Vault111の男達が再び旅立つのは苦労が必要かと思われたが、実際に必要だったのはレオの決断だけだった。プレストンによるミニッツメン再結成の儀式の翌日、その日も新たに参加を希望する若者が訪れ。コズワースがそれに対応している中、前の道を通り過ぎようとしたバラモンをつれたキャラバンが足を止めた。
「メッセージを預かっているよ」
そういうと一本のホロテープを置いていった。
再生すると、まず送り主が自分の名前を名乗る。
――ハイ、ブルー。元気してる?パブリック・オカレンシズのパイパー・ライトよ。
――ニックのこと。いくつか手がかりが出てきたんだけど、簡単に近づけそうにないの。こっちに戻るのはどのくらいになりそう?また連絡する。
探偵事務所のアシスタントが言っていた、今年のうちに見つからないとここも閉鎖するしかないと。
時間が足りないことを思い出し、すぐに決断は下され、プレストンができたことは出発を2日だけ延ばすというそれだけのことだった。
レッドロケット・トラックストップは午前3時。当然だが太陽はなく、空に広がるのは夜のそれである。
それでも闇の中で横一列に並ぶ5人の新しいミニッツメンの前にプレストンは立ち。数時間後に起こるであろう最初の戦闘を前に武者震いを堪えていた。
「寝ぼけているなら、シャッキリさせろ。この空に太陽が昇るころ、俺たちは始めての戦闘を開始する」
レオとアキラをとめることができない、そう判断したプレストンはミニッツメンの予定のほうを前倒しにすることにした。
コンコードの威力偵察。
レオもプレストンも、すでにそこにレイダーたちが集まってきていると確信を持っている。ここを空にさせているだけで、レッドロケット・トラックストップとサンクチュアリに迫る危険は大きく下がるだろうと考えられ。
そしてそれはこれからのミニッツメンの役目であった。
サンクチュアリに渡る橋の方角から闇の中を移動する集団の気配を感じる。
Vault111の2人を中心に、彼らの仲間がその周りに続いて歩いてくる。
(変わったのは俺だけじゃないんだよな)
レオは片側の腕のアーマーをヘビーレザーアーマーにし、他はスターディレザーアーマーで統一した。黒のサングラスがより威圧感を増し、離れて見れば立派な傭兵という出で立ちだ。
アキラは逆に、ボディと足にメタルアーマーを装着しているが、そこに新たにレザーベルトが腰や脚に巻きつくように加わっているが。これはどうやら彼自身が複数のピストルを使うためのホルスターを釣るためではないか?
さらにスカベンジャーがよく来ている緑のコートを上に羽織っていて、体のラインがふっくらして見える。
どちらも親子のように背中にライフルを背負い、肩には新しいショルダーバッグをさげていた。
「将軍、ミニッツメンは準備万端だ」
声をかけると、あの力強い声が返ってくる。
「プレストン、コンコードへ進軍だ」
了解した、小さく返事をつぶやいてからプレストンは自分の率いる列へと戻っていく。
太陽が昇るコンコードの中で、あの日のように悲鳴と銃撃戦が続いていた。
だがあの時とは立場が違う。
押し続けるミニッツメンに逆らえず、レイダーたちはゆっくりと教会の中へと撤退していく。
(悪夢だな。まるで逆になっている!)
