ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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すまねぇ、決着はつかなかったよ。
次回の投稿は31日を予定。


勝利の美酒、酔えず

 レキシントンのジャレドが死んだ。

 最後のミニッツメン、プレストンが仲間を引き連れ。会心の一撃で、それをやってみせた。

 

 

 この知らせは驚きと共にあっというまに連邦の隅々まで広がっていく。

 それは同時にクインシーの事件で無様にも壊滅したとばかり思っていた組織が、再建の道を歩みだしたのだと知らせる希望にもなったはずだ。

 

 ロブコ工場攻略のつもりが、ふたを開けてみるとレキシントンの半分をひっくり返した上で、さらにもう何度か叩き付ける羽目になったのは誤算であったが。とにかく作戦は大成功に終わったのだ。

 

 そんな危険な攻撃部隊はすでにレキシントンを離れ。

 レオはプレストンとマクレディをつれて断崖の上の居留地へと向かい。アキラは残りとサンクチュアリ側のレッドロケット・トラックストップへと戻ってきていた。

 レオたちがあの居留地で歓迎され、ここに戻ってくる前に準備しておくことが沢山あった。戦いに疲れた体を癒す暇はない――。

 

 

 レキシントンからはロボットとアキラでもてるだけの大量のゴミを抱えて持ち帰ることができた。おかげで空になりかけていたサンクチュアリとガレージのワークショップには、再び大量のそれがすでに放り込まれている。

 アキラはこれを使い、さらに多くのことを実現させないといけない立場にあった。

 

 ガレージにパワーアーマーを置いたアキラは、汗を流そうとバスタブに水をためると発電機で熱をおくりこんでお湯にすると、裸になってそこに飛び込んだ。

 血、油、死臭。そういったものが多少はこれで洗い流せるといいが。

 その傍らにはエイダがしっかりとはりついて見張りつつ、不思議そうに疑問を口にした。

 

「あの子、私たちが戻ったときは喜んでくれたのに。何で今は、近づこうとしないのでしょう?」

「ん?」「カールです、小屋に入ってしまって。まるで私たちがいないように、沈んでいます」

「ああ――そのことか」

 

 レオさんの犬、カールは今回の攻撃には参加せずここで一匹、留守番をさせていた。

 戻ってきたのがロボットたちとアキラでも、それなりに喜んではいてくれたようだが。アキラがバスタブに水をざぶざぶ入れ始めると、途端に背中を向けていぬ小屋の中へと入っていってしまったことをエイダはいっているのである。

 

「犬は綺麗好きだけど、こうやって水で汚れを落とすとは考えてないんだよ。砂場や泥を体にこすり付けるだけで、それがかなうからね」

「知りませんでした。あなたは犬のこともよくわかっているのですね」

「僕は、僕は――犬は、飼ったことは、ない。知ってるだけさ」

 

 どもりはじめると自然。濡れた髪に触れ、自分の心臓がいつの間にか恐怖から早鐘を打っていることに気がつくことができた。自分は今、何を口にしてしまったんだ?

 

「駄目だ、集中しないと……エイダ、コズワースがサンクチュアリから戻ったらさっそく計画を話す」

「わかりました」

 

 ため息をついた。自分のことは何もわからないのに、なんでまだ他人の面倒を見ているんだろう?

 そんな焦りのようなものを感じるが、だからといって答えがどこにあるのかなんてわからない。そもそも手がかり自体が、まったくといっていいほどないのだから。

 

(息子さんを探すレオさんと僕。やってることは違うのに、まだお互い大して前に踏み出していないのかもね)

 

 バスタブの中の水に頭の先まで沈める。エイダはロボットだが、見られたくはなかった。

 この顔に浮かぶ、口の中の苦味をかみ締め。そんな自分を嗤った、泣き笑いの混ざったその顔を。

 

 

============

 

 

 犬小屋のそばに椅子を引きずってきて座るアキラは、目の前に並ぶロボットたちに説明する。

 

「ミニッツメンの再建、この計画はようやく本当の意味でここから始まる。

 この瞬間から、このガレージはミニッツメンの活動拠点とする。遠からず兵士たちがここで寝泊りし、ここから任務地へと出撃する。そういう場所に、僕たちで作り変えなくてはならない」

「なるほど」「了解です」

「だが、やるべきことはあまりにも多すぎる。いくら僕や、お前たちが頑張っても物理的にそれがすぐに用意できるわけじゃないし。そもそも、持ち帰ったガラクタだけではそれはまったく足りない。

