Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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特別編:永遠亭のバレンタイン②

「暁! お願いだから早くして! コイツかなり手強い!」

「…………っ! わ、悪い! 今助ける!」

 

呆然としていたジョーカーは鈴仙の悲鳴で我に返り、彼女へ駆け寄ろうとする。

するとその動きに反応した怪物が触手のようなものを何本も生み出し、目にも止まらぬ速さで繰り出してくる。

 

「おわっ!? 【アルセーヌ】、〈マハエイガオン〉ッ!」

 

咄嗟に呼び出した【アルセーヌ】に触手の大半を迎撃させ、撃ち漏らしたものはスライディングで回避、鈴仙とてゐの所へたどり着く。

鈴仙はなんとかてゐの足を掴んでいる触手を引き剝がし、てゐを引っ張り出そうとしているがなかなかうまくいかない。

 

「チッ、ああもう、 離れろって!」

「早くてゐの足を掴んでるやつを切って! そろそろ、限界……!」

「任せろ! 〈ブレイブザッパー〉!」

 

罵りながら触手を振り解こうとしていたてゐはジョーカーが触手を切り裂いた瞬間、懸命に引っ張り続けていた鈴仙に勢いよくぶつかり、揃って倒れこむ。

 

「だっ!? ……鈴仙、暁、助かったよ。かなりヤバかった」

「イテテ…………そ、それより早く離れないと!」

「ひとまず二人とも俺の腕を掴め!」

 

ジョーカーの言葉に応じた二人が彼の腕を掴んだ瞬間、ジョーカーは二人を抱きかかえて後方へ跳躍する。

怪物は様子見のつもりか、手出しはしてこない。

 

ジョーカーが相手の出方を窺いながらも慎重に二人を下ろすと、てゐと鈴仙は「「ありがと!」」と礼を言って駆け出していく。

二人は怪物を挟むようにして雨のように弾幕を降らせるが、無数の触手で迎撃される。

どう援護しようか悩みながらも、未だにいまいち状況を理解できていないジョーカー。そこにこいしが近寄ってくる。

 

「お兄ちゃん、大丈夫ー?」

「こいし」

「ん?」

「説明を」

「はいはーい」

 

さすがに悠長に話をしている場合ではないとこいしもわかっている。

 

 

簡潔な彼女の説明曰く。最初は皆普通にチョコレートを作っていたらしい。失敗らしい失敗もなく、平和なものだったそうだ。

その雲行きが怪しくなりはじめたのは、永琳が妙なものを持ち込んできた時からだった、と。

 

 

「妙なもの?」

「えっと、ナノマシン? とかいうやつ。なんか凄いらしいね。これを使えば自動で改良から成型まで自由自在〜とかなんとか言ってた」

「……………………は?」

 

ナノマシン? あの、未来テクノロジー的なSFの産物? それを使ってチョコ作り?

——なんの冗談だ?

 

意識が遠くなり、視界が暗くなるジョーカー。それでもなんとか話の続きを促す。

 

「………………それで、どうなったんだ?」

「えっとねぇ…………」

 

 

そして永琳は困惑する一同の中、輝夜にむけて言い放ったらしい。

 

『あら? 姫様はただの菓子を作って満足なんですか? あらあら。そうですか。優勝、もらっちゃいましたかね?』

 

……ムキになった輝夜も自分の能力をフルに使って試行錯誤を始め、それを見た他の面々も(じゃあ自分も)とばかりにそれぞれの能力を駆使して何かしらのアレンジを加えていく。

そして出来上がったそれぞれのチョコレートを冷蔵庫に入れ、しばらく時間が経ったところで固まっているか確認しようと冷蔵庫の扉を開けた途端——

 

 

「————あのよくわかんないのが出てきたの。……今の説明でわかった?」

「……ああ。わかりたくもなかったけどな…………」

 

要約。

『だいたい全部永琳のせい』。

 

激しい頭痛を覚えてこめかみを押さえるジョーカー。

彼の頭の中では(やっぱり余計な事企んでやがった……!!)という叫びが渦巻いていた。

 

こめかみを押さえながら半眼で元凶の方に視線を送ると。

 

「この、この! こうしてやるっ!」

「よくもやったわね! お返しよ!」

 

…………輝夜と取っ組み合いの喧嘩を始めていた。

 

激しさを増した頭痛は堪え難いレベルに進化する。

無言で立ち尽くすジョーカーの袖をクイクイと引っ張るこいしは、怪物に弾幕を浴びせ続ける二人を指差す。

 

