ミニッツメンを復活させる。
アキラも一緒にその方法を考えてくれ。
レオさんは意外なことを口にしたが、よくよく考えてみればそれは悪いことではないと思った。
プレストン自身も失われた組織の再建にはやる気があるようで。ミニッツメンの精神に同意してくれる兵士を集い。徐々に訓練しながら居住地を回り。確実に結果を積み重ねていくことが重要だ、とか言っていたらしい。
まったく、くだらないことだ。
もし本気だというならば信頼を失った武装組織の復活方法はひとつだけ。
――レキシントンにそびえ立つ、巨大なロブコ工場。
――そこを選挙するジャレド一味をミニッツメンが完全制圧する。
言葉にすると簡単だが、僕もレオさんもそれが楽な仕事とは思っていない。
プレストンにこの計画を持ちかけた時の反応は、ちょっとしたものだった。
「工場のレイダーを攻撃するだって!?」
ブレストンは思わず叫んでから青空が広がる天上を仰ぎ見た。
この最後のミニッツメンは、迫っていたサンクチュアリからの旅立ちの後の予定を。僕とレオさんの手でこの瞬間にもご破算にされようとしていることを悟ったのだ。
無茶ではあるが、無理ではない――レオさんの言葉を聞いていると本当のことのように思えるから不思議だ。
それはプレストンとて例外ではない。
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ガレージの中に入ると、近くの木製の椅子にレオは腰をかけた。
先にその場所で待っていたアキラが見ているのは彼とレオの武器。旅先から持ち帰ってきたそれが、ズラリとコンクリートの床の上へと並べられている。
「工場を攻撃するならもっと多くの武器が必要。それもできるだけ強いもの」
「ああ――アキラ、君はどう思う?」
アキラはサブマシンガンだけグッドネイバーで手に入れてきたが。レオはそれ以上の武器をダイアモンドシティから持ち帰っていた。
レオがミニッツメン復活を考えていたのは昨日今日思いついた話ではないという証拠だろう。
そしてかつては旅に出ようと10ミリのハンドガンとレイダーのパイプ銃、ショットガンだけだった装備が。今では遠い昔のようで懐かしい感じすらある。
「レーザー銃は2丁、タイプが違うようですね?」
「私の旅の中で手に入れた。私兵組織の一員からライフルを。人造人間 ―― 聞いたことはあるかい?」
「噂について、少しだけ。この連邦の脅威だそうですね」
「私は彼等と交戦する機会があった。兵士としても性能は低くないし、なにより集団で行動する。噂は本当だと思ったね。それは彼らが使っていた武器だ」
ダンスから譲ってもらったライフルをアキラはいいですね、とだけ褒め。人造人間たちから持ち帰った方を取り上げて、構えてみる。
重さにそれほど変わりはない、大きさがわずかに小さいというくらいか?
