ワイルド&ワンダラー   作:八堀 ユキ

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次回投稿は10日以降を予定。


見上げる壁

 深夜、それは突然に始まった。

 

 ロングフェローの小屋――今は砦と化した壁からライトが暗闇を照らして何かを探し始めると同時に警告を伝えるサイレンが始まる。

 

 八方を照らすライトがひとつずつ消え、2つだけ残るころ。

 砦の中央では戦闘準備を終えた戦士たちが集まり、これからの段取りを決めていた。

 

「まず――戦えないものは家の中へ。だが全員武器をもって、冷静に対処しよう。

 ここは作られたばかりの砦だが、アキラが作った傑作だ。簡単には突破させないし、我々が冷静に立ち回れば問題ないはずだ」

 

 そう言うとレオは商人のアメリア、ニック、キュリー、パイパーらをさっさと建物に入らせる。

 続いてアキラがこの騒ぎの元凶について語り始めた。

 

「相手は海岸線に集まってる、レイダーもどき。ここではトラッパーと呼ばれている霧で狂った連中らしい。

 どうやらいつものように港を襲おうとして、こっちを見て気が変わったみたいだね」

 

 彼が口にすると、可笑しいことにマクレディやディーコンは呆れ、ケイトは悪い笑みを浮かべている。

 

「やれやれ、なんでこっちに来るのかねぇ」

「まったくだ。自分から棺桶に飛び込むような真似はするなと忠告してやりたいね」

「なんでそんなことをするのさ、軟弱者!今夜はたっぷり楽しませてもらおうじゃない。ね、ストロング」

(フフン!)

 

 私の経験上、決して気を抜ける相手ではないが。皆の士気は高く、鼻息も荒い。

 

「それじゃ早く終わらせよう。2つに分かれる。パラディン・ダンス、アキラとケイトは壁から相手を引き付けてくれ。残りは私と深夜のスイミングスクールだ。脇に回って一気に仕留める」

「――では砦側は私の指示で……」

 

 ダンスは緊張したようにそう言いかけるが、間髪入れずに始まったマシンガンターレットの発射音にアキラは表情を一変させると、ついてこいともいわずに持ち場へと走りだす。

 それをケイトが追い、ダンスもあわてて続く。

 

「あの兵士、アキラの奴を率いようっていうのか。大変だな」

「あいつは意外と話は聞く。面倒くさいと思うその時まではな。どうやら今回は持ち時間がなかったようだ」

 

 私はカールの頭をなでると、緊張とは無縁そうな2人に声をかけた。

 

「ではダンスが怒り出す前に終わらせてしまおう。彼なら明け方まで説教できるし、やりかねない」

 

 言いながら10ミリのサブマシンガンとパイプレンチを握りしめる。

 

 

 ファー・ハーバーの港はその夜。ひさしぶりに静寂に包まれ、人々は深い眠りのまま朝を迎える。

 夜中に港の近くで銃声だの死体だのころがったりはしても気にはならなかった。いつものように港の門の方角が騒がしくなり。悲鳴、けが人、死者が運び込まれ。怒号と銃声が鳴りやまない夜がはじめて彼らに近づかなかったのだ。そのことだけを喜び、夢中で睡眠をむさぼったのだ。

 

 それこそが彼らに始まった奇跡の最初の証であったのだが。まだその恩恵に気が付く人は少ない。

 

 

――――――――――

 

 

 翌朝、アメリア商会の一室に据えられたいくつもの大型テーブルの上に武器を並べ。アキラは作業台の隣で腕を組んでそれぞれを確認していた。

 すると部屋の外からマクレディとケイトが戻ってきて「ダンスとディーコンはいらない世話だってさ」と僕に伝え、この申し出は無駄骨だったとグチグチと文句をこぼす。

 

 ファーハーバーでの戦いは連邦やヌカ・ワールドと違い。

 アポミネーション化したあらゆる敵性勢力しかいないところに問題がある。とにかく長時間の活動に適し、火力が高いことが重要と考えた僕は、バンカーヒル等の力を借りてこの時のための準備をしてきた。

 

「自分の武器は自分で面倒みれるというならそれでいいよ」

「なんだよそれ、嫌味か」「あたし、あんたに自分のおもちゃを見てくれって”お願い”したつもりはないけどね」

 

 僕は彼らの文句を聞き流し、武器の列の中から彼らのものを取り出すとさっさと渡していく。

 

「マクレディ、お前の愛用するライフルは置いていけ。ここではとにかく火力がいる。ガウスライフル、それとこれは貸してやる」

「レーザー?フルオートか?俺、好きじゃないんだけど」

「違う。こいつはディーコンの土産でもらったものだ。”プロトタイプUP77”って名前もついてる」

「へっ、武器に名前ね」

「特徴を説明する。

 いいか?こいつは普通のレーザーライフルとは違ってフュージョンセルを使わない。かわりに――」

 

 そう言うとレーザー銃に増設された、僕が取り付けたパイプ銃に使うドラムマガジンに似た手製のユニットにフュージョンコアを叩き込んで見せた。

 

「――なんだよ、それ」

「こいつはエネルギーの制御が非常に優れているおかげでこんな無茶が可能なんだ。装填数は1.000発以上。

 だが放り込みっぱなしにはするなよ?

