次回投稿は下旬くらい。
暗い意識の向こう側から機械の音声が聞こえる。
意識が戻ってくるのと同時にひんやりとした皮膚が、暑さと冷たさの微妙な間に戸惑っていることを感じる。宇宙に放り出された僕は”不思議な出来事”がおこったおかげでキャプテン達の乗る船に無事に回収され、今は治療中だが船は順調に地球への帰還の道を進んでいた。
その治療ががどうやら終わったらしい。
まぶたを開かせ、医師のような顔でエドガーが僕の顔を覗き込んでくる。
「お、目が覚めたね?」
「どのくらい寝て――」
「61時間だ。君は問題ないといってたけど、こちらの診断通り。たいした重症者だった、それでもまだまだ足りないけど」
確かにそれは事実だった。
宇宙に放り出され、地球から持ってきた武器――獅子樺武!まさかこんなことになるなんて――をすべて失い。ダメージは肉体だけではなく精神的にもかなりきていた。
でも強がっていればなんとかなる。ずっとそうやってきたからと僕は問題ないふりをしようとしたが、キャプテンは馬鹿な若者の意見なんて聞くつもりはなかった。トシローと一緒になって叩きのめされ、地面に激しくキスした記憶は残っているが。あの時の痛みはどこにも残っていない。
「不思議なものだろ?これは冷凍催眠療法というもので、ここで作り出した治療法なんだ。。眠って、凍って、魔法をかけた後に解凍されるだけで回復する。簡単に説明するとそうなる」
「本当に回復してるみたいだ。かなり手荒に寝かしつけられたはずなのに」
「だろう?」
「60時間か――ということは、もう地球に戻ってきてる?」
「いや、まだ半日程度はかかるね」
「起こされたからてっきり……」
「そうそう人生は上手くは進まないものさ。君もそのうち学ぶ」
下着姿の僕は体を起こす。Vaultの施設で目を覚ました時は冷水でもぶっかけられたみたいに体は凍え、水たまりの中で横になっていたのをレオさんに発見されたんだっけ。
だが似たような工程を体験してきたはずなのに。今の僕の皮膚は冷たさを感じても、筋肉を動かすことに難しさは全く感じていないのが不思議だった。
「この治療で君は95%、完璧になっているはずだよ」
「95?完璧じゃない?」
「なにもかもスティムパックのように手軽にはいかないのさ。残りは時間をかけ、リハビリする。それだけだ」
僕は2本の足で床の上に立つ。
「……具体的にはどんだけ傷があって、治ったのか。教えてくれますか?」
「それはダメだ」
「なぜです?」
「――キャプテンの考えというのもある。僕も今は彼女の意見に賛成しているから、というのも」
「?」
意味がワカラナイ、どうしてダメなんだ?これは患者自身である僕の問題であるはずなのに、教えてくれないとは。
「君はもしかして地上に戻ってから自分で自分の体にメスを入れ、中にあるものをしっかりと確かめてみたいと考えたりはしなかったか?」
「……えっと」
「感心しないな」
大正解だ。
自分一人では不可能だからと、すでにキュリーに協力を求めてもいた。
「自分の中をのぞいて何を見つけるつもりだったんだ?」
「……」
「たしか君は記憶を失っているといってたね。その手掛かりがあると?」
「ないとは決めつけられないでしょ」
「君を”生かしている”技術からわかることは多くはないぞ。むしろ君のその勝手な思い込みは。怒り、憎しみを強くするだけだ」
「ほら、それでもちゃんと新しい情報が得られているじゃないですか」
この程度の指摘に、なぜか浮かべる笑顔が固く強張ってしまう。
何を怖がる、僕は。
「はァー……前回、ここに来た君は明らかに不安定だった。でも今回は――」
「今回は?」
「悪化したようだね。怒り、憎しみのために執着しているように見える。冷静とはとても言えない。冷静に見せかけることに慣れてしまったのかな」
悪いって、いやいやいや。
あまりにひどい言われように苦笑いしかないが。困ったことに僕の中から反論がすぐには出てこなかった。
「自覚症状があるんだろうね。でも、なにかをすると”悪いことになりそうだ”という感覚はあるんだろ?
