次回投稿は来週くらいを予定。
オールドマン・ロングフェローの鼻がひりつき、「ちょっと待て」と同行する探偵に停止するよう指示を出す。
周囲に人の気配はない――と思うが、なにかが違う気もする。
レバーガンを構え、スコープを覗き込むロングフェローの隣でニックも周囲の様子をうかがう。
こういう時、たとえ精神的にも世代的にもポンコツと呼んでしかるべき人造人間でも。壊れてないのなら、性能はそれほど悪いって事はない。
すぐに20数メートル先の草むらで息を殺している一団を発見することが出来た。
どう伝えようかと思ったが、どうやらロングフェローも見つけたらしい。
(ここは迂回しよう)
ロングフェローのガイドは無料って事がないのが厳しいが。とにかく安全であることが助かる。
しかしここで森林を大きく迂回を選択してしまったことで日暮れまでにファー・ハーバーに到着することが出来なくなってしまった。この島の中で一晩を野宿するというのは危険すぎる。
だがロングフェローには考えがあった。
ホライゾン航空1207便……世界が終わりを迎えた日。
地上にばらまかれた核の影響を受け、飛行中だった民間航空機の運命はたったひとつだけだった。
その夜の墜落現場にロングフェローとニックの2人は近づいていく。
「おーい、おーい!いるかな」
「――人間か。ああ、面倒は御免なんだ。さっさとここから立ち去れ」
返事が返ってくると、なんと廃墟の中から大柄なスーパーミュータントが姿を現した。
「ああ、この顔を見忘れたかな。それだと確かに面倒なことになる」
「ロングフェロー!?あんた、本当に久しぶりじゃないか。また来てくれるなんて」
「こっちは武器は持っとるがあんたに使うつもりはないよ」
「ああ、わかってるよ。アンタみたいな爺さんじゃないんだ、もうろくはしていない」
「今夜だけでも泊めてもらえないかな?もうひとり連れもいるんだが」
「――これはまた変わったのを連れて歩いているんだな」
あんたにそんなこといわれたくないがね、と皮肉は言わず。ニックはとりあえず礼儀正しく帽子のつばに手をやってあいさつを交わす。
「見ての通りの人造人間だ。ニックと呼んでくれ。探偵をしている」
「おお、そうなのか。私はエリクソン。まぁ、こちらも見ての通りさ」
「そのようだ。誰かを見てすぐに襲ってこないスーパーミュータントは珍しい」
「ああ――この島にいる他の連中とはもうだいぶ前に縁を切ってるんだ。とにかくあいつらとはなにもかもが合わなくってね、我慢できなくなったんだ。後悔はないな、賢い選択をしたと思ってる」
「ああ、そのようだ」
「あんた……あの」
「いや、俺はディーマのアカディアとは関係ない。連邦からこの島には仕事でやってきたんだ。人探しでね」
「そうか――」
スーパーミュータントのエリクソンはそこで「こっちにこい」と手招きし、2人は航空機の残骸の中へと入っていく。
「ロングフェロー、そういえばあんた。まだあいつを探してるのかい?」
「ああ、まぁな。だが今日はそのことじゃない――」
「それなら構わないがな……季節が変わってからあいつがまた島の中にまで姿を見せるようになったんだ」
「……そうだったか」
「遠目で見ただけだが。もしかしたら――」
「その話はまた今度にしよう」
ロングフェローは何か隠していることがあるらしい。
ニックはわざと触れないことにした。
体を横にすると、ロングフェローが戻ってきたニックのそばに座った。
「今回は島の反対側を見に行ったな。どうだった?」
「ああ、だいぶ色々と見て回れた。すべてあんたのおかげさ」
「別にいいさ」
探偵はポケットから紙を取り出し、今日見てきたものを確認する。
「ロックポイント・キャップ。尾根のキャンプ、エコーレイク製材所にフライニーの釣具店か」
「んん、その地図を見ると。空白のところは全部危険地帯だ」
「トラッパーにスーパーミュータント。他にも色々いるみたいだな」
「ああ、そうだ」
となると、そろそろこの島で自分がひとりで出来る事は尽きてきたように思える。
ロングフェローも懐から小瓶を取り出し、中に入っているウィスキーの匂いを嗅いで満足そうだ。
ニックは紙をたたんで懐にしまった。
カスミ・ナカノとはあれからも日をあけずに会いに行き、交友関係を保っている。