 装填するなら使うか出動の前、戻ってきたら取り外せ」

「使わないときはカラにしろってことか」

「そうだ。名前の通り実験で生み出された唯一のオリジナルだから2つとない。それだけに気を使わないと馬鹿をやる事になる。レーザーガトリングで実現できることをこんな小さなボディでやるんだからな。手足を失うだけじゃすまないだろうな」

「最悪じゃねーか――」

「素人傭兵なんて言われたくないなら安全装置にも注意しろ。コアのエネルギー量は凄いから、自分を傷つけても不思議じゃないぞ」

 

 黒いレーザーライフルにはアトムキャッツをイメージしたフレイムパターンが入っている。

 マクレディはポケットから308口径弾を数発取り出して机の上に置きながら、ため息をつきつつ両方をしぶしぶ僕の手から受け取った。

 

「ケイト、お前のショットガン――ジャスティスはどうだ?」

「え、別に。変わりはないよ」

「ならそれでいい――新しいバットは?」

 

 聞くとニヤリと不敵な笑みを浮かべ

 

「あたしのべーすぼーる、また一段と鋭くなったって気がする。イイ感じ」

「それは良かった」

 

 彼女に渡した新しいそれは2076年製のワールドシリーズ・バットの一本だ。

 バンカーヒルとグッドネイバーの流通網から手に入れたお宝であるが、彼女はどうせそんなこと知りたくもないだろうなぁ。

 

「でもこいつ、あのジェット推進をつけてくれないかな。あれをやるともっとすごいと思うんだよね」

「……お前がそう言うと思ったから用意はしてある。使いこなせてると思ったなら付け替えてやる」

「ちぇっ、しょうがないか」

 

 とりあえずこの2人はこれでオーケーだ。

 僕はすぐに彼らの次の任務について説明を始める。

 

「さて、早速だがお前達はすぐにここから出発してもらう」

「なんだって?」

「他のメンバーは外でレオさんが集めてある。ニック、ディーコンにコズワースだ」

「随分、多くないか?」

「昨夜のような襲撃は数日はないだろうし、あっても問題はない――」

 

 チームにやってもらうのはニックが調査中に確認したT-51パワーアーマー2台の回収と、ある場所への偵察。

 ただし昨夜の襲撃のせいで午前中はゆったり過ごしたため。すでに昼過ぎであることを考えると、任務は一晩かけて明日の昼ぐらいまではかかることになる。

 

「パワーアーマーねぇ。2台も誰が使うんだよ」

「ひとつはキュリーのために必要なんだ。彼女は戦闘が得意じゃないが、外での調査をしたがってる。それにお前達にはコベナントで暇つぶしにパワーアーマーの操作法を学ばせただろう?試験でもあるのかな、ちゃんと使えるようになったと証明してくれ」

 

 キュリーには一人で外を出歩かないように言い聞かせてはいる。

 それでも外に出るときには護衛もつけるようにしているが、それで安全だとは言い切れない。そもそも護衛がいないときに危険が彼女に近寄らないとはいえない。

 

 本当は連邦からパワーアーマーを持ち込みたかったが――船だとそれも簡単ではない。

 ならば現地調達。貴重な戦力は早めに揃えたい。

 

「必要な装備も外に用意してある。質問があればアメリア・ストックトンとキュリーが答える」

「あたしらに危険な島の夜を、外ですごせっていうわけ?」

「びびったのか?準備はしてやった、怖いなら参加しなくていい。だけどお前らは傭兵。僕が雇用しているわけだから役には立たないなら連邦に送り返すまでやってやる。どうする、帰りの船のチケットは何枚必要だ?」

 

 はっきりと冷たくそう言い切ると、2人は鼻を鳴らして無言となって部屋を出ていこうとした。

 入れ替わるようにレオさんが部屋に入ってくる。僕らの間の空気を察したか、心配そうな顔を向けてきた。

 

「アキラ、彼らになんだか厳しいことをいったみだいだが。いいのか?」

「昨夜の襲撃の後。昼まで寝こけてたんで、気合いを入れただけです。

 危険でも任せられる、信じられる奴らに頼むんですから。ちゃんと結果を出してもらわないと」

「つまり無事に戻って来いという君なりのやさしさというわけか。そっちをちゃんと伝えたほうがいい」

(僕はあなたのようにはできませんよ)

 

 それには答えず苦笑いをうかべ、レオさんと共にひとつの机の前に移動した。

 

「ミニッツメンから武器を受け取れなくて、また君の力を借りることになってしまった。すまない、アキラ」

「いいんですよ。どうせ僕も今回はいろいろかき集めてたんで、ちょうどよかった」

 

 言いながら僕は布に巻かれたライフルを手にし、ほどいていく。

 アメリアには連邦から資材以外にも武器を持ってこさせていた。

 布に隠されていた本体が姿を見せると、珍しくレオさんの顔がほころぶ。

 

「懐かしいな……前線にいた時は手放せなかったな」

「B.O.S.と一緒に最近、キャピタル・ウェイストランドから品物が流れてきてるそうです。R91ライフル、世界が壊れる前のアメリカ軍主力ライフルです」

 

 戦前の民間企業。ステント・セキュリティ・ソリューションズが開発したこのライフルは、プロの軍人達が認める頑丈さと手軽さが高く評価されたライフルだったらしい。そのおかげで製造元も軍、民間とさまざまなバージョンで発売されていたことは、今も町の中に残っている宣伝ポスターなどから知ることができる。

 

 また、キャピタルでは特に政治的混乱から州兵が集められていたせいだろうか。バージョンの違うこの銃が多く市場で取引されているらしい。

 

