ボストンの治安事情がいかにひどいものであるのか。
それを示す一例がここにある。
ダイアモンドシティからわずかに数ブロック。そこにハングマンズ・アリーと呼ばれる場所があり、意味はそこに行けばすぐにわかる。
レイダーが住み着き、まるで自分たちの恐ろしさを知らしめようと出入り口に殺した人間の切れ端や部位を奇妙に飾り立てている。この近くに入り込めば、こうなってもおかしくないぞと警告しているのだ。
ボストンではこんなのはそこかしこにある。
それぞれが違うレイダーの集団で、時にそれが凶悪なスーパーミュータントだったり、フェラルの巣だったりするのだ。
さて、そんなハングマンズ・アリーはこの日、信じられない訪問客を迎えた。
「あのー、すいません。ちょっと、よろしいですかぁ」
自分たちに呼びかける声に気がつき、何事かと入り口の脇に設置した見張り台に上ったレイダーは。そこにたった一人、まっ赤な目立つ格好をした女を見下ろした。
「なんだ、お前!?」
「私はダイアモンドシティのパブリック・オカレンシアから来ました。お話、いいですか?」
「待ってろ」
答えると見張り台を降りる。そこには何事かと集まる仲間たちがいぶかしげにいるが、レイダーは面白いやつがいる。来てみろとだけ言って、門を開くとゾロゾロとでていって、女の前に姿を見せる。
「なんだって?」
「ですから、ダイアモンドシティの――ようするに新聞社です。私、そこの記者です」
「それがなんだ?」
「最近のこのあたりの治安について。特に旅する商人たちの動向なんかを――」
少し声は震えているようだが、なんだか真面目にこちらにインタビューを試みようとしていることがわかってきた。
(頭がおかしいのか?馬鹿なのか?)
レイダーが襲う獲物の情報を、ダイアモンドシティでヌクヌクしている連中に教えてやるわけがないだろう。そんなことは少し考えてみればわかりそうなものだが。いや、この女にはそんなこともわからないのだろう。
こりゃ、あの町も遠からず自分たちの獲物になるときが来るかもしれない。
そして近づいてよくよく見ると、この女はなかなかの美人だということがわかった。
当然だが、レイダーたちの顔にスケベなそれにかわった。
「いいぜ、話なら中でどうだ?たっぷり、俺たちのことを教えてやるさ」
「さすがにそれは、ちょっと――」
「なんでだ?俺たちはかまわないぜ?なぁ、お互いを知り合ういい機会さ。そうだろう?」
いいながら徐々に逃げられないように取り囲もうと移動する。
「いやいや、アハハ。取材対象とは適度に距離をとらないと、お互い
「心配は要らないぜ、お譲さま。俺たちならいろんな
女記者は――パイパーはさすがにそれを聞いて顔色を変える。
そう、真っ青ってやつだ。
さすがにパイパーはいい仕事をしてくれる。
上からのぞけばそれがよくわかった。
ハングマンズ・アリーは建物の間に作られたちょっとした砦になっている。攻め寄せれば、建物にはさまれ動きが取れなくなり。奥から通りに出る道に向かって一斉に攻撃されれば身を隠す場所もなく、なすすべもない。
だが、それはあくまでも2次元的。平面での話だ。
左右に聳え立つ建物に挟まれているというそれが、この場所の大きな弱点となる。そしてそれに対する備えを、ここのレイダーはまったく用意してはいなかった。
とはいえ、私の計画はここで少しばかり変更が必要のようだ。
パイパーがあまりに優秀なせいで、レイダーのほとんどが入り口から出てきてしまっている。
本当なら、上からエリアの中央に落下して中から一気に蹴散らすつもりであったが。今、それをやるとパイパーが危険だ。
私は膝を突いたまま、そっとつぶやく。
「これより状況を開始する。目標、ハングマンズ・アリー。チームの作戦終了予定時刻……8分を予定」
