Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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特殊タグの使い方を学んだので実験的な意味合いも込めた一話。どうだろう、今後も使えるかな……


新たなる共犯者

「…………つまり、この金は……その、シャドウ? とやらから巻き上げた金なんだね?」

「はい、そうです…………」

「なんだ、それならそうと最初から言いなさいよ。てっきり何かに手を染めて得たお金かと……」

「一応、既に話をしてた鈴仙は俺のことを信じてくれても良かったと思うんだけどな…………」

「あなたの事情は聞いたけど、こんなにお金持ってるなんて聞いてないわよ!」

「それは……そうですね…………」

 

 

正座であらいざらい白状させられる暁。それなりに疲れた様子だ。

先ほど彼が出した金を見た二人はしばらく固まって、その後暁を問い詰めた。具体的にはその金の出どころを。

外の金に詳しくない鈴仙も、その紙幣の量は尋常ではないことくらいわかる。

 

さすがに自分の素性を話していいものか逡巡した彼は鈴仙に助けを求めようとしたのだが、肝心の彼女からも疑念に満ちた視線を向けられていたため、断念。

諦めて、永遠亭で語ったことをそのまま霖之助にも話す。そして金はシャドウから手にしたということもなんとか説明する。

 

暁が話し終わると、納得したようでどことなく安堵したような表情になる鈴仙と違い、霖之助は眉間に皺を寄せて考えこむ。

簡単に信じられるような話ではない。彼の反応は至極当然だろう。

 

「…………ふむ……」

「(なあ、鈴仙。やっぱ霖之助さんに話したのってマズかったんじゃないか)」

「(し、知らないわよ! そもそもの原因も、話したのも暁じゃない!)」

「(だからそこのフォロー入れてくれって!)」

「(いきなりあんな光景見てそんなとこまで気が回ると思ってるなら私を買い被りすぎよ!)」

 

己の思考に埋没する霖之助から離れたところでヒソヒソと小声で言い合いをする二人。もはや完全に打ち解けている。

 

「(どうするのよ。師匠に怒られるかもよ? ……まあ私には関係ないけど)」

「(おいおい、そんな冷たいこと言うなよ。怒られる時は一緒だろ? 逃げようとしたら鈴仙に全責任なすりつけるぞ)」

「(なんでよ! 嫌よ! あなたの失敗に巻き込まれるなんてごめんよ!)」

「(そう言うなって。友達じゃないか)」

「(な…………は、はぁ!? ち、違うわよ!! )」

 

必死に否定する鈴仙に絡む暁。真顔である。が、内心面白がっている。

そして、友達ではないと言われたことに悲しげな表情をする。もちろん演技だが、それを持ち前の器用さでまったく悟らせない。

 

「……そうか、そうだよな。つい勝手に友達感覚になってたんだ。馴れ馴れしくして悪かった」

「え、えっ?」

 

鈴仙は暁のテンションの落差につい素の声を出してしまう。

 

「いや、本当に悪かった。鈴仙……いや、鈴仙()()は俺に気をつかってくれてただけだよな。これからはもう無いようにするから——」

「ちょっ、待って、ねえ、暁」

「はは、そんな気をつかわなくても……無理して名前で呼ぶんじゃなくて苗字でいい()()()()

「待って、お願い、あの、違うの」

 

悲しげな表情のまま力無く笑う暁に次第に焦りだす鈴仙。出会った当初と同じように敬語口調になる彼に酷く距離を感じる。

 

今のはその、言葉の綾というか、勢いで……本心じゃなくて、だから……

 

もごもごと言葉を転がし、あたふたしはじめる彼女。視線があちこちに泳いでいる。

 

——そろそろこの演技もいいだろう。これ以上困らせるのはやり過ぎだ。

 

そう判断し、口を開こうとする暁。しかしそれより先に鈴仙が彼を見据えてこう言った。

 

 

「と……友達だから…………

 

 

恥ずかしそうにしながらも、はっきりとそう言い切る。

途中から恥ずかしくなったのか、極端に声量が落ちたが、肝心な部分はむしろ大きな声で吐き出していた。

 