 僕がレオさんのために手に入れたものは、特殊部隊仕様と聞いている。

 本体は合成金属と強化プラスチック。これは珍しい。出回っている多くのR91には木が使われているからだ。さらに緑、藍、黒が混ざった迷彩まで施されている。

 

 銃身は長めで、下部にはハンドストップを装着。銃口部分にマズルブレーキ。

 照準器はグリーンの小型ドットサイトで2点バースト仕様だ。

 

「もともと優れていたとされるR91のリロード性能ですが、これはさらに上を狙える使いやすさになっています。

 一般では中華ライフル……僕がヌカ・ワールドから持ち帰ったハンドメイド・ライフルですね。そちらよりも威力が劣ると言われてますが、この銃の性能は引けを取りません」

 

 レオさんの手にそれを握らせる。

 

「少し重いな」

「大きいので取り回しは不便ですが。そのかわりに素晴らしい精密射撃が可能です。バーストですが射撃時の反動もそれほど強くは感じません。

 ドットサイトにしてありますが、要望があればこれをスコープに変えて狙撃銃としても十分に使えます」

 

 答えながら素早く机の上にあった空のマガジンを差しだす。

 

「装弾数は45発、大型のマガジンが使えます。連射力は平均的ですが、リロードのスムーズさを含めれば撃ち負けるなんてことはありません」

「いい銃だ、これは安物ではないだろう。本当に私が使っていいのかい?」

「もちろん」

 

 僕は力強くうなずいた。

 

「キャピタル・ウェイストランドから流れてきたと先ほども言いましたが、あまり良い経歴ではないのです。

 レイダーの糞野郎がそのライフルを手に虐殺しまくったとか。”キャップ・ドロウ”……このライフルを撃てば死体から勝手にキャップがこぼれ出ると嘯いてそう名付けていたと聞いています」

「――確かに楽しくない話だ」

「数年、こいつを手に暴れていたそうですが。ある日キャピタル・ウェイストランドの有名人とやらに目をつけられて一味ごと叩き潰されました。市場に流れたのはそれが理由らしいです」

「有名人?誰?」

「名前は教えてくれませんでしたが。そうとうの凄腕なのか、たったひとりでやったそうですよ」

「それは凄い」

 

 とはいえそんな過去と悪党を屠った有名人のおかげで回収されたこの銃に人気がなく。呪われているんじゃないかと売り手も嫌になり。

 こうして連邦にまで流れて、買いたたかれてしまったというのは皮肉な話だ。

 

「狙撃までこなせると、隙がないってことになるな」

「近距離から長距離まで対応できますからまさしくその通りです」

 

 次にあのダンスとかいうB.O.S.のパラディンからもらったというレーザー・オートピストルを渡す。

 握る部分がグリップ&ストックとなっていて、ライフルでもいいしピストルとしても使えるようにしてある。

 

「そうそう、これも渡しておきます」

 

 僕は新たに机の下に置いていた工具箱を出すと、その中から不格好なそれを――ガントレットと呼ばれていた工具を取り出した。

 

「それは?」

 

 これまでレオさんのパンチを生かすためにパワーフィストを使ってきたが。

 拳から衝撃力を改めて発生させるこの装置ではかえって腕を痛める可能性があるとキュリーからの助言で、僕が新たに見つけ出してきた代物である。

 

「ガントレットといいます。知っていますよね?」

「サンクチュアリのガレージに古いのを置いていたよ。懐かしいな」

 

 ピップボーイの反対の腕に装着。使用の際は電源を入れると、拳に覆われていた回転するパズソーを引き出すことができるようになっている。

 工具としてなら、このまま木や鉱物などに拳を押し当てパズソーで削っていくことになるのだが。拳を守るフィンガーグローブを張り付けることで、パワーフィストのように腕を振り回し。相手の皮膚から切り裂きながらぶん殴ることができるようにした。

 

「こちらの方がはるかに軽いな」

「気に入らないならパワーフィストを探して――」

「いや、これを使うよ。ありがとう」

 

 笑顔のままライフルを背中に担ぎ。腰のホルスターにレーザーガンを入れ、ガントレットを右手に装着する。

 新しいVaultスーツに茶色のロングコート。かわりにかぶっていたミニッツメンの帽子を脱いで机に置き、黒縁眼鏡をてにした。

 

「ここでは将軍じゃない。ただの探偵助手。似合うかな?」

「目立たなく放ってますよ。感想は女性陣にきいたらいいです」

「それは覚悟が必要になりそうだ」

 

 するとなにげなくレオさんの視線が動く。

 

「――アキラ、こっちのは君の道具?」

「え?はい」

「実はちょっと興味があるんだ。教えてくれないかな?」

「構いませんけど――」

 

 机の半分に置かれたそれらは、あまり武器屋で目にすることのないものばかりで興味を持ったらしい。

 

「それじゃ始めますけど。これはガウスピストル」

「……」

「レオさん?」

「ああ、すまない。でもアキラ、それは偽物だろう?私も実験用のものだったけれどガウスピストルの試射はやったことがある――だがこれは、それとはまるで別物だ」

 

 レオさんはそういいながら不思議そうに机の上の物体を見つめた。

 なるほど”本物”に触ったことがあるなら、これは偽物に見えて当然か。

 

