ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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今回の題名はDLC導入後に始まるクエスト名から。
次回投稿は8日を予定。


Explore Vault 88 (Akira)

 クインシーの採石場――。

 削られた石場には急ぎで作られた木製の居住施設を中心にした、放射性廃棄物が沈められた沼というか、池のようなそれが掘り進められた底に広がる危険地帯である。

 そして今は、スラウと名乗るグールをリーダーとしたレイダー達の拠点にもなっていた。

 

 彼らは思う、あのスラウって悪党はたいした奴だってことを。

 クインシーの虐殺から崩壊したミニッツメンをも吸収したガンナーの勢いは、もはや連邦で止められる存在は誰もいないかに思われた――もちろん、かのインスティチュートをのぞいて。

 そして連邦南部は事実上、ガンナーの支配に落ちたと誰もが理解するその瞬間だった。

 

 彼らのボス、スラウはクインシーのそばのこの採石場へと仲間を呼び込むと。

 ガンナープラザにはメッセンジャーを送って巧みな弁舌でもって取り入る一方で、クインシーに占拠したガンナーの部隊とは緊張感のあるつきあいを成立させることに成功した。

 その証拠に、クインシー跡地に入ったガンナーは度々この採石場への攻撃を求め、援軍と許可をガンナーのボスへと求め続けていたが。ガンナープラザからいい返事を得たことは今まで一度もなかった。

 

 危険なガンナー達の支配するエリアの中で、さらに危険な放射能廃棄物を隣にぬくぬくと生きることを許されている奇妙なレイダー集団――。

 そのクレイジーさに惹かれた馬鹿共たちは列をなしてここへと入り込んで来ようとする。

 遠からずあのボストンコモンを彷徨う負け犬たちも、ここへと殺到してくることだろうなどと。年を越す年末では、スラウはラリッて仲間にそう演説をかましたものである。

 

――だが、なにかがおかしくなっていた。

 

 あのB.O.S.の出現に合わせたようにガンナーの動きが鈍ると。

 スラウの名声も急激に失われていってしまった。

 

 そうなった原因は、あのマクナマス率いる小隊が。ハングマンズ・アリーでの防衛線でレイダー連合から守り切ったという事実が発端となった。ボストンコモン内部での混乱が引き金となっていたのだが。

 サウスボストンからさらに離れたクインシーそばのこの採石場からでは、そこまで細かい情報を知るすべはなかった。

 

 

 スラウと彼の仲間たちはただ困惑の中で、片手にはサイコとジェットを。残る片方にビールなどのアルコールを握って、茫洋たる多幸感の中で自分たちの状況の変化の理由を探る作業に没頭している。

 そんな体たらくであったから、気がつかなかった。

 

 太陽の下、昼の最中に青空の向こう側から降りようとする黒い影――。

 

 

=========

 

 

 ここまで来たら、すでに覚悟は決まっていた。

 

「ユニット=パイロット、緊急開放。ドロップシークエンスを開始しろ。針を落とすぞ」

 

 ロボットの口に当たる音声システムがないが、手元のピップボーイにロメオ・ワンの情報が入ってくる。

 それがこのパワーアーマーのヘルメット内にあるスクリーンに、情報を更新していく。

 

――ウィスパーモード解除

――緊急姿勢管制制御、システムオンライン

――着弾地点の設定を入力せよ

 

 僕はマップを切り替え、採石場の上部の一点を感覚的に選んだ。

 すぐにユニットは絞り込みを始め、高度も降下が始まる。最終的には地上から約100メートルで、ドロップは行うように設計されていた。

 

「おい、アキラ。正気なのか?本気で行くのか?」

「――人命尊重って言葉は知ってるよね」

「ああ、この辺りじゃ名の知れたレイダーの巣から発信されてる通信ってことも忘れてないか?」

「パパ、そのための”お客さん”で、このパワーアーマーじゃなかったの?」

 