プレストンにはそうだったが、結末だけは以前とは違った。
突如現れるデスクローはいないし、教会の屋上で見つけたパワーアーマーもミニガンも彼らには与えられることはない。
「プレストン!ここから屋上の敵を排除しろ、後は私に続け。一気に叩き潰すぞ!」
「エイダ、先頭へ。後ろにつく、マクレディはプレストンと残れ!」
2人のVaultスーツが教会の中へミニッツメンと共に入っていくと、ならんで屋上を見上げて撃ち続けるプレストンとマクレディは声を掛け合った。
「プレストン!あんたと組むと、いつもこんな役目ばっかりだな」
「マクレディ!口を動かさず、ちゃんと狙って撃たないと恥をかくぞ」
しばらくはお互い口を閉じて沈黙が流れるが、最後の一人が力尽きて屋上から地面へと落下すると、マクレディは弾丸を輩出しながら得意げに言った。
「俺は3人。だが、あんたは2人だ。誰が当たらないって?」
「今日はあんたの勝ちだ。だが、アキラも言っていただろう?彼は覚えていたに違いない。工場では俺が3人多く撃っていた。だから、これでおあいこだ」
マクレディは何も言い返せなかった。
恥じるつもりはなかったが、あの時は自分とプレストンが何人撃ったかなんて数えていなかった。それを今、思い出していた。
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コンコードでミニッツメンたちと別れると、一団は南へ進路をとるとダイアモンドシティを目指した。
その夜、焚き火を囲んで休んだ彼らは。見張りにと最初におきるレオとアキラが無言で向かい合っていた。
これまではどんな騒ぎに巻き込まれたのか、それなりに互いに話しあっていた2人ではあったが。
今日のこの2人の口は重く、そうするだけの理由が存在していた。
「コンコードの……レイダーにしたことだ、アキラ。私は……あれにどうしても納得できない」
「……ええ」
教会の中を駆け上り、ついには屋上手前で動けなくなった数人のレイダーはついに武器を捨ててその場に座り込み、投降する意思を見せた。
武器を構えたミニッツメンは指示を求めてレオを見、レオはどのように指示を出すかを考え――その一瞬の空白にアキラは冷酷な命令を勝手に発した。
「エイダ、攻撃続行」
「了解」
新たに取り付けられた左右のレールガンとレーザーが、動けぬレイダーの頭部を次々と破壊していく。
自分の敵がすべて死体となるのを確認すると、レオたちの前から無言でアキラは背を向けた――。
「あれについては――ちゃんと話したい、アキラ」
「……わかりました、レオさん」
年上の男見上げる青年の目は、いつになく凶悪な表情となって炎のゆらめきのなかにあった。
「どうすればよかったんです?レイダーを、投降したあいつらを、どうしろと?」
「……わからない。そうだな、私たちはそれについては考えていなかった。彼らを追い詰めて、投降してきたときはどうするのか。それをちゃんと決めてはいなかった」
「そうなんですか?それは違うでしょう」
自然、アキラの声は暗く、低く、陰鬱なものへとなっていく。
「やつらは誰かを襲い、奪い、好きにする。それが楽だからやるのであって、苦しい思いをするぐらいなら死んでもいいと考えているから、平然とやれるんだ」
「それは違うと思う。誰かを傷つけて、平然としていられる人間はいない。傷つけ、殺せばそれは自分にも影響を残す。私の軍隊時代の仲間の多くは死んだが、生きて帰っても無傷ではいられなかった」
「そうかもしれません。でも、だからなんですか?