屋上に置かれた、先日倒したスーパーミュータントから回収したスレッジハンマーを”片手”で持ち上げる。今回は撃つのはなしだ。こいつで短時間で決着をつける。
腰を上げると、体のあちこちからわずかながら駆動音がすると、振動を骨が感じ取って伝えてくる。
どこかのねじの固定がゆるいのかもしれない。
直立すると、ただそれだけで身に着けたT45パワーアーマーは唸り声を上げる。ナットは初めてこれを見て、にぶい鋼の光沢の表面がなにか怖いといっていた。こいつも塗装くらい、してやってもいいかもしれない。
だが、それはすべてが終わってから。
私は走り出すと、建物の屋上から地面に向けて飛び出していく。
パイパーの前に群がるレイダーの何人かに、まず頭上に落ちるこの鋼の塊を受け止めてもらう。続いてハンマーが周囲で動けないやつから血祭りにあげていく。
最後に慌てて砦に引きこもろうとするだろうが、そのころには勝負ありだ。
このパワーアーマーで、200年前の軍人がみせる本物のパワーアタックがどれほどのものか。彼らはこの世の最後に実際に体験することができる。
足の下にある肉塊を踏みしめるという、貴重な体験と。あの気の強いパイパーがそのショッキングなシーンにかわいらしい悲鳴を上げたのを聞くと。
私は予定通り、殺戮する機械となってレイダーを文字通り叩き潰した。
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ダイアモンドシティ・セキュリティに掃除を頼み。
ひどい作戦だったと激怒するパイパーをなだめながら帰還した私は、町の一角に放置されていたパワーアーマーステーションにT-45を置くと、そのままマーケットに足を向けた。
レイダー達の拠点から回収した装備やゴミを処分する必要があった。
ダイアモンドシティでも、一段とにぎわうマーケットに入るとこちらを見つけた店先に立つモーが早速絡んできた。
「なぁ、アンタ!うちに寄っていってくれよ。あんたにはこのクルミのスワッターが……」
「悪いな、モー」
彼は面白い男だ。
かつては存在したという、ベースボールなる”格闘技”を現代に伝え、未来に残したいのだそうだ。
最初、真面目にそれを口にするので、パイパーやナットが不思議そうな顔をする横で私は大笑いすべきかあきれ返るか。まずそこから悩まなくてはいけなかった。
武器を扱うアルトゥーロの店のカウンターに荷物を載せる。
「お、今日の”狩り”の戦利品かい?」
「ああ、ハングマンズ・アリーだ」
「おいおい、ついにあそこがおちたか。見せてもらおう」
私はそれに無言で首を縦に振る。
店主は目と手を動かしながら、こちらと会話を続けようとする。
「あんたが来てから、ここはすこし騒がしくなってる」
「なぜ騒ぐ?私はそんなに悪いことをしているのか?」
「そうじゃない、その反対さ。最近はここらもレイダーやスーパーミュータントの勢いに怯えることが多くてな。セキュリティの連中も命が惜しいとあって、手を抜くものだから。この辺りの治安はますます悪くなる一方だった。
そこの賞金首の掲示板も、ながらくメモが増えるばかりで。一向に減る気配はなかったんだぜ?」
「そうなのか」
「ああ。だが、それがここのところ毎日、メモが一枚ずつ消えている。あんたとパイパーが連中を叩きのめしてくれてるんで、みんな大助かりさ。感謝している。
噂だが、市長は賞金首の新しいリストを大慌てて作らせているのだそうだ」
「――そうか」
彼らにとっては明るい話題なのだろう。私は表面上は無表情を貫いたが、内心では複雑なものがあった。
「一部のアーマーとガラクタは、うちでも引き取れるが。それだとあんたが損をしちまう。そこでどうだい、俺に預けてみないか?