「おっしゃる通り、これは普通のガウスピストルじゃありません。いや、ガウスピストルではあるんですけど――」

「?」

「ええと、ええと。参ったなぁ」

 

 説明するのが少しばかり面倒だ。

 

 僕らの視線の先にあるのは全長が小さなサブマシンガン――いや、短く切り詰めたショットガンか。手を加えすぎて触られるのも怖がられてしまいそうだ。

 

 そもそもガウスピストルは、ガウスライフルよりも小型でも高威力を保てるハイテクピストルという理想が出発点となっている。しかし残念ながらそんないいことずくめの塊が、傑作銃として生まれることは、ほとんどない。。

 

 発射システムの小型化には成功したものの、やはり発射時の反動は強烈で。またガウスライフルと同じくチャージ式とあってより使いにくくなったと好意的な反応はあまりかえってこなかったようだ。

 

 それでも火力を必要だと求め続けた僕は。

 愛用していたプラズマピストルを解体。10ミリピストルのパーツと合せて自製のガウスピストルを完成させた。

 

 そんなわけで色々とすでにおかしな部分が出てしまっている。

 

 どう頑張っても片手では反動を殺せないからつけざるを得なかったショートストック。

 確実な給弾と冷却を可能にしようとした結果。採用したスライドアクション――つまりポンプアクション。もうわかるだろう、気が付くとピストルは小型のショットガンとなってしまっていた。

 

 だが問題ない。

 これはピストルなのだ。ショットガンのように使える、そういうピストルだ。自分に言い聞かせてここまで持ってきた、きっと失望はさせないはず。

 

「――ガウスショットガンじゃダメなのかい?それでも凄いことだと思うのだが」

「いや、でもそれだと。ピストルとして開発した、動機から否定しちゃうんで」

「なるほど。うーん」

 

 自分の中ではすでに決着はついているが。どうやら他人からすると、どうにも納得しかねるモノに思えるらしい。

 

「次に行きましょう!つぎは、リボルバーです」

「シングルアクションのやつだね。前から使ってたやつだ」

 

 ヌカ・ワールドで好き勝手に使われている最中にてにいれたそれは、いつの間にかお気に入りとしてずっとあれから使い続けていた。博物館に設置される19世紀の銃を思い出させるシンプルと武骨さが結婚するとこうなるのかも。

 いつの時代に作られたのかはわからないが、飾り立てるものはなく。作り手の魂を感じる破壊力を秘めた不思議な銃だ。

 

 素晴らしい性能を持ってはいるが、特に逸話もなく。名前もなかった。

 そう、”名無し”――この僕と同じだ。ヌカ・ワールドから持ち帰ってからもずっと気に入っている。

 

「もうひとつあるようだ――」

「ああ、これはですね。ようやく完成したんです」

 

 それはようやく形になった一丁。

 クライオレーター・ピストルである。

 

 サンクチュアリを離れてからずっとクライオレーターに使われる冷凍装置の活用を追及していたが。

 一番単純な方法としてこれが実現できるかどうか、それをずっと考えてきた。

 

 もともとは冷凍ガスを発生させるための装置が元であり、それは武器として開発されたわけではなかった。ただ、非殺傷武器のひとつとして戦前でも研究だけはされてはいた。

 

 人間相手の武器としてはいささか魅力に欠けた冷凍武器だが、皮肉なことにこのアポミネーションが跋扈する世界においては。その有用性は無視できないものになりそうだ。

 

 僕はかなり強引にクライオセルではない別の強力なエネルギーから極低温カプセルと呼ばれる氷の弾頭を生み出すことだけ注目し、クライオレシーバーとしてこれを完成させることができた。

 

 わかりやすく言えば、冷凍ガンというよりもエネルギーに汚染された水を発射する水鉄砲だ。

 体温をただ奪うだけではなく、熱とエネルギーまで奪うことができる、はず。

 

「僕のオリジナルといっても、それほど大したものではないんです。

 200年前の、大戦のころにも変わった連中はかなりいて。あのクライオ・モジュールを使ったオリジナル・ハイテクピストルはいくつかあったことはわかってますから」

「ということは、200年ぶりの最新作がアキラの手によってここに誕生したわけか。凄いじゃないか!」

「どこまで役に立つかは使ってみないと、なんとも言えませんよ」

 

 謙遜して見せたが、とはいえ自信がないわけでは決してない。

 

「これで全部かい?」

「ええ、手軽な奴は」

「?」

「残りは倉庫にまだ入ってます。すぐには使わないかなって」

 

 適当すぎるごまかし方だが、しょうがないのだ。

 あそこには火炎放射器にミサイルランチャーと、いろいろ物騒なものが転がっている。だがエイダがいないこの島では、そんなものすべてを持ち歩くこともできないわけで……。

 

 この問題は、マクレディたちがパワーアーマーを持ち帰ってくれたら少しは解消されるはず。

 

「大きいのは大変なんで、しまったままです」

「あんまり派手なのは勘弁してくれ。戦争するために来ているわけじゃないんだから」

 

 レオさんは冗談のように笑っていたが、僕はそうはいかなかった。

 アレをみたらさすがにこんな風には笑ってくれないかもしれないから。

 

 

――――――――――

 

 最初のパワーアーマーはあっさりと見つかり、ケイトらは複雑な表情を浮かべて――少し困惑していた。

 かなり大勢をまとめて出してきたので、てっきり危険度の高い任務だと思ったのだが。今日の島は静かなもので、何もトラブルに出会うこともなく。このまま散歩していたら終わりそうな気配すらあった。

