レールロード本部に戻って報告を終えると、僕は何でも屋のトムに会いに行く。
会話は常にぶっ飛んでいて、発想は天才級。
そんなオモシロ黒人のヒョロ男と僕が並ぶと、シンパシーというのだろうか。同族に感じるような、親近感を覚える。
ディーコンはレールロードは変人には事欠かないと太鼓判を押していたが、彼のような技術者と知り合えるのはたしかにここだからなのだろう。
そのトムだが。珍しいことにいつもは空のパワーアーマーステーションにいて、パワーアーマーをいじっていた。
「やぁ、戻ったんだね。大活躍だって聞いてるよ」
「例のDIAの秘密商品はもう回収されたって聞いた。商品化はどうなってるか知りたいんだ」
彼はパワーアーマーの足元にかかりっきりなりながら、いきなりなぜか怒り出す。
「DIAはくそったれ!あの場所には、やっぱりすごい技術が眠っていたんだよ」
「ああ、そうだね」
「それで――ちょっと待って」
トムはそこでようやく作業をやめると立ち上がった。
「アイデアが無数にわいてくる。君たちエージェントが、この分野のもっともっと。手に入れてくれたら、面白いおもちゃはさらにたくさんできるのにね」
「なら、そのための『正しい情報』をもっともっと。そういうこと」
「だね、そのとおり。新商品は在庫にあるよ、すでに十分。もっと色々揃えたいけど――今、見てみるかい?」
DIAは戦前の国にあった諜報組織だったらしい。
軍部とは別に独自の彼らのために必要な装備の開発を自分たちで行っていたようだ。
回収されたサンプルと情報は、ディーコンには内緒で僕もこっそりピップボーイにコピーしていたが。レールロードがそれをどのように使うのか、参考にさせてもらうつもりだった。
デズデモーナは、トムとなにやら話し込んでいるフィクサーを――新人エージェントを見ていた。
そして、離れたところで自分たちの活躍を仲間の女性たちに面白おかしく聞かせているディーコンのところへいって、話があると伝えた。
「新人の教育は、どう?」
「悪くない、順調に進んでいる。辛めに見てもね。
実際の話。あいつは頭が回るし、判断もできる。まだまだ教えることは多いが、俺自身が学ぶことだってある」
「――随分とお気に入りのようね?」
「デズ、彼を推挙したのは俺自身だ。それだけの力があると自信はあったし、そのためにあんたを説得できる材料も見せてきた。結果を見れば、俺の言葉を信用してくれていいんじゃないか?」
「あなたがそれをいうの?」
「ウソの報告をあげたことはない。そう言っているだけさ」
「そうね――その通りよ」
「……なにか、不満が?」
「不満?そんなものはないわ。
ボストンコモンに眠るDIAの遺産については以前から知っていた。でも、あの場所に足を踏みいえれるリスクはおかせなかった。それをあなた達だけで行ってくれたのだもの。スイッチボート制圧が、何かの間違いではなかったと証明されたわけよね」
「だが、不満そうだ」
意志の強い、鋭い視線がディーコンの面の皮を貫かん向けられた。
「働きには感謝しているけれど、彼はなぜボストンコモンに執着しているのかしら?」
「なんだって?」
「あなたもグローリーも、フィクサーには戦闘知識がないと口を揃えている。でも、彼はうちに来てやっているのは最高難度の任務ばかりよ?それを新人が、教師に教えられながら平然とこなしている」
「平然はいいすぎだ、デズデモーナ。あれと一緒のせいで、俺は毎回が大騒ぎ。何度だって死にかけた」
「でも、あなたもそれを止めなかったのよね?」
「デズ?いったい、どうしたんだ?」
レールロードのリーダーは、その言葉ではっと我に返ると。瞳に宿る力が抜け、「ちょっと考えすぎているようね、ごめんなさい」といって無理やり会話を打ち切った。
ディーコンもしつこくすることなく、仲間の元に戻って話の続きをはじめるが。その内心は穏やかではいられなかった。
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トムの新製品を見たあと、話は彼が整備していた目の前のパワーアーマーに移っていた。
「こいつはね、T-51パワーアーマーさ。見てくれよ、昔の戦場じゃ新兵器として使われていた」