マーケットの連中に話してキャップにかえてやる」
「いいね。受け取れるのはいつになる?」
「うーん、そうだな。店を占める前くらいが確実だ」
「わかった。なら、それくらいにまた来るよ」
私はそういうとすぐにマーケットを離れる。
ダイアモンドシティは平和で、この町から見上げる空も真っ青にひろがっている。
だが、私の心は少しばかり荒れていた――。
パブリック・オカレンシアの2階では、パイパーはさっそく。今朝の――人がありえない潰れ方をして、中身をちょっと、こちらに飛んできたそれを浴びてしまったという悪夢は抜きで――ビッグニュースについてどうまとめようか、首をひねっていた。
「レイダー、消滅。ハングマンズ・アリーは駆逐された――いやいや、そうじゃない」
ブルー、レオがダイアモンドシティに来てから。一緒に行動するパイパーはこの町に何かすごいことがおこるような、そんな予感をひしひしと感じていた。
今やこの町の住人は、シティの周りを巡回することすら恐れるようになってしまい。それを見透かされて、レイダーは徐々に町に迫ってきている。
ここ数年、折を見て町の脅威をそう分析して口にしていたパイパーだが、住人たちの反応は鈍いものだった。ここが安全だと信じたくて、迫ってくる脅威に目を向けたくないと考えているのかもしれない。
まだ持ち合わせの少ないレオにも、ついタカハシの店で箸を握り締めてそのことを語ってしまった。おかげで麺はのびてしまったし、ナットには熱くなるなとたしなめられてしまった。
ところが、レオはコズワースと犬を連れてすぐに戻ると言い残し。翌日、あのパワーアーマーを着て再びこの町に現れた。
それからはもう、大活躍だ。
「ちょっとパイパー」
「ナット?上だよ」
階段を妹がのぼってきた。
「話しあるんだけど」
「なに?今、ちょうど記事を書こうと――」
「もうさっそく?」
「当然!ウヒヒヒ、次号が楽しみ。記事は盛りだくさん、パブリック・オカレンシア初の売り切りだってありえるかもよ」
「ふーん」
パイパーは記事とばら色の未来に目がいって、妹がまったく興味なさそうなことに気がつかなかった。ナットはそのまま机の隣まで行くと、そんな姉を上から見下ろす。
「ねぇ、パイパー。ミスターのことだけど」
「ブルー?彼がなに?」
「はぁ……あのさ、新しい彼氏にちょっと入れ込みすぎてない?」
「えっ、ちょっと何を言うの。ナット?」
「――なにが?」
「ブルー。嫌、レオはあれだよ?息子がいるんだ。子供を捜そうとしてる」
「聞いた。それが?」
「それがなんで新しい彼氏――」
「ねぇ、それ本気でいってる?」
ナットは姉に呆れているようだと、本人はようやく理解した。
「連日、ミスターと出かけてるのは知ってる。凄いことをしていることも」
「そ、そうだよ。それだけだよ?」
「それが問題だといってるの、パイパー。ちょっとミスターに肩入れしすぎていない?」
「そんなことない」
「そんなことある!ねぇ、冷静に考えてよ。記事はどうするの?」
「どうするって?ちゃんと書くよ」
「そうじゃない!これはもっと現実的なことだよっ」
そういうとナットはパブリック・オカレンシアの前号をパイパーの額にたたきつけた。
「予定だと、次号はミスターの独占インタビューってことになってた。そうだよね?」
「う、うん。話し合ったでしょ?」
「そう、決めていた。でも原稿読ませてもらったけど、ミスターのだけで記事はかなりの分量になる。次号に空きスペースはほとんど残ってない」
「あー、でもそれは――」
「最後まで聞け!どうせ、特大号とかいって。いつもの倍とか記事増やすとか思ってるんでしょ?」
図星だった。
「あのね、パイパー。販売員として言うけど、次号は予定通りで。それ以上の記事はナシにして」
「ナット!?本気なの?こんな――すごい、大事件なんだよ!?」
「そうだね」
「それを素通り?ちょっとだけでもさぁ、頑張って入れてこうよ」
パイパーはまだ諦められないようであったが、彼女の妹はがんとして許さなかった。
「入れるって、なんて書くの?」
「んと……レイダー撃破、みたいな感じ?まとめてってのはもったいないけど」
「それ、誰がやったのか書くよね?」
「それはそうだよ。そうしないと――あっ」
ようやく姉は、なんとなくだが問題に気がついてしまった。
「そう。事件はあった。でも、それって全部パイパーとミスターがやったことだよね?」
「――ソウダネ」
「それを書いたら、次号はどうなると思う?記事の全部がミスターで埋め尽くされちゃうんだよ?」
言われて確かにその通りだと思った。
冒頭にインタビューで衝撃のブルー。レイダーを撃破、戦慄のブルー。砦を撃破、ブルーに裁かれし者……。
それはもう、マスコミとは言えないものだと。読者に断じられてしまいかねない内容になる。
「さっさとインタビュー記事、出しておけばよかった――」
「無茶言うな。諦めろ」
パブリック・オカレンシアではこうして苦渋の決断がなされ。
そしてついに、最新号の印刷が始まろうとしていた。
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探偵は、いなかった。
あの日ナットと共に訪れたバレンタイン事務所で、秘書を務めているという女性からそう告げられた時。サンクチュアリを旅立ってから、初めて私の目の前が真っ暗になった。眩暈も感じていたかもしれない。
多分、こんな風に感じるのは間違っているのだろうと思う。
むしろここまでが、あまりにも順風満帆に来すぎていたのだ。犬とダイアモンドシティを探して旅に出て、どちらも目的どおりに達成したけれど。
この町で、自分を助けてくれそうなのが探偵だけだと言われても、納得できない。
私は諦めきれず。そしてもがくようにして、別の手を探そうと考えた。
ダイアモンドシティの周りにいる、レイダーたちなら何か知っているのではないか。あてのない、考えのない行為であった。冷静ではなかったのだ。
パイパーの熱弁を耳にし、この町には賞金稼ぎが少ないと理解して。手早くキャップを稼ぐためと言い訳するように、手当たりしだい。噂に聞いたレイダーへ襲撃を繰り返した。
その結果は?