彼女の言葉に思わず息を止める暁。

 

 

短い付き合いながら、彼女の言葉が本心ではなくて反射的な照れ隠しだとは思っていた。とはいえそれを確認する手段などなく、実際に友達とも思われていないかもしれないことも承知していた。

それでも仕方ないと思っていたし、それで傷つくほどヤワでもなかった。

 

だが、そう考えながらも、どこかに一抹の寂しさを抱えていたのは否定できなかった。

仲間達も、自分を助けてくれた数少ない協力者達もいない中で、心を許せる相手である鈴仙。そんな彼女に、自分の存在が何とも思われていないと考えるのは、心のどこかが小さく痛む気がした。

 

だからこそ、はっきりと口にしてくれた彼女の行動は予想外だったし、何よりも嬉しかった。

 

 

暁は思わず声を上げて笑ってしまう。

それを見た鈴仙は硬直し、次の瞬間、顔を真っ赤に染め上げて彼の胸ぐらを掴む。

 

「なっ、あっ……この、あんたっ、何笑って…………!」

「ごめっ…………ははっ、いや、違うんだ。鈴仙の言葉に笑ったんじゃ……くくっ」

「こ、このっ……! 私がどんな思いで、あ、あ、あんなことを言ったと……!」

 

笑いを堪えようとする暁と恥辱に打ち震える鈴仙。

彼女はからかわれたのだと思い怒り心頭になるが、むしろ今の彼の笑いは彼自身に向けられたものである。

 

彼女をからかうつもりでやったことが、むしろ最後の一言でひっくり返された。ましてや、自分はその言葉に安堵を覚えてしまった。完全に一本取られた形だろう。

 

そう考えて、暁は自分の間抜けさにまた笑ってしまう。

しかしそんなことを考えているとは知らない鈴仙は、彼が自分のことをからかい、そして笑っていると思い、ますます顔を紅潮させる。

実際、からかわれていたのでその認識はあながち間違いでもない。

 

「うう……! ううぅ…………!」

「ごめ、ごめんって……ぐっ、(ぐる)じい……くくっ…………」

「————ッ!!!!」

 

絞めあげられ、苦しそうに鈴仙の腕をタップする暁。

だがその途中にまた笑ってしまい、それがますます鈴仙の逆鱗に触れてしまう。

 

そうして二人がグダグダなやりとりをしているところに、ずっと考えこんでいた霖之助が振り向く。

 

「にわかには信じられない話だけど、おおよそのことはわかっ…………何してるんだい?」

 

途中から暁と鈴仙は小声にすることもすっかり忘れていたが、思案にふけっていた霖之助は聞こえていなかったらしい。

初めて気づいた二人の様子に呆気にとられる。

 

だが当人達は霖之助の声も聞こえていない。

 

しばらくその光景をポカンとして見守っていた霖之助だったが、だんだんと暁の顔から血の気が引いてきたのを見てとり、慌てて仲裁に入ることとなった。

 

 

「フーッ……フーッ…………」

「ゲホッ、ゲホッ……か、かなりヤバいところまでいった…………」

「大丈夫かい? というかその前に、人が考え事してる間に何を始めてるんだ君達は……」

 

興奮冷めやらぬまま暁を睨む鈴仙、そちらを見る余裕も無く咳き込む暁、二人を呆れ顔で眺める霖之助。

それぞれがいったん落ち着けるように適当な場所に腰を下ろし、改めて話を再開する。

 

「ええと、話を始めてもいいかい?」

「……ゲホッ、はい、大丈夫、です」

 

暁に確認をとり、咳き込みながらではあるが了承される。

 

「れ、鈴仙さん」

「…………」

 

おっかなびっくり鈴仙にも声をかける。

彼女は一瞬霖之助に視線をやるが、すぐにまた暁を睨む。

 

「…………は、話を始めてもいいかい?」

「……………………」

「そ、そうかい」

 

黙ったまま、頷く。

それ以上彼女に声をかけることはできず、一応了承をとった霖之助はそっと視線を逸らして暁を見る。

 