それ以上のことを君が知って、どうするつもりだい?君の悪い好奇心から手に入れた、君に施されていた技術。それを知って、誰に、どう使うつもりだ?」
「いや、別にそんな風には考えないですよ」
「本当かい?君はVaultとやらから出てきた後、多くを学んだと言ってたろ。自分の体に作られた傷、それを支える技術を手にしても。それを秘密のままにするって?それを他者に使わない理由が明確にあるって?」
「逆に、逆に聞きますけど。僕はあの世界じゃよくいる狂った科学者みたいなことをすると思うんですか?」
「思うよ。なぜなら君を助けたあと、私もここで学んだ技術を君に使ったからね。
君も自分が技術者のはしくれだとわかっているのだろう?なら――」
――使う。そうか、僕はやってしまうのか
――連邦に恐怖を振りまく、あのインスティチュートのように
地上で言われたなら違う反応もしたかもしれないが。重力のないこの宇宙では、不思議と慌てるでもなく。落ち着いてそれを受け入れることができた。
自分で驚くほどの素直さではあるが――彼の言う通り、自分ですでにわかっていたことなのかもしれない。
「ふむ、どうやら自覚してたのかい?反発しない、素直だ」
「あなたには助けられっぱなしでした。反発だなんてそんな」
「それとも、すでに誰かにこのことを言い当てられた?」
「……そんなところです」
数日前、あの霧の島で不愉快な面会が実現した。
愚かにも僕は、自分の中の怒りをコントロールできず。相手を八つ裂きにしてやろうと企み、仲間に。友人たち全員に黙ってただひとりでその場所へと向かったのだ。
なのに……そこまで準備しておきながら、皮肉にもそこで血が流されることはなかった。それどころか、実り多い情報を取引きすることができた。
サカモトと名乗る、浅黒い肌なのに透き通るような青い目の男。僕は奴の思惑通りにしか、動けなかった。奴が取り出してきた取引をはねつけることができなかった。
「あまり嬉しそうではないね」
「僕は……とても大切な友人から影響を受けている。いや、その
「それで納得した?」
「いくつか心当たりがあった、それは確かですけど――それほど真面目に受け取ってはいませんよ」
嘘だ。サカモトという奴の言葉は僕の短い記憶の中の人生に、新しい視座を与えた。
僕は最初、自分に起こったのは肉体の変化。あの始めてレイダーと交戦し、銃弾を胸に受けたことだと思ってきた。
だが、違うかもしれない。
僕はその前からすでにおかしな行動をとっていた。レオさんと別れ、強気になってサンクチュアリから飛び出していった。住人達との不和をその理由にしていたが。あんなに極端な行動に踏み切る理由は、なかった。
それでも行動した理由。
僕はレオさんが連れてきた、新しい人々の――いや、家族を奪われたことで苦しみ、恐れていたジュンとマーシー。ロング夫妻からの敵意に反応してしまったのではないだろうか?
