ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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それはまるで冗談のような復活だった


生死 1

 異変の兆候に最初に気が付いたのは、恐らくアカディアだ。

 人造人間達にとって昼と夜の違いなど太陽の有無程度でしかないこの場所では、日付が変わったばかりの深夜帯でも変わらずに動いている。

 

 そのうちのひとりが画面を難しい顔をして見つめていた――ファラデーである。

 ディーマはそんなファラデーを見て、いつものように「どうしましたか」と声をかける。それは彼が何か問題を見つけたから、というより。同じ家に住む飼い猫に顔を合わすたびに口にする挨拶に近いニュアンスだった。

 

「島の東海岸、今夜はなぜか様子が違うんだ」

「そうなのですか。具体的には?」

「波の高さ、気温に湿度も少し高い。風速の方は……」

「まぁ、そういうこともあるでしょう」

「気にしすぎだと思うのか、ディーマ?」

「この島では、少しぐらい寝苦しい夜なんて珍しくもないでしょう。そう思いませんか?」

「――そ、そうだね。確かにディーマの言う通りかもしれない」

「結論が出たようですね。では、こちらに来て電圧の調整をお願いします。機械も気温へ湿度で機嫌を悪くするものなので。下手をしたら朝までかかるかもしれません」

 

 ディーマが何の興味もいだかなかったことでファラデーは自分が興味を抱いたことを忘れることにした。そうすべきなんだ。

 しかし――それでいいのか?

 気候の変動はこの深夜に突然始まったもので、どこか”人工的な作為されたもの”のようにも思えたのだが。

 

「ファラデー?まだなにか?」

「なんでもない、すぐにテストにかかるから!」

 

 こうしてアカディアは見ることをやめた。

 

 

==========

 

 

 キャプテン・アヴェリーが目を覚ましたのはいつものように日の出まであと少し、という時間だった。。

 老人になるとトイレと睡眠は嫌でも近くなってしまう。いちど目が覚めてしまうとここから寝なおすには、いつものようにちょっとした儀式をしないと難しい。

 

 花の絵がはいったポッドでお湯を沸かし始めると、アヴェリーは港の門の様子を確認する。

 アヴェリーが顔を見せると、今夜の見張り役達は軽くうなづいてみせ、何事もないと知らせてきた。それだけわかれば十分だ。

 

 アヴェリーは見張り台へと続く階段を上るのをやめ、今度は灯の落ちている港へと足を向けた。

 大昔であればこの時間だと港に船は残らず漁に出ていったといわれているが。いまは明るくなり始めた頃に酒瓶と共に船長たちは沖に出て行って、酒を飲むついでに仕事をすませている。

 

 彼らは仕事()のやり方を忘れたわけではない。

 その証拠に時々ではあるが。思い出したかのように、または正気を取り戻したかのように。かつての海の男のように動く奴がいるからだ。

 しかしそれも確認が終わると、港に戻ってきてまた酒瓶に手を伸ばしてしまう。希望を再び見失って――。

 

「波が高いね、嵐でも来るのか」

 

 係留されている船がいつもより激し目に波間で暴れているように見え、思ったことを口にだしてしまう。

 いえ、そんなわけがない。すぐに意識の下から自分の言葉を否定する。

 

 もし本当に嵐がこの港へと迫っているとすれば、あのアカディアの人造人間から警告というか忠告のようなメッセージが事前に届けられるものだが。そんな知らせは受け取っていない。

 それにあいつらの力がなくても、ここにいる海の男達ならば。ひとめ見れば海に起こっている変事をすぐに嗅ぎつけて騒ぎになっているはず。だがそれにしても……。

 

 アヴェリーの中に葛藤が生まれる。

 

 確認するのは簡単だ。

 これから酒場にいって、そこで飲んだくれているいつもの連中の尻を蹴り上げて外に叩きだし。大丈夫なのかと聞き出せばいい。

 しかしそれだとこれから1時間はわめき続けなくてはならないし、答えが出る頃にはもしかしたら空が白じんでくるかもしれない。

 