「それじゃ、来栖君……だったか。君の話だけど」

「暁で、いいです……ケホッ」

「そうかい。じゃあ、暁。君の話は正直信じ難い。……だが、おそらく全て事実なんだろうね」

「…………はい」

「一応の確認として、何か根拠は出せるかい? 君の話が事実であることの」

 

ようやく咳も収まってきた暁は霖之助の言葉に頷き、変身する。

それはまさしく話に聞いた通りの姿であり、確固たる証拠を目にした霖之助は抱いていた疑いを完全に捨てた。

 

「……そうか。ありがとう」

「いえ、当然のことです。この程度で信じてもらえるなら」

 

神妙な顔つきで頭を下げる暁。

 

「…………結論から言おう。僕は君に協力する」

「ほ、本当ですか?」

「今の話を聞く限り、君のしなければならないことは並大抵のことじゃない。協力者は多い方が良いだろう」

 

聞き返した暁に霖之助は頷き、そう言う。

 

「ただ、なんでも無条件に手助けできるというわけでもない。そこはわかっておいて欲しい」

「もちろんです。ありがとうございます、助かります」

「いやいや、僕も他人事じゃないからね。幻想郷どころか、世界の危機だなんて聞いて、それをむざむざと放っておけるほど僕は達観できていないだけさ」

 

そう言いながら霖之助は首を横に振る。

 

「あと、両替の件なんだけど」

「はい」

「あれだけの額を換金するというのは正直に言って、無理だ」

「そ、そうですか……」

 

苦笑いしながらはっきりと断じられ、暁も同じ表情になる。

 

「僕の持つ資産としては出せなくはない。だけど、現金としては持ち合わせがそんなに無いんだ。昨日と今日とで、買取をしたばかりでもあるしね」

「あ、なるほど。ごもっともですね」

 

指摘を受けた暁は納得する。

 

「そもそもこちらでは物価が安いからね。あれだけの額があればこの世界で死ぬまで遊んで暮らせると思うよ。……まあ、外のように遊ぶような娯楽は無いんだけどね」

「…………そうなんですか」

「だから全額換金する必要はない。僕ができる範囲で、こちらのお金に替えてあげよう」

「わかりました。それで頼みます」

 

譲歩を受ける形で承諾する。

 

「ひとまず、こんなところかな。暁、君の方からは何かあるかい?」

「えっと、そうですね。あ、服をいくつか売ってもらいたいです。今のままだと替えが無いので」

「お安い御用さ。他にはあるかい?」

「ええと……」

 

そこで鈴仙をチラリと見る暁。

ギラギラと輝く眼光と正面から視線がかちあう。しかしそこには頓着せず、暁は霖之助に視線を戻す。

 

「一応、頼もうかと思ってたことはあったんですが、大丈夫そうです」

「へえ、何だったのかちょっと気になるね」

「ははは、まあ、ちょっとしたことですよ。それより、服を見せてもらってもいいですか?」

 

話を逸らして誤魔化す暁。

霖之助もそれには気づいたが、あえてそれに付き合い、聞かないままにすることにした。

 

「……わかった。なら僕はその間に君のお金を替えておくよ。ひとまず生活に困らない程度の金額にはなると思う」

「では、少し失礼します」

 

霖之助に会釈をして売り物の棚へと歩いていく暁。

霖之助は彼が置いたままの札束のうち一つをとり、その半分を抜き取る。

 

土間から座敷に上がり、引き出しから貨幣を取り出して数え、きっちり確認すると、代わりに暁の金をそこに入れる。

 

ムスッとして不機嫌そうな鈴仙の前を通り過ぎ、棚で服を物色している暁のもとに歩み寄る。

 

「はい、これ」

「あ、もう替えてくれたんですね。俺も一通り目星はつけました」

「そうかい。どれを買うつもりだい?」

「ええと……」

 

と、暁は見繕っていた服をいくつか手に取り、霖之助に渡していく。

霖之助はそれらを合わせた値段を勘定し、手に持っていた金のうちいくらかを差し引いて服とともに暁に渡す。

 

