Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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新年初更新
今年もよろしくお願いいたします。


>引き継いで新しいゲームを始めますか?

凍りついた空気。

少年の話を最後まで聞き終えた誰もが絶句したままだった。

彼は俯いたまま、身じろぎもせずに黙りこんでいる。

 

「…………永琳!」

 

やがて、血相を変えた輝夜が永琳を見据え、鋭い声を発する。

永琳も険しい表情で頷き、口を開いた。

 

「…………おそらく、事実です。今の話で色々と辻褄は合います。彼がこの幻想郷にきたこと、通常外来人が現れる無縁塚や博霊神社ではなく、ここ、迷いの竹林に現れたことも」

「…………!」

 

その言葉に、輝夜のみならず鈴仙と妹紅も息を呑んだ。

 

「……彼がこの世界に来た理由。まずはそこからですね。彼の話によると現在、外界は人間の認知が生み出した世界と融合してしまったとのこと。つまり、人々の認識がそのまま現実に影響を及ぼすようになった」

 

「世界の融合が起こる前から、彼とその仲間達は『最初から存在しなかった』ことにされていた。その認知がそのままに彼らを忘れさせ、外の世界から消し去った……というのが、私の推測です。忘れられたモノ、存在できないモノが辿りつく幻想郷に彼が現れたのはある意味必然とも言えるでしょう」

 

「そして本来なら博霊大結界の緩みがある場所に、外からやってきたものは現れる。ガラクタや死者なら『終わったモノ』としての共通点から無縁塚、生きたままのモノは博霊神社です。…………しかし今の外界は、異世界と融合している」

 

「確固たる存在であった現実そのものに異常が起きている以上、現実と幻想とを隔てる結界自体が揺らいでいるとしても不思議ではありません。その揺らぎのせいで、彼は偶然ここに落ちてきた。そう考えれば納得はいく」

 

冷静に考察する永琳。

そこに慌てて鈴仙は口を挟む。

 

「ち、ちょっと待ってください師匠! 今の話が事実なら、それはもう、異変だとかそんなレベルじゃ…………!」

「……そうね。今までとは違う。幻想郷の存在自体が危ぶまれるわ。なんせ外では現実と幻想が一緒くたにされてしまったんだから。……最悪の場合、結界が消滅して幻想郷の中身が全て外に放り出されるかも」

「そんな…………!」

 

ショックを受けた鈴仙に、永琳は冷静な口調のまま自分の考察を話す。

 

「とはいえ。そんな事態をあのスキマ妖怪——八雲 紫(やくもゆかり)が看過しているはずがない。おそらく既に結界の修正に全力を尽くしているでしょうね。だから、少なくとも今すぐに結界がどうこうなる心配はしなくてもいいと思うわ」

「そ、そうですか……」

 

師匠の言葉に安心した鈴仙。

だが永琳は険しい表情のままだった。

 

「……そうは言っても、これはあくまで推論に推論を重ねただけに過ぎないし、結界が維持できるというのも希望論。何も解決できた訳じゃない。外の元凶をなんとかしない限り、どうしようも……」

 

その言葉に場は沈黙に包まれる。

 

「……俺は、外の世界に帰らないといけません。他の仲間がどうなったかも心配だし、何より……一刻も早く聖杯を破壊しなければ。永琳さんには、親切に怪我の手当てもして頂いて感謝しています。他の方々も、ありがとうございました」

 

ずっと黙りこくっていた少年は静かに立ち上がり感謝を述べる。

その目は決意を秘め、口元は固く結ばれていた。

そのまま踵を返し、障子に手をかける。しかしそこに永琳が待ったをかける。

 

「想像はつくけど……何するつもり?」

「決まっているでしょう。ここを出て、外の世界へ戻ります。最初の話だと、この世界の結界を管理しているのは博霊神社という場所の巫女なんですよね。なら、その人に頼んでとっとと俺を外に出してもらいます」

「無理よ。まずこの竹林。普通の人間が足を踏み入れたら、一生迷い続けてしまうぐらい複雑なのよ? 竹を切って目印にしようにも、ここの竹は異常に成長が早い。1日もすれば元通りよ。あなたが一人で出ようとしたところで……」

「ひたすら一方向に向かって切り拓きます。1日で元通りになるなら遠慮することもない。竹林が永遠に続くのでない限り、どこかで必ず竹林の外に出ます」

 

間髪入れず、少年はそう返した。

 

「……なら、博霊神社はどうやって見つけるの? この幻想郷はあなたが思うより広大よ。何がどこにあるか、そう簡単にわかる?」

「道を探します。道を辿れば、そこを使う人間が必ずいる。その人間に聞けばいい。仮にその人間が知らなくても、他の知っている人間に聞けばいい」

「そう……なら、これが最後の質問。これに答えてくれたらもう引き留めはしない。あなたの自由にするといいわ」

「…………なんですか?」

「竹林を抜けて、博霊神社の場所を知って、博霊神社に着いて……それでどうやって外に出してもらうつもり?」

 

永琳の問いに彼は少し笑って答える。

 

「どうやって、って……普通に頼みますよ。外の人間を外に帰すだけ。相手も嫌とは言わないでしょう。ましてや、俺は結界の問題を解決できる人間です。まさか断れるわけが——」

「そうね、巫女に頼めばあなたはすぐ外に戻れる。けどね。結界に異常が発生している今、巫女が呑気に神社(、 、 、 、 、 、 、 、 )にいるままだと思う(、 、 、 、 、 、 、 、 、)? 結界の修復を始めている方が自然とは思わない?」

「それ、は…………」

 

初めて答えに詰まる。

 