ゼロだ。
ほとんど毎日を戦場にしてあちこちに死体を積み上げて見せたのに。探偵の行方も、ショーンも、何もわかったことはなかった。
そしてこれはきっと、このままならばこの先も一緒なのだと冷酷に私に語って見せている。
探偵事務所は、ダイアモンドシティの狭い住居のならぶ一番端っこにあり。家の設計がおかしいのか、入り口がやけに細くて狭いが。反対に中の居住空間は広々としている。今日も私は探偵を求めて、この事務所の扉をくぐる。
「――ああ、あなただったの。悪いわね、探偵は、相変わらずよ」
「まだ、わからないのか」
「仕事をするなら、ちゃんと行き先を教えていってと頼んでいたんだけどね――って、これ。毎日、口にしてるわね」
「ああ……確かに」
探偵の秘書をしているというこのエリーだが、彼女にしてもさすがに困惑しているようだった。
探偵ニック・バレンタインはこの約1ヶ月近くの間。ずっと姿を隠してしまっているらしい。
エリーに言わせると、それでも今回は特別深刻に考えねばならないのは、この間の彼の動きがまったく聞こえてこないからだ、という。
これまで探偵は、行き先を継げずに戻ってこなくても。その間にどこかで見た、そういう噂は必ずどこからか流れてきて、ダイアモンドシティにも入ってきていたのだそうだ。
それが今回、まったくない。
一番高い可能性といえば、当然死亡したということになるが。殺した相手がレイダーなら、グッドネイバーあたりから武勇伝がながれてくると思われ。それがないことから、死亡した場合はスーパーミュータントやフェラルが相手ということになる。
「噂、聞いたわよ」
「えっ?」
「ここ数日、大暴れしているそうじゃない。ちょっとしたヒーローね」
「ああ、それか……」
「探偵への依頼料を稼ぐため、らしいけど。ニックはそんなに高額は請求しないわよ」
「――ああ、らしいね。
されたのは、君にニックの代わりにと紹介された探偵に言われたんだ」
「……あンの恩知らず、そんなふざけた事。ニックへの借りを返すためだと思って、話を聞いてくれって言ったのにっ」
エリーはそういって怒っていたが、私にはもうどうでもよかった。
その探偵を雇うために必要な手付金分のキャップは当に用意できている。だが、私は彼の元へ、再び行くつもりはなかった。
連邦の美しく、平和な町ダイアモンドシティ。
だがここにたどり着き、ここで暮らす人々やパイパーらと触れ合ってさらに深く連邦を、世界を理解すると。私がしようとしていることがいかに無謀であるのか、それが強く思い知らされてしまう。
私一人の力だけでは息子は取り戻せない。
だが、力を貸してくれるならば誰でもいいというわけでもない。
私はまた、あのVaultから這い出たときと同じく。この道の先へどうやって進もうか、足を止めて犬のようにぐるぐるとその場で回っていることしか出来ないでいる。
「この事務所。畳むかもしれないといってたね」
「ええ、ニックが戻らないなら。最終的にはそうなるわね、私は探偵にはなれないもの」
「具体的には、いつ?」
「とりあえず今年の間は、待ってあげようと思ってる。それくらいなら蓄えだってあるし。
私みたいな女の細腕で頑張れるのもそこまでかな。実はもう、市長からそれとなく家を明け渡さないかとつつかれているの」
「そうか――」
「場所代をキャップで払ってるから、まだ知らん振りできるけど。それでも希望がないなら、私もいつまでもここにしがみついてはいられないし」
エリーの言葉が、私の胸にも突き刺さる。
その通りだ。
愛した妻は死んだ、殺された。理由もわからず、いきなり命を奪われた。
