ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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アカディア再訪

 夕刻、太陽の存在を感じさせないまま再び闇に沈んでいく島を僕は建物の屋上から眺めていた。

 過ぎていく日々がこれほど陰鬱で終わりのないもののように感じては、確かに正気を保つことは難しいだろう。

 

 聞いた話以上に、ここにきて数日。劣悪な異常気象の原因は何かと考えると、それはそれで楽しそうなのだが。

 しかしだからといって謎の解明に心を捕らわれるほど魅力のある場所ではない――。

 

「……ん?」

 

 気が付くと、いつの間にかキュリーがいた。

 

「ごめん、気が付かなかった」

「いえ、なんだか考えているみたいでしたから。声をかけにくくて」

「――連邦も楽しい場所ってわけじゃなかったけれど、太陽を見ない日ばかりというのがさ。そういえば僕の記憶にはあまりなかった、と思って」

 

 なに感傷的になってるんだ。ケイトに聞かれたらしばらくはからかわれてしまうくらいに、恥ずかしいことを口にした。

 そういえば彼女はなにか話があるのではないだろうか。僕から「なに?」と聞く前に彼女の方から口を開いた。

 

「アキラ。あの、あなたの体を見てほしいと……」

「答えが出たんだね?」

 

 彼女の顔もまた曇って、僕は彼女の悩みの深さを感じた。

 

「医療研究者として、興味がないわけではないのです。あなたの力にもなりたいし。でも……その、どうしても無理なんです」

「ごめん。無理を言ってるかもとは思ってはいたんだけど」

「方法はちゃんと考えることはできるんです。本当です、ちゃんとわかってます。でも――」

 

 このままだと泣き出してしまいそうだった。両腕で自分を抱きしめるように、小さくなっていく。

 なんだか話をしているだけで僕が彼女を苦しめているみたいで、それがまた今はちょっと、キツイ。彼女の腕に触れ、もういいのだと止めさせる。

 

「ちゃんと考えてくれたなら、それでいいんだ。

 これは誰にでも話せることじゃなかった。だけど自分だけじゃ解決できそうになくてやっと君にだけ相談した。話せただけで十分だったよ」

「ごめんなさい、アキラ」

「謝らなくていいんだ。とんでもない悩みに君を巻き込もうとしてしまっただけなんだ。

 君はもうロボットじゃない。命令をただ実行しなくちゃいけないわけじゃない。それはわかるだろ?」

 

 だが彼女の顔は悲しそうなままだ。

 

「ですが、アキラ。私は自分に失望したことは間違いないのです。

 以前の自分であれば冷静に対処できたことなのに、今はできないなんてこと。その理由がまったく納得できないんです。これでは私――」

「そこまで深刻に悩んでいたの?」

「笑わせようとしても駄目です。これはさらに深刻な問題だったのです。あなたを傷つけるから怖い、こんな意味の分からないことで私の技術は意味を失おうとしています。あなたを助けられる、私の分野(フィールド)であるはずなのに」

 

 まずいことになった。

 冷静な研究者として協力を求めたはずなのに、なぜか彼女は自己分析を始めてしまったらしい。思わぬ展開に僕は動揺してなぜだか誰かに助けを求めるように周囲を見回してしまうが、こまったことに誰もいなかった。僕以外にはいないのだ。

 

 夜が深まってきて、いっそう陰鬱な気配が強まっていた。よし、まずは空気をかえないと。

 

「参ったな――そこまで深刻に受け止められるとは思わなかった」

「ごめんなさい」

「だから謝らなくていいんだよ。たださ、思わぬ展開になって、びっくりしてて」

 

 うまく言い出せないから、事のついでに勢いと縋る気持ちで助けを求めはしたが。

 絶対に協力が必要だとか、こんな風に自分への自信が揺らぐほど動揺させてしまうつもりはなかった。おかしな話だけれど、ちょっとだけ恋人らしく。少し弱気な部分を吐き出すのを知ってもらいたかっただけなんだが。

 

 女性の扱いは難しい、そういうことなんだろうか。

 奥さんや子供がいるレオさんならもっと上手に話をまとめられたのだろうか。

 

 振り返れば記憶の中では最初の女性はわけのわからないとんでもない女性だった。

 きっかけも、手続きも全部吹っ飛ばし。深いつながりができても、結果的には片方を破滅させてしまった。

 

 いや、自分まで負の感情に悩んじゃいけない。

 穏やかな人生を、楽しく優しい恋愛をしたかった。そんな自己愛にひたってどうする。僕だって助けは必要だが、人造人間として生まれ変わったキュリーにはそれ以上に助けが必要なのだ。それを忘れてはいけない。

 