あのレイダーを許せって?サンクチュアリに来ないなら、好きにしろって解放するんですか?やつらが約束を守るとでも?」
「いや、そうは――」
「あいつらが改心すると?もうレイダーにはならないって、言葉を、それをこっちは信じてやるんですか?」
「アキラ――」
「今がレイダーなら、未来もきっとそいつはレイダーです。中には生き続ければ違う奴もいるかもしれない、それは僕も認めます。
でも、それがなんです?僕らはもう人殺しです。これは消せないし、この先の未来でもさらに多くの人間を殺すんです。レオさんだって、それは否定できないでしょ?」
難しく、そしてお互いにとって危険な会話になろうとしていた。
そして相変わらず頭のいい若者である。
レオの問いかけに、あえてその中にあった本質にだけ答えてきた。オブラートに包んで、誤魔化すように、小賢しく上から接しようとしたこちらに冷や水をかけてきた。
だが、レオもこのまま彼に言いくるめられるわけにはいかなかった。
「君の言葉を否定はできない、確かにそうだ。
私は息子を探しているが、同時に息子をさらった奴等への復讐を、報復をしたいと常々考えていた。この思いが揺らぐことはない。
私は理由もわからないまま奪われ、放り出され、置き去りにされた。
苦しいし、悲しいし、そこで無力でしかなかった自分を今だって心のどこかでは呪い続けている。
それでも、私はそれだけではいけないと考えるんだよ。
今はこの手にないが。願いがかなえばショーンが、息子が私の元に帰ってくる。完璧なものではないが、わずかにでも希望は確かに取り戻すことができるんだ。
その時、私は息子に笑って伝えるものを残しておきたいと思ってる。輝くそれを、消してしまうような結果には絶対にしたくないと思っている。
軍隊に入ったときにも言われたよ。優しさといったものは――ただの弱さだと。
そのときは強くなりたくて、ひたすら学び続け。求められる結果を出し続け、私はこれでも当時はたいした殺人機械になったと評価されていたんだよ」
寂しさを抱きしめてようやく口にできる言葉であったが、アキラは逆にこれに飛びついてきた。
「なんとなくですが、言っていることは理解はできます。
でも、それならやっぱりおかしいでしょう?強いままでいいじゃないですか。弱さを抱え込む必要なんて、ないじゃないですか」
これが若さ、ということなんだろうか。
合理的に考えれば、人は結局自分の利益を重視する。そのためには強くなければならないし、勝てなければ利益は十分に手元に入ってくることはない。
人のどんな感情も、一時の幻覚のようなもので、はっきりとした利益に物事は大きく動き続けるだけなのだと信じられる。
だが、それは違う。
勝ち方にもいろいろあるのだ。利益が薄くとも、別のものを手にすることで十分に価値がある事だってできるのだ。なにもどこまでも剛力に頼って、それが衰える日がくるのを恐れる必要はないのだ。
「君も、君自身の望む何かのために旅をしている、それはわかっている。そこで君が学んだことを、私は全てを否定したくはない。本当だ、本当にそう思っている。
でも、それなら考えてみてほしい。
それが私とは違う答えというなら、それでもかまわない。だが、君が願いをかなえたその後でも君は君でいられるという自信があるかい?
あの、私と共にVault111からこの世界へ。何もかもが違う、何もかもそのままで残ったものはない世界で、そのときの君はまだそこにいると答えられるだろうか?
君は私と違って賢い人だ。もっとよい答えを、私とは違う答えを出してくれると期待している。
私はその時は、君の友人として。それを支持するよ、それは約束する」
2人はそれで黙ってしまった。交代の時間まで、ずっとそのままだった。
だが、悪い気持ちはない。穏やかで、そしてなにか良いことがそこであったと両者は考えていた――。
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私の予定は、いつもとっぴなことで変更される。もう、そういうものだと考えないといけないのかもしれない。
ボストンに入り、ダイアモンドシティまであとわずかというその時。私達はそこで商人のキャラバンにであった。