「人造人間が使うほうは熱処理が見事です。でもそのせいなのかエネルギーの出力が抑えられている。デザインも独特なので、銃身のバランスが良くなさそう。連射性能に合っていない感じ。なんか変ですね?」
「私もそう思ったよ。多分、それは軍人が考えたものじゃないんじゃないかな?」
「なるほどパイプ銃のレーザー兵器版、ですか」
私はどちらかをアキラに譲ることを決めていた。
レーザー銃は実弾を使う銃とは違い、たくさんあっても使い道に困ることが多い。実際、私は手に入れてからはずっとダンスから譲ってもらった『ライト・オーソリティ』と名づけられたそれを使っていた。それだけでも十分だったのだ。
「10ミリがないのは、処分しました?」
「ダイアモンドシティでね。軍人だったときから、私はライフルが性にあっていたんだが。長く眠ったせいで、どうもハンドガンというものが嫌になってしまったようだ」
「実弾をつかうライフル2丁に、オートショットガンですか。重かったんじゃ――」
「まぁ、それだけが欠点だったな」
コンコードから持ち帰ったミニガンは、残念ながら弾の残りがあまりに少なく。
同じくアキラがVaultから持ち出した試作の冷凍銃も似たような状況であったが、こちらはもう使い切るつもりで持っていくことをアキラ本人が決めてしまった。
旅に出る前には見る機会がなかったが、武器を手に作業台に向かうアキラの背中をレオはじっと見つめていた。
武器が終わると、次に用意されるのは2台のパワーアーマー。これはレオとアキラの手によって装甲が強化されるが、これは思った以上に困難な作業となった。サンクチュアリとレッドロケット・トラックストップにかき集めていたガラクタが足りなくなってしまったのである。
「これは想定してませんでしたね……」
「モジュール追加はあきらめるしかないな、それでも十分役目を果たしてくれるはずだ」
「そうですね――」
ガレージに並ぶそれらを前にして2人は頷きあった。
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12月1日、夕刻。
フェラルが今も流入し続けているレキシントンにマクレディ、プレストン、コズワースは体を低くしてコルペガ工場前に崩れている高架橋まで侵入していた。
『こちらイージー、仲良くマーチを継続中。そちらの状況を』
電波はこの時代、基本的には垂れ流しになるのでこれも誰かに聞かれていることになる。
「こちらはチャーリー。今夜は眠れそうにない。今夜は眠れない」
『――了解。子守唄を準備する』
通信は今のが最初で最後となる。
攻撃方法について、レオは意外にも2つのチームによる、工場への正面突破を主張した。
コルベガ工場、ここは昔は自動車を作る工場だった。
今はレイダーたちが占拠し、このレキシントンをフェラル・グールを叩き出す側の象徴として、ちょっとした城のような存在となっている。
それを示すように、工場の警備システムは復旧されていて少しでもここに近づくものがいれば、たちまちサーチライトが察知すると反応してくるはず。
そんな場所をさえぎられた壁の向かうに置いて、コズワースが不安そうに人間達に聞いてくる。
「旦那様もアキラも、本当に大丈夫なのでしょうか?」
「――へんな心配するんだな、ロボットってのは。なるようになるさ」
そう返すとマクレディは緊張しているプレストンと顔を見合わせる。
「でもな。ボスとグッドネイバーで出会ってからこっち。大馬鹿なことはやっても、勝機のないことをやろうとしたことはなかったぜ。お前の旦那様だって同じくやれると太鼓判押していたろ?なら、信じないとよ」
本当ならばここにはさらに「雇われたキャップの代金程度に」との台詞がつくはずだったが、マクレディはそれを省略する。
反対に無言のプレストンは、いきなりその場に伏せると大地に耳を押し当てていた。まだ遠いが、しかしすでにはっきりとその音はこちらにまで聞こえてきている。
大地を蹴り上げる、鋼鉄の兵士たちの
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闇の中を複数の駆動音がせわしく響いている。
その正体は2台のT-45、パワーアーマーとエイダである。
「アキラ、このまま武器の最終確認を」
「――こちらはオート仕様のレーザーマスケット、10ミリオートピストルに改造クライオレーター、確認」
「こちらはコンバットのライフルとショットガン、レーザーライフル確認。レイダー達の工場に接近したら合図を出す、頭部のライトは消すんだ。的にされるぞ、夜の戦闘になるがこちらも目視でやるしかない」
「了解」
「コアの残量は80%、問題ない。このまま行こう!」
復活した工場の警備システムはそれなりに脅威ではあったが、防衛に関しては人の手を頼る部分が多いこともちゃんとレオは確認していた。