 

「よし、こいつが最初だ。ハンガーから丁寧に持ち出してくれよ、おそらく200年ほどは動いていないだろうからな」

「……それにしたってなにもないんだけど」

「おい、ケイト。気を抜くなよ。傭兵ってのはなにもないからって不満を口にするべきじゃない」

 

 ニックの指示に不満そうなケイト。

 それをたしなめるマクレディだが、それを口にしている本人もまた少し納得がいっていないようだ。

 

 自分のボスが与える仕事が楽だっていうのはどうにも信じられないのだ。そんな彼らの勘を肯定するように、怪しげな男。ディーコンはあのニヤニヤ顔で何かを知っているような調子で口を開いた。

 

「リラックスしろって……別に気にすることじゃない。あいつが考えもなく俺たちを送り出したわけじゃないのは確かだろうがな」

「――なんだよ。あんたにはその理由がわかるっていうのか?」

「まぁな。嫉妬するなよ。お熱い恋人たちも付き合った長さは別に重要じゃないというだろ」

「なになに?面白そうな話じゃん」

 

 ディーコンとマクレディの会話にケイトが混ざろうと近づくが。おそらく何の話か分かったら途端に興味を失うだろう。

 

「教えてくれないか?」

「そうだな……残っている奴と、ここにいる連中の顔を見ればお前でも想像はつくさ。おそらくな」

 

 ディーコンは明快な答えを口にはしなかった。

 ケイトは自分が理解する前に会話が終わったことにいつものように怒り、マクレディは珍しくディーコンのアドバイスを受け入れ。自分を含めた仲間たちと、ここにはいない仲間達の共通点を探ろうとしていた。

 

 一方、ニックとコズワースはパワーアーマーの起動準備をちょうど終わらせたばかりだ。

 

「よし、あとはフュージョン・コアをいれれば持ち出せる」

「それではあの、次はどうしますか?」

「まだ太陽は高いが、今夜の寝床を確保する。回収するもう片方は明日だな」

「もうですか?」

「この島は夜だと闇の中は危険でいっぱいだ。ちょっと前に無理をしたが、ロングフェローの爺さんがいなけりゃ。危うく俺はフェラルの更新パレードに突っ込むところだったよ」

「それは大変ですね」

「まぁ、まだやる事は半分以上残ってるんだ。今夜の準備を先にしておいた方が、一晩中大騒ぎで逃げ回るのに比べりゃマシだろう」

「そうですね――ところで、このパワーアーマーは誰が動かすんです?」

 

 周囲が沈黙する。

 だがケイトとマクレディ、この2人に視線が集中する。

 

 この任務の依頼はアキラ。そして2人は彼にやとわれた傭兵、つまりこの場合――。

 

「ケイト、お前だ」

「はぁ!?あんた、あたしを使いっぱしりにするってわけ?いい根性してるじゃないのさ」

「そうじゃない。お前はなにがあっても文句を言うから、最初にあれに放り込むんだ」

「――殺されたいわけ?」

「それにな。騒ぎが起きたらお前、どうせ突っ込むんだろ?なら着てても問題ないじゃねーか」

「ああ、それはそうかも」

 

 意外とすんない納得したケイトは、コズワースからフュージョン・コアを受け取る。

 

 

 砦ではパラディン・ダンスが自発的なパトロールをしていたが。足を止めると島を守る壁をまぶしそうに見上げる。

 信じたくないが。コレがわずか数日で出現したものだとは信じられない。

 

 これほど見事な速さで構築された砦は、今のアーサーのB.O.S.でも恐らく再現はできないだろう。

 本人は準備していただのと謙遜していたが。ロボットを2台ほど生み出し、それほど特別なことをしたそぶりもなかったはずだが。あきらかに構築されていくスピードは異常で素直に驚いた。

 

「パラディン・ダンス?」

「パイパー、だったな。私になにかな?」

「ブルーがこれからミーティングするんだって。あんたにも出てほしいみたい、誘いに来たんだよ」

「あい、わかった」

「それとミーティングに出るつもりなら――」

「?」

「そのパワーアーマーは脱いできて頂戴。正直、うっとうしいのよね。でかいのは」

 

 思わず真面目に自分の鋼のボディ――パラディンとしての誇りでもあるT-60を見てしまう。

 B.O.S.では市民に対する責任として、この雄姿を見せて戦うことに誇りを持てと言われてきた。だが連邦に来てから感じるのは彼らからの恐れやいまいましさ。まるで正反対のことばかりだ。

 

 それでもB.O.S.への忠誠は揺れているわけではない。エルダーから連邦への進出の意思を明かされ、偵察部隊を率いると聞いた時の喜びはまだ今でも思い返すことができる。その後の辛く厳しい調査を乗り越えられた理由でもある。

 

 だが、レオと知り合い。彼の友人たちの顔ぶれを見ると、自分の組織――アーサーの言葉に間違いがあるのではないかと、そう思ってしまう瞬間が増えてきている気がした。

 

「パイパー……いや、ミス・パイパー」

「なによ?気持ち悪い呼び方だな」

「すまない。君を不快にさせるつもりはなかった。ただ、ちょっといいか?」

「だからなに?」

「もしかしたら私は君たちに――レオの友人たちからは嫌われているのだろうか?」

「――それ、本気で聞いてるの?」

「なにかおかしなところがあったかな。それを教えてほしい」

 