 ロメオ・ワンの座席に座り。

 興奮の瞬間を子供のように目を輝かせてニコニコ顔をしている、アトムキャッツ・ギャングのボスとその相棒を僕は顎でしめす。

 なのにハンコックは苦い表情を見せたまま、呆れたように首を横に振るだけだった。

 ジークと呼ばれる彼らのボスは変わって僕に声をかけてくる。

 

「アキラ、だったか?お前、本当に凄いんだなっ。本気でやるんだなっ」

「アトムキャッツには感謝してる。いきなり現れたのに、僕らの話を聞いてくれて。こうしてパワーアーマーまで」

「ああ、それは別にあげたわけじゃないぞ」

「おいっ、ブルージェイ!?」「いや、ジーク。商売はゆずれない」

「わかってる、でも感謝してるんだ」

 

 モニターに、降下までのカウントダウンが開始され。”15”の文字が表示された。

 

「このリース契約が必ず果たされるよう――ベストを尽くしてくるよ」

「ああ、頑張って」「俺、マジで惚れそう」

 

 2人の愉快な反応に僕は苦笑しながらも、機内から外を見た。

 

「ユニット。降下した後は、状況の判断は任せる。墜落なんて、してくれるなよ」

 

 3歩も歩けばそこには何もない、自由だ。

 飛び出せば重力にからめとられて地上へ落下する。

 

 ロメオ・ワンは最後のメッセージとして「幸運を」とディスプレイに送ってくるとリンクをカットした。

 カウントの減少は止まらない。

 僕は右足を引きずるようにして歩き出す。

 

 ゼロの表示で僕は世界を足元にする――。

 

 

 

 酩酊状態のレイダー達には、空に浮かぶベルチバードを見ても特に動く理由は思い浮かばなかった。

 それどころか、もっとよく見てやろうというのか。

 立ち上がっては、屋根の下から出てきては、空を見上げようとした。

 

 足元を震わす衝撃と、噴き上げる火炎によって瞬時に火だるまとなった2人の仲間が上階の手すりから吹き飛ばされて落ちてくると。

 さすがに異変が襲撃であると、理解する。

 

 昼の最中でも構わずやっていた大量の酒や薬で認識力はひどく低下しているが、武器を手に取るとそのまま転がるようにして採石場の中を敵の姿を求めて走り出す。

 

「いたぞ!こっちだ、こっちで――」

 

 パイプ・マシンガンのトリガーを引きながら、後退するレイダーは最後まで警告を口にすることなく次々と体に着弾するプラズマ弾によってスライム上の液体へと姿を変えて石の上にぶちまけられる。

 

 さすがは連邦一番のパワーアーマー・フリークが得意顔して進める逸品だ。

 ぶっつけの着地には成功し、攻撃を受けることなくいきなり敵地の中に侵入することにも成功した。すでにロメオ・ワンはウィスパーモードを回復させ、ステルス装置も作動させて地上から距離をとっているはずだった。

 

 僕はただひとり、この場所を制圧しなくちゃならないが――。

 右手のプラズマピストルを素早くエネルギー交換を行うと、残る片手にはレールガンを持った。

 

 と、同時に階下や建物を通って。

 大勢のレイダー達がワッとこの場所に姿を見せた。

 

「もう死ぬぞ、死ぬさっ」

「援護、援護しろ!」

「うわぁぁっ、死ね。すぐに死ねっ」

「馬鹿野郎、ちゃんとまっすぐ撃ちやがれ!」

 

 T-45よりもさらに何重にも分厚いはずの装甲越しでも衝撃と痛みが走った。

 装甲の表面を、先ほどとは比べ物にならない攻撃が襲ってきて。装甲が耐えられない衝撃だけでも僕を殺しにかかってくる。

 

「コンピュータ、スティム注入しろっ」

 

 苦痛に顔を歪ませ、耐えながら必死にそれだけを指示を出す。

 いきなり全てを持っていかれそうになっている。このまま何もせず、囲まれて撃たれ続ければ。

 装甲が削り取れる前に、僕はこの衝撃と苦痛の中で意識を失い。命を落とすことになるのだろう。

 

 

 大勢が飛び出してきた建物の方向にプラズマピストルを撃ちまくる。

 半歩下がって体を開くと、丁度真後ろに位置するところから下半身を隠せるだけの木製の柵越しに攻撃してくるレイダーにレールガンを向ける。

 相手はサッと、柵の向こうへと体を隠すが。それがなんだというんだ?

