ここでひとつ、整理しておきたいことがある。
アキラの奇妙な冒険、そしてレオの帰還と続いている中で。
彼らの友人たちの動きについてもそろそろちゃんと触れておかねばならないだろうと思う――。
へ―ゲン砦における、希望ある調査結果を手にしたニックやパイパーらはその後。大人しくサンクチュアリへと進路をとった。
旅慣れたミニッツメンの若者、ジミーがいたこともあって。あまり人の姿のない道をたどり。おかげで道沿いに居座るガンナーをはじめとした危険な連中と事を構えるような問題はおきなかった。
だがこのせいで、ダイアモンドシティの騒ぎで急いで南下するガービーらと出会うこともなかった。
その後、アバナシーの農園でミニッツメンとようやく顔を合わせることになったのだが。ご存じのとおり、レッドロケットには肝心のガービーは残っておらず。
結局はそこでまたまた足止めをくらうことになる。
レールロードのディーコンは、本部への道を進んでいる。
インスティチュートの人造人間とデスクローから、助け出してくれた奇妙な人物のメッセージをまるでなかったかのように。
だが、彼はそれを忘れたわけではない。
さて、問題はプレストン・ガービーだろう。
ハングマンズ・アリーでの騒動をようやくに理解し。
慌てて動かせるパワーアーマーを掻き集めると、これと共に彼自身も南下する予定であったのだが。
彼は知らなかったが、すでにこの時はもう。
支部の責任者、マクナマスは死亡し。憂さを晴らしたいだけのB.O.S.の力を借りたレオによってすでにダイアモンドシティとも話をつけて決着はついていた。
本当ならば、そんなようやく落ち着けた仲間の元へと駆け付けたガービーとレオが再会する。そうなるはずであったのだが――。
そんなガービーの予定はさらに一転する事件が起こってしまう。
彼らミニッツメンに、いの一番に参加を表明したあの崖の上の居住地。あそこの周囲に突如わきだすように現れたレイダー共によって激しい攻撃にさらされた、との報告が急ぐ旅路の中で飛び込んできたからだ――。
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「おい、嘘だろう――」
前回、彼が良い知らせを持ってきたときにあったはずのその場所の変わりように。
ガービーは思わず――それは小さな声ではあったが、口に出さずにはいられなかった。
襲撃を知らせてきたミニッツメンに同道し。
パワーアーマー達と別れて、レキシントンを南に北東の方角に突き進んでたどり着いたその場所の姿にショックを受けるしかなかった。
新たな人が入り、住居と共に農地も拡張する予定だと聞かされていたその場所は。
今はなにも存在しない、荒らされた畑と焼け落ちた残骸の残る更地になっていた。
1週間前ならここには平和に暮らす20人をこえる人の姿があったはずなのに――。
ガービーの到着を聞いて、安堵したのだろう。
先に到着していたミニッツメンのひとりが近づいてきた。
「ガービー、来てくれたんですね」
「ああ、当然だろう。しかし――これほどやられているとは、考えもしなかった」
「焼き殺すつもりだったんでしょう。ここは木造住宅がほとんどでしたから――」
「何も残っていない」
「畑の方は、踏み荒らされただけなんで。再開することは可能だろうと聞いてます」
再開、希望のある言葉だが。
それが本当に希望になるのか、それはまだわからない。
生き残った住人達が、ここでの生活に再スタートをするのだと。そう考えてくれなけれは。
「すまない、俺がしっかりしないとな。ミニッツメン、報告してくれ」
「はい――」
夕暮れ時、そろそろ畑仕事も終わろうかという時だったそうだ。
レイダーは突如、四方よりあらわれた。
崖下から、丘の向こうから、迫ってきた奴らは手に火炎瓶を持ち。居住地に建てられた木造建築にむけて次々とそれを叩きつけていったそうだ。
「最初から、火をつけたのか」
「どう見てもあれは略奪してきたように見えなかった、そう聞いています」
しかし住人達は、それに怯えて何もしなかったわけではなかった。
ガービーら、ミニッツメンが手配した武器を手に取り。近場のミニッツメンに襲撃を知らせようと、フレアを上空に打ち上げもした。
この異変は瞬時に近くを巡回していたミニッツメン達の知るところとなった。だが――。
「最短で到着した奴等でも、10分ほど遅かったそうです」
「――そうか」
「レイダーのクソども、知らせが上がったと見るや。略奪に切り替えたようで。
抵抗する住人を逆に襲って武器を奪い、倉庫の弾薬や食料。ごっそりと奪われていました」
「計画的だな」
「ええ、多分。襲撃する準備を、ずっと狙っていたんでしょうね」
そしてそれは、きっとこの居住地の中をも調べ上げるような。そこまでやっていたかもしれない。
「よし、いいだろう。