「実は僕らが今の地上から時々だけれども、ここに招くことがある。そんなに多くはいないけどね。
でもそのほとんど全員は、戻っていくと再びここに来ようとするなんて、まずしないものなんだ。前回、君を送り出した後。トシローのことがあったとしても、君も他の連中のようにここに来ることはもうないだろうと考えていた。
だが――違ったね。
あのQが君をここに招いた。そして君は、そのための準備までしていた」
「えっ、えっと」
「本当に僕らがまた、君をここに呼ぶと思ったのかい?」
「どうでしょう。なんかそんな気がした、他に言い訳もできません」
エドガーはそうか、とつぶやいて続ける。
「君の考える通り、君は誰かの手が加えられている。かなりヤバイのもそこにある」
「ええ、でしょうね」
「だけど君はそれを知らない方がいいと思う」
「使うから?なんのためらいもなく?」
「そう――君はまだ若い。あの地上に厳しい世界があっても、きっと夢があるはずだ」
ある。だがそれはとても誰かに聞かせられるものではない。
自分を苦しめてきた奴らを燃やし尽くすほどの怒りの炎。血は流れ、苦痛は途絶えることはなく、大地には動かぬ死体が積み上げられていく。
「だが夢は――言い換えれば幻ともいえる。幻を追えば、夢も実現することもあるだろう。
すると君は勝利する。勝利は君の予想通りの未来を与えるが。同時に余計なもの、別にほしくはなかったものまで手に入ってしまうものさ。
これが続くとどうなる?徐々に君の幻は危険なものとなっていくはずだ。徐々にではあるが、確実に君を逆に誰かの脅威にしていこうとする」
「……」
「これは助言だよ、アキラ。
君を脅威に仕立てるものは、必ずリスクとなって君に戻ってくる。幻は、夢は未来を予知するものじゃない。計算式のようにしっかりと割り切れないことばかりのはずだ」
「じゃ、もう立ち止まって考えろとでも?」
「そこまでは言わない。ただ、リスクが君の前に戻ってきたとき。君がそれから
そう言うとエドガーはディスプレイに誰かの内部写真を呼び出してきた。
「これは30前後、女性の体内映像だ」
「――キャプテン!?」
「うん、良い勘を持っているね。そう、これは君も知るキャプテンのものだ。
見ればわかるだろうが、普通の体とはとても呼べないものだ」
確かに変な形の内臓が見える。骨は自分も知っている、アダマンチウムでコーティングされている。
埋め込まれたようなプラントらしきものも複数確認した。
「彼女は昔、キャピタル・ウェイストランドの戦争の中心に立っていた。そこから生きのびるためにこれだけの代償を必要とした」
「……」
「君もわかってるだろ?もうすぐ君の住む連邦でも戦争が始まる」
「自分が化け物にされたことは忘れてしまえ、と」
「冷静になるなら今だと思うけどね。君は強いのはわかってる。だが戦争で生き残れるのは、目の前で起きたことに対処し続けることができる人だけだ。できないなら――それで終われる。君の妄執もそこで終わる」
「奪われた。傷つけられた」
「だがこれから始まる戦争も同じことをしてくる、アキラ。今の君から奪い、傷つけてくるんだ。
キャプテンのように、君だってあのB.O.S.が吹聴している”コントロールされた戦争”なんてものは信じてはないのだろう?それとも自分に都合がいいからと、今から宗旨替えでもしてみるのかい?」
僕に返せる言葉なんてなかった。
「どうすればいいんです?どうしたらいい?」
「答えは教えられない。だが君が失ったもの、奪われたものは君を救いはしないと思う」
「そんなことを言われても」
「君は賢い。冷静になって考えろ。まだ時間は少し残ってる、それを利用するしかないだろう」
そんな簡単なことなのか?そんな簡単で済ませられることじゃなかったじゃないか。
「正直、この話は厳しいものではあったと思うが。これを君に伝えて再び帰らせることができることを本当に喜んでいるんだ。というのもね、君はこの宇宙に死にに来たんじゃないかと思ってたから」
「僕の死に場所が宇宙、ですか」