 気合を入れた2度寝の儀式を滞りなく行うなら、やりたくないというのが本音であった。

 

「寝苦しい夜ってことかね……」

 

 何かを見落としている気がするが、そう考える根拠はなにもない。

 船をいつも以上に激しく翻弄し、いつも以上に強く岩に高い波をぶつけている海に背を向け。アヴェリーは彼女の耳に聞こえるものを気にしないことにした。

 

 

==========

 

 

 自分の体を揺さぶって起こそうとしているのがキュリーだと理解すると、ケイトは自分の体にまだ昨夜の酒が残っていることを感じて、まずダリィと思った。

 

「気持ちワルっ、なんなんだよォ」

「起きてください、ケイト」

「昨日の酒がまだ残ってるんだよォ。昼まで寝かせてくれりゃ大丈夫から、ほっといて……」

 

 寝返りをうったが、そこにクソ人造人間(ニック)の声がする。

 

「ダメだ。それじゃあ手遅れになる、おそらくな」

「――あ?なに堂々と女の寝室に入ってるんだよ、爺ィ」

 

 まだ寝ぼけていたが、ケイトの声は一気に不機嫌なものとなる。なんなら飛び起きて襲い掛かってもおかしくないような空気が漂い始めるが、ニックはまったく動じることはなかった。

 

「とりあえずしっかりと体を起こして、目を開けろ」

「あン!?」

 

 いら立つ声を反動に体を起こすと、何かが変だとようやくケイトも理解する。

 

「嫌な感じ――」

 

 キュリーはケイトが床に脱ぎ散らかした服を集めてくれていて、ニックは窓際に立ってじっと外を見張っている。

 

「まず天気の話からしよう。ひどいもんだ、波は荒いまま、放射能を含んだちょっとした雨で嵐になりかけている」

「そんなことで起こした?ぶっ殺されたいのかよ」

「なのに様子がおかしい。陸は静かだ、何の動きもない」

「ならイイじゃん」

 

 わざと下着姿のままケイトはニックの隣に立つ。

 確かに外の天気は最悪のようだ。雨は弱くなったり強くなったりと忙しく変わっているようで、暗く憂鬱な景色はなぜか太陽とは違う黄色の光に塗りつぶされた世界で妙に明るく見える。

 

「いつまでもそんな格好してないで、服を着て機嫌を直せ。この状況は見た目以上に深刻かもしれん」

「どういうことさ?」

「こうなったのはほんの数十分前。どんどん悪くなっている」

「そうなんだ」

「なのに隣の港や陸地が妙に静かだ。そして問題はな、おそらくこのままだと俺たちはここに閉じ込められて動けなくなるだろうということだ」「?」

「チッ、いい加減しっかりしろケイト。わからないのか、何かに備えるなら。動くなら今しかない」

「それがアタシに何の関係があるのさ」

 

 話が進まない2人の会話に、服を差し出しながらキュリーが助け舟を出した。

 

「ケイト、ここに残っているのは私たちだけなんですよ」

「そういうことだ。俺は老いぼれた探偵、キュリーは医学者。レオ、アキラ、お前さんのほかに暴れられそうな連中は出払っていていない。つまり俺たちが頼るのはお前だけ、ということになる」

「はァ?なんでそうなるんだよ」

「思い出せ、あんたのボスがこの小島を物騒なものに変えたのはどうしてだ?あの港に閉じこもってる連中のためだと言ってただろ」

 

 ケイトは大きく深呼吸をして、冷静になろうとした。

 確かにニックの言う通りだ。いつもならば自分じゃなく、アキラ、もしくはマクレディやレオ、ガ―ビーなんかが引き受ける役目は。今の状況では戦闘が得意ではない2人ではなくケイトがやるのがどおりだ……。