「信じてほしい、キュリー。君は考えすぎているんだ。

 確かにあの騒ぎの直後にいきなり告白して、とんでもないことを頼んだのは最悪だったよ。でも、それくらい馬鹿をやった後じゃないと僕は君に話せなかった秘密だった」

「そうです。それは間違いありません」

「君は考え、答えを出した。返事も僕に伝えてくれた、十分だよ。

 確かに僕には厳しいものではあったけれど、それは仕方がないんだ。君を苦しめたいわけじゃない。巻き込みたかったわけでもない。

 そこまで深刻な話じゃない。別のアイデアならきっとあるはずだし自分でどうにかするさ」

 

 笑顔で伝えることができた。

 だがすまない、確かに別に道はあるが。それが”正気”とは思えないことまではもう君には言えない。

 

「私の決断は、間違ってないと言うのですか?」

「ま、相手との関係次第でこういうことはトラブルになることもあるけど。僕らはその――恋人ってやつだろ?」

「はい!」

「う、うん。その、つまりだね。互いに尊重し、これからもこれまで通りに仲よくしようってことで」

 

 ああっ、薬を飲みたい!

 他人の顔をかぶって、饒舌に詐欺師のように彼女を安心させて終わらせたい。そんな話になっている。

 

 本屋から回収した焼け焦げたロマンス小説にあったような、恋人同士の甘いセリフとやらでなんとかできるのか!?

 今の自分だとそんな宙返りじみた行動力も、台詞も思い浮かばないぞ!

 

 率直に言えば考えすぎるな、馬鹿になれ。リラックスすることを学べ、で終わる話なのだが。賢い彼女に侮辱されたと思われずにどう納得させたらいいのか。

 キュリーとの関係は、僕の隠したいポンコツぶりがさらされているようで妙に気恥しくさせられてしまう。

 

「ごめん、何話してるのか自分でもわからなくなってきた。整理させてほしい……」

「はい」

「よし、わかったぞ。

 始まりは僕の秘密を君に知ってもらいたくて、ついでに解明に力も借りれないかを話しておきたかった。それは達成。

 次に君は僕の頼み事を真剣に考えてくれた。命令とは処理せず、自分にできるかを問いかけ。できないと結論が出た。でもそれは悪いことじゃない。

 君は僕の申し出を命令とは受け取らなかったし、理解もしていた。だから自分で考えて答えを出した。それこそ人造人間――というか人としての正しいやり方だったと思う。それができた君が誇らしいよ、キュリー。つまりこれも達成している」

「なんだかあなたの方がロボットみたいな言い方ですよ?」

「茶化さないで……とにかく僕らは、なにかを乗り越えられたんだと思うんだよ。

 それは最高ではなかったかもしれないけれど、悪いものではない。僕と君になにも問題がないとなったら、次に来るだろう”なにか”にむかって前進できる。こういうのでどうだろうか?」

「それは例えば、私のこの腕や指を失うと。ロボットのように簡単に修理はできない、ということですか?」

「――どうだろう、正しいかな?いや、きっと君の言う通りな気がする。うんうん」

 

 正しかったのか!?いや、間違ってはいないはず。

 お互い、なぜだが急に気恥ずかしくなってきたのではなかろうか。叫んでその場から逃げ出したいのにそれもしたくない、そんなわけのわからない感情!

 

 なのに自分にあるのは先の小説の中の完全無欠な男達の女を喜ばせる台詞と、出会って無言の3秒後に襟首つかまれてベットに引きずり込まれる過去の女との経験しかない。最悪だっ。 

 

「君は今も優秀な医療学者のままだ。自信を持ってほしい、とにかく――もうこの話は終わっていいかな?」

「そうしたいのですか?」

「君はそうじゃないの、続けたいわけ?」

「アキラがそうしたいというなら、キュリーは命令に従います」

 

 なんだ、この扱われてます感は。

 と、いきなり彼女にキスされた。

 

「え、なに?」

「あなたから評価をもらって、思ったことを私も行動してみました。確かに悪くはなさそうですね」

 

 そう言うと彼女は別人膿瘍に明るい表情でにっこりと笑う。

 あれ?もしかして彼女にからかわれたか。

 

 

――――――――――

 

 

 翌日早朝、ニックはマクレディ、ディーコンを連れてある場所への偵察に向かった。

 ダルトン・ファームである。

 

「偵察、ねぇ。農場なんか何が楽しくて見に行くんだか」

「朝から若者がぼやくな。なにもないならすぐに戻れる」

「俺たちはもうひとつパワーアーマーの回収が残ってる、後回しか?」

「片方はなにもなく手に入ったんだ。もうひとつも楽にいくかもしれない。この偵察で何もなければ、な」

 

 ニックはレオと再会したとき、彼がやはり本気なのだと知り。

 ため息と同時に機械の体なのに――武者震いのようなものが走るのを感じた。とんでもないことがこの島で始まろうとしている。

 

 すると当然だが、問題点もさっそく浮かんでくる。リストの先頭にしるされているのがダルトン・ファーム。

 あのロングフェローが感情を隠した濁った眼と鼻で笑った後、その名前を口にして教えてくれた。

 