居住者は、どうなった?」
「ひどいものですよ。今現在、死者は代表をふくめた、6名。やけどを含めた重症、軽症が9名、行方不明が3名。無事なのは4名のみ」
「行方不明というのは?」
「どうも、単純に逃げだしたみたいですね。崖を飛び降りるなんて、無茶やった奴もいるようですし。
探すようには指示してますが、この近くにも最近は野犬だけではなくデスクローなんかも出ますから――」
「生死不明、そういうことか」
「問題は重傷の住人です。ここには医師がいませんので――」
「ああ」
「勝手なことかもしれませんが。あなたが到着する前に、部下達には彼らへのスティムの投薬をしないように命令しました。その――」
「いや、わかってる。苦しい決断だったな、よくやってくれた」
スティムパックは本来、戦場で兵士に使われることを想定しているものだ。
応急処置としてはベストであっても、別にそれで治療が完全に必要がないということではない。医師と、彼らによって判断された適切な処置が必要なのは当然だ。
だが、ミニッツメンにしても。あのサンクチュアリであっても。
未だに専属といえるような医者を招くことは出来ないでいた。
ダイアモンドシティ、グッドネイバー、バンカーヒル。もしくは力のある集団が、技術者を手に入れればそれをしっかりと握って離すことはないし。逃がすまいと囲い込んでしまっている。
無残にも助からない運命の中で、必死に苦しみ続ける彼らは。
このまま諦めて死を迎えてくれるならいいが。しぶとく生きようとしてしまうとなると、ガービーが自ら”彼らの苦痛を終わらせる”という不愉快な決断を必要となるかもしれない。
「これをやった奴らはどこだ?」
「――レイダーの集団はいくつか思い当たります。ですが、まだはっきりとは」
「……」
「シラミツブシ、それでわかることもあるかもしれません」
熱く燃え上がる正義の心が、彼ら踏みにじられた人々の無念を思って報復を欲しているのだ。ガービーにはその気持ちを痛いほどわかる。
だからといってここで自分が冷静さを失い、それをあらわに暴走することは許されない。そしてそれを本人は一番理解していた。
「そっちはとりあえず、忘れろ」
「――はぁ」
「ミニッツメンは人々を守るための組織だ。報復の代理人ってわけじゃないんだぞ」
「はい。すいません、ガービー」
「わかってくれればいいんだ……近くを巡回している連中を呼び集めろ。
それとレッドロケットに戻って、あそこにいる新人共の研修代わりにここに来るように伝えてくれ。彼らの生活する畑や、住居をとにかく用意しないと」
「そうですね」
「新たに見張り台を用意して、防衛にも気を配れ。不足している物資の輸送も、頼まないと」
「わかりました。すぐに送ります」
ミニッツメンが離れると、ガービーは1人。厳しい視線を崖の上から見下ろす先にあるレキシントンへとむけた。
レイダー共の巣窟。
ロブコ工場での一件が終わっても、あそこは今もあのころとそう変わらない。
大小様々なレイダー達があそこに集まり続け、死んだ大物ジャレドの椅子に自分が座ろうとくだらない陣取り合戦をやっているはずだった。
そうして間違いなく、奴等の頭の中にはミニッツメンとの対決姿勢は絶対に必要な要素となっている。
(レイダー共め、この攻撃が貴様らのそんなくだらぬ名誉心からのものだとわかったら。絶対に許しはしない)
そうやって大物となってしまった未熟なミニッツメンが必死になって自分を律しようとしていると――。
怪我人たちが横になるのとは違う場所がにわかに騒がしくなった。
――やめろっ、やめろっ、やめてくれっ
懇願する”人の声”にガービーははじかれた様に駆け出していく。
こういう時、あのサンクチュアリでもひどい騒ぎになったのことを学んでいた。
そして到着したその場所で、またも愕然とするのだ。
無事だった住人達が、同じく無事だった住人のひとりを――グールの彼に向かって、ミニッツメン達が必死に抑える中で激しく弾劾していたのである。
「お前達、なにをしているっ!!」
ガービーのあげる声はやはり厳しかったが、興奮する住人達は収まる様子を見せない。
彼らは今度はガービーに向けて訴え始める。
コイツは裏切り者だ、コイツが手引きしたんだ、コイツが襲わせたに違いない。コイツはずっと怪しいと思っていた。
その言葉はすでに支離滅裂で、しかし結論だけがはっきりしていた。
――グールは敵だ
彼らは確かに被害者だ。経験した恐怖を想えば、同情することだってできる。
だから大抵のことは、大目に見てやってもいいはずだった。
しかし、これはさすがにガービーでも怒りを感じないわけにはいかなかった。
レイダー達は屋内にいた者たちを焼き殺そうとし、抵抗しようとして武器を手にした者たちを害した。
とするなら、この無傷な住人達はなぜ助かったのか?