そこそこに話してもらえるだけの親密さが出てきているが、やはりまだ両親の元に戻るという気持ちにはなれないらしい。
本音を言えばカスミにはとにかく家に戻って両親と冷静に話し合ってもらいたいと思っている。
今の彼女の様子だとすぐに結論が出るとも思えないが、そうしてくれれば探偵としては一応は仕事を終わらせることが出来る。
だが感情的なしこりがそれを許さないようだ。
感情的――なるほど、それは確かに難しい事なのかもしれない。
探偵にも今、それがある。
そして自分が探偵として過ごしてきた時間を。あいつはアカディアという人造人間たちのための避難所を作ることにすべてをささげたと言っている。
ニックは信じられなかったし、認めたくはなかった。しかしそれは恐らくは本当なのだろう。
アカディアは見たところ、数十年という時間が必要な場所だとわかってきた。つまり奴の言葉はすべて真実であると考えるべきなのだろう。
だが信じたくないという気持ちはまだ自分の中に残っている。もう変わることはないだろうというあきらめもあった自分の過去の情報に、ついに新たな証言が加わろうとしているこの恐怖。
アカディアとはなんであれ決着をつけなければならない。
ポンコツのニック・バレンタインの物語が一変するかもしれない恐怖、それを乗り越えなければならない。
気が付くとロングフェローの鼻歌が聞こえなくなり、代わりに寝息が聞こえる。
ニックは横になると霧の向こうに見える、星の輝きがまったくない真っ黒な空を見上げた。
――――――――――
ケンドリック・K・ヴォーンは霧の中で動かない獲物の姿を確かにとらえていた。
ケンド――ケニーは背中から矢の一本を慎重に取り出し、距離を測っていく。
本日の狩りはウサギにニワトリ、どちらも1羽ずつ。
悪くはないが、できればもうひとつ欲しいところだ。それでも今夜だけは、みんな腹を鳴らして眠らなくて済むはず。
夕刻のファーハーバー、当然だが門には独特の緊張感が漂っている。
太陽が地平線から消えれば即刻門は閉じられ。翌朝、再び太陽が姿を見せるのと同時に開かれるためだ。
今日のケニーはツイていたようだ。刻限まではまだ数時間、おかげでそこにいた大人たちの機嫌もそう悪いものではなかった。
これがギリギリだったりすると、大人は彼を怒鳴りつけるし。小突き回したりもするので大変なのだ。でも今日は大丈夫。
ケニーが視線を避け、彼らの横を素通りしてもだれも彼を睨みつけてこなかった。というか、存在を気が付いてないみたいだった。
だが町に入るとそうはいかないらしい。
武器屋の店主、アレン・リーがケニーを見つけると「ちょっと待て!」と声をかけてきて店先に出てきてしまった。
「お前、ケニーとかいったよな。また町の外に出てたのか!?」
「う、うん。ちょっと狩りを――」
「お前、馬鹿か?そんな手製の弓と矢だけで危険な森の中に入るなんて。何を考えている!」
「――い、いや。僕はそんな」
「なんだって!?」
最初から視線は下に向けられている。ここでは子供が大人を見返して意見を口にするなど、考えたくない。小突かれ、殴られ、罵られながらつばを吐かれる。
あのいつもやけっぱちに大人たちが騒いでいるラスト・プラングという酒場の裏で生きていくしかない子供達ならみんな経験していることだ。
ただ今日の獲物だけは奪われたくない。
その思いがケニーの口をさらに重くし、アレンの怒りに燃料を与えてしまっていた。
小さなバーサは海の向こうで静かに消えていこうとする太陽を見て、不安になっていた。
今日はケニーが狩りに出ると言っていたが、まだ戻ってこない。彼は要領がいいから門が閉じるのに間に合わない、なんてことにはならないだろうが。
ギリギリで滑り込んだりでもしたら、また大人たちの怒りを買ってしまうかもしれない。
ファー・ハーバーでは親のいない子供たちはこの酒場の裏に集まってなんとか生きている。
もっと正確に言うと――ここにいる大人たちに飼われることでなんとかやっている。
彼らに愛嬌を振りまき、そこに集まっていることで。この港にいる大人たちはどうにか島の未来が絶望的であることを少しだけ忘れることが出来ていることを子供たちは見抜いている。
とはいえ大人たちは気まぐれだ。
