やはり俺が入隊するのはまちがっている。   作:ユンケ

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比企谷八幡は熊谷友子ら同期の訓練生と共にモールモッドに挑む(後編)

 

俺がモールモッドに突っ込むと同時にモールモッドは背中からバクン、バクンと音を立てながら先にブレードの付いた6本の足を出してきた。いや、腕か?……どっちでもいいか。それにしても……

 

(……おいおい。マジかよ。バムスターと違ってやる気満々じゃねーか)

 

こいつはマジで強そうだ。気を引き締めていこう。

 

そう思いと同時に俺はスコーピオンをモールモッドの弱点の目を狙って投げつける。

 

するとモールモッドは1本のブレードでそれを防ぐ。まあ予想通りだ。こんなんで倒せるなら苦労しない。

 

俺がスコーピオンを投げた目的は目眩しだ。トリオン兵はプログラムに沿って状況に適した動きをする、こちらの世界で言うとロボットに近い存在だ。

 

おそらくトリオン兵は弱点の目から状況を見る。だから目眩しをすれば行動が鈍る筈だ。

 

(……その隙にブレードを斬って向こうの攻撃手段を奪う。弱点の目を破壊するのはその後でいい)

 

方針を決めた俺は再度スコーピオンを手から出してモールモッドのブレードに斬りかかる。

 

 

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

(何だこりゃ……硬すぎるぞ)

 

はっきり言ってメチャクチャ硬い。攻撃力のあるスコーピオンですら傷を付けれたものの斬る事は出来なかった。

 

 

そしてそこで動揺したのが俺のミスだった。

 

視界に影が見えると同時に冷静になって一歩下がるも少し遅かったので左肘から先を丸々ぶった斬られた。

 

腕からトリオンが漏れるのを見ながら後ろに下がる。

 

(油断したのは俺のミスだが……速いな)

 

ブレードの攻撃速度も速い。今の俺の実力なら集中してギリギリ躱せるが雑念があったら今のようになるだろう。

 

とりあえずどうするか?ブレードはさっきやったけど斬れないし。

 

ブレードをかいくぐって弱点の目を狙うのは論外だ。絶対に目に届く前にベイルアウトするだろう。

 

(……やっぱりブレードを減らすのは絶対だ。先のブレードそのものは斬れないから狙うはブレードの付け根部分だ。てか弾丸トリガーがあればかなり楽になるだろ)

 

Bに上がったら絶対に弾丸トリガーを入れてやる。

 

そう決心しながら再びモールモッドに突っ込む。モールモッドはそれに対して6本のブレードを振りかざし襲ってくる。

 

真正面から細かい動きで避けるのは今の俺の技術では無理だ。だから真正面から戦わない。

 

6本のブレードが俺に当たる直前に俺は横に一気に跳んでモールモッドの側面に回る。これならブレードの有効射程外だ。

 

地面に着地すると同時にモールモッドに飛びかかりブレードの付け根に向かってスコーピオンを振るう。

 

それと同時にモールモッドは俺の方を向いてブレードの1本を振るってきた。

 

 

 

 

 

 

 

それによって俺のスコーピオンは1本のブレードの付け根をぶった斬り、モールモッドのブレードは俺の左肩の一部を穿った。

 

トリオンが漏れるのを無視して俺はもう1本狙いに行く。現時点でブレード1本無力化するのに左肘から先の腕と肩にダメージを負った。ここで引いたら確実に負ける。多少無理してでも攻めに行く

 

(左肩には穴が開いているがまだ動かせる。だったら……)

 

俺は左肘から先をスコーピオンの義手を作りさっき俺の肩の一部を穿ったブレードの付け根を殴りつける。

 

それによって2本目のブレードを無力化する事に成功した。

 

(……後4本……いや、わざわざ全部無力化する必要はない。ブレード2本くらいだったらかいくぐれる)

 

今の俺の実力だとモールモッドのブレードをかいくぐれるのは2本だと思う。

 

となると実質後2本か。それまでにトリオンがなくならなければ俺の勝ち。次に大ダメージを受けたら俺の負けだ。

 

モールモッドが再度ブレードを振るってくるので義手で殴りつける。今回はブレードを殴った為、義手は呆気なく破壊されたが元々左腕は落ちてるのでトリオンは漏れない。

 

俺は義手が砕けると同時にバックステップで後ろに下がる。

 

 

 

するとモールモッドは速度を上げて近寄り今度は4本同時にブレードを振るおうとしてくる。こいつは予想外だ。

 

はっきり言って逃げきれない。ここでケリをつけるしかないな。

 

俺は枝刃を利用して右手にブレードを、左腕に義手とブレードのスコーピオンを作り上げる。

 

作戦はシンプルだ。ブレードを振り下ろしてくると同時に両腕を振るってブレードを2本無力化する。

 

成功すれば多少ダメージを受けても残ったブレード2本ならかいくぐれるだろう。トリオン体が破壊される前に目を斬れる自信がある。

 

モールモッドがブレード4本を振り下ろしてくる。今だ。

 

 

俺は集中して両腕のスコーピオンを振るった。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

モールモッドのブレードは1本だけしか無力化出来なかった。

 

右手のスコーピオンは付け根を斬ってブレードを無力化出来たが、左手のスコーピオンはブレードに当たってしまい無力化出来なかった。

 

よってモールモッドのブレードは残り3本。そして俺がかいくぐれるブレードの本数は多分2本だ。

 

少なくとも3本は今の実力じゃ無理なのはわかる。

 