 

 発射された鉄の杭は、壁をたやすく突き抜けてみせ。

 背後で丸くなっていた男の膝と片手、武器までも一気に貫く。鳴き声交じりの絶叫が上がった。

 

 いい声だ、悪くないぞ。

 

 その後の10秒間の間に3人を汚い緑のベトベトしたものに変えて。鉄の杭でもう一人を泣き叫ばせ、汚い沼の底に引きちぎった頭部を縫い付けてやった。

 

 そのおかげで囲もうとしていた連中は散りじりになってコチラから距離をとり。

 僕もわずかな休憩時間を手に入れることが出来た。

 

「クソっ、馬鹿が多すぎるっ――嫌、ここに来た僕が馬鹿だったのか」

 

 わずかな後悔を口にしながら、自分も壁際のへりに姿を隠し。

 次の攻撃の準備を整える。

 

「おいっ、この間抜け野郎!お前――お前、あのアトムなんとかいう馬鹿共の仲間か!?」

 

 それは噂のスラウ本人からの呼びかけであったが、あいにくと僕はそのことをまだ知らなかった。

 レイダーなんかと話す言葉はないと、自分の事に集中する。

 

「ここにお前らが嫌うガンナーはひとりもいないって、知らなかったか!?ガラクタからパワーアーマーをガレージでシコシコ弄り倒している、哀れな奴等だと思ったが。ひとりで現れるとは、たいした度胸じゃないか!」

「……」

「ところで知ってるか!?

 俺達にはその鋼のガラクタは必要ねぇんだ。力は数だ!強さは、武器だ!

 てめえらみたいに、怯えた処女よろしく。何枚も何枚も、分厚い鉄板体に張り付けてりゃ――ぶっ飛ばせ!」

 

 気を抜いていた――わけではなかったと思いたい。

 建物の蔭から、僕と同じように鋼鉄の足音高く表れたそれは。肩口から突っ込んでくると僕を石の壁に押し込もうと特攻してきた。

 

――パワーアタックは、前方へ重心をかけ。思いっきり自分の全てを相手に叩きつける、ただそれだけでいい

 

 サンクチュアリで、レオさんに教えてもらったことが脳裏をかすめる。

 体は反応して、それを避けようとしたが。T-60の独特の分厚い装甲が可動部を圧迫していて、その動きを鈍くした。

 

 鋼に鋼を激しくこすれる音を立て。

 物陰から僕は弾き飛ばされる。相手は何か、すぐに想像がついた。

 

 揃えられていない、奴等のつぎはぎだらけのパワーアーマーだ。

 頭部はT-60のそれであったが。体と片手、片足がT-45で、残りはレイダーの手作りによるものだとわかった。

 

「ヘビー級対決だっ!すり潰しちまえっ!」

 

 興奮したのか、周囲から騒ぎが始まると。空に向けてめちゃくはに発砲を始めた。

 

 まったく、自分も酷いヘマをしたものだ。

 相手の突進をかわし切れず、プラズマピストルは手放してしまったし。レールガンはひしゃげて、すでに使い物にならなくなっていた。これはもう捨てるしかない。

 

 僕はゆっくり立ち上がると、ツギハギパワーアーマーと相対する――。

 

「第2ラウンド、開始だろ?」

 

 恐れを知らない僕のその言葉に合わせて。

 背後から背骨に沿って建てられていたそれが、解除されて横になると。左手を背後にやってそれを……獅子樺奉と名付けた刀身を、一気に引き抜いてみせた。

 

 

==========

 

 

 おれはハンコック。

 ジョン・ハンコックと呼ばれ、恐れられ。敬まれるべき男だったはずだ。

 俺の一部であったあの町を出たのは自分の意志で。

 

 失われた暴力の世界に、まだ自分は終わってないのだと示すためにそうしたのではなかったか?