可愛がったかと思えば、次の瞬間には罵倒し。なのに翌日には食い物にしてやろうと笑顔で近寄ってきたりもする。この場所と大人たちからは切り離されるわけにはいかないが、一定以上の距離は必要だ。そうでなければいつ子供たちに魔の手が伸びてきて、いきなり姿を消したとしても。それを訴えたところで大人たちは誰も気にしたりはしない。
だからバーサが目を光らせ、脅威から子供を守る親鳥の役目を果たさねばならない。
「バーサ、大変だよ。ケニーが」
「どこ!?」
「アレンさんに捕まってるんだ」
念のためにといつものように門のそばに送り込んだ少年たちが飛び込んできて、バーサは立ち上がった。ケニーはここにいる大人と比べても弱くはないが、狩りから戻ったのなら獲物を奪われまいと黙ってしまうとわかってた。彼を助けに行かないといけない。
夜中、バーサは浅い眠りから目が覚めた。
うっかり自分が眠ってしまったのだと気が付き、慌てて周りを見回してみる。今夜はお腹もふくれて皆素直に眠っているようだ。
バーサは少し安堵する。
ファー・ハーバーで飼われる子供たちにとって大人と空腹は最大の問題なのだ。
解決するに毎日、十分な食べ物とキャップが必要。だがこれが難しい。
今はケニーのおかげで何とかやれてはいる。
彼が食べ物をとってきてくれるから、バーサ達はキャップの事だけを考えるだけでいいからだ。
だが彼のような存在――同じ境遇の子供たちを、仲間たちを助けようと行動した子供たちは以前には他にもいたことがあった。
バーサはそんな彼らの名前を忘れたりはしない。
フィオナ、エリック、ヘクター……他にもまだ数名。
フィオナはおじいさんが残したライフルを持っていた。
エリックは口が達者で、港に訪れる商人たちを相手にゴミを売りさばいてまとまったキャップを稼いでいた。
ヘクターは泳ぎが達者で、港の海に飛び込むと。数時間後にたくさんの貝殻をもって戻ってきてくれた。
彼らはもうここにはいない。皆消えてしまった。
フィオナはケニーのように霧の中に入っていって、ある日ついに戻っては来なかった。
エリックは「大きく稼いでくる」とだけ言い残して消えた。噂では、悪い大人の口車に乗せられ、スーパーミュータントに食べられてしまったらしい。
ヘクターも海に潜って、戻っては来なかった。彼は海中のことをよく知ってはいたが、海の中で彼を待ち構えていたマイアラークの存在には気が付けなかった。
そしてケニーだ。
彼が戻ってこない日も、いつかは来てしまうのかもしれない。
小さなバーサはそんな考えを頭を振ることでそこからたたき出そうとする。
彼は今日もこの場所に戻ってこれた。アレンはケニーの体を心配しただの言っていたが、彼が言いたいことは要するに「俺の店の武器を買え」という事に尽きる。
アレンは悪人ではないと思うけど、言っていることがいちいち暴力的だし。頼んでもいないことでしゃしゃり出てくる人だ。でもバーサならケニーを取り返してくることも簡単だった。
「――ふぅ」
「眠れない?」
「ひっ」
思わず悲鳴を上げそうになった。
いきなりむくりと体を起こし、ケニーが声をかけてきたのだ。
「驚いた。ケニー」
「ごめんね。でもなんかため息ついてたから」
そういうケニーの手に矢が握られているのを見て、バーサは眉をひそめた。
「――?ああ、違うよ。ちょっと横になりながら新しい矢を作ってたんだ」
「暗いのに」
「今日は月が出てるし、星も輝いてるから大丈夫さ」
「でも――」
「皆が鳥の羽を4枚見つけてくれてたんだ。矢も5本しかないから、新しく作っておかないと」
フィオナはケニーは追跡が得意だから、そのうち自分と一緒に出掛けることになるだろうと言っていたことを思い出す。
だがケニーにはフィオナのおじいさんが残したライフルはない。彼は自分の手で作った弓と矢で狩りをしている、まるで大昔の狩人のように。
だがこの呪われた島にいるのは危険な怪物ばかりなのだ。
銃を持っていない彼がこの先も生き残っていける保証など――。
「明日、太陽が出てからでもいいよ」
「うん」
「疲れてるはずだよ。ちゃんと寝て、私もそうするから」
「わかった――バーサ」
彼に背中を見せて横になると、急に胸が苦しくなってくるのに耐えなくてはいけなかった。
ケニーは明日も狩りに出るつもりなのだ。だからこの夜のうちに新しい矢が必要だと作ってた。そして――バーサも止めなくちゃいけないけど、それを止めることは出来ない。
ケニーはあと何回、無事に帰ってくることが出来るのだろう?