「手伝わなくていいの?」

「……ああ。今からやる。お前も手伝ってくれ」

「まっかせなさーい!」

 

疲れ切った声のジョーカーに胸を叩いて応えるこいし。

ジョーカーもなんとか意識を戦闘に切り替え、どう戦うかを考えだす。

その一方、どうしても気になっていたことが呟きとなってポツリと口から漏れる。

 

「…………しかし、あの造形はいったいなんなんだろうな」

「うーん……あの外見は私の作ったチョコレートに似てるような……なんでかな?」

「………………………行くか」

 

聞き捨てならない呟きに切り替えたはずの意識がいきなり大きくぐらつくのを感じるが、ひとまず余計な思考は排除する。

 

「【メタトロン】、〈ヒートライザ〉!」

 

まずペルソナを召喚し、鈴仙に補助魔法をかけ、間髪を入れずてゐとこいしにもかける。

途端に鈴仙とてゐの弾幕の威力が跳ね上がり、触手を圧倒しはじめる。

 

「おおっ?」「何これ、いきなり弾幕が……?」

「補助魔法をかけた! 効果が切れる前に一気に押し切るぞ!」

「オッケー!」「わかった!」

「こいし、お前は上から援護!」

「はーい!」

 

即座に反応したこいしが空中に浮かび、弾幕を放つ。

強化された鈴仙とてゐの弾幕に触手を吹き飛ばされた怪物の胴体に着弾し、貫通する。

 

しかし貫通した穴の周りのチョコレートがすぐに空いた穴を埋めてしまう。

 

「なんのー! もっともっとー!」

 

負けじとこいしも弾幕の密度を上げ、さらに多くの穴を作っていくが、その度に怪物は穴を塞いで再生する。

連続する破壊と再生。

その膠着状態を破ったのは準備を整えたジョーカーだった。

 

「よし……〈ランダマイザ〉!」

 

ジョーカーがそう唱えた瞬間、ガクンと目に見えて怪物の動きが鈍る。

その隙を見逃さず——

 

「【アルセーヌ】! 〈マハエイガオン〉ッ!!」

 

ジョーカーは裂帛の気合いとともに〈コンセントレイト〉で威力が上乗せされた〈マハエイガオン〉を解き放つ。

怪物を取り囲むように全方位から放出された暗黒のエネルギーはその中心へと殺到し、流動体であった怪物の体をまるで水風船を破るかのように爆散させた。

 

ボタボタと地面に落下する怪物の破片を見た一同の肩の力が抜けようとした。

——が、しかし。

 

 

————ビシャッッッ!!!!

 

 

水っぽい音を立てて怪物の破片が引き寄せられるように一点に収束、再び怪物が無傷の状態で出現する。

 

「「「「………………」」」」

 

あまりの事態に全員が沈黙する。普段はどんな時だろうと賑やかなこいしですらその光景を見て絶句していた。

 

全身を引き裂いて爆散させたのに、何事も無かったかのように再生する。呆れるほどの不死性だ……などと現実逃避気味に考えるジョーカーの耳に、ポツリとてゐが漏らした呟きが届く。

 

「…………そういえば、姫様はチョコレートに能力を使ってたね」

 

その呟きに反応し、鈴仙もぼんやりと口を開く。

 

「…………師匠のナノマシン、周囲の物体を取り込んでいく機能もあったっけ。きっと冷蔵庫の中身、空っぽになってるだろうなぁ……」

 

二人のその言葉を聞いてしまったジョーカー。その頭脳は断片的な情報から、彼自身の意思とは無関係に推測を組み立てる。

 

 

本来どういうものになる予定だったのかはわからないが、輝夜のチョコレートは彼女の能力が込められている。

そして、永琳のナノマシンチョコレート。こちらは周囲のものを取り込むのだとか。

この二項に加えて、こいしの「私のチョコレートに似てる」という発言。

 

 

…………彼は非常に嫌な結論に達する。

自分でも認めたくない事実を認めざるを得なくなる。

おそらく他の皆も同じく頭のどこかでわかっているだろう。

 

 

「…………あー、つまり、こういうことだな? このモンスターはお前達の作ったチョコが融合して生まれ、冷蔵庫の中身を取り込んで肥大化。そして、()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()……輝夜の『永遠』もあるわけだ」

 

あえて淡々と事実を再確認するジョーカーの言葉に瞑目する一同。

その事実を口に出したジョーカーの顔は完全な「無」だった。

 

