魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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ジュエルシード回収編
第十七話:人間が仕事を選ぶが、仕事も人間を選ぶ


 なのはの部屋に集まった新八、神楽、土方、沖田、山崎。

 六人は今後の事と、自分たちが置かれている状況について、話し合っていた。

 

「やっぱり、僕たちの今後の方針としては、なのはちゃんのサポートって形になると思います」

 

 新八はそう言って、なのはに顔を向け「なのはちゃんもそれでいいよね?」と確認を取る。

 

「はい。わたしもそれで良いと思います」

「まァ、前にも言ったが。魔法の使ええねェ俺たちじゃ、どうしようもねェしな」

 

 と言う土方。ちなみに彼は今、タバコは吸ってない。さすがに女の子の部屋に、害のある煙を撒き散らす、と言うような事はしないようだ。

 

「でも、なのはちゃんて順応性高いよね。自分の世界がアニメの世界とか聞いたら、もっと悩むと思うけど」

 

 山崎が言うように、今のなのはは憑き物が落ちたみたいに、新八たちと今後の方針についてスラスラと話し合っている。

 しかも、なのはから『映画を見てこれから起こる事件の対策を考えたい』といった、申し出まであったくらいだ。まぁ、さすがに映画での自分の発言とかに対して、かなり恥ずかしそうに赤面していたのではあるが。もちろん、一人で見たのは言うまでもない。

 

 山崎の疑問を聞いて、なのはは下を向き、ぽつりと呟くように話し始める。

 

「……最初は、わたしも悩みました……。自分の世界がアニメの事とか、未来の出来事を知っちゃった自分は、ズルいんじゃないだろうかとか……。でも、アリサちゃんやすずかちゃんと話て、自分なりに決めました……」

 

 やがてゆっくりと顔を上げるなのはの顔は、迷いと言う文字がさほど感じらない。

 

「わからないならわからないで、答えが出るまで悩み続けようって。でも、これから悪い事や悲しい事が起こるなら――」

 

 なのはは量の拳をグッと握り、決意の満ちた表情で力強く言う。

 

「悩むのは後回し! 良い結果になるよう頑張ろう! って思ったんです!」

 

 そこまで言って、なのはは気恥ずかしそうに頭を掻く。

 

「でも、わたしみたいな子供が、自分の世界の正体はなんなんだろうって考えても、答えは出ないと思います」

 

 えへへへ……、と照れ隠ししながら愛想笑い浮かべる少女を見て、土方は内心、オメェみてェな子供いねぇよ! とツッコム。

 

「よくそこまで考えたアルな! なのは!」

 

 神楽は感銘を受けてか、なのはの肩に手を回す。

 

「か、神楽ちゃん!?」

 

 突然、肩を掴まれたなのははビックリ。

 

「そうアル! アニメだとか未来だとかそんなの関係ないネ! 私たちはただ目の前の障害にぶち当たっていくのみネ!! 当たって砕けろアル!!」

 

 などと言って、神楽はなのはを脇に寄せ、どこぞの星に向かって指を向ける。

 

「私たちはあのハッピーエンドの星に向かって、突き進むアル!!」

「……うん! がんばろう、神楽ちゃん!」

 

 と、なのははノリよく力強く頷く。

 どこぞの有名な野球マンガのBGM流しながら、なぜか熱い雰囲気を作る神楽となのは。

 どこの巨人の星だ! と言いたいが、今は雰囲気的にツッコミは控える新八だった。

 

「じゃあ、早速メジャーボール一号の特訓ネ!」

 

 意気揚々と神楽はグローブ構える。

 

「こいアル! なのは!」

「いや、なんでいつの間にかメジャー目指す話になってんだ!! ここで魔球の特訓するな!!」

 

 無論、神楽の悪ノリにツッコムのは新八。

 

「まァ、とりあえずなのはの気持ちは分かった」

 

 と言って、土方はポンと自身の膝に手を置く。

 

「なのはにあのアニメ見せちまった俺たちとしても、協力しなきゃならねェし、今のなのはに悩みやら迷いがあんまねェのも分かった。だが、はっきり言って、問題は山積みだ」

 

 すると、神楽はグローブを放り投げて言う。

 

「なに言ってるアルか。ようは、フェイトのマミーに、娘を大事にするように説得すればいいだけネ。十円シールは管理局の連中に任せとけば万事オッケーアル」

「ジュエルシードね」

 

