ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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思った以上にまとめるのが難しくて時間がかかってしまった。
当初の予定だと文字数2倍で2回に分けなくてはいけなかったという。それはさすがにアリエナイ。

次回投稿は来月上旬を予定。


カラー

――11年前、キャピタル・ウェイストランド

――テンペニータワー最上階

 

 タワーの最上階、テンペニーの私室のドアが開くと一組の男女が無言で入ってくる。

 片方は茶色の帽子に茶色と白のまじったスーツ。もう片方はVault101のロゴが入ったスーツだが、レザーアーマーが組み込まれた珍しい戦闘用のものを身に着けていた。

 

 挨拶も口にせず、無言の客人たちはそこに誰がいるのかわかっているらしく。

 部屋の中を無言で通りすぎるとテラスに出ていった。

 

「ミスター・テンペニー。ミスター・テンペニー?」

「ああ、私はここにいるとも友よ。おお、これはミスター・バーグだったのか。嬉しいよ」

 

 この時代では珍しい真っ赤な椅子に腰を掛け、赤いスーツを着た老人は穏やかな笑みをうかべる。

 

 戦前では高級ホテル。

 だがキャピタルのすべてがそうであるように破壊の後は廃墟となり果てすべては失われたものとなるはずだった。しかしアリステア・テンペニーはここに大金をつぎ込んだ。

 ひとりの野心家による傲慢さから作られた平和と安心、そして廃墟の中から復活した文明的な閉ざされた世界。こうしてテンペニー・タワーは誕生した。

 

 だが老人はそれで満足することはなかった。ラジオから流れるニュースで知った気に入らなかった相手に暗殺者を文字通り気分で贈ったり。テラスから見下ろす大地をゆっくりと進む豆粒のような”なにか”を自慢のライフルで狙っては当たるか試したり。

 

 常に深くは考えず、気分ですべてを決定する行為を繰り返す。決して満足することはない廃墟の中(キャピタル・ウェイストランド)の国王。

 

「君がここに誰かと来てくれたということは――」

「ええ、ご紹介します。このキャピタル・ウェイストランドの新たなヒーロー」

「初めて会うね。君の武勇伝はラジオがいつもわめいているから知っている。そう、確か”Vault101のアイツ”だったかな?私はアリステア・テンペニー。

 このタワーで静かにかつての文明の火を絶やさずにいる、滅んだ世界でも希望を忘れない気のいい文明人と思ってもらいたい」

「……」

「挨拶というものが世界にはまだ残っているのを知っているかね?自己紹介というものもある。

 今、私がやってあげたようなことだ。さ、君もやってみたらいい。ここでひとつ……」

「呼び方はどうでもいい。別に握手をする必要もない」

「――シンプルな関係がお望みと言うことか。なるほど」

「そこのスーツに仕事があるとしつこく誘われた。笑えない仕事だった」

「だが君は引き受けてくれた。そうでなければこの友人が君をこの部屋に連れてきたりはしない」

 

 老人の言葉には彼女は興味がないようで反応はない。

 

「ここに登ってくるまでで私のタワーの素晴らしさは知ってくれたと思う。この場所を私の手で成し遂げたことに誇りを持っているよ。

 テンペニー・タワー、この名前で再びこの世界に文化の火が残されたと示すことができた。

 

 だが同時に私はひどく心を痛めてもいるんだよ。この塔から見下ろす世界のすべてを見てほしい。

 ひどいものしかない。塔の中で平和と文明を味わってここに来るたびに――失望を感じてしまう。もちろん悲しんだりはしない。なぜならこのタワーの繁栄は今も、この先の未来にも続くのだからね」

「失望、って言葉が重要ってわけか」

「君は良い勘をしている。そう、この世界は常に失望が繰り返される。私はそのたびに新しい決断を下す。今回もそうだった」

 

 そこまで言うと、いきなり立ち上がり。そばに置いてあったライフルを構えてスコープをのぞきこむ。

 老人というには鋭い動きだったが男女は驚くこともなく。かわりにこの老人が塔の頂上から見渡せる荒廃した景色の中に何を見たのだろうと首を動かして探ってみる。

 

 老人は目標については何も言わず。「よーし、よーし」とつぶやくように繰り返すばかり。

 10秒後、発射音と共に火を噴いた銃口が直上に跳ね上がった。

 

「ハッハー!」

「――当たった。はぐれロボット」

「これからはただのガラクタだ。私はこの廃墟の中から危険な狂ったロボットをゴミにしてやった。良いことをした、気分がいい」

 

 ロボットを撃った、とは言ったがそれが狂ったロボットだったかどうかなんてこの距離でわかるはずがない。

 だがこの老人にはそれでいいのだろう。

 

「ああ、話が途中だったね――そう、気になっていたんだ。

 この偉大な塔から見える、あの頭のおかしいふざけた鉄くずの山。それを町だと言い張りのんきに住んでいる人々。ああ、そんなものがそこに存在するだけでこのタワーを侮辱している」

「と、思ったわけね。それが理由?それで――」

「そう、吹っ飛ばすんだ。彼らが目の前に放り出しているものがなんだったのか教えるついでに」

 

 そう言いながらテンペニーはライフルをわきに置き、再び椅子に座る。今度はミスター・バーグが手に持っていたアルミケースを老人に差し出した。

 