あの日も、昼間の工場に近づいたグールの一団は警備システムによってすぐにも発見されたが。彼らを排除したのはレイダーたちのそれぞれ手にする火器によるものだった。
どうやらジャレド達は警備システムの性能に満足しているようで、それ以上の防衛能力をこの場所に与えようという考えがまるでないのだとそれでわかってしまった。
攻撃作戦はこうだ。
まずは正面ゲートを一斉に攻撃して押さえる。次にプレストンらが他の見張りをそこからひきつけている間に、パワーアーマーで強引にほかの見張りをしているレイダーたちを叩きのめす。
最悪なのはこれによって内部に夜の訪問者がいることを知らされることだが、とにかく時間が勝負になるのは間違いないだろう。
勇ましい足音を響かせ、3つの影が工場前の通りに侵入しようとすると。予想通り、工場の警備システムはすぐにこれに反応し。夜の闇を切り裂いて照らす強力なビームライトが、影の正体を光の中に浮かび上がらせる。
こうなるとたちまち工場の正面ゲートが騒がしくなる。
「おい、マクレディ。準備はいいか?覚悟はいいな?」
「聞くようなことかよ、プレストン!」
ニュアンスは違ったが、間違いなく今がその時だった。
「正面ゲートは俺たちの持ち場だってよ」
すでに迫り来る存在に向け、高架橋の上からのぞき見る正面ゲートではレイダー達が攻撃に向けて忙しく動き出していた。
そこに2人の放つライフル弾とレーザーがゲート正面の崩れかけた高架橋の上から放たれ。ゲートのレイダーたちは訳がわからないまま側面からの攻撃にバタバタと倒れていく。
これでいい。
パワーアーマー部隊がゲートに到着しても、その時には彼等を悩ませるような敵はもう残っていないはず。
だが、いいことばかりは続かない。
「ヤバイぞ!」「ここまでだっ、退散しようぜ」
2人は同時にそれを口にするとその場から後ずさりをし、直前にいた場所をほかの見張りからの攻撃が襲い。地面のコンクリートは音を立てつつ、破片を飛び散らし、削られていく。
重装甲の連中には隠れていた仲間がいると知って、レイダーたちは怒りの感情に従って攻撃の対象を変更してきたのだった。
「お2人とも、怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ」
この2人を守るために待機していたコズワースに返事をすると、次の作戦にしたがって移動を開始する。
問題はない、ここまでは予定通り――いや、思った以上にこちらに有利に状況は進んでいた。
「アキラ、エイダ。ここからはわれわれの出番だ。
工場脇の搬入口から、屋上に展開するレイダーたちを殲滅する」
宣言すると軍用パワーアーマーはライフルを取り出し、もう一台はクライオレーターの起動スイッチを押し、エイダは彼らにせんじて先頭に立って突き進む。
深夜のレキシントンはにわかに騒がしくなるが。
その中心地がまさかあのロブコ工場だとは、ここに集まるレイダーたちもまだ気がついてはいなかった。
正面ゲートを押さえられると、闇の中を足音高く駆け上ってくる敵の存在にレイダーは震え上がった。その目が闇の中の敵の姿を捉え、声を上げて味方に知らせたとしても。仲間が駆けつける前に、自分自身は切り倒された木のように、騒いでいた口が一転して沈黙すると、地面に倒れ付してしまう。
恐怖は瞬く間に伝染し、抵抗はほとんど無くなったが。攻撃側がそれで手を緩めることはなかった。
『さすがに高いところに伸びる階段も坂も飽きてきたな。そっちはどうだ?』
「正面ゲートの扉は開かない。なぜかわからないが、中はどうもこっちの様子には気がついてないようだ」
『ならいい、このまま続けよう』
それを合図に工場よりも大きな鉄塔の頂上にいる2つの影は、お互いのパワーアーマーのライトを点灯し。ほぼ同時に空中へとその巨体を躍らせた。
地上までは数十メートル。叩きつけられれば肉体は粉々になってもおかしくないその高さも、この鋼の鎧があれば話が違う。地上へと地響きを立てて着地した彼らは、すぐにも立ち上がると元気に動き出す。
旧世界の主力兵器は、このレキシントンを支配しようともくろむレイダーの主力を。いま、まさにそのすべてを叩き潰そうとしていた。
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この頃になると、レキシントンの町の中でも当然だが工場の異変を知るようになった。
だが、それだけだ。ここには今もフェラル・グールが次々と流れ込んできており。たとえ太陽が昇っていたとしても、地上を2ブロック移動するのに運と火力がなければ簡単に死体となってしまう場所なのだ。
それを日の落ちた夜に、わざわざ移動して”戦闘中”の工場へ戻るだって?