 と新八はやんわり訂正。

 

「それに、フェイトちゃんの事だけなんとかしても、ダメだよ神楽ちゃん。ちゃんとご町内のことも守らないと」

 

 なのはは困り気味の顔で、神楽の言葉を指摘する。

 

「だから、それをする為の具体的な方法を、なにも考えてねェだろうが……」

 

 神楽の言葉を聞いて頭抱える土方。

 すると、おずおずと言った感じに「あのぉ……」となのはが手を上げて、土方が「ん?」と反応する。

 なのははある提案を口にした。

 

「フェイトちゃんに、案内してもらうのはどうでしょうか? 映画で見た感じだと、これからわたしと何度もジュエルシード巡って戦うフェイトちゃんは、良い子だと思います。なら、ちゃんと話せば、分かってくれると思うんです」

 

 なのはの意見を聞いて、首を横に振る土方。

 

「それは正直、望み薄だ。眼鏡たちには言ったが、正直、あの母親主義のガキに、見ず知らずの俺たちを、自分の母親のところまで案内する可能性は、低い。それに説得しようにも、こっちが知りえないあっちの情報を、俺たちがペラペラ喋ったら不用意に警戒させるだけだ。この事は、映画を見たお前も、薄々予想がついてるんじゃねェか?」

「…………」

 

 土方の言葉を聞いたなのはは、彼に論破されて落ち込んだ時の新八のように、下を向く。

 

「まー、とは言え、これが無理な話と言えばそうじゃねェ」

 

 土方の言葉を聞いて、なのはは「えッ?」と声を漏らし、顔をパッと上げる。

 腕を組む土方は、チラリと視線をなのはに向ける。

 

「こればっかりは、なのは――お前の手腕次第だがな」

 

 なのはは首を傾げ、彼女と同じように首を傾ける新八は尋ねる。

 

「どういうことですか、土方さん?」

「つまり、主人公とかそういうのは抜きにしてもだ。これから魔法を使えるなのはは、あのフェイトとか言うガキと何度もぶつかる事になる。それを考えるなら、あのガキの心を動かせんのは、なのは以外に、ほとんどいないだろ?」

「それ、別に私やぱっつぁんでも出来ることじゃないアルか?」

 

 神楽の意見に、土方はハァ、とため息を吐く。

 

「魔法も使えねェ、空も飛べねェ、そんな俺たちじゃジュエルシード取られた上、軽くあしらわれて逃げられるのがオチだろ」

「それに、あのなんと結界で、そもそも俺たちは干渉できねェって事もあるしな」

 

 と、なのはのベットに寝転ぶ沖田が補足する。

 

「――あー、そっか」

 

 新八は二人の説明を聞いて、納得したようだが、神楽は腕を組んで首を傾げている。どうやら彼女は、上手く理解できなかったらしい。

 

「まァ、手も足も出ねェってワケでもねェし、俺たちがなにもしねェってワケでもないがな」

 

 と言ってぽりぽりと頭を掻く土方は、腕を組んで説明する。

 

「なのはを含めて、俺たちが助力しながら必死に説得してけば、早いうちにフェイトの奴に心を開かせるのも、そう難しい話じゃねェだろ」

「前に『俺たちにできることはない(キリ)』とか言ってた人の言葉とは、思えませんねェ」

 

 沖田はニヤニヤと意地悪く口元に笑みを浮かべる。そんな部下に対して、土方は不機嫌そうな表情。

 

「それは、なのはが〝アニメの事を知らない時〟の話だろう。見せちまった今となっちゃ、俺たちが知らんぷりってワケにもいかねェだろうが」

 

 それに、と言って土方は、なのはに顔を向ける。

 

「こいつがこれから経験して得られるはずだったモノを、俺たち色々と台無しにしちまったワケだしな」

 

 土方の言葉を聞いて、DVDを見せる原因となった新八は、落ち込んで表情を曇らせる。

 たしかに、なのはがこれから色々な苦労を重ねて得られるであろう、かけがえない気持ち、強い心構え、経験、といったモノを無くしてしまったのだ。

 

 あの時、DVDを他の人間に見せないようにもっと気をつけるべきだった、と新八は自分を責める。

 

「ごめん、なのはちゃん……。僕たちが余計なこと、したばっかりに……」

「だ、大丈夫です! わたし、気にしてませんから!」

 