「このミスター・バーグとは最近友情を深めあっていてね。色々と相談に乗ってもらっていたんだが、このことについても当然私は相談していた。

 地平線に見えるあの不愉快なものを除去したい、とね。

 

 最初はどうしたらいいのかわからなかったが話しているうちに、ふっ……とね、アイデアが」

「驚くべき、画期的なものでした。ミスター・テンペニー」

「ありがとう、ミスター・バーク。

 そう!自分でも驚いた。あの鉄くずの中にある核爆弾はまだ生きていて、それは当たり前のように危険であるということ。ほら、もうわかるんじゃないかな?」

「お望み通り機能は復活させてきた。でも爆発させればあの町の人々は死ぬわ」

「ああ、それについては心が痛む。人間ならば誰でも犠牲に心を痛めるもの。だがそれでいくつもの問題も同時に奇麗に吹き飛ばされるのだから、この選択肢を無視することはない。つまり問題はないというわけだ」

「犠牲者が聞いたら泣いて喜ぶでしょうね」

「そうであることを期待しよう。さて、それではさっそく見てみようか」

 

 老人に渡されたケースは核爆弾を操作する機能が備わっていた。老人は輝くような笑顔を浮かべながらためらうことなく機能を復活させ、最後のボタンを躊躇することなく押す。

 

 地平線の先で轟音が響き、遅れて衝撃波が大地を駆け抜けていく。

 真っ青だった空は赤く染まり。不気味な黒いキノコ雲がモクモクと地上から立ち上がっていく。そしてこの瞬間から人々は思い出すのだ、世界を破壊したものはなんであったのかということを。

 

「はははっ、面白いものが見れたな。

 だがこうなるのも時間の問題だった。この厳しい環境の中でいつもおこっている自然淘汰――」

 

 快哉をあげる老人とビジネスマンの間で”Vault101のアイツ”は素早く動いた。

 饒舌に語る老人のそばに近づいたと思うと腕を動かし、すぐにその場から数歩離れた。なんの疑問も持たない、不自然ではあってもこの時ならば誰も気にならないような些細な動きだった。

 

 次の瞬間。

 爆発音とともに衝撃によって体を引き裂かれた老人はテラスから飛び出し、空を舞い。地上へと堕ちていく。

 ミスター・バークは体をこわばらせて何が起こったのか必死で理解しようとした。

 

「こ、殺したのか。糞爺ィを、アリステア・テンペニーを!」

「仕事は終わり。だからこっちの用を済ませただけ」

「用を済ませただって?」

「WinーWinの関係でしょ。クソ仕事を引き受けて、クソ野郎を始末する」

「テンペニーは大金持ちなんだぞ!」

「聞いてる。でも『問題はない』でしょ?」

「なぜ殺した!?」

「理由は本人が言ってたじゃない」

「なに?」

「ラジオ。スリードッグの放送で最近取り上げられているのはこの”Vault101のアイツ”。あのクソ爺ィはメガトンを吹き飛ばすくらいに不愉快に思ったからそいつに暗殺者を送り続けた。ニュースが報じるたびに何度も、何度も」

「あっ、あっ」

「自分が暗殺者を送っている相手に汚れ仕事を依頼するなんてね。脳が腐りかけたグールだってそんな馬鹿なことは考えない」

「クソがっ、俺の未来はオシマイだ!どこが――」

「そういえばあんたも相談に乗ってたんだって?」

「あ?」

 

 ビジネスマンは女が自分にむける目に危険な輝きを宿していたことに気が付く。

 

「老人に言われて今回みたいに力を貸したんでしょ?タロン社にわたりをつけた」

「そ、それは私じゃない!」

「死ぬ前のジャブスコはそうは言ってなかった」

 

 なぜか彼女は――”Vault101のアイツ”はそう口にしながらミスター・バークからも距離を取ろうとする。

 その意味に気が付き。ハッとなったミスター・バークは慌てて自分のスーツのポケットに手を突っ込むが。そこには覚えのない”なにか”異物が入り込んでいて。思わず握ってしまったバークの手の中でカチッと音を鳴らしてスイッチが入ってしまったようだった。

 

 再び上がる轟音と衝撃、そして宙を舞う複数の人間のパーツ。

 それらは前と同じように散り散りになって地上へと消えていく。すべてが終わっても彼女は不愉快そうな表情を浮かべたまま、やっぱり無言でタワーをあとにした。

 

 

 数日とたたず、テンペニーと”Vault101のアイツ”の悪行はスリードッグのニュースで流れる。

 

「Vault101から来たアイツは名前をクソ野郎に改めたくなったらしい。ここで悲しいニュースと、嬉しいニュースだ。

 

 まずは悲しいものから。

 信じられない不幸な事故が起こったんだ。ああ、そうだ。みんなも知っての通りそこにはメガトンが、町があった。

 そして世界を破壊した爆弾がひとつ、そこにドカンと居座っているのもみんな知っていた。悲しいことにそいつがついに自分の役目を果たしてしまったらしい。このGNRからも確認できたキノコ雲は、あの町のそばからだったといくつも知らせが来ている。

 

 次に嬉しい話。

 奇妙なことにずっとあの町の事を気に食わないと公言していた。あの偉そうなアリステア・テンペニーは友人と一緒にご自慢のタワーの頂上から空を飛ぶことに失敗したそうだ。

 鳥に羽は生えているが、人間にも、あのスーパーミュータントにも羽は生えてない。これは子供でも分かる話だが忘れてしまったらしい。

 

