魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~   作:黒龍

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今回は、ある人たちが登場です。
ただし、出番は結構先になる予定です。


第十話:見知らぬ土地

「江戸がねェェェェェェェェェェェッ!!」

 

 自分たちの置かれている状況のヤバさに土方は頭抱え、他人の目も気にせず机に手を置き愕然とする。

 

 ――ど、どうなってんだこりゃ!? なんで日本地図から江戸が消えてんだよ!?

 

 土方は一体全体なにがどうなっているのか理解でない。ここは本当に地球か? とすら疑ってしまう。

 そうこう困惑していると、土方の耳に車輪が軋むような音が聞こえ、

 

「あ、あのぉ……」

 

 恐る恐るといった少女の声。

 自分が声をかけられているのか? と思った土方は「ん?」と声を漏らし、右側に顔を向ける。そこには本を膝に載せ、車椅子に乗った少女と、それを後ろで押している少年がいた。

 

「他の利用者さんにも迷惑ですし、あんまり大きな声とかは出さない方がええですよ?」

 

 少女の言葉はもろ正論だったので、

 

「ん。あ、あァ……」

 

 土方は素直に従うと、少女は話の通じる相手と分かったのか彼の咥えているモノを指さす。

 

「それとタバコも図書館内(ここ)じゃ厳禁ですよ?」

「あッ……それもそうだな。悪かった」

 

 関西辺りの独特なイントネーションの喋り方をする少女に対し、土方は素直に従う。

 動揺していたせいでタバコのことなどすっかり頭から離れていた。いくら子供とは言え、相手の言っていることは完全に正論なので、大人気なく反論なんてことはしない。

 携帯灰皿にタバコを入れる土方は少女に顔を向ける。

 

「これでいいか?」

「あッ、はい、大丈夫です。ありがとうございます」

「迷惑かけたな」

 

 とりあえず土方は軽く謝罪。

 今のやり取りで混乱していた頭も少しは落ち着いてきた。とりあえず、自分の今の状況を整理するために口元に手を当て、眉間に皺を寄せる。タバコが欲しいところだが、今指摘されたばかり。

 すると、おずおずと少女がまた「あのぉ……」と声をかける。

 

「なんだ? まだ用があんのか?」

 

 土方はまた話しかけてきた少女に対し、他にまだ落ち度があったか? 思いながら視線を向ける。そんな彼の視線に対して、茶髪の少女は少し萎縮。どうやら眉間に皺を寄せていたこともあり、いかつい視線を向けてしまったようだ。目付きが悪いのは生まれつきなのでこればっかりどうしようもない。

 関西弁の少女はおずおずいった感じで話しかける。

 

「も、もし困っているようでしたら、お手伝いしましょうか?」

「なに?」

 

 土方は視線を細める。

 大人である自分がこんな年端もいかないガキに手伝ってもらう? 大人のプライドと土方自身のプライドが、子供に頼るような行為は避けさせる。っと言うか、今更ながら考えた。どこか適当な人物に、現在地がどこなのかとか聞けば良かったのではないか? と。

 

 ――……まあ、背に腹は変えられねーか。

 

 土方は頭をボリボリと掻いてため息をつく。

 子供を頼りにするのはあまり気がすすまい。が、この茶髪の少女、見たところ自分の周りにいる銀時(あれ)沖田(それ)近藤(これ)より百倍利口そうだ。しかも素直そうである。

 図書館の人間に訊く手もあるが、せっかくの好意だから素直に受け取っておくのも悪くはない、と土方は思った。そして、車椅子の少女に体を向ける。

 

「……それじゃ、訊きてーんだけどよ」

 

 頼られて少女はニコっとして「なんですか?」と言葉を返す。土方は茶髪の少女の前に地図を広げて質問する。

 

「この地図のどこらへんに、江戸って町があるか分かるか?」

「え~っと……」

 

 最初、返答に詰まった少女。やがて訝し気に応答する。

 