想像するのは簡単だった。居住地の中を走り回るレイダー達の顔を見ることもできずにその場にうずくまって震え。なにも動くことのできなかった無力な者が、こうやって生き残ったのだろう。
それは別に恥ではない――。
だが、それがこのような。
まったく無意味な混乱を生み出す、グールへの偏見を口にするなんて。
自分が救いたいと思う人々の、その最底辺の人の姿を見せつけられ。最後のミニッツメン、プレストン・ガービーは言葉を失ってしまっていた。
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そこはどことは言えないが。
Vaultめいた人口の居住施設の中にある一部屋があった。
怪しい組織、”小さな宝物”。
そのメンバーでもある、キンジョウは神経質そうにわずかに苛立ちながら。今はひとり、会議の開始をじっと待っている。
新たな地位へと昇るために、数十時間前。
キンジョウは、廃棄物予定のアキラの回収を観察者と共同で行おうとし。これに失敗してしまった。
これから行われる会議では、この尻ぬぐいをどうするのか。それを話し合うことになるはずであった。
もちろんキンジョウはそこで、廃棄物はきっちりと処分するのだと今度もまた主張するつもりであったが。
回収の失敗、そしてその後の栄転のことがあるので。
この考えがすんなりと仲間から支持されるとは全く思えないことが、冷静になることを許さなかった。
扉が開く。
観察者を先頭に、続いて2人の男が姿を現した。
「おや、キンジョウ。いつものように、お待ちかねですか」
「能力が頼りないから、そうやって先に立たねば不安なのだろう。いかにも、技術屋らしい小心だな」
観察者は無言だったが、男達はあきらかにキンジョウを侮辱する意思が見られた。
「ええ、コチラの用意は万端です。観察者、会議を始めてください」
「驚いたな。噂では己を組織のテクノクラートだと、そう考えていると聞いていた」
「ええ、そう聞いてましたがね。随分と自重することを、新しいアキラは覚えたようですよ」
4人でサークルをつくるように立ち。
観察者はつまらぬ会話を「やめろ」と片手をあげることで、合図を送った。現状、ここでは観察者が最上位にいることになっている。
「サカモト、コンドウ。よく来てくれた」
「構いませんよ、観察者。しかしクロダ、キジマらは間に合わないので、欠席すると」
「わかった。構わない」
どうやらさらに2名がいるらしいが、キンジョウにはそれはむしろ朗報のように思えた。
「ではさっそく。この場に来たのならすでに知っているだろう。廃棄を予定されているアキラが暴走。
キンジョウと共にこれを回収しようとしたが――何者かによってこれを奪われてしまった」
「発言、いいですか?」「サカモト、なんだ?」
「アキラが奪われた……これがよくわからないのです。奪われた?逃げられた、の間違いでは?」
失敗をとがめられている、そう感じる不快さに我慢が出来ず。キンジョウは感情的に声をあげる。
「逃げられるわけがないっ。あいつの身体は良く知っている、弱点も!」
「しかし、技術屋は時にそうした傲慢さで。うっかりとほんの”致命的なミス”を簡単にしてしまうことも、あるのではと思うのですよ」
「致命的なミスを、いつやったというのだ!?」
観察者再びこの悪い流れを止めるため、合図をする。
そして自分の口で状況の説明を始めた。
「奪われたのは間違いない――回収は半ばまでは、順調に進んでいた」
「なるほど、観察者がそういうなら。納得します」
キンジョウは音を立てて歯ぎしりしないよう、こらえはしたが顔を自然には逆らうことが出来ずに真っ赤にする。
同僚たちの自分への嬲り方は、まだ始まったばかりだというのに。すでに耐えがたいものに感じる。
とくにサカモトは、一見すればキンジョウに似て学者然とした姿をしているが。
これでも立派に戦士であり、交渉もする武闘派であった。
「奪われた、それなら誰に奪われた?」
コンドウという、大柄な体躯の男はむしろ失ったアキラよりも、敵の存在に興味があるのだろう。
「まだ不明だ。
そして今回集まったのは、それを割り出す前に。まずはこの問題をどう解決するのか、互いに考えをすり合わせたいのだ。わかるな?」
「廃棄物、それは確定ではありませんでした?」
「確かに」
「ならば放って置け、それでいい」