 さて、ここで俺はこの2つの事件になにかしらの不正行為があったと思ってる。

 どちらも誰かが、何かの理由で。ひどい汚れ仕事をやってのけたってハナシだ。自分の心に手を当てて問いかけてみてほしい。みんなも考えてみてくれ。

 

 事件が起きたその場所に。なぜ、あの”Vault101のアイツ”の姿があったのかってな!!」

 

 真実は明らかにされることはなかったが、沈黙を守ることもなかった。

 常にはヒーローと”Vault101のアイツ”を賞賛するあのGNRのスリードッグが、公共の電波で彼女を叱る数少ない放送はキャピタル・ウェイストランドに暮らす人々の記憶にしっかりと刻み込まれたという。

 

 

――――――――――

 

 

 そこは広大な荒野、廃墟。

 キャピタル・ウェイストランド――。

 

 キャプテンは2キロほど歩いたところにいるからとだけ言われ、僕は目を閉じ。風をほほに受け、体の間を吹き抜けていく音が聞こえるようになって目を開けると。すでにそこは地上の世界へ――あっという間に地上へと戻ってきていた。

 だが、ここは連邦とは違う場所だ。積み上げられるガラクタと残骸の山。鉄や土を焼くくすぶり続ける炎の匂い。連邦にはあった細い木々はここには一本も見当たらない。どこまでも続く荒野の世界。

 

 アキラはピップボーイが示す方角に向かって歩き始めた。

 

 噂には聞いていたが、ここには本当に何もなかった。

 そしてマクレディはここで生まれて育った。

 

 野良犬、狼、モグラネズミとはここでも仲良く出来ないことがわかった。

 いつもであればきっちりと皮をはいで骨と肉まで回収したいところではあるが死肉はその場に残していくことにした。

 襲われながらの旅という、久しぶりの感覚を楽しみながら目的地へと着実に進んでいく。

 

 

 そこでは昔、爆発があった。

 クレーターが物語っている。戦争の後でも、全く関係ない時に。そこにはあの核兵器があったから。

 そこには昔、町があった。

 マクレディはひとつの町が偏屈な爺さんの機嫌で吹き飛ばされたんだろうと皆が噂していたとか言っていた。真実かどうかはわからないと言いながらも、彼もまたそれを疑うことなく信じていた。

 

 そこには今、新しい町がある。

 ガイガーカウンターは小さく鳴り続けてるのに。押しのけられるように積みあがった瓦礫の山を壁として。クレーターに沿って半球状に広がる穴の中で人々はそこでの生活を当然のように爆弾があった時と同じような生活を続けていた。

 

 マクレディは言っていた。

 そこは『名前のない町』。だが皆はニュー・メガトンと呼ぶことをやめようとしないって。

 

 

 クレーターを囲む瓦礫の壁の一部だけ開かれていて、そこがどうやらこの町の入り口だとわかった。

 瓦礫の壁は一見無理をすればなんとなく越えられそうな気がしないでもなかったが。少し手をかけ、足を突っ込むと壁はもろく崩れ。ガチャガチャと大きな音もたつことから。もし大勢がここを包囲しようとすると中の住人たちに気づかれて騒がれてしまうだろう。

 

 町の入り口には呑気にパラソルに寝椅子。机の上には食べかけのシュガーボムと飲みかけの水のボトルが置かれている。

 一回りしてきてから町に入ろうとするとアキラに「なんだやっぱり入るのか」というような目をした保安官が寝椅子から立ちあがると邪魔をしてきた。ここはいつも通り、味のついたメンタスが役に立つはず。顔を伏せ素早く準備する。

 

「――こ、こんにちは」

「ここになんのよう?」

「人を、人を訪ねに。友人……いや、知人の方が正しいのか。ここにいるって聞いたんで」

「そのお友達をあたしが呼んできてやるって言ったらあんたどうする?」

「あー、お願いできます?」

「お断り。トラブルもお断り。あんた、マトモそうには見えないからやっぱり町に入るのもお断り」

 

 この短パン姿の保安官はよく肥えた中年の女性。

 手には改造した警備棒、腰にはピストル。よくは見えないが寝椅子のそばにはサブマシンガンらしいものが見えたような気がする。

 サングラスで表情を読ませようとせず、声は義務というより事務をこなしているようだ。

 

 僕はこのまま陽気で礼儀正しい青年を演じ続けることにする。

 

「銃は持ってます。ここは危険だからそれは当然でしょう?でもだからってあなたとあなたの町で騒ぎを起こす理由とは言えない。争いは嫌いなんです、あなたを困らせません」

「可愛い態度じゃないか……ん、あんたVault居住者なのかい?」

「え、はい。わかるでしょ、ここにVault88って書いてある」

 

 正確にはVault88の監督官を示すVaultスーツなのだがどうでもいいか。

 

「聞いたことのない場所だね。どこにあるんだい?」

「連邦です。中央から南寄り――聞いたことあります?」

「ないね」

 

 そりゃそうだよな、連邦でもまだ知られてない場所だ。

 むしろこんな遠方まですでに噂だけが伝わってきてると言われたら、そっちの方が驚きだ。

 

「そうなるとあんたがここに来た理由ってのは。”Vault101のアイツ”か?」

「ええ、そうです」

「入んな。繰り返すけど、トラブルは御免だよ」

「了解です。保安官」

 

 町の中はバラックや鉄くずを組み合わせただけで中が丸見えの家が多く、いくつかはどこからか持ってきたらしいコンテナをいじって住居にしているものもあった。

 さて”Vault101のアイツ”こと彼女はどこに住んでいる?