そんな自分の命を火にむかって捨てるような真似をするやつは、この町のレイダーの中には一人もいなかった。だいたいにして工場には危険なレイダーたちが数十人からいて、工場の防衛能力だって決して低くはないのだ。
それにあそこにはジャレドだっている。
自分達の助けなんて、いるわけがない――。
ところが今の工場には、外にいる町に散らばっていた仲間からの救援が切実に必要だった。
驚くべき話だが、外があれほど大騒ぎをしたにもかかわらず、工場内ではそれに反応するものは本当に一人もいなかったという事実。ジャンキーたちは快楽にふけり、そうでない者たちも酒やビールのビンを枕に大いびきをかいて眠っていた。
相手の腑抜けぶりは、想像のそれをはるかにこえていて最低だったのだ。
そんな無防備なところに武器を構え、殺意をまとったパワーアーマーが足音を立てて入ってきたのである。あっという間にひき肉と凍結した氷像が量産されていく。
(まさか、こんなに簡単にやってしまうなんて!)
正面ゲートを押さえていたブレストンはエイダと合流し、そのまま中へと恐る恐る進んだが。
あまりに無防備をさらす相手に愕然としていた、実際にたいした苦労も必要ではなかったのだ。
工場への攻撃開始から2時間を経過。
ついに工場内で仲間達は、誰一人欠けることなく顔を合わせることができた。
「そっちは?」
レオはまるで挨拶でも口にするように、軽い調子で問いかける。
「工場内のマップをターミナルから入手しました。それと第1と第2作業エリアのレイダーはすべて排除」
「こっちも似たようなものか、ただ地下に降りるルートを見かけた。人の気配がなかったので、無視してきてしまったが――」
「下水に続くやつかもしれないな……今は必要ないだろう」
「残っているのは、この上階にある第3エリアで終了です」
いよいよ仕上げにかかる。
「パワーアーマーは大丈夫か、アキラ?」
「破損は十数%程度、エネルギーの残量も問題ないです」
「……そういうことだけじゃない」
「レオさんのような軍人ではないですけど、銃はこれまでもそれなりに撃ってきました。今更、涙を流して震えてみせてもそっちのほうが嘘くさいと、そう思いません?」
「君がそんなことに慣れるのは、もっと先にすることもできた。私は根拠もないのに、そうなるだろうと勝手に思ってしまった」
「でも結果はきっと変わらなかったです。遅いか、早いかの違いだけで。
俺――僕にはレオさんのようなかつての平和な時代の記憶がないんです。この時代にあるものをただ普通に感じるしかないし。だからそんなに悩まれることでもありません」
年齢だけを考えるなら、彼はもう立派な大人だ。わかっている。
だがその童顔と最初のイメージが、今の彼とあまりにも違うのでなかなか切り替えてはまだ考えることがレオにはできないのだ。
「たぶん君が正しいのだろう。わかったよ、アキラ。さっさと終わらせてしまおう」
「了解です。元、大佐殿」
兵士の記憶と戦場だけが、今の自分を支えるものとなっている。
それはもう、自分には必要ないものだと思っていたのに。新しい戦友たちが、平和だった世界とともに去ってしまった妻の変わりに自分のそばに集まってきている。
それは麻薬のように危険だが、今の自分には必要な戦いと栄光なのかもしれない――。
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Vault111の2人と仲間達に最後のエリアのレイダーたちの抵抗など、わずかなものでしかなかった。
リーダーのジャレドは追い詰められたと悟ったか。果敢に部屋の中から横走りで飛び出しつつ、サブマシンガンで抵抗しようとした。