 

 だが、それがどうしてこんなことになっているんだ。

 鉄火場は地上にあって、仲間にしてやろうと思ってる小僧はそこでひとり。

 どう考えたって、勝てるとは思えぬ戦いにちゅうちょすることなく飛び込んでいってしまった。この俺を空に、安全なここに見学を希望したアホ共と一緒にして――。

 

(俺はまだ、プライドが邪魔しているのか?それとも長く人を使いすぎて、暴力の使いどころを選べる身分だと勘違いしたままでいるってことか?)

 

 誰よりもイカレていて、危険な男が自分だった。

 なのにその男が馬鹿馬鹿しく感じるだけの、意味のない戦場にあの小僧は意味を見出していた。

 

 なぜ、俺はあそこに行かないなどと考えた?

 そもそもにして、救難信号を探ろうとした彼を止め。同じく変人で知られるアトムキャッツに導いたのは、本当にアキラにこの馬鹿な行為をやめさせようと考えての事だったか?

 

 ベルチバードの中で、深くそんなクソのような考えにとらわれている自分と違い。

 小僧とどこか同類であるらしきアトムキャッツの重鎮たちは、地上のあいつを見て。信じがたいことに涙を流して感動している風であった。

 

「本当に、本当に飛び降りてみせやがったよ。アイツ」

「ああ、マジでクールだった」

「見ろよ、あいつらのひどいパワーアーマー。美しさがない……ハハハッ、なんだあれは。剣を使ってる?それであいつの腕を切ってみせたのか?」

「クソっ、あいつらまた攻撃を再開したぞ。あれじゃ、アーマーが守ってくれても。中にいるあいつは生きてはいられないかもしれない」

 

 小僧が死ぬ?

 アキラが、あのファーレンハイトを殺した奴が。こんなところで?

 

「ブルージェイ、俺達は――こんなところでなにをしてるんだ?」

「ジーク?」

「だってそうだろ?俺達は、アトムキャッツだ。そして下で戦ってるアイツは?

 もちろんあいつも俺達のクールな仲間、キャッツだ。そうに違いない」

 

(お前らが自分たちのプリントを施したパワーアーマーを渡したってだけじゃねぇか)

 

「ああ、わかるぜジーク。アイツ、とてもクールだ」

「なら行動しなくちゃ、それがキャッツ。俺達はギャングなんだぜ!」

「――おい、ちょっと待て。何を話している?」

 

 不安を覚え慌てて声をかけたが。

 アトムキャッツの2人はそれに答えず。立ち上がって向き合うと「ニャアニャア」ひとしきり騒ぎ。いきなり外へと飛び出していってしまった。

 

 最悪だった――。

 

 乗っていた2人分のパワーアーマーが予告もなく飛び出していった影響を受けたか。

 ロメオ・ワンは大きく体制を崩し。危険を告げる複数のブザー音が操縦席から鳴り響いた。

 

「チクショウ!俺は、パワーアーマーなんて着ちゃいないんだぞ」

 

 あろうことは俺はそれに平凡すぎる言葉を吐いていた。バランスを崩し、腰を床にこすりつけて!

 自分がイカれた連中の面倒が見れない、ひどく哀れな老人に思えて顔を歪めた。

 

 そう老人なのだ。

 ひとり不安定に揺れるベルチバードの中で、残されているだけの――。

 

 

 

 剣闘士の対決でもあるまいに。

 にわかに騒ぐ周囲を冷たく見る僕は、あくまでも予定通りに進めようとする。

 

 相手は僕が取り出してきたのがシシケバブと呼ばれる炎の刀だとわかると、再び肩口から短距離でも十分な力を込めたアタックを繰り出してくる。

 その原理は僕も知っている。

 きっと操縦者は、体格がよくて力も強いのだろう。そうでないとあれはなかなか、連続で使うことは難しい。

 