「だが君は回収するまで”宇宙空間で生き延びた”サバイバーだ。なら、このくらいの新しい課題は持って帰ってもいいだろう」
彼らの認識の中では、僕は宇宙に投げ出されたのに生き延びていたということになっている。
あの巨大で透明なイカとなって僕を飲み込んだ
「うん、長く話してしまったね。とりあえず用意した部屋に戻って、普通のベットに横になったらいい。君は休むべきなんだ」
「わかりました――お願いします。あと、ありがとう。色々と」
エドガーは何も言わず、片手をあげていいんだと示すと。こちらに背を向けてコンソールに集中を始めた。
僕は素直に部屋から出ると、自分のために用意されたベットに向かって歩き出す。
心の中に不思議な清々しさと、奇妙にグロテスクな重い感覚に憑りつかれていた。
いつしかボヤけてかすみ始めていた僕の夢、幻想は見違えるほどにフィットし。明確な目標となって戻ってきてくれたというのに。気が付くとそこに向かう道は驚くほど危険で、僕はそのことに気が付いていなかったことが分かった。
もういいだろう。
今は疲れた、とにかく疲れたのだ。
地球に、連邦に戻るまでは。しばらく僕は休んでおきたい。
―――――――――
ファーハーバー島西部に唯一にして人が住みうる居住地になる可能性があるとされたエコーレイク製材所。
パラディン・ダンスとマクレディは、攻撃を前に勝手に離脱するケイト。そしてうぬぼれのひどい弱兵ばかりのミニッツメンたちをもちいなければならないと頭が痛いことが続いていたが。
彼らの想像以上に攻撃はうまくいき、勝利してしまう。
けが人はナシ。ただし死者は2名――製材所裏にある沼にマイアラークらを追い出しにかかった時。ひとり、勢いづいて膝の丈まで入ってしまったため。反撃を待っていたマイアラークハンター達に目をつけられてしまった。
沼の深い部分にまで引きずり込まれようとなり、その悲鳴と抵抗を助けようとした仲間が巻き添えを食ってしまったのだった。2人は特別仲が良かったわけではないとのことだが。ともに何とか引っ張り上げた時には、仲良く手足を失って絶命していた――。
とにかく任務は半分を完了。
あとはアメリアら商会が物資と人を連れてくれるだけ。だが、理想通りの未来はここまでだった。
占拠からわずか2時間後。
エコーレイク製材所はスーパーミュータントの襲撃をくらった。
土だ!土嚢をもっと運んで来い!
仲間に声をかけるミゲルからすでに建物の陰に必死になって這いつくばっている情けない姿で威厳なんてものはまったくない。だがその向こうがわ――崩れた建物の壁の外では、まさしく製材所の正門から撃たれてもひるむことなく、戦闘の喜びの方向をあげて走ってくる緑のモンスターたちが4人ほど列をなして突進してくる。
この場所への攻撃は、島の人間のアドバイスとダンスによって練られてものであったから、戦力がひとつかけたくらいでは破綻はしなかったものの。
その後にこうして横合いから飛び出して漁夫の利を求める奴らに対してだと、防衛側はつらくなる。
先ほどまではミニッツメンらしい仕事を”ほぼ”完璧にやってのけたと大喜びしていた連中も。すでに闇雲に撃っているだけ自分は仕事している、そんな状態になってしまっている。
――こんな時にあのクソ女っ
建物の2階からマクレディは役立たずの隣で舌打ちをする。
ここにケイトが加わる理由として、こういう状況にならないようにするためだった。あの赤毛の繊細な爆弾女は、こういう時こそ頼もしくなる。
相手がなんであろうとも向かってくる相手がいるとわかると物騒な笑みを浮かべ。頼まなくてもこちらから相手を引き受けてもらえる。
(やることなくて退屈、だったんじゃねーのかよ)
そう思いながら、ついに愛用のハンティングライフルから。ストックを切り詰めたレバーアクションライフルに変更し、物陰から立ち上がって撃っていく。
その頃、1階ではダンスは不愉快なものを目にする羽目になった。
パワーアーマーとレーザーライフルで弱兵達の前に立ち、奮い立たせんと奮闘する彼の背後に異変を感じたのだ。