だがもはや劣勢は明らかだった。
ジャレドの放った弾丸はアーマーの表面にあっさりとはじかれてしまい、2人の構えた銃口はその影を追って十分に狙いをつけてから引き金が引かれた。
走り続けたジャレドの体はわずかの間だけ激しく波打つと、工場の床を滑るように崩れ落ちて動かなくなり。レオとアキラのアーマーは表面だけがわずかに傷がついただけで、勝負はあっさりとついてしまった。
ここロブコ工場は、ついに陥落したのだ。
アキラはそいつが死体となる前、最後に触れていたターミナルに近づくと、慣れた手つきでキーボードを操作して記録を呼び出し、素早く目を通す。
「ジャンキーの妄想……じゃないよなー、これは」
体をおこすとそこに書かれていたことへの面白くもない感想で、驚きを紛らわそうとした。そこにレオも近づいてくる。
「どうした?」
「……興味深い真実、ってのがわかったんですが。これ、本当だと思います?」
そういってターミナルの前を譲る。
レオは屈んでディスプレイをのぞくと、ジャレドというレイダーの残した記録を読み始める。
信じられない話だったが、ジャレドはあのサンクチュアリに逃げてきた入植者達と同じクインシーで生まれたらしい。レイダーになる前は、なんとママ・マーフィーにも会っていて、彼女のサイトで未来の姿を告げられたのだそうだ。
――あんたは将来、モンスターになるよ
その予言は呪いとなるようにジャレドの人生を一変させた。その後、レイダーに誘拐されるとすべてが狂い始め……皮肉なことに予言は現実となり。狂乱の無法者、ジャレドがそこで誕生した。
そんな彼は最近、クインシーの虐殺によってミニッツメンが敗走したと聞くと。ママ・マーフィーの持つサイトへの執着を見せ始める。
――サイトを自分のものにする
それは本気だったかもしれないが、ただの妄想だ。
老婆の力は、彼女だけのものだ。だが手に入った大量の薬物によって濁った思考は、そんな世迷言を許さない理性を残しておいてはくれなかったらしい。
「プレストンには見せられないな――」
「そうですか?読ませればきっと『ミニッツメン復活は決まっていた運命だった』とかいって調子よく元気になるかもしれませんよ」
そう口にするとアキラはジャレドから武器を剥ぎ取り、レイダーたちの集めていた金庫の扉をひらいて中の物色を始める。その姿はもう――。
すべてはこれで終わったと思っていた。
だが、工場をレイダーたちを彼らの血の中に沈めただけでは、レキシントンの夜は終わらなかったのである。
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東の空に太陽が姿を見せる。
2287年12月の最初の一日目の夜を、レキシントンはひどく騒がしい夜からはじまった。
崩れかけた高架橋の上では、レールロードの諜報員ディーコンがこの町を静かに眺めている。その後ろには”ツーリスト”のリッキー・ダルトンが落ち着かなくしていた。
「なぁ、もうやばいって。やばいんだって!」
「――落ち着けよ、兄弟」
「無茶を言うんじゃねーよ!あいつら、あのツルツル頭共。きっとなにか命令があって、工場のレイダーたちを皆殺しにしたに違いないぜ。ああ、ここもきっと奴等にバレて……」
「夕べと言っていることが違うな?あの時は確か、フェラルのことでノイローゼ起こして仲間割れしていると言ってたのはどうなった?」
「ああ。ああ、そうだ!そうだったかもしれない。だが、違ったんだ。それだけだ」
怯えきって冷静さを失い、彼にはもう事実がどうとかなんでもいいのかもしれない。ディーコンは首を横に振ると、再び町の中の様子を探る。
