訓練室を出ると照屋と熊谷が話しかける。
「一気に10秒以上縮みましたね」
「凄いじゃん。私も負けてられないね」
そう言って熊谷も訓練室に入る。さて熊谷の実力は知らないからな。どんな腕前が楽しみだ。
そう思っているとバムスターが現れて熊谷に近寄ってくる。
すると熊谷は足を上げたバムスターに突っ込んで足に飛び乗る。何だ?俺みたいに背中に乗って頭に近寄る作戦か?
しかし熊谷は背中に乗らずにそのままバムスターの目に向かって跳躍した。……なるほどな。一気に距離を詰めるつもりか。
熊谷は弧月を出して目を狙って振るう。
しかし残念ながらバムスターの目を守る唇のような部位に阻まれて目を斬る事は出来なかった。惜しいな。
地面に着地した熊谷は間髪入れずにバムスターの方を向き再度足に飛び乗る。今度は上手くいくか?
そして再びバムスターの目に向かって跳躍し弧月を振るう。
今度は弱点の目には当たったものの倒すには至ってない。また飛び降りてやり直しか。
そう思った時だった。
熊谷は弧月をバムスターの首に突き刺す。……ん?
そして空いている手でバムスターの耳を掴み足をバムスターの首に当て一気にバムスターの首を蹴ってその勢いでバムスターの弱点の目の正面に跳んで弧月で一閃する。
それによってバムスターは活動を停止した。
「あれはさっき比企谷先輩がやった技ですね」
「まあ技でいう程のもんじゃないけどな」
でも見ただけで成功するとはかなり凄いな。今からランク戦をするのが楽しみだ。
そう思うと同時にアナウンスが流れる。
『2号室。記録、39秒』
アナウンスが流れると同時に熊谷が訓練室から出てくる。
「やった。一気に15秒も縮められたよ」
「そいつは良かったな。てか最後のアレは……」
「うん。また地面に着いたらタイムロスになるからあんたがやった技を真似してみた。ぶっつけ本番だったけど上手くいって良かったよ」
ぶっつけ本番で出来るってやっぱり凄いだろ?
「あ、次は私の番ですね」
「頑張れよ」
「頑張ってね!」
「ありがとうございます。行ってきます」
そう言って照屋も訓練室に入る。
そしてバムスターが現れたので訓練が開始される。
照屋は軽やかなステップでバムスターに詰め寄り右足に飛び乗る。バムスターは照屋を振り落とそうとするが照屋はそれを気にしないでバムスターに向かってジャンプする。
それと同時に右腕に持っている弧月を振るう。しかし勢いが余ったのか唇に当たっただけで目には当たってない。となると地面に落ちてやり直しか。
しかし俺の予想は外れた。
照屋は弧月を右手から左手に投げ渡し左手で弧月を掴む。
そして今度は左手を振るってバムスターの目を一閃した。
まさか空中で持ち手を変えてタイムロスを防ぐとは器用な奴だ。どうやらこの数日で照屋も相当腕を上げたようだな。
そう思うと同時にアナウンスが流れる。
『2号室。記録、23秒』
それと同時に照屋は訓練室から出てくる。
「お前もかなり縮まってんじゃん」
「そうですね。ランク戦をやったからか入隊日より動けました」
どうやら体を動かせば動かす程自由に動きやすくなるようだ。だったらもっと動いて自在に動けるようになろう。
そう思っている時だった。
『3号室。記録、12秒』
『5号室。記録、10秒』
更に早い記録が出た為にC級の間で騒めきが起こる。3号室と5号室を見ると入隊日に俺より早い記録を出した2人が訓練室から出てきた。
「あ、あれが歌川君よ」
熊谷が指差したのは5号室から出てきたリア充の雰囲気を出す方だった。
「あいつが歌川か。ところでもう1人の方は誰なんだ?」
俺は周りを見て嫌そうな顔をしている少年を指差す。てかどんだけ不機嫌なんだよ?俺でもあそこまであからさまにはあんな雰囲気出さないぞ。
「ごめん。彼はわからないな。でも今の訓練を見る限り相当強いわね」
それはわかる。正直言って俺よりも1枚も2枚も上手だ。多分戦ったら勝率はかなり低いと思う。
俺はそんな2人の内の1人と後で戦うのかよ?
その事に若干辟易している中、戦闘訓練は終了した。
その後も地形踏破、隠密行動、探知追跡訓練と色々な訓練をこなした。
ちなみに今回の俺の記録は地形踏破訓練が3位、隠密行動訓練がぶっちぎりの1位、探知追跡訓練が3位で終わった。
……何で前回同様隠密行動訓練でぶっちぎりの1位なんだ?やっぱり基本的に影が薄いからか?