 なのはは両手を左右に振って新八をフォローする。

 だが、新八の沈んだ表情は直らない。なのはは両の拳を握り絞めて、元気づける。

 

「だって、新八さんが持っていたDVDのお陰で、これから起こる大変な事を未然に防げるんですよ! それにわたし、映画を見てわかったんですけど、自分がどれだけ危ない事に関わろうとしているのか、それもちゃんと理解しているつもりです!」

「なのはちゃん……」

 

 少しばかりだが、新八はなのはの言葉を聞いて表情を明るくしていく。

 更になのはは言葉を続ける。

 

「映画を見て、フェイトちゃんに対して、いろいろ感じました。でも、会ってもいないフェイトちゃんの為に、何かするのはおかしいって分かってます。でもやっぱり、わたしの力で、フェイトちゃんの為に何かしてあげたいと思ったんです! 安易な同情かもしれませんけど……」

「そんなことないよ! そうやって考えられるなのはちゃんは、十分優しい女の子だと思うよ!」

 

 新八の言葉に神楽も便乗する。

 

「そうアル! 感じたら即行動ネ! 考えるより感じろアル!」

「神楽ちゃん。なんかさっきから、思考が熱血キャラみたいになってない?」

 

 そして、さり気ない新八のツッコミ。

 

「まァ、自分の思うとおりにやればいいだろ」

 

 と言って、土方は立ち上がる。

 

「今のところは、未来(さき)で思うようになった事を、現在(いま)で思うようになった、と考えとけばイイ」

 

 そう言って、土方は今後の方針を話し出す。

 

「とりあえず、今はユーノとか言うフェレットモドキが魔法の杖を持ってくるまで、待っとく他ねェだろ。それまでは各々、万事屋の野郎を探しながら普通に過ごしとけばいい。ま、帰るのは事件が終わった後だな」

「そうネ! 銀ちゃんの奴見つけて、銀ちゃんにも手伝わせるアル!」

 

 などと勝手なこと考える神楽。

 

「新八さん。『銀ちゃん』て、新八さんたちの前に、わたしたちの世界に来ちゃった人なんですよね?」

「あ、うん」

 

 と新八は頷き、説明する。

 

「一応、銀さん探しは僕たちの問題だから、なのはちゃんは気にしなくていいけど。もし見つけたら、教えてくれるくらいでいいから」

 

 すると、なのはが手を上げる。

 

「あッ、わたしも銀時さん探しを手伝います! わたしだって、新八さんたちに手伝ってもらうんですから! アリサちゃんやすずかちゃんにも、心当たりがないか聞いてみます!」

「ホントなのはは良い奴ネ! あの万年グータラとは大間違いネ!」

 

 神楽はなのはの言葉を聞いて感涙を受けている。

 良い子の代名詞と言っても差し支えないなのはに対して、新八まで感動しだす。

 

「そうだよ神楽ちゃん! 僕のフォローまでしてくれるし! アニメを見て思ったけど、ホントなのはちゃん良い子だよ! 天使だよ天使! 神楽ちゃんみたいな毒舌大飯ぐらいヒロインなんてホント霞んじゃうよ!」

「なんだとコラァーッ!!」

 

 神楽が憤慨して新八を殴り、「ぶべッ!!」と声を漏らしながら眼鏡は鼻血吹き出す。

 なのはを絶賛するついでに、神楽をさり気なく罵倒する眼鏡は案の定、その毒舌大飯ぐらいヒロインの制裁受けるのであった。

 

「あの……別にそんな……」

 

 なぜか天使呼ばわりされてしまったなのはは、照れたように顔を赤くさせる。すると、寝転んでいた沖田が起き上がり、思いついたようにある提案を。

 

「なら、その天使なのはを俺たちが称えようじゃねェか」

 

 すると沖田が手を叩きながら、

 

「なーのーは。なーのーは。なーのーは――」

 

 と言い出すと、新八と神楽もつられるように、手を叩き出す。

 

「「「なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは!」」」

 

 沖田と神楽と新八のなのはコールを聞いていた、当の本人は……。

 

「……………………」

 

 涙目になりながら顔を真っ赤にして、ぷるぷる震えていた。めっちゃ恥ずかしそうに。

 

「イジメか!」

 

 とツッコム土方。

 

 

 