先ほどまで縮こまっていたミゲルらミニッツメン達が、一斉に立ち上がると勝手に移動を始めたのだ。戦いを放棄し、敵に背中を見せて走り出していく。
ダンスはてっきり、わめいてばかりでは仕方ないとあのミゲルでも理解し。兵士のリーダーとしてあるべき責任を果たすため自ら行動を開始したのかと思ったのだが――。
現実は、ついに恐怖におしつぶされた若者たちは深い考えもなく。この居住地の反対側から逃げ出したのだ。
自分の背後から人の気配が消え、戻ってこないとわかると。今度は2階の方が騒がしくなる。
(逃げ遅れ、置き去りにされたのだとわかったようだな。運がない、だがそう簡単に逃げてもらうわけにはいかないからな)
マクレディの怒鳴り声と共に銃声の音が変わったのが分かった――。
「裏だな、回り込まれたらそれで終わる」
上のことは
ダンスは物陰にまで後退すると、そこから数発を正門に向けて発射。
次に回れ右をすると地面を揺らして走りだす。向かうは製材所の裏口、ボロボロの扉だ。
兵士としての勘が強引にやれ!と叫んでいた。
T-51のパワーはどれほどのものかはわからなかったが。裏口の壊れかけた扉めがけてショルダータックルを決める。
正解だった。
スーパースレッジやボードを手にしたスーパーミュータントたちが、狭い通路に入り込み。今、まさに扉を開かんとしているところに突っ込む形となったからだ。
『!?』
お互い声は挙げなかったが、反応は正直だった。
スーパーミュータントが戦いの開始の合図となる喜びの声をあげながら武器を振り上げる中、ダンスは片手でそれを邪魔しつつ。残ったほうの手にあるライフルを相手の腹に向けてトリガーを引く。
至近からのレーザーの連射は、さすがに強靭なスーパーミュータントの腹を裂いて内臓を通路にぶちまけていく。
「マクレディ!背後からも来てる、これ以上押し込まれるな!」
警告と指示を叫びつつ、ダンスは崩れ落ちていく相手の背後に控えたスーパーミュータントたちに猛然と向かっていった!
数時間後――。
アメリア・ストックトンの商隊がエコーレイク製材所のそばまで近づいた。
彼女はいつものようにバラモンを引く。荷物はこの島で必死にかき集めた資材に、汚れた顔のひと組の男女。そして数人の港の子供たちだ。もちろん護衛としてロングフェローとストロングについてもらっている。
彼らは無言だったが、ストロングが足を止めるとロングフェローが声をかけた。
「どうした、デカイの?」
「……」
「なにかあるのか?」
「ストロング 戦イ 匂イヲ感ジル」
「――この先か?俺たちの進む方角」
ストロングはそれには答えなかったが、悩ましそうな溜息を吐くとつまらなさそうに「デモ モウナイ」とだけもらし。再び歩き出した。
どうやらなにかありそうだとロングフェローは逆にライフルの安全装置を解除する。
アメリア達が製材所に到着すると、そこには少なくないスーパーミュータントたちの死体が倒れていた。
どうやらストロングはこれをわかっていたようだ。
そこには不機嫌な様子のマクレディとダンスが向かい合ってなにごとかを相談し。
彼らの背後には精魂尽き果てた様子のミニッツメンを名乗る若者たちがへたり込んで迎える形になった。
「おう、予定通りの到着だったな」
「オ前達 ズルイ!ストロング 戦イタカッタ」
「しょうがないだろ。ケイトの奴がバカやったせいで、お前をこっちに参加させるわけにはいかなかったんだ」
「弱イ奴ラ ト 交代シタ!」
ミニッツメン達と交代させればいい、ということが言いたかったようだが。それだけはできない。
どこまで信用していいのかわからない連中だったのだ、物資と人を預けるには信用ができない。
「大変だったようだが。見たところ数がだいぶ減っているな。死人が出たか」
「それならまだよかったぜ。死体はないぜ、なんせ腰抜けが泡食って逃げ出したからさっ」
マクレディが苛立たしそうに吐き捨てると、座り込んでいたひとりのミニッツメンが立ち上がっていきなりマクレディを糾弾する。
「お前だって仲間を撃ったくせに!」
「……なんだと?俺が仲間を、なんだって?」
「あんたが化け物に背中を見せるなら俺がぶっ殺すって言って――」