「うわっ、うわっ、うわっ、うわっっ!」
向こうはこちらを見ると黄色い声を上げ、凄い勢いでにじり寄ってきた。
同時にアキラが顔を歪めた。
「あんただ、あんたじゃないか!こんなところで出会えるなんて、ねェッ」
「ああ、そうだね……クリケット。久しぶり」
「本当にそうだよっ。どれだけ待った?半年?一年?」
「そんなわけない!――せいぜい、半月もないよ」
エイダは無言であったが、マクレディはすでに笑っている。私も興味があったので、コズワースに出て行かないよう合図を送った。
その間も2人の会話は進む。
「あの日の愛の木を2人で植えたこと、今もしっかり忘れてないよ!」
「いやいや、あの日って。そんな前じゃないし――だいたい愛ってなんだよ。木なんか植えたこともないぞ、クリケット!」
「なんで?もう忘れちゃった!?」
「だから植えてない。君とそのー―愛とかなんとかいう木は、植えた覚えはない!」
「もちろんそうだよ!その木にはあんたの名前をつけて、あんたのキャップで買った銃で派手に吹き飛ばしてあげるんだ!」
「はぁ……」
そろそろ聞いてもいいかもしれない。
「知り合いのようだ、アキラ」
「ええ、クリケットです。彼女は旅の――」
「ミニ・ニュークの可愛いボウヤによだれを垂らすマニアはいつ戻ってくるの?」
「死の商人ですよ!バンカーヒルで商品の説明を求めたら、なんか変に気に入られちゃって」
「私とつき合えるよって。漢の”つく”って、いろいろやり方があるだろ?」
「買い求めただけです、武器を!とにかく、まぁ、品は確かに良い物ではありました」
「合格。本当に合格!」
面白いキャラバンの人だった。
その彼女の口から飛び出したのが、あのVault81だったことが。私に余計な気を起こさせてしまった。
私がアキラにダイアモンドシティを見せたいと思ったのは、かつての姿を知る私と同じような反応を彼も見せるだろうか。その考えから来たものであった。
だが、ここで私は思い出した。彼が知る、あの凍った棺の並ぶ不吉なVaultとは違う。200年を必死に生き延びた、驚くほど健全なVaultの姿を、彼は知らないのだということを。危険とは言われながらも、ここまで特に戦闘に巻き込まれなかったことで気持ちが緩んでいた。
私は提案し、1日を彼のためにVault81を訪問するために作ろうと考えた。
以前のように、閉じられたVaultにピップボーイを使うと中から「ああ、あんたか」というセキュリティのうんざりする声がして、扉が動き出す。
驚いた様子のアキラとその一行の姿に、私は満足を覚えていた。
「どうだい、君にとって興味深いんじゃないか?」
「これが、200年。本当に、あるんですね……」
以前に訪れた際には、少年に中を案内された経験があった私は、今度は彼になりきってアキラを地下へと奥深くに導いていった。
そういえばあの少年と、また会えるだろうか?
理髪店でアキラとマクレディに髪を切ったほうが良いと理髪師のホレーシオと協力して言いくるめていた時だった。ロビーが騒がしくなり、セキュリティを引き連れた監督官が部屋の前を通り過ぎるのを見かけた。
なにかあったのだろうか?私は気になり、思わずその後を追っていた。
監督官が入っていったのは、入り口に人が集まっていた診療所だった。
そういえば今はこのVaultのメンテナンス計画があると聞いている。その事故か何かで、誰かが運び込まれてしまったのだろうか?
「誰が運ばれたんです?」
「ボビーさ。彼がオースティンを運んできたんだって。どうやら、モールラッドに噛まれてなにか病気になってしまったらしい」
「オースティン?」
「ドクターは症状が特定できないって、感染の危険があるって。監督官はどうするんだろうな」
オースティンという少年のことは知っている。初めてここを訪れたとき、私からキャップを巻き上げ。このVaultをガイドをしてくれた少年だ。どうやらその彼が、危険な状態にあるらしい。
思わず私はアキラの姿を求め、回れ右をしていた――。
セキュリティと話をつけ、アキラを連れて私が医務室に入ると、そこでは大人たちが互いに怒鳴り声を上げていた。アキラはさすがで、その中を平然と横切ってカルテに手を伸ばし、勝手に読み始めた。