 そこで、大きく3つの柱を目標に。可能な限り計画を進めていきたいと思う」

「わかりました。どのようになるでしょうか?」

 

 アキラが最初にあげのたが『手』を増やす、ということだった。

 これからここは次々と人が入ってくる。彼らの手で、ここは大きく変わっていく。

 その前に――。

 

「わかりました。ロボット作業台のことですね」

「そうだ、エイダ。

 エイダの元いたキャラバンから回収し、あれ(作業台)を作り上げ、ここしばらくはずっと学んでいた。ガラクタが補充され、邪魔する奴がいない今こそ好機!」

「――アキラ、お言葉ですが旦那様はあなた様を邪魔したりはしませんよ」

「誰とは言ってない。言うつもりもない。だが、チャンスは逃さないよ」

 

 別にエゴだけで言っているわけではない。どのみちエイダのために、ロボットの知識は手に入れなければならないし。この場所の完成にはロボットの力は必ず役に立つ。皆喜ぶ、間違いない。

 

「新しいロボットですか――わかりました。それで、その後は?」

「命令を実行し、状況を判断し、正しい行動が取れるか。それをコズワースと一緒に作業をさせて、学ばせながら監督してもらうつもりだ」

「私がですか?」

「そう。だって君はすでに200年以上を稼動し、それでも動く万能型ロボットのベテランだろ。新しいロボットが手本にするならエイダより、君だ。違う?」

「ハハハッ、仰るとおり。まったくですね」

 

 まぁ、実際は最初に作るのは汎用人型ロボットのプロテクトロンなので似たタイプにまかせるというだけのことだったが。あえてそういうことにして、押し付ける。

 

「ひとつ疑問があります。私の改造については、どのようにお考えですか?」

「えっ!?あなた、自分の体をまだ改造するのですか?」

「もちろんです、コズワース。私は戦闘用ロボット、しかし以前の仲間は守りきることができませんでした。私にはもっと力が必要なのです」

「――残念だけど、時間とリソースの問題から後に回す。そもそも作業台を正しく使えると確信がないと、君の体に触れられないし。調整などにかけられる時間もない。後回しにするしかない」

「そうでしたね。わかりました、我慢します」

 

 エイダは素直に従う姿勢を見せた。

 

「それで、私たちでここに人の住まう家を建てるのですか?」

「いや、そうじゃない。それが2つめだね。

 建物は建てるけど、人の寝泊りする場所じゃない。それはここに来る奴等が自分たちでやってもらう。彼らが自分で使うものだからね、僕らは違うものを作る」

「それはなんでしょう?」

「サンクチュアリに、僕の計画のために更地にした場所と資材が残っている。そこに別のものを建設する。これはコズワースに任せるつもりだ。

 エイダはここ、レッドロケット・トラックストップに地下室を作ってもらいたい」

「地下、ですか?」

「エイダ、君が見つけたんだ。ここに帰ってきたとき、ここの真下につながっている穴があるって」

「ええ、はい。確かにそういいました。この下にはモールラッドの巣があります。レオの話によれば、最初にここに訪れた際にもモールラッドの群れに襲われたそうです。納得できました」

 

 残念ながらアキラには納得できないことだった。

 巣はここの真下にまで広がっている。つまり、その穴の存在が誰かに知られれば。このガレージは地下から吹き飛ばされてしまう可能性があるということだ。この穴を放置しておくわけにはいかない。

 アキラは両手を広げて周囲を示す。

 

「ここを見てくれ。北には川、南には下り坂。よほどの大軍でなければ、襲撃は東西から押し寄せてくるのが鉄板になる。可能性として北にも注意が必要だけど」

「北にも?しかし、ここの北にはサンクチュアリしかありませんよ。アキラ」

「そのサンクチュアリの防衛能力は、必要最低限でしかない。可能性は無視できないよ」

「アキラが助けてあげれば、きっと彼らは安心できますよ?」

「――考えておく。とにかく君たちの仕事はもう決まっている」

「わかりました。そうなると、最後のひとつが気になります」

「確かに。ほかに何があるのです?」

 

 両手を下ろすと、今度は極端に静かになるアキラはボソリとつぶやいた。

 

交渉(ネゴシエーション)ってやつかな。それはレオさんたちが戻ってからになる――」

 

 

 

 ロボット作業台の横ではエイダが立って待っている。そこにアキラが近づきながら、声をかける。

 