 

 クレーターの底に続く道を歩きながら街の様子を探っていく。

 マクレディの話ではキャピタルでも連邦と変わらず人々は自分たちの生活のそばにグールを近づけることを嫌っているという話だったが。この町では人の中にグールも少なからず存在していた。そのかわりあちこちから怒鳴りあう声が聞こえてくるが。これがこの場所の普通、ということなのだろうか。

 

「おやおや、これは珍しいお客さんだ。こんなに目つきの悪い中毒患者をここに入るのを許すとは、今日は嵐でも来るのかもしれん」

「太陽を隠す雲は、まだ見えてませんね。いい天気だ」

「若者が老人のジョークを理解できることは嬉しいね。ああ、Vault居住者なのかい。それなら納得だ」

 

 穴の底である中心部にたどり着く前に、頭頂部が禿げ上がった眼鏡で炭鉱夫姿の小さな老人が僕を見て声をかけてきてくれた。

 

「トラブルはおこさない、そうなんだろ?」

「もちろんです」

「そうであってほしい。ここで騒ごうとする奴の運命はだいたい決まっているからね。とにかく、礼儀正しくまずは挨拶から始めようか。ニュー・メガトンへようこそ」

「――えっと、話に聞いたんですが。その人の話ではここは”名もない町”だって」

「ああ、それは間違いじゃない。だが、皆はここをそう呼びたがっているのさ。違う名前にしようって声もないわけじゃないが、ガイガーカウンターを掲げればこれ以上ぴったりの名前はないと皆、わかってる。時間が必要なんだろう」

「これも聞いた話なんですが。キャピタル・ウェイストランドでもグールは集まって町を作ってるって。ところがここにはかなりのグールがいるのはなぜです?」

「それも間違ってはないな。以前にあったメガトンはその名前の通り吹っ飛んじまった。そういう、いわくがあるせいで人もグールも、主に変人達ばかりが集まってくる」

「問題はおきない?」

「毎日がトラブルだらけさ!ここにくるまでだってあちこちで怒鳴り声が聞こえたろ?でも銃声も死体もなし。そこがいいところだと思ってるね」

 

 確かに罵り声が聞こえてはいるが。銃声は一発も聞こえてないし、死体を運んでいるところも、処理しているところも見ていない。

 

「放射能が怖くないんですか?グールになるとか」

「ああ、似たようなことはよく言われるね。グールなんかそばにいさせたら、人間を餌だと思って皆食われるか仲間にされちまうってね。でもそういうのはもう昔の話だよ。

 このキャピタルでは汚染されていない地域なんてほとんどないことはわかってる。確かに10年ほど前に核爆発がおこったここは他よりも少し放射能は高く残ってはあるが。

 実際はどこも、そこがキャピタルならほとんどかわりゃしないんだ」

「それじゃ、店もグールがやってたりするんですね」

「ああ、モイラの店の事かい?あそこはあまり勧めない。扱ってる品も値段も悪くはないんだが、厄介な主人の性格が問題で騒ぎをよくおこす」

「町から追い出さないんですか?」

「グールのくせにアンダーワールドからも叩き出されたっていう有名人でもあるからな。あんた知ってるかい?そんなモイラは人間だったころから作家をしてる。ウェイストランド・サバイバルガイドって――」

「ああ!連邦で見たことがありますよ。かなり奇妙だったけど、面白い本だった」

「彼女が熱心に自分で売り込んだ作品だ。彼女はその後も新作を出してる。そっちはまだ連邦にはしられてはいないのかな」

 

 新作だって?それは知らなかったな。

 

「なんて本です?」

「タイトルは『Vault101のアイツ』。このキャピタルでは知らないものはいない、今はこの町に住んでいるひとりの女傑の物語だよ」

 

 なるほど、それは面白そうな本だ。

 本人の住居を探す前に、買い物をする時間くらいあるといいんだが。

 

 

――――――――――――

 

 

 彼女の家はクレーターの外円部にあった。

 なんといくつもの階段で組み上げられた鉄くずビルディングの持ち主だったのだ。近所の人の話では、誰かに部屋を貸しているわけではないというからひとりで住んでいるのだろう。

 

 入口では男性用ボイスのMr.ハンディが応対してくれた。

 どうやらホテルマンのルーチンを与えられているようで会話はスムーズに、礼儀正しくすすめられた。最悪の場合はプログラムをハッキングして案内させようかと思っていたのだが、「知り合いで会いに来た」と伝えるとすんなりと中へ案内してくれたのだ。

 

「館長、お客様がいらっしゃいました」

「――おやおや」

「どうしますか?帰ってもらいましょうか?」

「いやいい。仕事に戻って……彼とは確かに”知り合い”だから」

 

 良かった。あの日、わずかにすれ違っただけといってもいい僕の顔を彼女は覚えてくれていた。

 お茶にしようと言われたが、なぜか冷えたヌカ・コーラを手渡されてしまった。僕の好みを知っていたのだろうか?

