷるぷる震えている。

 

「お前が一番フェイトちゃん傷つけてますけど!?」

 

 フェイトの姿を見た銀時はツッコミ入れ、アルフはなんとかフォローしようとする。

 

「フェイトォ!! カッコいい!! カッコいいよ!! こんなバカの言うことなんか気にしなくていいから!!」

「バカかおい!」

 

 と銀時が反論。

 

「ちょっとカッコつけようとしたけど、よくよく考えてみたら恥ずかしくなっちゃった奴の気持ちが分かるのかお前! 下手にフォローされて励まされると余計恥ずかしいんだぞ!! 後々めっちゃ後悔するんだぞアレ!! 黒歴史になるんだぞアレ! 俺も経験あったからよくわかる!!」

 

 などと二人が地雷踏みまくってる間に、フェイトは体育座りして顔を隠してしまっていた。そして、小さく呟く。

 

「…………頑張ろう……バルディッシュ……」

《Y、Yes Sir……》

 

 バルディッシュの困惑した声が、後ろで言い合っている二人の声にかき消されていった。

 

 

 なのはたちが拾ったフェレットは、動物病院で治療を受け、無事に一命を取り留めた。

 

 そして、包帯を体に巻いたフェレットは、台座の上で意識を失ったままだったのだが、動物病院の医院長がフェレットが首に巻いていた赤い宝石に手を触れようとすると、パッと目を覚ましたのだ。

 

「あッ、目を覚ました!」

 

 なのはは動物特有の敏感な反応に驚く。と言っても、本当は動物ではなのだが。

 するとフェレットは、アリサとすずかとなのはを交互に見ている。何故か、誰かに決められない、と言った様子だ。

 

 なのはたち三人の後ろで、様子を伺っていた新八は、隣にいる土方に耳打ちする。

 

「(……なんか、ユーノくん。三人の誰にしようか、迷ってる感じですよ)」

「(迷うって……なにに迷ってるんだよ、あのイタチモドキ)」

「(いや、誰に協力してもらおうかってことですよ!)」

 

 少し語気を強めて新八は言う。

 

「(元々、なのはちゃんに魔法の資質があるから、なのはちゃんに目を付けてたって、話だったはずですよ)」

「(あの二人にも、魔法の資質とやらがあるってことじゃねェのか? まァ、大して問題ねェだろ)」

「(いや、問題大有りですよ!)」

 

 無論、新八としては黙ってられない。

 

「(あの二人は元々、魔力なんて持ってなかったんですから!)」

 

 新八の言うとおり、アリサやすずかがもし魔力を持っているなら、自分たちに関係なく、作品の根底的な設定の一つが改変している事になる。

 

「なんか、ずっと私たちのこと、交互に見てるけど……どうしたのかしら?」

 

 アリサの疑問に、すずかが首を傾げる。

 

「う~ん……知らない人が目の前にいるから、ちょっと混乱してるのかな?」

 

 首を右へ左へと動かした後、パタリ、と頭を倒してまた気を失ってしまうフェレット。

 

「あッ……」

 

 なのはは気を失ってしまったフェレットに対して、心配そうに視線を向ける。

 すると、病院の医院長が近くまでやって来た。

 

「目が覚めたら、知らない人間が自分のことを囲んでいて、混乱しちゃったのかもね。怪我はそれほど酷くないけど、衰弱はしてるわね。とは言え、明日には回復すると思うから。それまで、預かっていようか?」

「「「ありがとうございます! 医院長先生!」」」

 

 フェレットのことを心配していた、なのは、アリサ、すずかは、医院長の好意を聞いて嬉しそうにお礼を言う。

 医院長はフェレットに顔を近づけ、顎に手を当てながら思案する。

 

「にしても、変わったフェレットね。私も見たことない種類だわ」

 

 ――そりゃあ、ねェ……。

 

 魔法世界の人間が変身したフェレットなんだから、地球で見たことない種類だとしてもおかしくない、と思った新八であった。

 

 

 ジュエルシードの思念体。

 自分を封印しようとした少年によりダメージを負って、彷徨っていた。

 

 ――もっと強く。自身を更に強くする為の存在が欲しい。人間、動物、木。この世界にはいくらでもある。

 

 ――だが、なによりも欲しいのは自分と同じ、ジュエルシード(モノ)。 

 

 ――もっと…………もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと……。

 

 所詮は思念体。

 かすかな意思や意識が存在したとしても、それそのものは単純。自身を強くすること――それのみ。

 

 ガサリ、と近くの草むらが揺らめく。

 

「ッ!?」

 

 思念体は何者かの存在を認識。そして、草を掻き分けやってくるのは、古ぼけた薄茶色のマントで体を覆った存在。

 

「ウヴォォォォォォォッ!!」

 

 奇声を上げる思念体。

 

 生物であろうとなんであろうと、魔力を持った対象であると認識。倒すにしろ、取り込むにしろ、思念体は対象に向かって飛びかかる。

 だが、対象はマントの(はし)を揺らしながら、ヒラリと突撃した自分の体を避けた。そして、相手は愉快そうに言葉を発する。

 

「おいお~い。随分やんちゃなヤツじゃねェか」

「グゥゥ……!」

 

 思念体は唸り声を上げて、次の攻撃の態勢に入った。すると、対象は右手を前にかざして、笑いを含めたような声で喋る。

 

「まー、待て――つっても、俺の言葉なんて通じねェか。だから、単刀直入に見せてやるよ」

 

 懐に手を入れた対象は、あるモノを取り出し、声を少しばかし低くする。

 

「――お前へのプレゼントだ」

 

 対象が指に挟んで見せたモノを見て、赤く光る目を鋭くさせる思念体。

 対象の三本の指には、二つのジュエルシードが挟まれていた。

 

「…………」

 

 思念体の赤い瞳は、ジュエルシードに釘付けになるのだった。




今回から『ジュエルシード回収編』スタートです。

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