納得出来ない状態で左手を見ると1615と表示されている。4つの訓練は80点満点で、その内73点取れたから問題ないだろう。
そう思いながら個人ランク戦ステージに到着した。
「えーっと歌川君は……いないね?」
熊谷がキョロキョロしながら周りを見ている。俺も探してみるが見つからない。
「用事があって帰ったかトイレだろ?無理に探さなくていいだろ?」
トイレならともかく帰ったなら探すだけムダだし。
「そうね。じゃあ比企谷、私とやろう」
熊谷がそう言ってくる。
「別に構わないが……照屋、熊谷と先にやっていいか?」
「はい。その間に2人の戦いを観察してます」
観察と言いつつ対策を講じるのだろう。怖いな。
「じゃあやろっか」
熊谷はそう言って俺の手を引っ張ってくる。ちょっとちょっと?!ぼっちにそんな行動は毒ですからね!!
熊谷の性格は裏表がないのは理解できているがそんな風にされるのは苦手だ。
内心ドキドキしながらブースに入った。
ブースに入った俺は熊谷がいる隣の106号室を探す。えーっと106は……ん?!
熊谷のブース番号を探しているととんでもない数値を目の当たりにした。
何とモニターには『306 弧月 28653』と表示されていた。まさかの2万オーバー?!そんな人がいるのかよ?!他の数字で次に高いのは『219 スコーピオン 9652』なのに……!!
これ絶対にA級トップだろ。
疑問に思っていると体が光に包まれたので熊谷とのランク戦がある事を思い出した。どうやら熊谷から対戦を申し込んだようだ。とりあえず今は試合に集中しよう。
そして俺はステージに転送された。前方には熊谷がいる。しかし熊谷が動いてこない。
このままって訳にはいかないので俺が前方に動いても動かない。その行動に疑問を感じる。
今日までに俺は照屋を含めて5人くらい弧月使いと戦ったが、全員自分から動いたり、俺が突っ込んだら動く奴で動かない奴はいなかった。
疑問に思いながらも俺は熊谷との距離を詰める。その距離約3メートル
それと同時に俺は手からスコーピオンを出して熊谷に斬りかかる。狙いは熊谷の頭蓋だ。
俺がスコーピオンを振り下ろし始めると熊谷は漸く動き出し、弧月を上に掲げてスコーピオンを防ぐ。まあこんくらいは出来て当然だろう。
弧月をぶっ壊すのは不可能なので弧月を避けてぶった切ろう。そう思った時だった。
熊谷はいきなり弧月を振り上げる。
それによってスコーピオンは跳ね上げられて俺もバランスを崩す。こいつ……
熊谷はその隙を逃さずに弧月を振るってくる。
慌てて後ろに下がるもののバランスを崩した所為で完璧には避けられず脇腹からトリオンが漏れる。1度体勢を立て直す為に後ろに下がり熊谷を見ると追撃を仕掛けてこない。弧月を構え直して俺を見てくる。
どうやら熊谷は徹底的にカウンターを仕掛けるタイプのようだ。クソ面倒な相手だな。こういう時に特殊攻撃があればそれで攻めまくれば勝て……いや、ミラーコートを使ってくるかもしれん。そしたら負ける。
冗談は置いておいて本当に面倒くさい。少なくとも普通の攻撃じゃさっきみたいなカウンターをくらうだろう。
(……となったらマトモじゃない攻撃でいくしかないな)
そう判断すると同時に俺は再び熊谷に突っ込む。熊谷が俺を見据えたまま構えを変える。
距離を5メートルを切った所で俺はスコーピオンを手に出して熊谷の顔面目掛けて全力で投げつける。
熊谷は意外そうにしながらも弧月を軽く振るってスコーピオンを叩き割るが予想の範疇だ。
おかげでノーダメージで距離を詰めれた。その距離約1メートル。
ここまで近づけたら問題ない。俺は左足を振り上げて熊谷の脇腹目掛けて蹴りを放つ。
「それは知ってるよ!」
熊谷はそう言って弧月を振るって俺の左足の膝から先を斬り落とす。それによって足からは大量のトリオンが漏れる。
その光景を見た俺は口を開ける。
「残念だったな熊谷。本命はそれじゃない」
俺はそう言って右手からスコーピオンを出して熊谷の首を狙う。
そう左足は囮だ。以前俺が足にスコーピオンを纏い照屋を蹴りで倒した事は見ていた人からすれば強く印象に残っているだろう。