暁は服を受け取りバッグに入れて、受け取った金をマジマジと見つめる。

 

「これが幻想郷の通貨ですか。紙幣ではなくて硬貨なんですね」

「そうだね。説明はいるかい?」

「いや、なんとなくわかります。後は使っていくうちに覚えます」

「ならいいか。じゃあ今日はこのくらいで……」

「あ、待って下さい」

 

と、座敷に戻ろうとする霖之助の袖を掴む暁。

何事かと振り返る彼の手をとり、受け取ったばかりの金のうち四分の一ほどを握らせる。

 

「両替の手数料です。ありがとうございました」

「え? いや、手数料をとるつもりはないし、そうだとしてもこれは貰いすぎだよ」

「良いんですよ、これから協力してもらう相手なんですから、これくらいはさせて下さい」

「いや、しかしだね……」

 

渋る霖之助の手に強引に金を握らせて、暁はバッグを持って踵を返す。

 

「それでは、今日はお暇します」

「え、あぁ、うん……」

「鈴仙、行こう。それでは霖之助さん、また今度」

 

スタスタと出ていく彼に反応が遅れ、気の抜けた返事をする霖之助。

未だに不機嫌そうだった鈴仙は置いていかれそうになり、慌てて立ち上がる。

 

「ま、待ちなさいよ! あ、霖之助さん、お邪魔しました……ちょっと、暁!」

 

暁に怒りながらも霖之助に対する礼は欠かさず、きちんとしたお辞儀をしてから店を飛び出していく。

 

ポカンとしながらそれをただ見ていた霖之助だったが、やがて苦笑する。

嵐のように去っていった二人を見送ろうかと思ったが、なんとなくやめる。

彼らの行く末を想像しながら、いつものように店主の業務に戻っていった。

 

 

 

ガラガラと音をたてながら何も載っていない手押車を片手に、スタスタと歩いていく暁。

そこに後ろから同じように手押車を持った鈴仙が駆け寄ってくる。

 

「ちょっと! 待ちなさいってば!」

 

その声に振り返る暁。

追いついた鈴仙の顔を見て、また笑う。

 

「まっ、また笑ったわね! いい加減にしなさいよ!」

「違う違う。鈴仙を笑ったんじゃなくてさ。ただ単に嬉しくて」

「……は?」

 

暁の言葉に疑問符を浮かべる鈴仙。

彼女と目を合わせながら言葉を続ける。

 

友達

「な、な…………!!」

 

一言、区切って強調されたその単語に鈴仙は再び赤面する。

それを見ながら暁は普通の声色で語る。

 

「冗談抜きにして、嬉しかった。……ありがとう」

「いや、あれは、ええと…………ああ、もう! どういたしまして!」

 

本気で言っているとわかった鈴仙はなんとか言おうとするも、良い返しを見つけることができずに、開き直ってその言葉を認めることにした。

 

 

真っ赤になってそっぽを向く鈴仙と、嬉しそうに笑う暁はそのまま並んで歩き、永遠亭へと帰っていった。




今回は逆にギャグで済ませると主人公のクズさがヤバくなりそうだからシリアスにもっていくという珍しいパターン。筆力が足りん、足りんのだ……

何故か鈴仙がツンデレっぽくなってしまう不思議。別にツンデレにするつもりじゃないんだけどな……屋根裏のゴミに引っ張られている感じがある。どうにかなるかな。無理そうだな(即諦

またランキングにのってて嬉しい反面不安になる。大丈夫? 私の筆力、大勢の読者に見せられるレベル? ちょっと怖い。頑張ります。

あと紹介した動画見てくださった方いるだろうか。もしもいてくれたなら嬉しいけど、その報告は私にしなくていいです。それより動画主さんを応援してあげて下さい。……というか感想欄とかでそういう関係ないこと書くのって規約違反らしいですので、本当に結構です、はい。
(自分で紹介しといてこの言い草って、我ながらどうかと思う。本当にごめんなさい)

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