「パワーアーマーには興味があるんだ。T-45で大暴れしてやった」
「本当に!?それなら、君にもこいつが使えるんじゃないかな。どうだい?」
「どうかな――使い方を教えてくれた人の話じゃ、大丈夫だとは言われたけれど。実際に試したことはない」
「それはそうだろうね。こいつは、この連邦でもなかなかお目にはかかれないシロモノだからね」
「どうしたの、これ?」
再度聞くと、トムは悲しげな目で語り始める。
「レールロードの精鋭チームが回収したんだ。うちでは彼らのようなチームが、このタイプを主力に使っている。さっそく手を入れて、すぐに配備できるようにしたんだけど――」
「?」
「チームにこいつを使う余剰はないと拒否されて戻ってきてしまったんだ。デズはこいつを遊ばせたくないらしく、市場に流してキャップに変えようと言っているよ。もったいない」
レオさんも参加したというアンカレッジの戦闘でもこのアーマーは、当時最強モデルだといわれていたそうだが。それに恥じない働きをしていたと、語っていた。
僕はこのずんぐりとしたバケツ頭の装甲戦士に興味を持った。
「こいつの塗装は?」
「もちろん、レールロード仕様だよ。ただ真っ黒に塗りつぶしただけ、なんて言わないで。
精鋭チームについたこいつが、重火器を構えて先頭に立てば。インスティチュートの連中なんて、どれだけ立ちふさがろうと怖くもないさ」
僕は思わず、とんでもないことを口にした。
「市場に流すというなら、これ。自分に譲ってくれない?いや、売ってくれないかな?」
どことなくずんぐりしてはいたものの、僕はこのパワーアーマーのことが好きになりかけていた。
レールロードの副司令官は現在、医療担当も兼任しているドクター・キャリントンである。
冷静で、思慮深く、自愛の心を持つが。時に人の心に遠慮なしに踏み込むと、苦言や皮肉を言うので憎まれてもいる。その男にディーコンから話しかけた。
「少し話をいいか?ディーコン、君とフィクサーには、例の隠れ家を確認してきてほしい。詳細はこの後、口頭でおこなうことになっている」
「オーガスタの隠れ家の調査?デズは俺達にケンブリッジに行けというのか」
「おかしなことを言うね。ボストンコモンを引き裂いていた君達なら、大丈夫だろうってだけさ」
「なぁ、本当にそれは俺たちじゃないと駄目か?」
「……珍しいな、ディーコン。君がそれほど与えられた任務を嫌がるとは。フィクサーに問題が?」
「どちらかというと嫌な予感がする。俺達が行かないほうが、いいと感じている」
「ほう、それはますます興味深い」
副指令が、こちらの言葉をなかなか真剣に受け取ってもらえないことにディーコンは珍しく不満をあらわする。
「デズデモーナは、俺の教えているフィクサーについてなにか言っていたか?」
「フィクサー?いや、別に。それが問題か?」
「それがよくわからない。ただどうも、俺がフィクサーについていることをよくは思っていない、彼女と話してそんな印象を受けた」
「考えすぎじゃないのか?」
「どうだろう。俺にも断言できるものはないが」
だが、気になる。
「穏やかじゃないな。最近は君、グローリー、フィクサーのおかげでようやく皆の顔に笑顔が戻ってきたんだ。ここでまた組織がつまづいて転ぶなんてが起こるのは、出来れば考えたくはない」
「俺も同感だ」
「とはいえ、隠れ家に使っていたケンダル病院はエージェントに頼むしかないと思っていた」
「正直、確認する必要があるのか?」
「君達はスイッチボードを制圧しただろ?」
「人造人間をスクラップにするのは楽な仕事じゃない。それはわかってもらいたいな」
ドクターはなぜか暗い顔で「そうはならないと思うよ」と言ったが、結局任務は2人に下る。
本部を出ようとするディーコンとアキラの前に体の大きな女が立ちふさがった。
「君か、フィクサー」
「グローリー、元気そうだね」
「君がそこのサングラスと組んで、DIAの貯蔵庫から持ち帰ったって?」
「物資のこと?この先生は厳しいおかげで、あそこではひどい目にあっただけだよ」
「フン、ヒーローは謙遜が得意ということかい。嫌味に聞こえるよ」
なんだろう。僕は彼女に喧嘩を売られているのだろうか?