 

「具体的には、あたしはどうしたらいいと思う?聞かせて」

「ここに残ればとりあえず俺たちの安全は確保できるだろう。防衛システムは今も動いているが、これほど高い放射能の霧が蔓延しているとなると動かなくなる可能性はある。助けも呼べないし、おそらくだが助けを求めても期待できないかもしれないな」

 

 ニックの考えではどうやらこのままここにとどまっていても安全ではないらしい。

 

「薬品に関しては商会の倉庫にまだ十分にあります。でもこの悪天候ですべてを抱えて移動することはーー」

 

 キュリーの言葉を聞くと、ケイトは自分たちの選択肢はほとんどない事に気が付いてしまう。

 なら、悩むのはケイト姐さんの趣味じゃない。

 

「あたしは――すでにの指示に逆らってる。畜生、貧乏くじかよ!」

「そういうのはいいんだ、ケイト。今はお前の指示が必要だ。どうする?」

 

 ニックは何か起こるかのように言っているが、別にそうだという確証があるとは思えない。少なくとも今は。

 しかしこの嵐の中で港に何かトラブルが起こったとすると、この小島に閉じ込められていたら、出来ることは確かに何もない。

 

 アキラなら、レオなら……あの甘ちゃんたちのお気に召すやり方ならケイトには想像出来る。

 出来るけど――ああ、クソったれ。マクレディにレイダーなら満点、新人傭兵としたら半分以下とクソ女には賢い方法とは思えない。

 

 どうする?

 どうしたらいい?

 

 

==========

 

 

 まだ早朝にもかかわらず。サカモトは壊れかけたパラソル付きの机にティーセットを置き、椅子に腰かけ。夜明けに近い森林の中にたち込めていた霧が薄くなっていくさまを楽しんでいるかのように過ごしていた。

 

 クロダ達の”処分”は終わっている。後のことを考えたら、そうであってほしいと思ってる。

 それが正しく行われたと確認すれことができれば、もうサカモトがこの島にいる意味はない。この機会で不愉快な島の環境を楽しむのも数日だと思えば、愉快な気分に少しはなるかもしれない。

 

――とりあえずは”初めまして”でいいか。

(そうですね。お互い自己紹介はしていませんでしたから)

――それじゃこのまま”サヨウナラ”でいいな

(いいえ。まず握手をしましょう。それから少し話を。そのどちらも、私たちはやってはいないじゃないですか)

 

 口元に笑みが浮かぶ。ああ、そういうことか。

 このサカモトにとっての勝利の瞬間、それをもう一度味わいたくてこんなことをしていたようだ。

 

 ”小さな宝箱”ではどちらかというと好戦的ではないとされるこのサカモトだが。

 しかしだからといって修羅場を恐れて嫌い、背を向けたりなどしたことはない。勝つことに必要なら自分の牙をむける。とはいえ、あの面会に勝算があると理解はしていても。

 正面からあの憎悪の塊となった悪鬼と化したアキラと、戦わずに会話で生き残れたのは2人の仲間……いや、廃棄物らを犠牲にしたとて満足のいくものだった。気分がいい。

 

 連邦に戻れはまずやることは――。

 

 心の中で穏やかな未来の絵図を思い描いている時に、楽しい時間は過ぎていて。それを現実は知らせてくるというのは、よくあることだ。

 

 森の中から、お茶を楽しむサカモトに近づく存在がいた。

 訪問者の気配で自分の過去と未来を楽しむ時間が終わったことを知り。サカモトは不機嫌そうに小さくため息をつきながら、冷えてしまった紅茶を口に持っていく。

 