「何だね、君は!?」
「彼は私の連れです、オースティンがどうかしたんですか?」
「ああ、あなた――」
話は簡単だった。
どうやらVaultに秘密の扉があるのを発見し、そこをこっそり探検しようとでもしたようだ。ところがそこはモールラッドの巣になっていたらしい。
問題はそのエリアについて書かれていた情報がそこにあったターミナルの中にあり。そのエリアではウイルスの増殖と治療法の開発が行われていたと書いてあったらしい。
「アキラ、どう思う?」
「そうですね、俺は医者じゃないですけど。あの少年の症状は確かに変です。徐々に弱ってはいますが、それにしてはあまりに多くの症状が出ています。すぐに死なないことのほうが不思議なくらいです」
「あなた!なんてことを!!」
「でもそこでウイルスが作られたということは、当然平行して治療法も開発していたはず。そこの少年が助かるには多分ですが――」
「わかった。私が行こう」
「――俺も行きます。役に立ちますよ」
彼は笑ってそういってくれた。
頼もしい友人がいれば、私たちにできないことはない――。
==========
だがこの瞬間にも私の仲間が――私の家族に、忍び寄る死の影があるのを私はまたしても気がつくことができなかった。
レオとアキラが医務室にいった後も、ホレーショの理髪室の中は大騒ぎになっていた。マクレディの新しい髪型を理髪師のホレーショとロボットたちでワイワイとにぎやかにして決めかねていたのだ。
それが甲高いVault居住者の女性の悲鳴が店の外で上がっても、その声を彼らは誰一人として聞いていなかった。
だが続く鉛の弾が店の外壁に穴を穿ち、窓ガラスを破って鏡台の鏡に叩き込まれるとさすがに気がついた。
振り向くとそこは異常事態となっていた。
大きくスペースをとっている食堂でくつろいでいた人々は、悲鳴を上げて机の下や床に伏せている中。通路から勢いよく飛び出してきたなにかが、喚き、銃口から火を噴かせ、恐怖を振りまいていた。
「我が軍に降伏なし!貴様らなんぞいなくなった方が世の為だ。今すぐ抹殺してやる」
マクレディは慌てて椅子から転がり落ちると床に伏せる。ライフルを探すが、理髪室の中にロボットたちがひしめいていて、どこにあるのかすぐにはわからない。
「俺のライフル!どこだよっ」
エイダは恐怖で腰を抜かしてしまい、動けなくなっているホレーショを部屋の奥に押しやりながら声を上げる。
「いけません!なんでここにあれが」
「あれは――私と同じ、Mr.ハンディー?」
「違います、コズワース。あれは戦闘用のMr.ガッツィーです。さらに独自の改造も施されています!」
「あれが!?」
コズワースが驚くのも無理はなかった。
デザインにある海洋生物のタコを思わせるフォルムは確かに残っているが、頭部は球体ではなくサイコロを思わせる正方体となっており。そこから伸びる目もゴツゴツしていて、動いてなければ角ではないかと勘違いするようなそれであった。
「通常、Mr.ガッツィーにはミニガンとレーザーが搭載され十分な攻撃力をもっています。改造されているとなるとそれ以上かも、今の私であの攻撃に耐えられるかどうか」
「もうなんか暴れてるぞ。攻撃されてる、俺のライフルはどうした!?」
「あれは威圧しているだけです。本格的な攻撃が始まれば、たちまちここの人々は皆殺しにされてしまいます」
皮肉にもセキュリティがこのとき、この場にひとりもいなかった。
それが幸運なことに誰もこの狂ったロボットに近づけず、なにもできないのでロボットは攻撃に踏み切れずにわめいているだけだった。
コズワースは部屋の中から外を見ていて、3つある目のひとつが上階のつり橋を横切る影を捉えた。猫を抱えた少女が、そこを横切って奥の部屋から手招きする母親の元へと逃げようとしていた。少なくとも彼にはそう見えた。
Mr.ガッツィーもまた3つある目のひとつが横切る影を捉えていた。
愛玩動物を抱えた子ウサギが、無謀にも横切ってここから逃げ去ろうとしていると彼は考えた。
コズワースの記憶回路の奥底から浮かぶのは、逃げ惑う人々の群れの中へと走り去っていく愛するレオと彼の家族の姿が消えるのを見送る自分の姿だ。