思わぬ目の前の人物の態度にに驚き、すぐには反応できなかった。そんな若者の背中にディーコンは声をかける。
「それじゃ出発するぞ。少年」
「わかった」
「これはこれは、グローリー。彼を口説きにきたのか?」
「私が?ハン、まさか。そんなわけがないだろう」
なぜかハゲは僕の腕を強めにつかむと無理やりにして外に連れて行こうとした。
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B.O.S.の偵察部隊が駐屯しているケンブリッジ警察署の屋上に出ると、ナイト・キースは背中の荷物を確認してからそのまま屋根伝いに移動を開始する。
現在、部隊はキャピタルの本部からの”新しい指令”に従い、任務凍結状態となっていて動くことができない。
そんな中で、彼ができることといえば。
暇な時間にガラクタを利用して作り上げたお手製の地雷を抱え、ケンブリッジの町の中を徘徊し。仕掛けた地雷が減っていないかどうか、チェックすることくらいしかない。
敏捷さをかねた肉厚の筋肉が躍動しても、なにかが物足りないのだと不満を訴えている。
フェラル・グールなどという汚らわしい存在に占拠された町の中で、しばらくは息を潜めようと語ったダンス隊長へのあってはならない反感が、ムクムクと頭をもたげようとするのを抑えている。
全てはついに自分達の部隊がこの連邦での任務に失敗し、殺到する死者の群れに無残にも引き裂かれると覚悟をしていたあの後からすべてが変わった。
それまで、この過酷な任務を前に厳しい決断と判断をくだしていたパラディン・ダンスは大きくその方針を転換したのだ。
「残念だが、我々はここまでだろう」
本部との通信が回復し、新たな指示を待つよう返事が来た夜。
彼は食事を前に、部下のリースとヘイレンにむかって静かに語った。
武器はあるものの、食料品と薬品が足りない。補充を本気で考えるなら、近くにあるというダイアモンドシティとやらに行くしかないが。その行き帰りは危険に満ちていて、気軽にはいけない。
「本部との通信が繋がったのは喜ぶべきことだが、それだけだ。我々にはすでに、任務を続行できるだけの余力は残されていない。部隊を率いるものとして、皆で無駄死にしようなどとは言いたくはない」
そうして警察署で篭城がはじまった。
本部ではすでに次の計画――それは多分、自分達の後釜となる部隊だろう――が用意されており。1ヵ月後にダンスの部隊の新任務を発行するという。
要するに迎えをやるから、それまではせめて1ヶ月くらいは静かに隠れていろというわけだ。
(こんなはずじゃなかった。こんなもんじゃなかった)
隊長の判断は間違っていない、ナイトとしての自分もそれはわかっている。
連邦を訪れた時から仲間は半分以下にまで減っている。
これ以上何かをしようとするなら、総力戦だ。その戦いに勝っても、今いる3人が生き残っていると考えるのは楽観的に過ぎた。それでも、怒りはどうしようもなくわくのである。
リースは通りを歩くフェラルたちの頭上で、通りに仕掛けた地雷を望遠鏡で確認する。
ばら撒かれていた地雷は7つ、その全てがそのままそこに残っている。つまり、この町から出ていく者も、入ってきた者もいないというわけだ。
ダンスはリースを特にとがめはしなかったが、同僚のヘイレンはこの地雷配り行為をひどく嫌がり、非難をしていた。「地元の住人を吹き飛ばしてたらどうするの?」それが彼女の言葉で、確かにその可能性はあった。
だがリースはその答えとして、彼女が言うほど深刻なことではないという風に「地元の奴らは賢いんだろ?こんな町には近づきもしないさ」と言って、相手にしなかった。
そして無力な旅人が、商人が、避難民や子供が地雷に吹っ飛ばされたところはまだ見ていない。
リースはそれだけを根拠にこの任務をやめるつもりはなかった。
今日は調子がいいのか、それとも悪いのか。
3番目のポイントも確認したが、地雷はひとつも減ってはいなかった。
こんな日もあるさ、リースはため息をついて立ち上がり。警察署に戻ろうと考えていた。
そんな彼の背後には大きな山が立ちふさがっていた。
「ヤッパリ イタナ人間!」
そして次の瞬間、ナイト・リースは衝撃を感じるとなにもかもがわからなくなってしまう――。
近くで火が、パチパチと爆ぜる音がしたと思う。
ぼんやりとした中で、不快な言語が流れていた。確かそれは「コイツ」と「食エル」だったか。
うう、とうめき声を上げながら、地面にうつぶせに倒れていたリースはごろりとそこから仰向けに転がった。
途端に複数個所から、苦痛を知らせてきて小さな悲鳴をあげてしまう。
(情けない声を出すな!俺はナイトなんだぞっ)
あわてて歯を食いしばると周囲を確認しようとした。
どこかの屋内らしいが、すぐ近く。部屋の中央にはなぜか弾薬箱などが山と積み上げられ。その隣にはあろうことか屋内にもかかわらず、火がたかれているようだった。
(誰だ?レイダーか、原住民の奴等か!?)