「なぁ、なぁっ!おいっ、あんた。よかったよ、ちゃんとここにいてくれたんだな」

「……」

「俺だ――ちょっと、泥だらけでひどい格好になってるけど。ミゲルだ、ミニッツメンの」

「らしいね」

「なんだよ冷たいんだな。まさか俺達を忘れたつもりだったか?それともだまそうとしたとか」」

「”俺達”?君はひとりしかいないようだが」

「ああ、まぁな。”今は”そうだ。だから――」

「なぜここに?こちらは君たちの将軍の周りにいる友人の中に、”こちら”を良く思っていないのがいる。だから、よほどのことがない限り接触はしない。するとしてもこちらから。そういう約束だったのでは?」

「当然覚えているさ。それに、俺なら大丈夫だ。あんたのことを誰にも言ってないし、ここに来たことだってあの連中の誰も知らない。俺をナメてやがるからな」

「それを聞けて良かった。安心しました」

 

 口調こそ変わらなかったが、サカモトの中に徐々に怒りが湧き上がってくる。

 連中は知らないだ?リーダーひとりでノコノコやってきておいて?

 

「実はまさに緊急事態ってやつになった。あの緑色のクソ共、スーパーミュータントだよ。

 どこにいってもあの筋肉まみれの脳細胞で暴れるあいつら。俺たちは必至で戦ったんだが、あいつらここでもアホみたいな数が出てきてさ。それで――」

「負けた」

「いや!ただ勝てなかっただけだ。それで追っかけられ。森の中でつつきまわされて困ってる。振り払えなくて、ってこと」

「……」

「そこで俺は思い出したんだ。あんたの事。ここからちょっと先で部下がまだあの連中を引き付けて戦っている、助けてほしい」

「戦闘継続中と。だとすると不思議だ。部隊を指揮しているはずの君が、使者としてここにいる理由は?」

「そりゃ――こういっちゃなんだが、あんたにとぼけられないようにするためさ。あんたとの契約、俺達がリスクを負ってるわけで……」

 

 もういい。

 

 素早く服の下から取り出したレーザーピストルを構えると、光の矢が3発。

 ミゲルと呼ばれていた頭のない死者は、何かを伝えようとする身振りのまま。崩れ落ちる。

 

 「終わりだ」そうサカモトが呟いた

 ミゲルとその仲間達(ミニッツメン)達はサカモトがクロダらへ知らせはしなかったものの、唯一の援護として用意した策であったのに。あろうことか、この無能な連中は上陸から失敗し、アキラに目的を見抜かれ。クロダ達にはまったく役にたたない。

 何ならサカモトの面目を潰すだけではなく足すら引っ張った邪魔な存在として――役目を今、終えた。

 

 もちろんミゲルの部下たちなどサカモトには知ったことではない。

 どうせこの島のスーパーミュータントらに追い回されているというなら、遠からず遊ぶのに飽きた彼らがきっちりと死体まで含めて面倒を見てくれる。

 

 気分をぶち壊されてしまった。

 サカモトは立ち上がったが。その視線は東の空へとむけられた。

 いつにもまして暗い雲の向こう側から、近くであれば間違いなく特大と評してもかまわないであろう雷の唸り声が聞こえてくる。

 

――またひとつ、終わったか

 

 考えていた以上にサカモトの帰還予定は早まりそうだった。

 

 

==========

 

 

 自分にしては珍しい話だけれど、時間の感覚がなくなる宇宙と違い。これから帰る地上には朝と夜があるわけで、今がどんな時間であったか。手元のピップボーイを見ればすぐにわかることなのに、確認していなかった。

 

 だから普通に立っていただけなのに、いきなり足の裏が滑って盛大にひっくり返ってしまった。

 こうなると予想もしていなかったせいで両足を振り上げ派手に――それでもなんとか背中から――地面に叩きつけられ、うめいた。

 

 痛覚に耐えながら見上げる空は――なぜかおかしな色をしていた。

 空を覆う雲からは雨が降っていたが、なのに太陽とは違う不思議な明るさがあって時間を認識できない。いや、もしかして視覚異常をおこしてる!?