 

「それでなんでここに?キャピタル・ウェイストランドに興味があった?」

「……お屋敷に住んでるとは知りませんでしたよ」

「部屋が多いだけだよ。ロボットがいるのは尋ね人の処理と、嫌いな掃除をやってもらうため」

 

 僕はあえて的外れな感想から会話に入った。

 つづいて現在の連邦の状況、僕やレオさんの近況を伝えた。2時間近く、ほぼ一方的には話し続けると。僕には2本目のヌカ・コーラが必要になっていた。

 彼女は新しいそれを僕に渡しながら疑問をぶつけてくる。

 

「ひとついい?君の話に出てくる中で、このキャピタルから来た傭兵っていうのは――」

「マクレディです。ロバート・ジョゼフ・マクレディ」

「ふふっ、あの坊やか。驚いた、本当に連邦に行ってたんだね。息子を捨てたわけじゃなかったわけか」

「え?え?息子って――マクレディに子供がいるんですか?ってことは結婚してる!?」

「うん。聞いてない?」

 

 知らなかった。知らなかったぞ!

 子供だけが住む洞窟で暮らしてて、そこでは銃の腕が認められて市長を嫌々やってたとか。外に出てからは傭兵やってたとは聞いたけど、家族がいるとも結婚したともあいつは言ってなかった。

 

「家族を捨てた?マクレディが本当にそんなことを?」

「そう思ってた。子供はビックタウンで彼の友人たちが面倒見てる。病気を患って動けないんだ」

「――そう、でしたか」

「おかしなことを聞かせてしまったかな。あの坊やとは、昔から色々あった。でも自分の子供に言った通り連邦に行って君と出会ったっていうなら、まだあの子にも希望があるのかもしれない」

「どういう意味です?」

「本人に聞いて。自分の事じゃないし、全部を知ってるわけでもないから」

 

 この女性は僕とはまた少し違って、饒舌であることを好まない。

 だが決して不愛想とは思わせない穏やかな強さといったらいいのか。そんな魅力を持っている。不思議な女性だ。

 

「気を悪くしないでほしい。こういうことにはかなり敏感なんだ」

「わかりました。大丈夫です」

「――10年くらい前、君くらいの頃。ここは今以上に危険な場所だった。坊や――マクレディとはその時に出会った。生意気な小僧だった、懐かしい……。

 他にもいろいろなことに首を突っ込んで回ったせいで、有名人って言われるくらい名前を売ってしまったけれど。別にそうなることを目指していたわけじゃない」

「ああ、そういうのわかります」

「君は自分に似ているのかも。有名人だったけど、善人ではなかった。馬鹿なこともやってた」

「本になるくらい?」

「ええ、本にされるくらい。モイラの店に行ったんだ。彼女から変な依頼されたんじゃないかな、ご愁傷様」

 

 作者様のサイン入りのそれは今回、僕が連邦に持ち帰る大きな土産のひとつになる。

 

「モイラの書いた本の内容なら話してあげる――Vaultから父を追うように脱出した女はキャピタル・ウェイストランドをくまなく探して回った。ひどい目にあってばかりで、何度も死にかけた。でも運がよかったからこうしてまだ生きてる」

「はい」

「父を失い、エンクレイヴとキャピタルB.O.S.の争いに関わった。最悪の時だった。

 テンペニーってふざけた爺さんがいたんだ。残骸の中に残ったホテルを大昔の時代の頃みたいに復活させたとびっきりの変人。ラジオが”Vault101のアイツ”のニュースを知らせるたびに暗殺者を送り付けてきた。特に理由もなくね」

「は?」

「訳がワカラナイでしょ?

 最初はこっちも怖くて近寄らないようにしてたんだけど――最悪の時にも同じようなことをしてきたんで我慢できなくなった。ちょうどピットから戻ったばかりだったし、イライラしてた」

「まぁ、そういうこともありますよね」

「今なら馬鹿なことをしたって思うんだけど、テンペニーに簡単に近づく方法が思いつかなかった。で、深く考えずにメガトンを核で吹き飛ばす計画に参加した。町ひとつ、住人全員を殺す計画に」

「……キツイですね」

「でも上手くいったんだ。テンペニーは思った通りナルシシズムの強い奴で、仕事の仕上げだからと直接会って一緒に見ようと言ってきた。チャンスはそこしかなかった」

 

 過去に後悔しているのだろうか?でも彼女の様子からそうは見えない。。

 

「ホラ、自分は見ての通り小さいし。顔もそこそこ整ってるからナメられることが多かったんだけど。実は小さいころからひどい短気で喧嘩ばっかりしてた。だから君には正直に言うけれど――メガトンに悪いとは思ってないんだ。

 彼らは忠告しても核爆弾の前でのんびりしていたし。その――飛び出したVault101がダメになってから、そこの住人達からも逆恨みされるようになっちゃってね。メガトンで家を買ってたけど、邪魔ものみたいに思われていて」

「ああ、なるほど」

 

 確かに僕と似ているようだ。

 ミニッツメンではとかく僕は問題児で、敵に回らないならいつ出て行ってくれても構わないと思われてる。

 

「ここに住処を戻したのは、別に町を再建しようとしたわけじゃないんだ。別にひとりでも構わなかった。

 戦争が終わった後。今度はキャピタルB.O.S.とこじれてしまった。そこでも厄介者扱いされるようになった。

 

 元々はリオンズ親子との関係で付き合ってたっていうのもあったからさ。手を切ればいいだけ、後悔はやっぱりしなかったな。でもそうなると新しい問題が出てくる。『さて次は何をしよう?』」

「それがこの町?」

「違う――町ができたのは、たまたまだよ。

 家を作ってさ。集めたコミック読みながら考えている間に、馬鹿どもが何人もここにやってきた。戻ってきたのもいる。最初はレイダーを真似して返り討ちにした連中の首かなにかをそこら辺のオブジェにして怖がらせてた。

 

 するとなぜか違う人が集まってきて、数年で勝手に町を作ってしまったんだ。なぜか自分もそれに協力したってことにされてる、なにもしなかったのに」

「ああ、そういうこともありますよね」

「最初にこの家の事を聞いたね?