だから熊谷は蹴り=スコーピオンによる攻撃と思ったのだろうが今の攻撃はスコーピオンを纏っていないただの蹴りだ。当たっても倒す事は出来ないだろう。
そして蹴りの目的は熊谷に弧月で防御をさせない為だ。現に熊谷は俺の左足を斬り落とした為に弧月を振り切った状態だ。スコーピオンならともかく割と重い弧月なら直ぐに防御は出来ないだろう。
よって熊谷の首は完全に隙だらけだ。
勝ちを確信した俺はそのまま熊谷の首を飛ばした。
熊谷は信じられない表情をしたまま光に包まれた空に飛んでいった。
『個人ランク戦終了。1-0 勝者 比企谷八幡』
そんなアナウンスが耳に入り俺も光に包まれた。
ブースに戻り息を吐く。腕を見ると個人ポイントが1635になっていた。増えたのが20ポイントぐらいって事は熊谷の個人ポイントは1300から1400くらいか?さっき例の2万オーバーのポイントに目を奪われた為に見てなかったからわからん。
そう思っていると熊谷から通信が入る。
『やられたよ。まさか足が囮だったとはね』
「まあな。照屋との試合を見たお前からすれば囮って発想はなかっただろ?」
『そうね。あれだけ印象強い試合だったし』
……否定はしないが余り蒸し返さないで欲しい。今でも照屋に申し訳ないと思ってるし。
『でも次は負けないからね』
顔は見えないが声から察するに強気の笑みを浮かべているだろうな。柄でもないがこの会話をかなり気にいっている。こんな会話が出来るならもっと早めにボーダーに入れば良かったぜ。そうすりゃ学校でも余計な黒歴史を作らないで済んだかもしれないし。
(……まあ過ぎた事を言っても意味ないか。それにもう直ぐ卒業だし)
そんな事を考えながら口を開ける。
「悪いが次も負けるつもりはない。次は照屋とやるから出るぞ」
そう言ってブースから出ると熊谷も同時に出てくる。それを確認して歩き出すと照屋の横に小さい男子が座っているのが見えた。……あいつどっかで見たな。
「あ、巴君だ」
熊谷がそう言ったので思い出した。確か入隊日に熊谷とペアを組んだ男子じゃねーか。確かすばしっこい動きで熊谷を撹乱して勝ってたな
そんな事を考えながら照屋達の元に近寄る。
「あ、2人ともお疲れ様です」
「ありがと。負けちゃったけどね。巴君も比企谷と戦ってみたら?こいつ強いよ」
熊谷が俺を指差すと同時に巴は立ち上がり頭を下げてくる。
「比企谷先輩ですね?初めまして巴虎太郎です。よろしくお願いします」
うわ、礼儀正し過ぎだろ。礼も綺麗だし。照屋といいボーダーでは先輩にこんなに礼儀正しくしないといけないのか?
「あ、ああ。俺は比企谷八幡だ。よろしく頼む」
「あ、今回は噛まなかったね」
熊谷が余計な事を言ってくる。それを言うな。噛んだらまた笑われると思って頑張ったんだよ。てか3回目で漸く噛まずに済むって遅過ぎだろ?しかも照屋もクスクス笑ってるし。噛んでないのに顔が熱くなってきた。
「……まあそれはともかく照屋、やるなら早くやろうぜ」
とりあえず話を逸らす事を最優先だ。
「あ、でしたら巴君と先に戦ってあげてください。私は1度戦っていますので」
「まあ照屋がそう言うなら構わないが……巴もそれでいいか?」
「はい。よろしくお願いします」
巴から了承を得たので再びブースに入る。
ブースに入った俺はパネルを見て巴がいる102室を探すと『102 弧月 1315』と表示されているのを発見したので該当する番号を押す。
それと同時に体が光に包まれる。
光が消えるとそこは川の近くの土手にいた。このステージは見たことないな。
そう思っていると前方に巴が現れて弧月を構えている。
巴は俺を見ると同時に突っ込んできた。やっぱりこいつはガンガン攻めるタイプか。
俺は迎え撃つべくスコーピオンを出して振るう。
しかし巴はステップ1つでスコーピオンを躱して横に跳び弧月を振るってくる。俺はそれを避けようとするが完全には避けきれず肩に掠りトリオンが漏れる。
すると巴は無理な追撃はしないで少し後ろに下がる。