 同時にそれを敵に当てる難しさも僕は知っている。

 今度はしっかりとタックルを避けつつ、相手の背中側からヤツの脇の下に刀の刃を押し込んだ。

 続いてそのまま並走すると力を込めて刃をさらに押し込んで見せた。相手はきっと、背中側から腕の根元が焼けるような苦痛を感じていたに違いない。

 

 だがすでに致命傷だ、装甲の薄い関節部の上。

 アーマーの裂け目を繋ぐ骨組みから肉と骨まで食い込んで。立ち止まるのを待って、刃に炎を噴き上げさせると絶叫が上がった。

 

「まだだ、まだ途中だぞ」

 

 パワーアーマーは力強いせいだろうか、いつにもまして僕の中のサディスティックな気分が刺激を受けたか。

 レイダーに苦痛と恐怖をさらに与えようと、さらに残酷にそのまま腕が斬り落とされるまでやめない。

 

 屈強なアーマー同士の決闘はあっさりと残酷ショーとなってしまったことに周囲は顔をひきつらせた。そしてわずかに空白の時間が生まれる。

 何度も「痛い」と「助けて」を繰り返し、膝をつくパワーアーマーの背後に回ると。

 刀の柄を逆手で両手に握り。今度は首の間後ろからそれで一気に貫いてみせる。

 

「ボウム!!」

 

 破裂音を口にすると、ビールの栓が音を立ててはずれていくように。ヘルメットだけが宙に飛び、燃えることなく濁った汚染された沼の中へと落ちていった。

 残ったのは頭と片腕のなくなったひどく焦げ臭いオブジェがひとつ。

 

「クソ、コイツは殺せ。ブチ殺せ!」

 

 

 再び猛攻が僕に襲ってくるかと思われたが、今度は別に心配は必要なかったようだ。

 

 僕は目の前の腕と頭を失ったパワーアーマーを掴むと、それを肉の盾がわりにして持ち上げ。

 距離を詰めていくと、必死の形相で攻撃を続けるレイダー達を追い回し始める。

 

(なんだよ、このバケモノ)

 

 そうしていきなりリーダーのスラウの頭が胴体とお別れする様を見せつけられた彼らに。さらに空から落ちてきた新たな2人のパワーアーマーの登場で、勝負は決したと言っていいだろう。

 

 

==========

 

 

 戦いは終わった――。

 僕はまたもや武器を失ってしまったが、それでも無事に生きていられたのだから問題はないって事だろうと思う。

 

 ブルージェイはさっそくレイダー達の装備をはぎ取って山を作り。それが積み上げられていくことで、僕の今着ているアーマーの料金は差し引かれていく。

 

「この採石場は、なかなか目にする機会はなかったと記憶している」

「ジーク、最後に援護をありがとう。あんたたちに、そんなことをする理由なんてなかったのに」

「いいんだ!お前は見事にスーツを着こなしてみせた。俺達のスーツを。

 そしてこいつらを、レイダー共をぶっ殺してみせただろう?むしろ俺達の方が本当に驚かされてばかりだった」

「ああ……うん、どうも」

「それが救助信号ってだけでこんなところに飛び込んでいくんだ、凄いなんてもんじゃない。空を飛ぶマシンを作るばかりか、勇気も、強さも持っている。俺達を率いて、戦って見せるまでに。お前はとってもクールな奴だ」

「そ、そうかな」

 

 なんだか褒められすぎているような気がする。

 いやーー多分、これはちゃんと褒めているんだよね?

 

「そして途中からではあったけど、俺達は共に戦った。そして勝利した!」

「ああ、勝利だ」

「だからきっと、喜んでもらえるとわかってる。お前も、俺達の仲間。今日から新たなキャッツとなるんだ!」

「え?」

「アトムキャッツの証は、連邦ではだれもが欲しがるジャケットが示してくれる。ガレージに戻ったら寸法を測らせてくれよな、もちろん受け取ってもらえるんだろう?」

「――も、もちろんだよ」

 

 まだかすかに残る興奮が、僕の口を「なに寝言くっちゃべってるんだよ、マヌケ」と動くのをこらえ。

 僕は何とか引きつった笑顔で了承の意を相手に伝えた。

 

――まぁ、不都合はないだろうし。それにきっと悪い人たちではないよね?