 ダルトン・ファームは――元農場は海岸沿いにある広い敷地だ。

 ニック達はそこから離れた場所にある丘の上から覗き込むようにして観察を開始する。先ほどまで嫌そうだった2人だが、見下ろす光景に息をのむと黙ってなにか手掛かりを得ようと探っていく。

 

「凄いな、あれは始めて見たぞ」

「冗談だろ。2体もいる」

「ああ、そうだ。かなり刺激的な場所さ」

 

 皮肉に答えつつ、ニックも再びそれを見やる――。

 

 土台から崩されているかつての家屋。

 かつては農夫たちに耕された土の上には作物が必死に太陽の光を求めて並んでいたはずだが、それはもうない。

 

 かわりにそこには嫌悪するほど集まって立っているマイアラーク達と、その中心で子をいつくしむ親のようにそびえている2体のモンスター。

 地元の人間はフォグクロウラーと呼ぶ危険なやつらしい。あれはマイアラークと同じく普段こそほとんど動くことはないが、攻撃するとなるとその体を信じられない速さで動かして追ってくるのだそうだ。。あの全身を覆う固い鎧と巨体を生かしたパワーの塊を相手にするには、たしかにパワーアーマーがなければやりたくはないだろう。

 

「まさか俺のボスとレオはあれを掃除するって言ってるのかよ?」

「今日ではないがな」

「なるほど、あの2人らしい話だな。相変わらずどちらもイカレてる」

 

 ぼやきは出るがさっそく攻略も考え始めていた。

 

「殻が固そうだ。俺のライフルじゃ抜ける気がしねぇ」

「次は餌役はやりたくはないな。アレに追いつかれたら、バラバラにされそうだ」

「老いぼれ探偵にその役が回ってこないことを祈っておくかね」

 

 彼らの言葉を聞きながら、ニックは改めてあの2人――Vaultからきた異邦人たちがやろうとしていることの困難さに心を痛める。

 それが可能か、不可能かが問題ではないのだきっと。

 

 彼らを自分たちが止める言葉がないことが、一番の不幸であり問題なのかもしれない。

 

(こんなことを始めればすぐにどうなるかわからなくなる。お前さんたちにだってそれはわかっているんだろう?)

 

 達成不可能な任務、今のあの2人にはこの言葉の意味を理解することができないのかもしれない。

 

 

――――――――――

 

 

 レオはさっそくアヴェリーに協力を求めようと、パイパー、キュリー、アメリアらを連れて港を訪れる。

 だが今日の港はいつもの”騒がしさ”を取り戻していた。

 

 それはいつものように港の門でおこっている。

 不信と怒り、憎悪の中心にキャプテン・アヴェリーとアレンが。拘束されたアトム教徒を前に対峙していた。

 緊迫した空気が、これからよくないことが起こりそうだとはっきりと告げている。

 

 私はパイパーに目で合図を出し、ほかの2人を港に入れると。近くの住人のそばに立ってその耳元で何があったのかと聞いてみる。相手はこちらの顔を確認せずに、小さな声で事情を話してくれた。

 

 今朝、いつものように水を汲みに行った町の住人たちは。浄化ポンプのそばに立つアトム教徒を見つけて捕らえたのが事件の発端となった。

 最初は「なにをしていた?なにをするつもりだったのか?」を問いただしたかっただけなおに。いつしか尋問は感情的になって怒鳴りあいとなり、アトム教徒が以前より不調を起こしていた浄化ポンプに、実は細工をして港から人々を”解放”しようとしていた、という思わせぶりな言葉を吐き出したことで一気に悪化したらしい。

 

 なんてことだ、心の中で呟くが。私の目はもう一度周囲の様子をうかがった。

 

(仲裁は無理か――)

 

 ショットガンを握るアレンを止めるアヴェリーだけが最後の理性となっているのは明らかで、それも限界が近い。

 周囲の人々の目にはすでにはっきりと恐怖が浮かび、アレンの暴発が彼らの希望であることは明らかだった。

 

「落ち着きなさい、アレン。彼はまだ犯人だと決まったわけじゃない。あなたの言葉に反応して挑発した可能性だってあるんだ!」

「だからなんだっていうんだ!?こいつは俺たちを殺そうとしたんだぞ、アヴェリー。本当はあの狂ったアトム教全員が関係していたかもしれないんだっ。これは計画的な攻撃ってことになる」

「本気で言ってるの?戦争でも始めるわけ?」

「俺を狂人みたいに言うな!俺はただ、俺たちを殺そうとしたと言った奴に報いを受けさせるだけでいい。今はな!」

「アレン!」

「そう、こんな風に!」

 

 銃が火を噴き、笑みを浮かべたままその時を待っていた肉と骨が砕けて飛び散った。

 同時に周囲の人々から安堵する空気が匂い、その嫌悪に表情をゆがめないようにすることに私は集中した。

 