 ダンスの勇気と誠実さをもった言い方に問題はなかったはずだが、聞かれたパイパーの顔は困惑する女性のそれのままだった。

 

「あのね、これは私の意見だけども」

「ああ」

「ブルーはあんたをここまで連れてきた。なら、あんたは信頼はできる人ってことらしい。ここまではいい?」

「それは、ありがとう。ちゃんと聞いている」

「問題はね。あんたのその着ているパワーアーマー。ううん、そこに刻まれた組織のシンボルが問題なのよ」

「……よくわからないのだが」

「だ・か・らっ、連邦にのこのこ出てきて。私たちの支配者を気取ろうって連中に好意なんか持てるわけがないって、そういうことよ」

「随分とはっきりと物を言うのだな」

「真実と正義の報道記者を目指しているの。暴力で口を閉じさせようとする奴らなんかに黙ってやるつもりはないよ」

「まず言わせてほしい――君のその考え方は、間違っている。いや、訂正させてほしい。

 B.O.S.の目的は人造人間の脅威、つまりそれを生み出したインスティチュートへの――」

「ええ、ええ。それは知ってる。バンカーヒルの商人たちに聞かせているやつだよね。

 でも、それは建前。みんながみんな、だまされるわけじゃない」

「興味深い――意見を持っているようだ。

 どうせ私から聞いたことなので、よかったら全部聞かせてほしい」

 

 これはダンスなりの成長から出た言葉であった。

 かつての彼であれば、己の所属する組織への避難など耳を傾けようとは考えなかったはず。パイパーはそのことを知らなかったはずだが、それを引き出す機会を与えたのは彼女のおかげでもあるだろう。

 

「じゃ、言うけど。あのね、ここに集まっているのはブルーの仲間達、友人たちばかりなの。

 でもここにはこれなかった連中はまだ連邦に残ってる。でもそんなこと、あんたたちだって知ってるんでしょ?」

「彼が率いている民兵隊の事なら知っている。ミニッツメンだったな。

 他にも愉快な友人たちがいるというのは本人から聞いてはいるが――あのスーパーミュータントや探偵などと自称する人造人間以上に変わったのがまだいるということか」

「フン、あんなのは序の口だよ。

 レールロードに出入りしてるのとか、最近出てきたコスプレヒーロー。バンカーヒルの悪徳商人に、悪党の町の市長だっている。そうそう、凶悪なレイダーを従える危険な大ボスなんかもいるわね」

「――私の彼を見る目の方が変わりそうな話題だったようだ」

「それは違うね。ブルーは大切な人。今の連邦には絶対に必要な人。

 あんたらB.O.S.は彼を過小評価してる。どうせただの兵士としてしか見てないんでしょう。でもそれこそ間違ってる。彼はそんなただの兵士というだけじゃない。それ以上の存在なの」

「まるで信仰しているような言い方だ。失礼、侮辱したわけではない。こちらの率直な意見として言わせてもらっただけだ」

「それは否定しないよ。自分でもちょっと――おかしくなってるってのはわかってる。同意も求めない。

 でもね、それなら考えてほしい。

 

 ブルーはなぜ、B.O.S.が連邦に来る前に出会ったあなたを助けたのか。彼を慕う人の中に、悪党って呼ばれてもしょうがないのもいて。でもそんな連中でも彼は友人と呼んで信じているのかを」

「ただの善人ではないということか?」

「そうじゃない。彼にこのどうしようもない連邦でも未来があるかもって信じられる人が少なくないっていうこと。それは善人でも、悪党でも関係ない。だから考え方が違っても、みんながここにいて。ブルーに力を貸そうとしてる。

 

 でもあんたはそう思っていないのなら。ここに残るのは賢い選択ではないかも」

「出て行けというわけか?」

「そこまでは言わないよ。居心地が悪いっていうことは、あんたはブルーを信じられないのよ。

 ココは危険な島だってもうわかるでしょ?でもブルーはここで何かをしようとしていて、彼ならきっと少しだけでも何かをやってくれると信じられるから私は付き合ってる。おそらく皆もね」

 

 ミニッツメンだけの、兵士だけではない人物。

 そんな考え方をダンスはしたことがなかった。組織への忠誠心は、兄弟たちへの強い絆であり。献身と奉仕は、確固たる目的を手にするための勝利へとつながるものだと習い。訓練を通じて叩き込まれたそれこそこの危険に満ちた世界に秩序を取り戻す力になると信じられた。

 

 だが、レオは違う方法で人々を引き付けているというのか?

 まさか自分もその影響を受けている?

 

「さっきも言ったけど,ここにいるのは皆ブルーの友人たち。でも、それぞれが違う考えを持っている。

 でもあんたがここにいる理由には興味はないけど、残るつもりなら気をつけなさい」

「?」

「ブルーにB.O.S.が何をさせようと考えてるか知らないけどね。彼の足を引っ張ったり、邪魔をするっていうなら。私たちは友人ではいられなくなる」

「忠告に感謝する。少し考えさせてほしい。さて、それではミーティングとやらにいこうじゃないか」

 

 エルダー・マクソンはどこまで考えて、自分にこの任務を与えたのだろう?