「その……つまり東京ってことですか?」

「いや、江戸は江戸。とうきょうってとこはとうきょうだろ? 俺が知りたいのは江戸って町がどこにあるかだ」

 

 土方の質問に対して、少女は困惑しながら説明する。

 

「あ、あのぉ……江戸って、昔の東京の名称ですよ?」

「えッ?」

「……えッ?」

 

 少女は土方の間の抜けた反応に戸惑っている。

 

「えッ、いや……あの……東京の旧称は江戸ってことなんやけど……」

 

 おずおずと答える茶髪の少女。

 後ろで車椅子を押している少年に「私の言ってること間違ってた?」と訊き少年は「いや、あってるよ」と答える。

 そんな中、土方はダラダラと汗を流す。

 

 ――お、おい。え……江戸がないって……どういうことだよ? ……え? なに? そういうこと?

 

 今の話を聞いてとんでもない推論を思い浮かべてしまった土方は、必死でそれを頭の中で否定しようとする。

 

「な、なァ……」

 

 震える土方の声に反応する少女。

 

「なんですか?」

「も、もうちょっと詳しく……き、聞かせてくれねェか?」

 

 土方は必死に平静になろうと努め、声を震わせながら少女に色々と質問を始める。

 

 

 

「なんかなぁ。変な人だったなぁ」

 

 車椅子の少女――八神はやては後ろから押されながら苦笑を浮かべる。

 

「話を聞いた最後には、抜け殻みたいになっていたからね」

 

 兄の言葉を聞いて、黒服を着た土方という男からの質問の数々を思い出す。

 江戸が一体どうなったのか、現在に至るまでの歴史、などなど事細かに質問された。なので、普段から本を読みふけっているはやても、持ちうる知識を活用して知りうる限り説明した。

 

「んまぁ、なんにせよ、私が無駄に溜めた知識が役に立って良かったかもなぁ」

 

 一応自分が説明したことが事実であると証明するために、本なども見せて説明したのだが、それをした辺りから土方の顔色が急激に悪くなったのを覚えている。そして、奇妙な格好をした二枚目の男が図書館から出て行く時のおぼつかない足取りは、はやてにはかなり印象的だった。

 

「とりあえず〝桂さん〟も待ってるし、帰ろっか」

 

 兄の言葉にはやては頷く。

 

「そうやな。あッ、噂をすれば」

 

 はやてが進んだ先には着物を着た長髪の男が手を振っていた。

 

「おお、はやて殿。遅かったではないか」

 

 長髪の優男の前までやって来たはやては、申し訳ないといった具合に頭を掻く。

 

「いや~、ちょっと人助けをしてたら遅くなってしもうて」

「なら構わん」

 

 と長髪の男は首を横に振る。

 

「武士たるもの、困っている者には手を差し伸べなくてはな」

「いや、私武士ちゃうんやけど……」

 

 はやてはやんわり訂正するが、長髪の男はまったく聞く耳持たない。

 

「よし! では帰るぞ。今エリザベスが家で手打ちそばを作っているのだからな」

 

 「あの」と言ってやんわりはやては訴える。

 

「わたし、別にそば嫌ってワケやないんやけど、さすがにざるそば三日連続はどうかなーと思うんやけど……その……」

 

 長髪の男は「ん?」と首を傾げる。

 

「なら、かけそばにするか?」

「いや、そばの調理の仕方を変えて欲しいんやなくて……」

 

 はやてはちょっと困って苦笑。

 やがて三人は、雑談を交えつつ帰って行った。

 

 

 

 

「て、てめェ……!」

 

 誘拐犯のボスは、自分の部下たちを右手に持った刀で気絶させたであろう相手に対して歯軋りする。

 

「俺らを騙していやがったのか……! 仲間だと思っていたのに!」

「なに言ってんでェ」

 

 と沖田は呆れ顔になりつつ言う。

 