マクレディはそれ以上は言わせず、若者に近づくとライフルの銃床で重い一撃を食らわせ叩き潰した。
表情を変えずダンスはマクレディにかわりミニッツメンたちを諭していく。
「我々を置いて逃げ出す臆病者の裏切り者は仲間とは言わない。見事に戦い、生き残ったお前達こそ我々のが仲間だ。あいつらに価値はない、同じだと考えるな」
共に戦おうと戦場で並んだはずなのに。残った連中には餌として自分が逃げるだけの時間を稼いでくれよ、と飛び出していった卑怯者。
あれがこれからどうなろうとも、どうしようとも関係ない。
「今日、お前たちはミニッツメンとなった。兵士となったんだ。
それに誇りに持つべきだし、だからこそ奴らの扱いを間違えるな。もう、あいつらは違う」
「ヒーローをやめて負け犬になりたいなら止めないぜ。だが、次に顔を合わせた時。なれなれしい態度をとりやがったら、ぶっ殺してやる」
ミゲルらの逃亡は防衛戦では皮肉なことに陽動となってくれた。
正門の外から様子を見ていたスーパーミュータントたちは逃げていくオチョア達の追跡に数をわけてくれた。おかげで攻撃を押し戻すことで勝敗がついた。しかしだからといって感謝もしないし、礼など言うつもりもない。
偶然の産物、とはいえ。今頃は危険な森の中で追いかけっこでもしているのだろう。
そいつをわざわざ助けようなんて思わない。
「それでは、ですね。これからの指示を出しますね。
子供たちは私と荷物の整理、おふたりは何か使えるものが残ってないか探してください。ダンスさんは私が運んできたターレットの設置をお願いします。で、残りの人は見張りを頼みます」
「ふむ、それで俺たちはいつまでここにいるんだっけ?」
「5日ほどでしょうが、正確にはアキラ氏からのメッセージと共に
アメリアの言葉にマクレディは思った。
(アキラの野郎。てっきりアメリア嬢とよろしくやってるのかと思ったら、本当にひとりで行動してたのか)
勝手な話だがこんな小さな島の中で好きにやる、なんて言って雇い主がひとり姿を消したら。普通は浮気心でも沸いたのかと思うものなんだが。
正体不明のヤバイ奴らに付きまとわれているっていうのに、要人が足りなさすぎやしないだろうか。これは戻ってきたらしっかりと説教が必要だろう、護衛として。
霧の夜が迫るころ。
製材所に人間の手で光が戻り、ターレットが霧の中に敵の姿を求めて動き始めた。
この島に生まれた新しいキャプテン達が残した任務はこれでなかば完了したようなものだ。
―――――――――
宇宙船はそれから1日をかけて地球に帰還し。
僕はその半分を睡眠に費やした。
エドガーは医師としてあと半月ほどはここで体調を戻してもいいと言ってくれ、彼の隣にはそれをかなり強引に進めてくれる美人がいたが。僕は躊躇することなくそれを断った。
島の一部、気になっていたエコーレイク製材所に人の姿が見えると聞かされたからだ。
あそこでは終わらせることを多く残してきている。万全ではないかもしれないが、動けるなら早く戻ったほうがいい。
地上とは違うこの終わりの見えない広大な宇宙には魅き付けられるものや謎があまりにも多く。
そこにしかもう目を向けていない彼らと長く一緒にいることは、恐らくだが僕にとっては良いことになるとは思えなかった。
再び再会できるかはわからないが――僕は自分の戦いに集中するべきだ。
別れの時刻が近づいていた。
美人のパイロットからは改めて楽しい会話に、ムードも何もない強引なハグとキスをもらい。そしてなぜか泣かれた。とても困らされた。
エドガーからは医師として固い握手と感謝の言葉を送られた。彼には再び不安定になろうとしていた僕にはっきりとした謎を見つけ出してくれたことには感謝しきれないものがある。
サムライとの別れもまた、さっぱりとしたものだった。
僕が地上から持ってきた最初で最後の美味しくもない酒は全部飲み干してしまったそうだ。
――これでもう、何も思い残すことはないわ
とは本人の言葉であるが。あんな調子では死神もまだまだ素直には死なせてはくれなさそうだ。