 確かに自分はレオへの評価を更新していなかったことに気が付いていたはずだ。地元の記者に傭兵を連れた若者、Dr.キュリーや商人などもいたのだ。

 

 この任務は想像をこえて難しいものになっていた。

 

 

 アメリア商会と呼ばれる邸宅の2階。パイパーと共にドアを開けて中に入ると、パワーアーマーを脱いできたダンスの体に再び緊張が走る。

 そこにはストロングをぬいた全員が自分を待っていたようだ。同時にこのやり方に、少なからぬ自分に向けられる敵意のようなものを感じた。直前にパイパーと話していなければ、きっとうろたえてしまったかもしれない。

 

「――私が最後だったようだな。ミーティングとやらがあると聞いてきた」

「そうなんだ。適当なところに座ってくれ、パラディン・ダンス」

 

 ダンスが席に着くと自然にそれは始まった。

 まず最初にレオが挨拶と共に昨夜の襲撃でけが人が出なかったことを喜びつつ、皆の対応を賞賛した。

 

「――それで、パイパー。港では昨夜の話はどう話されていたのかな?」

「どうだろう、よくないかも。『そうかい、そんな騒ぎがあったのかい。ところで昨夜は久しぶりによく眠れたよ』だいたいがこんな答えばっかりだったかな」

「あ、私もそうです。アレン店主も触れてほしくない、そんな態度で話をさせてもらえませんでした」

 

 パイパーとアメリアの報告は嬉しくないものであったはずだったが、レオはうなずくだけで話を進める。

 

「報告をありがとう。確かに良くない状況だが、それでも現状を知っておきたかったんだ――。

 さて、ここには新たにパラディン・ダンスも参加してもらっている。彼はあのB.O.S.の兵士ではあるが、私に力を貸してくれるとここまで来てくれた友人だ。

 

 彼への説明を兼ね、今一度このプロジェクトについて説明させてほしい」

 

 そう言うとレオはコンクリートの壁に掛けられていた黒板の前に立ち、チョークを手に取った。

 

 

 ファーハーバー島の住人達は今、ギリギリの状態でなんとか踏みとどまっている。

 人が住むには過酷な環境で、特に島を覆う霧は人々を怯えさせるだけでなく正気も奪うと噂されている。

 

 レオは現在、ここに2つの目的を掲げている。

 ひとつはきっかけでもある。アカディアと呼ばれている人造人間のコミュニティに逃げ込んだ家出娘の帰宅。そしてもうひとつは島に住む住人たちの居住地の拡充――。

 

 ダンスの口が開く。

 

「その、いきなりですまない。

 その両方だが、それほど難しいことなのだろうか?私にはそれほど(難しいとは)思えないのだが」

「なら教えてほしい。家出娘はどうする?」

 

 レオのそばの席に座っていたアキラという目つきの悪い青年がいきなり噛みついてきた。

 なるほど、パイパーの言う”多様性”ある友人たちということは彼のようなものか。

 

「説得し、納得してもらうのが一番いいと思う」

「――どうだろう。そんなに簡単な話とは私も思えない。家族の諍いっていうのは複雑だよ?」

 

 今度はパイパーだ。

 

「それならあまり感心するやり方ではないとは思うが。力づくで、というのもあるだろう。子供のわがままなど付き合っていられない」

「――そうなると人造人間たちがコミュニティへの攻撃だと騒ぎだす」

「ああ、君は確かアキラ――だったよな。それに何か問題があるのか?人造人間は機械だ、トースターが騒ぎ出すならスイッチを切って電源を落としても構わないとは考えられないか?」

「ようするにそれは人間の側から人造人間へ攻撃するということだ。彼らは自分たちを守るためだと、人を攻撃し始めるよね。港は当然目標にされる。つまり島で戦争が始まる。誰が喜ぶと思う?」

「人では勝てない……そう言いたいのか?」

「正しくは”人だけ”が負けると思うね。騒ぎが始まれば島のアポミネーションがこのパーティに参加しようと近づいてくる。そこでは人と人造人間が戦っていて、彼らは当然のように横から殴りつけていく。

 

 被害は広がり、戦場も広がる。

 今の島民たちじゃそんなサバイバルには耐えられない。あっという間に削られて餌にされてしまうよ」

「――ではB.O.S.の保護を求めるのはどうだろうか?我々は人造人間を……」

 

 若者の目が輝き、口元に皮肉の笑みが浮かび上がる。

 本性を現したなと、まるでダンスに突きつけてきているようだ。

 

「つまり”その戦争”をB.O.S.が”買ってくれる”というわけだ。

 人々は兵士に守られて安全を得る代わりに、何を代価として支払われるのかね?」

「この危険な島で、安全は貴重なものだと住人達も理解するはずだ」

「で?本当にB.O.S.はここを助けてやるって?あんたの言葉はどこまで信じたらいい?」

 

 熱を帯びる言葉を、レオが割り込んで唐突に終わらせる。

 

「アキラ、やめてくれ。私はB.O.S.には助けを求めるつもりはない。

 彼らは――人質の救出任務はしない。彼らが来ればカスミは助けられなくなる」

 

 ダンスは何も言わない。

 レオが言ったことは事実であり、それを教えたのはほかならぬ自分なのだから。

 

 かつてダンスにも友人がいた。

 友人が任務中、スーパーミュータントにさらわれた時。キャプテン・ケルズは――いや、B.O.S.は当然のように人質の救出任務を許可しなかった。この話にはまだ続きはあるが、とにかく重要なことはレオの言う通り。

 

 カスミという少女がいたとして、彼女のためだけにB.O.S.は血を流すことはない。

 だが逆に彼女という存在を利用するためならば――救出任務という名の殲滅作戦はあるかもしれない。

 