 私刑が終わると興味を失ったらしい住人たちは静かに立ち去り始め。アレンは捨て台詞と死体につばを吐き、残されたアヴェリーはため息をついて他の住人達に死体の処理を頼む。

 港の人間が殺したとわからないよう、あのガルパーやマイアラークの巣に近いところに死体を捨てさせるのだろう。

 

 私はそのすべてを見続けていた。

 なにも感じはしなかった。ただ、心の底で自分でも驚くほど黒い笑いがおさまらない。

 この島は人を確かに狂わせる。救いようがなく、不愉快な奴らばかりだ。ああ、なぜか急に。とても、とてもいまいましいものに思えてくる――。

 

 

 港の中で合流した後、再び分かれて私はパイパーだけを連れてキャプテン・アヴェリーを訪れた。

 先ほどの騒ぎなど知らぬように、挨拶をするとさっそく彼女に協力を求める。

 

 とはいえ、これは簡単なことではなかった。

 まず私の計画はまだまだ絵図面とも呼べないしろものであると思わせなくてはいけない。

 

 なぜならばロングフェローをはじめとした港の人間たちは皆、希望を失っている。

 そこにいきなり復活の大号令とともに動け、協力しろと叫んでも嘲笑されるだけで相手にもしてくれない。だから気付かせないように無意識に巻き込んでいくしかない。詐欺師のようにだますのだ。

 

「――たしかにこの港には人が多い。ギュウギュウに詰まってる。でも、ほかにどこに行けっていうのさ。どこにもいけないんだ」

「わかってる。だからこうして相談に来たんだ。聞いてほしい」

「アレンの言った通り、トラブルじゃないといいんだけれど」

「私の友人――アメリア・ストックトン嬢から、ひとつ居住地を広げたいと申し出があったんだ」

「あの、外から来た商人の娘がかい?」

「彼女は若いし、野心的なんだ。ここでの商売の成功を求めて援助を考えた」

「フン、正気じゃないようだね。霧を胸いっぱいに吸い込みすぎたんじゃないのかい」

「キャプテン・アヴェリー。私の友人のこの申し出を受け、協力してほしい」

「どうしてだい?ここから出たら殺される、誰でも知ってることだよ」

「笑わずに考えてほしい。これは港にとっての最高のチャンスだよ、わからないか?」

「聞いてるよ、まだね」

 

 さて、私にアキラのような演技ができるだろうか?

 

「ここでは人が霧の中に消えるというが、実際は戻ってくる連中もいることは知ってる。だが港にはこれ以上、人は入れられない。だから追い出すしかない、あんたが説得して」

「……どうしてそれを」

「別に何かを新しくやってほしいとは言わない。ただ、そのような相手をあんたが説得する方法を変えてほしい。ただ受け入れられる場所がある、と」

「いきなりおっかない事を言い出したね。確かにそれならあたしにもできるし、港の連中も文句は言わない。で、あんたはなにを手にするんだい」

「アヴェリー、この話をあんたへの貸しということにして。私をダルトン家の生き残りに紹介してほしいんだ」

「キャシー・ダルトン?あの未亡人かい」

「そうだ」

「確かに彼女はダルトン家の最後の生き残りではあるけど――」

「彼女とも取引をしたい。だが、そのためには対等の関係になる必要がある。キャプテン・アヴェリーの紹介があれば、彼女も話をまじめに聞いてくれるはずだと思ってる」

「そういうことか」

 

 霧から戻ってくる人々とは、絶望して港を出たが。死なず、狂わず、死にきれずに戻ってきてしまった人々のことをさしている。

 当然だが港の住人たちはそんな帰還者を歓迎したりはしない。ただでさえ港は人であふれかえっているのだ。

 出ていったのなら死んだも同じ。だから仕方なくアヴェリーが戻れないのだと説得し、森へと送り返している。

 

 時には怒り狂って無理やりに港に入ろうとする人もいるが、あのアトム教徒のように。

 アレンたちのような人々が銃をもって邪魔をする。そこで引き返さねば、当然のように銃口は火を噴くだけ。

 彼女はその役割を喜んではいないだろうが、彼女がやらねば。別に誰かがやらねばならぬし、そいつはアレンのような排他主義者なら、説得は省略して銃を持つところから始めてもおかしくはない。

 

「わかった、ダルトンへの紹介はやってやるよ」

「ありがとう。キャプテン」

「それじゃ話は終わりだ。外で待ってな、準備を終わらせたらさっさと済ませてしまおう――まったく、今日はなんて日だよ」

 

 そういってアヴェリーは部屋から私とパイパーを追い出した。

 

 どうやらうまくいきそうだ。

 外に出て、会見がうまく終わりそうなことに喜びつつ。パイパーに話しかける。

 

「ありがとう、よく耐えてくれた。もういいよ、パイパー」

「……ぁあの婆さん!ブルー、あんなこと言わせてっ」

「そこまでだ」

「でもっ」

 