(……こいつはヒットアンドアウェイスタイルか)
面倒くさいな。巴の動きからして無理な攻めはしないで少しずつ、しかし確実に俺のトリオンを削るつもりなのだろう。
現に巴は再び俺に突っ込んでいる。ならこっちも大振りは絶対にしてはいけないな。
スコーピオンを軽く振るって迎え撃つ。すると巴は弧月でスコーピオンを凌いで距離を詰めてくる。しかし弧月で凌いだ以上直ぐには攻撃出来ない筈だ。
俺はスコーピオンを右手から消して左手に持ち替える。するとそれに気付いたのか距離を取る。こいつ……本当に無理な攻めをしないな。こういうタイプが1番やりたくないな。
だったら……今度は俺が巴に突っ込む。受けに回っていたらトリオン切れで負けるだろうし。
スコーピオンを振りかぶると弧月で受け止められる。このまま打ち合いになると耐久力の差で負ける。だから俺は打ち合いをしない。
俺は巴の腹に蹴りを叩き込み後ろに跳ばす。巴は驚いた表情をしながら体勢を崩すのでその隙を逃さずに弧月を持っていない左手首を斬り落とす。
それを確認すると同時に更に詰め寄りスコーピオンを振るう。やっぱスコーピオンはガンガン攻めるに限るな。
巴は迎え撃とうとするが動作は遅い。弧月使いは片手を落とされると剣速が鈍くなる事は学習済みだ。スコーピオンは守りに入ったら弱いが攻めている時は強い。
巴が弧月を構える前に俺は手を引いてスコーピオンの軌道を変える。片手では急な変化に対応出来ないだろう。
俺は体を屈めて右手を狙うつもりだった攻撃を左足狙いの攻撃に変更してスコーピオンを振るう。
そして無事成功。巴の左足を斬り落とし巴は崩れる。後は楽だろう。
しかし確実に仕留める為に俺は正面から攻めないで後ろに回る。今の巴じゃ後ろの攻撃には対応出来ないだろう。案の定動きが遅い。
俺は巴が振り向く前にスコーピオンで首を刎ねた。
巴の首は地面に落ちて顔を確認する前に光に包まれて空に飛んでいった。
『個人ランク戦終了。1-0 勝者 比企谷八幡』
そんなアナウンスが耳に入り俺も光に包まれた。
ブースに戻り息を吐く。腕を見ると個人ポイントが1653になっていた。今日はこれで大体100ポイントちょい稼いだな。
息を吐いてブースを出ると巴が頭を下げてきた。
「どうもありがとうございました」
こいつ本当に礼儀正しいな。照屋の様に良いところの人間か。
「おう、こちらこそ」
挨拶を返すと照屋と熊谷がやってくる。
「あんた本当に強いわね。正直言ってかなりやりにくいよ」
「そりゃそういうスタイルを目指しているからな。じゃあ照屋、やろうぜ」
そう言って照屋を見ると勝ち気な笑みを浮かべてくる。
「はい。負けませんよ」
「悪いが俺が勝つ」
こちらも笑いながら照屋に返す。照屋はもう1度笑ってブースに入るので俺もブースに入った。
ブースに入った俺はパネルを見て照屋がいる102室を探すと『102 弧月 1458』と表示されているのを発見したので該当する番号を押す。
それと同時にステージに転送される。今回は市街地ステージか。
正面からは照屋が現れる。照屋とは2度目の対戦だが間違いなく前回より強いだろう。
入隊日に使った蹴り技や今日使ったスコーピオンの投擲や蹴りを囮にした攻撃は通用しないだろう。気を引き締めて行こう。
深呼吸をすると同時に照屋が詰め寄ってくる。今回は照屋から攻撃か。
俺は右手からスコーピオンを出して迎え撃つ。すると照屋は弧月を振りおろしてくるので俺は攻撃を逸らそうとスコーピオンを弧月の横っ腹に当てようとする。
すると照屋はスコーピオンと当たる直前に弧月の向きを変えて横に振ってくる。それによって俺のスコーピオンは破壊される。
そして……
いきなりの攻撃変化に俺は満足に対応出来ずに右手首を斬り落とされる。
(……何やってんだ俺は?戦闘中に呆然とするのは厳禁だろうが)
俺は内心舌打ちをしながら後ろに下がろうとするが照屋はそれを許さない。
横に振った弧月を今度は振り上げてきて俺の胸に一筋の傷を付けてくる。
何つー猛攻だよ。照屋の奴たった数日で化け過ぎだろ?