「…………どうすんだよ。まさかの『不死のチョコレート』だぞ。普通の弾幕や攻撃じゃ再生速度に追いつけない、爆散させても今みたいに復活する。打つ手なしだぞ」

 

頭を抱えてしゃがみこみたくなる欲求を必死に抑えながら感情が漂白された問いを口にするジョーカー。

どうしようもない現状を呪いながら、動きだそうとした怪物を牽制する。

 

「……とりあえずひたすら撃ち続けるぞ。鈴仙、コイツを動かしてるナノマシンの弱点は無いのか?」

「えっと、えーっと…………確か、高温と電気には強くないはず!」

「火炎か電撃か…………手持ちのペルソナじゃ使えるスキルが無いな……」

 

彼は歯噛みしながら対抗策を模索する。

 

「…………とりあえずあそこで喧嘩してる二人にも手伝わせるぞ! つかまだ喧嘩してたのか!」

 

ジョーカーの視線の先にいる永琳と輝夜の姿を確認したてゐがいったん弾幕をストップさせて二人を呼びに行こうとする。

 

「二人とも! いつまでもバカやってないでこっちを————」

「てゐ! 危ない!」

「へっ? …………うわぁっ!?」

 

てゐが鈴仙の警告で振り返ると、目前までいくつものレーザーのようなものが飛来して迫ってきていた。彼女は咄嗟にしゃがんで回避し、その線を目で追う。

数条のそれは真っ直ぐ飛翔していき——

 

「悪いけどこっちは忙しいの! 話は後に——んぐっ!?」

「今からこの子にもう一度礼儀作法を叩き込むところだから待ちなさ——んむっ!?」

 

絶好の、と言うべきか。最悪の、と言うべきか。

そのタイミングでこちらを振り向いた二人の顔に綺麗に命中した。

 

一見レーザーのように見えたそれは命中と同時に弾け、永琳と輝夜の顔を覆うように張り付く。二人は苦しそうに喉を押さえ、なんとか呼吸をしようとしたが————窒息して崩れ落ちた。

蓬莱の薬によって不死身になった二人も酸欠からくる気絶には無力だ。

 

「姫様!? お師匠様!? 暁! 今のはいったい何!?」

「いきなりコイツが発射してきた。多分、白い液体を高速で噴射したんだ。水鉄砲みたいに」

「白い液体……………? …………もしかして」

 

何かに思い当たった様子のてゐに視線を向けるジョーカー。

 

「……心当たりが?」

「普通にホワイトチョコレートっていうのを作ってたんだけど、能力をどう使うか思いつかなかったから溶かしたままにしてとりあえず冷蔵庫に戻してた、んだけど……」

「それだろうな。しかし、液体を飛ばして顔に張り付くというのはどういう理屈…………ッ!?」

 

 

——全員の意識が逸れていたその瞬間、怪物を一瞥したジョーカーだけがその動きに対応できた。

 

怪物が発射した幾筋ものホワイトチョコレートが飛来し、咄嗟に躱したジョーカーを除く三人の足に命中。

そのことに三人が驚くよりも早く、()()()()()()()()()()()()()()チョコレートが凝固していく。

 

「うわ、なによこれ!」「動けない……!」「足が固まっちゃったー!」

「あれは…………!」

 

その様子を離れたところから目撃していたジョーカーは気がつく。

あれは輝夜の能力の『須臾』によって時間を加速させられたチョコレートだ。衝撃を条件に発動させ、一気に凝固させているのだろう。

永琳と輝夜の二人の顔に当たった時も同じように凝固し、呼吸を止めたのだ。

 

彼が考察している最中にも、足を固められた鈴仙達は二度、三度と放たれるホワイトチョコレートを避けることもできず、全員を白く染められていく。

 

「やっ、ちょ……顔にかかる!」「不愉快極まりないね……」「うわぁ、ベトベトのカチカチだ……」

 

その姿はどことなく扇情的で、 健全な青少年としては思わず目が釘付けに。

 

(…………なんだろう、この背徳感溢れるエロティシズム。フォックスならどんな表現するかな……そういえば、フタバパレスの時のパンサーの谷間はまさに絶景————って、こんなくだらないこと考えてる場合じゃない!)