「あなた方は揃ってバカ、なのですか?それでいいわけがないでしょう!!」
感情的なキンジョウは、カッとなって思わず声をあげてしまう。
サカモト、コンドウはそんなキンジョウの顔を、さも不思議そうに見てくる。やはりムカつく。
「なぜだ?」「なぜです?」
「あれには――アキラには、改めて処置を施したことを忘れてもらっては困る。あれは、すでに組織の資産の一部だ。少なくとも、しっかりと廃棄する前までは」
サカモトは変わらぬ様子で、しかし意外にもキンジョウの言葉に頷いてみせた。
「なるほど、それは確かに道理です」
「なら――」
「いえ、待ってください。それなら、こちらにも言い分はある」
サカモトの言葉になぜかコンドウも頷くので、キンジョウは怪しんで心の中で身構えて置く。
「あのアキラは我らの資産の一部、まったくその通りだと思います。だってね、あのヌカ・ワールドの問題は彼に託したし。ボッビという資産の要望を再び叶えるべく、貸し出すことを求めたのも我々だ。そうですね、観察者?」
「その通りだ」
「しかしあのゴミはっ、そのボッビを殺してしまったぞ!これでは資産を、資産に潰されたというわけで――」
「キンジョウ、それは違う」
なにっ、と声をあげようとするのはキンジョウは飲み込む。状況は思った以上に劣勢で、彼はまだ自分の意見を口にすることすら許されていない。
「ゲイジから報告はあった。
彼は十分以上の仕事をヌカ・ワールドで行っている。ボッビは?
あのグールにも力を貸した。そうして実際はボッビの目的はアキラの協力でかなえられた、違ったかな?」
「しかしその後、暴走した」
「それが俺とサカモトが、キサマと意見を異なる部分だ」
「どういうことですか?」
「コンドウと共に、この騒ぎの最初から。記録を見直してきたんですよ。アキラが暴走した――こう言って騒いだのは、あなたでしたね、キンジョウ?」
「それはっ……ここにいる、観察者もいた」
「いいえ。それは詭弁だ。
観察者へのあなたからの報告として、つけていたロボットが不調だと言いはじめ。その後でいきなり暴走したのだと、どちらもそうしたからこのままに放っておけぬと言い出した」
「当然、慌てるだろう。すでにその時はあの――アキラは、ボッビを始末しようと動いていた」
「そうですね、ええ。わかりますよ、だから当然の疑問も出てくる」
「なんのことだっ」
「キンジョウ、ここにいない2人も含め。俺達の結論は一つ、観察者は巻き込まれただけだ。キサマのミスに」
「はァ!?」
アキラの即時廃棄決定を進言するつもりだったキンジョウだったが、思わぬ言葉に色を失う。
「あのアキラが、本当に暴走したのか。疑問なんですよ」
「ふざけるなっ。データが残っている」
「廃棄されたはずの廃棄物の侵入を許し、そいつの願いをかなえた。キサマの優秀なAI達が記録しているものの事か?」
イエローマンの侵入事件。
あれは逃げられる前に抑えたのでうやむやにできたが、だからこそこいつらはそれをここであえて口にしているのだろう。
「改竄などしていないぞ!」
「あなたは単にアキラ排除に焦るあまり、決断を急いだとは?」
「冷静な、判断だった!」
「まぁ、いいですよ。今更そんな言い訳聞かされてもね」
サカモトはいきなり追及をやめる。だが、許したわけでは決してなかった。
「観察者、我々はこの問題の解決に。アキラの再回収――いえ、再帰還を望むべきだと考えます」
「帰還?何を言い出すかっ、あれは廃棄される奴だぞ」
「まだされていない。そしてキンジョウ、君が再調整をしたのだろう?なら、それでなにか影響がでたのではないか?」
「馬鹿なっ」
「前回は結論に急ぎすぎたという考え方もできる。なら、もう一度配慮して迎え入れることもできるだろう」
「正気ですか、あなたがたはっ!?」
観察者はじっと黙して語らない。
本来であるなら、アキラへの害するような意見は自分が率先して阻止しようと考えていたが。
思いもよらぬ会議の展開に、喜びつつも、同時に彼らの思惑を怪しんでもいた。
「4人の意見、そういうことか?」
「ええ、観察者。すでに4票、のこるはあなたとキンジョウで一票ずつ。そういうことですよ」
「それはかまわないが、理由はちゃんと聞かせてもらわないと」
サカモトは口元にわずかに笑みを浮かべると、今度こそコンドウと共に侮蔑のこもった視線をキンジョウへとむける。