「ただ結界を調整するだけなら神社にいてもできるかもね。だけど、今は幻想郷の各所、結界全体が緩んでいる。必ずしも神社に巫女がいるとは限らないわ」

「……………………」

 

諭すような永琳の言葉に拳を強く握りしめる。

 

「……少し、落ち着きなさい。あなたの焦りはわかるけど……第一、今のままじゃあなたは外に出ること自体が不可能よ?」

「…………どういうことです」

 

聞き逃せない一言に振り向く。

永琳は優しげな顔で少年の鋭い視線を受け止めた。

 

「もう少し私の話を聞いても、損はしないと思わないかしら?」

 

言下に「冷静になれ」という彼女の思いを感じとり、少年は大きく息を吐く。

そして部屋を出ようと扉にかけていた手を下ろし、永琳に向き直り、その場に腰を下ろす。

 

「……お願いします」

「ん。よろしい」

 

彼女は満足そうに微笑んだ。

 

 

「さっき言ったことを、より正確に言い表すなら……あなたが外に出ること自体は可能かもしれない。だけど出たとしても何もできない、ということよ」

 

「あなたは外の世界に忘れられてこの幻想郷にやってきた。でも、この世界にやってきたからといって、あなたの存在が思い出されるわけでもない。外に戻ったところで、もう一度消えるだけなのよ」

「…………!」

 

見落としていた事実。

考えていればすぐに気づいていたであろうそのことに、今まで思い当たらなかったのは————

 

「落ち着きなさい、と言ったでしょう?」

「…………本当ですね……」

 

焦りのあまり、冷静さを欠いていたから。

少年は恥じいるように俯く。

 

「外に戻って、また忘れられて。それで幻想郷にとんぼ返り……いいえ、そうなるならまだマシ。最悪の場合、幻想郷にも戻ってこれずにあなたという存在自体、無かったことにもなりかねない」

「そ、れは…………」

「あなたもそんなこと避けたいわよね?」

 

当然だ。

ここで自分が消えてしまっては、全てが終わってしまう。

 

「だからね。私の提案、乗ってみない?」

「……?」

 

顔を上げる。

目の前の永琳は悪戯っぽい表情で笑っていた。

ただでさえ整った顔立ちの彼女の笑顔にドキリとさせられる。

 

 

「どう? 聞きたい?」

 

 

だからだろうか。

 

その言葉に反射的に頷いてしまったのは。

 

 

「——あなたは『いなかった』ことになっている。だから外には戻れない。ここまでは良いわね?」

「ええ、それは理解しています」

「なら話は簡単。『いることにすれば良い(、 、 、 、 、 、 、 、 、 、)』。ただそれだけ」

 

……………………?

話がまだ見えてこない。

 

「あなたが存在しないという認知に対抗するなら、あなたが存在するという認知が必要、ということよ」

「ああ、なるほど…………って」

 

それができるなら、自分は今ここにいないのだが…………

微妙な表情から少年の考えていることを読み取ったのか、永琳はヒラヒラと手を振る。

 

「最後まで聞きなさい。認知というものの性質がどんなものか、詳細はわからないけど……とにかく、あなた自身の存在を確立させれば良いのよね?」

 

「なら、別に外の世界に拘らずとも、この幻想郷の中で、あなたのことを知らしめてやればいい」

 

「この世界にいる者達はそれぞれが幻想そのもの——つまりはある種の認知であり、中には存在が肉体より精神に偏る者もいる。彼女らにあなたの存在を知らしめ、記憶に刻みこめば……不特定多数の人間による曖昧な認識などに劣らない強さの認知が得られると思うわ」

 

つらつらと語られる永琳の提案。

その内容を吟味する。

 

筋は通っている。

不足している存在の強度を、幻想郷の住人の認知によって補う。

なるほど、道理ではある。

 

「…………概要は把握しました。では、これからその方々に……まあ、なんというか、挨拶回り? 顔見せ? ……するってことですか?」

 

納得した少年がそう尋ねると、さっきと同じ、悪戯っぽい笑顔を見せる永琳。

 

「いいえ、違うわ。言ったでしょ? 記憶に刻みこむ(、 、 、 、 、 、 、)、って」

 

 

「あなた、言ってたわよね? 自分達は『怪盗団』だったと」

 

 

「なら、幻想郷(こっち)でもやりなさいな。怪盗(、 、)

 

 

そう言って浮かべた永琳の満面の笑みを見て、鈴仙は思った。

 

あ、師匠、凄いイイ顔してる……こんな時の師匠には逆らわないのが得策。私は巻き込まれないようにしよう——と。

 

 

輝夜は思った。

 

久々にイキイキしてるわね〜。……まあ咎める理由もないし、好きにさせましょう——と。

 

 

妹紅は思った。

 

月の頭脳なんて言われているが、この女の考えることだ、どうせロクでもないことなんだろうな——と。

 

 

少年は思った。

 

俺は、本当にこの人に従って大丈夫なのか?——と。

 

 

 

こうして、幻想郷に怪盗は現れる。

彼は関わった者全てに鮮烈な印象を与えていき、そして去っていった。

これより語られるのは幻想郷を——否。世界を巻き込んで起きた異変と、その顛末である。

 




序章が終わった、という感じですね。
ここからやっと本格的に話が進むことになります。
※ここからただの雑音
マキラ当たったァ! ッシャァ!!
20連でセルエルとマキラとか大勝利すぎません? せん?
——グラブルの話失礼しました。

あとなんかツイッターの公式垢でペルソナ5の動きがありましたね。
これはついにアイオーンくるフラグなのか……?

>あなたは 心の怪盗団 を信じますか?
@管理人 このコメントは削除されました。

GEの方も新情報出るっぽいし楽しみだわ……
——ペルソナとゴッドイーターの話失礼しました。

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