 なんやかんやで話は纏まった。

 するといまだになのはのベット寝転んでいる沖田が、思い出したように土方に話しかける。

 

「にしても、土方さん。俺らの住む場所どうしますかィ? 俺としちゃァ、このままあのアリサってガキんとこに世話になってもイイんですが。でも、これ以上世話になると逆にあいつに借り作っちまうことになっちまうのは、嫌でさァ」

「お前はホント自分勝手だな」

 

 土方は呆れた声を出すが、沖田の言葉に賛同するように腕を組んで言う。

 

「まァ、お前の言うとおり、大の大人が何日もガキの世話になるわけにも、いかねェしな」

 

 さすがに自分も大人としてのプライドもあるように、これ以上なのはの親友たちの世話になるのはよろしくないと、土方も考えているのだろう。すると、土方の言葉に反応したなのはが、おずおずと話し始める。

 

「あの、わたしがお母さんに頼んで、皆さんが住めるように頼みましょうか? わたしの(うち)は広いですし、わたしが頼めば、お母さんも大丈夫だと言ってくれると思うので」

「いいの!? なのはちゃん!」

 

 新八が驚いたように訊くと、なのはは笑顔で答える。

 

「はい。これから一緒に頑張る仲間なんですから、助け合いましょう」

「マジで良い子だよなのはちゃん!」

 

 新八はなのはの申し出にまた感動をあらわにし、沖田はまた手を上げる。

 

「よ~し。なのはの優しさを俺たちでたたえ――」

「それはもういいです!」

 

 と言って、なのははコールを止めるのだった。

 腕を組む土方は、深く考えるような表情で。

 

「まァ、オメェの申し出はありがてェ。沖田の野郎やそこのチャイナが、お前たちを誘拐犯から救って、その礼でこれからも住まわせて貰うのも、いいかもしれねェ」

「そうですよ。アリサちゃんやすずかちゃんだって、嫌がってないんですし」

 

 笑顔で言うなのは。その表情に、土方たちを住まわせる事に対して、一切の遠慮や嫌悪は感じられない。

 「だがな」と言って土方は言葉を続ける。

 

「俺たちはいっぱしの大人だ。ずっと他人の甘い汁すするワケにはいかねェ。大人には大人の沽券と責任てものがある。年端もいかないガキに世話になりっぱなしてのは、情けねェ話だからな」

「………………」

 

 他人の気持ちを尊重するなのはとしては、何も言えなくなってしまった。土方の気持ちも、彼女なりに察したのだろう。

 

「ま、その辺のバイトでもしていけば、元の世界に帰るまでは食い繋いでいけるだろ」

 

 腕を組んで言う土方の言葉に対し、ひそひそと沖田と神楽がジト目向けながら話し出す。

 

「うっわ……今の世の中、バイトだけでまともに暮らしていけると思ってるぜあの人」

「いい大人が甘ちゃんな考えるしてるアルな」

「おめェらガキは黙ってろ!」

 

 土方が青筋立てて怒鳴と、新八が意見する。

 

「でも、土方さん。人一人が生活するとなると、一日中バイトしないとダメですよ? そんな暇あまりないのに。それに、雨風はどこでしのぐんですか?」

「食事代だけなら、六時間程度のバイトで充分だ。それに雨風なんざ、公園なり橋の下なりでなんとかすればいいだろ」

 

 土方は冷徹な返答をすると、神楽は口を尖らせる。

 

「えェ~……。いたいけな少女に、ホームレス生活しろって言うアルか?」

「そんなのダメです!」

 

 と声を上げるなのはは、グイっと土方に顔を近づければ、鬼の副長は驚いて思わず顔を引く。

 なのはは真剣な表情で言う。

 

「せめてちゃんとしたところで寝ないと、体壊しちゃいますよ!!」

 

 なのはとしては知り合った彼らに、心身を害するような生活をさせられないのだろう。

 必死な訴えではるが、土方は「だがなァ……」と言って、中々首を縦に振らない。彼も銀時と同じように、相当プライドが高いタイプなので、自分から相手の世話になると言うことができないようだ。

 

「あ、土方さん。なら、俺に提案がありますぜェ」

 

 沖田の言葉に、眉をピクリと上げる土方。

 

「なに?」

 

 その沖田の提案とは……。

 

 

「きゃぁぁぁぁッ! 神楽ちゃんかわぃぃぃぃッ!」

 