 実はここは新しい博物館にしようと思ってるんだ。まだ準備中なんだけど。キャピタル・ウェイストランドに残された不思議なものを集めて展示する。どう思う?」

「それは――興味深い計画ですね」

 

 短気で危険な戦闘狂が考えた新しい目的が博物館――見た目と実力のギャップに負けない夢だ。

 

「これも昔話なんだけど、リベットシティに博物館をやっている老人がいたんだ。

 別に面白そうとも思わなかったんだけどさ。彼が死ぬとスカベンジャー達があそこに押しかけて展示されていたガラクタを奪い去っていってしまったんだ」

「そんなことが起きたら町は大騒ぎになったでしょう」

「ところがそうじゃなかった。リベットシティはその頃には傭兵がいなくて、スカベンジャーたちの好きにさせたんだ。理解はできるよ、どうせガラクタだ。自分の命を懸けてまで守ってもしょうがない」

 

 傭兵がいない――マクレディはキャピタルのB.O.S.とはうまくやれないと吐き捨てていた。

 キャピタル・B.O.S.は、エルダー・マクソンは自分たちが管理する土地に傭兵がうろつくことを嫌っていたということと関係があるのだろう。

 

「で、あなたが次の博物館長になる?」

「どうなるかはまだわからない。新しい噂を聞いたら出向いてみる、するとここに何かを持ち帰る。それの繰り返し。昔の旅と同じでも目的は少しだけ違う、ここが大切なんだと思って――」

 

 会話の最中、いきなり背後で扉が乱暴に開閉される。

 僕の手はホルスターから銃を抜き、彼女はそばに立てかけてあったライフルに手を伸ばしていた。だがどちらとも不振の目をそちらに向けるだけ。騒ぎはおこらない。

 

 それもそのはずだ。

 扉の前にはあのQがいた。なぜか来たばかりだというのに、もう怒ってる。

 

「なにをつまらない話をダラダラと続けている!宇宙に問題がある。だから行け、たったこれだけの言葉はいつになったらお前たちの間に出てくるんだ!」

「……盗み聞きしてた?外に聞こえるほど大きな声じゃなかったのに」

「いなくてもそんなことはわかってる!お前たちはこの星の住人だろう。なら、お前たちのための忠告をなぜ聞かない振りができる。いい加減にしろっ」

「不愉快そうなのはいつもの通りじゃない。Q、それと女性の家に勝手に入るのは失礼よ」

「ハー、もうわかった。根負けした、私がおまえたちにお願いしてやろう。全くおかしな話だがなっ。

 お願いだ、このどうしようもなく理解の足りない原住民共よ。お前たちのため、お前たちの星のために宇宙で戦ってこい。どこに誰がいるのかは教えてやったんだから」

「うーん、キャピタル名物の料理を食べた後でもいいかな?」

「冗談だろ?ここまで言わせて、まだそんなことを口にするのか」

 

 僕の希望は却下されるらしい。

 

「状況は良くないぞ。だが、あとはお前達次第だ」

「急に他人顔になった」

「彼はいつもそう」

「真面目に話もできないのかっ!」

 

 どうやらキャピタルに来た目的は果たされたように思える。

 キャプテンは宇宙へ翔び、このアキラもそれに同行する。この壊れた世界で知られることのないスターウォーズが始まろうとしている。

 

 

――――――――――

 

 

 クロダはキジマとの連絡を完全に断った。

 だがニュークリアスから出ることもしなかった。

 もはやアトム教に残ることなど無意味。しかしここを離れるということは全てを失う逃亡の旅を始めるということで、そうなれば自分の運命はひとつしかない――。

 

 ノーラという自分が生み出した人造人間と快楽にふける日々。

 だが、自棄になったわけではない。彼なりにある程度、覚悟が定まってきたということだ。

 

 計画は失敗しつつある。だが、まだチャンスは残されているはず。

 あのフランク・J・パターソン Jrはほぼ間違いなくこのニュークリアスに来る。そこにはアキラもいるはず。

 アキラの目を盗んで目標を狙うことは簡単ではないことだろう。なによりアキラ自身とクロダが直接対決する可能性は捨てきれない。

 

 だがクロダは決めたのだ。

 アキラを殺してでも、最初の目的は必ず仕留めようと。

 

――その結果を組織は決して認めることはないだろう。

――それどころか、こちらの意図を察知して先にこちらを叩き潰しに来るかもしれない

 

 こうなるとキジマとの協調はむしろ邪魔にしかならない。

 そもそもあいつだってそのつもりでいたならば、この場所にクロダにかわって自分が入ると主張していたはずだ。勝手な話かもしれないが、もう相手を気にしていられるような状況ではないのだ。

 

 

 そんなクロダの最後の意地はあっさりと打ち砕かれてしまう。

 

 