彼は酒の礼だといって、出所の明らかではないひとふりの日本刀を差し出してきた。ナマクラだからすぐに折れるだろうが、人は殺すにはこれが必要だと言った。
僕の武器は宇宙に放り出された際にすべて失っていたので嬉しかった。
このまま島に武器も持たずに帰れば、拾った棒を片手に人の住む場所までおっかなびっくり歩くことになるんじゃないかと思ってた。
キャプテンともやはり今回も多くは語らないまま別れることになった。
早速もらった刀を背中に担いでいる僕を見ると苦笑し、「これはいらなかったのかもね」と言ったが。用意してくれた贈り物はちゃんと渡してくれた。
ひとつはエイリアンから手に入れたピストル型の
「これも貰いものですが、ナマクラだからすぐに折れるって脅かされてたので。これで本当に安心して帰れます」
「それは良かった」
もうひとつは収集家となったキャプテンが古い軍事基地で手に入れたという新兵器のデータと設計図。
彼女は「生きるために武器は触るけど、自分でわざわざ作ろうとまでは思わないから」いらないのだ、と。これも僕はありがたくいただくことにした。
「では私が送り返してやろう」
「Q!?」
「なんだ?お前がここに来たのと同じように、転送装置であの汚らしい世界に戻してやると言ってるだけだぞ。何を驚く、礼儀を知らないのか」
「いや、自称・宇宙人って義理堅いのかなって。ちょっと驚いたんだ」
「フン……お前は今回は役に立ったからな。だが、言っておく。期待したほどの活躍はなかった、失望することも多かった、お前を連れてくるべきではなかったかも」
「そんなこと終わった後で言われてもね」
シャトルごと吹き飛ばされたはずのこの宇宙人は、いつの間にかシレっとした顔でこの船に帰ってきていた。
キャプテン達もそれはわかっていたようだが、驚いてもいないところを見るとこれが最初というわけではなかったようだ。
個人的には、あの巨大な透明の体が正体なのか?確かめたい気持ちがあったが。
なんかそれを聞いたら、またここに連れてこられる理由にされるかもと考えてしまい。触れないことにした。
ところが問題の不審な大男からこちらの耳元に顔を寄せ、そのことに触れてこようとする。
「もうすぐお別れとはなるが。ひとつ気になることがある。
お前たち種族にあるその”ふしだらな好奇心”から、あの出来事について聞こうとしないのはなぜだ?」
「ふしだら?なんのことやら、よくわからない」
「フン、いいだろう。まだ知性と良識、品格がお前たちの中でも成長していると考えてやる」
「そうだね。さようならだ、自称・宇宙人さん」
「態度がなれなれしいな。気を許すとお前たちは途端に評価を落としてくる、なんと愚かな」
装置の上に立つと僕は目を閉じる。
耳の中にチリチリと空気がはじけるような音が聞こえ、わずかだが浮遊するような。不思議なあの感覚を味わう。
コンソールを操作するQがレバーで調整を終え、ボタンを押すと。
宇宙船からアキラの姿が消えていった。
ニュークリアスからの脱出は想像した以上に簡単だった。
レオからのメッセージを受けとったパイパーは、カールを連れて正面から堂々とアトム教徒の目の前を笑顔を浮かべて通り過ぎ、出ていった。
新しいタグデスのお気に入りのパートナーとペット。その認識が役に立ったということだ。
遅れて合流してきた
島の住人たちの情報から、そこはかつてヌカ・コーラ社と競い合ったヴィム社の所有する工場ということだったが。今では危険なスーパーミュータントが住み着く砦のような場所になっていると聞かされていた。
――なんでこんなところに行くんだろう
そこは噂にたがわず。やたらと興奮しやすい狂暴なスーパーミュータントしかいない場所であったが。
ブルーとカールは平然と正面から入っていくのにさすがにパイパーは戸惑ってしまう。
「ブルー、あなたが頼れるタフガイってことは知ってるけど。なんでこんなところに来たの?こんなおっかない場所にさ」
「――知っての通り。私はアカディアのディーマと合意し、アトム教へ潜入し、目的のもの――ディーマの過去の記録を見ることができた」