頭部から流れる血が目に入ってしまっているのだろうか、視界がにじんでいてはっきりしない。
先ほど感じた巨大な存在も、声が消えるとあっというまに消えてしまい。姿もない。
『只今お届けした曲は…。ハァ…へへッ…ロケッ――』
ラジオの音声だけが流れている?
現地人の流しているラジオだがリースはこれが嫌いだった。キャピタルにいた時も、考えてみればラジオは嫌いだった。あっちはここと違い、陰気ではなくあまりにも能天気な調子で皮肉を口にしたので――特にあの時代のB.O.S.と比較するようなコメントをするので、好きではなかった。
(立ち上がろう。今なら誰もいない、逃げられる)
荒く息を吐きながら、なんとか壁に手をやって支えながら腰だめになる。
そこでギョッとして動きが止まった。
部屋の中、屋内に誰もいないと思っていたのは勘違いであったらしい。部屋の中に自分以外の存在がいたことに気がついたのだ。
そいつはなぜか目を包帯で隠しているので、見えないらしかったが。それにしても気配をまったく感じさせない静けさをもまとっていた。
そしてなにより重要なことは――。
「スーパーミュータント!?」
自然と声が上ずってしまった。
だが先ほどの奇妙な会話の意味は、これで合点がいった。
リースはこいつらの食料としてここに連れてこられたわけだ。そして、こっそり逃げようにも不覚にものたうちまわった挙句、声まで出している。
(いや、待てよ。もしかして気がついていないのかも)
わずかに希望を託し、そろそろと一歩足を踏み出した。
「聞コエテイルゾ、人間。動クナ」
「っ!?」
思わず止まってしまったが、ここが決断の時なのは明らかであった。
見張り(?)を恐れず、このまま走れば逃げられるだろうか?戦って殺す――のは無謀か、武器がないのだ。どう考えても不利だ。
「……ナンダ?ナニガ オコッテイル?」
「?」
「盗っ人メ、ゲス野郎ガッ」
盲目らしき緑の巨人はいきなりそんな低い声で言葉を発すると、素早く壁際に移動してなにかをやった。
その途端、建物が突然悲鳴を上げたのかと思うほどの大きなサイレン音が周囲に響く。
(これはっ、仲間を呼んでいるのか)
思わず両手で耳をふさいでしまったリースだが、慌てて山と詰まれた弾薬箱に飛びつくと中をあらためる。ミサイルランチャー、マシンガンが出てくるが、馴染み深いレーザーの類はそこには入っていなかった。
それでもないよりはマシと、武器を抱えて弾薬を拾い上げる。
室内に続く通路を順に確認し、誰が出てきても戦えるのだと自分に言い聞かせる。
だが準備はまったく足りていない。
片足を突いて、ミサイルランチャーに自分の肩を貸し。両手を必死に動かして、マシンガンの弾倉に5.56ミリの弾丸をつめていく。いつもレーザー兵器ばかり運用しているせいもあってか、あまり誉められた手際ではない。
最高の緊張状態と絶望的な状況の中で、無限の時間をすごしているような感覚であった。
だが、そのすべてに違和感が生まれる。
ポロポロとこぼしながらも必死で弾を込め、マシンガンを取り上げて装填し、構えては荒く息をさらに10回ほど吸ってはいてを繰り返したあたりで――冷静な思考が動き出した。
誰もここに姿を現さないのである。
それはこのスーパーミュータントにしても同じだったようで、サイレンのスイッチレバーの前から動けず。戸惑っているように見えた。
だが、このままで言い訳がない。ここはフェラル共であふれるケンブリッジなのだ。
大騒ぎなどしていたら、すぐに誰かがここへ何があるのかと殺到するに違いない……嫌、もしかしてもう誰かここにきているというのか?
ガチャリ、いきなり扉が開く。
連邦のごみ拾いが着るコート、その下にはこれまた最近見た覚えのあるVaultスーツを身に着けた若者が気軽な様子で入ってくる。
扉のすぐ隣に、あの盲目のスーパーミュータントが立っているが、気がついていないのか?