「逃げれると本気で思ったのか?絶好の戦死日和だな」
「いけません!!」
コズワースはたまらず部屋から飛び出すと振り上げた己の自慢の回転ノコギリを勇ましく振り下ろす。
「これをくらいなさいっ!やっつけてやりますよ」
「ハッハハハァ、やるじゃないか、人間愛好者め、これがアメリカのメッセージだ!」
ミニガンを撃たせまいと、コズワースは必死で自分のマニュピレーターのひとつを回転するそこに突っ込んだ。
火花が散ってマニュピレーターはすり潰されてしまったが。おかげでそれが引っかかってしまい、銃身の回転がはじまらず、ミニガンをうまく発射できない。
「コズワース!?」
「クソ、クソッ、どこだ。ここだ、あった!俺のライフル」
ようやく探していたものを見つけ、慌てて前進するもののフロアの外を見て、絶句し、動きを止めた。
同タイプのロボットが激しく絡み合い、宙を激しく上下しながらクルクルと独楽のようにして踊っている。
「コズワース、離れてください。これでは攻撃ができません!」
エイダが声を上げるが、コズワースにそんな余裕はすでになかった。それどころか相手のほうが武装だけではなく、力も浮力さえも強く、押され気味だった。
「どうしたロクデナシ、国のために死なせてやるんだ。最高だろう!」
「こんなものではありませんよ、こんなものでは――」
危険なワルツは激しさを増すが、コズワースは必死に抵抗し、回転ノコギリはついに相手のレーザーが装着されたマニュピレーターを半分まで切断した。
「いったい何の騒ぎなの!?」
監督官がセキュリティの後ろから、フロアに姿をあらわすと声を上げ、それにレオとアキラが続く。
(ご主人様!?)
回転する中でコズワースの目は驚いた表情のレオの顔を見た。
運がついに尽きたのもこの瞬間であった。千切られたマニュピレーターの残骸がミニガンからポロリと床に落ちると、即座に回転が始まり、弾丸がVaultの壁に新しい穴を穿ち。この反動が、2台の出力の差を決定的にした。
コズワースとMr.ガッツィーの体がついに離れて見合った瞬間、空間を切り裂く光がコズワースの体を引き裂いた。
「あっ」
忠実なロボットの最後の言葉がそれだった。
床の上に3本のマニュピレーターが落ち、宙に浮かぶために必要な推進装置がバラバラになった。見事な球体の本体はボールのように床で跳ね、転がると目のひとつがグシャリと粉々になって飛び散る。
「悲鳴がないぞ、ウジ虫め!」
勝ち鬨ををあげるMr.ガッツィーであったが。そんな彼に次に起こったのは強烈な仲間からの報復であった。
狂った戦闘ロボットがレオと仲間たちの手で八つ裂きが始まると、アキラはそれには加わらずに火を噴く鉄のボールになってしまったコズワースに飛びついた。
「コズワース!俺を見ろ、レオさんでもいい!話せるなら何か言え、話し続けるんだ」
インスティチュートのレーザーピストルを取り出し、その銃尻でコズワースの中身を隠す外装をたたいて弾き飛ばし、中からあふれ出す銅線のたばを取り出したピックマンのナイフでまとめて切り裂いた。
「わた、しは、コズワ、ァース。ミスター、ハンディタイプ、の、ロボット、です」
「持ち主だ!お前の持ち主の名前!」
「旦那様、レオ様です。ご家族は、お優しく、美しい奥様と、ショーン、坊ちゃん……」
「名前だよ!正式な名前!忘れたか、自分の持ち主の名前!」
「フランク。フランク、ジョナサン、パター、ソン――」
パチパチと火花がちり、中から銅線の上を火がチロチロと見せ始めた。
「早い!まだ早いって、コズワース!?」
指が火傷をするのをかまわず、アキラは箱状の装置を無理やり引っ張り出し。そこに開いた穴にナイフを突っ込み、今度は乱暴にかき回すと、床の上に投げ出しつつ再び指を突っ込んで基盤を一枚、こちらも強引に引っ張り出してきた。
「アキラ、コズワースは?」
「……見てのとおりです」
アキラはぐったりして腰を落とし。
少し前までコズワースだったそれは、ついに体の中から広がってきた火で包まれると。慌てたセキュリティの手によって消化剤が吹きかけられはじめた。
「破壊されました。出来ることはしました、残念です」