「うん」
「ここまで黙っていたことは悪かった。君にはちゃんと説明をするべきだったが、簡単に口に出せることではなかったんだ」
「別にいいけどさ。それで、何が見つかってここに来たのかを教えてよ」
「ここには謎を解き明かす証拠を探しに来てる。それが本当に見つけることができれば――」
「問題は解決?」
「というより、難しい選択を迫られることになる。期待している、と言ってもいい」
「ふーん、わかった。よく、わかんないけど」
そうやって少し拗ねて見せたパイパーだったが――。
ヴィム・ポップ工場、階段を下りたそこには不自然にコンクリートが剥がされ土がむき出しになっている。
だがその長方形の大きさにはどこか見覚えもあった。
――ここだ
2人が土を少し掘り起こすとすぐに棺桶の一部が姿を現した。
掘り起こして中をあらためると、そこには複数と思われる人骨とパイプピストルに弾丸、ホロテープが確認できた。
「ブルー、これが証拠?」
パイパーの問いかけにレオは答えない。代わりに骨に触れ、何かを確認する。
「……人骨は同じものが複数。おそらく3人」
「わかるの!?」
「ああ、女性がひとり。男性がふたり。骨に特徴がある。それに――」
「なに?」
「”証言とも一致”している。間違いない」
「なんだ。わかってたんじゃない」
パイパーは明るく声をかけたが。レオはますます難しい顔になって立ち上がった。
「ど、どうしたの?」
「ニックに、アキラとも相談することがたくさんできてしまった。情報は正しかった。これがここになければいいと思ったんだが」
「マズいの?」
「というより、さっきも言ったように難しくなった。
よし、危険だけど出来るだけ急いでファー・ハーバーの港に戻ろう」
「今?本気なの!?外はもう夜だよ」
「わかってる。出来ることならやりたくはなかったが――何か悪い予感がするんだ」
たどり着いた真実、そしてそれがもたらすであろう危険な未来。
どちらも震えてもおかしくない尾曾らしいものではあるが。戦場での経験から、こういう時こそ横合いから飛び出してきて殴りつけてくる、そんな経験は少なくなかった。
連邦でもそうであったように。
この小さな島でもレオもアキラも派手に騒ぎを起こしてきている。今まではうまい事、物事をコントロールし。申告に追い詰められかねないようなピンチはなかったが。
――そろそろ誰かの我慢も限界になるだろう
そんな風に考える自分がいる。
ならどこが一番危険だろうか、答えは実はすでに出ている。アカディアでカスミが見たという恐ろしいこの島の未来のひとつ。レオも、アキラも、友人たちも離れている今のファー・ハーバーの港だ。
「港が攻撃されるっていうの!?」
「わからない。そんなことにならなければいいのだが」
パイパーに答えながら、私は島で回収した古い携帯ランプに油を入れ、火を灯そうとする。
ピップボーイからマップを取り出し、ルートも確認。
「直線コースはできないが。今出れば、迂回ルートでも朝か、昼までには到着できる」
「深刻なんだね。わかった、こっちも覚悟を決める」
「大丈夫だ、そもそも無事に到着できなければ意味がないんだ。危険を冒すような真似はしない。そんなに気負わなくてもいいさ」
こっちがすこし深刻にし過ぎたのだろう。
パイパーがこれ以上不安がって体が硬くならないよう、笑顔で安心させようとした。
もうすぐ23時をまわったところだ。約10時間ほどの距離を、どれだけ短く出来るだろうか。
(人物紹介・設定)
・冷凍催眠療法
オリジナル。
文字通り、冷凍装置にかけて休止状態に持ち込み。回復手段をとってから、解凍するという技術。ある意味で主人公たちにとっては悪夢の治療法。
・地面に激しくキス
特に起こってないようだが、実はしっかり恨んでる主人公。
・キャピタル・ウェイストランドの戦争
Fallout3で起きた、キャピタルB.O.S.とエンクレイヴとの対立。
・ストロング
ケイトが離脱しなかったとしても、恐らくは攻撃に参加できなかった。
やはり会話をせず、生殺与奪の権利を誰かの預けるのはダメなのだ。