 パイパーには話している最中、絶対に口を開くなと頼んでいたのだ。機嫌を悪くしたアヴェリーに腹を立て、いつものように正義と現実を訴えだされては失敗してしまうからだ。どうやら約束を守り、堂に耐えてくれていたようだ。

 

「彼らは現実はちゃんとわかってる。でもそのせいで希望がないんだ。

 動け、手伝えと要求しては笑ってばかりでこちらの相手をしてくれないものさ」

「だけどブルー、それでいいのっ!?」

「時間がないんだ、パイパー」

 

 島の人間はそもそも排他的で、外から来た人の言葉に耳を傾けたがらない。

 彼らを説得しようにも時間はなく。手遅れになれば、アポミネーションが押し寄せ港は崩壊するだろう。

 

 急がねばならない。

 彼らを奮い立たせる時間はない。だが、立たせてしまえば。あとはしりをけり上げるだけで前に進ませることはできるのだから。

 

 

――――――――――

 

 

 霧の中、嫌な音を立てて何かが降りぬいたとマクレディは感じた。

 次に彼はその場から背を向けると走り出す。建物の壁が見えるとその陰に回って肩を押し付けるようにする。

 

「ケイト!さっさとこっちへ来い。囲まれちまうぞ!」

「だけどこいつらっ、本当にしつこい!」

 

 ケイトの抗議を無視してマクレディはガウスライフルから空になったエネパックを入れ替えると壁の向こう側を覗き込むように構えて見せた。

 使い慣れたいつものライフルとの感覚の違いに腹立たしさを感じるが、どうじにそうするように指示をしたアキラにも感謝している。

 

 ガウスライフルのリコンスコープは、霧の中で姿が見えない敵の位置を正確に教えてくれるからだ。

 だが正確であることはいつも喜ばしいことではない。スコープの中に表示される赤井点は減ったはずなのに。再びひとつ、ふたつとその数を増やし始めていた。

 

 そう、彼らは今。追撃を受けているのだ――。

 

 マクレディがスコープの中の赤い点にむかって発射を繰り返していると、霧の中からコズワースと続いてパワーアーマーを着てオートショットガンを持っているケイトが走ってくる。

 

「あいつら!どんどん増えてる」

「わかってる。おい、ポンコツ!」

「――あの、それは私のことを言っているのですか?マクレディ様」

「荷物の中に地雷があったよな!?」

「え?はい、ありましたね」

「そいつをこの先の道をふさぐようにばらまいておけ。やりすぎるなよ、俺たちが踏まないように考えてばらまけ」

「わかりました」

「本当にわかってんのかよ。全部ばら撒いてたらぶっこわしてやる」

 

 生き残れたらな、の言葉は飲み込む。

 最悪だ。本当に最悪だ!

 

「あたしらはどうする?」

「あいつが仕事を終わらせるまでここで止める」

 

 言葉を切り、ちらとパワーアーマーの状態を見る。

 

「まだ出来るか?」

「まだ動けるよ。でも――」

 

 長くはもたないかもね。

 おそらくは200年ぶりに動かしたのだ、どこかに不調があってもおかしくない。

 

 

 偵察とパワーアーマーの回収は驚くほどなにもなく。このまま静かに帰還できるものと安心していた。

 ところが”運が悪く”、港に近づく頃。霧に覆われてしまい、道を見失ってうっかりそばの廃墟となった町の中に入り込んでしまったのだ。さらにそこでなぜか多くのマイアラークがいて、出会ってしまった。

 

 混乱から回収班は2つにチームは割れてしまう。

 

 

 やりましたよ!コズワースの声にマクレディ達は再び背を向けて駆け足で移動を開始する。

 霧で姿は見えないが。あいついらの手足が動くたびに聞こえる不快な固いものがこすれる音がやっぱりまた近づいてくる。

 

 2人がコズワースが敷いた地雷の上を飛び越えて少し。複数の炸裂音が木霊した。

 

 

 ニックは明るい霧を見上げつつ、聞こえたばかりの複数の破裂音にまずいなとつぶやいた。

 彼とパワーアーマーを着たディーコンはマクレディらとはぐれ、迷子になりかけていたが。皮肉にもマイアラークからの追跡から逃れることができていた。

 

 

「あっちは追われているみたいだな」

「こんな時、かっこよく助けに行こうと言いたい場面だが――」

 

 ニックの口ぶりには苦いものがあった。

 

「困ったことに俺たちは迷子になりかけている。家の方角は何とかわかるが、合流しよとなると。騒がしい方向に向かって手探りで進むことになる」

「お断りだな。俺たちは自分の面倒を見ることに集中した方がいい」

「ああ、わかってる。わかってはいるんだがね」

 

 騒ぎはどうやら海岸線を移動しているようだ。

 おそらくは港か、砦に直接逃げ込むつもりなのだろう。

 

「あいつらは港にはいかない」

「どうしてだ?」

「俺たちがこの島の連中じゃないからさ。あの入り口で門を閉じられたら、殺されても不思議はない」

 