不気味で、そして恐ろしく静かだった。
確かに夕べの工場のレイダーたちは大騒ぎだった。
遠目ではあるがあいつらの数人はなぜか空を飛べると勘違いしたようで、夜の闇に向かって両手を広げ、次々と地上に落ちていくのも見たような気がする。
だがそれも夜中をすぎるころには収まったし、朝が来れば町の中にいるレイダーたちの様子にも変化があるだろうと思っていた。
今のところその予想は裏切られている。
町は不気味なほど静かだ。そして――信じられないが2人が監視しているドーナツ屋もそれを真似しているのか。昨夜から店の中で動く影も、気配も感じられない。その理由は――わからない。
そもそもレールロードが、ディーコンがレキシントンにこうしているのには理由がある。
先日、組織の隠れ家に何者かが侵入してきた。
最近では敵対するインスティチュートの猛攻にさらされ、組織が弱っていたところだから、それはもう凄い騒ぎになった。
それでも武器を構え、来るなら来いと待ち構えている彼らの前に現れたのが。
たった2人の人間だ。
ひとりはVaultスーツに、軽装のメタルアーマーを身に着けた若者で、もうひとりはそれに雇われたという傭兵の若者だった。
この両者の出会いは最悪だったと言っていい。
疑いのまなざしを向けるレールロードのリーダーの問いを、この若者は「仲間にしてくれ」とだけ要求すると、あとは下手な嘘や言い訳を繰り返して緊張をいたずらに高めさせていく。
それを終わらせたのがこのディーコンである。
ちょっとした任務でダイアモンドシティから戻ってきたばかりだった彼は、同時期にグッドネイバーでの噂話もその耳で聞いて知っていた。
これはまた面白いやつが転がり込んできたものだと、内心では大喜びで味方に若者たちの身元を保証した。
リーダーはディーコンの言葉を半分だけ受け入れた。
協力者として使ってやれ、そういうことだった。その意見にディーコンが、今度はまったく同意できなかった。だからここにいる。
敬愛するリーダーの認識を正すため、若者たちと自分でちょっとしたボーナスゲームを用意しようと企んでいたのだ。
なのに、その若者はまだここに姿をあらわしてはいない。
――ザ、ザザッ
その時、無線ラジオが不快な音を立てて鳴り出した。
――ザッ、そこ…いる…?わかるか?
救助信号であろうか?
それにしては、妙に向こう側に余裕があるように聞こえる。
――聞こえているよな?ザザッ…こにいるんだよな?
ディーコンは迷っていた。声がするのと同時に、その相手が誰かはわかった。
だが、これが罠ではないとどうしてわかる?
――駄目か、もう一度だけやってみる。聞こえているよな?そこにいるよな?レールロード。
やはりこちらに呼びかけている。背後のリッキーはすでに顔を引きつらせ気の毒なくらい顔からは血の気が失われていた。
「おい、おいっ。まさか出るつもりじゃないよな?こんな、馬鹿なっ」
「……どうかな」
「罠だよ、罠に決まってる。こんな簡単なことを――あっ!?」
リッキーには感謝しないといけない。情けない泣き言が、ディーコンの躊躇いという壁を崩す最後の一押しになってくれた。手を伸ばすと、送信スイッチを押す。
「聞こえているよ、おはよう。確かアポイントメントは別にとってあったはずだが、どうした?」
――良かった、実はちょっとした誤算があってこうなった
「確かに良かったようだ。だが、このまま長くおしゃべるするのは好きじゃない。どういうつもりなんだ?」
気のせいだろうか?通信に雑音が混ざらなくなっている。
こちらに近づいているということか?
――心配は要らない。ひとつだけ頼みがあるんだ、聞いてる?