 

「アキラ、見つけたぞ。こっちだ」

「ああ、えっと。まだ信号の元が分からないんだよね、だから――」

「そうだな、探してくれ」

「こっちは勝手にやってるから、でも俺達をちゃんとガレージまで帰してくれよ」

「わかってる、2人とも――ごゆっくり」

 

 ヘルメットをわきに抱え、笑顔で二人から離れるとハンコックの隣に並んだ。

 

「機械いじりのオタクどもに随分と気に入られたようじゃいか」

「――あんたが僕を彼らに会わせたんじゃないかっ」

「そうだな。おれにはわからない変人の世界ってのもあるもんだ」

「それより、電波!」

「ああ、わかってるよ」

 

 そういってハンコックは僕を採石場の下部エリアへと導いていく。

 切り抜かれた岩の中のきゅ住空間の一角が、どうやら崩れたらしく。岩が途切れて、土のトンネル姿を現していた。

 

「電波はこの奥から来ている」

「……これは崩落したのか?」

「そのようだな。ここに居た連中、穴の中をすすんで何かに突き当たったということらしい」

「救助信号を発信するようなものにってこと?」

「ああ」

 

 言いながらハンコックは.44リボルバーを取り出した。

 それには刻印で「ザ ゲイナー」と文字が刻まれている。

 

「プラズマピストルはまだ使えるな?」

「もちろん。パワーアーマーもまだ大丈夫そうだし。もしもの時はあんたを守るよ」

「調子に乗るなよ、坊主」

 

 ヘルメットをかぶりなおす。

 別にハンコックは自分で戦えるのはちゃんとわかっている。

 でもなんだか、今の言葉が気に入らなかったのか。彼は本当に怒っているようにも見えた。

 

 で、穴の奥には何がある?

 

 

 

 ライトをつけずに慎重に進むと、すぐに奥から声が聞こえてくる。

 

「もう隠れる必要はないんだぞ。すぐに終わるからなっ」

――やめなさいっ

「お前のはナシなんて聞くと思うか?ナメるな」

――Vaultの扉は、核攻撃の直撃を受けても耐えられるように設計されているの。勝手に出入りしようとか、バカげたことは考えても無駄よ。

「あと、どれくらいだ?どうなんだ?」

――今すぐ出ていかないと、きっと後悔することになる

「ああ、出て来いよ。こっちはこのまま楽しんだっていいんだぜ?」

――だから無駄なのよ。それが理解できないというの?

 

 なんとも聞いていて、奇妙な会話の流れだった。

 4人のレイダーがVaultの扉の前で、なにやら騒いでいるだけなのだ。

 どうやら扉を開こうと色々やってもいい方法が思いつかず、こうして騒いで時間でも潰しているんだろうか?

 

(俺が先に行く)

(どうぞ――)

 

 ハンコックはタイミングを計ると、飛び出していってまずはコンソール前に立つ男の背中にナイフを複数回突き刺すと。

 崩れ落ちるのを許さず、そいつを盾にして2人の脳天をリボルバーでもって吹き飛ばしてみせた。

 鮮やかにして、流れるような一連の手つきは。彼が危険な暗殺者であることを示している。

 

 そして残った最後のひとりには、遅れて飛び出た僕自らが。

 大きな動きで飛び上がると、そのまま振り上げた刀を相手の頭頂部にむけて思いっきり振り下ろす……。

 

 両断するとまではいかなかったが、頭部から胸板までを2つに裂けたままぐにゃりとするそれを僕は蹴飛ばすようにして距離をとった。

 

 

==========

 

 

 実は僕自身、驚きを隠せなかったけれど。

 Vaultの中の救助信号を発している人はまだ生きていた。

 

 レイダーを片付け、扉を開けようと僕がピップボーイを使うと。コチラの存在を認識したらしく、むこうも驚いているようだった。

 どうやら、長い間崩落の影響を受けて外に出られなくなったということらしい。

 