希望はただ息子を取り戻すこと。そのためには妻を殺し、息子を連れ去った敵についての情報が必要なのだ。
情報はない。
私はまだ、なにも進めず。なにを成し遂げてもいない。
重苦しい気分を引きずりながら、私は探偵事務所を後にする。
パワーアーマーの点検は明日に延期することにした。
歩きながら、ふとこれまでのことを思い返していた。気がつけば、あのサンクチュアリを出てからもうそろそろ一ヶ月になろうとしている。
(そろそろ戻らないとな)
プレストンや崖の居住地の問題を、放ったらかしにしている自分に気がついた。
私という男は自分のことだけに集中して、それでよいとする男であっただろうか?
いや、そんなことはない。そうではなかったはずだ。
私は真剣にサンクチュアリへの帰還を考え始めていた。
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いろいろ考えていると、結局時間だけが過ぎてしまい。
私はマーケットによってアルトゥーロからキャップを受け取ると、パブリック・オカレンシアに帰宅した。
中に入るとすぐに、ナットを相手にコズワースが楽しそうに話していた。
「あ、ミスターおかえり。あと、これね」
そういうと彼女は手にした紙の束を私に差し出してきた。
「これは?」
「完成したばかりの最新号ですっ。マーケットには明日、発売!これは見本、といことで。ちゃんと読んでみて」
「――ありがとう、後で読んでみるよ」
どうやら私の取材をメインで扱っているらしい。ちらっとみると、不死身の男とか書いてあるようであったが、今は気にしないことにした。
「旦那様、なにかありましたか?」
「コズワース――」
ナットと犬のカールに挟まれたロボットはすでに私の考えを読んでしまったらしい。つくづく、へんなやつだと思うが。それがなぜか嬉しいときもある。
「そろそろ戻ろうと思う、サンクチュアリへ」
「え、ミスター帰っちゃうの?」
「そうですね。それもいいかもしれません」
私の次の目標が、この瞬間に決まった。
思えば少しパイパーの好意に甘えすぎていたのだ。
姉妹の住宅に、いつまでも傭兵まがいの男が転がり込んでダイアモンドシティを騒がすのも決していいことではない。そもそも、私はここの住人ではないのだから。
私が戻ると聞くと、パイパーはひどく残念がり。ついには自分もついていくなどと口走りだしたのは困った。どうやらナットの話によると、数回分の記事になるネタをもらっているので、私に借りが出来たとでも思っているのだろうという。
そういうことなら、私は彼女に頼みごとをすることにした。
探偵ニック・バレンタインの生死。もしくは彼の足取り。
私はまだ一度として出会ったことのないこの探偵が、こんな時代にあって広く人々の口にするような人物だとわかって、ショーンの捜索を彼に賭けることに決めていた。
ママ・マーフィのサイトが正しいなら、私のこの判断はきっと報われるはずだ。
翌日の昼。
私はパワーアーマーの修理と、アルトゥーロの店で手にしたキャップを使って新しい武器を購入すると、ダイアモンドシティを後にする。
元は球場のスタンドを登る階段をひとつひとつ、パワーアーマーの力強い足取りで進む私の後ろでは。
元気なナットが、パブリック・オカレンシア最新号を知らせる声が聞こえていた。
(設定)
・犬
犬種はジャーマンシェパードの雄。
名前はカールに決定されました。
・モー
ダイアモンドシティ・マーケットのスポーツ店(?)店主。
スワッターと口にする彼の知識はいったいどこで仕入れたものなのか。割と真剣に興味が出てしょうがなかったりする。