Joker in Phantom Land   作:10祁宮

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とある動画シリーズを視聴し、その面白さに触発されて書いてしまいました。
今まで東方Projectに興味は全く無かったんですけどね。自分のことながら不思議なものです。
しかし、もう一つ書いている作品を進める前にこっちを書いてしまうとは……FFXVも買ってしまったし時間がどんどん削れる……
あ、タイトルの英訳はザックリ適当です。‘‘Phantom’’と約した理由はありますけどね。


Chapter:0 GAME OVER
Joker in Phantom Land


恐怖。疑問。無力感。絶望。諦念。

きっとその全てであり、どれでもなかった。

何もわからず、何もできず、悲鳴を上げて消えゆく仲間達と同様に地に這い蹲って、自分の体を《終わり》が侵食していくのをなす術もなく眺めていた。

 

そして。

 

「——————作戦、失敗だ……」

 

最後の仲間もいなくなった。

残りは自分一人だけ。

………………。

 

仰向けになり、天へと手を伸ばす。

徐々に薄れるその手は虚空すら掴むことができない。

手を透かして見える黒雲に覆われた空と降り注ぐ赤い雨。

周囲を行き交う雑踏は自分や消えた仲間達のことなど気にもとめていない。それどころか自分達がここにいることすら気づいていない。

悪夢のような、地獄のような、そんな景色(現実)を見つめ続け。

 

 

 

彼は、《終わった》。

 

 

 

………………。

自分の意識はあるのか、ないのか。

あやふやでおぼろげな無明の暗闇の中。

馴染み深い……ような気がする、光景があった。

鎖。

無数の鎖。

荊のように絡まりあい、どこからか現れ、どこまでも続いていく鎖。

それはいつものように自分の体を捕らえようとし————

 

 

失敗する。

 

 

自分の体は上とも下ともつかない方向へ落ちていく。

いつも通りでない事態に疑問を抱くこともなく、まるでこちらを探すかのようにうねる鎖の束を観察していたその時。

 

ドプン、という重い水音を聞いた気がした。

何かに沈みこむような感覚と共に薄れる意識。

ふと思った。

 

 

 

ああ、自分は今、本当の意味で消えた(、 、 、)んだな、と。

 

 

 

………………だというのに、

 

「…………?」

 

目が開いた。青い空が見えた。

手が動いた。乾いた落ち葉の感触がした。

土の匂いがして、風の音が聞こえた。

体が、あった。

 

ガバッと上体を起こす。

 

五感の全てが主張している。

自分は生きていると。

 

混乱する思考がグルグルと渦巻く。

何故生きているのか。否、本当に生きているのか。アレは夢だったのか。他の皆は。ここはどこなのか。いつからここにいるのか。

 

答えの出ない自問自答を繰り返し続け、ただ無為に時だけが過ぎる。

 

焦燥が募るばかり。

いつの間にか息を荒げている自分に気がつく。心臓の鼓動も、耳に響くように感じるほど大きくなっている。

 

頭のどこかにいる冷静な自分は落ち着くべきだと理解している。しかしそれとは裏腹に感情は昂ぶる一方だった。

自分で自分を制御できない。

 

そんな最中のことだった。

 

「グルルルルルルゥゥゥ…………」

「ッ!」

 

低い唸り声がどこかから聞こえてきた。

彼は即座に立ち上がり、いつでも動けるように構える。

そこに動揺や混乱は無かった。

 

深呼吸をして体と思考を落ち着かせる。

先ほどまでできなかったことが簡単にできる。

慣れ、だろうか。

 

冷静になってきてようやく、今まで目に入っていなかった周囲の様子を伺う余裕が生まれた。

 

鬱蒼とした竹林。その中の少し開けた場所。

彼はそこに立っていた。

竹はどれもかなりの高さがあり、太陽の光は生い茂る葉によって遮られている。

薄暗い影の中を見通すのは難しく、先ほどの唸り声を発したのが何者かはわからない。

 

しかし、ガサガサと落ち葉を踏みしめる音がする。

そしてその音は真っ直ぐに彼へと近づいてくる。

 