 黄色声を上げながら、翠屋御用達のメイド服を着た神楽に抱きつくのは、桃子。

 

「メイド服、ですか……」

 

 てっきり、翠屋は普通の喫茶店かと思ってた新八はメイド服を見て、あっけにとられる。

 新八の隣で、腕を組む士郎は苦笑い。

 

「アレは、桃子の趣味で作ったモノなんだ。なのはや美由紀に着せようとしたものの、二人共恥ずかしがってね……」

 

 そう言って士郎が「ハァ……」とため息を吐いたところで、彼が妻の暴走を止めた時の気苦労が伺える。高町家の大黒柱のそんな姿に、新八は乾いた笑いを浮かべていた。

 

「しかし、まさか娘の恩人がウチでバイトをしたいと言うとは、思わなかったよ」

 

 人当たりのよい笑みを浮かべる士郎に対して、アハハハと頭を掻く新八。

 

 もうここまでくれば分かったと思うが、つまり住み込みのバイトをしよう、と言うワケだ。

 

 沖田いわく、お世話になるならそれ相応の働きをすれば、面子は保てるだろうと言うことらしい。

 ちなみに士郎たちには、なのはと違って異世界からやって来たとか、本当のことはもちろん言ってない。仲間同士で賃金を稼ぎながら旅をしている、と言ってなんとか誤魔化した。

 

 この後、新八は他のバイト先に行く予定なのだが、神楽がちゃんと仕事できるか心配だった彼は、様子を見守っている。まぁ、結果は見えているのだが。

 

「神楽ちゃん。これをあの三番テーブルのお客さんにお願いね」

 

 桃子は笑顔で、神楽に渡したトレイに、ケーキを二つとコーヒーを二つを置く。

 

「任せるヨロシ!」

 

 神楽はバン! と胸を叩いて、自信満々に手に持ったトレイを片手で運んでいく。

 

「おまたせしましたヨォ~」

 

 ドバァン! と自然な流れで転んだ神楽が、お客さんの顔面に手に持ったトレイをぶつけた。

 

「か、神楽ちゃん。床の掃除頼めるかしら?」

 

 桃子は少し頬を引きつらせながら、神楽に次の仕事を頼む。

 

「任せるネ!」

 

 その自信はどこから来るのか、神楽は胸をまたバン! と叩く。

 

「うっしゃァー!」

 

 バキィ! と気合入れたチャイナ娘は、自慢の握力でモップをへし折る。

 そして、なんか頼まれる仕事が減って暇な神楽は、自発的に動く。

 

「なのは、もしかしてそれ運ぶアルか? なら、私に任せるヨロシ!」

「えッ? で、でも神楽ちゃん――」

 

 なのはが何か言おうとするが、チャイナ娘は聞く耳持たない。

 

「安心するアル! 私、お客様に素早くご注文の品を届ける方法を思いつたネ!」

 

 などと自信満々に言う神楽は、なのはの持っていた丸いトレイを取り上げる。

 

「お客様ァー! ご注文をお持ちしましたァー!」

 

 と言って、フリスビーのようにお客の顔面向かってトレイを投げつけ「ぐはぁーッ!?」とお客様は悲鳴上げる。

 十分もしないうちに、次々問題を起こす神楽の姿を見た新八は、

 

「うん。こうなるのは分かってたけどね」

 

 彼女に対して生暖かい視線を注いでいた。

 

 

 結局、神楽は新八や土方たちと同じバイトをすることになった。

 その仕事とは、ボディーガード。

 

 沖田は少し前にアリサから、

 

「あんた、行くとこどころかお金もないんでしょ? だったら、ウチであたしのボディーガードとして雇ってあげる。もちろん、他の連中もあんたみたいに腕が立つんでしょ? なら、ぴったりじゃない」

 

 と、いった提案を受けた――っと言うワケで、新八、神楽、沖田、土方は、アリサ・バニングスのボディーガードをすることになったのだ。

 ちなみに、翠屋は今のところ人手が足りているので、一人二人くらいの手伝いで充分だそうだ。だから新八は、沖田が誘われたこの仕事を一緒にすることにした。

 

 それで、翠屋で働くことになったのは……。

 

「あ、合計で税込み1200円になります。――ありがとございました」

 

 地味に定評のある山崎。理由は、地味に飲食店のバイトに向いていたので。

 