 キジマの予告よりもはるかに速くフランク・J・パターソン Jrはアトム教徒の女と犬を連れてニュークリアスにやってきた。そこにはなぜかアキラはいなかった。

 そしてあろうことか奴は気難しいテクタス贖罪司祭を相手に能天気に「ここには興味があったので体験しに来た」と言い放って見せたと聞いた。

 

 クロダのこのチャンスはいきなりニュークリアスのアトム教徒にひっくり返されてしまう。

 

 テクタスはこのような気分屋の信徒を激しく嫌っていた。

 ただでさえ普段から信者の適正を気にするような男だ。レオのような態度から信心を探ろうと彼ご自慢の入門儀式に送り出してしまったのだ。危険な森の中をさまようことでアトムと会合するという正気とは思えない儀式、”普通の人間”であればこの時点で運命は決定したようなものだ。生きて帰れるはずがない。

 

 だがこの男は一晩を過ぎて戻ってきた。

 森の中で影と出会い、不思議な祭壇まで案内されたと正気とは思えない体験も口にしたらしい。

 

 テグタスは自ら送り出し、帰還を果たした新たな信者の誕生に大変喜んだそうだ。そしてこの新人をすぐに自分のそばに置き、重用しはじめる。

 

――なんだこれは

 

 クロダは苦笑するしかなかった。

 来た時と同様に、同じ場所で寝起きするはずが。数日で司祭の側用人として採用されてしまった。クロダやノーラに会う前に、自分たちと同じはずのこの新人はクロダの手に届かない高さまで飛んで行ってしまった。

 

――これがアキラの”資産”の力か

 

 人とは思えぬ恐るべき強運の持ち主。

 そしてキジマがクロダにもたらした予測は正しかった。レオ暗殺計画は、やはり始まる前から失敗が運命づけられていたようだ。クロダは身動きすることもなく結局はすべてを失ってしまった事になる。

 

 圧倒的な運命の流れ、それに介入することすら許されない。

 

 ついにニュークリアスにとどまる理由は消滅してしまった。

 ではどうする、どうしたらいい?

 

 答えのないむなしい時間の中、クロダはいつしかひとり。ニュークリアスの外で放射能を帯びた霧の中で心をさまよわせている。すると――。

 

「よかったら、少し話さないかい?あそこにある席でどうだろう」

「――え」

「さぁ」

 

 まるでこちらを知っているというような笑顔でなれなれしく言われクロダは戸惑う。

 昨日までの彼であればこの瞬間こそ待ちわびた時と冷静に飛び掛かることも考えただろう。だが今は……。

 

 怪しまれぬよう、いぶかしげな表情を浮かべ。それでも離れることなく、示された席についてしまったのは失敗か。

 

「私はフランク・J・パターソン Jr、おそらく君は知っていると思う」

「なんのことかわからないが。ここでは同じ新入りで――」

「クロダ。君の事を知っている」

 

 心臓が凍り付く経験というのは楽しいものではない。

 クロダのようにあらかじめ計画をその通りに進めたい奴にとってはそれはなおさらだ。

 

「いや、俺は――」

「自分をごまかす必要はない。アキラから君のことは聞いている。

 だが、もう知っているんだろ?彼は……アキラはここには来ていない。君は彼に会いたくなかったんだよね?」

「……」

 

 心臓がバクバクと激しく脈打っている。「今すぐにでも飛び掛かって首をへし折れ!」と叫ぶ自分がいる。

 すると急に冷静さが戻り始め、誰もこの近くにはいないかと軽く周囲の気配を探った。

 

 異変はすぐに探知できた。

 本当に小さくはあったが、どこからかこちらを見て警戒する獣特有の唸り声。このわずかな間に扉を抜けて静かに刺客の外、クロダの座る背後に移動しながらピストルを構えている女の存在。

 これでは動いた瞬間には邪魔されてしまう。

 

 これ以上はとぼけていてもしょうがない。

 

「俺の名を知っているのはなぜだ?」

「さぁ?君の友人、コンドウ君から聞いたのかも」

「ふっ、冗談を言うな。アイツはそんなことはしない。だがアキラが知っているはずも――」

「……」

「ああ、ああ。そういうわけか、わかった」

 

 会話することで急にすべてが整理され、今の状況に至ったカラクリも鮮明に見えてきた。

 サカモトだ。奴が、どうやったかは知らないが自分やキジマを売ったのだ。

 

 そもそも奴はアキラのそばにいるレオには近づくなと忠告して以降もなぜか観察者を真似るようにこの島にまでやってきていたのはなぜか?

 クロダらの計画が崩壊する瞬間を利用し、アキラに自身の安全を含めて会見を申し込んだに違いない。

 

 だとするならここにアキラが姿を見せず。この男からこちらを見つけて接触してきた理由も明らか。サカモトはクロダ、キジマらの処理を決める一方で、アキラとは何らかの取引を行ったというわけか。

 

「ペットと女がいれば俺に勝てると考えるのは、無謀とは思わなかったのか?」

「コンドウとの殺し合いからそうは考えていないが。君が望むなら――今、この場で殺してやってもいい」

 

 余裕の表情は崩さないか。ならばこれならどうだ?