警戒を強める。

猛獣のような鳴き声だったが正体は未だ不明。

野犬……だろうか。それとも熊か、あるいは……

 

 

そんな思考を明るい日の光のもとに姿を現したソレは断ち切った。

野犬ではない。ましてや熊でもない。否、それどころか————

 

「グ、ギ、ァアアァァァァァッッッ!!!!」

 

真っ当な、生物ですらなかった。

何かしらの獣に多種多様の動物の手足を乱雑にくっつけたような姿で、原型がわからない。

無秩序に生える手足の隙間のところどころにはギョロギョロと動く目。

剥き出しになっている何本もの牙は発達しすぎて自分の口内を貫くものもあり、涎と血をダラダラと垂れ流す。

異形で異常で異様な、バケモノ。

それを目にした彼は、大きく眼を見開き、反射的に、

 

 

 

ペルソナ(、 、 、 、)ァッッ!!」

 

 

 

と叫んだ。

 

刹那。

蒼炎が吹き上がり、彼の全身を覆い隠すように包みこむ。

そして炎は現れた時と同様に唐突に消失する。

そこに残る彼の姿はガラリと様変わりしていた。

 

怪盗、としか形容できなかった。

劇や小説などで登場する、素顔を仮面で隠し華麗な盗みで人々を魅了する存在。

そんなイメージをそのまま形に置き換えたように、彼はまさしく怪盗の姿になっていた。

 

常人がその光景を見ていたなら間違いなく唖然としていただろう。

いきなり蒼炎が現れ、炎が消えると中にいた少年が変身している。常識というもので推し量ることができる範疇にない事態。

しかし、ここにそんな大衆(ギャラリー)はいない。

いるのは当人の少年と、対峙するバケモノだけ。

常識を鼻で笑うような二者は敵意に満ちた視線を飛ばしあい——

 

「……ルルルルゥゥォォォォ…………!」

「【アルセーヌ】ッ……!」

 

火蓋は切って落とされた。

 

 

 

まず動いたのはバケモノだった。

鈍重そうに見える大きな図体と裏腹に俊敏な動きで一気に距離を詰めてくる。

対する少年の傍らにはいつの間にか謎の存在が現れていた。

 

彼と同じく怪盗のような姿。

やや意匠に差異はあるものの、全体的に同じ印象を受ける。

ただ、彼とは明らかに違う点があった。

 

腰から生えた、大きな黒い翼。

バサリ、とはためいたソレによって、浮遊するその存在もまた人間ではないのだということがわかる。

 

少年は迫るバケモノを冷静に観察しており、避けたり逃げるような様子はない。

目と鼻の先にまで相手が近づき、このままでは呆気なく殺される——というタイミングになって、ようやく彼は動きらしい動きを見せた。

 

右手でバケモノを指し示し、一言呟く。

 

「【アルセーヌ】」

 

すると、傍らに立つ謎の存在……【アルセーヌ】が一歩分前へ出る。

そして彼はもう一言呟いた。

 

「〈エイガオン〉」

 

次の瞬間、どこからともなく湧き出てきた影のような、あるいは闇をそのまま凝縮したようなエネルギーが地面の一点に収束される。

 

収束したエネルギーは解放されると同時に一気に吹き上がり、

 

「ギャウゥゥッ!?」

 

まさにその上を通ろうとしていたバケモノを吹き飛ばした。

バケモノは2、3メートルほど後方に、背中から勢いよく落下する。

 

歪な造形をしている体だ。

ああなっては自力で起き上がるのも難しいのではないか——

 

そんな推測をし、彼がバケモノの様子を距離を置いたまま伺っていると、

 

「グ、ガ、アアァァァァッッッ!!」

「なっ!?」

 

激昂したように、獰猛な雄叫びをあげるそのバケモノはあっさりと立ち上がった。

ただし。

背中を下に(、 、 、 、 、)向けたまま(、 、 、 、 、)で。

 

いたるところから生えている腕や足は決して飾りではない。

背中が地面に着いたなら、背中から生える足を使えばいいだけのこと。

 