 

 不思議に思いながら、口と鼻から一気に空気を吸い込むと。

 いつものような海や人の暮らしを感じるような匂いとは違う。土?泥?とにかくいくつもの匂いが混ざっている不快なもの生ごみのようなもので胸いっぱいにしてしまう。

 

 おかしい、僕はファー・ハーバーへ戻ってきたんじゃないのか。軽いパニックを覚える中、痛みが引いていくのを感じ。だが痛みが消えるまで待てず、僕は強引に立ち上がろうと手近にあった木の机に左手を伸ばす。

 

 

 それはもっと冷静であったなら、決してやらなかった迂闊な行為だった。

 いきなり指先に痛みを感じると同時に、机の向こう側からアキラの腕に飛びついて噛みつくのは幼生のマイアラーク達。腕を甲羅で覆い隠さんとするようにびっしりと張り付いてきた。

 

 あまりに俊敏で、恐ろしく獰猛に噛みついてくる様に恐怖を感じる。

 このままのんきに食われたくわないので、”肉を削られている”感覚に背中に悪寒が走る中、急いで立ち上がると僕は無言のまま片腕を振り上げ、机を真っ二つにするつもりで思いっきり叩きつける。

 

 

 まだ完全には引いていない体中の痛みと、新しい痛みが。パニックや恐怖をコントロールする役に立った。

 顔をあげた僕の目と耳に入ってきた映像――それは怪物たちが人間を餌として貪る、狂乱の宴が開かれていた。

 ファー・ハーバーの猟師たち、町の住人らは口々に咆哮し。迫ってくる海生生物らを振り払ってる。

 

 マイアラーク種が中心となってるのか。

 他にはハーミット・クラブ、ガルパー、虫などの姿を確認した気がした。

 

 

 僕はそれを悪夢だと考えず、必死で現実だと受け入れようとした。

 だが穏やかな別れから、いきなり地獄の最前線に叩き落されるというのは。簡単なことじゃない。

 

「ま、マジかっ。先日の報復ってわけじゃ……」

 

 厳しい目の前の現実にエラーを吐き出していた脳は再起動をはじめるも、体は硬直したまま。ただ惚けたかのように突っ立っていた。

 狂乱の宴の中で、そんな間の抜けた奴を見つける奴は必ずいるものだ。

 

 僕の死角から横滑りにマイアラークハンターが滑り込む。ちょうどお互い、僕は口を開いたまま、顔を見合わせて一瞬。噴射益を顔面に直撃した――。

 

 

==========

 

 

 煉瓦の壁を突き破ってきたアキラは、勢いのまま壁際までころがっていく。

 家の中の壁に寄りかかり、片膝をつく彼は。「オエエエエエエっ」と床に茶色な液体を吐き出していく。

 噴射益は右顔面を焼き、同時に口の中にも入りこんでしまったのだ。

 

 大ダメージにショックから体を震わせ始めたアキラは、しかしそこでも嫌なものを見てしまう。

 

 アレン・アシュリー。

 いつも不機嫌に、アキラたちを島の外の人間だと繰り返し挑発し。恐怖と不信感から視野が心の狭さが、不穏の言動と行動を繰り返していた。

 

 そいつが小さ目なマイアラークののしかかられ、巨大なあぶくにも見える蠢く幼生の群衆に。やや”生きたまま”突かれ、貪られていた。

 室内を様子から扉が何重にも閉じられているようだ。ということはひとりでここに立てこもったのかもしれない。

 しかし床下を破壊してマイアラークらは侵入。閉じられた家の中に自分一人しかいなかった……そんなところか。

 

(こいつら。この野郎っ……)

 

 だとしても自分だって状況は最悪、ひっくり返ってバカやって。大ダメージで痛いやら不快だわ。

 しかも宇宙から持ち帰った武器は腰につるしていたレーザーガンだけで、剣はこの大騒ぎでどこかにいってしまっていた。

 

 だがここが武器屋をやっていたアレンの店の中なら何かあるかもしれない――さっそく床になぜかピッチフォークが一本転がっている。

 

 それに手をのばそうとしてアキラは自分の体の異変にも気が付いた。

 濃い目の霧とおかしな天候ではっきりとは見えなかったが、幼生達に憑りつかれた片腕の傷口の下が光りだしてる気がする。そうなると鏡がないとわからないが顔と口の中も似たような状態になっているのかもしれない。

 

 だがそれについて考える暇もない!