 

すぐさま我に返ったジョーカーは頭を振って余計な雑念(煩悩)を切り捨てる。

 

その間にも凝固していくチョコレートは三人を白い彫像へと様変わりさせてしまった。

鈴仙達はそれぞれがなんとか抵抗しようとするが、手足ごと固められているため何もできない。

 

ジョーカーも彼女達を助けようとスキルを放とうと片手を持ち上げ、途中で停止する。今の彼では体を覆うチョコレートだけを破壊するような精密な発動は不可能だ。

ならば接近して直接剥がしてやろうと一番近いところにいたこいしのもとに駆け出すが——

 

「くっ! そう簡単にはいかないか!」

 

すかさず伸ばされた触手が彼を阻む。

駆け出そうとした足を跳ね上げ、回し蹴りをしながら〈ブレイブザッパー〉を発動。迫り来る触手の群れを薙ぎ払う。

だが次から次へと襲いかかってくる触手を前に、鈴仙達を助ける余裕がない。

さらにはあのホワイトチョコレートが触手の間を縫うようにして間断なく発射され、避けることも困難になりつつある。

 

次第に消耗していくジョーカー。

とうとうスキルを発動することもできなくなり、身のこなしだけでなんとか凌ぐ。

 

————このままではやがてあの触手かホワイトチョコレートに捕まる。そうすればあの怪物を止める者が誰もいなくなり……

 

その先を想像した彼が顔色を悪くした、まさにその時。

 

突如天から降り注いできた無数の()()()が全ての触手を引き千切った。

炎の熱によってホワイトチョコレートも溶けていき、固まっていた三人も解放される。

 

「——おい、大丈夫か!? いったいどういう状況だ!?」

 

そしてその声とともに空から一人の少女が永遠亭の庭へと降り立つ。

ジョーカー達は彼女の顔を見て驚いた表情にな?。

彼女はまさにこの状況を打開するのにうってつけの人物であり、ジョーカーにとっても縁のある相手。

 

 

————()()()()だった。

 

 

「妹紅さん! 助かりました! どうしてここに?」

 

安堵の表情で礼を言うジョーカーに眉間に皺を寄せた妹紅は怪物から視線を外さずに答える。

 

「ここの弾幕の光と音が竹林中に響いてるんだよ。いったい何事かと思って来てみれば、わけのわからない妖怪と戦ってるのが見えてね。コイツ、いったいなんなんだ? どうして結界の内側にいる? 永琳とバ輝夜は何してるんだ?」

「えっ、と…………」

 

どう答えるべきか悩み、逡巡するジョーカーに代わって鈴仙が妹紅に声をかける。

 

「後で説明するから、とりあえずソイツ燃やして! 炎が弱点だから!」

「……了解。消し炭にしてやるよ!」

 

鈴仙の言葉に目を鋭くした妹紅は両手に炎を纏わせて怪物を見据える。

怪物も眼前の少女が自分の天敵だと察知したのか触手を全て引っ込める。

 

次の瞬間。

怪物の体が一気に膨れ上がり、茶色い波濤となって妹紅に押し寄せる。

濁流のようなそれはあっけなく妹紅を呑み込み——

 

 

————爆音とともに内側から弾けた豪炎に大半を焼き尽くされ、辛うじて残った僅かな破片も散り散りになる。

 

 

空高く吹き飛ばされた破片はボタボタと地面に落下していくが再生する様子は一切ない。炎の熱によってナノマシンの機能が死んだのだろう。

そして、その噴水のような光景の根元には、手に持った茶色の塊をしげしげと見つめる妹紅の姿があった。

 

「なんだ、コレ? やけに甘い匂いがするけど…………」

 

唯一まともな形で残ったチョコレートをキャッチしていた妹紅は首を傾げながら振りむき、ジョーカー達に声をかける。

 

「…………なんだかよくわからないけど、とにかく終わったぞ」

 

その言葉を聞いたジョーカーと他の皆は顔を見合わせ、緊張を緩ませる。

疲れきって地面にへたり込む一同を見た妹紅は「怪我でもしたのか!?」と人の良さを発揮していた。

 

 

 

「——というわけで、あれは妖怪でもなんでもなくて……」

「お前らの作った菓子が融合した化け物だった、と。…………輝夜のバカはともかく、何やってんだよ……」

 

事の顛末を全員から聞いた妹紅は頭痛を堪えるようにこめかみを押さえていた。

その姿に暁が深い共感を抱く隣で、輝夜が妹紅に食ってかかる。

 

「誰がバカよ! そもそも今回責められるべきは私じゃなくて永琳でしょ!」

「……そうだな。その意見は正しい」

 

妹紅も輝夜のその意見には同意を示す。

全員の冷たい眼差しが永琳へと突き刺さった。永琳は一筋の汗を垂らしながら必死に弁明する。

 