たとえどんな体勢になろうとお構いなしに戦闘を続行する。続行できる。

それがこのバケモノの特徴だった。

 

「ルルルゥゥゥゥゥ…………!」

「…………」

 

バケモノは激昂しながらも、不意を打たれたことで警戒を強める。

少年の方も、その場で唸り声を出してこちらを睨みつけてくるバケモノの挙動を油断無く注視する。

 

今度は少年が先に動いた。

 

「〈ブレイブザッパー〉ッ!」

 

鋭い叫びと同時に【アルセーヌ】が右手を振りかぶり、貫手のように勢いよく突き出す。

するとその手の軌跡をなぞるようにして衝撃波が発生。

ズパァンッ! という炸裂音を響かせながらその衝撃波は真っ直ぐにバケモノを貫く、

 

「ガァァッ!!」

 

ことはできなかった。

まさしく獣の勘ともいえる超速度の反応により、バケモノは即座にその場を跳びのいていた。

何もいない空間を直進した衝撃波はそのまま後ろに生えていた竹をいくつか両断する。

 

派手な音に見合った破壊力。

当たっていたならば死は免れず、触れた だけでも腕の数本は飛ばされていた。

だがそれを見てなお、バケモノが怯む様子は無い。むしろ警戒心が高くなり、用心深くなったように見える。

 

互いが互いに対する決定打を持つ状況。

この場を制する者、それは相手の動きを見切りきった方になるだろう。

より速く、より賢い方が勝つ。

 

 

 

「ゴァァアァァッ!」

「くっ……! 〈エイガオン〉ッ!」

 

バケモノが跳躍し無数の腕とその爪を振り回せば、それをいなした少年が反撃する。

その反撃もバケモノの反応速度によって回避される。

一進一退の戦闘が続いていた。

 

 

 

知恵を持つのは人間である少年側。

しかしバケモノは速さで勝り、野性的な勘も持ち合わせている。

 

 

 

ほぼ互角の戦い。

ここにその均衡を崩す要因があるとすれば、それは。

 

「クカク、クキキキキキ……」

「ッ!?」

 

純粋な、運。

 

突如聞こえた奇声に彼は後方を振り返る。

そこには、もう一体のバケモノがいた。

巨大な鶏に蛇の尻尾が生えたようなバケモノが。

嘴を開くと鳥とは思えぬほど鋭く尖った歯が並び、しかも明らかに毒を想像させる色の液体が分泌されている。

 

前門の虎、後門の狼。

虎でも狼でもないバケモノではあるが、まさしく絶体絶命の危機。

 

さすがに二体を相手にはできないと判断した彼は【アルセーヌ】を消し、すぐに逃走しようとした。

が、

 

「ゴァァァァァッッッ!!」

「チッ…………!」

 

跳びかかってくるバケモノがそれを許さない。

新しく現れたバケモノに獲物を横取りされるのを恐れているのか、先程より激しく攻めたててくる。

 

少年は舌打ちをして横に跳んで回避した。

そしてジリジリと迫ってくる二体を見やり、逃げる算段をつけようとするが、思いつかない。

 

「………………!」

 

今まで平静を保っていた彼からとうとう余裕が剥がれ、焦りが見えはじめる。

それを敏感に感じとったバケモノ達は互いに獲物を盗られまいと同時に飛び出し————

 

 

 

「やけに騒々しいと思ったら。妖怪同士の小競り合いか」

 

 

 

横合いから放たれた爆炎に呑み込まれた。

 

「ッ!?」

 

突然のことに一瞬呆気にとられる少年。

そんな彼の見る先、声が聞こえてきた方の竹藪から人が現れた。

白髪の人物で、女性に見える。

 

……今の爆炎はこの女性が放ったものなのだろうか。

そんな疑問を抱く。

 

その女性は爆炎に包まれて嫌な匂いを漂わせるバケモノに近づこうとするが、途中で少年に気がつく。

 

「って、人間じゃないか。なんでこんなところに? 大丈夫だった……っていうか、何だその格好は」

 