「ヌカ・ワールドへの問題は、あのアキラによって劇的な変化を手にすることが出来た。
ボッビなどという落ち目の悪党をうしなったとはいえ、状況はこちらの良いほうへと変化している。あのB.O.S.への今後の対処を考えると、あのアキラこそ我々を率いるにふさわしい人物といえるでしょう」
「マクソン、という奴。インスティチュートを狙っているというが、それはそのままこちらへの敵対を宣言している。はやく排除しなくては」
「あ、アンタたち。なにをっ――」
言い出すんだ、その言葉はキンジョウの喉から先に飛び出してはいかなかった。
罪は許せ――ただそれだけを、彼の仲間たちは求めているのだ。
「あいつが、ここに戻るわけがないっ」
「そうは思いませんね」
サカモト、コンドウらは視線を外すと涼しい顔へと戻っていく。
「アキラは我らの家族ですよ。この連邦を生き汚く、這いずるような人間達にはまさしく宝の持ち腐れ。彼の代わりになれるとうぬぼれる、そうした奴らの足の引っ張り合いに彼もすぐにうんざりすることでしょう。
そこで、家族は再び準備ができたと伝えればいい」
「――なるほど」
観察者は満足して頷く。
キンジョウは、その結論を受け入れられない……。
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連邦にしかれた大通りは、繰りかえすが決して安全を意味するものではない。
そこはこんな世界であっても物流をうながす血管ではあるが。
同時によくないものも、もっと悪いものだって平気でそこを使う場所でもある――。
だが、目の前にあるのはおかしな集団があるだけ。
ひとりの若い傭兵、ひとりの若い女性、ひとり――いや、1台のアサシンロボット。
そう、マクレディ達のことだ。
「ですから、それは完全な――」
「俺は馬鹿だって言ってるのか!?俺には言う権利はないって?」
「むやみな行動は、決して良い結果には――」
アキラを救う――そう誓って行動してきた彼等であったが、ついに限界を迎えようとしていた。
グッドネイバーで市長の護衛を殺害、その間は市長の人質にならざるを得ず。彼らは目的を近くにおきながらも、一度も言葉を交わすチャンスさえ手に入れられなかったのだ。
そしてこれからどうする?
そう問いかけた時、ついに3つの思考は別々の方角を指してしまい。コントロールを失おうとしていた。
なにもできなかった。
その徒労感にもにた疲れが、焦り、先走ろうとする彼らの関係をきしませている。
ゆっくりと目を開けると、そこには見覚えのある連邦の景色が広がっていた。
僕は改めて、自分を確認する。
黄色のビジネススーツ、コート、帽子。
そして新たに手に握っているのは、一振りの刀。
それは時代を越え、地上を離れ、宇宙で今も自分を貫き続けている鬼からの別れ際に与えられた餞別のよううなものだった。
歩きはじめると、すぐそこに連邦の大通りがあることが分かった。
道に出ようと近づこうとすると、確かに聞こえてくる懐かしい声も聞こえてくる。
――なんだ、喧嘩しているのか?
自分はちゃんと戻ってくることが出来たのだ。
口元に笑みが自然と浮かぶ。
「なんだ、太陽が出ているからって。随分と騒がしいんだなっ」
そう声がかかる直前にエイダのセンサーは影を捕らえていた。そこまで何者かを自分に接近するのを許したことにも驚いたが、声をかけてきた相手が判別されると。えもいわれぬ幸福感めいたなにかで、回路がショートをおこしたかもしれない。
マクレディはといえば、勢いに任せて女性陣(?)に「このポンコツ共が――」と言いかけた大口を開けて、固まってしまった。
「連邦は広すぎだよな。迷子になったら、再会するのもこんなに大変――」
アキラの面白くもない軽口は、最後まで続くことはなかった。
それまで頑固に己の持論をぶつけていたキュリーは。
そんな自分をなかったかのように、駆け出すと。いきなりアキラを押し倒さんばかりに飛びついて、その唇に自分のものを乱暴に押し付けてきた。
それは情熱的というにはあまりにも稚拙であったし。
美しさなど欠片もなく。しかし、あふれ出るなにかの熱いそれはあふれ出ていることは間違いない。
思わぬ登場人物。
思わぬ展開。
その両方に見せつけられただけのひとりと1台、そして被害者(?)は目を白黒させていた――。
こうしてイガラシ アキラはついに連邦へ帰ってきた。