「テメーこそ、分かってるはずだろ?」

「な、何がだ?」

 

 誘拐犯のボスは訝しげに眉をひそめると沖田はニヤっと笑みを浮かべる。

 

「死刑囚の由佳伊畔(ゆうかいはん)さんよォ」

「ッ!?」

 

 と誘拐犯のボスはビックリしている。

 

「――ってちげェよ!! 俺の名前は夕観意嘆(ゆうかんいたん)だ!! 誰のこと言ってんだてめェは!!」

「あッ、やっぱりお前、幕府重鎮のガキどもを連続誘拐して捕まった夕観意嘆じゃねーか」

「ッ!? し、しまったァァァァァァァ!!」

 

 自分を指さす沖田の言葉を聞いて、誘拐犯のボスは頭抱える。一方のなのはたちはというと、沖田と伊畔の話に付いていけないようで困惑の表情を浮かべ始めていた。

 意嘆と名乗った誘拐犯のボスは焦ったように汗を流しながら「人違いだ!」と右手を振る。

 

「俺の名前は確かに夕観意嘆だが、そんな死刑囚とは無関係のただの善良な一般市民だ!!」

「善良な一般市民は誘拐なんてしないわよ!!」

 

 とアリサがツッコム。

 

「この後に及んでしらばっくれてんじゃねェよ」

 

 と言って沖田は意嘆の右腕を指さす。

 

「顔はマスクで覆ってるかもしれねーが、その右手にあるいくつもの星の刺青がなにより証拠なんだよ」

「ぐッ!?」

 

 誘拐犯のボスは反射的に、肘の部分から手の甲にまである★のマークが付いた刺青を左手で隠す。相手の行動を見てから、顎を撫でる沖田。

 

「俺の知ってる死刑囚は、誘拐が成功する度に腕に星の刺青を入れたらしいからな。まさか、そんな特徴的な刺青しといて、名前が同じ別人なんて言うつもりねェよな?」

「ぐッ!」

 

 意嘆は焦りの色が見える声を漏らし、アリサが半眼で告げる。

 

「なんか話はよくわかんないけど……さっき『しまったー』とか言ったし……」

「ぐッ!!」

 

 とさらに焦りの声を漏らした意嘆は被ったマスクをガシガシ掻く。

 

「だァー! チクショー!! なんでこんなことになんだよ!! 予定が完全に狂っちまったじゃねェか!!」

 

 自分の正体を認めたも同然の態度を取った意嘆に対して、沖田は鋭い眼光を向け始める。

 

「つうかお前、いつ脱獄なんてしたんだ? 俺ァ、てめーが脱獄したなんて聞いたことがねーんだがなァ」

「ッ!!」

 

 向けられた貫かんばかりの眼光に対して、意嘆は汗を流しながら後ろに後ずさり、吐き捨てる。

 

「う、うるせェー! てめェら真選組の連中が〝こっち〟に来てるなんて俺も聞いてねェんだよ!! 誰が予想できるかよ!!」

 

 ――こっち?

 

 相手の言葉を聞いて沖田は肩眉を上げるが、構わずさらに問い詰めるために自身の制服に指を差す。

 

「つうかよ、この制服見て分からなかったのか? 俺が真選組の一人だって。もしそうならおめでたい頭してんなお前」

 

 沖田の皮肉交じりの言葉を聞いて、意嘆はマスクをがしがし掻きむしる。

 

「〝こっち〟に真選組の連中なんざいるはずねェから、あいつらのコスプレした変な奴かと思ったのに!! なのに本物の真選組が現れるとかふざけんな!! 話が違うじゃねェか!!」

 

 クソッ!! と怒りを撒き散らすように地団太踏む誘拐犯のボス。

 

 ――なに言ってんだ、コイツ?