 

 そして山崎以外の四人は、黒いスーツに身を包んでいるわけだ。サングラスを掛けた四人はエントランスで、バニングス家の執事である鮫島の前に、横に一列並んでいる。

 鮫島が後ろに腕を組んで説明する。

 

「では、皆様にはこれからアリサお嬢様の護衛をお願いします。護衛の任務は登校と下校をする間となりますので。それ以外は、アリサお嬢様のご意向により、禁止されておりますので、気をつけてください」

「「「「わかりました」」」」

 

 返事をする土方、沖田、新八、神楽。

 そして、彼らのアリサ・バニングスをガードする仕事が始まったのだった。

 

 

「……………」

 

 ボディーガードの対象となるアリサは、眉間にしわを寄せ、とても不機嫌そうな表情。

 歩く途中で、アリサの後頭部に肘がぶつかる。

 

「あいたッ」

「あ、すみません」

 

 肘をぶつけた新八は謝罪し、ボディーガードを続ける。

 

「――って言うか、あんた達ボディーガードの意味分かってるの!?」

 

 さすがに我慢の限界が来たアリサは、怒鳴り声を上げる。

 

 そりゃそうだ。まるで行動の自由を拘束するように、右に土方が、左に沖田が、後ろに背中向きの新八が、自分を取り囲んでいる。しかも、体が当たるくらいちっかい距離で。

 これに怒るなと言う方が無理な話だ。

 

 不自由極まりない護衛をされているアリサの姿を、親友二人は苦笑いしながら見ている。

 すると、トランシーバを取り出した土方が、ブシュと言う音を出して、喋りだす。

 

「アリサお嬢様のツッコミが入りました。オーバー」

 

 ブシュ。

 

「すみません。もう少し後ろに気をつけます。オーバー」

 

 新八も土方と同じようにトランシーバーで答える。

 プシュ。

 

「道の前に犬のウンコがありました。右にアリサお嬢様を誘導します。オーバー」

 

 沖田はズイズイと、結構強引にアリサを右にずらす。

 

「ちょッ!? 押さないでよ!」

 

 とアリサは文句言う。

 だが、ちゃんとアリサは犬の糞を踏まずに済んだ。

 

「つうかあんた達、なんでこんな急接近してあたしを護衛してんのよ!?」

 

 さすがにツッコまずにいられないアリサ。対し、沖田ボディーガードは渋い声で答える。

 

「アリサお嬢様。おなたは前に誘拐された、間抜けなお嬢様なんですから、これくらいが丁度いいんでさァ」

「今間抜けって言った!? 明らかに雇い主の娘に対して言ってはいけないこと言ったわよね!?」

 

 青筋立てるアリサ。すると沖田はトランシーバーを取り出す。

 プシュ。

 

「アリサお嬢様からくどいツッコミが入りました。オーバー」

 

 ブチッ! とアリサの中のナニカが切れる音がした。

 

「ま、まぁまぁ。落ち着いて、アリサちゃん」

 

 すずかはなんとかアリサをなだめようとする。

 

「つうかなにそのトランシーバー! いちいちそれで話さなくても聞こえるでしょうが!!」

 

 とアリサがツッコミ入れながらも、やっと校門の前までやってくる親友三人。

 そして、アリサが教室の扉を開けると、プシュと言う音。

 

「異常はありません。オーバー」

 

 神楽が、先端がドーナツのような形をした金属探知機で、アリサの机や椅子を検査していた。その様子に、教室のクラスメイト達は戸惑っている。

 

「――ってなにやってんのあんたは!?」

 

 とツッコミ入れるアリサに、振り向く神楽ボディーガード。

 

「もしかしたら、アリサ様が椅子に座った直後、こう、どか~ん! と椅子が壊れてしまう可能性がありますので」

「あたしどんだけ重いのよ!? って言うかその探知機の意味は!?」

 

 アリサは神楽のとんでもなく失礼な物言いに、憤慨どころかビックリしてしまう。

 

「アリサお嬢様」

 

 新八ボディーガードが進言する。

 

「ツッコミ入れてると、ホームルームが始まってしまいます」

「誰のせいだと思ってるのよ! つうか教室まで付いてくんな!!」

「「アハハハハ……」」

 

 苦笑いを浮かべるなのはとすずかは、朝っぱらかツッコミ入れまくっている親友を眺めているのだった。


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