 ディーコンが断言すると、その後は2人とも無言となり。霧の町を歩き続けた――。

 

 

 海岸線でついにマイアラークの群れにケイトが囲まれた。

 さすがのマクレディでも、まだ使い慣れてないガウスライフルではケイトを囲むマイアラークを狙い撃ちするのも難しい。狙撃は瞬間での繊細な作業、わずかでもはずせばそれは味方の背に――。

 

 スコープをのぞき、銃爪に置かれた指が迷いから震えて力が入らない……。

 

 

 風を切っていた。

 誰がしたがっているかも知らず、自然と腕をあげ。己の横を指し示す。

 だが自分は変わらない。このまま進む。この先にそれはある――。

 

 

「兵士よ、よくやった!あと少しだぞ」

 

 突然誰かの野太い声をかけられ、思わずマクレディは指に力を込めていた。

 光が走り、ケイトを囲む一帯のマイアラークの顔面がその場でぽろりと地面におちる。

 

 パワーアーマーで走る地響きを聞き、レーザー藻放たれた。

 

「お前っ」

「よく耐えた!家はすぐそこだ、一気にここでたたく!」

 

 パラディン・ダンス。

 キャピタルで我が物顔だったB.O.S.の野郎だ。マクレディにはそれで十分で、話しかけることはないと思ってた。それがまさか、同じ戦場に立つことになるとは。

 

「バカ言うな!あんな数、やれるものかよ」

「私もそう思う」

「は?」

「だが、彼はそれができると言っていたぞ」

 

 逆切れするマクレディに、そういうとなぜかダンスは前方を顎で見ろと合図する。

 囲まれているケイトの後方からは。今もひとつ、ひとつ奴らが走ってきているようだ。一体あれのどこをみろと。

 

 ドカァッ!ドガァッ!

 

 なぜか入り口を封鎖されている家屋の扉。そこが内側から何度も衝撃を受け、補強された板が飛び散った。

 

「ストロング ツヨイ!」

 

 いつもの半裸と違い、鎧兜で鉱山跡でしか見ないような凶悪なハンマーを振り上げスーパーミュータントがマイアラークの後列に横から突撃する。

 そしてもうひとつ。あの刃から炎を吹き出す音が、霧の中で燃えあがる。

 

「マジかよ!畜生!」

 

 それはもう見慣れている。己の命を投げ捨てるとわかって、それでもやってしまうあいつだ。

 ストロングと共に2つの竜巻となり、追跡のせいで伸び切っていたマイアラークの集団を断ち切り。逆に反撃に出ようとしている。

 

 マクレディの背筋が凍る。

 なんで守らなきゃいけない相手が俺より前線に立って死にに行ってるんだ!?

 

「あれじゃ摺りつぶされちまうぞ。ケイト!そいつらさっさとブチ殺せ!」

 

 本当は傭兵らしくこのまま「クビになっちまう」と続けるべきであったが、どうせあの女はそんなことも考えちゃいないのだ。

 

「アキラの野郎、お前を助けようとしてるぞ!」

「はぁ!?ふざけんじゃないよ、こいつを着てあいつに助けられるとか。冗談じゃない!!」

 

 ケイトはやはりこっちの方がよくキく。

 結局これが勝負を決したらしい。霧の中から走ってくるマイアラークはいきなり消え、あの不愉快な甲羅をこすりつける足音はもう聞こえない。

 

 そして霧は晴れることはなかった。

 

 

――――――――――

 

 

 

 戻ってきたばかりのディーコン、マクレディ、ケイトらの尻を蹴り。ロングフェローの案内で僕はついに噂のアカディア――ディーマとやらに会いに行く。

 

 ここまで上陸から理想的なスケジュールで計画を進めてこれて実に満足している。

 とはいえ、それは当然ハードワークをまねき。自分は我慢できても、周囲はそうでもないらしい。

 

 特に”助けた”マクレディとケイトの期限は大変に悪く。

 自分たちが戻った後、霧の中からのんびりとニックと並んで歩いてきたディーコンにさらに機嫌を悪くしたようだ。

 

 こんな時だけ息が合うようで、「助けてやったと恩を着せられた」「自分たちと違って鼻歌謡って戻ってきやがった」とブツブツ文句ばかりくりかえしている。傭兵のプライドが傷ついたらしい。

 

 ディーコンはそんな2人にひっそりとからかうように「俺たちは迷子だった」「恐ろしくて震えていたさ」などと口にして楽しんでいるようだ。

 

 今回、ここまで急いで動いたのは理由がある。

 おそらくだがキュリーもアカディアに興味を持っていただろうし、チャンスがあるなら喜んで僕と一緒に訪れたいと口にしただろう。

 だが僕はそうはしたくなかった―――だからこそレオさんに港についていかせ、この隙に終わらせるしかなかった。

 