「ああ、愛の告白じゃないといいが。心臓がおかしくなりそうなくらい、鼓動が早くなってるよ」
――それじゃないよ。そうじゃなくて、ちょっとこっちを……オット、これはマズイ
静かだったレキシントンの、それもこちらに近い場所から爆発音が聞こえた。
そしてそれが合図とでもいうように、激しく争う存在がある。
「おい、あそこっ。あそこで起こっているんじゃねーのか?」
「……ありがとうリッキー。確かに、あそこは俺達の探っていた場所だったな」
2人が見張っていたドーナツ屋の中から青と赤の光が走り。銃声と爆発は、中にいた存在を家屋の外へと――地雷が敷き詰められていたドーナツ屋の前へと吹き飛ばしていた。
地面がはじけ、空中に舞い上がる複数のそれを。リッキーとディーコンは遠くからでもはっきりと確認することができた。
人造人間だった。
インスティチュートが、尖兵として使う真っ白で無機質な存在。
破壊しつくされたそれらは、土煙のおさまっていく大地へと重力に引かれて叩きつけられると。もう動くことはなかった。
――わかったか?
「ああ、凄いものを見せてもらったよ。だが、説明が必要だ」
――それは確かに。ところで、このまま外に出ても大丈夫かな?
「ああ。ただし足元にはご注意を」
そう口にすると、ディーコンはラジオのスイッチを切って立ち上がる。
「お、おい?どうするつもりだ?」
「さぁな。あそこに降りていく以外に、俺にやれることは残っていないように思える」
「正気か?狂ってるのか?」
「同じ疑問を俺も感じているよ。だが、たぶん両方だと答えることになりそうだ」
「お、俺はどうなる?」
「あんた?そりゃ――ご苦労様、ここはもういいよ。次の指示を待て。こんな感じかな、世話になった。兄弟」
無表情の上にサングラスをしたハゲ男は、どこかヤケッパチを感じさせつつ。軽く手を上げて別れの挨拶をすると、背中を向けて橋の上から立ち去っていってしまった。
しばらく呆然としていたリッキーであったが、自分がここにおいていかれたのだとようやく気がつくと、思わず再びあの恐ろしかったドーナツ屋へと視線を向ける。
すでに戦闘は終わり。
小さな店の入り口から、大きな鋼鉄の兵士が。パワーアーマーを着た2人の姿が現れ、それに続いて出てくる兵士やロボットたちの姿を確認した。
それでリッキーもようやく理解した。
怯え、愚痴っている間に、危険で見返りの少ない自分の任務は解決してしまったのだということを。
彼はいつもそうするようにすばやくその場からの撤退の準備を終わらせると、最後にもう一度だけあの場所に目を向けた。
すでに店の中から出てきた集団に、ゆっくりと歩いて近づいていくあのここ数日で見慣れた、朝日に照らされて輝く後頭部の持ち主の姿がそこにあった。
(設定)
・T-45 パワーアーマー
前作FO3ではパッケージのモデルを飾ったが、続編では一気に扱いが悪くなってしまった。
とはいえ、高性能は望めないが、魔改造すれば十分な性能ではあるので某MSでいうところのザクⅡのごとく愛するに値する存在なのは間違いない。
ちなみにここでは2人はT-45cを使っており。モジュールなしで、ペイントカラーは軍用とミニッツメン、という設定。
・レールロード
アキラはエイダに出会う直前に彼等に会いに行っている。当初、それは描かれるはずであったが。どうひっくり返してもゲームと変わらない印象しかなかったので、カットした。
ストーリーはすでに決まっていたが、唐突に感じてしまってもそれはしょうがない。
原因はデズとハゲにある、筆者に罪はない。
・ディーコン
レールロードのエージェント、ハゲである。変装が得意な彼は、本体であるサングラスだけは手放さない。
真面目な話をすると、主人公のコンパニオンの仲でも変わった存在。
レールロードのゆがみを一人で体現できる、などと豪語するくらいに怪しい人物である。情報を扱うだけではなく、自分で考えて的確に未来を予想できる切れる男である。
もしかしたら、彼が組織の長に立たない理由もそこにあるのかもしれない。
・リッキー
愉快なレールロードのツーリスト。ツーリストとは要するに組織にとってのバイト君のことである。
【新たな技能を取得しました】
・Demolition Expert
爆発物でのダメージが増加、爆発物の正しい知識を手に入れる。