 だが、扉を開くとその言葉を文字通り素直に受け取るのは間違っているような気がさっそくしてきた。

 僕もよく知るあのVaultそのままの姿がそこにもあったが。同時にそれは、あの長い時間を凍らされたかのような不気味な墓場のような静寂がここにもあるとわかったからだ。

 

 ハンコックにはそれはわからないと言っていたが、僕にはわかる。

 きっとレオさんも、ここに来ればそれが理解できたはずだ。

 

 

 崩落した部分の掘り起こしにはキャッツのパワーアーマーが役に立ってくれた。

 いとも簡単にそれを掻き出すと、通路をふさいでいた壁が奥に続いているのが確認できて――。

 

「なんてこと。待ってた人とは違った」

 

 そこにはあの懐かしいVaultスーツを身に着けたグールの女性がいて、コチラに近づいてきた。僕は礼儀と言うことでヘルメットを脱いで、下の顔を見せた。

 

「やっとVaultの人が来てくれたのだと思っていたのに。あなたはピップボーイを持っているようだけど、明らかにVault-Tecの社員ではないわね」

「別のVaultの住人だったことがあるよ」

「そう、それで?どうしてここへ?なぜ、助けに来ようと思ったの?」

「信号は正規のもので、助けることが正しいと思ったから。それだけさ」

「市民としての義務ということね。素晴らしいわ」

「なぁ、そろそろお互い。世間一般が認める挨拶って奴をしてもいい頃じゃないか?」

 

 ハンコックの言葉に、相手はうなずいて同意を示した。

 

「そうね――私はバレリー・バーストゥ。このVaultの監督官よ」

「……なにもないけど?」

「ええ――建築が中止されていたこのVaultが完成すれば、という意味よ」

「なるほどな。俺はハンコック。ジョン・ハンコックだ」

「アキラ。五十嵐 晃」

「ジョンとアキラね。それじゃ、さっそくこちらからの提案があるのだけれど。聞いてもらえるかしら」

 

 いきなり提案だぁ?

 僕も相手に好印象を与えるのには苦労するタイプの人間だが。彼女は、話し方のリズムから何からどこかおかしい。

 すでにかなり気分を害されているし。

 

 だが、そんなことはむこうは関係ないらしい。

 

「200年は本当に時間を無駄にしてしまったわ。

 私はあの時、自慢となるはずのこのVaultの建設現場を色々な人を案内していた。すると地震――大勢の人はその時死んでしまった。

 放射能も漏れだしたりして……だけど私だけはこうして生き延びることが出来た」

「助かったのはアンタだけ?」

「いいえ。作業員や、いくつかの家族は助かったのだけれど。彼らは次第に私の話を聞かなくなってしまって、今は多分。この洞穴のどこかに無事ならいるはずよ」

 

 Vaultを建造中というだけあって、地下には巨大な空間が人工的に生み出され。それは奥が見えないほど広がっていることが分かった。

 

「皆が話を聞かなくなった?」

「そりゃ、きっとフェラルになっちまったんだろう。あいつらはグールは襲わないが、意思の疎通が図れるってわけでもないからな」

「ってことは、この奥を探索しようと思ったら――」

「フェラルがここにもたっぷりいるってことだろうな」

 

 そりゃ、最悪だ。

 

「私には仕事しかなかった。仕事が、今日まで私を支えてくれたの」

「へぇ、それで提案って?」

「実は私は本社からこのVaultで実証実験を行うように指示されているの。そしてそれは、今も有効なものよ」

「――失礼、それって200年前の話だよな?」

「これは時間は関係ない。私にとっては今、この瞬間の重要なことなの」

「そう、とりあえずそれはわかったよ。それで?」

「お願い、わたしのVaultを完成させて頂戴」

「……ナンダッテ?」

「ここにはすべてがあるわ。でも足りないものが致命的。それは私のVaultと、それを作る建築作業員だけがいない」

「自分でやればいいじゃないか。だいたい、200年も何をしてたんだ?」

「私?私は駄目よ」

「ダメ?」

「そう。だって私は監督官なの。建築をする作業員の真似事は出来ないわ」

 