 

「俺も女がいる……ノーラという女だ」

「そうか」

「ずっと抱いている。いい女だからな、飽きることはない――興味はないか?」

「ないよ。

 どうせそれは君が用意した人造人間なんだろ?Vault111で眠る私の妻の姿を見たんだろう。

 ちなみに聞くが、まさか私の妻の遺体になにかしたなら正直に今言ってもらいたい。すぐに殺してやる」

「生きている女より、死んだ女が大切か?」

「違うな。その死んだ女というのは私の妻だった女性だ。

 お前たちの下品な遊びで生み出された人造人間とは別のものだ」

 

 余裕は残していても、言葉の中にある激しい憎悪は煮えたぎる溶岩のように熱いものだった。

 もはや解凍することもできない死体などに興味はなかったが。ここでつまらない挑発でもしようものなら、目の前の男はその本性を見せるつもりらしい。

 

「アキラから聞いたというのは嘘だな。

 お前がアキラから聞いて予想したんだろう。我らが死んだ女に何かしたとわかった時のために」

「復讐鬼を演じ続けることはどれほど哀れであるかは自分がよくわかってるからね。

 友人としてはアキラには自分の憎悪と怒りに執着してほしくない。そう、私のようにね」

「自分の都合というわけか。大した友人だな」

「あの若者は頭が良すぎる上に真似するのが好きだ。だからこちらも大人として、こうやって狡猾さで太刀打ちしないと」

 

 表情を変えることの少ないクロダが珍しく本心から笑顔を見せる。それは少しばかり苦みが含まれてはいたが。

 アキラがこの男を気に入っている理由が分かった。投げやりであるくせに、それを強引に大胆不敵に見せていく力を持っている。味方であれば頼もしく、敵であれば本当に手ごわい相手だろう。

 

「最悪、ここで2人で会う機会があれば。間違いなくこの手で終わらせようと、そう考えていた」

「今はそれに近いかもしれない。試してみるかい?」

「ふふん、冗談はやめろ。俺はもう終わりだ。

 俺の情報についてアキラはもっと多くのことを伝えたはずだ」

 

 あのサカモトが今更こちらにチャンスを与えようとするはずがない。

 クロダやキジマが牙をむいた時、どのようなことに気を付けたらいいのか情報を与えなかったはずがない。

 

「だがそうなると逆に疑問がわく。なぜ、こんな会話を望んだ?

 お前なら自分が有利に戦える状況を用意して、俺をそこに追い込めば殺せたはずだ。事実、お前が俺に接触してこなければ間違いなくそれは可能だった」

「私はアキラと少し違って狡猾だと言ったろ?

 実は君に相談があって、協力してもらおうと思ってる」

「何を馬鹿な――」

「テクタス贖罪司祭に近づいたが、私の狙いは彼ではない。

 このニュークリアスにある指令センターで眠っている巨大な記録にアクセスしたいんだ」

「指令センターならもう出入りできてるだろう」

「ところが人の目があって自由にはさせてもらえない。私はそこで少しいたずらをする必要があるんだ」

「なるほど。テクタスにつきあって狂信者の縛り首には付き合いたくはないか」

「彼が自分と同じ信者たちをどうしようが構わないんだけどね。その銃爪は別に誰かにだけにぎらせるのを待ってたと言われても困るんだよ」

「――俺が本気でお前と協力するとでも思うのか?」

「価値がないと捨てられたエージェントの運命はひとつしかない。だがそこに至る前に選べる選択肢にかわったものがあるなら、もう一度考えてもいいかもしれないとは思わないかな?」

「普通なら断る」

「なら君はもう私やアキラにとっても、君のお仲間にとっても何者でもなくなる。邪魔さえしなければね」

「考える時間が欲しい」

「残念だけどお互い、そう何度も出会う必要はない間柄だ。返事は今貰おう」

「それがどんなものでも、か?」

「決めればいい。好きにできる、今ならね」

 

 なんという皮肉か。

 自分がここまでコケにされるとは。

 

「では聞かせてくれ、クロダ君」

「……ああ」

 

 クロダは天を仰いだ。

 放射能の霧で穢された世界はこの負け犬になにも教えてはくれなかった。




(設定・人物紹介)
・アルミケース
どこぞの土地ではバラまかれていた核発射制御装置。
設定されているコードが認証されていればボタンひとつで爆発できるようになる。

・面白いものが見れたな
元の日本語版では削除されてしまった話題の不謹慎クエスト。
海外版では実際にメガトンを消滅させ、テンペニーに気に入られる展開があった。

・名もなき町=ニュー・メガトン
Vault101のアイツが作った家の周りに人が集まってきてしまった新しい町。
もはや核爆弾は存在しないが、メガトン消滅によって改めて作られたクレーターに人々が集まってきている。
元メガトン住人、元Vault101の住人、元レイダー、グールで構成されている、オリジナル設定。

・保安官
太った中年の女性。設定でアマタ、にしてた。
Vault101崩壊後、この場所で和解したのかもしれない。

・怒鳴り声
本当は服飾店兼床屋のリーゼントの店主と客のグールの会話があったのだが。長くなりすぎたためにカット。店主は元トンネル・スネークのヘッドだった。

・モイラ
Fallout3をやった人なら必ず忘れられない狂気の存在。
だが彼女がVault101のアイツと共に書き上げたウェイストランド・サバイバルガイドは大ヒットしたらしい。連邦でも読むことができる。

・ビックタウン
子供だけが住む洞窟で大人になると、この町に移動して生活することが決められていた。

・違うな
あまりはっきりと描写することをさけていたが、レオはアキラと同じような人造人間肯定派ということはない。それがアキラと違ってレールロードと接触する機会がなかった理由でもある。

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