このままではいけない、そう思う。
だがどうすればいい?自分達は子供なのだ、そして大人たちは島の現状に嘆いていることしかできないでいる。人間という存在でいること自体が非力だと思い知らされている。
目をあけると、地平線がうっすらと太陽が顔をのぞかせていた。
そしてケニーの姿は予想通り、消えていた。
――まだ間に合うかも。門を出てないかもしれない
バーサが止めるチャンスがあるとすればそこだ。
まだ寝ている皆をおこさないように立ち上がると、門に向かって走り出した。
門は既に開いていた。ケニーの姿はどこにもいなかった。
今日は霧が濃いせいで、白い世界が外側を全て覆い隠してしまっている。
バーサにはもう何もできない。
そう思うと、なぜかお腹がグゥとなった。
なぜか悔しくて、悲しくて泣きたくなる――そこでいきなり霧が語りかけてくる。
「おや、お嬢ちゃんは空腹かな」
「えっ!?」
「おいおい、驚かせちまっただろ」
小さなバーサに話しかけてきたのは霧ではなく、そこから姿を見せたおかしな大人たちだった。
港で最近よく見る人造人間と、酔っ払いのロングフェローさんだ。
「おはよう、お嬢ちゃん。そうだ、これをやろう」
人造人間はそういうと来ていたコートのポケットから乾燥ポテトの入った箱を差し出してきた。
「あ、ありがとう。人造人間」
「ニックだ。ニック・バレンタイン、探偵だよ。確かに見た通りではあるがね」
「ごめんなさい」
「いいさ。だが良かったら名前は覚えておいてくれ」
そういうとおかしなふたりは港の門の中へと入っていってしまった。
自分はここにいても、もうどうしようもない。そう気が付くと、小さなバーサも門の中へと戻っていこうとした。
だが今日は変わった一日であるようだ。
今度は違う大人が小さなバーサに話しかけてくる。
「お嬢さん、少し話を良いかな?」
「?」
見たことのない若い大人に丁寧に話しかけられていた。
彼はあのエリックのように話がうまかったが、自分にこの港の事を教えてほしいのだというのでおそらくは外からきた余所者なのだと思った。
牧師様のような、それでいて滑らかな質感をもった白いローブのような変わった服をきている。
とても魅力的な笑みをこちらに向けているが、なぜだろう。顔の輪郭をなぜだかはっきりと認識できないでいる自分を感じていた。
「ではこうしましょう。ここにまず20キャップ」
「!?」
「これは前金。あなたの情報に満足出来たら、さらにもう20キャップ出しますよ」
小さなバーサに40キャップは大金だ。
断る理由?そんなものがあるだろうか?
「バーサよ。あなた、名前は?」
「それ、必要ですか?」
「自己紹介も出来ない人なの?」
「ああ、そういうことですか。ならいいでしょう、私は――サカモト、といいます」
小さなバーサの忙しい一日は始まった。
そして昼を迎える頃、今朝がた港で声をかけてきた怪しい人のことなどすっかり記憶から消し去ってしまっていた。
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ナカノ邸はその日も、暗いまま朝を迎えるはずだった――その日常が破壊される。
夫婦は家の中で久しぶりに体を寄せ合い、夫は震える手にライフルを握る。
家の外では見知らぬ男女に加え、バラモン、パワーアーマー。そして信じられないがスーパーミュータントまでが混ざって和気あいあいと何事かを楽しそうに話している。
観光?そんなバカな、ここは連邦の辺境。見る物なんて何もありゃしない。
襲撃?ここにいるのは夫婦だけだ。なにか貴重なものがあるわけじゃない。
それならば……。
待ち合わせ場所で到着を待っていた友人たちは、マクレディの「お、やっと来たぞ」の声に遠く沿岸に沿って視線を動かす。
確かにそこに彼らはいた。
2人が並んで、こちらにむかってのん気に会話しながら歩いている。
今回のレオは、あのニックに贈られた探偵姿ではなく。あの懐かしい111のロゴの入ったVaultスーツに戻って、背後にカールとコズワースがついてきている。
隣にいるアキラは少しデザインが違うが、88のロゴの入っているVaultスーツ。さらにその上にアトムキャッツのジャケットを着ていた。
レオは友人たちの前に立つと声をかけた。
――集まってくれたね。今回は無理を言ってるのに、来てくれたことを本当に感謝する
レオは自分を待ってくれた友人たちの中にプレストン・ガ―ビーがいないことを確認したが、それについては何も言わなかった。
窓から外を覗きながら震えていたナカノ夫婦は、集団の中に先日とは違う姿の探偵助手を確認し。彼が誰かを連れて家に近づいてきたのを見て、入り口へと移動する。このあと何が起こるというのか。全く想像がつかないでいた。
コンコン
だからこそ驚いたものだ。
なんとあの男は客人の礼儀として、入り口のドアをノックしてきたからだ――。
夫妻が入ってきたレオを見て息をのんだのは、彼に続いて入ってきた人物の髪が黒だったことが原因だろう。だがそれは彼らが望んだ黒髪の娘ではなかった。
凶相と表現した方がいい、嫌な目つきと匂いのする若い男だとわかって。より強い失望を感じていた。
「あ、あんた――」
「ナカノさん、婦人。お待たせした、時間はかかりましたが準備があったので」
「あ、ああ。それより彼らはなんだ?あんたはなにをするつもりなんだ?」
「彼らは私の友人です。彼らに協力してもらって、カスミを説得するつもりです」
誘拐でもするつもりか?