「カスミ、つまり家出少女の問題は私とニックの問題でしかない。

 おそらくだが、皆に助けを求めることは少ないと思う。ただ、もうひとつ。島民については私やニックの力だけではどうしようもないんだ。だから、皆の力を借りたい」

「重ねて言うが、それも理解しがたい話だ。

 島の人間たちは望んでないようだ。君が何かをしようと言っても、彼らは君に協力するつもりはないんだぞ?」

「そうは思わないようにしてやればいいさ」

「それはアキラ。レイダー共のように銃を使うということか?」

「B.O.S.のやり方がそうなの?ならレイダーとは違うやり方もあると知るチャンスになるかもね」

 

 レオは手をあげることで2人の熱を帯びていく議論を再び止め、ため息を吐いた。

 

「頼むから2人とも、仲良くやってくれよ」

 

 そう口にすると、黒板に描いた島の絵図に2か所。チェックを入れた。

 

「国立公園案内所、ダルトン・ファーム。コレが当面の目標となる。

 ここに新しい居住地を用意して、港の人々を前向きにさせたい」

「どちらも簡単ではありませんが。ファームの方はダルトン家の生き残りが港にまだ残っているそうです。権利の譲渡について合意を得ないと、揉める原因になるかもしれません」

「さっそくアヴェリーにも相談して会いにいく。アメリアとパイパーには引き続き港のことを頼むことになるし、アキラには話が終わった後で頑張ってもらうことになる。それじゃ、さっそく仕事にかかろう」

 

 次の目標が示された。

 

 

――――――――――

 

 

 全員が立ち去った会議室にアキラが戻ってくると、私は苦笑して彼を迎える。

 

「ダンス相手に少し厳しすぎたんじゃないか、アキラ」

「あれくらい軽いもんですよ」

「それで、信用はできるかい?」

「彼、エルダー・マクソンからの命令については話しませんでした」

「でも君なら想像はついているんじゃないかな?」

「――ま、レオさんの邪魔をしないなら。僕は”何もしません”よ」

「それならよかった」

 

 アキラと2人で黒板消しを手に、そこに書かれたものを消していく――。

 

「僕の”計画”については聞かないんですか?」

「私に力を貸してくれると君が言うなら、私は別に気にしないさ。信じてるよ」

「――あなたと違って、悪いことを計画しているのかも」

「でもだからと言って邪魔はしない、そうだろ?

 私はパイパーが言うような善人じゃない。手も汚さずにできることをやろうとしているとは思ってないさ。私だって十分に悪い奴だよ。君と同じだ」

「……失望はさせません。必ずやり遂げますよ」

 

 若い友人のその言葉だけでも、私は十分に勇気づけられる。

 

 私は――連邦から逃げたかったのだ。

 戦争の気配が近づいている。私自身のやったことで、誰かに憎まれ暗殺者も送り込まれた。

 しかしショーンの、インスティチュートへの手掛かりは全くない。B.O.S.も、レールロードも、アキラも。誰もその手掛かりを持っていないらしい。

 

 焦燥感ばかりを積み重ね。

 善意というわかりやすさでトラブルに突っ込んでいく。すると人々は――パイパーなどは私を賞賛するが。誰かが私をさらに憎むようになる――。

 

 キリストコンプレックス(救世主妄想)

 正気をたもちたくて戦う理由を求め。戦場に飛び込んで興奮に身をゆだね、終わった後に与えられる賞賛に感じるものはないばかりか。後からじわじわと毒のように焦りで私を狂わせようとする。

 

 おそらく私はこの島に長くはいられない。

 連邦は離れても、ショーンへの思いは。息子を求める私は、またあそこに戻らなくてはならぬと考えるようにきっとなる。

 

 だがその前にせめて。

 せめてこの島の人々のためにも、またカスミという少女を傷つけずにすむ奇跡を起こしてみせたいと思う。




(設定・人物紹介)
・プロトタイプUP77
原作でも登場するユニーク武器。レジェンダリーは無尽蔵~となっている。
レールロードのクエストを続けると手に入れることができる。

元はレーザーガン用のエネルギーセルを持っているだけ掃除機のように吸い尽くすまで撃ち続けることができるというものだったが。
現実的に考えると、撃ちながら装填もやるというのは無茶なのでこうなった。


・R91ライフル
FO3で登場したアサルトライフル。
資源不足だった当時のことを考えると、このような贅沢な仕上がりがなされたライフルはそんなにないだろうとは思うが。まぁ、せっかくなので。

作者的に、アル・パチーノのぶっ放してたFN FALのイメージがほしくて登場させてみた。


・ガウスピストル
ぶっちゃけると連載時から登場させようと思っていた武器のひとつ。
しかしFO76にてついに”本物”のガウスピストルが登場してしまった。ので、バッタものとして登場。

レオがツッコんでいるように本物ではないし、おそらくピストルですらない。
正しくはガウス・(ショート)ショットガン・ピストルが正しいと思う。作者の完成イメージとしてはKel-Tec KSGが近いかな、と。


・クライオレーター・ピストル
これまたノロノロ連載していたせいでFO76で聖戦士ピストルとして登場してしまった武器である。
登場させるのやめようかと考えていたが、結局は出したのである。


・計画
レオとは別に、アキラにもこの島に来なくてはいけない理由があった。
でもまだ秘密。

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