「やれやれ、落ち着かない連中だ。少しは静かに歩けんのかね」

「なんだよ爺さん、俺ら。話してるだけだろうが」

「お前さんはわめき散らしてるだけだ。そんなのを聞かされてこっちはうんざりしとる」

「こっちはあんたにキャップを払ってるんだぞ」

「それは間違いないがな。お前さんからもらったわけじゃない」

 

 僕は山道に入ってからずっと無言だった。

 アカディア、人造人間たちの避難所。とても興味もある……。

 

「さて、ピクニックも終わりそうだ。見えてきたぞ、あれがアカディアだ」

「アカディア――ね」

 

 ふと、嫌な視線を感じ。周りを見ると3人の友人たちが変な顔をして僕を見ていた。

 

「なに?」

「ああ、もっと早く気が付くべきだったかもな。お前、ここに来るタイミングを計っていたな」

「俺たちをこき使うにしては、なんだか焦ってるみたいだったよな。そういうことか」

「キュリーをのけものにするんだ。最悪、最低」

「まだなにも答えてない!勝手に決めつけるなよっ」

 

 顔になにかでてたのかな?

 とりあえず抗議するが、聞く気がないようでこちらから顔をそらしてくる。

 

 

 アカディア――かつては天文観測所であったそこは、外観こそ昔のままのように見えた。

 ロングフェローは自分は外で待っていると言い。僕らを迎えに現れたおどおどした人造人間の案内を受け、建物の中へと入っていく。

 

 レオさんが言った通り、彼らはここに近づく存在を察知しているのは間違いない。

 そして近づいてきたのが見たことのない顔だと、必ずディーマと名乗る最初の人造人間と会うことになっていた。

 

「ようこそ、ようこそ。今日は良い日だ、また新しい方々が私たちの場所を訪れた。

 私たちはあなた方を歓迎します。あなた方が正しく私たちを理解しようとしてくれる限りにおいては、です」

「……どうも」

「ではまず、物事を進めるためにここになぜ来たのか理由を教えてください。助けられることがあれば、手を貸してあげましょう」

[商売だ」

「なるほど、商人の方でしたか」

 

 おっと、これはいけない。ちゃんと”それらしく”ふるまわないと。

 

「正確には、連邦から渡ってきた商人と組んでいるんだ。ここのことは港にいる連中から話を聞いた。

 なんでもインスティチュートとちがってここにいる人造人間はえらく人付き合いができる。話せる連中だと」

「――あまりうれしくない表現ですが、あなたを理解します。

 そうです。私たちは人造人間ではありますが、彼らに作られたことも間違いありませんが。しかしインスティチュートとは一切関係はありません。これは本当の事です」

「それを信じたいと思いかけてるよ」

「是非、信じてほしいのです。我々は人間に危害を加える理由は持っていないのです。穏やかに話し合うことで、共にできることもあるでしょう」

「その意見は大好きさ」

「ではさらに信頼を深めるという意味で、少し話をしましょう――。

 見たところあなたはVault-TECのスーツをきているのですね」

「Vault88のね。それがなにか?」

「ということはあなたは地下で生まれ、育ってきたということでいいのでしょうか?ぶしつけな質問だと思いますが、なぜ地上へ出ようと思ったのです?それも教えてください」

 

 ぶしつけだな。

 

「人の過去に興味があるのか?人造人間は興味優先で失礼とは思わないか」

「ああ、誤解をさせてしまいましたね。そうではないのです。

 私はただ、あなたに問いかけたかったのです。自分の未来を考えた時、過去のあなたが地下での安全な生活を捨てた本当の理由を考えたことはありますか」

「――ほう」

 

 外よりも低い気温がさらに一段と冷たさを増した。

 マクレディやケイトは顔をしかめ、身じろぎしながらアキラから一歩離れる。表情を変えないディーコンですらそうした。

 

――過去の記憶

 

 ディーマにはただの言葉でも、アキラにとってそれは核地雷を扱うくらい危険な言葉。

 

 バンカーヒルの商人たちに見せてきたその表情の陰に、一瞬だけ危険なものが表れ。すぐに消えた。

 悪いことがおきるかもしれない。

 

「この質問には理由があります。

 人は利益と成功を手にするため、時に手段を選ばないといいます。ですが実際の話、感情を殺して我々のような人造人間を取引の相手にしようとは考えないものです。これまでがそうでした、だからこその疑問です」

「つまりその疑問とやらの根っこから掘り出してきたのが、僕が人造人間かもしれないってわけかい」

「否定はしません。これは可能性の話ですから。

 そしてこのアカディアではあなたがどのような答えをだしても、それを受け入れます。あなたを尊重するからそうするのです」

 

 アキラの顔にかかる影が濃くなろうとしていた。

 ここでいきなりディーコンが陽気に大きな声に大げさな身振りもまじえて話し始める。

 