「よし、エイダ。準備はどうなってる?」

「大丈夫です。あなたがこれからする事に、胸が高鳴るのを感じます。おかしな表現ですが」

「いや、わかるよ。僕もそうだ、楽しみでしょうがないよ」

 

 そう口にしながらアキラは手を伸ばすと、作業台のターミナルをたたいて起動させた。

 

「あなたにとってはじめての作業となりますので、段階を踏んで進めましょう」

「いいね」

「まずは骨組みから。起動させ、次に服を着させるようにして装甲をとりつけます」

「2段階、わかった」

「ロボットの武器はどうしますか?プログラムの都合で必ずもたせなくてはならないのですが?」

「両手はレーザーにする。エイダと出会ったとき、キャラバンを襲っていたロボットの中にもそんな――あっ」

 

 考えもなく馬鹿なことを口にしていたことに気がついた。

 

「どうしましたか?」

「その、悪かった。エイダ、気を悪くした?つまらないことを口にした」

「そのことなら大丈夫ですよ。それに確かに、あそこにはレーザーを使うプロテクトロンはいました」

「フゥー。ごめんよ、もうやらないようにする。許してくれ」

「本当に気にしていませんから。さぁ、それよりも作業を始めましょう」

 

 それからの3時間、多少はもたつくこともあったけれど。特に失敗もすることなく、予定通りに新しいロボットが完成した。

 TH-33、プロテクトロン。

 アキラがはじめて作った、最初のロボットである。

 

「おめでとうございます。大きなミスをすることなく完成させました。お見事です」

「優秀なアシスタントのおかげで、失敗して余計に部品を使わなくてすんだよ。それで満足だ」

「それでは、TH-33をさっそく稼動させて見ましょう」

「いや、待った!悪いけど、TとかRとかCとか、自分のロボットをナンバーで呼びたくないんだ」

「――名前をつけるのですか?」

「ああ」

 

 アキラは嬉しそうに、ターミナルをたたくと。画面にある、個人名称が別のものへと書き換えられていった。

 

――マーヴィン。

 

 それがアキラがつけた、彼のプロテクトロンの名前だった。

 

「マーヴィン、起動しろ。まずは挨拶からだ、おはよう」

 

――ピー、ピー、ガッガガッ

 

「――あの、これを音声に選んだのですか?驚きました」

「個性的だと思ったんだけど……まぁ、思ったとおりだ。可愛いよな、何言ってるのかさっぱりわからないけど」

 

――ピー、ピー

 

「いや、大丈夫だよ。きっとね、そうだろ?

 心で会話できるさ。こっちは命令出すし、それにしたがってもらえば問題ないし。そうだろ?」

 

――ガッガッガッ

 

「不安です」

「大丈夫、大丈夫だって――すぐに上にかぶせて、あとはコズワースにまかせよう」

「わかりました」

 

 エイダが必要な資材をとりに行っている間。

 アキラは自分に何かを必死に訴えてくるマーヴィンをまえにして、頭をかいていた。

 

(大丈夫、これはきっと喜んでいるんだと思う「生まれてきて大変光栄です」とかなんとか、そんな感じのことを――きっと)

 

 それが正しいという根拠は、ない。

 

 

=================

 

 

 断崖の上の居留地へむかったレオの一行からレイダーの殲滅の知らせを聞くと、住民は大いに喜んだ。

 レキシントンにはまだジャレドが流した噂のせいで集まってきているレイダーがいて、そのうち空席となったそこにまた座るやつも出てくるかもしれないが。当面の間は、それを心配しなくていい。

 

 その日、それまで沈んでいた居留地はお祭り騒ぎとなり。

 秘蔵の密造酒などを取り出し、生まれ変わったミニッツメンを祝福しながら、この先の平和な日々を思って乾杯した。

 

 その夜、レオは眠れずに寝床から離れると。

 あの日の夕焼けの中、断崖の上から見下ろした連邦の夜のそれを見た。

 レキシントンの一部から明かりが見え、ここからでも確認できるロブコ工場を照らす人口の光が、まだ今でもあの大きな建物をはっきりと浮かび上がらせている。

 

「――あれほどあんたたちと一緒に滅茶苦茶にしてやったのにな。ここからまだこんなにもはっきりと見える」

「プレストンか」

「レオ、眠れないようだな。どうかしたのか?」

「別に……本当に確かにそのとおりだな」

 