 

 沖田は相手の言葉の節々で気になる部分が出てくるために眉をひそめるが、今は考えるよりもお縄を頂戴すること優先である。

 

「まー、いいか。とにかく脱獄したってんならまた牢にブチ込んでやるよ。それとも、死刑囚だしあの世にブチ込まれる方がいいか? 由佳伊畔さんよォ?」

「いやだから誰だそいつは!! 俺の名前は夕観意嘆(ゆうかんいたん)だ!! さっき言っただろうが!! 正体見破ったくせになんでまた名前間違えんだよ!!」

 

 沖田はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「誘拐何度もやったてめーなら、俺が間違えた名前の方がお似合いだろ?」

「人をそんなポっと出のキャラみたいな扱いしてんじゃねェ!!」

 

 意嘆は怒り撒き散らすようにより強く地面を踏みまくる。

 

「えッ? もしかしお前自分の役割分かってない感じ?」

 

 口元をニヤっと歪める沖田の言葉を聞いて、ぶちっと意嘆のナニかが切れる。

 

「ぶっ殺してやるッ!!」

 

 

 

「ね、ねー……一体どうなっているのかな?」

 

 なのはは訝しげに眉を潜め、アリサは「さ、さぁ?」と言って首を傾げる。

 

「あたしもわからないわ。あいつらの話、なに言っているのかさっぱりなんだもん。ついツッコミ入れちゃったけど……」

「あの黒い服の人……一体なにがしたいんだろ?」

 

 そしてすずかもまた、今の状況の変化についていけないでいた。

 三人にはさっぱりわからない。なぜ、誘拐犯の一人である沖田が急に裏切ったのかも、話ている内容も。

 

 

 

 意嘆は近くにあった布を取り払うと、なんとそこからミニガンが姿を現す。六本の銃身が付いたいかつい銃。それは四つの足が付いた脚立に支えられている。

 

「が、ガトリングッ!?」

 

 意嘆が持ち出した重量感がある銃器を見てアリサは驚嘆し、なのはは顔を青ざめさせている親友に質問する。

 

「アリサちゃん!? あの怖そうな銃が何か知ってるの!?」

「あ、あたしも詳しくは知らないけど、めちゃくちゃ強力な銃らしいのよ! コンクリートも平気で粉々するくらいらしいわ!」

「はッはァッ! そのとおりだぜ譲ちゃん!! こいつの威力ならてめェら真選組でもこわかねーんだよ!!」

 

 自分が優勢であると認識したであろう意嘆はさきほどと打って変わって上機嫌になり、沖田に銃口を向ける。が、向けられた真選組の一番隊隊長はそれほど焦った様子を見せない。

 するとアリサがすかさず指摘する。

 

「で、でも! そんなの自衛隊でもない日本人が簡単に持てるワケないでしょ!!」

「へ~、そーなの」

 

 と沖田が平坦な声で相槌を打つ。一方、意嘆は上機嫌なまま弁舌に語り始める。

 

「はッッ!! 俺には優秀なスポンサーがついているお陰で、つえー武器がよりどりみどりなんだよ!! こいつの試し撃ちも兼ねてテメェを後で蜂の巣にする予定だったが、今この場でレンコンにしてやるから覚悟しがれ!!」

 

 得意げに言うと沖田は目を細め眼光を鋭くする。

 

「スポンサーねェ……」

 

 既に銃を発射できる態勢に入った意嘆はミニガンの銃身を回転させ、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「さー、ミンチにしてやるぜー♪」

 

 死ねェ!! と言う叫びとともにミニガンのダダダダダダダ!! というけたたましい発砲音。多数の弾丸が沖田目掛けて飛んでいく。

 

「すぅ――」

 

 沖田は息を吸うと同時に、俊敏な動きで姿勢を低くし、素早い足運び弾丸の雨から逃れる。

 

「くそがッ!」

 