「いや、あんなことになるとは私も思ってなかったのよ! ナノマシンも成型機能しか起動させてなかったし、どういうわけか勝手に暴走したの! よほどの衝撃を加えるか、強力や電磁波や磁気にでも晒ない限り起こりえない事態だし、さすがにそこまでは想定外よ!」

「だからと言って無駄にこのバカを「誰がバカよ!」……バ輝夜を煽る必要はなかっただろ。反省しろ」

「そ、それは……はい。すいませんでした」

 

悄然として頭を下げる永琳に呆れた表情の妹紅は首を左右に振る。

 

「私に謝ってどうすんだよ。一番迷惑を被ったのが他にいるだろ」

「…………そうね。暁、うどんげ、てゐ、こいし。ごめんなさい」

「いや、俺はまったく…………ん?」

「? どうかした?」

 

 

気にしていない、と言おうとした暁はふと永琳の発言の何かが引っかかり考えこむ。

 

(『電磁波や磁気に晒されない限り』……『電磁波』…………()?)

 

閃いた彼はチラリと鈴仙の方を確認。

彼女が冷や汗を流して視線を虚空へと彷徨わせている姿が目に入る。

沈黙。

 

 

「…………いえ、むしろ永琳のおかげで助かったみたいですし、こちらこそお礼を言わせてほしいです」

「……はい? 何を言って…………」

「お前もそう思うよな? 鈴仙

「えっ、ええ! ももも、もちろん! 暁の言う通りですよ!」

 

寒々しい笑顔を浮かべる暁に追従してコクコクと頷く鈴仙。なんとなく察したらしいてゐは呆れ顔に、わかっていないこいしやその他の者はきょとんとしている。

 

それぞれの能力を込めたチョコレートを入れた冷蔵庫。『狂気を操る程度の能力』、またの名を『()()()()()()()()()()』。そしてナノマシンの暴走。

……つまり、まあ、そういうことだろう。

 

なんたることか。

一番安全だと思っていたチョコレートが実際は最も危険な核弾頭だったのだ。

生身で電磁波を放つチョコレートなんて代物を食べさせられるくらいなら、ペルソナを使用した戦闘の方がむしろ安全なくらいだ。

 

急に感謝される理由を理解できていない永琳をさておき、暁はてゐとこいしにも視線をやる。

 

「二人はどうだ?」

「…………ま、たまにはこんなことがあった方が面白いさ。気にしてないよ」

「私も面白かったー! このホワイトチョコレートっていうのも甘くて美味しいし!」

 

肩をすくめるてゐと、袖に付いたままのホワイトチョコレートをペロリと舐めてご満悦のこいし。

再び視線を永琳へと戻す。

 

「全員が気にしていませんし、あまり気に病まないでください。……ただ、今後はもう少し注意して欲しいですね」

「わかってる。本当にごめんなさいね。……ありがとう」

「だから気にしないでくださいって。……そうだ」

 

気まずそうな顔で首の後ろに手をやった後、暁はポンと手を打って部屋から運んできていたものを皆に見せる。

 

「俺の作ったチョコレートです。材料は一緒なので味は皆のものと変わりませんが……あ、妹紅さんのチョコレートも用意してますよ」

「わ、私も?」

「当然じゃないですか。俺が幻想郷に来て最初にお世話になった相手なんですから。はい、どうぞ」

 

何気なく差し出されたそのチョコレートをそれぞれが受け取り、いったいどんなものかと見る。

 

「「「「「「……………………!?」」」」」」

 

そして、絶句。

彼が作ったという、そのチョコレートは——

 

「気に入ってもらえると良いんですが。一応、俺にできる限界まで似せる努力はしたつもりです」

 

 

————それぞれの姿をチョコレートで模した、一種のフィギュアだった。

 

 

あまりの完成度に絶句した一同は、完全に同じタイミングで同じことを思った。

 

 

 

自分達と比べるまでもなくコイツが優勝だろ、と。

 

 




器用さ:超魔術

バレンタインスペシャルをバレンタインに投稿できない大馬鹿がいるらしいですね?
すいませんでした(切腹

間違えて削除したぶんを必死こいて書き直してたんですが、書いてる途中で「なんだか面白くねぇぞ、コレ……」となったため、大幅に内容を変更することに。お待たせして大変申し訳ないです。

最初はチョコレートモンスターを「不定形の怪物」「鈴仙の『狂気を操る能力』を持つ」ってことで、某神話生物の「ショゴス」にしてたんですが…………どうもこの作品はご立派様のファンが多いらしい。
ならば期待に応えないと、と考えてこんな感じに。

久々にジョーカーの屋根ゴミ要素が出た気がします。

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