リースの前まで来ると、これまた軽い調子で声をかけてきた。
「あんた……」
「無事のようだ、よかった。動けるかい?」
「あ、ああ――お前、名前は?どうしてここへ?」
「アキラだよ。ここへきた理由――ちょうど目の前を、変な人を担いだスーパーミュータントがご機嫌で横切ったから、と言えばいいのかな」
「ふざけるな!俺は真面目に聞いているんだ」
「ならこっちもそうさ。あんた、面倒くさい奴だな」
駄目だ、こういう奴は先日も会った。地獄をなぜか鼻歌交じりに歩き回るような、そんなごみ拾い共の感性はリースにはまったく理解できない。
「スーパーミュータント――」
「そう!そのスーパーミュータントだけど、もう大丈夫。だからあんたもこうして迎えに来たんだ」
大丈夫?迎えに来た?
リースは頭が回らない。それどころか、怒りさえわいてきた。
だが、その言葉を理解した奴もいた。
盲目らしきスーパーミュータント――”デッドアイ”は、サイレンのスイッチの前に立った状態のまま。怒りと悲しみの混ざり合った咆哮をあげた。
同時に馬鹿なごみ拾い――リースには少なくともそう思えた――アキラと名乗る少年の顔に悪い笑みが浮かび上がり。見たことのないレーザーピストルを手にして振り向く。
決着は、あっという間の出来事であった。
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ケンブリッジに鳴り響く、これまで聞いたことのないサイレンを耳にしたとき。
ヘイレンはすぐにダンスに向かって口を開いた。
「リースが戻ってきません。大丈夫でしょうか?」
「……待機しろ。近くまで偵察してくる」
T-60 パワーアーマーを身につけたダンスはそれだけ言い残すと警察署から飛び出していった。
ヘイレンの言う通り、今日のリースはいつもよりも戻るのに時間がかかっている。悪いことがおきていなければいいのだが。
サイレンは途中で鳴り止んだものの、ダンスはその発生地点をすでに割り出していた。
近づくにつれ、状況はあまりよくないことを知る。道路や建物の周りを、これまでこのケンブリッジでは見たことのない数のスーパーミュータント達の死体が残されていたからだ。
さらに進むと今度は建物からぞろぞろと人とロボットたちが出てくるところに出くわした。その中に、あのリースが混ざっている。
「そこの君達、停止してもらおうか!見たところ、私の仲間を連れているようだ。これからどうするのか、聞かせてもらいたい」
集団はいきなり目の前に現れたパワーアーマーに驚いたようであったが、リースと何か話すと。若者と2人、穏やかに歩いてくる。
(どうやら、話し合いが出来そうだ)
半年前なら、もっと居丈高に叫んで。物事を面倒にしたかもしれないが、ダンスは最近。柔軟さを持つということの大切さを学んでいた。
「あなたが隊長さん?アキラだ、ここにいるあんたのお仲間が。スーパーミュータントの食料になるところを助けたばかりだよ」
「ほう、そうだったか。ならまずは例を言わないとな」
「見かけたって、それだけの話だから」
「いや、そうはいかない。ありがとう――ところで、そういうことなら仲間はこちらに引き渡してもらえるのかな?」
「もちろん」
いつものように、険しい顔のままのリースにこちら側に来るようにダンスは手招きをする。
彼が自分の隣に立つと、ここでようやくダンスの力が完全に抜けた。
「本当に君達には感謝する。彼を失うようなことは、考えたくなかったんでね」
「だろうね。実は知らない間柄ってわけでもないんだ。話を聞いていた」
「ふむ、例のダイアモンドシティのラジオかな?」
「違うんだな、レオさん。あの人と僕は付き合いがあってね。あんた達の通信装置とやらの一件を聞いたんだ」
「そうか――彼は今、どうしている?」
「ボストンコモンあたりで暴れているんじゃないかな。すまない、別れてもうだいぶ立っている」
彼は自分の息子を探しているのだと言っていた。
この厳しい時代の中、絶望せずに歩きをやめずに進む彼のために祈ってやりたいとダンスは思った。
「どうかな?君達、よかったらこれから私達が駐屯する警察署に来ないか?もちろん、強制はしない」
「――そうだね。一度見てみたいと思っていたし、なにか話があるんだろう?」