 右に移動した標的に意嘆はすぐさま狙いを定めようと銃口を向けるのだが、沖田の動きがあまりに俊敏なために狙いが追いつかない。

 銃口が追いつけないながらも仕方なく弾を乱射するが、弾丸が沖田を追いかける構図にしかならない。やがてミニガンの砲身を最初の位置から180度ほど移動させた辺り、意嘆の目の前には、横に回転するパイプが既に迫ってきていたのだ。

 ガツンッ! と言う鈍い音を出しながら意嘆の顔にパイプが直撃し、「ぐげッ!?」と間の抜けた声が漏れる。

 顔をのけ反らせ隙が出来た敵に、沖田がすかさず近づこうと駆けようとするが、

 

「動くんじゃねェ!!」

 

 叫ぶ意嘆を見て沖田は足を止める。

 

「ッ……」

 

 沖田が停止した理由は痛む顔を抑える意嘆の言葉によるものではない。意嘆が取り出した拳銃の銃口が、小さな女の子三人に向いているからだ。

 

「クソッタレ!」

 

 と吐き捨て、意嘆は顔を抑えながら沖田を牽制する。

 

「その化け物じみた動きには恐れ入ったが、こうなっちゃてめェはただのデクだろ?」

 

 意嘆は少女たち三人に近づき、そのままなのはを抱え、彼女の頭に銃を突きつける。

 捕まったなのはは顔を青ざめさせ、涙目になりながらもなんとか泣き言を漏らさないよう、我慢しているようだった。

 

「ガキ人質にとって俺に勝った気でいるたァ、やっぱ頭のおめでたいヤツだったみてーだな」

 

 沖田の言葉に意嘆は怒鳴り散らす。

 

「うるせェ! 勝ちゃ官軍なんだよ! とにかく刀を捨てやがれ!」

 

 沖田は刀に目を向けた後、次に意嘆の方をチラリと見て、少し目を向ける。

 

「…………しゃーねーか」

 

 変わらなかった表情から一転して、ため息を吐く沖田。

 

「へッ、わかりゃァいいんだよわかりゃァ」

 

 意嘆は自分の勝ちを確信してかニヤけ顔。だが、沖田は人差し指を出しながら言う。

 

「あ、でも後ろ。気をつけた方がいいぜ」

「あッ?」

 

 意嘆は鼻で笑う。

 

「んなバカな手に引っかかるヤツがいると思っているのか? バァ~カ――」

 

 突如、意嘆の頭が巨大な犬の口の中に包まれる。意嘆は突然の視界の変化に慌てだす。

 

「な、なんだァ!? きゅ、急に世界が暗く――!?」

 

 すると意嘆のどてっぱらに「うォらァー!!」と猛る少女の拳が炸裂した。

 声すら上げることなく、意嘆の体から力が抜け、彼の体は力なくぶら~んと吊るされたような状態になる。

 意嘆の腕から開放されたなのはは地面に落ちてしりもちを付き、「きゃッ!?」と小さな悲鳴を出す。そしてすぐ、自分を助けたであろう存在を確かめるために慌てて顔を上げる。

 

「か、神楽ちゃん!? 定春くん!?」

 

 気絶した誘拐犯のボスの頭を咥えているデカイ犬の定春と、ニコやかな笑顔でブイサイン決めている神楽。一匹と一人がいたのだ。

 そして神楽に近づく沖田は案の定、

 

「おいチャイナ。何いきなりシャシャリ出てきて手柄横取りしてんだハナクソ」

 

 神楽に食ってかかる。もちろん神楽も反論。

 

「ンだと? てめェこそなのはたち人質にされた癖してなに言ってやがるアルかウンコ」

 

 アリサは「えッ!?」と驚く。

 

「何がどうなってるの!? あんたたち知り合いなの!? っていうか言葉汚な!?」

 

 沖田が仲間(本当はまったく赤の他人)であったであろう誘拐犯たちをなぜか裏切り、少し前に公園であった神楽と定春がなぜかいきなり現れ、あげくは沖田となのはを助けて誘拐犯のボスを倒す、といった急展開。今の現状にアリサはまったくついていけず、疑問しか生まれていないようだ。