「そりゃよかった!いや、正直悪いことになるんじゃないかとここにくるまではビビってたんだよ。

 あんたらときたらプラスチックの皮膚のせいで。ほら、表情ってのが乏しいだろ?何を考えているのかわからない。狂った奴だったらって不安に思ってたんだ」

「ああ、それはわかります。ですがどうか私のこの体については気にしないでほしいのです」

「そうしたほうが話はしやすいみたいだしな。楽しい議論もいいが、実はここの見学もお願いできないか?なんだかいろいろありそうだ。ああ、これは失礼だったかな?」

「問題はありませんよ、誰か案内もつけましょう」

「よかった。それなら日のあるうちに帰れそうだ。なぁ、皆」

「ではだれかをさっそく呼びましょう」

 

 アキラは沈黙したままだったが、マクレディはとりあえず小さく息を吐き出した。

 ディーコンがいてくれて助かった。うさん臭い奴だが――ちゃんと役に立つこともあるわけだ。こうしてレールロードのエージェントたちは自分たちの正体を明かさぬまま。危険な最初の近宅を終わらせた。

 

 

 正直に言って、冷静ではなくなりかけていたということは認めないといけないだろう。

 ディーマが呼び出した女性に案内されながら、ゆっくりと冷えていく体に合わせ。落ち着きを取り戻していく。

 

 レオさんやニックの話から、あんなくだらない記憶をされるかもと思い。いかにもなバンカーヒルの商人のような態度を見せれば大丈夫だろうと思ったが――大甘だった。

 あれが訪問者への儀式か何かだったようで。まさか納得しても問いかけることをやめず、僕はそれに少しだけ驚いただけで――過剰に反応しそうになってしまった。

 

 過去、記憶。

 

 レオさんの心配なんてしている場合ではないのだろう。

 僕にも敵がいる。正体不明で、僕の失ったものを恐らく知り。そしてそれを無価値だとして弄んだ糞野郎共。

 そいつらはあろうことかレオさんを狙い、もしかすれば僕の友人たちやキュリーにも手を伸ばすかもしれない。

 

 恐ろしい。

 だがそれ以上に許せない。憎い――。

 

 肩をいきなりつつかれ、ハッとする。

 隣にディーコンがいつものようにすまし顔で歩いていたが、気が付かなかった。

 

「深刻な顔はやめておけって。もうおっかない面会は終わったんだぞ」

「――そんなことはわかってるよ。そんなに悪い顔してた?」

「鏡を見たことがないのか?お前の嫌いなレイダーの横に並べてもおかしくないのがそこにいるぞ」

「はっ、笑える」

 

 そうだ、僕はこのディーコンに助けられたのだ。それを認めて頭を切り替えなくてはいけない。

 今日はここを知るために来たのだ。怒りを暴発させて八つ当たりをしに来たわけじゃない。

 

「お前、俺に何か聞きたいことがあるんじゃないか?アキラ」

「ん?」

「この場所を知って気が変わったんじゃないか、とかさ」

「変わったの?」

「まさかっ――いつもならここで小粋なジョークも聞かせてやるところだが。お前はセンスがないから、ナシだ」

「面白くないから笑えないだけだ」

「なら試してやろう。実はお前の次に選ぶ奴に、俺が大統領だと信じさせようと思ってる」

「それなら笑える。名前はディーコンじゃなくてエデンって名乗れば間違いないよ」

「ふむ、それはいいアドバイスだ」

 

 くだらないと首を左右に振るが、おかげで腹の底の怒りはすっかり静かになっていた。

 

「ところで気が付いたか?俺たちを案内しているあの女」

「……美人ではないね」

 

 珍しいことにあのケイトが話をしていた。

 彼女にしたら珍しい姿だが、どうもキュリーをネタにしているようだった。

 

「アスターというらしい。どうやらなにか研究をしていると、話してた。聞いていたか?」

「嫌、ムカムカしてた」

「そうだったな。何を厚くなってるんだか知らないが、注意不足は命取りだぞ。坊主」

「チッ」

「なぜあのディーマとやらは彼女を俺たちの案内人に選んだと思う?」

「……」

「お前の演技、見破られたのかもしれないな。どうだよく冷えてくるんじゃないか?」

「ああ、その通りだ」

 

 そうだ。僕は何を馬鹿なことをやってるんだ。

 取り乱して、集中を切らすなんて最悪じゃないか。それで前回はどんな目にあったか忘れたか?

 

「この後はどうする?」

「そうだな……とりあえずなんとかいう取り引き相手する相手に挨拶。カスミってのも顔を見たい」

「そのくらいはしておかないとな」

「そうだね。でもそれ以上があればもっといいかな」

 

 それだけ答えると、足を速くしてディーコンから離れる。

 ポケットから錠剤を一粒とりだし、自然と口の中に放り込んで噛み砕く。アカディアの立派さに浮かれていたのはもう終わりだ。

 

 ケイトの下ネタに顔を引きつらせて笑おうとしているアスターに追い付いた。




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