 

 振り上げたピッチフォークを思いっきり振り下ろす。貪ることに集中してこちらを気にしなかったマイアラークの背中の殻が音を立ててくだかれる。3本の突起は体を貫くだけではなく上下に引き裂き。そのまま動けなくなっていたアレンの胸板をも貫いた。

 

 それまで魚の様に声にならない口を動かしていたアレン・リーは生命の最後の呼吸を終え、死んだ。

 これが僕の慈悲、だというつもりはない。生半可に生き残られてはこの後、僕がすることがやりにくくなるから死んでもらったのだ。

 

 乱暴に家の中の棚を叩き落しながら目的のものを探す。

 火炎放射器用の燃料を見つけると、それをアレンとそこから動こうとしないマイアラークラの上に振りかけ。そばに墜ちていた燃えている板を放り込む。

 

 カニになれなかった幼生共の悲鳴は耳に心地よく。

 アキラは武器を求め、アレンの家の中をさらにひっくり返し始めた。

 

 壁に掛けられていたM79グレネードランチャー、改造されたスーパースレッジ、ハープーンガンが気に入った。

 ほかにも大小武器はそろっていたが、全てをここから持ち出す時間はない――。

 

 縄の取っ手が付いた木箱に乱暴に手ごろな武器や弾丸を放り込む、とりあえずこれでいいか。

 いつの間にか、痛みを全く感じていないことに気が付いた。呼吸は落ち着き、頭の中は信じられないほどはっきりとしている。

 いつもの吹き上がる火山のような怒りはないが。冷酷に全てを狩りつくすという決意だけが明確にあった

 

 外の雨が小降りになってきている。

 

「……ぶっ殺す。ぶっ殺して、終わらせる」

 

 反撃が、この殺戮の役回りには変更が必要だ。

 それは今から、ここからはじまる。

 

 

==========

 

 

 アレンの家にある崩れた壁の中が気になって張り付いていたハンターが。不自然に後方へと吹き飛ぶようにしてすべると、すでに絶命していた。

 アキラの放ったフレシェット弾が、エビのような体の中を文字通り粉砕して貫いていったのだ。

 

 アキラは外へ出てくると、手当たり次第に攻撃を開始した。

 

 ハープーンガン独特の発射音のたびにアポミネーションたちは悲鳴を上げることなく体を粉砕され、次々と絶命していった。その影からは、信じられないという表情の人間たちがいて。アキラの姿を見た。

 

「立てぇ!武器はこのアレンの家にあるぞっ」

 

 リロードしている自分の横を通り過ぎようとする数人の中から、アキラはアレンの取り巻きだった若者に声をかけた。

 

「お前!お前が彼らをまとめるんだ」

「えっ、俺が!?」

「まだ生きている連中がいる。助けていけ、お前たち自身も互いを守れば大丈夫だ」

「そんな無茶な」

「出口はない!数が減らされたら全滅するだけだ。今は戦って生き延びろ――大物がいるな。どこだ!?」

「港の奥だと思う。最初に扉をぶっ壊して入ってきたから」

「なぜそっちに行った!?」

「戦えなかった――女、子供なんかが集められて。あんたの仲間も」

 

 言われてアキラはようやく留守番組の事を思い出した。

 そうだ、なんてことだ。うっかりしていた――クソ、キュリー。まさか来ていないよな。


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