そう思いながら下がるも照屋は再び距離を詰めてくる。どうやら今回は徹底的に攻めるようだ。しかも巴とは違って多少リスキーでも攻撃をするタイプだ。
本当に強い。そして俺は右手首を斬られ、胸にも傷ができているという不利な状況だ。
……でも、凄く楽しい。
ランク戦は色々な戦い方があって俺は3日間経験したが照屋との戦いは本当に楽しい。
だからこそ負けたくない。
内心笑いながら照屋を見ると再び弧月を振り下ろそうとしている。
それに対して俺はスコーピオンで右手を作る。その手は光り輝く正義の拳のようだ。……まあ冗談だけど。
俺は半歩右に跳んで照屋が振り下ろしてくる弧月の横っ腹に義手を思い切り叩きつける。
それによって弧月は照屋の手から離れる。
「なっ…?!」
照屋は驚いているが容赦はしない。俺はそのまま必殺の右ストレートを照屋の左肩に叩き込んだ。
いくら形が手の形でもスコーピオンは刃だ。俺が放った右ストレートは見事照屋の左肩を破壊した。
俺は追撃を仕掛けようと照屋との距離を詰めようとするがその前に距離を取られて弧月を持たせてしまう。
……一旦仕切り直しだな。
そう判断した俺は義手を消して体勢を整える。
状況は悪くない。お互いに片腕が落ちたが俺はスコーピオン使いだから腕がなくても戦える。対して照屋は弧月使いだから片手が落ちると剣速が鈍くなるので俺が有利だ。
しかし照屋の事だ。油断はしない。
さて……どうするべきか?蹴り技は既に照屋に使ってるし、蹴り技を囮にした攻撃はさっき見られてるし……ん?
(待てよ。昨日見たランク戦で見たあの技ならいけるかもしれん)
昨日正隊員同士のランク戦を見てたら香取って正隊員が使っている技で興味を持った技があった。あれなら照屋を騙せるかもしれん。
そう判断すると同時に照屋に詰め寄る。照屋が何か企んでいるなら実行に移す前に倒すべきだ。
それと同時に照屋は構えを取るので俺はスコーピオンを照屋に向かって投げつける。
照屋は弧月を軽く振るってスコーピオンを叩き割るが予想の範疇だ。
おかげでノーダメージで距離を詰めれた。その距離約1メートル。
照屋を見ると訝しげに俺を見ている。さっきの熊谷戦と同じ事をしているから不思議に思っているのだろう。安心しろさっきの技より1つレベルが高いから。
内心そう突っ込みながら俺は左足を振り上げて照屋の脇腹目掛けて蹴りを放つ。
すると照屋は弧月を振るって俺の左足の膝から先を斬り落とす。それによって足からは大量のトリオンが漏れる。
ここまでは予定通りだ。次は…
俺は無くなった右手首の先からスコーピオンを出して照屋の首を狙う。
しかし照屋はさっきの試合を見ていた為左足を斬り落としてから直ぐに弧月を振り上げていた。
そして弧月が右手の肘に当たりそうになる。……今だ。
そう思うと同時に照屋の弧月は俺の右肘を斬り落とした。
しかしそれと同時に俺の右肩からスコーピオンの刃が出て照屋の首を貫いた。
「……え?」
照屋は信じられない表情をしたまま光に包まれて空に飛んでいった。
『個人ランク戦終了。1-0 勝者 比企谷八幡』
そんなアナウンスが耳に入り俺も光に包まれた。
ブースに戻り息を吐く。作戦が成功して良かった。やっぱりスコーピオンは色々な使い方があって便利だ。
そう思うと同時に照屋から通信が入る。
『比企谷先輩、最後のは何なんですか?スコーピオンは右手に持っていた筈なのにどうして肩から出てきたんですか?』
やっぱり聞いてきたか。まあ別に隠すことじゃないしいっか。
「あれか?簡単に言うと俺の体の中でスコーピオンを枝分かれしてたんだよ。つまり最後に使ったスコーピオンは右手首と肩から両方出るように作ったんだよ」
この時の俺は知らなかった。この技の名前が『枝刃』であるという事を。
『……なるほど。比企谷先輩って本当にスコーピオンの使い方が上手ですね』
そう言ってくれるのは嬉しいが……
「違う違う。俺が作った技じゃなくて昨日正隊員が使ってるのを見たんだよ」
俺はそんな高評価を貰う存在ではない。
しかし……
『それでも凄いと思います。正隊員の技をしっかり勉強するなんて熱心だと思います』
照屋はそう言って褒めてくる。止めてくれ、ぼっちは褒められるのに慣れてないからむず痒いんだよ!!
俺は照れくさくなったので逃げるようにブースから出た。
すると俺は立ち止まって絶句してしまった。
何故なら何と熊谷と巴の隣に今期最強の入隊者と思える歌川遼が立っていて俺を真剣な表情で見ていたからだ。