 あの時あの場所にいたレイダーは一人も生かしてはおかなかったが、あそこにあったシステムはほとんどそのままにしてきていた。あの場所はもう、レイダーたちにはちょっとした城として認識されているだろう。そこに入り込んで、再びシステムを再稼動させる奴がまた出てくるはずだ。

 

「中途半端な仕事をしたと、思っているのか?」

「わからないよ、プレストン。どの道こちらもあそこには長くいられなかった。すべてを破壊しつくすような時間も武器も、足りなかった」

 

 思いつくだけでヌカ・ランチャーと。その弾頭が5.6発あれば余裕だっただろうが。

 レイダー以外にもフェラルや人造人間もいた。

 やはりあの場所にとどまっていても、どうにもならない気がしていた。

 

「ミニッツメンとして勝利した後でも、今のあんたのような感情を抱くときが俺にもあったよ。もっと、もっと、あいつらがいた場所を徹底的に叩いておくべきではなかったのかってな」

「そうか。意外だな」

「当時の上官だった大佐にはそれで怒鳴られた。任務で果たした以上のことをなぜ望むのか、と。

 長いことあの言葉には納得できなかったが、今ならわかるよ。限られた武器と兵力で、完璧なものを求めてはいけない。そのために犠牲を大きくしてはならない」

「確かに。だが、それだとやはり私達は失敗したな。だってそうだろ――」

 

 あの時の問題は工場内の掃討戦の中で起きた。

 マクレディが工場の地下へと続く通路を発見し、そこに続く大型のパイプ管を覗き込んだのがすべての間違いの始まりだった。

 純粋な好奇心だけではない、「どこに続いている?」その問いをそのままに実行してしまったのだ。

 

 上へ下へ、奥に奥にと続くそこには。

 たびたび暗闇の中で横になるフェラル・グールたちと遭遇したが。パイプ管が終わって、飛び降りたそこはちょっとした軍の秘密施設があった。

 答えはアキラがハッキングしたターミナルの中と、そこに徘徊していた人造人間たちでわかった。

 

「ここ、レールロードの旧アジトだった場所だ!」

 

 一晩でわれわれはレキシントンのレイダーと人造人間たちの施設を襲撃していた。

 誰も死ぬことなく、それどころかたいした怪我もなくこうして戻ってこれたことは、まさに奇跡だったと考えてもなんらおかしいことはない。

 

「まいったよな、ドーナツ屋の下に軍の施設だぞ?誰がそんなこと、わかるっていうんだ?」

「ああ、まったくだ」

 

 低い声で互いに苦笑する。

 今は笑っていられるが。パワーアーマーがなければ、こんな風に笑って振り返ることはできなかったであろう。

 

「マクレディはアキラが接触したレールロードのことはよく知らないと言っていた。あんたはそれを信じるか?」

「プレストン、マクレディは傭兵だ。知っていても雇い主にとって利益にならないと考えれば、話さないよ」

「どういう意味だ?」

「あんたが固いから、文句を言うと思われたのさ」

「そういうことか――」

 

 ディーコンと名乗ったその男とアキラは、挨拶を交わすとすぐに別れた。「またすぐに会える」、そう言っていたからなにかあるのかもしれない。

 

「ここの居住地の皆には喜んでもらえた。ミニッツメンとして、こんな日を迎えられるのはもっと遠い未来かと覚悟していたが――皆には感謝している」

「すべてはこれからさ、プレストン。あんたはいい奴だ、あんたを頼って新しいミニッツメンに加わりたいという若者が集まってくる。あんたが彼らを導いてやらないといけない」

「俺の手で、か」

「そうさ。あんたは最後のミニッツメンなんだ、きっとやれるさ」

 

 2人はそういうと自然に黙ってしまう。

 サンクチュアリに戻れば、いよいよミニッツメン再建は本格化される。それは同時に別れをも意味していた。

 レオは、アキラは。互いに連邦に対して持っている疑問がある。

 その解決のために、再び旅に出る日がくる。そしてそうなれば――。

 

(コンコードからの続く流れに、これで一段落つけた。これから先は自分の事 ―― ショーンのことだけを集中できる)

 

 プレストンから受け取った密造酒のビンに口をつけ、まだ夜の連邦を眺め続けるレオの横顔をプレストンは横目で盗み見ていた。




【新たな技能を取得しました】
・Robotics Expert
ロボットの知識と運用法を習得。また、稼働中のロボットをハッキングしてプログラムを強制的に変更させることができる――ピップボーイを所持している時のみ。



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