 

「あんたちそんな風に睨み合ってないで説明しなさいよ!」

 

 とアリサが言うが、沖田と神楽ははまったく止まらない。

 

「バカ」「おめェバカ」「クソ」「じゃてめェはウンコでェ」「クソもウンコも同じだろうが」「じゅあおめェクソ未満だ」「死ね」「おめェが死ね」「土方死ね」「地獄に逝け」「土方地獄に逝け」「土方ミンチになれ」「土方ハゲろ」

 

「いや、いい加減喧嘩やめなさいよ! っていうか最終的にひじかたって人の罵倒合戦になってるんだけど!?」

 

 アリサはまったく喧嘩を止めようとしない二人につい怒鳴り、すずかが苦笑しながら話しかける。

 

「あ、アリサちゃん。とにかく、私たち助かったんだよね?」

「わからないわよそんなこと。あの栗色頭があたしたちを助けたとは限らないのよ。一体なに考えているのか分かったもんじゃないわ」

「あん? なに言ってんだおめェ」

 

 聞いて、沖田は神楽との喧嘩を中断。アリサの元までやって来て、腰を屈めて彼女に目線を合わせる。

 

「こちとら、命張っててめーみてーなガキ助けたんだ。礼言うのが普通だろうが」

 

 沖田はアリサの鼻を摘み、彼女の顔を左右に振る。彼の言ったことに対し、アリサはそっぽ向く。

 

「ふん! どうせ身代金一人締めしようとかいう魂胆でしょ?」

「俺は警察だ」

 

 沖田はため息を吐きつつ説明する。

 

「……オメェみてェなブルジョワ誘拐してもなんの利益もねーんだよ」

「アリサの言うとおり!」

 

 と神楽が沖田を指差しながら断言。

 

「こいつは警察の皮被った悪魔ネ。信じたらダメアル」

「ほら、やっぱり」

 

 アリサに疑いの眼差しを向けられる沖田はジト目になる。

 

「なんでチャイナの言うことは信じて、俺の言うことは信じねーんだよ」

「私とお前じゃ、築いてきた関係が違うからな」

 

 ドヤ顔の神楽にすずかはやんわり指摘。

 

「いや、神楽ちゃんとわたしたちって、それほど知り合いってワケじゃないよね?」

 

 神楽はなのはたちのガムテープに手を伸ばしながら言う。

 

「まー、いいアル。それよりとっととなのはたちを開放するヨロシ」

「おめーがやれ」

 

 と言いながら沖田も神楽に続いてなのはたちを縛っていたガムテープを外していく。

 

「ふぅ~、やっと自由の身だよぉ……」

 

 すずかは拘束が解けたことに安堵し、

 

「ありがとう神楽ちゃん」

 

 なのはは自分を助けてくれいた神楽に笑顔でお礼を告げる。

 沖田がアリサのガムテープを剥がした後、アリサが顔を赤くしながら小声で何かを言う。

 

「…………とう」

「あッ? なにか言った」

 

 沖田は耳に掌を添えて聞く。

 

「だから」

 

 アリサは口をもごもごさせながら言う。

 

「…………がとう」

「えッ? マジでなんて言ったの? 大きい声で言ってくれない?(笑)」

 

 ワザとらしい声とニヤけ顔で耳を近づけてきた沖田に、

 

「ありがとうございましたッ!!」

 

 アリサは顔を真っ赤にしながら大声でお礼を告げる。

 

「ッ!?」

 

 少々アリサの声が大きく、沖田は小指で耳を穿りながら軽口をたたく。

 

「……へいへい。どういたしまして」

「おいサディスト。コイツどうするアルか?」

 

 と神楽。

 

「ん? あー、そいつねェ……」

 