 イラっとくるものがあった。

 地上に出られない、閉じ込められたとわかっていて。なのにVaultを作ることもなにもしないままにここを放り出している理由は、たったそれだけが理由?冷笑が浮かび上がり、相手にはっきりとわかるように侮蔑的な視線もそこに加えてやる。

 

「監督官様は、建築作業員はやれませんっていうことか。何か問題が?」

「問題はあるわ。わからない?私はそんな――そんなことをする人間ではないのよ」

「そんなこと?」

「ええ、そう。だいたいここに誕生するはずだったVaultには、当時の素晴らしい頭脳の持ち主であり。科学者たちのための場所になるはずだったのに。

 それは失われてしまったわ。

 でも、まだ可能性は残っているはず。だからそのために、あなたたちに協力してもらいたいの。私のパートナーとなって」

 

 これはケッサクだ。

 こんなふざけた申し出受けるために、わざわざパワーアーマーを借り受け。自分は危険を冒したっていうのか?

 あのクソッタレのVault-TECのために!!

 

「お断り――」

「いいぜ、引き受けよう」

「ハンコック!?」

「ありがとう。これで実験を始められるし、人類の暗い未来はあなたたちが切り開いてくれたわ」

 

 僕が嘲笑する前に、隣のハンコックはいきなり同意してしまった。

 そんなの、慌てないわけがないだろう――。

 

「ちょっと、何考えてるんだよ!?」

「なんだ。お前は反対なのか?」

「もちろん!」

「なぜだ?Vaultの技術に興味がないとでもいうのか?」

「それとこれとは――だいたいロメオ・ワンはいつまでもこんなところにおいておけないし。僕らは今日中にコベナントに戻る予定だったじゃないか。

 ここに来ちゃったのは……ただ血の迷いとか、若さの至りとか。そういうのさ」

「なら、俺はここに置いていってくれていい」

「ははは、まったく。正気じゃないよ、ハンコック。本気で、ここに200年も閉じ込められて放射能づけになっていた脳味噌を持つグールのお手伝いとやらをやる?」

「お前もどうだ?きっと楽しいぞ」

 

 ハンコックは意見を変えるつもりはないらしいと、ようやく僕は悟った。

 まったく、この市長は――なんでこんなに頭がイカレているんだかっ!




(設定)
・スラウ
クインシーの採石場を占拠するレイダー集団のボス。
連邦では数少ない、グールでレイダーのボスをやっている。元々、原作でもここにだけグールのボスとレイダーがいるんだと話題になっていたが。DLCの発表でそのなぞは解けた。


・ロメオ・ワンの情報
いわゆる大型飛行物体は、他のロボットと同じようにピップボーイ越しにデータのやり取りが可能である。


・ドロップシークエンス
原作にも実は搭載する予定があったのではと言われている。パワーアーマーに乗って空中から地上へと降下するもの。

・アトムキャッツ・ギャング
当初の流れは「信号受信⇒ハンコックが止める⇒どうしてもというので、ある場所へと言う⇒アトムキャッツへ⇒パワーアーマーを借り受ける」という実に面倒臭い流れであった。

実際に書いてみたら、延々とパワーアーマーとベルチバード談義するだけで終わってしまいそうになったので全部カット。
でも寂しいから、ちょっとだけ戦闘にも参加させた。

・バレリー・バーストゥ
Vault88の監督官になる予定だった人。地下に閉じ込められ、200年以上を地の底でオロオロしていたらしい。

原作では主人公が来ると、途端に元気になる。
また、不安の中に会って希望が見いだせなかったと振り返っている上。「長く人と話していなかったから」と自分の言動を気にしている様子がうかがえる。
もしかしたら自身の正気に疑問か不安を持たれることを恐れるほど深刻な状態であったのかもしれない。


・俺はここに置いていってくれ
裏話、最初の予定ではアキラとハンコックでは立場が逆だった。
でもこの人もう2カ月引きこもってたし、ということで。色々と変更が入ったのである。

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