喉までせりあがってくるその言葉を何とか飲み込むナカノ夫妻は、なにをいったらいいのかがわからなくなっている。
「どうするつもりなんだ?」
「あー……色々やります。ここでは全部説明しませんが」
「いいや、ぜひ説明してほしい。その、本当に娘は大丈夫なのか?」
それまで横で聞いていたアキラがここではじめて口を開いた。
「娘の無事がそんなに気になるのなら、放っておいたらどうです?」
「なんだって!?」
「あなた達の要求は事態を好転させることはありません。娘の安全がいいなら、今の状態でいいじゃないですか。あなたがたの娘は安全だし、心穏やかに暮らしていられるとか。
問題があるとすれば家族だと主張しているあなた方が娘を手元に置いて好きにできないというだけです」
「アキラ!」
「すいません。はっきりと邪魔しないで大人しくここで引っ込んでいろと言った方が良かったですね」
レオに止められてもなお無礼を続ける若者にナカノ夫妻を目を白黒させる。
だがこのスキをレオは生かす。
「では行ってまいります。結果を楽しみにしてください」
「あ、ああ。気を付けてくれ」
家を出るとレオはため息をつきながら「アキラ」と声をかけようとした。
「助かったが、あんな言い方をしなくてもよかったんじゃないか?」
「あんなのにつきあってもいいことはありません。僕も何度も顔を合わせないでしょうし、あれでいいんですよ」
「だからって君が悪く思われることないだろう?」
「ははは、構いませんよ。それに実際の話、僕があなたを手伝う理由は彼らの娘を連れ帰ることじゃないんですから」
「――やれやれ」
私は苦笑いを浮かべる。
ミニッツメンでの仕事はついにひと段落ついた。ファー・ハーバーでなにができるのか、それは実のところまだ漠然としたものしかないが。わたしには強力な友人たちが来てくれている。
「船に全員を乗せていけると思うかい?」
「どうでしょう」
「往復はしたくない」
「そうなるとダンス、でしたっけ。パワーアーマーはあきらめてもらって、あとはコズワース」
「ああ」
「少しだけ時間をください。僕が付けた腕と足を削れはいけるでしょう。ただ、そうなると浮かんでいる球体になってしまうので本人は不満かも」
「――どちらも説得が必要になるな」
声が自然と弾んでいく。
こうして私は再びあの霧の島へと出発するのであった。
(設定・人物紹介)
・エリクソン
会話で元は島の外からやってきたスーパーミュータントだったことがわかる。
大きな体にしてはせまい航空機の残骸で寝起きしているようだ。
今は島の野犬を調教して共に暮らしている。
彼らに対して悩みを持っているが。おそらくもうすぐそれは解決すると思われる。
・ロングフェロー
原作にもあるロングフェローの個人クエストにここでは触れている。
・ケンドリック・K・ヴォーン
オリジナルキャラクター。今後は愛称のケニーと呼ぶ。
身長は180センチに届くほど高いものの、痩せぎすなのは栄養が足りないせいか。手製の弓と数本の矢だけで狩りをして、同じ子供達の空腹を癒している。
このファー・ハーバー編にのみ登場予定。
・小さなバーサ
原作にも登場しているファー・ハーバーの子供達のまとめ役。
・ガ―ビーがいない
集まったメンバーはここで紹介。
カール、コズワース、パラディン・ダンス、パイパー、ケイト、ストロング、ディーコン、キュリー、マクレディ。
ガ―ビー、ハンコック、エイダらは来なかった。