 沖田は気絶している誘拐犯のボスである意嘆に近づく。定春の唾液と噛まれた所からの出血で、顔中赤と透明の液体だらけの男。彼は泡を吹いて気絶している。

 

「おい起きろコラ」

 

 バキバシ! と刀を入れた鞘で意嘆の顔を殴って目を覚まさせようとする沖田。うんともすんとも言わず「ダメだ起きねェ」と言ってから、チラリと神楽を見る。

 

「テメェが強く殴り過ぎなんだよ」

「んだと?」

 

 神楽は口を尖らせ、睨みつける。

 

「敵はライフゼロになるまで徹底的にやるのが常識だろ? あァん?」

 

 そしてまたメンチ切り合う沖田と神楽の犬猿コンビ。

 その時、パチッと意嘆の目が見開かれた。そのまま目を覚ました意嘆は沖田と神楽の足に回し蹴りを放つ。だが、野生的と言っていいほどの勘で二人はジャンプし、蹴りをかわす。

 

「チッ……」

 

 意嘆は舌打ちをしたすぐ後、地面に両手を付いて体を宙に上げ、空中で何度もバック転。そして沖田たちから距離を離す。

 なのはは一連の様子を見て驚く。

 

「な、なになに!?」

「さ、さっきまで気絶したのに!?」

 

 アリサも動揺を示す。すずかは声こそ発していないが、驚きを露にしている。

 突然起き上がった意嘆に対して、動揺するなのはたち三人とは違い、沖田は鋭い眼光を目の前の敵に向ける。

 

「テメー、完全に白目剥いてただろうが。……今の動き、ただの死刑囚じゃねェな」

「やっぱ、厄介だな。しゃーねー、奥の手を使うか」

 

 と言ってから意嘆はズボンのポケットに手を入れる。そしてポケットから取り出した手はなにかを握り締めており、その手を天に掲た。

 

「この俺に力をよこしやがれェェェェッ!!」

 

 意嘆の甲高い声が響く。

 だが、なにも何も起こらない。シ~ンなんて擬音すら聞こえてきそうなほど、静寂に包まれてしまう。

 

「…………お、おい!?」

 

 意嘆は動揺。

 

「ど、どうした!? なぜ反応しねェ!?」

 

 手に持った『ナニカ』をぶんぶん振るが、何も変わったことが起きる様子がない。

 

「――なら、もう一度……」

 

 再び意嘆はポーズ取ろうとする。

 

「俺にちからぎゃああああああああああああッ!!」

 

 なんかやってる誘拐犯に、沖田の刀が上から炸裂。周りに血が飛び散る。

 

「ちょッ!?」

 

 意嘆は手を出してタンマを要求。

 

「待って待って待って待って待って!! ちょっと今取り込み中だから! なにかの間違いだから!!」

 

 沖田は「あん?」とジト目を向ける。

 

「なに言ってんだてめェ? 敵を殺せる千載一遇のチャンス逃すバカがどこにいんだよ?」

 

 沖田は刀の切っ先を意嘆の鼻先に突きつける。

 

「とりあえず、お前なんか有力そうな情報持ってそうだし、いろいろ話訊かせてもらおうじゃねーか」

 

 沖田はニヤりと黒いニヒルな笑みを浮かべる。今の彼はドSモード入りかけ、どころかもう入っている感じだ。

 

「わりィが、こっちには話すことなんざなにもねーぞ」

 

 意嘆はわずかな抵抗を見せるが、沖田は冷血動物さながらの冷たい視線を向ける。

 

「安心しな。俺は開かない口を開かせんのは得意だ。とりあえず、皮剥がしから始めようじゃねーか」

「どこに安心する要素が!?」

 

 意嘆は顔を青ざめさせる。

 その時、周りの地面に突然なにかが投げ込まれ、ボフッ! ボフッ! と破裂する音がしたかと思えば、倉庫内は白い煙に覆われてしまう。そして、ザシュッと何かを切ったような音が、沖田の耳に入った。