(……負け、か)

 

悔しさの余り呆然としている俺はモールモッドの3本のブレードに貫かれて敗北した。

 

 

 

 

 

 

ため息を吐きながら訓練室を出ると3人が近寄ってくる。

 

「比企谷先輩、お疲れ様でした」

 

照屋が俺を労ってくる。

 

「……ああ。悪いな。応援されたのに負けちまった」

 

「いえ。惜しかったですよ。凄く勉強になりました」

 

照屋は手を振ってそう言ってくる。まあ俺の試合を見て何かを掴めたなら良いけど。

 

「それにしても戦闘用ってあんなに強いんだ。次は私が行ってくる」

 

次は熊谷のようだ。とりあえずアドバイスはしておくか。

 

「熊谷、モールモッドのブレードは硬くて斬れない。狙うならブレードの付け根部分を狙えよ」

 

アレを知っていれば勝っていた可能性も少しはあっただろう。

 

「わかった。じゃあ行ってくる」

 

熊谷が訓練室に入ったのを見送って俺は見通しの良いベンチに座って息を吐く。

 

すると気配を感じたので振り向くと嵐山さんと柿崎さんが近くにやって来た。

 

「惜しかったな。でもC級であそこまで戦えるなんて凄いじゃないか!」

 

嵐山さんはそう言って褒めてくるが負けたので素直には喜べない。まあ元々素直じゃないけど。

 

「……ありがとうございます」

 

「まあ今回は残念だったがB級に上がったらシールドや弾丸トリガーを使えたり、チームメイトの支援もあるから直ぐに倒せるようになるさ。俺も昔は手も足も出ずにボロ負けしたぜ」

 

柿崎さんもそう言ってくる。確かにそうだろう。言ってる事は間違っていない。いないけど……

 

(……凄く悔しい。少し前ならどうせ俺だから仕方ないって割り切れたのに……)

 

胸の中でモヤモヤが広がっている。こんな気持ちは子供の頃以来だろう。

 

ボーダーに入って俺はほんの少し変わっただろう。それが良い方向か悪い方向かはわからない。

 

わからないが胸のモヤモヤだけは本物だ。何としても強くなってモールモッドを倒してモヤモヤを晴らしてやる。

 

そう思いながら俺は訓練室を食い入る様に見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして30分が経過して訓練室を使う時間は終わりとなった。

 

結局全員1度も勝てずに終了した。

 

俺は始めの一戦以降は試合をせずにとにかくモールモッドの動きを観察した。トリオン兵はプログラムに沿った動きをする。調べ尽くせば行動パターンは読めるようになる。

 

多分今回だけじゃ行動パターン全ては覚えられないだろう。

 

(だが絶対に防衛任務をするまでに覚えて勝てるようになってやる)

 

 

そんな考えを胸に秘めながら嵐山さん達に頭を下げて礼を言う。

 

「今回は勝てなかったが皆良い動きだったぞ。B級に上がるのも遠くないだろう。これからも頑張れよ」

 

『はい!』

 

4人で返事をすると嵐山隊は去って行った。

 

それを見送ると同時に息を吐く。

 

「あーあ。結局1度も勝てなかったな」

 

「そうですね。俺なんて殆ど何も出来ませんでしたよ」

 

「そうは言っても巴君も最後の方は粘ってたじゃん。そう言えば何で比企谷は1回しかやらなかったの?」

 

「ん?観察してた」

 

「……なるほど。モールモッドの動きを学んでいたんですね」

 

「まあな。でも次は勝つ」

 

「それは私もよ。絶対に強くなってみせるわ!」

 

「私もです」

 

「俺も強くなりたいです」

 

どうやら全員敗北しても闘志は失っていないようだ。まあ俺もだけど。

 

 

入隊同時は金さえ稼げればどうでもいいと思っていたが……こいつらと実力をつけれるのは良かったな。

 

 

 

そんな事を考えながら俺達は訓練室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

3日後……

 

「クソッ……何だよそれ…!」

 

目の前で俺と同じ服装をして左腕を失った男が呻き声を出しながら弧月を振るってくる。

 

俺は即座に右手にスコーピオンを纏わせて弧月の横っ腹に叩きつけて隙を作る。

 

それと同時に枝刃で肩からスコーピオンを生やして男の右腕を斬り落とす。これで両腕を失ったこの男に勝ち目は無くなった。

 

そう思いながらスコーピオンで首を刎ねる。

 

「ちくしょう……!」

 

男は捨て台詞を吐きながら光に包まれ空に飛んで行った。

 

 

 

『個人ランク戦終了。5-0 勝者 比企谷八幡』

 

そんなアナウンスが耳に入り俺も光に包まれた。

 

 

 

 

ブースに戻り息を吐く。そろそろだな……

 

 

そう思いながら左腕を見る。

 

 

 

 

 

するとそこには『4021』と表示されていた。

 

 

 

 

それを見た俺は内心凄く喜んだ。

 

遂にだ。遂に4000を超えた。

 

これで俺は防衛任務に参加出来る。

 

参加しまくってトリオン兵を殺しまくり家計を助けてやる。

 

そして絶対にお袋に楽をさせてやる。

 

 

俺は改めて入隊した理由を心の中で力強く叫びながらブースを出た。

 

 

 

 

 

 

 

比企谷八幡 B級昇格決定




今回で八幡はC級卒業です。


次回は防衛任務には入らずに、祝賀会や八幡がトリガー構成について悩むシーンを入れたいと思います。

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