驚いた様子で少年を心配する言葉を投げかけるが、彼の格好を見て訝しむように目を細める。

 

なんと返答すべきか……

 

答えに窮する彼にスタスタと歩み寄ってくる女性。

 

とりあえずお礼を言うべきだろうか。…………そうしよう。

 

 

 

意を決した少年が口を開いた瞬間。

音もなく、爆炎に焼かれたはずのバケモノがゆらりと立ち上がった。

それは最初から少年と戦っていた方のバケモノだった。どうやら、体の表面に生える無数の手足に守られて本体には熱が通りきらなかったようだ。

 

殺意に満ちた眼光は背を向けている女性を見据えていた。

全身をしならせ、バネのように弾かれたその肉体は一人の人間を圧殺してありあまる威力があるだろう。

 

そのことに気づいていない女性はこちらに何か声をかけようとしている。

 

マズイ。警告しないと。いや、もう遅い。今から言っても回避は間に合わない。なら迎撃。でもこの距離だとこの人を巻き添えに。

————だったら。

 

「おーい、どうかした……ッ!?」

 

手を伸ばし女性を勢いよく引き寄せ、抱きとめる。

驚いた表情の彼女に説明をする余裕も無い。心の中で謝りながら、口からは謝罪の代わりとなる言葉を吐き出した。

 

 

 

「〈ブレイブザッパー〉ッッ!!」

 

 

 

その気迫に呼応するように、彼の正面に出現した【アルセーヌ】は渾身の貫手を繰り出し。

空中のバケモノの中心を寸分違わず衝撃波は通り抜け。

硬直してその場に落下したバケモノは、今度こそ絶命していた。

 

 

 

「…………ふぅ……」

 

安堵のため息をつく。

危なかったがなんとか切り抜けた。

さて、そうなると次にするべきことは……

 

彼は右手で抱きとめていた女性をゆっくりと離し、数歩後ろに下がる。

そして深く頭を下げた。

 

「申し訳ありません。助けていただいたばかりか、こんな失礼な真似を……」

 

目を白黒させていた女性はその言葉に慌てて首を左右に振る。

 

「え、あ、いやいや、私は気にしてないし、お前も気にしなくていい。こっちこそ助けられたんだから。ありがとう」

「そう、ですか。そう言っていただけるとこちらもありがたいです」

 

女性のその言葉に、頭を上げた少年は肩の力を抜いた。

 

「あの、大変厚かましいとは思うんですが……もし良ければいくつかお聞きしたいことがあるんですが……構いませんか?」

「あ、ああ。構わない。私の方もお前に色々と聞きたいしな」

 

その格好のこととか。

 

彼女の呟きで少年はハッと何かに気づいた様子を見せる。

 

「そう言えばこの格好のままでしたね」

「そう、その格好……って、え?」

 

彼女が瞬きをすると少年の姿は一変していた。

何の変哲もない、ただの一般人。

今の彼からはそんな印象しか受けなかった。

さっきまで自分が見ていたのは幻だったのかと錯覚するくらいの変貌ぶりだった。

 

「あの姿になってたことをうっかり失念していました」

「失念……って、いや、それよりどういう……」

 

困惑する女性に彼は再び頭を下げる。

 

「重ね重ねすいません。けどどうしてもこれだけは先に聞いておかないとダメなんです」

「……これだけ? 何だ?」

 

困惑しながらも話を聞く姿勢を見せる彼女の目を真っ直ぐ見つめて、少年は絞り出すように問うた。

 

「ここは、いったいどこなんですか? 俺は、なんでこんな場所にいるんでしょうか? 何か知っていることがあれば、どうか教えて下さい…………!」

 

「………………ああ、なるほど」

 

その問いで何かを了解したような女性はため息をついた。

そして少年にこう答えた。

 

 

 

「ようこそ、外来人。ここは『幻想郷』」

 

「外の世界には留まれない、忘れられ、拒まれた者達の楽園だ——————」

 

 

 

——斯くして、世界に忘れられた少年は新天地(幻想郷)へと辿りついた——




to be continued......?

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