 

「うわッ!? なんアルかこれ!?」

 

 神楽は咳込み、

 

「ゲホッ! ゲホッ! なにこれェ!?」

 

 なのはとすずかも突然の煙に驚きながらむせかえる。

 

「ゲホッ! 煙!? ゴホッ!?」

「もぉ! さっきから一体なんなのよぉ!?」

 

 アリサは、自分の許容の範囲を超えた急展開に文句を言ってしまう。

 

「おいチャイナ! そのガキどもとっとと倉庫から連れ出せ!」

 

 不快な音を一瞬でも耳に捉え、違和感を覚えた沖田。なるべく煙を吸い込まないよう腕で口を覆いながら、神楽に指示を飛ばす。

 

「分かってるネ! ゲホッ! 定春ぅー!!」

 

 神楽は軽口を叩きながらも沖田の指示通りに動こうと、自身の愛犬を呼ぶ。そして「ワンワン!」と定春が近寄って来る。

 神楽ははなのはとすずかを脇に抱え、アリサの襟首を定春に咥えさせて持ち上げ、そのまま三人をダッシュで運び出す。

 

「なんであたしだけこんな扱ぃ~!?」

 

 アリサの叫びを遠巻きに聞きながら、沖田は視界が悪い煙の中で意嘆の姿を捉えた。

 

「ッ!?」

 

 一瞬だが、沖田の目は捉えたのだ――『首のない意嘆の死体』を。

 背筋にゾクりとするもの感じた沖田。視界が悪いこの場所を離れるために、すぐさま倉庫から飛び出した。前転をして受身を取りながら、煙のない外まで飛び出し、すぐさま柄に手を置き抜刀の姿勢。

 沖田の一連の動作はまさに、命がけの戦いを幾多も掻い潜ってきた、(せんし)の危機察知能力から生じた行動。

 沖田のただならぬ雰囲気を感じてか、神楽やなのはたちは落ち着いた後も彼に話しかけようとすらしないでいる。やがて煙が晴れ、倉庫の中が見渡せるようになるが、そこには意嘆の頭部のない死体以外なにもなく、気配すら感じない。

 

「ふぅ……」

 

 沖田は少し息を深く吐き、構えを解く。すると後ろから「おい」と神楽の声が聞こえてくる。

 

「ん?」

 

 沖田が臨戦態勢を解いたことで神楽が近くまでやってきた。いつもと違い彼女の顔には真剣(シリアス)な雰囲気が含まれている。

 

「煙をバラ撒いた奴、いなかったアルか?」

「あァ。アレ見てみな」

 

 沖田が親指で差した先に神楽の視線が向かい、彼女の目が見開かれる。

 

「ッ!?」

 

 床に血を撒き散らし、転がっている遺体(それ)

 今まで銀時と死線を潜り抜けてきたであろう少女が息を飲む。これまで死体だって見てきたことはあろうが、ああも露骨に首のない死体を見たら少しは怯むのも仕方はない。だが、神楽が驚いたのはそれだけではないはずだ。

 

「分かったか? 煙を撒いたヤツは、俺たちが煙に巻かれている間、野郎の首をもぎ取った上、俺たちより早く倉庫から出たんだぜ」

 

 沖田の言うとおり、もし倉庫に敵が残っていたのなら、煙のお陰で『ナニかが飛び出す瞬間』がすぐに分かる。倉庫に誰の気配もないことを考慮すると、敵は神楽たちが倉庫から出るより先に脱出したのだ。

 忍びの、それこそ忍びの中でもトップクラスの者ならそんな神業も可能だろう。だが、そんな凄腕の者がなぜあんなことをしたのかが分からない。

 

「今言った早業をやってのけるなんて、相当のやり手ってことだ。もし(やっこ)さんがその気なら……俺たちも無事じゃ済まなかったかもな」

 

 沖田の鋭い視線は、首のない死体に注がれるのだった。


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